Nature of Kagoshima vol.44

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Nature of Kagoshima Formerly Shizen-aigo

カゴシマネイチャー

An annual Magazine for Naturalists

薩摩半島に残されたニホンイシガメ 鹿児島県産クサビフグ若魚の形態 鹿児島県本土で初確認された侵略的外来種アシナガキアリ 奄美大島から得られたミナミメダイ 奄美大島から得られた薩南諸島初記録のワニトラギス 奄美大島から得られた薩南諸島初記録のジャバイトヨリ 奄美大島から得られたアジ科魚類3種 奄美大島から得られたギス 奄美大島から得られたナガタチカマス 高知市春野漁港内で採集された魚類 奄美大島から得られたニジョウサバ 鹿児島県のニホンアナグマの現状 指宿市における国内外来種オキナワキノボリトカゲの生態 トカラ列島から得られた鹿児島県初記録の準絶滅危惧種アマクチビ 種子島における淡水産コエビ類の出現と分布 マングローブ干潟におけるカワアイのサイズ分布の季節変化 干潟におけるウミニナの生態 マングローブ干潟におけるカワアイのサイズ分布と種間関係の季節変動 干潟におけるウミニナ集団のサイズ頻度分布季節変化の個体群間比較 鹿児島市伍位野川におけるマーキング法によるイシマキガイの生態 鹿児島県から採集された準絶滅危惧種ハナザメのアルビノ 鹿児島県から得られたカラチョウザメの形態学的・生態学的知見 マングローブ干潟におけるヘナタリのサイズ頻度分布の季節変化と共存関係 桜島の火山溶岩の転石海岸におけるカヤノミカニモリの生活史 フトヘナタリの生態学的研究 鹿児島県喜入町のマングローブ干潟におけるヘナタリの生活史と種間関係 宝島および奄美群島におけるアオカナヘビの形態変異 薩摩半島西岸から得られたエビスシイラ

2018.3.31

奄美大島嘉徳川における陸水産甲殻十脚類の生息状況と下流域の利用 タンポポスズメダイの水中写真に基づく屋久島からの記録 鹿児島市喜入干潟におけるフトヘナタリの生活史 防災整備事業により破壊された喜入干潟における腹足類貝類相の生態回復 鹿児島県から得られたシロコバン 奄美大島から得られたバケアカムツ 宇治群島から得られた魚類3種の記録 奄美群島沖永良部島から得られたソロイモンガラ 鹿児島県から得られたヒレグロコショウダイの記録 鹿児島県八房川の感潮域上部から淡水域における魚類相 トカラ列島臥蛇島の鳥類相 鹿児島県沿岸域で漁獲されたヘダイに寄生していたタイノヒトガタムシ 住用マングローブ林における底生生物の分布 鹿児島県初記録のカンムリダチ 薩摩半島から得られた鹿児島県初記録のフウライカマス 種子島近海から得られたリュウグウノヒメ ナガテングハギモドキの鹿児島県薩摩半島と種子島からの記録 鹿児島県本土と大隅諸島から初めて記録されたヨスジヒメジ 九州沿岸と種子島から初めて記録されたキツネフエフキ タイワンアイノコイワシの志布志湾からの確かな記録 屋久島初記録のナガサキフエダイ 鹿児島県初記録のイッテンサクラダイ 八代海南部から得られたナンヨウカイワリ 種子島から得られたマルサヨリ 鹿児島県から得られたハタ科魚類2稀種 奄美大島から得られたウマヅラアジ 鹿児島湾初記録のハシキンメ 屋久島における外来植物の観察記録

鹿児島県自然環境保全協会


Nature of Kagoshima Vol.44 2018 目 次 Research Articles 薩摩半島に残されたニホンイシガメの生息地とその重要性  中村優洋・亀崎直樹 鹿児島県産クサビフグ Ranzania laevis 若魚の形態に関する若干の知見  澤井悦郎・山田守彦 鹿児島県本土で初確認された侵略的外来種アシナガキアリ  原田 豊・細石真吾・山根正気 奄美大島から得られたミナミメダイ  畑 晴陵・前川隆則・中江雅典・本村浩之 奄美大島から得られた薩南諸島初記録および北限記録のワニトラギス  畑 晴陵・前川隆則・栗岩 薫・中江雅典・本村浩之 奄美大島から得られた薩南諸島初記録および北限記録のイトヨリダイ科魚類ジャバイトヨリ  畑 晴陵・前川隆則・栗岩 薫・中江雅典・本村浩之 奄美大島から得られたアジ科魚類 3 種:ミナミギンガメアジ,オニアジ,およびホソヒラアジ  畑 晴陵・前川隆則・中江雅典・本村浩之 奄美大島から得られたギス科魚類ギス  畑 晴陵・岩坪洸樹・本村浩之 奄美大島から得られたクロタチカマス科魚類ナガタチカマス  畑 晴陵・前川隆則・中江雅典・本村浩之 高知市春野漁港内で採集された魚類  松沼瑞樹・内藤大河・佐藤真央・水町海斗・山本祥代・泉 幸乃・山川 武・遠藤広光・佐々木邦夫 奄美大島から得られたサバ科魚類ニジョウサバ  畑 晴陵・前川隆則・中江雅典・本村浩之 鹿児島県のニホンアナグマ Meles anakuma の現状について−交通事故死個体数と捕獲数の年次変化から−  船越公威・松元海里 指宿市における国内外来種オキナワキノボリトカゲ Japalura polygonata polygonata の生態と現状  船越公威・大坪将平・港 眞美・小林なるみ トカラ列島から得られた鹿児島県初記録および北限記録の準絶滅危惧種アマクチビ(スズキ目:フエフキダイ科)  畑 晴陵・大富 潤・本村浩之 種子島における淡水産コエビ類の出現と分布の状況  今井 正・大貫貴清・鈴木廣志 マングローブ干潟におけるカワアイのサイズ分布の季節変化  今村留美子・冨山清升 干潟におけるウミニナの生態  田上英憲・冨山清升 マングローブ干潟におけるカワアイ Cerithideopsilla djadjariensis のサイズ分布と他の貝との種間関係の季節変動  吉田 騰・今村留美子・冨山清升 干潟におけるウミニナ集団のサイズ頻度分布季節変化の個体群間比較  福留宗一郎・冨山清升 鹿児島市伍位野川におけるマーキング法によるイシマキガイ Clithon retropictus の生態の研究  原口由子・冨山清升 鹿児島県から採集された準絶滅危惧種ハナザメのアルビノ  藤原恭司・伊東正英・Kunto Wibowo・本村浩之 鹿児島県から得られたカラチョウザメの形態学的・生態学的知見  畑 晴陵・山田守彦・本村浩之 マングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithdea cingulate (Gmelin, 1790) のサイズ頻度分布の季節変化とω指数に基づく他種との共存関係  平田今日子・冨山清升 桜島の火山溶岩の転石海岸におけるカヤノミカニモリ Clypeomorus bifasciata (G. B. Sowerby II, 1855) の生活史  吉田稔一・冨山清升 フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum の生態学的研究:異なる環境下における同種の個体群間比較とω指数に基づく種間関係の分析  中島貴幸・片野田裕亮・小麦崎彰・轟木直人・冨山清升 鹿児島県喜入町のマングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithidea cingulata (Gmelin, 1791) の生活史とω指数に基づく種間関係の分析  片野田裕亮・中島貴幸・小麦崎 彰・轟木直人・冨山清升 宝島および奄美群島におけるアオカナヘビ Takydromus smaradinus の形態変異の分析  下之段佑一・山根正気・冨山清升 薩摩半島西岸から得られたエビスシイラ  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 奄美大島嘉徳川における陸水産甲殻十脚類の生息状況と下流域の利用  鈴木廣志・豊福真也・岡野智和・岡野和夏 タンポポスズメダイの水中写真に基づく屋久島からの記録  岩坪洸樹・原崎 森・本村浩之 鹿児島市喜入干潟におけるフトヘナタリ Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum の生活史  高田滉平・村永 蓮・冨山清升 鹿児島湾喜入での防災整備事業により破壊された干潟における腹足類貝類の動物相の生態回復  村永 蓮・高田滉平・冨山清升 鹿児島県から得られたコバンザメ科魚類シロコバン  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 奄美大島から得られたフエダイ科魚類バケアカムツ  畑 晴陵・前川隆則・本村浩之 宇治群島から得られた魚類 3 種の記録  畑 晴陵・川間公達・本村浩之 (表紙 3 に続く)

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薩摩半島に残されたニホンイシガメの生息地とその重要性 中村優洋・亀崎直樹 〒 700–0005 岡山市北区理大町 1–1 岡山理科大学生物地球学部動物自然史研究室

はじめに 古くから日本人に親しまれてきたニホンイシ ガメ Mauremys japonica は日本固有のイシガメ科 イシガメ属のカメである.ただし、生物学的な関 心が寄せられたことはあまりなく、まして個体数 の増減について論じられることはあまりなかっ た. と こ ろ が、 同 所 的 に 生 息 す る ク サ ガ メ M. reevesii が大陸由来の外来種であることが明らか になり(Suzuki et al., 2011),さらにニホンイシガ メとクサガメの間に稔性のある雑種ができること (Suzuki et al., 2014),さらに西日本各地ではミシ シッピアカミミガメ Trachemys scripta elegans や クサガメの方がイシガメより個体数が多いこと (谷口ほか,2015)などが明らかになり,にわか にその減少が危惧されるようになった.それによ り.環境省のレッドリスト 2015 の準絶滅危惧種 (NT)に掲載され(環境省,2015),本報告の土 地が存在する鹿児島県のレッドデータブックでも 準絶滅危惧種と位置づけられている(鹿児島県, 2014). 本種の保護において,外来種とされるように なったクサガメとの間に雑種が生じることは,両 種の間に遺伝子の浸透が起こることを意味してお り,実際に遺伝子が浸透すると進化学的に純粋な Nakamura, M. and N. Kamezaki. 2017. The habitat of the Japanese pond turtle, Mauremys japonica, in the Satsuma Peninsula, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 1–3. NK: Department of Biosphere-Geosphere Science, Okayama University of Science, 1–1 Ridaicho, Kitaku, Okayama 700–0005, Japan (e-mail: Kamezaki-naoki@nifty. com). Published online: 10 Oct. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-001.pdf

種が復元できなくなることから特に懸念される問 題となっている.従って,クサガメの侵入してい ないニホンイシガメの生息地は,ニホンイシガメ の保全上極めて重要だと考えられている.そのよ うな状況において,我々は薩摩半島の南部の南九 州市でクサガメがまだ侵入していない二ホンイシ ガメの生息地を確認したのでここに報告する. 調査地・方法 調査は鹿児島県南九州市知覧町の周辺の標高 120 m から 250 m の地域の河川とため池で行った. 河川は後岳川,厚地川,永里川,山仁田川,麓川, ため池は古土手池,堤ノ原池,知覧特攻基地前池 でカメの捕獲を試みた.なお,捕獲場所の地図は 保護の観点から示さないこととする.捕獲はカメ 専用のカゴ罠に餌の鮮魚を入れて池や河川に夕方 設置し,翌朝,引き上げた.調査は 2016 年 5 月 18 日から同年 10 月 12 日にかけての間に断続的 に実施した.捕獲されたカメは Yabe (1989) に従っ て,総排泄孔の位置で性を判別し,背甲長,腹甲 長,体重を計測した.また,生息密度を示す指標 として 1 網あたりの捕獲数(CPT: Catch per Trap) として使用した. 結果・考察 今回の捕獲調査により,後岳川,永里川,山 仁田川,麓川,および古土手池でニホンイシガメ が捕獲され(図 1),厚地川,堤ノ原池,知覧特 攻基地前池では捕獲されなかった.8 ヶ所の調査 地のうち 5 ヶ所でニホンイシガメが捕獲されてお り,この地域では本種が比較的広範囲に生息して いることが明らかになった.また,永里川にてニ ホンスッポン Pelodiscus sinensis が 2 個体捕獲さ

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ガメが優占している現在(谷口ほか,2015),こ の地域ではニホンイシガメのみが生息しており日 本のカメ相の原型を呈していると考えられた. 捕獲された二ホンイシガメは 31 個体でメス 25 個体,オス 6 個体であった.捕獲数が多かったの は永里川と古土手池でそれぞれ 15 個体,12 個体 であった.また,この 2 ヶ所は密度も高く,CPT 図 1.薩摩半島で捕獲されたニホンイシガメのメス. Fig. 1. A female of Mauremys japonica from the Satsuma Peninsula.

は 2.5 と 2.0 であった.このように,知覧地域で は広く本種は分布しているものの,環境によって その密度にはばらつきがあることが確認された. 捕獲された二ホンイシガメ背甲長,腹甲長,体 重を調べた.その結果,メス 25 個体の背甲長は 136.1±32.4 mm(range 85.5–186.3), 腹 甲 長 は 119.5±30.2 mm(73.5–166.5), 体 重 410.6±285.5 g (85–863), オ ス は 背 甲 長 129.7±10.2 mm(112.4 - 140.8), 腹 甲 長 109.6±74.2 mm(96.5–118.0), 体重 287.3±50.1 g(213–333)となった.また,背 甲長を 10 mm ごとの階級に分けてヒストグラム (図 2)を作成すると,メスは 2 峰性の分布を示 し 100–120 mm の 階 級 と 160–180 mm の 階 級 に ピークがみられた.一方,オスは 120–140 mm に ピークを持つ単峰性の分布を示した.ニホンイシ

図 2.薩摩半島で捕獲されたニホンイシガメの背甲長の分布. 黒塗:メス,網目:オス. Fig. 2. Carapace length distribution of Mauremys japonica caught from the Satsuma Peninsula. Black: females; mesh: males.

ガメの背甲長のヒストグラムは Yabe (1989) に岐 阜産のものがあるが,メスは 160–170 mm に,オ スは 90–100 mm にピークが認められ,知覧産の ものと比較するとメスのサイズは一致するが,オ スは知覧産のものが大きいことが明らかになっ

れた.外来種であるクサガメとミシシッピアカミ

た.この原因については不明である.

ミガメ Trachemys scripta elegans はいずれの調査

このように南九州市知覧にはニホンイシガメ

地でも捕獲されなかった.西日本の大部分の地域

の貴重な生息地が存在することが明らかになっ

で外来種とされるクサガメとミシシッピアカミミ

た.今後,河川や水系の改良工事を行う際には配

表1.調査地別のニホンイシガメの雌雄別個体数および CPT(1網あたりの捕獲数). Table 1. Number and CPT (Catch per Trap) of Mauremys japonica caught from the Satsuma Peninsula. 捕獲数 場所 網数 メス オス 合計 3 1 0 1 後岳川 3 0 0 0 厚地川 6 15 0 15 永里川 3 2 0 2 山仁田川 3 0 1 1 麓川 6 7 5 12 古土手池 3 0 0 0 堤ノ原池 3 0 0 0 知覧基地前池 30 25 6 31

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CPT 0.3 0.0 2.5 0.7 0.3 2.0 0.0 0.0 1.0

調査日 月 / 日(2016 年) 10/12 10/12 8/12 10/12 8/11 5/17,7/7 5/17,7/7 10/12


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慮を求めたい.また,クサガメやミシシッピアカ ミミガメなどの導入にも注意を払い,それら外来 種の個体が発見された時には,速やかに駆除する べきである. 謝辞 本調査を進めるに当たって協力をいただいた株 式会社自然回復の皆さま,生息地に関する情報を 提供いただいた南九州市役所の皆さまに感謝しま す.

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引用文献 鹿児島県.2015.鹿児島県レッドリスト,爬虫類・両生類. http://www.pref.kagoshima.jp/ad04/kurashi-kankyo/kankyo/ yasei/reddata/animal-list3.html 環境省.2015.環境省レッドリスト【爬虫類】.http://www. env.go.jp/press/files/jp/28058.pdf Suzuki, D., Ota, H. Oh, H.-S. and Hikida, T. 2011. Origin of Japanese populations of Reeves' pond turtle, Mauremys reevesii (Reptilia: Geoemydidae), as inferred by a molecular approach. Chelonian Conservation and Biology, 10: 237–249. Suzuki, D., Yabe, T. and Hikida, T. 2014. Hybridization between Mauremys japonica and Mauremys reevesii inferred by nuclear and mitochondrial DNA analyses. Journal of Herpetology, 48(4): 445–454. 谷口真理・上野真太郎・三根佳奈子・亀崎直樹.2015.西 日本のため池における淡水性カメ類の分布と密度.爬 虫両棲類学会報,2015(2): 144–157. Yabe, T. 1989. Population structure and growth of the Japanese pond turtle, Mauremys japonica. Japanese Journal of Herpetology, 13(1): 7–9.

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鹿児島県産クサビフグ Ranzania laevis 若魚の形態に関する若干の知見 1,2

澤井悦郎 ・山田守彦 1 2

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〒 739–8528 広島県東広島市鏡山 1–4–4 広島大学大学院生物圏科学研究科

現所属:〒 424–8633 静岡市清水区折戸 5–7–1 国立研究開発法人水産研究・教育機構国際水産資源研究所 3

〒 892–0814 鹿児島市本港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館

はじめに クサビフグ Ranzania laevis(Pennant, 1776)は, 世界中の温帯・熱帯域に分布するマンボウ科クサ ビフグ属の海産魚類で,マンボウ科の中では全長 1 m 以下の小型種である(波戸岡・萩原,2013). 本種は胸鰭が尖ること,背側から臀側に向かって 斜め直線状の舵鰭を持つこと,頭部に黒く縁取ら れた白い横縞が複数あることなどでマンボウ科の 他 2 属と外観的に識別されるが,出現予測が難し いため,日本国内における標本数は少なく,稀種 と さ れ て い る( 高 山,2007; 波 戸 岡・ 萩 原, 2013). このたび,2016 年 6 月に鹿児島県南さつま市 笠沙町からクサビフグ 1 標本が得られた.同町で は既に鹿児島県初記録として本種 1 個体(標本番 号 KAUM–I. 393)が 2006 年 8 月に漁獲され,鹿 児島大学総合研究博物館に保存されている(高山, 2007;本村・櫻井,2008).しかし,その後鹿児 島県内での文章化された本種の記録はなく,本報 告は鹿児島県内 2 例目の記録になると考えられた ためここに報告する.また,本標本の発育段階区 分の検討,鹿児島大学総合研究博物館に保存され ていた本種の他個体や既報(澤井,2016;澤井・ Sawai, E. and M. Yamada. 2017. A little knowledge about morphology of young Ranzania laevis (Tetraodontiformes: Molidae) from off the Kagoshima mainland, southern Japan. Nature of Kagoshima, 44: 5–8. ES: National Research Institute of Far Seas Fisheries, Japan Fisheries Research and Education Agency, 5–7–1 Orido, Shimizu–ku, Shizuoka 424–8633, Japan (e-mail: sawaetsu2000@yahoo.co.jp). Published online: 17 Oct. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-002.pdf

山田,2017a)のマンボウ科の他 2 属(マンボウ Mola sp. B, ヤ リ マ ン ボ ウ Masturus lanceolatus) との形態比較も行った. 材料と方法 今回得られた 1 標本(KCA17W0003)は,2016 年 6 月 14 日 に 鹿 児 島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 沖 (31°25'N, 130°12'E)に設置された定置網で漁獲さ れ,生鮮時に形態調査・解剖を行った後,いおワー ルドかごしま水族館に保管された.計数・計測は マンボウ科魚類共通でデータを集積している澤井 (2016)の手法を参照し,本報告での計測部位は Fig. 1 に示した.計測はノギスなどで 0.1 cm 単位 まで行い,計量は 1 g 単位まで行った.本報告で は帯前体長(PCBL)を計測基準とし,体各部の 計測値は帯前体長に対する百分率で示した.また, 鹿児島大学総合研究博物館に保存されていた本種 のホルマリン固定 3 標本(KAUM–I. 393,鹿児島 県南さつま市笠沙町沖,2009 年 7 月 11 日,定置網; KAUM–I. 24831,鹿児島県南さつま市笠沙町沖, 2006 年 8 月 21 日,定置網;KAUM–I. 51916,鹿 児島県南さつま市笠沙町沖,2013 年 1 月 16 日, 定置網)も同様の形態調査を行った.発育段階区 分は岩井(2005)に従った. 結果・考察 形態 本報告で用いた鹿児島県産クサビフグ 4 標本のうち,KCA17W0003(全長 20.2 cm)は最 小で,最大である KAUM–I. 51916(全長 55.2 cm) と 比 較 す る と,KAUM–I. 51916 は KCA17W0003 より体の高さ(TBD, CBL, BD, PPBD, CEBD),胸 鰭 の 長 さ(PPFD, PoPFD), 背 鰭 の 長 さ(PDFD,

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PoDFD),臀鰭の長さ(PAFD, PoAFD)の帯前体

本種は頭部に黒く縁取られた白い横縞が複数

長比が 9%以上高かった(Table 1).今後,個体

あることが特徴であるが(高山,2007),本標本

数を増やして再検討する必要はあるが,本種は成

にはその特徴が見られない(Fig. 1).本標本の体

長に伴って,体の高さや各鰭の長さが体の他の部

には銀白色の色素がまばらにあることから,漁獲

位より発達する傾向にあることが示唆された.本

時に網の中で擦れて多くの体表の色素が剥がれ落

種の体の高さが成長に伴って高くなることは,西

ちたものと考えられた.

オーストラリアのクサビフグでも報告されている (Smith et al., 2010).

本標本の消化管長は 27.1 cm であり,帯前体長 の 1.46 倍だった.本種の魚体の長さに対する消

各鰭の鰭条数は,4 標本とも似通った数であっ

化管長の比は,マンボウ属(富永,1967)やヤリ

たため(Table 1),本標本は既に種の定数に達し

マンボウ(澤井・山田,2017b)のそれらと比較

ているものと考えられた.マンボウ属の分類形質

すると著しく小さいため,本種の食性は他 2 属と

である骨板は 4 標本とも確認されなかった(Table

大きく異なる可能性が考えられた. 発育段階区分 本標本の体重は 160 g.生殖腺

1).

Table 1. Measurements and counts, expressed as percentages of pre-clavus band length, of Ranzania laevis.

Total length (TL; cm) Pre-clavus band length (PCBL; cm) Measurements as % of PCBL Post-dorsal fin length (PoDFL) Pre-dorsal fin length (PDFL) Pre-pectoral fin length (PPFL) Head length (HL) Snout length (SnL) Post-anal fin length (PoAFL) Pre-anal fin length (PAFL) Pre-anal length (PAL) Total body depth (TBD) Clavus base length (CBL) Body depth (BD) Pre-pectoral body depth (PPBD) Central-eye body depth (CEBD) Eye diameter depth (EDD) Eye diameter (ED) Depth of gill opening (DGO) Length of gill opening (LGO) Pre-pectoral fin depth (PPFD) Post-pectoral fin depth (PoPFD) Pectoral fin base length (PFBL) Pre-dorsal fin depth (PDFD) Post-dorsal fin depth (PoDFD) Dorsal fin base length (DFBL) Pre-anal fin depth (PAFD) Post-anal fin depth (PoAFD) Anal fin base length (AFBL) Counts Dorsal fin rays Anal fin rays Pectoral fin rays Clavus fin rays Ossicles

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Fresh specimen KCA17W0003 20.2 18.6

KAUM–I. 393 29.2 27.0

Formalin-preserved specimens KAUM–I. 24831 KAUM–I. 51916 24.5 55.2 22.6 49.8

108.1 91.9 39.2 35.5 13.4 102.2 88.2 81.2 65.6 23.7 30.1 33.9 24.7 5.4 5.9 3.2 3.2 16.1 14.5 5.4 24.2 22.6 16.1 22.0 20.4 14.5

105.2 91.5 41.5 38.1 14.8 101.5 89.6 80.7 77.4 27.8 33.3 36.7 24.1 5.9 6.3 3.3 3.7 18.9 16.7 5.2 26.3 25.2 13.3 24.8 24.8 13.0

105.3 92.9 39.8 36.7 14.2 97.3 87.6 78.3 broken 22.1 26.5 31.0 20.8 6.2 6.6 3.5 3.1 16.8 14.6 4.9 broken broken 12.4 broken broken 10.6

104.0 89.0 42.2 37.8 15.3 97.4 84.1 75.1 111.4 42.6 48.8 50.6 33.5 6.0 6.8 3.8 3.4 26.5 23.5 6.2 38.2 35.7 15.9 32.7 32.5 13.9

20 19 13 20 0

19 19 13 20 0

19 19 13 21 0

19 19 13 21 0


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Fig. 1. Morphological parameters for the measurements of a Ranzania laevis specimen (off Kasasa-cho, Kagoshima Prefecture, Japan; specimen number, KCA17W0003). 1: total length (TL), 2: pre-clavus band length (PCBL), 3: post-dorsal fin length (PoDFL), 4: predorsal fin length (PDFL), 5: pre-pectoral fin length (PPFL), 6: head length (HL), 7: snout length (SnL), 8: post-anal fin length (PoAFL), 9: pre-anal fin length (PAFL), 10: pre-anal length (PAL), 11: total body depth (TBD), 12: clavus base length (CBL), 13: body depth (BD), 14: pre-pectoral body depth (PPBD), 15: central-eye body depth (CEBD), 16: eye diameter depth (EDD), 17: eye diameter (ED), 18: depth of gill opening (DGO), 19: length of gill opening (LGO), 20: pre-pectoral fin depth (PPFD), 21: post-pectoral fin depth (PoPFD), 22: pectoral fin base length (PFBL), 23: pre-dorsal fin depth (PDFD), 24: post-dorsal fin depth (PoDFD), 25: dorsal fin base length (DFBL), 26: pre-anal fin depth (PAFD), 27: post-anal fin depth (PoAFD), 28: anal fin base length (AFBL). All measurements are also used in Mola specimens of Sawai (2016).

は未発達であったため摘出することができず,GI

過小評価した原因と考えられる.これらの鰭条は

や GSI などの成熟度評価はできなかった.本種

目視では気付かれないことが多いため,鰭を光で

の成熟は全長 30 cm 以上と推測されていることか

透過させるなどして注意深く観察する必要があ

らも(Smith et al., 2010),本個体が未成熟である

る.

ことは支持される.体の高さや鰭の長さが発育途 中であることも合わせて考えると,岩井(2005)

謝辞

の発育段階区分にある「体の形態的諸特徴は発達

本報告を取りまとめるにあたり,多大なご協力

中」,「種の特徴は現れているが,体各部の相対比

を頂いた鹿児島県南さつま市笠沙町の有限会社松

は成魚と異なる」に該当すると思われ,本標本は

島定置網漁業の皆様,鹿児島大学総合研究博物館・

若魚期 young と考えられた.

魚類分類学研究室の皆様に厚くお礼申し上げる.

備考 本報告ではクサビフグの計測を Fig. 1 に 示 し た が, 計 測 手 法 は マ ン ボ ウ で 示 し た 澤 井 (2016)と全く同じである.しかし,本種は舵鰭 における帯状部の視認が難しく,誤計測する可能 性があったため,澤井(2016)にある計測項目の う ち Width of clavus band(WCB) と Post-clavus band length(PoCBL)は除いた. KAUM–I. 393 について,高山(2007)は背鰭 17 条,臀鰭 17 条,胸鰭 13 条,舵鰭 20 条と報告 したが,胸鰭軟条数以外は本報告より 2 つずつ少 ない(Table 1).おそらく各鰭(背鰭,臀鰭,舵鰭) の前端と後端にある小さな鰭条を見逃したことが

引用文献 波戸岡清峰・萩原清司.2013.マンボウ科.Pp. 1746–1747, 2242–2243.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 岩井 保.2005.魚学入門.恒星社厚生閣,東京.219 pp. 本村浩之・櫻井 真.2008.2007 年に報告された鹿児島県 の魚類に関する新知見.Nature of Kagoshima,34: 25– 34. 澤井悦郎.2016.鹿児島大学総合研究博物館に保存されて い た マ ン ボ ウ 属 魚 類 標 本 の 形 態 的 種 同 定.Nature of Kagoshima,42: 343–347. 澤 井 悦 郎・ 山 田 守 彦.2017a. 鹿 児 島 県 産 ヤ リ マ ン ボ ウ Masturus lanceolatus 若 魚 の 外 部 形 態.Nature of Kagoshima,43: 249–252.

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Nature of Kagoshima Vol. 44 澤 井 悦 郎・ 山 田 守 彦.2017b. 鹿 児 島 県 産 ヤ リ マ ン ボ ウ Masturus lanceolatus 若魚の成熟度および食性に関する 若干の知見.Nature of Kagoshima,43: 253–255. Smith, K. A., Hammond, M. and Close, P. G. 2010. Aggregation and stranding of elongate sunfish (Ranzania laevis) (Pisces: Molidae) (Pennant, 1776) on the southern coast of Western Australia. Journal of the Royal Society of Western Australia, 93 (4): 181–188.

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RESEARCH ARTICLES 高山真由美.2007.クサビフグ.鹿児島大学総合博物館 News Letter,(16): 15. 富永盛治朗.1967.五百種魚体解剖図説(別巻).角川書店, 東京.432 pp.


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鹿児島県本土で初確認された侵略的外来種アシナガキアリ 1

2

原田 豊 ・細石真吾 ・山根正気 1 2

3

〒 890–0033 鹿児島市西別府町 1680 池田学園池田高等学校

〒 812–8581 福岡市東区箱崎 6–10–1 九州大学熱帯農学研究センター 3

〒 899–2704 鹿児島市春山町 1054–1

Abstract. Active colonies of the famous tramp ant Anoplolepis gracilipes were found for the first time on mainland Kyushu, southern Japan in 2017. They were located in container yards and their nearby sites on the plots of New Kagoshima Port and Taniyama Port. A nest located at Taniyama Port was a large mature colony containing many winged queens and males, and probably hundreds of workers. Workers of a small nest found at New Kagoshima Port were sampled to compare the head width and scape length with those of workers of the mature colony of Taniyama Port. They were almost the same in both head width and scape length, showing that the nest of New Kagoshima Port was part of a mature colony escaped from a container. All the nests were supposed to be exterminated by physical destruction and poisonous bait trapping. はじめに アシナガキアリ Anoplolepis glacilipes (F. Smith, 1857) は,明確な原産地は不明であるが,アフリ カもしくは熱帯アジア起源とされ,現在は世界中 の熱帯・亜熱帯と北米の温暖な地域に広く分布し て い る(Wetterer, 2005). 本 種 は IUCN( 国 際 自 Harada, Y., S. Hosoishi and Sk. Yamane. 2017. Arrival of the invasive alien ant Anoplolepis gracilipes (F. Smith) in mainland Kagoshima, Kyushu, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 9–12. YH: Ikeda High School, 1680 Nishibeppu, Kagoshima 890–0033, Japan (e-mail: harahyo@yahoo.co.jp). Published online: 25 Oct. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-003.pdf

然保護連合)により侵略的外来種ワースト 100 に 指定されおり,国外では高い採餌能力と攻撃性に よる他種のアリとの競合や駆逐,捕食などによる 他の動物への悪影響が報告されている.特にセイ シェル諸島では,鳥類・爬虫類などの繁殖を妨げ るなど生態系に甚大な影響を与えている(Haines et al., 1994). 日本においてアシナガキアリは,南西諸島に 広く分布し,北限は鹿児島県のトカラ列島南端に 位置する宝島である(山根ほか,1999;山根・福 元,2017).これまで日本本土でも温室や動物園 な ど で 散 発 的 に 発 見 さ れ て い る( 寺 山 ほ か, 2014).世界的レベルでは侵略的外来種に指定さ れているが,国内で特定外来生物には指定されて いない.沖縄島与那の林道沿いでの 1 年を通じた 調査においては,本種は採餌活動,生態的優占度 のいずれにおいても第 3 位に位置した(Suwabe et al., 2009)が,南西諸島では競争や捕食により 他種を駆逐するなど目立った事例は報告されてい ない. アシナガキアリの侵入が確認された鹿児島市 内に位置する 2 つの港は,奄美群島や琉球諸島を 経由する大型フェリーや貨物船の発着港で,年間 を通じてコンテナによって多量の物資が流通して いる.両港とも侵入したアシナガキアリはおそら くコンテナあるいはコンテナ内の物資に紛れ込ん で運搬されたものと考えられる. 今回,私たちは鹿児島県本土で初めて侵入が 確認されたアシナガキアリのコロニーの駆除を鹿 児島県環境林務部自然保護課の職員とともに行っ た.

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失い女王アリや幼個体の発見には至らなかった. 帰巣したり土中から出てきたりしたすべての働き アリを捕獲した後,掘った場所は元の状態に埋め 戻した.一方,谷山港で発見されたコンテナヤー ド内と廃材置き場のコロニー(巣 2–4)について は,8 月 25 日,鹿児島県環境林務部自然保護課 の職員とともに殺虫成分を含んだベイト剤である 「ウルトラ巣のアリフマキラー」(フマキラー株式 会社)(図 3)を,両サイトの営巣場所近くにそ れぞれ 7 個と 13 個設置した(図 4).ベイト剤は Fig. 1. Location of two ports suveyed in Kagoshima Prefecture. A

B

環境省がヒアリ駆除用に各都道府県に配布したも のである.アシナガキアリがベイト剤に誘引され ることは現場で確認されたが,実際に巣へ運搬し て餌としているかは確認できなかった. 結果と考察 アシナガキアリの発見と調査の概要

D

C

鹿児島新港 6 月 15 日:著者の細石により,フェリーター ミナル近くにあるコンテナヤードを取り囲む植え 込みの地表や立木の樹上で採餌を行っているアシ ナガキアリ十数個体が発見され,鹿児島県本土で

Fig. 2. Nest sites. A: New Kagoshima Port; B-D: Taniyama Port. Arrows indicate the entrance of the nests. Photo B: courtesy of the Department of Forestry, Kagoshima Prefecture.

調査地と方法

侵入が初確認された(図 2A). 6 月 25 日:著者の原田,山根が福元しげ子氏(鹿 児島大学総合研究博物館)とともに調査を行った ところ,アシナガキアリがコンテナヤードを取り 囲む植え込みの土壌中に営巣していることが確認

調査地 調査地は錦江湾に面する鹿児島新港

された.出入口は 2 か所確認され,おそらく同一

(鹿児島市城南町 45–1)と谷山港(鹿児島市谷山

の巣のものと思われた(巣 1).敷地内をくまな

港 1–19)のコンテナ置場とその周辺である(図 1,

く調査したが他の場所での営巣は確認されなかっ

2).両港には沖縄や奄美群島から船舶によって運

た.

搬されたコンテナが置かれている.調査はすべて

谷山港

2017 年に実施した.営巣の有無を確認するとと

7 月 3 日:谷山港の港湾職員が琉球通運株式会

もに,働きアリのサイズを測定するため若干の個

社の建屋の周辺で採餌している個体を発見した.

体をサンプリングし,一部は将来の DNA 解析に

コンクリートのひび割れた間隙及び排水溝への出

用いるため 99% エタノールで保存した.谷山港

入りが確認され,その近くに巣があったと推定さ

のコロニーからは新女王や雄も採集した.

れる(巣 2)(図 2B).

駆除方法 鹿児島新港で発見されたコロニー

8 月 1 日:著者の原田が敷地内にあるコンテナ

(巣 1)については,鹿児島県環境林務部自然保

ヤードと道路との間にある排水溝への出入りを確

護課の職員立ち合いのもとで,営巣場所である土 を掘って全個体採集を試みたが,途中で坑道を見

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認した(巣 3). 8 月 12 日:建屋に隣接する材木やコンクリー


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トの廃材置き場において,多数の女王,有羽虫(新 女王と雄),幼個体(卵,幼虫,蛹)を含む数百 個体からなる成熟コロニーを発見した(巣 4). 積み重ねられた廃材の間隙に営巣していた.発見 場所は,廃材が積み重ねられて多くの間隙がある とともに腐朽した材木には餌となるシロアリが営 巣しており,アシナガキアリにとって格好の営巣 場所と考えられた.なお,アシナガキアリは多巣 性で,1 つのコロニーが空間的な制限によって分 散して営巣する性質があるため,巣 2, 3, 4 は同一 のコロニーに由来する可能性がある.また母コロ ニーは別の場所に依然として存在している可能性

Fig. 3. Poisoned bait used for extermination.

もある.廃材置き場全体にコロニーが分散してい た可能性があるが,残念ながら確認することはで きなかった. 働きアリのサイズ 鹿児島新港で発見されたコロニーが初期コロ ニーであったかどうかを推定するため,採集した 働きアリ 24 個体の頭幅と触角柄節長を測定し, 谷山港の成熟コロニーから採集した 24 個体のそ れらと比較した(表 1).2 か所のサンプルの平均 値は,頭幅が 0.65 mm と 0.66 mm,柄節長がとも に 1.75 mm で,差は見られなかった.また,頭

Fig. 4. Control work (Taniyama Port).

幅は Ito et al.(2016)がジャワ産の本種成熟コロ ニーから採集した働きアリのそれに近かった.こ れらのことから,鹿児島新港で発見された巣は,

駆除の結果 最初に本種が発見された鹿児島新港では,巣

成熟コロニーの一部が船舶によって移動して来た

を掘り働きアリを採集した後の 8 月 1 日と 8 月

もので,新たに独立創設されたものではないと推

12 日に,営巣場所付近においてそれぞれ約 30 分

測された(独立創設の初期コロニーの働きアリは

間ずつ採餌個体の確認を行ったが,両日とも 1 個

ミニムと呼ばれ,通常の働きアリとは有意に小さ

体も観察されなかった.また,巣口も確認できな

いことが分かっている).谷山港でみつかった有

かった.おそらく巣が埋められたのち地中に残っ

翅虫を生産していたコロニーは,侵入後成長して

た個体は,地上へ脱出できずにすべて死滅し,結

成熟したのか,あるいは成熟コロニーが運ばれて

果的に駆除されたものと考えられる.

来たのか,判定できなかった.

一方,谷山港では,7 月 3 日に初めて確認され

Table 1. Comparison of head width and scape length (mm) between a small colony (Nest 1, New Kagoshima Port) and large colony (Nest 4, Taniyama Port). Nest 1 (New Kagoshima Port) Nest 4 (Taniyama Port) Range Mean sd Range Mean sd Head width 0.6–0.68 0.65 ±0.019 0.59–0.71 0.66 ±0.032 Scape length 1.69–1.81 1.75 ±0.038 1.61–1.84 1.75 ±0.059

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た巣 2 は,8 月 12 日と 25 日にはまったく出入り が確認されず,何らかの理由で死に絶えたと思わ れる.また,巣 3 と 4 については,8 月 25 日に 毒餌ベイトを設置したのち,8 月 31 日に鹿児島 県環境林務部自然保護課の職員がそれぞれの巣の 状態を確認したところ,ベイト剤に摂食の痕跡が 確認され,営巣場所周辺での採餌個体はまったく 見られなかった.両巣は引っ越した可能性を否定 できないが,ベイト剤により完全に死滅した可能 性が高い. 今回,初めて鹿児島県本土でアシナガキアリ の営巣が確認された.おそらく奄美群島から運ば れたコンテナに紛れて侵入したものと思われる. しかし,熱帯・亜熱帯アジア原産と推定される本 種が暖温帯地域である鹿児島県本土で越冬して実 際に定着できるかどうかは疑わしい(今回は拡散 を防ぐために駆除したため,冬期の状態を確認す るチャンスを逸した) .また,仮に越冬して定着 したとしても生態系や農業,酪農等にどのような 影響をもたらすかは不明である.注目すべきは, 有羽虫を含む数百個体を有する成熟コロニーが確 認されたことである.発見が遅れ,駆除がなされ なければ確実に谷山港を起点に近隣地域に分散し たものと考えられる. 上述したように,発見された巣は駆除された と思われるが,一部が他の場所に引っ越した可能 性を否定しきれない.また,これらの巣が由来し た母コロニーがどこかに残存していることもあり 得る.さらに,今後も船舶によってアシナガキア リの鹿児島県本土への侵入は続くと考えられるの で,水際での早期発見と駆除及び定期的なモニタ リングが極めて重要である.

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謝辞 調査に協力された鹿児島大学総合研究博物館 の福元しげ子氏,調査や駆除活動に参加された鹿 児島県環境林務部自然保護課の長田 啓氏ほか, 職員の方々,貴重な情報を寄せられた港湾職員の 方々に心からお礼申し上げる.また,池田高等学 校 SSH 課題研究班の藤田祥帆さんほか,班員の 方々には真夏の炎天下のなか調査協力いただい た.香川大学農学部の伊藤文紀氏からはアシナガ キアリについて貴重な情報をいただいた. 引用文献 Haines IH, Haines JB, Cherrentt JM, 1994. The impact and control of the crazy ant, Anoplolepis longipes (Jerd.), in the Seychelles. In: Williams DF (ed.) Exotic Ants: Biology, Impact, and Control of Introduced Species, pp. 206–218. Westview Press, Boulder, CO. Ito F, Wara S, Kojima J, 2016. Discovery of independent-founding solitary queens in the yellow crazy ant Anoplolepis gracilipes in East Java, Indonesia (Hymenoptera: Formicidae). Entomological Science 19, 312–314. Suwabe M, Ohnishi H, Kikuchi T, Kawara K, Tsuji K, 2009. Difference in seasonal activity pattern between non-native and native ants in subtropical forest of Okinawa Island, Japan. Ecological Research 24, 637–643. Published online in September, 2008. 寺山 守・久保田敏・江口克之,2014.日本産アリ類図鑑. 48 pls., 278 pp. 朝倉書店,東京. Wetterer JK, 2005. Worldwide distribution and potential spread of the long-legged ant, Anoplolepis gracilipes (Hymenoptera: Formicidae). Sociobiology 45, 77–97. 山根正気・幾留秀一・寺山 守,1999.南西諸島産有剣ハチ・ アリ類検索図説.北海道大学図書刊行会,札幌. 山根正気・福元しげ子,2017.薩南諸島における放浪種ア リ類.鹿児島大学生物多様性研究会編,奄美群島の外 来生物,pp. 108–131.南方新社,鹿児島.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたミナミメダイ 1

2

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに インド・太平洋に広く分布するミナミメダイ Ariomma brevimanum (Klunzinger, 1884)(スズキ目 オオメメダイ科オオメメダイ属)(Last, 2001;中 坊・土居内,2013)は,体長 70 cm 以上に成長し, 市場に水揚げされ,食用に供されることもある (Bos and Gumanao, 2013;畑ほか,2016; Okamoto, 2017;本研究).本種は鹿児島県内においてはこ れまで薩摩半島西岸,鹿児島湾,トカラ列島口之 島近海,および奄美群島与論島近海における分布 が 確 認 さ れ て い た( 畑,2014; 畑 ほ か,2016, 2017). 2016–2017 年の鹿児島県における魚類相調査に おいて,奄美大島産のミナミメダイ 2 個体が採集 された.これらの標本は奄美大島近海における本 種の標本に基づく初めての記録となるため,ここ に報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Tabeta and Ishida (1975) にし たがった.標準体長は体長と表記し,体各部の計 測はノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.ミ

Hata, H., T. Maekawa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. First records of Ariomma brevimanum (Perciformes: Ariommatidae) from Amami-oshima island, Amami Islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 13–16. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 7 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-004.pdf

ナミメダイの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮 影された奄美大島産の標本(NSMT-P 131446)の カラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影, および固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告に用いた標本は国立科学博物館に保管されてい る.本報告中で用いられている研究機関略号は以 下の通り:NSMT(国立科学博物館) ;KAUM(鹿 児島大学総合研究博物館);USNM(スミソニア ン自然史博物館). 結果と考察 Ariomma brevimanum (Klunzinger, 1884) ミナミメダイ (Fig. 1; Table 1) 標 本 NSMT-P 131446, 体 長 729.0 mm, 鹿 児 島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2016 年 10 月 28 日,前川隆則;NSMT-P 131546,体長 742.7 mm,鹿児島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入), 2017 年 7 月 20 日,前川隆則. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円 形で,側扁する.体高は第 1 背鰭第 7 棘起部で最 大.体幅は胸鰭基底下端より僅かに後方で最大. 体背縁は上顎先端から第 1 背鰭第 7 棘起部にかけ て緩やかに上昇し,そこから第 2 背鰭基底後端に かけて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から 肛門前方にかけて緩やかに下降し,そこから臀鰭 基底後端にかけて緩やかに上昇する.尾柄部にお いては体背縁と体腹縁のいずれも僅かに凹む.胸 鰭基底上端は鰓蓋後縁より後方に位置し,胸鰭基 底下端は腹鰭起部より前方に位置する.胸鰭後端 は尖り,第 1 背鰭第 7 棘起部直下と第 8 棘起部直

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Ariomma brevimanum. NSMT-P 131446, 729.0 mm standard length, Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan.

下の間に達するが,肛門には達しない.腹鰭起部

鰭各棘は灰白色を呈し,第 1 背鰭の各棘間の鰭膜

は第 1 背鰭起部よりも僅かに前方に位置する.腹

は暗い茶褐色.第 2 背鰭は灰白色を呈し,縁辺部

鰭基底後端は第 1 背鰭起部よりも僅かに後方に位

は暗褐色.胸鰭は灰白色を呈し,後縁下部と上縁

置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門に達しない.

は黒色.腹鰭各鰭条は茶褐色を呈し,鰭膜は白色.

第 1 背鰭起部は胸鰭基底上端および腹鰭第 1–2 軟

腹鰭後部は黒色.臀鰭は白色を呈し,下縁は黒色.

条起部直上に位置し,第 2 背鰭基底後端は臀鰭基

尾鰭は灰白色を呈し,両用の中心部は淡い鶯色.

底後端直上に位置する.背鰭棘は第 3 棘,または

虹彩は銀色で,瞳孔は青みがかった黒色.

第 4 棘が最長.背鰭軟条は第 2 軟条が最長.臀鰭

分布 本種は紅海,インドネシア,南シナ海,

起部は第 2 背鰭第 3 軟条起部直下に位置する.尾

フィリピン,マリアナ諸島,日本,およびハワイ

鰭は二叉型で,深く湾入する.眼は大きく,頭長

諸島における分布が報告されている(Jordan and

の 19.6–20.3%.眼と瞳孔はともに正円形.鼻孔

Snyder, 1907; Fowler, 1923; 久 新 ほ か,1982;

は 2 対で,前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,吻端

Karrer, 1984; Ajid and Mahasneh, 1986; Last, 2001;

に位置する.前鼻孔は正円形を呈し,後鼻孔は背

Ho et al., 2010, 2013; 中 坊・ 土 居 内,2013; Bos

腹方向に長い楕円形.両鼻孔に皮弁は無い.口は

and Gumanao, 2013; Chen and Zhang, 2015;

小さく端位.上顎後端は丸みを帯び,眼の前縁直

Okamoto, 2017;本研究).国内では神奈川県三浦

下に達しない.前鰓蓋骨と鰓蓋骨後縁はともに円

市三崎,三重県志摩市,和歌山県串本町,高知県

滑.前鰓蓋骨屈曲部は後方に伸長する.鰓耙は細

土佐湾,大分県豊後水道,熊本県天草,鹿児島県

長い.鰓弁は細長いフィラメント状.肛門は前後

薩摩半島西岸,鹿児島湾,トカラ列島口之島,奄

方向に長い楕円形を呈し,臀鰭起部前方に開孔す

美群島与論島,および沖縄県沖縄島から記録され

る.背鰭前方鱗被鱗域の先端は両眼の後端を結ん

ていたが(中坊・土居内,2013;畑,2014;畑ほ

だ線にはるかに達しない.両顎には小円錐歯が 1

か,2016, 2017),本研究によって新たに奄美大島

列に並ぶ.鋤骨,口蓋骨,および舌上には歯がな

近海における分布が確認された.

い.側線は完全で,鰓蓋上方から始まり,体背縁 と平行に尾鰭基底にかけて入る.

備考 奄美大島産の標本は,鋤骨と口蓋骨が 無歯であること,尾柄側面に低い隆起線が 2 本あ

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から側線よりも

ること,背鰭と臀鰭の軟条数がそれぞれ 15 と 14

上方の体側上部にかけては茶色がかった暗い紫褐

であること,および体側鱗は薄く,剥がれやすい

色.体側中央から体腹面にかけては銀白色.体側

円鱗であることなどが Haedrich (1967) や Haedrich

中央には瞳孔径とほぼ同じ太さの鶯色縦帯が鰓蓋

and Horn (1972) によって定義された Ariomma 属,

後方から第 2 背鰭基底後端直下にかけてある.背

Last (2001) によって定義されたオオメメダイ科

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Ariommatidae の標徴とよく一致した.オオメメダ

先端が両眼の後端を結んだ線に達することを挙げ

イ科はオオメメダイ属 1 属からのみなる(Haedrich,

た.しかし,奄美大島産標本の背鰭前方鱗被鱗域

1967; Haedrich and Horn, 1972; Last, 2001).奄美大

の先端は,両眼の後端を結んだ線に達しない.本

島産の標本は体高が体長の 22.7–24.6% であるこ

研究においては,奄美大島産の標本のその他の形

と,眼窩径が頭長の 19.6–20.3% であること,前

鰓蓋骨屈曲部が後方に伸長すること,および胸鰭

Last (2001),および中坊・土居内(2013)が挙げ

軟 条 数 が 23 で あ る こ と が Haedrich (1967) や

た標徴に一致したため,ミナミメダイに同定した

が Haedrich (1967), Haedrich and Horn (1972),

Haedrich and Horn (1972) の報告した A. evermanni

ものの,この差異が種内変異であるのかは,大型

Jordan and Snyder, 1907 と Last (2001) や 中 坊・ 土

個体の精査を含めた検討を要する.さらに,本研

居内(2013)の報告した A. brevimanum の標徴と

究の奄美大島産標本(NSMT-P 131446)では生鮮

よ く 一 致 し た. な お,A. evermanni は 現 在,A.

時,体側に鶯色の縦帯がみとめられたが,こうし

brevimanum の 新 参 異 名 と さ れ て い る(Karrer,

た色彩は畑(2014)と畑ほか(2016, 2017)で報

1984).

告された個体では確認されなかった.ミナミメダ

Last (2001) と 中 坊・ 土 居 内(2013) は A.

イの色彩の変化や,生態に関する知見は極めて乏

brevimanum の標徴として,背鰭前方鱗被鱗域の

しく,こうした色彩の差異に関しても,二次性徴

Table 1. Counts and measurements of specimens of Ariomma brevimanum.

NSMT-P 131446 729.0

NSMT-P 131546 742.7

Holotype of Ariomma evermanni Honolulu, Oahu Island, Hawaii USNM 57783 152.8

10-1 15 2 14 23 1 5 9 20 29 50

10-1 15 2 14 23 1 5 9 20 29 52

11-1 15 2 15 24 1 5 9 20 29 51

25.3 14.1 24.6 35.7 31.3 61.4 26.8 31.8 65.9 7.9 6.8 7.7 11.9 5.6 10.7 12.8

24.6 14.7 22.8 35.0 31.3 60.6 25.5 30.9 64.4 7.6 5.4 7.3 11.9 5.2 11.9 12.5

Broken 14.0 21.9 33.6 36.9 61.0 31.3 63.1 65.8 9.1 7.5 8.5 13.1 5.1 9.8 Broken

Non-type specimens Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin spines Dorsal-fin rays Anal-fin spines Anal -fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin spines Pelvic-fin rays Upper gill rakes Lower gill rakers Total gill rakers Lateral-line scales Measurements (%SL) Head length (HL) Width at upper pectoral-fin base Depth at middle of dorsal-fin base Distance from pelvic-fin origin to anal-fin origin Distance from snout to first dorsal-fin origin Distance from snout to second dorsal-fin origin Distance from snout to upper pectoral-fin base Distance from snout to anus Distance from snout to anal-fin origin Snout length Upper-jaw length Interorbital width Postorbital length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle length Length of longest spine of first dorsal fin

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Nature of Kagoshima Vol. 44

によるものなのか検討が必要である. Ariomma brevimanum の日本における分布状況 については畑ほか(2016, 2017)によって詳述さ れている.それ以降,本種の日本国内における記 録はない.したがって,記載標本は奄美大島近海 における本種の初めての記録となる. 比 較 標 本 ミ ナ ミ メ ダ イ:USNM 57783, Ariomma evermanni の ホ ロ タ イ プ, 体 長 152.8 mm,ハワイ・オアフ島ホノルル,D. S. Jordan. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類 学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本 の作製・撮影に際しては国立科学博物館の篠原現 人博士,栗岩 薫博士ならびに鹿児島大学総合研 究博物館の森下悟至氏に多大なご協力を頂いた. また,スミソニアン自然史博物館の J. Williams 博 士,K. Murphy 氏,S. Raredon 氏, な ら び に D. Pitassy 氏には比較標本の観察に際してご協力頂 いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表する.本 研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産 魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行 われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 科研費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Ajid, A. M. and Mahasneh, D. M. 1986. Redescription of Ariomma brevimanus (Kluzinger, 1884), a rare stromateoid from the Gulf of Aqaba (Red Sea). Cybium, 10: 135–142. Bos, A. R. and Gumanao, G. S. 2013. Seven new records of fish (Telestei: Perciformes) from coral reefs and pelagic habitats in southern Mindanao, the Philippines. Marine Biodiversity Records, 6: 1–6.

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RESEARCH ARTICLES Chen, D. and Zhang, M. 2015. Marine fishes of China. China Ocean University Press, Quingdao. 2154 pp. Fowler, H. W. 1923. New or little-known Hawaiian fishes. Occasional Papers of the Bernice Pauahi Bishop Museum of Polynesian Ethnology and Natural History, 8: 373–392. Haedrich, R. 1967. The stromateoid fishes: systematic and a classification. Bulletin of the Museum of Comparative Zoology, 135: 31–139. Haedich, R. L. and Horn, M. H. 1972. A key to the stromateoid fishes. Woods Hole Oceanographic Institution Technical Report, 1972 (3): 1–46. 畑 晴陵.2014.ミナミメダイ Ariomma brevimanum (Klunzinger, 1884).P. 583.本村浩之・松浦啓一(編),奄美 群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島大学総合研究 博物館,鹿児島,国立科学博物館,つくば. 畑 晴陵・伊東正英・本村浩之.2016.鹿児島県から得ら れたオオメメダイ科魚類ミナミメダイ Ariomma brevimanum.南紀生物,58: 44–47. 畑 晴陵・岩坪洸樹・本村浩之.2017.鹿児島湾から得ら れたオオメメダイ科魚類ミナミメダイ.Nature of Kagoshima, 43: 197–200. Ho, H.-C., Chiang, W.-C., Shao, K.-T. and Chang, C.-W. 2010. Description of four new records and a key to the stromateoid fishes in Taiwan. Journal of the Fisheries Society of Taiwan, 37: 253–262. Ho, H.-C., Lin, C.-J. and Yang C.-R. 2013. New records of five species from the Green Island, Orchid Island and Kenting, Taiwan. Platax, 10: 73–80. Jordan, D. S. and Snyder, J. O. 1907. Notes on fishes of Hawaii, with descriptions of new species. Bulletin of the Bureau of Fisheries, 26: 205–218. Karrer, C. 1984. Notes on the synonymies of Ariomma brevimanum and A. luridum and the presence of the latter in the Atlantic (Teleostei, Perciformes, Ariommatidae). Cybium, 8: 94–95. 久新健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉・谷野保夫・ 千田哲資.1982.南シナ海の魚類.海洋水産資源開発 センター,東京.333 pp. Last, P. R. 2001. Ariommatidae Ariommas. Pp. 3780–3783 in Carpenter, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 6. Bony fishes part 4 (Labridae to Latimeriidae), estuarine crocodiles, sea turtles, sea snakes and marine mammals. FAO, Rome. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp. 中坊徹次・土居内 龍.2013.オオメメダイ科.Pp. 1084, 2042.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野. Okamoto, M. 2017. Ariomma brevimanum (Kluzinger, 1884). P. 179 in Motomura, H., Alama, U. B., Muto, N., Babaran, R. P. and Ishikawa, S. eds. Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. Tabeta, O. and Ishida, K. 1975. Occurrence of the stromateoid fish Ariomma brevimanus in southern Japan. Japanese Journal of Ichthyology, 22: 175–178.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られた薩南諸島初記録および北限記録のワニトラギス 1

2

3

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・栗岩 薫 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに トラギス科魚類は日本近海において 29 種が知ら れる(荻原・遠藤,2011;島田,2013;日比野ほか, 2013). そ の う ち, ワ ニ ト ラ ギ ス Ryukyupercis gushikeni (Yoshino, 1975) は,沖縄島近海から得ら れた個体に基づき記載され,長らくトラギス属 Parapercis に含まれてきた(例えば,吉野,1984; Shimada, 2002). そ の 後,Imamura and Yoshino (2007) は本種を単型属であるワニトラギス属に帰 属した. 奄美大島の魚類相を調査する過程で,2017 年 4 月 10 日に 1 個体のワニトラギスが採集された. 本標本は本種の薩南諸島における初めての記録と なるとともに,本種の分布の北限を更新するもの となるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Yoshino (1975) にしたがった. 標準体長は体長と表記し,体各部の計測はデジタ ルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.ワニ トラギスの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影 された奄美大島産の標本(NSMT-P 131130)のカ

Hata, H., T. Maekawa, K. Kuriiwa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. First record of Ryukyupercis gushikeni (Perciformes: Pinguipedidae) from the Satsunan Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima, 44: 17–20. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 7 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-005.pdf

ラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,お よび固定方法は本村(2009)に準拠した.本報告 に用いた標本は,国立科学博物館に保管されてい る.本報告中で用いられている研究機関略号は以 下の通り:NSMT -国立科学博物館;SMBL -京 都大学フィールド科学教育研究センター. 結果と考察 Ryukyupercis gushikeni (Yoshino, 1975) ワニトラギス (Fig. 1; Table 1) 標 本 NSMT-P 131130, 体 長 259.6 mm, 鹿 児 島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2017 年 4 月 10 日,前川隆則 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は細長く,前後方向に長 い円筒形.体背縁は背鰭起部にかけて緩やかに上 昇し,そこから背鰭第 10 軟条起部にかけて体軸 とほぼ平行となり,そこから背鰭基底後端にかけ て極めて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端か ら腹鰭起部にかけて極めて緩やかに下降し,そこ から臀鰭起部にかけて体軸とほぼ平行となり,そ こから臀鰭基底後端にかけて極めて緩やかに上昇 する.尾柄部においては体背縁,体腹縁ともに体 軸に平行.背鰭起部は胸鰭基底上端よりも僅かに 後方に,背鰭基底後端は臀鰭基底後端よりも僅か に前方に,それぞれ位置する.背鰭棘部と軟条部 は鰭膜によって連続し,背鰭背縁では棘部と軟条 部の間に欠刻がある.背鰭第 9 軟条よりも後方の 背鰭軟条は糸状に伸長する.腹鰭起部は鰓蓋後端 よりも前方に位置し,たたんだ腹鰭の後端は肛門 に達しない.腹鰭第軟条は第 4 軟条が最長.胸鰭

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Ryukyupercis gushikeni from Amami-oshima island, Satsunan Islands, Kagoshima Prefecture, Japan (NSMT-P 131130, 259.6 mm standard length).

基底上端は鰓蓋後端よりも僅かに後方に,胸鰭基

であるが,中央部で下方に凹む.胸鰭腹縁は直線

底下端は背鰭起部よりも僅かに後方にそれぞれ位

状.胸鰭後端は尖り,臀鰭起部よりも僅かに後方

置する.たたんだ胸鰭の背縁は前部で体軸と平行

に達する.臀鰭起部は背鰭第 5 軟条起部直下に位

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Ryukyupercis gushikeni. This study Yoshino (1975) Amami-oshima Okinawa-jima island, Okinawa Prefecture, island, Kagoshima Japan Prefecture, Japan NSMT-P 131130 SMBL F-7331 n=4 Holotype of Paratypes of Non-type specimen Parapercis Parapercis gushikeni gushikeni Standard length (SL; mm) 259.6 300.5 241.2–297.2 Counts Dorsal-fin spines 6 6 6 Dorsal-fin rays 20 20 20 Anal-fin spines 1 1 1 Anal-fin rays 18 18 18 Pectoral-fin rays 23 24 23–24 Pored lateral-line scales 58 60 58–59 Scale rows from base of first anal-fin ray to lateral line 14 13 12–14 Scale rows from anal opening obliquely backwards to lateral line 13 14 13–14 Circumpeduncle scales 28 29 28–29 Cheek scales 12 12 11–12 Measurements (%SL) Head length 25.5 26.2 25.3–26.1 Snout length 8.3 9.0 8.1–9.0 Orbit diameter 5.5 6.1 5.6–6.8 Interorbital width 4.8 5.7 5.2–5.8 Upper-jaw length 12.0 12.2 11.9–12.5 Caudal-peduncle depth 10.6 11.3 10.7–11.2 Body depth 19.6 21.9 17.1–20.9 Longest dorsal-fin spine length 10.4 9.6 10.6–11.1 Longest pectoral-fin ray length 25.7 25.3 24.2–25.5 Longest pelvic-fin ray length 17.8 17.9 15.6–17.9 Longest caudal-fin ray length 22.5 22.6 22.8–24.0 Dorsal-fin base length 64.7 62.2 63.2–66.2 Anal-fin base length 44.9 45.3 43.7–45.0

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Nature of Kagoshima Vol. 44

置する.尾鰭後縁は中央部が後方に突出し,後縁

さ れ て い る(Yoshino, 1975; 島 田,2013; Larson

上部と下縁はともに直線状.尾鰭上部は糸状に僅

et al., 2013; Fricke et al., 2014; Motomura et al.,

かに伸長する.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互

2017).日本国内においては沖縄島からのみ記録

いに近接し,眼の前縁前方に位置する.前鼻孔は

されていたが(Yoshino, 1975;島田,2013),本

正円形を呈し,後鼻孔は背腹方向にやや長い楕円

研究により奄美大島における分布が確認された.

形.眼と瞳孔はともに正円形を呈する.口裂は大

備考 奄美大島産の標本は,前鰓蓋骨後縁が

きく,体軸に対し斜めに位置し,上顎後端は瞳孔

強い鋸歯状を呈すること,鋤骨歯と口蓋骨歯が絨

後端直下に僅かに達しない.下顎は上顎よりも僅

毛状を呈すること,背鰭が 6 棘 20 軟条からなり,

かに前方に突出する.両顎歯,鋤骨歯,および口

背鰭棘部と軟条部の間に深い欠刻を有すること,

蓋骨歯は微小な円錐形で,絨毛状に密生する.上

背鰭棘は第 4 棘が最長であり,最後棘は鰭膜に

顎前部には左右 1 対の,下顎前部には左右 2 対の

よって背鰭第 1 軟条とつながること,胸鰭中央部

犬歯状歯がある.頭部を含む体は櫛鱗に被われる

の軟条と背鰭軟条が伸長すること,胸鰭が 23 軟

が,両顎,吻部,鰓蓋後部,峡部,および各鰭は

条であることなどが,Yoshino (1975) によって報

無鱗.側線は鰓蓋上方から始まり,尾鰭基底部中

告された Parapercis gushikeni および島田(2013)

央部にかけて体側中央部を体背縁とほぼ平行には

によって報告された Ryukyupercis gushikeni の標徴

いる.鰓蓋上部には棘がある.前鰓蓋骨後縁は鋸

によく一致したため,本種に同定された.

歯状を呈し,下縁は円滑.鰓蓋骨後縁は円滑.

Yoshino (1975) はワニトラギスの標徴の一つと

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側中部に

して下顎前部に左右で 4 対の犬歯状歯があること

かけては桃色がかった赤色を呈し,体側下部から

を述べたが,奄美大島産の標本は下顎前部に左右

体腹面は白色.体側には瞳孔径よりも細い黄色縦

で 2 対の犬歯状歯をそなえる.しかし,Yoshino

帯が多数ある.眼から吻部にかけては瞳孔径とほ

(1975) はワニトラギスの多くの個体において 1 本

ぼ同じ幅の黄色斜帯がある.眼の後方に黄色斜帯

または 2 本の犬歯状歯が脱落していると述べてお

が 2 本ある.背鰭各棘は黄色を呈し,各棘間の鰭

り,奄美大島産の標本と Yoshino (1975) によって

膜は縁辺部が黄色を呈し,基底部付近では白色が

報告されたワニトラギスにみられた下顎の犬歯状

かる.背鰭各軟条は基底部付近で明るい黄色を呈

歯の数の差異については,種内変異と判断した.

し,中央部で桃色.背鰭軟条部の縁辺は前部で黄

Ryukyupercis gushikeni は Yoshino (1975) に よ っ

色を呈し,後部で白色.背鰭軟条部下部には桃色

て Parapercis gushikeni として沖縄島近海から得ら

に縁取られた,瞳孔径よりも幅の狭い黄色縦帯が

れた 5 個体に基づき記載された.その後,本種の

2 本ある.背鰭各軟条間の鰭膜は白色を呈し,桃

国内における分布は沖縄島からのものに限られ

色に縁取られた黄色斑が多数ある.腹鰭は桃色を

(島田,2013),薩南諸島を含む琉球列島各地にお

呈し,基底部付近の鰭膜は黄色.縁辺部は白色が

ける沖縄島以外からの分布報告はない.したがっ

かる.胸鰭は淡い桃色を呈し,基底部付近は黄色.

て,本研究の記載標本は本種の薩南諸島における

臀鰭は白色を呈し,下部に赤色帯がある.臀鰭各

標本に基づく初めての記録となり,同時に本種の

軟条下部には黄色斑が 1 つずつある.臀鰭各軟条

分布の北限をおよそ 150 km 更新した.

間の鰭膜の基底部には小黄色斑が各 1 つある.尾 鰭は赤色がかった白色を呈し,瞳孔よりも小さい 赤色斑点が散在する.虹彩は黄色を呈し,瞳孔は 青みがかった黒色.

謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類

分布 日本,インドネシア・スラウェシ島,フィ

学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本

リピン・パナイ島,パプアニューギニア・マダン,

の作製・撮影に際しては鹿児島大学総合研究博物

およびオーストラリア北西岸における分布が確認

館の森下悟至氏に多大なご協力を頂いた.以上の

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Nature of Kagoshima Vol. 44

方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は鹿児島 大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性 調査プロジェクト」の一環として行われた.本研 究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹 川 科 学 研 究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費 (19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Fricke, R., Allen, G. R., Andréfouët, S., Chen, W.-J., Hamel, M. A., Laboute, P., Mana, R., Tan, H. H. and Uyeno, D. 2014. Checklist of the marine and estuarine fishes of Madang District, Papua New Guinea, western Pacific Ocean, with 820 new records. Zootaxa 3832 (1): 1–247 日比野友亮・本村浩之・木村清志.2013.鹿児島県与論 島から得られた日本初記録のホムラトラギス(新称) Parapercis randalli.魚類学雑誌,60: 129–134.

RESEARCH ARTICLES Imamura, H. and Yoshino, T. 2007. Ryukyupercis, a new genus of pinguipedid fish for the species Parapercis gushikeni (Teleostei: Perciformes) based on the phylogenetic relationships of the family. Bulletin of the Raffles Museum Supplement, 14: 93–100. Larson, H. K., Williams, R. S. and Hammer, M. P. 2013. An annotated checklist of the fishes of the Northern Territory, Australia. Zootaxa, 3696: 1–293. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. 2017. Ryukyupercis gushikeni (Yoshino 1975). P. 190 in Motomura, H., Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. eds. Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 荻原豪太・遠藤広光.2011.鹿児島県志布志沖から得られ たアマノガワクラカケトラギス(新称)Parapercis lutevittata(ワニギス亜目:トラギス科)の記録.日本生物 地理学会会報,66: 261–266. Shimada, K. 2002. Pinguipedidae. Pp. 1059–1064, 1586–1587 in Nakabo, T. ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. English edition. Tokai University Press, Tokyo. 島 田 和 彦.2013. ト ラ ギ ス 科.Pp. 1258–1264, 2088–2091. 中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版. 東海大学出版会,秦野. Yoshino, T. 1975. Parapercis gushikeni, a new mugiloid fish from the Ryukyu Islands. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 22 (5): 343–346. 吉野哲夫.1984.ワニトラギス.P. 279, pl. 361-F.益田 一・ 尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本 産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られた薩南諸島初記録および北限記録の イトヨリダイ科魚類ジャバイトヨリ 1

2

3

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・栗岩 薫 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに イトヨリダイ科イトヨリダイ属のジャバイト ヨリ Nemipterus tambuloides (Bleeker, 1853) は,ア ンダマン海から日本,フィリピン,インドネシア に か け て の イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る (Russell, 1990, 2001;藍澤・土居内,2013).本種 はタイ国においては釣りや底曳網によって通年大 量に漁獲されるものの(Russell, 1990, 2001),日 本国内における記録は乏しく,西表島からのもの に限られていた(藍澤・土居内,2013). 近年,奄美大島における魚類相調査の過程で, 2 個体のジャバイトヨリが採集された.これらの 標本は鹿児島県における本種の標本に基づく初め ての記録となると同時に,分布の北限を更新する ものとなるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947) に概 ねしたがい,体高,眼下骨幅,および頬部鱗列数 は Russell (1990) にしたがった.標準体長は体長 と表記し,体各部の計測はデジタルノギスを用い Hata, H., T. Maekawa, K. Kuriiwa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. First records of Nemipterus tambuloides (Perciformes: Nemipteridae) from the Satsunan Islands, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 21–25. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 7 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-006.pdf

て 0.1 mm までおこなった.ジャバイトヨリの生 鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された奄美大 島産の 1 標本(NSMT-P 118502)のカラー写真に 基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定方 法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標 本は,国立科学博物館に保管されている.本研究 における研究機関略号は以下の通り:FRLM -三 重大学大学院生物資源学研究科附属水産実験所; KAUM -鹿児島大学総合研究博物館;NSMT - 国立科学博物館. 結果と考察 Nemipterus tambuloides (Bleeker, 1853) ジャバイトヨリ (Fig. 1) 標本 2 個体(体長 138.4–182.7 mm):NSMT-P 118502,体長 138.4 mm,鹿児島県奄美大島瀬戸 内町久根津,2013 年 12 月 14 日,釣り,中江雅典・ 千 葉 悟;NSMT-P 131155, 体 長 182.7 mm, 鹿 児島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2017 年 5 月 8 日,前川隆則. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円 形で,側扁する.体背縁は吻端から背鰭起部にか けて緩やかに上昇し,そこから尾鰭基底上端にか けて極めて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端 から肛門にかけて緩やかに下降し,そこから尾鰭 基底下端にかけて緩やかに上昇する.胸鰭基底上 端は鰓蓋後端よりも僅かに後方に,胸鰭基底下端 は背鰭起部よりも前方にそれぞれ位置する.胸鰭

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Nemipterus tambuloides. NSMT-P 118502, 138.4 mm standard length, Amami-oshima island, Amami Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

後端は尖る.背鰭起部は胸鰭基底上端よりも後方

顎前部には 3 対の牙状歯がある.下顎には小円錐

に位置し,背鰭基底後端は臀鰭基底後端よりも後

歯が 1 列に並ぶ.

方に位置する.背鰭第 1 軟条起部は臀鰭起部直上

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部に

に位置する.背鰭棘間の鰭膜は殆ど切れ込まない.

かけては桃色を呈し,体側中央から体腹面にかけ

背鰭第 1 棘と第 2 棘は近接せず,いずれも糸状に

ては銀白色.側線下方の体側中央部から体側下部

伸長しない.腹鰭起部は背鰭第 2 棘起部直下に,

にかけて瞳孔よりも細い黄色縦帯が 4 本あり,上

腹鰭基底後端は背鰭第 3 棘起部よりも僅かに後方

方の 2 本は明瞭,下方の 2 本は不明瞭である.体

にそれぞれ位置する.たたんだ腹鰭棘の後端は背

腹縁は黄色に縁取られる.背鰭は淡い桃色を呈し,

鰭第 5 棘起部よりも後方に達する.腹鰭第 1 軟条

上縁は黄色.背鰭上部に瞳孔よりも細い 1 黄色縦

は僅かに糸状に伸長し,たたんだ腹鰭の後端は肛

帯がある.尾鰭は淡い桃色を呈し,基底部付近は

門よりも僅かに後方に達する.腹鰭は前後方向に

黄色.尾鰭上縁は明るい黄色.腹鰭,臀鰭,およ

細長い腋鱗をそなえる.臀鰭起部は背鰭第 1 軟条

び胸鰭はともに白色半透明を呈し,胸鰭軟条は淡

起部直下に,臀鰭第 1 軟条起部は背鰭第 2 軟条起

い桃色.頭部は桃色を呈し,眼の後方,上顎下縁,

部よりも僅かに後方に,それぞれ位置する.臀鰭

主上顎骨,および前鰓蓋骨後縁と鰓蓋後縁の間は

基底後端は背鰭第 8 軟条起部直下に位置する.尾

いずれも黄色.瞳孔は青みがかった黒色を呈し,

鰭は二叉形で深く湾入し,上葉は下葉よりも長い.

虹彩は桃色がかった金色.

尾鰭両葉後端はともに尖るが,糸状に伸長しない.

分布 アンダマン海,マラッカ海峡,フィリ

肛門は前後方向に長い楕円形.体は櫛鱗に被われ

ピン,タイ湾,南シナ海,インドネシア,および

るが,吻部,眼の周囲,下顎腹面は無鱗.背鰭前

日 本 か ら 記 録 が あ る(Russell, 1990, 2001;

方鱗の被鱗域の先端は楔形をなし,両眼の中央を

Matsunuma, 2011, 2013; 藍 澤・ 土 居 内,2013).

結んだ線に達する.眼と瞳孔はともに前後方向に

日本国内においては西表島からのみ記録されてい

僅かに長い楕円形.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔

たが(木村,1993;藍澤・土居内,2013),本研

は互いに近接し,眼の前縁前方に位置する.両鼻

究において,奄美大島近海における分布が確認さ

孔はともに正円形.口は小さく端位で,上顎後端

れた.

は眼の先端よりも後方に達するが,瞳孔先端には

備考 奄美大島産の標本は,眼下骨に鱗と棘

達しない.上顎には数列の小円錐歯が密生し,上

を欠き,牙状歯を上顎前部にのみ有する,側頭部

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Nature of Kagoshima Vol. 44

が被鱗し,背鰭前方鱗の被鱗域の先端が両眼の中

歯のみがあること,眼窩骨後縁と下縁のなす角が

央を結んだ線に達する,および頬部鱗列数が 3 で

鈍角であること,背鰭鰭膜が切れ込まず,かつ背

あ る こ と な ど が Lee (1986), Russell (1990, 2001),

鰭各棘が糸状に伸長しないこと,腹鰭後端が肛門

お よ び Shen(1993) に よ っ て 定 義 さ れ た

に達するが臀鰭起部に達しないこと,尾鰭上葉後

Nemipterus 属の特徴と一致した.また,上顎前部

端が尖り糸状に伸長しないこと,生鮮時には,体

に 3 対の犬歯状歯をもち,下顎には 1 列の円錐状

腹縁に黄色縦帯があること,背鰭縁辺が黄色であ

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Amami-oshima specimens of Nemipterus tambuloides. Amami-oshima island, Ryukyu Islands, Japan NSMT-P 118502 NSMT-P 131155 Standard length (SL; mm) 138.4 182.7 Counts Dorsal-fin spines 10 10 Dorsal-fin rays 9 9 Anal-fin spines 3 3 Anal-fin rays 7 7 Pectoral-fin rays 17 16 Pelvic-fin spines 1 1 Pelvic-fin rays 5 5 Pored lateral-line scales 48 48 Scale rows above lateral line 4 4 Scale rows below lateral line 10 10 Cheek scales 3 3 Gill rakers 5 + 8 = 13 6 + 8 = 14 Measurements (%SL) Body depth 28.8 29.1 Head length 30.4 29.0 Snout length 9.9 10.1 Orbit diameter 8.6 7.1 Interorbital width 5.5 4.9 Suborbital depth 3.7 4.2 Caudal-peduncle length 20.5 20.9 Caudal-peduncle depth 9.8 9.1 Dorsal-fin base length 51.9 52.8 Upper-jaw length 11.3 11.7 Mandible length 13.3 13.6 Pre-dorsal-fin length 34.4 32.6 Pre-anal-fin length 65.7 61.9 Pectoral-fin length 25.0 25.4 Pelvic-fin length 23.6 24.3 Pelvic-fin spine length 14.7 14.1 Anal-fin base length 17.8 18.9 Postorbital length 13.4 13.2 1st dorsal-fin spine length 10.6 10.7 2nd dorsal-fin spine length 11.4 12.8 3rd dorsal-fin spine length 11.2 11.8 4th dorsal-fin spine length 11.1 10.5 5th dorsal-fin spine length 11.7 10.3 6th dorsal-fin spine length 11.8 11.6 7th dorsal-fin spine length 11.7 11.8 8th dorsal-fin spine length 11.5 12.4 9th dorsal-fin spine length 12.1 11.2 10th dorsal-fin spine length 11.9 11.1 1st anal-fin spine length 4.3 4.7 2nd anal-fin spine length 8.3 7.8 3rd anal-fin spine length 9.7 broken

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Nature of Kagoshima Vol. 44

ること,および尾鰭が桃色を呈して上端が明るい 黄色であることなどが,Russell (1990, 2001) や藍 澤・ 土 居 内(2013) に よ り 報 告 さ れ た N. tambuloides の標徴とよく一致したため,本種と 同定された.

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リピン・パナイ島・イロイロ沖. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類

Russell (1990, 2001) と藍澤・土居内(2013)は N.

学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本

tambuloides の標徴として,生時,体側に 5 本の

の採集に際しては国際水産資源研究所の千葉 悟

黄色縦帯があり,そのうち 1 本は側線上方にある

博士に多大なご尽力を賜った.標本の作製・撮影

ことを挙げた.しかし,本研究において生鮮時の

に際しては鹿児島大学総合研究博物館の森下悟至

色彩に関して記載をおこなった個体(NSMT-P

氏に多大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで

118502)では,体側に確認された黄色縦帯は 4 本

感謝の意を表する.本研究は鹿児島大学総合研究

のみであり,側線よりも上方の体側に黄色縦帯が

博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ

確認されなかった.藍澤・土居内(2013)による

クト」の一環として行われた.本研究の一部は

と黄色縦帯の識別形質としての有効性は生時にの

JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹川科学研究

み認められるものとされ,さらに,木村(1993)

助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費(19770067,

や Matsunuma (2011, 2013) に よ っ て 示 さ れ た N.

23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS

tambuloides の写真において,側線上方の黄色縦

研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基

帯は不明瞭である.したがって,本種の側線上方

盤形成型,国立科学博物館「日本の生物多様性ホッ

の黄色縦帯は個体によって不明瞭な場合がある,

トスポットの構造に関する研究プロジェクト」,

あるいは死後に不明瞭化または消失すると推測さ

文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とそ

れる.

の保全に関する教育研究拠点整備」,および鹿児

Nemipterus tambuloides は木村(1993)により, 西表島船浮湾の水深 35 m の泥底から得られた体 長 193.4 mm の 1 個体(FRLM 10681)に基づき, 日本から初めて報告された.その後,日本国内に おける本種の記録はなく(藍澤・土居内,2013), 薩南諸島を含む鹿児島県内のイトヨリダイ科魚類 相を報告した藤原ほか(2014)にも記録されてい ない.したがって,本研究の記載標本は鹿児島県 におけるジャバイトヨリの初めての記録となると 同時に,本種の分布の北限を約 700 km 更新する. 比 較 標 本 KAUM–I. 12184, 体 長 168.5 mm, マレーシア・サバ州・コタキナバル沖;KAUM–I. 17132,体長 110.2 mm,マレーシア・トレンガヌ 州・ ク ア ラ ト レ ン ガ ヌ, 底 曳 網;KAUM–I. 32968,体長 146.8 mm,タイ王国チャンタブリ県 沖, 底 曳 網;KAUM–I. 44196, 体 長 124.5 mm, タ イ 湾;KAUM–I. 85377, 体 長 124.8 mm, フ ィ リ ピ ン・ ル ソ ン 島・ リ ン ガ エ ン 湾;KAUM–I. 98480, 体 長 148.1 mm, KAUM–I. 98481, 体 長 154.0 mm, KAUM–I. 98524,体長 124.8 mm,フィ

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島大学重点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロ ジェクト)学長裁量経費の援助を受けた. 引用文献 藍澤正宏・土居内 龍.2013.イトヨリダイ科.Pp. 946– 954, 2011–2013.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全 種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 藤原恭司・畑 晴陵・本村浩之.2014:標本に基づく鹿児 島県のイトヨリダイ科魚類相.Nature of Kagoshima, 40: 9–67. Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, 26: i–xi + 1–186. 木村清志.1993.日本初記録のイトヨリダイ属魚類.伊豆 海洋公園通信,4 (8): 2–3. Lee, S.-C. 1986. Fishes of the family Nemipteridae (Teleostei: Percoidei) of Taiwan. Bulletin of the Institute of Zoology, Academia. Sinica, 25: 161–175. Matsunuma, M. 2011. Nemipterus tambuloides (Bleeker, 1853). P. 129 in Matsunuma, M., Motomura, H., Matsuura, K., Shazili, N. A. M. and Ambak, M. A., eds. Fishes of Terengganu – east coast of Malay Peninsula, Malaysia. National Museum of Nature and Science, Tokyo, Universiti Malaysia Terengganu, Terengganu, and Kagoshima University Museum, Kagoshima.


RESEARCH ARTICLES Matsunuma, M. 2013. Nemipterus tambuloides (Bleeker, 1853). P. 146 in Yoshida, T., Motomura, H., Musikasinthorn, P. and Matsuura, K., eds. Fishes of northern Gulf of Thailand. National Museum of Nature and Science, Tsukuba, Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto, and Kagoshima University Museum, Kagoshima. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

Nature of Kagoshima Vol. 44 Russell, B. C. 2001. Nemipteridae. Pp. 3051–3089, pls. XX– XXIV in Carpenter, K. E. and Niem, V. H., eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 5, Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. Shen, S.-C. 1993. Fishes of Taiwan. Department of Zoology, National Taiwan University, Taipei. 960 pp.

Russell, B. C. 1990. FAO species catalogue. Nemipterid fishes of the world (thread fin breams, whiptail breams, monocle breams, dwarf monocle breams and coral breams). Family Nemipteridae. An annotated and illustrated catalogue of the nemipterid species known to date. FAO Fisheries Synopsis 125, 12: i–v + 1–149 + pls. 1–8.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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RESEARCH ARTICLES


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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたアジ科魚類 3 種: ミナミギンガメアジ,オニアジ,およびホソヒラアジ 1

2

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに アジ科魚類は日本近海に 61 種が分布すること が知られ(宮本ほか,2011;瀬能,2013;岩坪ほか, 2016),そのうち鹿児島県内においてはクボアジ Atropus atropus (Bloch and Schneider, 1801),ヨロイ アジ Carangoides armatus (Rüppell, 1830),コガネ アジ C. bajad (Forsskål, 1775),アンダマンアジ C. gymnostethus (Cuvier, 1833), キ イ ヒ ラ ア ジ C. uii (Wakiya, 1924),オオクチイケカツオ Scomberoides commersonnianus Lacepède, 1801, テ ル メ ア ジ Selar boops (Cuvier, 1833),ホソヒラアジ Selaroides leptolepis (Cuvier, 1833),およびコガネマルコバン Trachinotus mookalee Cuvier, 1832 の 9 種を除く 52 種 の 分 布 が 確 認 さ れ て い た(Motomura et al., 2007, 2010;北,2007;財団法人鹿児島市水族館 公 社,2008; 瀬 能,2013; 畑,2013; 武 内, 2014;畑ほか,2015;Motomura et al., 2016;鏑木, 2016;岩坪ほか,2016;畑・本村,2016, 2017a–c; Motomura and Harazaki, 2017; Koeda et al., 2017;畑, 2017). Hata, H., T. Maekawa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. Records of three species of carangids (Perciformes: Carangidae), Caranx tille, Megalaspis cordyla, and Selaroides leptolepis, from Amami-oshima island, Amami Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima, 44: 27–35. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 7 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-007.pdf

奄美大島における魚類相調査の過程において, これまで奄美群島における分布記録のなかったミ ナミギンガメアジ Caranx tille Cuvier, 1833,オニ ア ジ Megalaspis cordyla (Linnaeus, 1758), お よ び ホソヒラアジが採集された.前者 2 種は奄美群島, ホソヒラアジは鹿児島県における標本に基づく初 めての記録となるため,ここに報告する. 材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は Smith-Vaniz and Carpenter (2007) にしたがった.標準体長は体長と表記し, 体各部の計測はノギスを用いて 0.1 mm までおこ なった.ミナミギンガメアジ,オニアジ,および ホソヒラアジの生鮮時の体色の記載は,固定前に 撮影された奄美大島産標本(記載標本の項目を参 照)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録, 撮影,および固定方法は本村(2009)に準拠した. 本報告に用いた標本は,国立科学博物館に収蔵さ れている.本報告に用いた研究機関略号は以下の 通 り:KAUM - 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館; NSMT -国立科学博物館;URM– 沖縄美ら島財 団総合研究センター;YCM -横須賀市自然・人 文博物館. 結果と考察 Caranx tille Cuvier, 1833 ミナミギンガメアジ(Fig. 1; Table 1) 標 本 NSMT-P 131368, 体 長 573.0 mm, 鹿 児 島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2016 年 10

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Fig. 1. Fresh specimen of Caranx tille. NSMT-P 131368, 573.0 mm standard length, Amami-oshima, Kagoshima Prefecture, Japan.

月 28 日,前川隆則.

も僅かに後方にそれぞれ位置する.臀鰭第 1 棘起

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

部は第 2 背鰭第 4 軟条起部直下に位置する.背鰭

を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長卵型

および臀鰭の後方に小離鰭がない.尾鰭は二叉形

で強く側扁し,体高は第 2 背鰭起部で最大.体背

で湾入する.第 2 背鰭と臀鰭は鎌状を呈し,それ

縁は上顎先端から項部にかけて急に上昇し,そこ

ぞれの前部は伸長する.肛門は正円形を呈し,臀

から第 2 背鰭起部にかけて緩やかに上昇する.第

鰭遊離棘起部の前方に位置する.鰓蓋および前鰓

2 背鰭基底部の体背縁は緩やかに下降する.眼の

蓋骨の後縁は円滑.口裂は大きく,上顎後端は眼

前方の体背縁は前方に突出する.体腹縁は下顎先

の後端よりも後方に達する.体は細かい円鱗に被

端から腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そこか

われ,胸部は完全に被鱗するが,吻部,下顎,主

ら肛門前方にかけて直線状を呈し,体軸とほぼ平

上顎骨,および胸鰭基底部の内側は無鱗.眼およ

行となる.さらにその後,体腹縁は臀鰭前方の遊

び瞳孔はともに正円形.眼は厚い脂瞼に被われ,

離棘起部にかけて上昇し,そこから臀鰭起部にか

脂瞼の開口部は半月形.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後

けて下降する.臀鰭基底部における体腹縁は緩や

鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方に位置する.

かに上昇する.尾柄部は体背縁,体腹縁ともに直

前鼻孔と後鼻孔はともに背腹方向に細長く,ス

線状を呈し,体軸と並行.胸鰭基底上端は鰓蓋後

リット状.鰓耙は細長く棒状で,先端は丸い.擬

端よりも僅かに後方,胸鰭基底下端は腹鰭第 2 軟

鰓を有する.下顎は上顎よりも僅かに前方に突出

条起部直上にそれぞれ位置する.胸鰭は鎌状を呈

する.吻端は鈍い.上顎骨の外側には鋭い円錐歯

し,上縁は緩やかに上方に凸の弧を描き,下縁は

が 1 列に等間隔に並び,その内側には小円錐歯が

前部において下方に膨らみ,後部において上方に

密生する.下顎には鋭い円錐歯が 1 列に並ぶ.鋤

凹む.胸鰭後端は尖り,臀鰭第 6 軟条起部直上に

骨および口蓋骨には細かい粒子状歯が密生する.

達する.腹鰭起部は胸鰭基底上端よりも僅かに前

側線は完全で,鰓蓋上方から始まり,第 2 背鰭起

方,腹鰭基底後端は胸鰭基底後端よりも僅かに後

部直下で急に下降し,その後尾柄にかけて直走す

方にそれぞれ位置する.たたんだ腹鰭の後端は背

る.側線の直走部には固く鋭い稜鱗が発達する.

鰭第 5 棘起部直下に僅かに達しない.第 1 背鰭起

尾柄部に前後方向に走る小さい 2 本の隆起線があ

部は腹鰭基底後端よりも僅かに後方に位置する.

る.

第 2 背鰭起部は臀鰭第 2 遊離棘基底後端よりも僅

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色を呈

かに後方,第 2 背鰭基底後端は臀鰭基底後端より

し,体背面から体側上部にかけては淡い緑色がか

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

る.尾柄部背面は暗緑色.稜鱗は灰白色.鰓蓋上

2013; Chiang et al., 2014; Chen and Zhang, 2015).

部に瞳孔より僅かに小さい黒色斑がある.第 1 背

日本国内においては,山口県下関,鹿児島県薩摩

鰭と第 2 背鰭はともに暗灰色を呈し,第 2 背鰭の

半島西岸,大隅半島東岸,大隅諸島種子島,およ

基底部では黄色がかる.腹鰭は一様に白色.胸鰭

び沖縄島から記録されており(瀬能,2013;畑・

は黄色がかった灰色.臀鰭は黄色がかった灰白色

本村,2017a),本研究により,奄美大島における

を呈し,伸長した前部の下縁は白色に縁取られる.

分布も確認された.

尾鰭の上葉と下葉はそれぞれ黒色と黄色を呈し,

備考 奄美大島産の標本は,背鰭と臀鰭の後

後縁はともに黒色.虹彩は金色を呈し,瞳孔は青

方に小離鰭がないこと,側線の直走部に稜鱗が発

みがかった黒色.

達すること,第 1 背鰭が第 2 背鰭よりも低いこと,

分布 南アフリカからタンザニア・ザンジバ

上顎骨の外側に鋭い円錐歯が 1 列に等間隔に並

ルにかけてのアフリカ東岸,マダガスカル,スリ

び,小円錐歯がそれらの内側に密生すること,下

ランカと,日本,台湾,グアム,フィリピン,イ

顎には 1 列に鋭い円錐歯が並ぶことなどが

ンドネシア,パプアニューギニア,オーストラリ

Gushiken (1983) や Smith-Vaniz (1999),Lin and

ア 北 岸, お よ び フ ィ ジ ー か ら 報 告 さ れ て い る

Shao (1999) によって定義された Caranx 属の標徴

(Oshima, 1925; Smith-Vaniz, 1999; Lin and Shao,

とよく一致した.また,胸部が完全に小鱗におお

1999; Iwatsuki et al., 2000; Kimura et al., 2003;瀬能,

われること,側線直走部に発達する稜鱗が灰白色

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Amami-oshima specimens of Caranx tille, Megalaspis cordyla, and Selaroides leptolepis. Registration number (NSMT-P) Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin rays Dorsal finlets Anal-fin rays Anal finlets Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays Gill rakers Scutes on straight part of lateral line Measurements (%SL) Pre-dorsal-fin length First dorsal-fin base length Second dorsal-fin base length Anal-fin base length Snout to pectoral-fin insertion Snout to pelvic-fin insertion Snout to anal-fin origin Pelvic-fin insertion to anal-fin origin Snout to anus Caudal-peduncle length Body depth Pectoral-fin length Pelvic-fin length Length of second spine of first dorsal fin First anal-fin spine length Snout length Upper-jaw length Postorbital head length Interorbital width

Caranx tille 131368 573.0

Megalaspis cordyla 131037 437.6

Selaroides leptolepis 131152 161.1

VIII-I, 21 0 II-I, 18 0 20 I, 5 5 + 14 33

VIII-I, 9 9 II-I, 9 6 21 I, 5 6 + 20 52

VIII-I, 24 0 II-I, 20 0 20 1, 5 damaged 29

36.4 16.0 38.0 31.7 29.3 29.7 57.9 29.7 42.9 15.7 28.2 35.3 11.7 6.5 4.6 7.9 12.7 18.8 5.1

32.9 12.2 14.5 13.6 24.9 28.9 50.0 22.7 44.1 9.9 28.0 38.0 11.9 9.7 5.2 7.2 10.4 13.5 7.9

35.3 14.7 43.6 39.3 26.2 33.1 56.9 25.7 41.0 8.7 31.7 29.2 10.6 10.2 5.3 8.6 11.0 10.8 7.4

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 2. Fresh specimen of Megalaspis cordyla. NSMT-P 131037, 437.6 mm standard length, Amami-oshima, Kagoshima Prefecture, Japan.

を呈すること,上顎後端が瞳孔後縁よりも後方

島県奄美大島宇検村(名瀬漁港で購入),2017 年

に達すること,吻端が鈍く,眼の前方の頭部背

7 月 7 日,前川隆則.

縁が突出すること,鰓蓋上部に瞳孔よりも僅か

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合を

に小さい黒色斑があることなどが Gushiken (1983)

Table 1 に示した.体は前後方向に長い長卵形を

や Smith-Vaniz (1999),瀬能(2013)の報告した C.

呈し,尾柄部は細長い円筒形.体背縁は吻端から

tille の標徴とよく一致したため,本種と同定され

第 2 背鰭起部にかけて緩やかに上昇し,そこから

た.

尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降する.体腹縁

ミナミギンガメアジの日本国内における分布

は下顎先端から肛門付近にかけて緩やかに下降

状況は,畑・本村(2017a)に詳述されている.

し,そこから尾鰭基底下端にかけて上昇する.胸

その後,本種の日本国内における分布報告はな

鰭基底上端は鰓蓋後端よりも後方に,基底下端は

く,記載標本は奄美群島における本種の初めて

腹鰭第 1 軟条起部直上にそれぞれ位置する.胸鰭

の記録となる.本種は体長 69 cm に達することが

は鎌状を呈し,上縁は緩やかに上方に凸の弧を描

知られるが(Smith-Vaniz, 1999),日本国内にお

き,下縁は前部において下方に膨らみ,後部にお

ける本種の成魚の記録は少なく,標本に基づく

いて上方に凹む.胸鰭後端は尖り,臀鰭第 7 軟条

ものでは具志堅(1984)が沖縄島中城湾から得

起部直上に僅かに達しない.腹鰭起部は胸鰭基底

られた体長 639 mm の 1 個体(URM-P 3303)を

上端よりも僅かに後方に,腹鰭基底後端は胸鰭基

報告したものに限られる(瀬能,2013).鹿児島

底後端よりも僅かに後方にそれぞれ位置する.た

県以北における本種の記録は体長 31 cm 未満のも

たんだ腹鰭の後端は背鰭第 5 棘起部直下に僅かに

のに限られていた(北,2007;瀬能,2013;畑・

達しない.第 1 背鰭起部は腹鰭基底後端よりも僅

本 村,2017a). 本 研 究 に 用 い た 個 体 の 体 長 は

かに後方に位置する.第 2 背鰭起部は臀鰭第 1 遊

573.0 mm と大きく,成魚であると考えられる.

離棘基底後端よりも僅かに前方に位置する.臀鰭

よって,本報告は本種の成魚の出現記録の北限

第 1 棘起部は第 2 背鰭第 5 軟条起部直下に位置す

と考えられる.

る.背鰭の後方の体背縁に 8 個の,臀鰭後方の体 腹縁に 6 個の小離鰭がある.背鰭と臀鰭の後方の

Megalaspis cordyla (Linnaeus, 1758)

小離鰭はいずれも等間隔に並ぶが,体腹縁の小離

オニアジ(Fig. 2; Table 1)

鰭の後方から 4 番目と 5 番目の間隔は他の間隔と 比べて大きい.尾鰭は二叉形で湾入する.第 2 背

標 本 NSMT-P 131037, 体 長 437.6 mm, 鹿 児

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鰭と臀鰭は鎌状を呈し,それぞれの前部は伸長す


RESEARCH ARTICLES

る.肛門は正円形を呈し,臀鰭遊離棘起部の前方

Nature of Kagoshima Vol. 44

備考 奄美大島産の標本は,小離鰭が背鰭後

に位置する.鰓蓋および前鰓蓋骨の後縁は円滑.

方の体背縁に 8 個および臀鰭後方の体腹縁に 6 個

上顎後端は眼の中心よりも前方に位置する.体は

あること,側線直走部にのみ幅広い稜鱗が発達す

細かい円鱗に被われるが,頭部は無鱗.眼と瞳孔

ること,肩帯後縁がなめらかであること,腹鰭起

はともに正円形.眼は厚い脂瞼に被われる.鼻孔

部が胸鰭基底上端よりも僅かに後方することなど

は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前

が Gushiken (1983) や Smith-Vaniz (1999), 瀬 能

縁前方に位置する.前鼻孔と後鼻孔はともに背腹

(2013)で報告された M. cordyla の標徴とよく一

方向に細長い楕円形.鰓耙は細長く棒状で,先端 は丸い.擬鰓を有する.下顎は上顎よりも僅かに

致したため,本種と同定された. オ ニ ア ジ は 青 森 県 佐 井 村 牛 滝( 塩 垣 ほ か,

前方に突出する.吻端は尖る.肩帯後縁は滑らか.

2004),新潟県糸魚川市能生,佐渡ヶ島(本間ほか,

両顎と口蓋骨には小円錐歯が密生する.側線は完

1984),富山県氷見市,射水市新湊(津田,1973)

全で,鰓蓋後方から始まり,第 1 背鰭起部直下付

兵庫県新温泉町浜坂(鈴木・宇野,1993;鈴木ほ

近にかけて上昇し,そこから第 1 背鰭基底後端直

か,2000),東京湾(石川,2010),神奈川県三浦

下にかけて体側正中線付近へと急激に下降し,そ

市三戸(山田,1991),三重県(木村,1997b)志

こから尾柄部にかけて体側正中線上を直走する.

摩町片田湾,御座,熊野市二木島(片岡・富田,

側線直走部にのみ幅広い稜鱗が発達し,中央部は

1981; 鈴 木・ 片 岡,1997), 熊 野 灘(Suzuki,

隆起する.

1962),和歌山県(Gushiken, 1983),和歌山県南

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色を呈

部(望月,1995;池田・中坊,2015),鹿児島県

し,体背面から体側上部にかけては黒色.鰓蓋後

南さつま市笠沙町,肝付町高山,内之浦湾(財団

部には不明瞭な黒色斑がある.下顎上部は黒色.

法人鹿児島市水族館公社,2008),沖縄島中城湾(三

第 1 背鰭の各棘は黒みがかった灰色を呈し,各棘

浦,2012),那覇(Gushiken, 1983),および東シ

間の鰭膜は灰色.第 2 背鰭の前縁は黒色を呈し,

ナ海北部(山田ほか,2007)など,日本国内の広

各鰭条は灰色.胸鰭は灰色を呈し,上縁と後部で

域から報告されている.しかし,本種の薩南諸島

は黒色を,下部では白色をそれぞれ呈する.腹鰭

における記録はなく,同地域の魚類相を扱った

は白色を呈し,前部では前縁を除いて灰色.臀鰭

Motomura et al. (2010, 2016), 本 村 ほ か(2013),

は白色を呈し,腹側の各遊離鰭は灰色.尾鰭は黒

本村・松浦(2014),鏑木(2016),Motomura and

みがかった灰色を呈し,基底部付近ではくすんだ

Harazaki (2017),Koeda et al. (2017) お よ び 岩 坪・

桃色.

本村(2017)にも記録されていない.したがって,

分布 アフリカ東岸から日本,フィジーにか けてのインド・西太平洋に広く分布する(Oshima,

記載標本は薩南諸島におけるオニアジの初めての 記録となる.

1925; Suzuki, 1962; Smith-Vaniz, 1999; Lin and Shao, 1999; Iwatsuki et al., 2000; Kimura, 2009, 2011,

Selaroides leptolepis (Cuvier, 1833)

2013a, 2017a; Chiang et al., 2014;瀬能,2013).日

ホソヒラアジ(Fig. 3; Table 1)

本国内においては津軽海峡,新潟県,富山県,兵 庫県日本海沿岸,山口県日本海沿岸,長崎県,鹿

標 本 NSMT-P 131152, 体 長 161.1 mm, 鹿 児

児島県薩摩半島西岸,相模湾から九州南岸にかけ

島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2016 年 9

ての太平洋沿岸,瀬戸内海,沖縄島,および東シ

月 18 日,前川隆則.

ナ海北部における分布が知られていたが(津田,

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

1973; Gushiken, 1983;三浦,2012;瀬能,2013),

を Table 1 に示した.体は前後方向に長い楕円形

本研究において奄美大島における分布が確認され

を呈し,側扁する.体背縁は吻端から第 2 背鰭起

た.

部にかけて緩やかに上昇し,そこから背鰭基底後

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 3. Fresh specimen of Selaroides leptolepis. NSMT-P 131152, 161.1 mm standard length, Amami-oshima, Kagoshima Prefecture, Japan.

端にかけて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端

眼は厚い脂瞼に被われ,脂瞼の開口部は半月形.

から腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そこから

鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼

臀鰭起部にかけて直線状を呈し,体軸と平行とな

の前縁前方に位置する.前鼻孔と後鼻孔はともに

る.臀鰭基底部における体腹縁は緩やかに上昇し,

背腹方向に長い楕円形.下顎は上顎よりも僅かに

尾柄部においては体背縁,体腹縁ともに体軸と平

前方に突出する.吻端は尖る.上顎には歯がない.

行となる.胸鰭基底上端は鰓蓋後端よりも僅かに

下顎には小円錐歯が 1 列に並ぶ.側線は完全で,

後方,胸鰭基底下端は腹鰭起部よりも僅かに前方

鰓蓋上方から始まり,第 2 背鰭基底中央部直下に

にそれぞれ位置する.胸鰭は鎌状を呈し,上縁は

かけて体背縁とほぼ平行にはしり,そこから体側

緩やかに上方に凸の弧を描き,下縁は前部におい

正中線に向かって下降し,尾柄部にかけて直走す

て下方に膨らみ,後部において上方に凹む.胸鰭

る.側線直走部後部には固い稜鱗が発達する.

後端は尖り,第 2 背鰭第 3 軟条起部直下に達する.

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色であ

腹鰭起部と腹鰭基底後端は何れも第 1 背鰭起部よ

り,体背面から体側上部にかけては青みがかる.

りも前方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は背鰭

鰓蓋後部に瞳孔より大きい黒色斑がある.眼の上

第 5 棘起部直下よりも僅かに後方に達する.第 2

方から尾柄上部にかけての体側中央部に眼径より

背鰭起部は臀鰭第 2 遊離棘基底後端よりも僅かに

も僅かに幅の狭い黄色縦帯がある.吻部と下顎先

後方,第 2 背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上にそ

端は黄色がかった茶褐色.背鰭は灰色半透明.第

れぞれ位置する.臀鰭第 1 棘起部は第 1 背鰭第 6

2 背鰭上縁は黄色.腹鰭と臀鰭は白色半透明.胸

棘起部よりも僅かに後方に位置する.背鰭および

鰭は透明に近く,胸鰭基底部付近は黄色がかる.

臀鰭の後方に小離鰭がない.尾鰭は二叉形で湾入

尾鰭は白色を呈し,上下両葉の中心部は鶯色.虹

する.肛門は正円形を呈し,臀鰭遊離棘起部の前

彩は金色を呈し,瞳孔は青色がかった黒色.

方に位置する.鰓蓋および前鰓蓋骨の後縁は円滑.

分布 ペルシャ湾からオーストラリア北岸,日

口裂は小さく,上顎後端は瞳孔前縁直下に達しな

本にかけてのインド・西太平洋に広く分布する

い.肩帯後縁は滑らか.体は細かい円鱗に被われ,

(Oshima, 1925; Suzuki, 1962;木村,1997a; Smith-

胸部は完全に被鱗するが,頭部は無鱗.背鰭前方

Vaniz, 1999; Lin and Shao, 1999; Kimura, 2011,

鱗被鱗域の先端は両眼の瞳孔の先端を結んだ線よ

2013b, 2017b;瀬能,2013).日本国内においては

りも前方に達する.眼および瞳孔はともに正円形.

相模湾,熊野灘,および沖縄島からのみ記録され

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

てきたが(瀬能,2013),本研究により,奄美大

の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整

島における分布も確認された.

備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物

備考 奄美大島産の標本は,上顎が無歯であ ること,肩帯後縁がなめらかであること,眼の上 方から尾柄上部にかけての体側に眼径よりも僅か に幅の狭い黄色縦帯があること,背鰭と臀鰭の後 方に小離鰭がないこと,眼が厚い脂瞼に被われる こと,および稜鱗が側線直走部後部にのみ発達す る こ と な ど が Gushiken (1983) や Smith-Vaniz (1999), 瀬 能(2013) に よ り 報 告 さ れ た S. leptolepis の標徴とよく一致したため,本種と同 定された. ホソヒラアジの日本国内における記録は極め て少なく,Suzuki (1962) が熊野灘から得られた全 長 124.0 mm の 1 個体を報告したものと Gushiken (1983) が沖縄島から得られた体長 111–176 mm の 4 個体を報告したもの,および萩原・木村(2005) が千葉県館山湾波左間から定置網によって 2003 年 5 月 に 得 ら れ た 体 長 42.1 mm の 1 個 体 (YCM-P39895)を報告したもののみに限られる. したがって,本研究の記載標本はホソヒラアジの 鹿児島県における標本に基づく初めての記録とな る. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類 学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本 の作製・撮影に際しては国立科学博物館の篠原現 人博士,栗岩 薫博士ならびに鹿児島大学総合研 究博物館の森下悟至氏に多大なご協力を頂いた. 以上の方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は 鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の 多様性調査プロジェクト」の一環として行われた. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 296652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 科 研

費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島

多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Chen, D. and Zhang, M. 2015. Marine fishes of China. China Ocean University Press, Quingdao. 2154 pp. Chiang, W.-C., Lin, P.-L., Chen, W.-Y., and Liu, D.-C. 2014. Marine fishes in eastern Taiwan. Fisheries Research Institute, Council of Agriculture, Keelung. vii + 331 pp. [In Chinese] Gushiken, S. 1983. Revision of the carangid fishes of Japan. Galaxea, 2: 135–264. 具志堅宗弘.1984.ミナミギンガメアジ.P. 151, pl. 139-D, E. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編). 日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京. 萩原清司・木村喜芳.2005.横須賀自然・人文博物館所蔵 魚類資料目録(IV)-相模湾海洋生物研究会収集館山 湾 波 左 間 産 魚 類 目 録 ― 横 須 賀 市 博 物 館 資 料 集,29: 1–34. 畑 晴陵.2013.アジ科.Pp. 142–147.本村浩之・出羽慎一・ 古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫黄島と 竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国 立科学博物館,つくば. 畑 晴陵.2017.アジ科.Pp. 141–160.岩坪洸樹・本村浩 之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水 圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 畑 晴陵・原口百合子・本村浩之.2015.トカラ列島から 得られたアジ科魚類カッポレ Caranx lugubris.Nature of Kagoshima, 41: 69–72. 畑 晴陵・本村浩之.2016.奄美大島から得られたアジ科 魚 類 ホ シ カ イ ワ リ Carangoides fulvoguttatus.Nature of Kagoshima, 42: 183–186. 畑 晴陵・本村浩之.2017a.内之浦湾から得られたミナミ ギンガメアジの記録.Nature of Kagoshima, 43: 131–136. 畑 晴陵・本村浩之.2017b.鹿児島湾から得られたアジ科 魚類マルコバンの記録.Nature of Kagoshima, 43: 127– 130. 畑 晴陵・本村浩之.2017c.内之浦湾から得られた北限記 録のサクラアジ.Nature of Kagoshima, 43: 123–126. 本間義晴・水沢六郎・鈴木庄一郎・岡田成弘.1984.新潟 県魚類目録補訂(XI).UO, 34: 11–36. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野.597 pp. 石川皓章.2010.釣りが,魚が,海がもっと楽しくなる! 海の魚大図鑑,初版.日本書院,東京.399 pp. 岩坪洸樹・木村清志・本村浩之.2016.東シナ海と鹿児島 県枕崎市沖から得られた日本初記録のアジ科魚類 Decapterus smithvanizi サ ク ラ ア ジ( 新 称 ).Nature of Kagoshima, 42: 179–182. 岩坪洸樹・本村浩之.2017.火山を望む麑海 鹿児島湾の 魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総 合研究博物館,鹿児島.302 pp.

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塩垣 優・石戸芳男・野村義勝・杉本 匡.2004.改訂青 森県産魚類目録.青森水産総合研究センター研究報告, 4: 39‒80.

鈴木 清・片岡照男.1997.三重の海産魚類.鳥羽水族館, 鳥羽.297 pp.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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RESEARCH ARTICLES


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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたギス科魚類ギス 1

2

畑 晴陵 ・岩坪洸樹 ・本村浩之 1 2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科

〒 892–0847 鹿児島市西千石町 11–21 鹿児島 MS ビル 鹿児島水圏生物博物館 3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ギス属 Pterothrissus は長らく東アジアに固有の ギス P. gissu Hilgendorf, 1877 と大西洋東部に分布 する Nemossis belloci (Cadenat, 1937) の 2 種を含む とされてきたが,上神経骨を有する(N. belloci では上神経骨を欠く)ことなどの特徴により,2 属に区分された(Hidaka et al., 2016).ギスは北 海道から九州南岸にかけての日本沿岸に広く分布 するが,琉球列島沿岸における記録は沖縄舟状海 盆から得られたものを報告したもののみに限られ る(町田,1984;藍澤・土居内,2013; Hidaka et al., 2016).2017 年 3 月 22 日,奄美大島における 魚類相調査において,2 個体のギスが採集された. これらの標本は奄美大島近海における本種の標本 に基づく初めての記録となるため,ここに報告す る. 材料と方法 計数・計測方法は Hidaka et al. (2016) にしたがっ た.標準体長は体長と表記し,体各部の計測はノ ギスを用いて 0.1 mm までおこなった.ギスの生 鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された奄美大 島産の 1 標本(KAUM–I. 200584)のカラー写真 に基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定 Hata, H., H. Iwatsubo and H. Motomura. 2017. First records of Pterothrissus gissu (Albuliformes: Pterothrissidae) from Amami-oshima island, Amami Islands, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 37–40. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online:7 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-008.pdf

方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた 標本は鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に 保管されている.なお,ギス属は藍澤・土居内 (2013)にしたがい,ギス科 Pterothrissidae に帰属 するものとした. 結果と考察 Pterothrissus gissu Hilgendorf, 1877 ギス (Fig. 1; Table 1) 標 本 KAUM–I. 200584, 体 長 367.0 mm, KAUM–I. 200585,体長 344.0 mm,鹿児島県奄美 大島近海,2017 年 3 月 22 日,釣り(鹿児島市中 央卸売市場魚類市場で購入),岩坪洸樹・山口 実. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い円筒形. 体背縁は吻端から背鰭起部にかけて緩やかに盛り 上がり,そこから背鰭基底後端にかけて極めて緩 やかに下降する.尾柄部体背縁は僅かに凹む.体 腹縁は吻端から臀鰭起部にかけては直線状を呈 し,体軸とほぼ平行.臀鰭基底部の体腹縁は僅か に上昇し,尾柄部体腹縁は僅かに凹む.胸鰭基底 上端は鰓蓋後端よりも僅かに下方に位置する.胸 鰭後端は腹鰭起部に達しない.背鰭起部は胸鰭後 端よりも前方,背鰭基底後端は臀鰭基底後端より も前方にそれぞれ位置する.臀鰭起部は背鰭基底 後端よりも前方に位置する.尾鰭は二叉形を呈し, 両葉後端は丸みを帯びる.体は剥がれやすい円鱗 に被われるが,頭部は無鱗.各鰭は被鱗しないが, 尾鰭両葉の中心部は細かい鱗に被われる.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁 前方に位置する.前鼻孔および後鼻孔はともに前 後方向に細長い楕円形.眼は前後方向に長い楕円

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Pterothrissus gissu from Amami-oshima island in the Ryukyu Islands, Japan (KAUM–I. 200584, 367.0 mm SL).

Table 1. Counts and measurements of Amami-oshima specimens of Pterothrissus gissu. KAUM–I. 200584 Standard length (SL; mm) 367.0 Counts Dorsal-fin rays 58 Anal-fin rays 12 Pectoral-fin rays 17 Pelvic-fin rays 10 Pored lateral-line scales 108 Branchiostegal rays 6 Gill rakers 4 + 11 Measurements (% SL) Head length 24.7 Body depth 15.2 Body width at pectoral-fin base 8.9 Snout length 8.5 Upper-jaw length 7.0 Mandibular length 6.5 Mouth width 5.4 Maxillary depth 2.5 Bony interorbital width 4.3 Interorbital width with membrane 8.1 Orbit diameter 7.0 Suborbital width 4.0 Postorbital length 10.3 Longest dorsal-fin ray length 10.7 Last dorsal-fin ray length 4.5 Longest anal-fin ray length 8.1 Last anal-fin ray length 3.6 Longest pectoral-fin ray length 14.1 Longest pelvic-fin ray length 9.2 Pre-dorsal-fin length 32.9 Pre-anal-fin length 80.1 Pre-anus length 77.4 Pre-pelvic-fin length 52.5 Dorsal-fin base length 51.5 Anal-fin base length 7.3 Caudal-peduncle length 12.2 Caudal-peduncle depth 4.7 Upper caudal-fin lobe length 19.4 Lower caudal-fin lobe length 19.1

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KAUM–I. 200585 344.0 59 13 16 10 109 6 4 + 10 25.2 16.5 10.8 8.2 7.0 6.9 5.6 2.5 4.4 9.3 7.1 3.8 10.2 11.4 3.7 7.5 3.7 14.4 8.9 33.8 79.8 78.2 52.2 51.3 7.3 10.5 5.2 21.9 21.0


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Nature of Kagoshima Vol. 44

形を呈し,瞳孔は正円形に近い.口は下位で,吻

同時に日本語でギスと称されることが報告され

端は突出する.上顎の後端は眼窩先端直下に達し

た.また,Günther (1877) は江ノ島沖(本文中で

ない.両顎には数列の細かい円錐歯が密生する.

は off Inoshima となっている)から得られた個体

側線は完全で,鰓蓋上方から始まり,体側中央部

に基づき Bathythrissa dorsalis を記載した.現在 B.

を尾柄部にかけて体背縁とほぼ平行にはいる.

dorsalis は P. gissu の新参異名とされている (Hidaka

色彩 生鮮時の色彩 ― 体側鱗は一様に銀白色

et al., 2016).その後,ギスは北海道礼文島(田園,

を呈する.体側鱗の脱落した部位は体側上部にお

2013),新潟県(本間,2013),富山湾(魚津水族

いて黄緑がかった黄土色を呈し,体側下部から体

博 物 館,1997), 若 狭 湾(Takegawa and Morino,

腹面にかけては白色.頭部は一様に茶褐色を呈し,

1970),兵庫県三方町新温泉町浜坂(鈴木ほか,

腹面は白色.背鰭,胸鰭,腹鰭,および臀鰭は白

2000),福島県沖(Shinohara et al., 1996),千葉県

色半透明.背鰭前部の縁辺部は黒色.尾鰭は鶯色

洲ノ崎沖(石川,2010),相模湾(柴田,1979;

を呈し,後縁は黒色.瞳孔は青みがかった黒色を

山 田,1990), 駿 河 湾(Shinohara and Matsuura,

呈し,虹彩は銀色.

1997),三重県尾鷲市沖(鈴木・片岡,1997),和

分布 ロシア・カムチャツカ半島沿岸から台

歌山県白浜(池田・中坊,2015),高知県御畳瀬(佐

湾にかけての東アジア沿岸からのみ知られる(藍

藤,1997), お よ び 九 州・ パ ラ オ 海 嶺( 爲 家,

澤・ 土 居 内,2013; Shunbin et al., 2014; Chen and

1982)などから報告されている.

Zhang, 2015; Hidaka et al., 2016).日本国内におい

鹿児島県内における本種の記録は,小沢(1983)

ては北海道釧路から九州南岸にかけての太平洋

が枕崎沖から得られたものを報告したものや,福

岸,九州・パラオ海嶺,瀬戸内海,北海道礼文島

井ほか(2015)が黒島近海から得られた 2 個体

から島根県隠岐諸島にかけての日本海沿岸,およ

(KAUM–I. 55546,

長 291.7 mm, KAUM–I.

び東シナ海における分布が知られており(藍澤・

55769,体長 373.0 mm)を報告したものなどがあ

土 居 内,2013; 田 園,2013; Hidaka et al., 2016),

る.ギスは東シナ海において長崎県五島列島から

本研究により,奄美大島近海における分布も確認

石垣島北部に至る大陸棚縁辺にかけて広く分布す

された.

ることが知られるが(山田ほか,2007),琉球列

備 考 奄 美 大 島 産 の 標 本 は, 背 鰭 軟 条 数 が

島近海における本種の記録は少なく,町田(1984)

58–59 であること,有孔側線鱗数が 108–109 であ

と Hidaka et al. (2016) が沖縄舟状海盆の水深 530

ること,頭長が体長の 24.7–25.2% であること,

m から得られた 1 個体(BSKU 33263,体長 395

胸鰭最長軟条長が体長の 14.1–14.4% であること,

mm)を報告したものに限られる.奄美大島にお

背鰭前長が体長の 32.9–33.8% であること,背鰭

ける本種の記録はなく,記載標本は奄美大島近海

基 底 長 は 頭 長 よ り も は る か に 大 き く, 体 長 の

における本種の初めての記録となる.

51.3–51.5% で あ る こ と, 眼 後 長 が 体 長 の 10.2– 10.3% で あ る こ と, 尾 鰭 上 葉 長 が 体 長 の 19.4–

謝辞

21.9% であること,および臀鰭起部が背鰭基底後

本報告を取りまとめるにあたって,標本の採

端 よ り も 前 方 に 位 置 す る こ と が 藍 澤・ 土 居 内

集に際しては山実水産の山口 実氏に多大なご協

(2013)や Hidaka et al. (2016) の報告した P. gissu

力を頂いた.鹿児島大学総合研究博物館ボラン

の標徴とよく一致したため,本種と同定された.

ティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには

また,奄美大島産標本の計数・計測値は藍澤・土

適切な助言を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の

居内(2013)や Hidaka et al. (2016) によって示さ

意を表する.本研究は鹿児島水圏生物博物館の「か

れた P. gissu の値とよく一致した.

ごしま市場の魚図鑑プロジェクト」と鹿児島大学

Pterothrissus gissu は東京市場に水揚げされた 1

総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査

個体に基づき Hilgendorf (1877) によって記載され,

プロジェクト」の一環として行われた.本研究の

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Nature of Kagoshima Vol. 44

一部は JSPS 研究奨励費(DS: 29-6652),笹川科 学研究助成金(28-745),JSPS 科研費(19770067,

RESEARCH ARTICLES 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp.

23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS

小沢貴和.1983.枕崎沖陸棚斜面底魚の研究 1.水産海洋研 究会報,44: 9–16.

研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基

佐藤陽一.1997.ギス Pterothrissus gissu.P. 67.岡村 収・

盤形成型,国立科学博物館「日本の生物多様性ホッ

尼岡邦夫(編),山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と

トスポットの構造に関する研究プロジェクト」, 文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とそ の保全に関する教育研究拠点整備」,および鹿児 島大学重点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロ ジェクト)学長裁量経費の援助を受けた. 引用文献 藍澤正宏・土居内 龍.2013.ギス科.Pp. 236, 1781.中坊 徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東 海大学出版会,秦野. Chen, D. and Zhang, M. 2015. Marine fishes of China. Vols. 1–3. China Ocean University Press, Quingdao. 2154 pp. 福井美乃・松沼瑞樹・本村浩之.2015.鹿児島県黒島沖の大 陸斜面から得られた底生魚類およびギンザメ科アカギン ザ メ Hydrolagus mitsukurii の 記 録.Nature of Kagoshima, 41: 177–186.

柴田勇夫.1979.神奈川県海域の魚類相および種別研究の 現状.Pp. 15–25.神奈川県水産試験場相模湾支所(編), 相模湾資源環境調査報告書 I(総括). Shinohara, G., Endo, H. and Matsuura, K. 1996. Deep-water fishes collected from the Pacific coast of northern Honshu, Japan. Memoirs of the National Science Museum, 29: 154–185. Shinohara, G. and Matsuura, K. 1997. Annotated checklist of deep-water fishes from Suruga Bay, Japan. National Science Museum Monographs, 12: 269–318, pls. 1–2. Shubin, A. O., Vanin, N. S. and Koinov, A. A. 2014. Larvae of Pterothsissus gissu (Albilidae) in temperate waters of the northwestern part of the Pacific Ocean. Journal of Ichthyology, 54: 223–231. 鈴木寿之・細川正富・波戸岡清峰.2000.兵庫県産魚類標 本目録 -鈴木寿之魚類コレクション兵庫県産編 ―. 大阪市立自然史博物館収蔵資料目録第 32 集.大阪自然 史博物館,大阪.143 pp.

Japan during the expedition of H. M. S. `Challenger.' Annals

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Takegawa, Y. and Morino, H. 1970. Fishes from Wakasa Bay,

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40

渓谷社,東京.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたクロタチカマス科魚類ナガタチカマス 1

2

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

クロタチカマス科 Gempylidae は日本近海からは

計 数・ 計 測 方 法 は Nakamura et al. (1983) と

11 属 13 種 が 知 ら れ( 中 坊・ 土 居 内,2013;

Nakayama et al. (2014) にしたがった.標準体長は

Nakayama et al., 2014),鹿児島県においてはそのう

体長と表記し,体各部の計測はノギスを用いて 0.1

ちエラブスミヤキ Neoepinnula minetomai Nakayama,

mm までおこなった.ナガタチカマスの生鮮時の

Kimura and Endo, 2014, ア オ ス ミ ヤ キ Epinnula

体色の記載は,固定前に撮影された奄美大島産の

magistralis Poey, 1854, ク ロ シ ビ カ マ ス

1 標本(NSMT-P 131450)のカラー写真に基づく.

Promethichhtys prometheus (Cuvier, 1832),オオメカ

標本の作製,登録,撮影,および固定方法は本村

ゴカマス Rexea nakamurai Parin, 1989,およびカ

(2009)に準拠した.本報告に用いた標本は国立

ゴカマス R. prometheoides (Bleeker, 1856) の 5 種が 報 告 さ れ て い る( 中 坊・ 土 居 内,2013; 岡 本, 2014;Nakayama et al., 2014; Hata and Motomura, 2016;畑,2017). ナガタチカマス Thrysitoides marleyi Fowler, 1929

科学博物館(NSMT)に収蔵されている. 結果と考察 Thrysitoides marleyi Fowler, 1929 ナガタチカマス (Fig. 1; Table 1)

は沖縄県においては稀に水揚げされることが知ら れるが(Nakamura and Parin, 1993;三浦,2012),

標本 2 個体(体長 926.0–1029.5 mm):NSMT-P

これまで,鹿児島県における記録はなかった.奄

131450,体長 1029.5 mm,鹿児島県奄美大島近海

美群島における魚類相調査の過程で,2 個体のナ

( 名 瀬 漁 港 で 購 入 ),2017 年 3 月, 前 川 隆 則;

ガタチカマスが採集された.これらの標本は本種

NSMT-P 131453,体長 926.0 mm,鹿児島県奄美

の鹿児島県における標本に基づく初めての記録と

大島近海(名瀬漁港で購入),2017 年 4 月 24 日,

なるため,ここに報告する.

前川隆則. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円

Hata, H., T. Maekawa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. First specimen-based records of Thrysitoides marleyi (Perciformes: Gempylidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima, 44: 41–45. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 8 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-009.pdf

形で,側扁し,体高は第 1 背鰭第 3 棘起部で最大. 体背縁は第 1 背鰭第 3 棘起部にかけて緩やかに上 昇し,そこから第 1 背鰭棘部基底部中央にかけて 極めて緩やかに下降する.その後,第 2 背鰭起部 にかけての体背縁は体軸と平行となり,そこから 尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降する.体腹縁 は下顎先端から腹鰭起部にかけて緩やかに下降 し,そこから臀鰭起部にかけて体軸と平行となり,

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Fig. 1. Fresh specimen of Thrysitoides marleyi. NSMT-P 131450, 1029.5 mm standard length, off Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan.

さらに臀鰭起部から尾鰭基底下端にかけて緩やか に上昇する.体腹縁は滑らかで,骨質隆起を欠く.

状を呈し,鰓弁よりも短い. 色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に暗い茶色が

第 1 背鰭起部は鰓蓋後端よりも僅かに前方に位置

かった鈍い銀色.背鰭各棘は鈍い灰白色.背鰭各

する.背鰭は第 1 背鰭第 2 棘が最長.背鰭背縁は

棘間の鰭膜は黒色を呈し,基底部付近は白色.第

起部から第 1 背鰭第 2 棘後端にかけて急激に上昇

2 背鰭は灰白色を呈し,縁辺部は暗い茶褐色.胸

し,そこから第 1 背鰭基底後端にかけて緩やかに

鰭と腹鰭は茶色がかった灰色.臀鰭は暗い茶色を

下降する.背鰭棘間の鰭膜は深く切れ込まない.

呈し,鎌状に伸びた葉部先端は白色.尾鰭は一様

第 2 背鰭と臀鰭は鎌状を呈し,何れも前部が伸長

に焦げ茶色.虹彩は真鍮色で,瞳孔は青みがかっ

する.胸鰭基底上端は第 1 背鰭第 2 棘起部よりも

た金色.

僅かに後方に,胸鰭基底下端は腹鰭起部よりも前

分布 アフリカ東岸から日本,ニューカレド

方にそれぞれ位置する.胸鰭後端は尖る.胸鰭上

ニア,およびオーストラリア西岸にかけてのイン

縁は上方に僅かに膨らみ,下縁と後方は何れも直

ド・ 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る(Nakamura and

線状.腹鰭起部は第 1 背鰭第 3 棘起部よりも僅か

Parin, 1993, 2001; Mundy, 2005; 中 坊・ 土 居 内,

に後方に位置し,たたんだ腹鰭の後端は胸鰭後端

2013;日高,2016).日本国内においては青森県

直下に達しない.臀鰭起部は第 1 背鰭第 2 背鰭起

八戸,相模湾,三重県熊野灘,和歌山県南部,土

部よりも僅かに後方に,臀鰭基底後端は背鰭基底

佐湾,新潟県,富山湾,若狭湾,山口県日本海沿

後端よりも僅かに前方にそれぞれ位置する.尾鰭

岸,沖縄島,与那国島,沖縄舟状海盆,および九

は二叉形を呈し,深く湾入する.吻端は尖り,下

州・ パ ラ オ 海 嶺 か ら の み 記 録 さ れ て き た が

顎は上顎よりも突出する.眼と瞳孔はともに正円

(Matsubara and Iwai, 1952;海老沢,2007;北川ほ

形.眼隔域は平坦.鼻孔は 2 対で,眼の前縁前方

か,2008;三浦,2012;中坊・土居内,2013;池

に位置する.前鼻孔は背腹方向に長い楕円形で,

田・中坊,2015; Koeda et al., 2016),本研究により,

後鼻孔は正円形.肛門は臀鰭起部前方に位置し,

標本に基づき奄美大島近海における分布も確認さ

前後方向に長い楕円形.側線は 2 本あり,上方分

れた.

枝は鰓蓋上方から始まり,体背縁に沿って直走し,

備 考 奄 美 大 島 産 の 標 本 は, 背 鰭 棘 が 合 計

第 1 背鰭第 16 棘基底部の後方で終わる.下方分

18–19 本であること,両顎先端に肉質突起をそな

枝は第 1 背鰭第 4 棘基底部後方で上方分枝から分

えること,明瞭な側線が 2 本あること,側線の下

かれ,斜め後下方に向かう.その後体側中央を体

方分枝が体側中央にあること,腹鰭が 1 棘 5 軟条

軸と平行に直走し,尾鰭基底部で終わる.口裂は

からなること,および体腹縁に骨質隆起を欠くこ

大きく,上顎後端は露出し,瞳孔前端直下に僅か

となどが Nakamura and Parin (1993, 2001) や中坊・

に達しない.両顎先端に肉質突起をそなえる.鰓

土居内(2013)の報告した Thrysitoides marleyi の

蓋と前鰓蓋骨の後縁はともに円滑.鰓耙は短い針

標徴とよく一致したため,本種に同定された.な

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お,Thrysitoides 属 は 本 種 1 種 の み か ら な る (Nakamura and Parin, 1993). 日本から初めてナガタチカマスを報告したの

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1980),山口県日本海沿岸(河野ほか,2011),萩 市見島近海(田中,1950;日本経済新聞,2012; 山 口 新 聞,2012), 青 森 県 八 戸 市( 北 川 ほ か,

は Kamohara (1936) である.彼は高知県高知市御

2008),相模湾(山田,1990),神奈川県西部(柴

畳瀬沖から得られた全長 400 mm の個体に基づき,

田,1979), 三 重 県 熊 野 灘(Matsubara and Iwai,

本種を Mimasea taeniosoma として記載すると同時

1952),和歌山県白浜町・みなべ町(池田・中坊,

に,和名「ナガタチカマス」を提唱した.現在,M.

2015),沖縄舟状海盆(町田,1985),沖縄島中城

taeniosoma は T. marleyi の新参異名とされている

湾( 三 浦,2012), 九 州・ パ ラ オ 海 嶺( 中 村,

(Nakamura, 1980; Nakamura and Parin, 1993;中村,

1982, 1997), 久 米 島 南 方 北 大 九 曽 根( 海 老 沢,

1997).その後,ナガタチカマスは新潟県佐渡ヶ

2007),与那国島(Koeda et al., 2016)などから記

島両津沖(本間ほか,1990;本間,2013),富山

録されている.

県朝日町(魚津水族博物館,1997),氷見市(北

鹿児島県地域振興局大島支庁林務水産課

日 本 新 聞,2014), 京 都 府 伊 根 町(Nakamura,

(2015)は,ナガタチカマスを奄美大島において

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Thrysitoides marleyi.

Standard length (SL) Counts Dorsal-fin rays Anal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays Measurements (%SL) Head length Orbit diameter Fleshy interorbital width Bony interorbital width Body depth at pelvic-fin base Body depth at anal-fin origin Pectoral-fin length Upper caudal-fin lobe length Lower caudal-fin length Snout length Postorbital length Upper jaw length Suborbital width First predorsal length Second predorsal length First dorsal-fin base length Second dorsal-fin base length Prepectoral length Prepelvic length Pelvic-fin length Preanal length Preanus length Anal-fin base length Abdominal length Tail length Caudal-peduncle length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle width Fork length

Amami-oshima island, Kagoshima, Japan NSMT-P 131450 NSMT-P 131453 1029.5 926.0 XVIII-I, 16 II, 15 13 I, 5

XVIII-I, 17 II, 18 15 I, 5

25.8 4.1 5.3 4.5 12.7 9.6 12.1 15.0 15.7 11.2 10.7 11.8 1.3 23.6 73.5 48.0 20.0 25.7 29.0 6.5 74.6 70.0 19.0 46.3 26.0 6.7 3.1 1.9 103.6

26.7 4.1 4.5 3.9 12.3 8.8 11.8 18.0 16.8 11.3 10.3 12.0 1.3 23.7 74.6 45.2 19.4 26.2 29.0 6.2 75.4 72.2 17.7 47.5 25.1 6.5 3.1 1.5 104.2

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利用頻度の低い魚として挙げており,利用価値の 向上を図るための加工品の試作もおこなってい る.しかしながら,彼らの示したナガタチカマス の写真は腹鰭がないことなどからクロシビカマス であると思われ,奄美大島におけるナガタチカマ スの漁獲が一定量あるのか否か定かではない.ナ ガタチカマスは鹿児島県内各地の魚類相調査(例 えば,今井・中原,1964, 1969;財団法人鹿児島 市水族館公社,2008; Motomura et al., 2010, 2016; 本村・松浦,2014)においても記録されていない. 鹿児島県産のナガタチカマスの写真は多く出回っ ているものの,登録された学術標本とそれに基づ く記載を伴った記録はされておらず,本研究の記 載標本は鹿児島県におけるナガタチカマスの標本 に基づく初めての記録となる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類 学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本 の作製・撮影に際しては国立科学博物館の篠原現 人博士,栗岩 薫博士ならびに鹿児島大学総合研 究博物館の森下悟至氏に多大なご協力を頂いた. 以上の方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は 鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の 多様性調査プロジェクト」の一環として行われた. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 296652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 科 研

費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた.

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引用文献 海老沢明彦.2007.北大九曽根保護区における試験操業結 果 ―I(アオダイ等資源回復推進調査).Pp. 93–97.沖 縄県水産海洋研究センター(編),平成 18 年度沖縄県 水産海洋研究センター事業報告書.沖縄県水産海洋研 究センター,糸満. 畑 晴 陵.2017. カ ゴ カ マ ス Rexea prometheoides (Bleeker, 1856).P. 259.岩坪洸樹・本村浩之(編),火山を望む 麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・ 鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島. Hata, H. and Motomura, H. 2016. First record of the snake mackerel Epinnula magistralis (Perciformes: Gempylidae) from the Tokara Islands, Japan. Fauna Ryukyuana, 30: 11–15. 日高浩一.2016.ナガタチカマス Thrysitoides marleyi Fowler, 1929. Pp. 98–99.松浦啓一・星野浩一(編),インド洋 南西部公海海山域の魚類.国立研究開発法人水産総合 研究センター開発調査センター,横浜. 本間義治.2013.新潟県産魚類相目録.柏崎市立博物館館報, 23: 65–106. 本間義治・佐藤光昭・水沢六郎.1990.新潟県魚類目録補 訂(XII).UO, 39: 15–30. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野,597 pp. 今井貞彦・中原官太郎.1964.鹿児島県の魚類.Pp. 205– 221.鹿児島県理科教育協会(編),鹿児島の自然.鹿児 島県理科教育協会,鹿児島. 今井貞彦・中原官太郎.1969.錦江湾海中公園候補地の魚 類相.Pp. 51–82.鹿児島県(編),霧島・屋久国立公園 錦江湾海中公園調査書.鹿児島県,鹿児島. 鹿児島県地域振興局大島支庁林務水産課.2015.漁村女性 グループ活動の水深.Pp. 5–6.鹿児島県水産振興課(編), 平成 26 年度普及事業報告書.鹿児島県水産振興課,鹿 児島. Kamohara, T. 1936. Supplementary note on the fishes collected in the vicinity of Kochi-shi (X). Zoological Magazine (Japan), 48: 929–935. 河野光久・土井啓行・堀 成夫.2011.山口県日本海産魚 類目録.山口県水産研究センター研究報告,9: 29–64. 北川大二・今村 央・後藤友明・石戸芳男・藤原邦浩・上 田祐司.2008.東北フィールド魚類図鑑.東海大学出 版会,秦野.xvii + 140 pp. 北日本新聞.2014.ぎょぎょ! 25 年ぶり富山湾に 氷見 ナガタチカマス水揚げ.北日本新聞.2014 年 2 月 25 日. Koeda, K., Hibino, Y., Yoshida, T., Kimura, Y., Miki, R., Kunishima, T., Sasaki, D., Fukuhara, T., Sakurai, M., Eguchi, K., Suzuki, H., Inaba, T., Uejo, T., Tanaka, S., Fujisawa, M., Wada, H. and Uchinyama T. 2016. Annotated checklist of fishes of Yonaguni-jima island, the westernmost island in Japan. The Kagoshima University Museum, Kagoshima. vi + 120 pp. 町田吉彦.1985.ナガタチカマス Thrysitoides marleyi Fowler.Pp. 538–539, 703.岡村 収(編),沖縄舟状海盆及 び周辺海域の魚類 II.日本水産資源保護協会,東京.


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高知市春野漁港内で採集された魚類 松沼瑞樹・内藤大河・佐藤真央・水町海斗・山本祥代 泉 幸乃・山川 武・遠藤広光・佐々木邦夫 〒 780–8520 高知市曙町 2–5–1 高知大学理工学部海洋生物学研究室

Abstract Ninety-seven shore fish species belonging to 54 families were collected from the inside of a harbor of Haruno Fishing Port (33°28'09"N, 133°30'18"E) in Kochi City faced to Tosa Bay (Pacific Ocean), Kochi Prefecture, Japan during 2016–2017. はじめに 高知県沿岸の魚類相は,過去に多くの報告が なされているが(蒲原,1960;平田ほか,1996; 中 坊 ほ か,2001; 平 田 ほ か,2011; 木 村 ほ か, 2013 など),近年の調査に基づく報告は少ない. 2016 年 6 月から 2017 年 7 月の期間に,土佐湾沿 岸の中央部に位置する高知県高知市春野町の春野 漁 港 内(33°28'09"N, 133°30'18"E) で,54 科 97 種の魚類を採集した.魚類相の時間的変化や,魚 類の分布情報の蓄積に有益と考えられるため,春 野漁港内で採集された魚類を報告する. 材料と方法 本報告で記録した標本は,すべて高知市春野 町の春野漁港内で採集された.調査は 2016 年 6 月から 2017 年 7 月の間に 23 回行い,採集には釣

Matsunuma, M., T. Naito, M. Sato, K. Mizumachi, S. Yamamoto, Y. Izumi, T. Yamakawa, H. Endo and K. Sasaki. 2017. Checklist of fishes collected from Haruno Fishing Port, Kochi Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima, 44: 47–71. MM: Laboratory of Marine Biology, Faculty of Science, Kochi University, 2–5–1 Akebono, Kochi 780-8520, Japan (e-mail: k1139853@kadai.jp).

りと手網を用いた.本報告の標本は,高知大学理 工学部海洋生物学研究室(BSKU)と鹿児島大学 総合研究博物館(KAUM)に保管されている.標 本 の 種 同 定, 標 準 和 名 と 学 名 は 原 則 的 に 中 坊 (2013)にしたがった.科の順番は中坊(2013)に, 科内での種の順番は学名のアルファベット順とし た.体盤幅は DW,標準体長は SL,全長は TL と 表記し,標本データは採集日の古い順に記載した. 生息状況など特筆すべき情報がある場合は備考に 記した. 魚類リスト アカエイ科 Dasyatidae Hemitrygon akajei (Müller and Henle, 1841) アカエイ(Fig. 1) 標

本 KAUM–I. 100555,122.0 mm DW,

KAUM–I. 100556,114.1 mm DW,KAUM–I. 100557,106.1 mm DW,KAUM–I. 100558,132.7 mm DW,2016 年 8 月 14 日;KAUM–I. 100194, 122.5 mm DW,2016 年 8 月 19 日. 備考 属名は Last et al.(2016)にしたがった. カタクチイワシ科 Engraulidae Engraulis japonica Temminck and Schlegel, 1846 カタクチイワシ(Fig. 2) 標

本 BSKU 123204,52.7 mm SL,BSKU

123205,46.7 mm SL,KAUM–I. 151166,46.0 mm SL,KAUM–I. 151167,42.7 mm SL,2017 年 7 月 2 日.

Published online: 11 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-010.pdf

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KAUM–I. 100197,186.4 mm SL,2016 年 8 月 19 日; KAUM–I. 100609,194.6 mm SL,2016 年 10 月 14 日;KAUM–I. 101095,210.7 mm SL,KAUM–I. 101096,160.5 mm SL,KAUM–I. 101097,207.6 mm SL,KAUM–I. 101098,209.0 mm SL,2017 年 1 月 8 日. 備考 通年観察された.

Fig. 1. Hemitrygon akajei ( ア カ エ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan in dorsal (top) and ventral (bottom) views. KAUM–I. 100194, 122.5 mm DW.

Fig. 3. Tribolodon hakonensis ( ウ グ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120649, 76.7 mm SL.

Fig. 4. Plotosus japonicus ( ゴ ン ズ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 81908, 208.4 mm SL.

Fig. 2. Engraulis japonica ( カ タ ク チ イ ワ シ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 123205, 46.7 mm SL; B: BSKU 123204, 52.7 mm SL.

エソ科 Synodontidae Synodus ulae Schultz, 1953 アカエソ(Fig. 5) 標 本 BSKU 120770,158.0 mm SL,2016 年 8

コイ科 Cyprinidae

月 9 日.

Tribolodon hakonensis (Günther, 1877) ウグイ(Fig. 3) 標 本 BSKU 120649,76.7 mm SL,2016 年 7 月 2 日. 備考 降海型と陸封型が知られるが(細谷, 2013),高知県産のウグイの生態型に関する情報

Fig. 5. Synodus ulae ( アカエソ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120770, 158.0 mm SL.

は知られていない.春野漁港内で採集されたウグ イは,仁淀川など近隣の河川が氾濫した際に,海 へ流出した個体が港内に迷入した可能性もある.

Trachinocephalus trachinus (Temminck and Schlegel, 1846)

ゴンズイ科 Plotosidae Plotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008 ゴンズイ(Fig. 4) 標本 KAUM–I. 81908,208.4 mm SL,KAUM– I. 81910,173.7 mm SL,2016 年 6 月 15 日;

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オキエソ(Fig. 6) 標本 BSKU 123121,80.9 mm SL,2017 年 6 月 17 日. 備考 学名は Polanco Fernandez et al. (2016) に したがった.


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10 月 5 日;BSKU 123023,116.9 mm TL,2017 年 6 月 10 日. Fig. 6. Trachinocephalus trachinus ( オ キ エ ソ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123121, 80.9 mm SL.

Hippocampus mohnikei Bleeker, 1853 サンゴタツ(Fig. 10) 標本 KAUM–I. 100029,52.2 mm TL,2016 年

カエルアンコウ科 Antennariidae

8 月 14 日;BSKU 123022,56.8 mm TL,2017 年

Histrio histrio (Linnaeus, 1758)

6 月 10 日.

ハナオコゼ(Fig. 7) 標本 BSKU 123161,29.0 mm SL,2017 年 6 月 22 日. 備考 流れ藻についていた個体が採集された. ク サ フ グ の 稚 魚[BSKU123162(2 個 体 ),13.0– 14.0 mm SL]を飽食していた.

Fig. 7. Histrio histrio ( ハ ナ オ コ ゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123161, 29.0 mm SL.

Fig. 9 (left photo). Hippocampus kuda ( ク ロ ウ ミ ウ マ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100208, 113.8 mm TL. Fig. 10 (right photo). Hippocampus mohnikei ( サンゴタツ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100029, 52.2 mm TL.

ヤガラ科 Fistulariidae Fistularia commersonii Rüppell, 1838

Syngnathus schlegeli Kaup, 1853

アオヤガラ(Fig. 8)

ヨウジウオ(Fig. 11)

標 本 BSKU 120772,274.4 mm SL,2016 年 8 月 9 日;KAUM–I. 151036,104.6 mm SL,2017

標 本 BSKU 123024,193.4 mm SL,2017 年 6 月 10 日.

年 6 月 10 日.

Fig. 8. Fistularia commersonii ( ア オ ヤ ガ ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120772, 274.4 mm SL. Fig. 11. Syngnathus schlegeli ( ヨウジウオ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. Overall body (top) and head (bottom). BSKU 123024, 193.4 mm SL.

ヨウジウオ科 Syngnathidae Hippocampus kuda Bleeker, 1852 クロウミウマ(Fig. 9) 標本 KAUM–I. 100208,113.8 mm TL,2016 年

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ボラ科 Mugilidae

2 日;KAUM–I. 151177,18.1 mm SL,2017 年 7

Chelon macrolepis (Smith, 1846)

月 4 日.

コボラ(Fig. 12) 標 本 BSKU 120843,82.9 mm SL,2016 年 9 月 3 日;BSKU 120935,94.6 mm SL,2016 年 10 月 5 日.

Fig. 14. Atherion elymus ( ム ギ イ ワ シ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123211, 25.3 mm SL.

Hypoatherina valenciennei Bleeker, 1854 トウゴロウイワシ(Fig. 15) 標本 BSKU 122451,65.4 mm SL,2017 年 5 月 Fig. 12. Chelon macrolepis ( コ ボ ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120935, 94.6 mm SL.

12 日;BSKU 122671,73.8 mm SL,BSKU 122672,79.4 mm SL,BSKU 122673,71.0 mm SL,BSKU 122674,78.0 mm SL,BSKU 122675,

Mugil cephalus cephalus Linnaeus, 1758

73.6 mm SL,BSKU 122676,77.7 mm SL,BSKU

ボラ(Fig. 13)

122677,73.8 mm SL,BSKU 122678,80.5 mm

標本 KAUM–I. 100032,15.0 mm SL,KAUM–

SL,BSKU 122679,79.2 mm SL,2017 年 5 月 21 日;

I. 100033,14.6 mm SL,2016 年 8 月 14 日;

KAUM–I. 151145,77.0 mm SL,KAUM–I. 151146,

BSKU 120945,256.9 mm SL,KAUM–I. 100211,

69.6 mm SL,KAUM–I. 151147,70.5 mm SL,

187.2 mm SL,KAUM–I. 100212,235.0 mm SL,

KAUM–I. 151148,73.6 mm SL,KAUM–I. 151149,

KAUM–I. 100768,103.1 mm SL,KAUM–I.

77.0 mm SL,KAUM–I. 151150,73.8 mm SL,

100769,90.0 mm SL,2016 年 10 月 5 日;

KAUM–I. 151151,67.8 mm SL,KAUM–I. 151152,

KAUM–I. 100237,211.4 mm SL,KAUM–I.

67.8 mm SL,2017 年 6 月 1 日.

100238,205.6 mm SL,KAUM–I. 100239,171.5 mm SL,2016 年 10 月 14 日. 備考 8 月に水面付近で体長約 15 mm 前後の 稚魚の群が観察された.

備考 Sasaki and Kimura(2014)によれば本種 はギンイソイワシ属 Hypoatherina ではないが,帰 属させるべき属は確定していない.種同定は笹木・ 木村(2011)および Sasaki and Kimura(2012)を 参照した.

Fig. 13. Mugil cephalus cephalus ( ボ ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120945, 256.9 mm SL.

トウゴロウイワシ科 Atherinidae Atherion elymus Jordan and Starks, 1901 ムギイワシ(Fig. 14) 標本 BSKU 123211,25.3 mm SL,2017 年 7 月

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Fig. 15. Hypoatherina valenciennei ( トウゴロウイワシ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 122677, 73.8 mm SL; B: BSKU 122451, 65.4 mm SL.


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ダツ科 Belonidae Ablennes hians (Valenciennes, 1846) ハマダツ(Fig. 16) 標

本 BSKU 123215,219.1 mm SL,BSKU

123216,260.8 mm SL,KAUM–I. 151169,108.7 mm SL,2017 年 7 月 4 日.

Fig. 16. Ablennes hians ( ハ マ ダ ツ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. Overall body (top) and head (bottom). BSKU 123216, 260.8 mm SL.

Fig. 17. Sebastiscus marmoratus ( カサゴ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 81909, 123.1 mm SL; B: KAUM–I. 150871, 38.3 mm SL.

メバル科 Sebastidae Sebastiscus marmoratus (Cuvier, 1829) カサゴ(Fig. 17) 標 本 BSKU 120528,116.9 mm SL,KAUM–I. 81909,123.1 mm SL,2016 年 6 月 15 日;BSKU 120651,90.7 mm SL,BSKU 120652,93.7 mm SL,2016 年 7 月 2 日;KAUM–I. 150871,38.3 mm SL,2017 年 5 月 14 日;BSKU 122685,67.0 mm SL,2017 年 5 月 21 日;BSKU 122994,101.0 mm SL,2017 年 6 月 1 日;BSKU 123117,82.5 mm SL,BSKU 123118,65.4 mm SL,KAUM–I.

Fig. 18. Pterois volitans ( ハナミノカサゴ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 122681, 76.8 mm SL.

151053,107.0 mm SL,KAUM–I. 151054,111.1 mm SL,2017 年 6 月 17 日;BSKU 123177,57.7

Scorpaenopsis cirrosa (Thunberg, 1793)

mm SL,BSKU 123178,65.0 mm SL,BSKU

オニカサゴ(Fig. 19)

123179,122.4 mm SL,BSKU 123180,110.3 mm SL,BSKU 123181,111.4 mm SL,2017 年 6 月 24

標本 BSKU 120985,186.6 mm SL,2016 年 10 月 14 日.

日. 備考 通年,釣りで採集された. フサカサゴ科 Scorpaenidae Pterois volitans (Linnaeus, 1758) ハナミノカサゴ(Fig. 18) 標本 BSKU 122681,76.8 mm SL,2017 年 5 月 21 日.

Fig. 19. Scorpaenopsis cirrosa ( オニカサゴ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120985, 186.6 mm SL.

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Scorpaenopsis neglecta Heckel, 1839

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年 6 月 10 日.

サツマカサゴ(Fig. 20) 標本 KAUM–I. 100759,63.1 mm SL,KAUM– I. 100770,55.6 mm SL,2016 年 10 月 5 日; KAUM–I. 100611,53.5 mm SL,2016 年 10 月 14 日; KAUM–I. 150876,59.8 mm SL,2017 年 5 月 14 日.

Fig. 21. Apistus carinatus ( ハチ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan in lateral (top) and dorsal (bottom) views. KAUM–I. 100184, 101.4 mm SL. Fig. 20. Scorpaenopsis neglecta ( サツマカサゴ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. Overall body (top) and inner surface of pectoral fin (bottom). KAUM–I. 150876, 59.8 mm SL.

ハチ科 Apistidae Apistus carinatus (Bloch and Schneider, 1801) ハチ(Fig. 21) 標

本 BSKU 120738,87.6 mm SL,BSKU

Fig. 22. Paracentropogon rubripinnis ( ハオコゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120853, 21.4 mm SL.

120739,92.5 mm SL,BSKU 120740,94.2 mm SL,2016 年 7 月 23 日;KAUM–I. 100184,101.4 mm SL,2016 年 9 月 3 日. 備考 砂地で採集された.

イボオコゼ科 Aploactinidae Paraploactis kagoshimensis (Ishikawa, 1904) カゴシマオコゼ(Fig. 23)

ハオコゼ科 Tetrarogidae Paracentropogon rubripinnis (Temminck and Schlegel, 1843) ハオコゼ(Fig. 22) 標本 KAUM–I. 100200,64.9 mm SL,2016 年 8 月 19 日;BSKU 120853,21.4 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I. 151038,59.2 mm SL,2017

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標本 KAUM–I. 100207,84.6 mm SL,2016 年 10 月 5 日. 備考 水深 3 m のやや泥が混じる砂地で採集 された.


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標 本 BSKU 120737,119.1 mm SL,2016 年 7 月 23 日.

Fig. 23. Paraploactis kagoshimensis ( イボオコゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100207, 84.6 mm SL.

コチ科 Platycephalidae Inegocia japonica (Cuvier, 1829) トカゲゴチ(Fig. 24) 標本 KAUM–I. 100038,197.8 mm SL,2016 年

Fig. 25. Thysanophrys celebica ( セ レ ベ ス ゴ チ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan in lateral (top) and dorsal (bottom) views. KAUM–I. 100031, 94.4 mm SL.

8 月 22 日;KAUM–I. 100248,163.3 mm SL,2016 年 10 月 14 日;BSKU 122693,139.2 mm SL, BSKU 122694,197.0 mm SL,2017 年 5 月 21 日; KAUM–I. 151079,148.8 mm SL,2017 年 6 月 21 日.

Fig. 26. Dactyloptena orientalis ( セミホウボウ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120737, 119.1 mm SL.

スズキ科 Lateolabracidae Lateolabrax latus Katayama, 1957 Fig. 24. Inegocia japonica ( ト カ ゲ ゴ チ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan in lateral (top) and dorsal (bottom) views. KAUM–I. 100038, 197.8 mm SL.

ヒラスズキ(Fig. 27) 標本 KAUM–I. 100002,261.2 mm SL,2016 年 8 月 9 日.

Thysanophrys celebica (Bleeker, 1855) セレベスゴチ(Fig. 25) 標本 KAUM–I. 100031,94.4 mm SL,2016 年 8 月 14 日;KAUM–I. 150877,101.2 mm SL,2017 年 5 月 14 日;BSKU 122692,104.6 mm SL,2017 年 5 月 21 日;KAUM–I. 151040,103.8 mm SL, 2017 年 6 月 10 日.

Fig. 27. Lateolabrax latus ( ヒ ラ ス ズ キ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100002, 261.2 mm SL.

セミホウボウ科 Dactylopteridae Dactyloptena orientalis (Cuvier, 1829) セミホウボウ(Fig. 26)

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ハタ科 Serranidae

Ostorhinchus doederleini (Jordan and Snyder, 1901)

Epinephelus fasciatus (Forsskål, 1775)

オオスジイシモチ(Fig. 30)

アカハタ(Fig. 28) 標本 BSKU 123125,93.7 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

標本 KAUM–I. 81905,87.9 mm SL,2016 年 6 月 15 日;KAUM–I. 100043,85.0 mm SL,2016 年 8 月 22 日;KAUM–I. 100621,88.3 mm SL, 2016 年 10 月 14 日;KAUM–I. 150870,87.3 mm SL,KAUM–I. 150872,102.4 mm SL,KAUM–I. 150873,83.7 mm SL,KAUM–I. 150874,80.0 mm SL,KAUM–I. 150875,78.4 mm SL,2017 年 5 月 14 日;BSKU 123127,25.3 mm SL,2017 年 6 月 17 日. 備考 属名は馬渕ほか(2015)にしたがった.

Fig. 28. Epinephelus fasciatus ( アカハタ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123125, 93.7 mm SL.

テンジクダイ科 Apogonidae Apogonichthyoides cathetogramma (Tanaka, 1917) ヨコスジイシモチ(Fig. 29) 標本 KAUM–I. 81906,77.2 mm SL,KAUM–I. 81907,89.0 mm SL,2016 年 6 月 15 日;KAUM–I. 100204,91.5 mm SL,2016 年 8 月 19 日; K A U M – I . 1 0 0 0 4 4, 8 3 . 5 m m S L , K A U M – I .

Fig. 30. Ostorhinchus doederleini ( オ オ ス ジ イ シ モ チ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 81905, 87.9 mm SL.

100045,84.6 mm SL,2016 年 8 月 22 日; K A U M – I . 1 0 0 6 1 2, 9 8 . 4 m m S L , K A U M – I .

アジ科 Carangidae

100613,78.4 mm SL,2016 年 10 月 14 日;BSKU

Alectis ciliaris (Bloch, 1787)

123115,111.6 mm SL,BSKU 123116,108.9 mm

イトヒキアジ(Fig. 31)

SL,2017 年 6 月 17 日;KAUM–I. 151069,108.5 mm SL,2017 年 6 月 21 日;BSKU 123170,104.2

標 本 BSKU 120744,75.0 mm SL,KAUM–I. 81966,61.7 mm SL,2016 年 7 月 23 日.

mm SL,2017 年 6 月 24 日. 備考 属名は馬渕ほか(2015)にしたがった.

Caranx melampygus Cuvier, 1833 カスミアジ(Fig. 32) 標本 BSKU 120840,76.9 mm SL,2016 年 9 月 3 日;BSKU 120933,134.5 mm SL,KAUM–I. 100209,141.3 mm SL,KAUM–I. 100210,131.6 mm SL,2016 年 10 月 5 日;BSKU 123207,76.0 mm SL,2017 年 7 月 2 日.

Fig. 29. Apogonichthyoides cathetogramma ( ヨコスジイシモチ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 81906, 77.2 mm SL.

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Fig. 33. Caranx sexfasciatus ( ギ ン ガ メ ア ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120934, 132.3 mm SL.

Pseudocaranx dentex (Bloch and Schneider, 1801) シマアジ(Fig. 34) 標

本 BSKU 123108,132.9 mm SL,BSKU

123111,145.7 mm SL,BSKU 123122,159.2 mm SL,BSKU 123123,113.4 mm SL,2017 年 6 月 17 日. Fig. 31. Alectis ciliaris ( イ ト ヒ キ ア ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. Overall body (top) and magnified view of body (bottom). BSKU 120744, 75.0 mm SL.

Fig. 34. Pseudocaranx dentex ( シ マ ア ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123122, 159.2 mm SL.

Fig. 32. Caranx melampygus ( カスミアジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120933, 134.5 mm SL.

Seriola dumerili (Risso, 1810) カンパチ(Fig. 35) 標 本 BSKU 122667,130.9 mm SL,2017 年 5 月 21 日.

Caranx sexfasciatus Quoy and Gaimard, 1825 ギンガメアジ(Fig. 33) 標本 KAUM–I. 100190,118.6 mm SL,KAUM– I. 100191,97.2 mm SL,2016 年 8 月 19 日;BSKU 120839,69.7 mm SL,BSKU 120841,78.1 mm SL, 2016 年 9 月 3 日;BSKU 120934,132.3 mm SL, KAUM–I. 100760,76.3 mm SL,2016 年 10 月 5 日; BSKU 123209,45.3 mm SL,2017 年 7 月 2 日.

Fig. 35. Seriola dumerili ( カ ン パ チ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 122667, 130.9 mm SL.

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Trachurus japonicus (Temminck and Schlegel, 1844) マアジ(Fig. 36) 標 本 BSKU 123206,89.1 mm SL,2017 年 7 月 2 日.

Fig. 38. Lutjanus fulvus ( オ キ フ エ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100026, 73.6 mm SL.

Fig. 36. Trachurus japonicus ( マ ア ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123206, 89.1 mm SL.

ヒイラギ科 Leiognathidae Nuchequula nuchalis (Temminck and Schlegel, 1845) ヒイラギ(Fig. 37) 標 本 BSKU 120769,96.8 mm SL,2016 年 8 月 9 日.

Fig. 39. Lutjanus gibbus ( ヒ メ フ エ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100192, 43.0 mm SL.

Lutjanus russellii (Bleeker, 1849) クロホシフエダイ(Fig. 40) 標 本 BSKU 123208,135.1 mm SL,2017 年 7 月 2 日. Fig. 37. Nuchequula nuchalis ( ヒ イ ラ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120769, 96.8 mm SL.

フエダイ科 Lutjanidae Lutjanus fulvus (Forster, 1801) オキフエダイ(Fig. 38) 標本 KAUM–I. 100026,73.6 mm SL,2016 年 8 月 14 日;KAUM–I. 100758,76.2 mm SL,2016

Fig. 40. Lutjanus russellii ( ク ロ ホ シ フ エ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123208, 135.1 mm SL.

年 10 月 5 日. Lutjanus gibbus (Forsskål, 1775)

クロサギ科 Gerreidae

ヒメフエダイ(Fig. 39)

Gerres equulus Temminck and Schlegel, 1844

標本 KAUM–I. 100192,43.0 mm SL,2016 年 9 月 3 日.

クロサギ(Fig. 41) 標

本 BSKU 120751,97.5 mm SL,BSKU

120752,104.1 mm SL,BSKU 120753,91.7 mm

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SL,2016 年 7 月 23 日;KAUM–I. 100020,88.1 mm SL,KAUM–I. 100562,106.8 mm SL,2016 年 8 月 14 日;BSKU 120835,116.6 mm SL, BSKU 120837,106.2 mm SL,BSKU 120844, 101.6 mm SL,;KAUM–I. 100567,81.0 mm SL, 2016 年 9 月 3 日;KAUM–I. 100756,102.7 mm SL,KAUM–I. 100757,89.4 mm SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100241,62.4 mm SL,KAUM– I. 100242,53.4 mm SL,KAUM–I. 100243,49.7

Fig. 42. Gerres japonicus ( ダイミョウサギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120650, 139.6 mm SL.

mm,KAUM–I. 100244,60.5 mm SL,2016 年 10 月 14 日;KAUM–I. 150864,80.4 mm SL,2017 年 5 月 12 日;BSKU 122682,94.7 mm SL,2017 年 5 月 21 日;KAUM–I. 151033,75.6 mm SL, K A U M – I . 1 5 1 0 3 4, 7 2 . 5 m m S L , K A U M – I . 151035,92.8 mm SL,2017 年 6 月 1 日;KAUM–I. 151052,75.0 mm SL,2017 年 6 月 17 日; K A U M – I . 1 5 1 0 7 0, 8 7 . 8 m m S L , K A U M – I . 151071,101.2 mm SL,KAUM–I. 151072,89.8 mm SL,2017 年 6 月 21 日.

Fig. 43. Gerres microphthalmus ( ヤ マ ト イ ト ヒ キ サ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 122452, 95.6 mm SL.

イサキ科 Haemulidae Diagramma pictum pictum (Thunberg, 1792) コロダイ(Fig. 44) 標本 KAUM–I. 100201,82.0 mm SL,2016 年 Fig. 41. Gerres equulus ( ク ロ サ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120837, 106.2 mm SL.

8 月 19 日. 備考 Johnson et al.(2001)は本亜種を認めて いる.本種の学名を Diagramma picta とする研究

Gerres japonicus Bleeker, 1854

者もいるが,ここでは Johnson et al.(2001)にし

ダイミョウサギ(Fig. 42)

たがう.

標 本 BSKU 120650,139.6 mm SL,2016 年 7 月 2 日;BSKU 123114,167.2 mm SL,2017 年 6 月 17 日. Gerres microphthalmus Iwatsuki, Kimura and Yoshino, 2002 ヤマトイトヒキサギ(Fig. 43) 標 本 BSKU 122452,95.6 mm SL,2017 年 5 月 12 日.

Fig. 44. Diagramma picta pica ( コロダイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100201, 82.0 mm SL.

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Plectorhinchus flavomaculatus (Cuvier, 1830) オシャレコショウダイ(Fig. 45) 標 本 BSKU 120807,98.4 mm SL,2016 年 8 月 19 日.

Fig. 47. Pagrus major ( マダイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123109, 67.2 mm SL.

Fig. 45. Plectorhinchus flavomaculatus ( オシャレコショウダイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120807, 98.4 mm SL.

ヒメジ科 Mullidae Parupeneus ciliatus (Lacepède, 1802) ホウライヒメジ(Fig. 48) 標

本 BSKU 120742,92.8 mm SL,BSKU

Plectorhinchus gibbosus (Lacepède, 1802)

120743,87.5 mm SL,2016 年 7 月 23 日;

クロコショウダイ(Fig. 46)

K A U M – I . 1 0 0 0 1 6, 7 7 . 7 m m S L , K A U M – I .

標 本 BSKU 120998,58.0 mm SL,2016 年 10 月 14 日.

100025,87.7 mm SL,2016 年 8 月 14 日; KAUM–I. 100206,120.1 mm SL,2016 年 10 月 5 日.

Fig. 48. Parupeneus ciliatus ( ホ ウ ラ イ ヒ メ ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100206, 120.1 mm SL.

Fig. 46. Plectorhinchus gibbosus ( ク ロ コ シ ョ ウ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120998, 58.0 mm SL.

Upeneus japonicus (Houttuyn, 1782) ヒメジ(Fig. 49)

タイ科 Sparidae Pagrus major (Temminck and Schlegel, 1843)

標 本 BSKU 123124,97.6 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

マダイ(Fig. 47) 標

本 BSKU 123109,67.2 mm SL,BSKU

ハタンポ科 Pempheridae

123110,70.9 mm SL,BSKU 123112,69.3 mm

Pempheris schwenkii Bleeker, 1855

SL,BSKU 123113,68.7 mm SL,2017 年 6 月 17 日;

ミナミハタンポ(Fig. 50)

KAUM–I. 151074,54.0 mm SL,2017 年 6 月 21 日;

標 本 BSKU 120808,131.0 mm SL,2016 年 8

BSKU 123172,81.4 mm SL,BSKU 123184,78.0

月 14 日;KAUM–I. 100037,142.3 mm SL,2016

mm SL,2017 年 6 月 24 日.

年 8 月 22 日;KAUM–I. 151073,127.0 mm SL,

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2017 年 6 月 21 日.

Nature of Kagoshima Vol. 44

タカノハダイ科 Cheilodactylidae Goniistius zonatus Cuvier, 1830 タカノハダイ(Fig. 52) 標 本 BSKU 120741,130.2 mm SL,2016 年 7 月 23 日;KAUM–I. 100021,134.3 mm SL,2016 年 8 月 14 日;KAUM–I. 100046,224.6 mm SL, 2016 年 8 月 22 日;KAUM–I. 100767,119.3 mm SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100236,224.9

Fig. 49. Upeneus japonicus ( ヒ メ ジ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123124, 97.6 mm SL.

mm SL,KAUM–I. 100610,121.4 mm SL,2016 年 10 月 14 日;BSKU 121298,164.4 mm SL, KAUM–I. 101101,153.4 mm SL,2017 年 1 月 8 日.

Fig. 50. Pempheris schwenkii ( ミナミハタンポ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120808, 131.0 mm SL. Fig. 52. Goniistius zonatus ( タカノハダイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 121298, 164.4 mm SL.

チョウチョウウオ科 Chaetodontidae Chaetodon auripes Jordan and Snyder, 1901 チョウチョウウオ(Fig. 51) 標 本 BSKU 120931,70.6 mm SL,KAUM–I. 100761,69.1 mm SL,2016 年 10 月 5 日;

スズメダイ科 Pomacentridae Abudefduf sordidus (Forsskål, 1775) シマスズメダイ(Fig. 53)

KAUM–I. 151039,17.8 mm SL,2017 年 6 月 10 日;

標 本 BSKU 120851,45.0 mm SL,2016 年 9

KAUM–I. 151060,17.5 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

月 3 日;KAUM–I. 151037,15.0 mm SL,2017 年 6 月 10 日;KAUM–I. 151176,21.4 mm SL,2017 年 7 月 4 日.

Fig. 51. Chaetodon auripes ( チョウチョウウオ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120931, 70.6 mm SL.

Fig. 53. Abudefduf sordidus ( シ マ ス ズ メ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120851, 45.0 mm SL.

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Abudefduf vaigiensis (Quoy and Gaimard, 1825) オヤビッチャ(Fig. 54) 標 本 BSKU 123021,30.5 mm SL,2017 年 6 月 10 日. Fig. 56. Terapon jarbua ( コ ト ヒ キ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123219, 14.2 mm SL.

カゴカキダイ科 Microcanthidae Microcanthus strigatus (Cuvier, 1831) カゴカキダイ(Fig. 57) 標 本 BSKU 120654,47.6 mm SL,KAUM–I. 81948,50.7 mm SL,2016 年 7 月 2 日;KAUM–I. 150854,15.5 mm SL,2017 年 5 月 12 日;BSKU Fig. 54. Abudefduf vaigiensis ( オ ヤ ビ ッ チ ャ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123021, 30.5 mm SL.

122687,41.5 mm SL,BSKU 122688,17.2 mm SL,2017 年 5 月 21 日;KAUM–I. 151057,34.6 mm SL,2017 年 6 月 17 日;BSKU 123171,34.5 mm SL,2017 年 6 月 24 日.

Stegastes altus (Okada and Ikeda, 1937) セダカスズメダイ(Fig. 55) 標 本 BSKU 123182,114.9 mm SL,2017 年 6 月 24 日.

Fig. 55. Stegastes altus ( セ ダ カ ス ズ メ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123182, 114.9 mm SL.

シマイサキ科 Terapontidae

Fig. 57. Microcanthus strigatus ( カゴカキダイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 81948, 50.7 mm SL; B: KAUM–I. 150854, 15.5 mm SL.

Terapon jarbua (Forsskål, 1775) コトヒキ(Fig. 56) 標 本 BSKU 123219,14.2 mm SL,2017 年 7 月 4 日.

メジナ科 Girellidae Girella punctata Gray, 1835 メジナ(Fig. 58) 標本 BSKU 120939,119.8 mm SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100240,90.1 mm SL,2016 年

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10 月 14 日;BSKU 123128,40.2 mm SL,2017 年 6 月 17 日;BSKU 123185,74.8 mm SL,2017 年 6 月 24 日.

Fig. 60. Iniistius dea ( テ ン ス ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123133, 135.7 mm SL.

Fig. 58. Girella punctata ( メジナ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120939, 119.8 mm SL.

Iniistius verrens (Jordan and Evermann, 1902) バラヒラベラ(Fig. 61) 標

ツバメコノシロ科 Polynemidae

本 BSKU 123132,117.5 mm SL,BSKU

123134,150.1 mm SL,BSKU 123138,140.0 mm

Polydactylus plebeius (Broussonet, 1782)

SL,KAUM–I. 151056,131.5 mm SL,2017 年 6

ツバメコノシロ(Fig. 59)

月 17 日.

標本 KAUM–I. 100030,63.9 mm SL,2016 年 8 月 14 日. 備考 スロープの波打ち際で採集された.

Fig. 59. Polydactylus plebeius ( ツバメコノシロ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100030, 63.9 mm SL.

ベラ科 Labridae Iniistius dea (Temminck and Schlegel, 1845) テンス(Fig. 60) 標 本 BSKU 123133,135.7 mm SL,KAUM–I.

Fig. 61. Iniistius verrens ( バ ラ ヒ ラ ベ ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 123134, 150.1 mm SL; B: BSKU 123138, 140.0 mm SL.

151055,188.2 mm SL,2017 年 6 月 17 日. 備考 下記のバラヒラベラとともに港内の浅 い砂地で衰弱した様子の個体が採集された.地元 住民によれば,港内で採集されたこれら 2 種は, 春野漁港に水揚げされたが商業的価値がないため 港内に逃がされた個体である可能性がある.

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Pseudolabrus eoethinus (Richardson, 1846)

ブダイ科 Scaridae

アカササノハベラ(Fig. 62)

Calotomus japonicus (Valenciennes, 1840)

本 KAUM–I. 101099,113.6 mm SL,

KAUM–I. 101100,99.0 mm SL,2017 年 1 月 8 日; BSKU 123167,82.8 mm SL,BSKU 123168,82.5

ブダイ(Fig. 64) 標 本 BSKU 120768,141.6 mm SL,2016 年 8 月 9 日.

mm SL,BSKU 123169,85.2 mm SL,BSKU 123183,119.6 mm SL,BSKU 123187,117.4 mm SL,BSKU 123188,59.6 mm SL,BSKU 123189, 118.2 mm SL,2017 年 6 月 24 日.

Fig. 64. Calotomus japonicus ( ブ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120768, 141.6 mm SL.

Fig. 62. Pseudolabrus eoethinus ( ア カ サ サ ノ ハ ベ ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 101100, 99.0 mm SL.

ベラギンポ科 Trichonotidae Trichonotus sp. ベラギンポ(Fig. 65) 標 本 BSKU 123106,138.5 mm SL,2017 年 6

Thalassoma cupido (Temminck and Schlegel, 1845) ニシキベラ(Fig. 63) 標 本 BSKU 122995,115.0 mm SL,2017 年 6

月 17 日. 備考 学名は Motomura et al.(2010)にしたがっ た.

月 1 日;BSKU 123129,32.7 mm SL,2017 年 6 月 17 日;BSKU 123163,108.4 mm SL,BSKU 123164,87.4 mm SL,BSKU 123165,106.0 mm SL,BSKU 123166,88.9 mm SL,BSKU 123186, 111.5 mm SL,2017 年 6 月 24 日.

Fig. 65. Trichonotus sp. ( ベ ラ ギ ン ポ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123106, 138.5 mm SL.

イソギンポ科 Blenniidae Omobranchus punctatus (Valenciennes, 1836) イダテンギンポ(Fig. 66) 標 本 BSKU 123031,75.7 mm SL,KAUM–I. 151043,79.7 mm SL,2017 年 6 月 10 日. Fig. 63. Thalassoma cupido ( ニシキベラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 122995, 115.0 mm S; B: BSKU 123129, 32.7 mm SL.

Fig. 66. Omobranchus punctatus ( イ ダ テ ン ギ ン ポ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123031, 75.7 mm SL.

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Petroscirtes breviceps (Valenciennes, 1836)

ハゼ科 Gobiidae

ニジギンポ(Fig. 67)

Bathygobius fuscus (Rüppell, 1830)

本 BSKU 123217,16.3 mm SL,BSKU

123218,8.7 mm SL,KAUM–I. 151170,11.9 mm SL,KAUM–I. 151171,10.5 mm SL,KAUM–I.

クモハゼ(Fig. 70) 標

本 BSKU 123029,53.0 mm SL,BSKU

123030,46.1 mm SL,2017 年 6 月 10 日.

151175,11.0 mm SL,2017 年 7 月 4 日. 備考 流れ藻についていた個体が採集された.

Fig. 67. Petroscirtes breviceps ( ニジギンポ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123217, 16.3 mm SL.

Fig. 70. Bathygobius fuscus ( ク モ ハ ゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123029, 53.0 mm SL.

ネズッポ科 Callionymidae

Favonigobius gymnauchen (Bleeker, 1860)

Pseudocalliurichthys variegatus (Temminck and

ヒメハゼ(Fig. 71)

Schlegel, 1845) イトヒキヌメリ(Fig. 68) 標 本 BSKU 120836,95.0 mm SL,2016 年 9

標 本 BSKU 123027,51.2 mm SL,2017 年 6 月 10 日;KAUM–I. 151059,28.1 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

月 3 日.

Fig. 71. Favonigobius gymnauchen ( ヒ メ ハ ゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123027, 51.2 mm SL. Fig. 68. Pseudocalliurichthys variegatus ( イトヒキヌメリ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120836, 95.0 mm SL.

Istigobius campbelli (Jordan and Snyder, 1901) Repomucenus curvicornis (Valenciennes, 1837) ネズミゴチ(Fig. 69) 標 本 KAUM–I. 150863,114.1 mm SL,2017 年 5 月 12 日.

クツワハゼ(Fig. 72) 標 本 BSKU 122680,69.5 mm SL,2017 年 5 月 21 日;BSKU 123025,57.9 mm SL,BSKU 123026,55.9 mm SL,KAUM–I. 151041,66.3 mm SL,KAUM–I. 151042,54.0 mm SL,2017 年 6 月 10 日;BSKU 123136,51.2 mm SL,KAUM–I. 151058,65.8 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

Fig. 69. Repomucenus curvicornis ( ネズミゴチ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 150863, 114.1 mm SL.

Fig. 72. Istigobius campbelli ( クツワハゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 122680, 69.5 mm SL.

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Tridentiger trigonocephalus (Gill, 1859) アカオビシマハゼ(Fig. 73) 標 本 BSKU 123028,52.5 mm SL,2017 年 6 月 10 日;BSKU 123137,25.2 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

Fig. 75. Parioglossus philippinus ( ベニツケサツキハゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123135, 27.4 mm SL.

マンジュウダイ科 Ephippidae Platax orbicularis (Forsskål, 1775) ナンヨウツバメウオ(Fig. 76) 標本 KAUM–I. 100195,59.1 mm SL,KAUM– Fig. 73. Tridentiger trigonocephalus ( アカオビシマハゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123028, 52.5 mm SL.

I. 100196,49.2 mm SL,2016 年 8 月 19 日; BSKU 120847,39.4 mm SL,BSKU 120849,29.0 mm SL,KAUM–I. 100189,75.0 mm SL,2016 年

クロユリハゼ科 Ptereleotridae

9 月 3 日.

Parioglossus dotui Tomiyama, 1958 サツキハゼ(Fig. 74) 標

本 BSKU 123130,42.9 mm SL,BSKU

123131,36.0 mm SL,BSKU 123139(5 個 体 ), 34.9–40.0 mm SL,BSKU 123140,41.3 mm SL,

アイゴ科 Siganidae Siganus fuscescens (Houttuyn, 1782) アイゴ(Fig. 77) 標 本 KAUM–I. 100198,107.9 mm SL,2016

K A U M – I . 1 5 1 0 4 4, 4 2 . 8 m m S L , K A U M – I .

年 8 月 19 日;BSKU 120838,77.5 mm SL,BSKU

151045,40.1 mm SL,KAUM–I. 151046,42.2 mm

120842,68.8 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I.

SL,KAUM–I. 151047,39.0 mm SL,KAUM–I.

100654,125.4 mm SL,KAUM–I. 100655,135.9

151048,32.0 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

mm SL,2016 年 10 月 5 日. ニザダイ科 Acanthuridae Acanthurus dussumieri Valenciennes, 1835 ニセカンランハギ(Fig. 78) 標

本 BSKU 120938,90.7 mm SL,BSKU

120944,123.3 mm SL,2016 年 10 月 5 日. 備考 クロハギの群に混ざって採集された. Fig. 74. Parioglossus dotui ( サ ツ キ ハ ゼ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 123140, 41.3 mm SL; B: BSKU 123131, 36.0 mm SL.

Acanthurus triostegus (Linnaeus, 1758) シマハギ(Fig. 79) 標本 KAUM–I. 100024,73.0 mm SL,KAUM–

Parioglossus philippinus (Herre, 1945)

I. 100027,51.7 mm SL,KAUM–I. 100028,51.8

ベニツケサツキハゼ(Fig. 75)

mm SL,KAUM–I. 100614,74.1 mm SL,KAUM–

標 本 BSKU 123135,27.4 mm SL,2017 年 6 月 17 日.

I. 100615,55.6 mm SL,2016 年 8 月 14 日; KAUM–I. 100199,76.7 mm SL,2016 年 8 月 19 日; BSKU 120850,56.0 mm SL,KAUM–I. 100565, 54.0 mm SL,KAUM–I. 100566,53.9 mm SL, 2016 年 9 月 3 日;KAUM–I. 100762,73.1 mm

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SL,KAUM–I. 100763,59.9 mm SL,KAUM–I. 100764,60.4 mm SL,KAUM–I. 100765,77.8 mm SL,KAUM–I. 100766,67.5 mm SL,2016 年 10 月 5 日.

Fig. 77. Siganus fuscescens ( ア イ ゴ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120838, 77.5 mm SL.

Fig. 78. Acanthurus dussumieri ( ニ セ カ ン ラ ン ハ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120944, 123.3 mm SL.

Fig. 79. Acanthurus triostegus ( シマハギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120850, 56.0 mm SL.

Acanthurus xanthopterus Valenciennes, 1835 Fig. 76. Platax orbicularis ( ナンヨウツバメウオ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120847, 39.4 mm SL.

クロハギ(Fig. 80) 標

本 BSKU 120941,108.5 mm SL,BSKU

120942,78.8 mm SL,KAUM–I. 100634,85.5 mm SL,KAUM–I. 100635,91.1 mm SL,KAUM–I. 100636,100.5 mm SL,KAUM–I. 100637,80.6 mm SL,KAUM–I. 100638,85.0 mm SL,KAUM– I. 100639,95.3 mm SL,KAUM–I. 100640,97.5 mm SL,KAUM–I. 100641,97.1 mm SL,KAUM– I. 100642,93.6 mm SL,KAUM–I. 100643,83.7

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mm SL,KAUM–I. 100644,85.0 mm SL,KAUM– I. 100645,80.7 mm SL,KAUM–I. 100646,85.0 mm SL,KAUM–I. 100647,82.9 mm SL,KAUM– I. 100648,74.4 mm SL,2016 年 10 月 5 日; BSKU 123210,50.5 mm SL,2017 年 7 月 2 日.

Fig. 80. Acanthurus xanthopterus ( ク ロ ハ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120941, 108.5 mm SL.

Prionurus scalprum Valenciennes, 1835

Fig. 81. Prionurus scalprum ( ニ ザ ダ イ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 100193, 52.1 mm SL; B: KAUM–I. 150868, 29.3 mm SL.

ニザダイ(Fig. 81) 標本 KAUM–I. 100193,52.1 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I. 100649,114.0 mm SL, K A U M – I . 1 0 0 6 5 0, 9 6 . 2 m m S L , K A U M – I . 100651,83.6 mm SL,KAUM–I. 100652,96.9 mm SL,KAUM–I. 100653,78.0 mm SL,2016 年 10

Fig. 82. Sphyraena japonica ( ヤ マ ト カ マ ス ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123020, 104.9 mm SL.

月 5 日;KAUM–I. 150868,29.3 mm SL,2017 年 5 月 14 日;BSKU 123190,21.8 mm SL,BSKU 123191,24.5 mm SL,2017 年 6 月 24 日. カマス科 Sphyraenidae Sphyraena japonica Bloch and Schneider, 1801 ヤマトカマス(Fig. 82) 標 本 BSKU 123020,104.9 mm SL,2017 年 6 月 10 日. ヒラメ科 Paralichthyidae Paralichthys olivaceus (Temminck and Schlegel, 1846) ヒラメ(Fig. 83) 標 本 BSKU 120771,116.0 mm SL,2016 年 8 月 9 日;BSKU 120943,227.6 mm SL,KAUM–I. 100657,119.6 mm SL,2016 年 10 月 5 日.

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Fig. 83. Paralichthys olivaceus ( ヒ ラ メ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 120943, 227.6 mm SL; B: BSKU 120771, 116.0 mm SL.


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Pseudorhombus arsius (Hamilton, 1822) テンジクガレイ(Fig. 84) 標 本 BSKU 120854,79.4 mm SL,2016 年 9

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標 本 BSKU 120852,13.8 mm SL,2016 年 9 月 3 日. 備考 スロープの波打ち際で採集された.

月 3 日;KAUM–I. 100625,69.1 mm SL,2016 年 10 月 14 日.

Fig. 84. Pseudorhombus arsius ( テンジクガレイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120854, 79.4 mm SL.

ダルマガレイ科 Bothidae Bothus pantherinus (Rüppell, 1830) トゲダルマガレイ(Fig. 85) 標 本 BSKU 120745,108.0 mm SL,2016 年 7 月 23 日;KAUM–I. 150866,84.0 mm SL,2017 年 5 月 12 日;BSKU 122686,81.0 mm SL,2017 年 5 月 21 日;BSKU 122996,76.9 mm SL,2017 年 6 月 1 日;KAUM–I. 151075,121.1 mm SL, 2017 年 6 月 21 日.

Fig. 86. Triacanthus biaculeatus ( ギ マ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120852, 13.8 mm SL.

カワハギ科 Monacanthidae Paramonacanthus oblongus (Temminck and Schlegel, 1850) ヨソギ(Fig. 87) 備考 KAUM–I. 100188,51.5 mm SL,2016 年 Fig. 85. Bothus pantherinus ( トゲダルマガレイ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120745, 108.0 mm SL.

9 月 3 日. Rudarius ercodes Jordan and Fowler, 1902 アミメハギ(Fig. 88)

ギマ科 Triacanthidae

標本 KAUM–I. 100036,27.2 mm SL,2016 年

Triacanthus biaculeatus (Bloch, 1786)

8 月 22 日;BSKU 120846,53.1 mm SL,BSKU

ギマ(Fig. 86)

120848,35.3 mm SL,2016 年 9 月 3 日;BSKU

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Nature of Kagoshima Vol. 44

123203,16.8 mm SL,2017 年 7 月 2 日;KAUM–I.

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6 月 17 日.

151172,9.8 mm SL,KAUM–I. 151173,15.0 mm SL,KAUM–I. 151174,15.0 mm SL,2017 年 7 月 4 日.

Fig. 89. Stephanolepis cirrhifer ( カワハギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100022, 91.6 mm SL.

Fig. 87. Paramonacanthus oblongus ( ヨ ソ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100188, 51.5 mm SL.

ハコフグ科 Ostraciidae Lactoria cornuta (Linnaeus, 1758) コンゴウフグ(Fig. 90) 標 本 BSKU 120940,55.5 mm SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100249,72.0 mm SL,2016 年 10 月 14 日. 備考 水深 1 m の砂地で採集された.

Fig. 88. Rudarius ercodes ( ア ミ メ ハ ギ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120846, 53.1 mm SL.

Stephanolepis cirrhifer (Temminck and Schlegel, 1850)

Fig. 90. Lactoria cornuta ( コンゴウフグ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120940, 55.5 mm SL.

カワハギ(Fig. 89) 備考 KAUM–I. 81969,87.4 mm SL,KAUM–I. 81973,74.0 mm SL,KAUM–I. 81974,65.3 mm

Ostracion immaculatus Temminck and Schlegel, 1850

SL,2016 年 7 月 23 日;KAUM–I. 100022,91.6

ハコフグ(Fig. 91)

mm SL,KAUM–I. 100023,83.5 mm SL,KAUM–

標 本 BSKU 120845,171.2 mm SL,KAUM–I.

I. 100559,87.8 mm SL,KAUM–I. 100560,74.8

100187,97.7 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I.

mm SL,KAUM–I. 100561,65.8 mm SL,2016 年

150857,154.3 mm SL,2017 年 5 月 12 日;BSKU

8 月 14 日;BSKU 120806,47.4 mm SL,KAUM–I.

123107,10.5 mm SL,2017 年 6 月 17 日;

100202,62.7 mm SL,2016 年 8 月 19 日;

KAUM–I. 151067,69.4 mm SL,2017 年 6 月 21 日.

K A U M – I . 1 0 0 6 5 8, 7 3 . 8 m m S L , K A U M – I . 100659,100.1 mm SL,KAUM–I. 100660,105.4 mm SL,KAUM–I. 100771,98.5 mm SL,2016 年 10 月 5 日;BSKU 123126,59.9 mm SL,2017 年

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

mm SL,2016 年 9 月 2 日;KAUM–I. 100656, 63.7 mm SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100622,56.0 mm SL,KAUM–I. 100623,56.8 mm SL,KAUM–I. 100624,63.5 mm SL,2016 年 10 月 14 日;KAUM–I. 150859,27.7 mm SL, Fig. 91. Ostracion immaculatus ( ハコフグ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120845, 171.2 mm SL.

KAUM–I. 150860,29.7 mm SL,2017 年 5 月 12 日; BSKU 122668,102.5 mm SL,BSKU 122669,30.5 mm SL,BSKU 122670,29.8 mm SL,BSKU 122683,38.3 mm SL,BSKU 122684,30.5 mm

フグ科 Tetraodontidae

SL,2017 年 5 月 21 日;BSKU 123119,31.6 mm

Arothron hispidus (Linnaeus, 1758)

SL,BSKU 123120,53.3 mm SL,2017 年 6 月 17 日;

サザナミフグ(Fig. 92)

BSKU 123173,43.9 mm SL,BSKU 123174,42.0

標 本 BSKU 120805,41.6 mm SL,KAUM–I.

mm SL,2017 年 6 月 24 日.

100203,106.6 mm SL,2016 年 8 月 19 日; KAUM–I. 100247,79.6 mm SL,2016 年 10 月 14 日; KAUM–I. 150865,67.4 mm SL,2017 年 5 月 12 日; KAUM–I. 150869,62.8 mm SL,2017 年 5 月 14 日.

Fig. 92. Arothron hispidus ( サザナミフグ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100247, 79.6 mm SL.

Canthigaster rivulata (Temminck and Schlegel, 1850)

Fig. 93. Canthigaster rivulata ( キ タ マ ク ラ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. A: BSKU 122668, 102.5 mm SL; B: KAUM–I. 150859, 27.7 mm SL.

キタマクラ(Fig. 93) 標 本 BSKU 120653,35.8mm SL,KAUM–I. 81946,45.0 mm SL,2016 年 7 月 2 日;BSKU

Takifugu alboplumbeus (Richardson, 1845)

120748,39.0 mm SL,BSKU 120749,40.0 mm

クサフグ(Fig. 94)

SL,BSKU 120750,47.1mm SL,KAUM–I.

標本 KAUM–I. 151076,23.1 mm SL,KAUM–

81971,45.5 mm SL,KAUM–I. 81972,48.0 mm

I. 151077,19.1 mm SL,KAUM–I. 151078,117.8

SL,2016 年 7 月 23 日;BSKU 120774,44.7mm

mm SL,KAUM–I. 151080,81.1 mm SL,2017 年

SL,BSKU 120775,45.3mm SL,2016 年 8 月 9 日;

6 月 21 日;BSKU 123160,89.9 mm SL,

KAUM–I. 100017,47.3 mm SL,2016 年 8 月 14 日;

BSKU123162(2 個 体 ),13.0–14.0 mm SL,2017

KAUM–I. 100039,111.9 mm SL,KAUM–I.

年 6 月 22 日[ ハ ナ オ コ ゼ(BSKU 123161,29.0

100575,46.3 mm SL,KAUM–I. 100576,52.8 mm

mm SL)の胃内容物].

SL,KAUM–I. 100577,52.1 mm SL,KAUM–I.

備考 本種の学名は Matsuura(2017)に,同

100578,48.1 mm SL,KAUM–I. 100579,47.7 mm

定は松浦(2017)にそれぞれしたがった.春野漁

SL,2016 年 8 月 22 日;KAUM–I. 100182,56.5

港内ではコモンフグが優占種で,クサフグは 6 月

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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21 日と 22 日の調査以外では採集されていない.

K A U M – I . 1 0 0 7 5 3, 7 9 . 6 m m S L , K A U M – I .

6 月の調査で採集されたオスのクサフグ(KAUM–

100754,80.7 mm SL,KAUM–I. 100755,93.6 mm

I. 151078,117.8 mm SL)は痩せて衰弱しており,

SL,2016 年 10 月 5 日;KAUM–I. 100616,77.0

採集直後に精子を放出した.また,6 月の調査で

mm SL,KAUM–I. 100617,74.8 mm SL,KAUM–

体長 10–20 mm 程度のクサフグが多数観察された

I. 100618,72.5 mm SL,KAUM–I. 100619,66.3

ことから,春野町沿岸でのクサフグの産卵期は 6

mm SL,2016 年 10 月 14 日;KAUM–I. 150856,

月前後と推測された.

105.6 mm SL,2017 年 5 月 12 日;KAUM–I. 150867,19.4 mm SL,2017 年 5 月 14 日;BSKU 123175,57.0 mm SL,BSKU 123176,50.9 mm SL,2017 年 6 月 24 日. 備考 本種の学名は Matsuura(2017)に,同 定は松浦(2017)にそれぞれしたがった.

Fig. 94. Takifugu alboplumbeus ( クサフグ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 123160, 89.9 mm SL.

Takifugu flavipterus Matsuura, 2017 コモンフグ(Fig. 95) 標

本 BSKU 120746,109.0 mm SL,BSKU

Fig. 95. Takifugu flavipterus ( コモンフグ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100015, 167.1 mm SL.

120747,118.2 mm SL,KAUM–I. 81968,124.9 mm SL,KAUM–I. 81970,130.8 mm SL,2016 年 7 月 23 日;BSKU 120776,71.7 mm SL,BSKU

Takifugu pardalis (Temminck and Schlegel, 1850)

120777,69.7 mm SL,BSKU 120778,72.5 mm

ヒガンフグ(Fig. 96)

SL,BSKU 120779,61.7 mm SL,KAUM–I.

標 本 BSKU 120773,159.7 mm SL,2016 年 8

100003,73.8 mm SL,KAUM–I. 100004,68.1 mm

月 9 日;BSKU 120809,208.0 mm SL,KAUM–I.

SL,KAUM–I. 100005,69.3 mm SL,KAUM–I.

100014,269.1 mm SL,2016 年 8 月 14 日;

100006,64.0 mm SL,KAUM–I. 100007,64.1 mm

KAUM–I. 81941,138.9 mm SL,2016 年 7 月 2 日;

SL,KAUM–I. 100008,58.6 mm SL,KAUM–I.

KAUM–I. 81967,181.1 mm SL,2016 年 7 月 23 日;

100009,68.2 mm SL,KAUM–I. 100010,64.8 mm

KAUM–I. 100042,191.7 mm SL,2016 年 8 月 22 日;

SL,2016 年 8 月 9 日;BSKU 120780,61.5 mm

KAUM–I. 100563,152.5 mm SL,KAUM–I.

SL,KAUM–I. 100015,167.1 mm SL,KAUM–I.

100564,98.3 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I.

100018,110.6 mm SL,2016 年 8 月 14 日;

100747,127.8 mm SL,KAUM–I. 100748,90.3

K A U M – I . 1 0 0 0 4 0, 7 9 . 8 m m S L , K A U M – I .

mm SL,KAUM–I. 100749,158.1 mm SL,

100041,72.4 mm SL,2016 年 8 月 22 日;

KAUM–I. 100750,163.5 mm SL,2016 年 10 月 5 日;

KAUM–I. 100568,118.5 mm SL,KAUM–I.

KAUM–I. 150855,163.5 mm SL,2017 年 5 月 12 日;

100569,111.0 mm SL,KAUM–I. 100570,115.2

208.4 mm SL,2017 年 6 月 21 日. KAUM–I. 151068,

mm SL,KAUM–I. 100571,123.0 mm SL, K A U M – I . 1 0 0 5 7 2, 8 0 . 5 m m S L , K A U M – I . 100573,76.9 mm SL,KAUM–I. 100574,125.6 mm SL,2016 年 9 月 3 日;KAUM–I. 100751, 78.1 mm SL,KAUM–I. 100752,70.3 mm SL,

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備考 同定は松浦(2017)にしたがった.


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Nature of Kagoshima Vol. 44 Johnson, J. W., Randall, J. E. and Chenoweth, S. F. 2001. Diagramma melanacrum new species of haemulid fish from Indonesia, Borneo and the Philippines with a generic review. Memoirs of the Queensland Museum, 46: 657–676. 蒲原稔治.1960.高知県沖ノ島及びその付近の沿岸魚類. 高知大学学術研究報告.自然科学編,9: 15–30.

Fig. 96. Takifugu pardalis ( ヒ ガ ン フ グ ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. BSKU 120773, 159.7 mm SL.

ハリセンボン科 Diodontidae Diodon holocanthus Linnaeus, 1758 ハリセンボン(Fig. 97) 標 本 KAUM–I. 100183,169.0 mm SL,2016 年 9 月 2 日.

木村 翼・阿部航太郎・松本卓也・中村洋平.2013.高知 県横浪林海実験所前の海底環境と魚類群集.黒潮圏科 学,6: 194–206. Last, P. R., Naylor, G. J. P. and Manjaji-Matsumoto, B. M. 2016. A revised classification of the family Dasyatidae (Chondrichthyes: Myliobatiformes) based on new morphological and molecular insights. Zootaxa, 4139: 345–368. 馬渕浩司・林 公義・Thomas H. Fraser.2015.テンジクダイ 科の分類体系にもとづく亜科・族・属の標準和名の提唱. 魚類学雑誌,62: 29–49. Matsuura, K. 2017. Taxonomic and nomenclatural comments on two puffers of the genus Takifugu with description of a new species, Takifugu flavipterus, from Japan (Actinopterygii, Tetraodontiformes, Tetraodontidae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series A, Zoology, 43: 71–80. 松浦啓一.2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,平塚. xiv + 127 pp.

Fig. 97. Diodon holocanthus ( ハ リ セ ン ボ ン ) from Haruno, Kochi Prefecture, Japan. KAUM–I. 100183, 169.0 mm SL.

謝辞 上阪健太氏と丸山悠太氏をはじめとする高知 大学理工学部海洋生物学研究室の皆さまには標本 の採集・登録作業に多大なご協力を頂いた.以上 の方々に心よりお礼を申し上げる.本研究の一部 は JSPS 研究奨励費(PD: 16J00047)の援助を受 けた. 引用文献 平田智法・小栗聡介・平田しおり・深見裕伸・中村洋平・ 山岡耕作.2011.高知県横浪半島のサンゴ群集域にみ られる魚類群集の季節的変化.魚類学雑誌,58: 49–64. 平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大 西信弘.1996.高知県柏島の魚類相 行動と生態に関 する記述を中心として.高知大学海洋生物教育研究セ ンター研究報告,16: 1–177. 細谷和梅.2013.コイ科.Pp. 308–327, 1813–1819.中坊徹 次(編),日本産魚類検索 全種の同定.第三版.東海 大学出版会,秦野.

Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara, G., Meguro, M., Matsunuma, M., Takata, Y., Yoshida, T., Yamashita, M., Kimura, S., Endo, H., Murase, A., Iwatsuki, Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi, H. and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–248. Motomura, H. and Matsuura, K. (eds.). Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. 中坊徹次(編).2013.日本産魚類検索 全種の同定.第三 版.東海大学出版会,秦野.l + 2428 pp. 中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編).2001.以 布利 黒潮の魚.海遊館,大阪.300 pp. Polanco Fernandez, A., Acero, P. A. and Betancur-R., R. 2016. No longer a circumtropical species: revision of the lizardfishes in the Trachinocephalus myops species complex, with description of a new species from the Marquesas Islands. Journal of Fish Biology, 89: 1302–1323. 笹木大地・木村清志.2011.沖縄県と鹿児島県で採集され た日本初記録のトウゴロウイワシ科魚類ミナミギンイ ソイワシ(新称)Hypoatherina temminckii.魚類学雑誌, 58: 87–91. Sasaki, D. and Kimura, S. 2012. Descriptions of two new silversides, Hypoatherina golanii and Hypoatherina lunata, from the Indo-West Pacific (Atheriformes: Atherinidae). Ichthyological Research, DOI: DOI 10.1007/s10228-012-0318-7 (60: 103–111). Sasaki, D. and Kimura, S. 2014. Taxonomic review of the genus Hypoatherina Schultz 1948 (Atheriniformes: Atherinidae). Ichthyological Research, DOI: DOI 10.1007/s10228-0140391-1 (61: 207–241).

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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたサバ科魚類ニジョウサバ 1

2

3

畑 晴陵 ・前川隆則 ・中江雅典 ・本村浩之 1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

3

4

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産

〒 305–0005 茨城県つくば市天久保 4–1–1 国立科学博物館動物研究部 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ニジョウサバ Grammatorcynus bilineatus (Rüppell, 1836) はスズキ目サバ科ニジョウサバ属に属し, 紅海からトケラウ,日本にかけてのインド・太平 洋 に 広 く 分 布 す る(Collette and Nauen, 1983; Collette and Gills, 1992).本種は沖縄県において 多獲され,食用に供されるが,腐りやすいことか ら,沖縄県においては「くさらー」と称される (Kishinouye, 1923; 具 志 堅,1972; Collette and Nauen, 1983;中村,1997).しかし,ニジョウサ バは鹿児島県以北では稀であり,これまで鹿児島 県内において,薩摩半島西岸,甑列島下甑島,お よび大隅諸島屋久島からのみ記録されていた(畑 ほか,2011;Motomura and Harazaki, 2017). 2017 年 5 月 15 日にニジョウサバと同定される 1 個体が奄美大島において採集された.本標本は 奄美群島における本種の標本に基づく初めての記 録であるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Marr and Schaefer (1949) とそ れを改変した Gibbs and Collette (1967) にしたがっ Hata, H., T. Maekawa, M. Nakae and H. Motomura. 2017. Record of Grammatorcynus bilineatus (Perciformes: Scombridae) from Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 73–76. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 11 Nov. 2017 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-011.pdf

た.標準体長は体長と表記し,各部の計測はデジ タルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.ニ ジョウサバの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮 影された奄美大島産の標本(NSMT-P 131105)の カラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影, および固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告に用いた標本は,国立科学博物館に保管されて いる.本研究で用いられている研究機関略号は以 下の通り.FAKU -京都大学;KAUM -鹿児島 大学総合研究博物館;NSMT -国立科学博物館. 結果と考察 Grammatorcynus bilineatus (Rüppell, 1836) ニジョウサバ (Fig. 1) 標 本 NSMT-P 131105, 体 長 425.8 mm, 尾 叉 長 445.9 mm,鹿児島県奄美大島近海(名瀬漁港 で購入),2017 年 5 月 15 日,前川隆則. 記載 背鰭 12 棘 14 軟条;体背縁上の小離鰭 7 個;臀鰭 12 軟条;体腹縁上の小離鰭 6 個;胸鰭 23 軟条;腹鰭 1 棘 5 軟条;第 1 鰓弓上枝鰓耙 4 本; 下枝鰓耙 17 本;総鰓耙 21 本. 体 各 部 の 尾 叉 長 に 対 す る 割 合(%): 頭 長 21.1; 吻 端 か ら 第 1 背 鰭 起 部 に か け て の 距 離 29.0; 吻 端 か ら 第 2 背 鰭 起 部 に か け て の 距 離 54.7;吻端から臀鰭起部にかけての距離 59.9;吻 端から胸鰭基底上端までの距離 21.6;吻端から腹 鰭起部にかけての距離 24.9;最大体高 21.5;胸鰭 長 13.1;腹鰭長 7.2;腹鰭起部から肛門先端まで の距離 33.4;胸鰭基底上端から第 1 背鰭起部にか けての距離 13.7;第 1 背鰭基底長 25.9;第 2 背鰭

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Fig. 1. Fresh specimen of Grammatorcynus bilineatus. NSMT-P 131105, 445.9 mm fork length, off Amami-oshima island, Amami Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

基底長 8.7;背鰭最長棘(第 2 棘)長 8.8;第 1 背

に長い楕円形.尾柄部側面には中央と体背縁付近,

鰭第 1 棘長 6.3;吻長 7.7;眼窩径 5.1;虹彩径 3.3;

および体腹縁付近に前後方向に細長い隆起線が 1

上顎長 9.5;尾柄高 3.9;最大体幅 12.6.

本ずつ入る.体は細かい円鱗に被われるが,瞳孔

体は前後方向に長い長楕円形で,やや側扁し,

中央よりも前方の頭部は無鱗.側線は 2 本あり,

体高は第 1 背鰭第 7 棘起部で最大.体背縁は第 1

上方分枝は鰓蓋後方から始まり,体背縁とほぼ平

背鰭基底後端にかけて緩やかに上昇し,そこから

行に体側上部をはしり,尾鰭基底で終わる.側線

尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降する.体腹縁

分枝の下方のものは第 1 背鰭第 5 棘起部直下で上

は下顎先端から第 1 背鰭第 10 棘起部直下にかけ

方分枝から下方に分かれ,瞳孔下縁付近の高さで

て緩やかに下降し,そこから尾鰭基底下端にかけ

斜め後方に向かい,前鰓蓋骨下縁付近の高さで体

て緩やかに上昇する.胸鰭基底先端は鰓蓋後端よ

腹縁とほぼ平行となり,後方へ向かう.2 本の側

りも僅かに後方に位置する.胸鰭後端は尖り,第

線分枝は後方から 2 番目の背側の小離鰭直下付近

1 背鰭第 5 棘起部直下に達する.胸鰭の上縁と後

でする.

縁はともに直線状.腹鰭起部は胸鰭基底下端より

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は緑がかった黒

も僅かに前方,腹鰭基底後端は背鰭起部よりも前

色を呈し,体側上部は黄緑色を呈し,体側中央部

方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門に達し

から体腹面にかけては黄色がかった銀白色.体腹

ない.腹部には腹鰭をたたむことのできる溝がな

面には小黒色斑が前後方向に並ぶ.第 1 背鰭は灰

い.第 2 背鰭起部は第 1 背鰭基底後端に近接し,

色を呈し,縁辺部は茶色がかった黒色.第 2 背鰭

臀鰭起部よりも前方に位置する.第 2 背鰭と臀鰭

と背側の小離鰭は黒がかった茶色.胸鰭は灰色を

は何れも鎌状を呈し,前部は伸長する.第 2 背鰭

呈し,上縁は黒色.腹鰭は茶色がかった灰色.臀

と臀鰭は後方にそれぞれ 7 個と 6 個の小離鰭をそ

鰭は白色を呈し,前部は紫がかった黒色.腹側の

なえる.尾鰭は二叉形を呈し,深く湾入する.吻

小離鰭は紫がかった灰色.尾鰭は暗褐色を呈し,

端は尖り,下顎は上顎よりも僅かに突出する.口

両葉の中央部は黄緑色.虹彩は銀色を呈し,瞳孔

裂は大きく,上顎後端は露出し,瞳孔前縁より僅

は暗青色.

かに後方に位置する.両顎には小円錐歯が 1 列に

分布 紅海からトケラウ,日本にかけてのイ

ならび,鋤骨と口蓋骨には小円錐歯が密生する.

ンド・太平洋に広く分布する(Kishinouye, 1923;

鰓蓋と前鰓蓋骨の後縁はともに円滑.眼と瞳孔は

Collette and Nauen, 1983; Collette and Gills, 1992;

ともに正円形.眼隔域は平坦.鼻孔は 2 対で,前

益 田・ 小 林,1994; Collette, 2001; Kimura, 2009;

鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方に位

中坊・土居内,2013; Hata, 2017).日本国内では

置する.肛門は臀鰭起部前方に位置し,前後方向

これまで高知県以布利,甑列島下甑島,薩摩半島

74


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西岸,大隅諸島屋久島,および琉球列島(確かな

Nature of Kagoshima Vol. 44

効ではないと考えられる.

記録は沖縄諸島以南)から記録されていたが

Grammatorcynus bilineatus は Kishinouye (1923)

(Kishinouye, 1923; Kuiter, 1992; 鳥 居,2001; 畑

によって琉球列島から報告されて以降,沖縄県内

ほか,2011;中坊・土居内,2013;Motomura and

各地から報告されてきた(例えば蒲原,1965;具

Harazaki, 2017),本研究により,新たに奄美大島

志 堅,1972; Collette and Gills, 1992; Kuiter, 1992;

における分布が確認された.

中村,1997; Senou et al., 2006, 2007).しかし,鹿

備考 奄美大島産の標本は,側線が第 1 背鰭

児島県以北における記録は乏しく,鳥居(2001)

下方で分枝し 2 本となり,尾柄部で再結合するこ

が高知県土佐清水市以布利から得られた 1 個体

と,尾柄部に前後方向に細長い隆起線が体背縁付

(FAKU 68214,体長 41.7 cm)を報告,畑ほか(2011)

近と体腹縁付近に 1 本ずつはいり,その中間に前

が甑列島下甑島から得られた 1 個体(KAUM–I.

後 方 向 に 長 い 隆 起 線 が 1 本 あ る こ と な ど が,

16277,尾叉長 265.7 mm)と南さつま市笠沙町沖

Collette and Nauen (1983) や,Collette and Gills

か ら 得 ら れ た 2 個 体(KAUM–I. 9017, 尾 叉 長

(1992),および Collette (2001) によって定義され

439.3 mm, KAUM–I. 14711,尾叉長 194.0 mm)を

た Grammatorcynus 属の標徴と一致した.さらに,

報 告, お よ び Motomura and Harazaki (2017) が 水

眼径が尾叉長の 5.1% であること,第 1 鰓弓総鰓

中写真に基づいて大隅諸島屋久島から報告したも

耙 数 が 21 で あ る こ と な ど の 特 徴 が Collette and

のに限られる.中坊・土居内(2013)は本種の日

Nauen (1983) や Collette and Gills (1992), お よ び

本国内における分布を高知県以布利と琉球列島と

Collette (2001) の報告した G. bilineatus の標徴とよ

したが,本研究において,本種の奄美群島におけ

く一致したため,本種と同定された.また,この

る記録は確認されず,同地域の魚類相を扱った本

標本の計数・計測値は,畑ほか(2011)によって

村・松浦(2014)にも記録されていない.したがっ

示された G. bilineatus の値と概ね一致した.

て,記載標本は奄美群島における本種の初めての

本種との唯一の同属他種でオーストラリアと ニューギニア島から記録のある Grammatorcynus

記録となる. 比 較 標 本 ニ ジ ョ ウ サ バ Grammatorcynus

bicarinatus (Quoy and Gaimard, 1825) は,G.

bilineatus(4 個 体, 尾 叉 長 194.0–579.6 mm): 畑

bilineatus と比較して,眼が小さく眼径が尾叉長

ほか(2011)で示された 3 個体(鹿児島県南さつ

の 3.1–4.6%(G. bilineatus で は 4.0–6.0%), 第 1

ま市,下甑島産)および以下の 1 個体.KAUM–I.

鰓弓の総鰓耙数が少なく 14 あるいは 15(18–24)

200023,尾叉長 579.6 mm,鹿児島県枕崎市沖,

であることにより識別される(Collette and Nauen,

釣り(枕崎市魚類市場で購入),2015 年 6 月 2 日,

1983; Collette and Gills, 1992; Collette, 2001).なお,

岩坪洸樹・森 幸二.

Collette and Nauen (1983), Collette and Gills (1992), および Collette (2001) は,これら 2 形質に加え,G.

謝辞

bicarinatus では体腹面に多数の小黒斑を有し,G.

本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学

bilineatus ではそれがみられないことを 2 種の識

総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類

別形質に挙げた.しかし,本研究における記載を

学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本

おこなった奄美大島産標本(NSMT-P 131105,尾

の作製・撮影に際しては国立科学博物館の篠原現

叉 長 445.9 mm) の ほ か, 比 較 標 本 の KAUM–I.

人博士,栗岩 薫博士ならびに鹿児島大学総合研

9017(尾叉長 439.3 cm),KAUM–I. 200023(尾叉

究博物館の森下悟至氏に多大なご協力を頂いた.

長 579.6 cm)においても体腹面に小黒色斑が多数

以上の方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は

観察された.これらの標本はいずれもその他の形

鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の

質において G. bilineatus に同定されたことから,

多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.

体腹面の小黒色斑の有無は 2 種の識別において有

本 研 究 の 一 部 は JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 29-

75


Nature of Kagoshima Vol. 44

6652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 科 研

費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Collette, B. B. 2001. Scombridae. Pp. 3721–3756 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H., eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 6, no. 4. FAO, Rome. Collette, B. B. and Gills, G. B. 1992. Morphology, systematics, and biology of the double-lined mackerels (Grammatorcynus, Scombridae). Fishery Bulletin, 90: 13–53. Collette, B. B. and Nauen, C. E. 1983. FAO species catalogue. Vol. 2. Scombrids of the world. An annotated and illustrated catalogue of tunas, mackerels, bonitos and related species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 2 (125): 1–137. Gibbs, R. H. and Collette, B. B. 1967. Comparative anatomy and systematic of the tunas, genus Thunnus. Fishery Bulletin, 66: 65–130. 具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp. Hata, H. 2017. Grammatorcynus bilineatus (Rüppell 1836). P. 212. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S., eds. Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 畑 晴陵・伊東正英・山田守彦・本村浩之.2011.鹿児島 県から得られたサバ科ニジョウサバ Grammatorcynus bilineatus の記録.Nature of Kagoshima, 37: 67–70.

76

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鹿児島県のニホンアナグマ Meles anakuma の現状について -交通事故死個体数と捕獲数の年次変化から- 船越公威・松元海里 1

〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8 丁目 34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室

はじめに 食 肉 目 イ タ チ 科 の ニ ホ ン ア ナ グ マ Meles anakuma(以下,アナグマ)は,日本固有種で本州, 四国および九州に生息している(Kaneko, 2015). 高山帯の混交林,低山帯の落葉広葉樹林および都 市近郊や里山まで広く分布し,その生活史,生態 や行動については各地域で調査されている(金子, 2001, 2002, 2008;Tanaka et al., 2002;Tanaka, 2005;船越・重信,2006;Kaneko et al., 2009;鮫 島ほか,2015;島田・落合,2016).九州地方の 各県では個体数が増加傾向にあるようで,有害駆 除数も年々増加している.特に,鹿児島県では有 害駆除数が近年急増しており,年間 5 千頭前後の 捕獲数について,国内外から適切な駆除数である かどうか懸念されている.そこで,県内各地域の

佐,鹿児島,南薩および大隅地域)に,道路パト ロール日誌が作成されており,ロードキル個体が 種別に記載されている.種の判定については,現 場で作業されている方に事前に各種の仮剥製をみ せ,識別されていることを確認した.今回は,姶 良・伊佐,大隅(北東部)および南薩の 3 地域に ついて,2008–2016 年度のアナグマの記録を活用 した.各地域の面積は異なるため,各地域でパト ロールされている道路の総延長距離が違ってい る.そのため,各地域の年度別のロードキル個体 数を 100 km 当たりの個体数に換算して比較を 行った.加えて,タヌキについても同様の個体数 を算出してアナグマとの関係を調べた.各地域の 土地面積に対する森林面積の割合は,姶良・伊佐 で 68.2 %, 大 隅 北 東 部 で 54.3 % お よ び 南 薩 で

アナグマの交通事故死亡(以下,ロードキル)個 体数の変化が生息個体数(密度)の相対的な変化 を反映していると想定して,生息個体数が増加傾 向にあるのかどうか,それと連動して捕獲数が増 加しているのかどうかを検証した.また今後のア ナグマの保全について言及した. 資料収集と方法 鹿児島県では各地域別(図 1:北薩,姶良・伊 Funakoshi, K. and K. Matsumoto. 2018. Present status of Japanese badger, Meles anakuma, on the basis of the data for roadkill and hunting in Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 77–83. KF: Biological Laboratory, Faculty of International University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima 891– 0197, Japan (e-mail: funakoshi@int.iuk.ac.jp). Published online: 9 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-012.pdf

図 1.鹿児島県内の各地域振興局(各地域の道路パトロール を管轄する部署).

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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図 2.アナグマの交通事故死個体数/ 100 km の年次変化.A,姶良・伊佐地域;B,大隅(北東部)地域;C, 南薩地域.

51.8 % である(鹿児島県環境林務部, 2016).一方, 耕地面積の割合は,それぞれ 14.2 %,24.9 % お よび 20.4 % である(鹿児島県農政部,2016).各 年度のアナグマ捕獲数の変化を知るため,鹿児島 県環境林務部自然保護課野生生物係から資料を入 手した.ロードキル個体数と捕獲数の年次変化を 比較検討して,鹿児島県におけるアナグマの現状 を考察した.

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結果 地域別のロードキル個体数の年次変化 ロードキルの記録を収集した地域は,姶良・伊 佐,大隅北東部および南薩の 3 地域である(図 1). 各地域で管轄する巡回道路の総延長は姶良・伊佐 で 391 km,大隅北東部で 88 km および南薩で 266 km であった.そこで,各年度のロードキル個体


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Nature of Kagoshima Vol. 44

数について巡回道路 100 km 当たりの個体数に換

地域別の捕獲個体数と鹿児島県の総捕獲数の年次変化

算し,姶良・伊佐と大隅北東部では 2008–2016 年,

鹿児島県の有害捕獲許可による 2010 年度以降

南薩では 2011–2016 年のアナグマのロードキル個

のアナグマ捕獲数(くくり罠か箱罠による)の推

体数の変化を図示した(図 2).その結果,2008

移についてみると,姶良・伊佐では年々増加して

年度以降 2012 年度まで,3 地域において目立っ

おり,2016 年度には 2010 年度の 7.6 倍に達して

た増加はみられなかった.しかし,姶良・伊佐と

いた(表 1).大隅(北東部と南西部を含める)

南 薩 で 2013 年 度 か ら 急 増 し, 姶 良・ 伊 佐 で は

や南薩でも同様に顕著な急増を示していた.鹿児

2015 年度に 2009 年度(5 頭)の 4 倍(20 頭)に

島全県の狩猟・有害捕獲数の年次的変化(図 5)

達し,南薩では 2016 年度に 2011 年度(5 頭)の

をみると,2005–2008 年度まで 200 頭以下で目立っ

9 倍(47 頭)に達した(図 2A, C).大隅北東部

た増加はみられなかったが,2009 年度から 2012

では遅れて 2016 年度に急増して 2015 年度(8 頭)

年度にかけて漸増し,その後 2014 年度を除いて

の 4 倍(32 頭)に達した(図 2B).

急増し続け 2016 年度には約 5,800 頭に及んだ.

月別のロードキル個体数の変化を知るため,個 体数が多かった 2016 年度の各地域の月別個体数

考察

変化をまとめた(図 3).姶良・伊佐では 5 月(13

アナグマの現状

頭)が最も多く,次いで 7–9 月に多く,10–12 月

鹿児島県内では林内(広葉樹林や雑木林)の比

には半減しているが,冬季にも交通事故で死亡し

較的乾燥した斜面に巣穴の入口が見つかることが

ていた(図 3A).大隅北東部では 3–5 月に多く(6–7

多い(船越・重信,2006).夜間の活動は日没後

頭),次いで夏季 8 月に 4 頭であった(図 3B).

の午後 8 時前後にピークがあり,その後は断続的

南薩では 5 月(25 頭)が最も多く,次いで 4 月,

に活動し,再び日の出前の 5 時前後にピークがみ

8 月および 3 月(23, 21, 18 頭)に多かった(図

られる.加えて,子育て時期の 5 月には母親は昼

3C).

間でも頻繁に活動している(船越・重信,2006).

タヌキのロードキル個体数について,アナグマ

アナグマにおける月別のロードキル個体数をみ

と同様に巡回道路 100 km 当たりの個体数に換算

ると 4–5 月に多いが,この多くは子育て中の雌や

し各地域の個体数変化を図示した(図 4).その

自立途上の幼獣個体と推察される.次いでロード

結果,各地域で変動パターンが異なり,姶良・伊

キル個体数の多い 7–9 月は交尾時期と考えられる

佐では 2008 年度から 2009–2011 年度に増加した

ので,その多くは交尾に関連した活発な雄の可能

(12–13 頭 ) 後,2012 年 度 に 急 増 し(23 頭 ),

性が高い.また春先 3 月にロードキル個体数が比

2013 年度から減少した(図 4A).大隅北東部で

較的多いが,その原因の一つとして,この時期は

は他の地域に比べてロードキル個体数が顕著(100

蓄積脂肪の減少などで体重が減っている(金子,

頭前後)で,2013 年度から増加傾向にあり 2015

2001, 2008)ため,採食のための頻繁な巣外活動

年 度 に は 250 頭 に 達 し た( 図 4B). 南 薩 で は

で交通事故に遭遇する機会が増大したためと思わ

2013 年度をピーク(20 頭)としてそれ以降減少

れる.今後,ロードキル個体の性・年齢を精査す

傾向にあった(図 4C).

ることによって,上記の点が明らかにされると期

表 1.鹿児島県の 3 地域における有害捕獲許可によるアナグマ捕獲数の推移 *. 地域\年度 姶良・伊佐 大隅 ** 南薩

2010 185 152 3

2011 206 217 13

2012 351 202 19

2013 794 250 362

2014 791 349 386

2015 1,352 620 626

2016 1,407 477 1,050

* 鹿児島県環境林務部自然保護課野生生物係の資料に基づく. ** 大隅地域は北東部と南西部を含む.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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図 3.各地域の 2016 年度におけるアナグマの月別交通事故死個体数の変化.A,姶良・伊佐地域;B,大隅(北 東部)地域;C,南薩地域.

待される.

し 2015 年の 4 倍に達していた.これらの急増は

以上,ロードキル個体数の月変化の要因を探っ

県内 3 地域のデータに基づくが,他の地域でも同

たが,年間におけるロードキル個体数の変化は,

様と思われる.高密度化によって行動圏や社会構

上記の点に加えて,各地域の個体数密度や行動圏

造がどのように変化するのか,それらによって

(金子,2002; Tanaka et al., 2002)の変化に関係し

ロードキル個体数がどう変化するのか検討する必

た路上出現頻度の高さが反映していると考えられ

要がある.イギリスのヨーロッパアナグマ Males

る.姶良・伊佐と南薩においてロードキル個体数

males では,社会的集団(5–12 頭)を形成し高密

は 2013 年から急増し,2016 年には 2012 年に比

度下では高順位の雌だけが繁殖に関与する(Neal,

べてそれぞれ 2 倍,9 倍となって高止まりしてい

1977; Woodroffe and Macdonald, 1995). し か し,

た.一方,大隅北東部では遅れて 2016 年に急増

ニホンアナグマはグループを形成せず単独雌の母

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Nature of Kagoshima Vol. 44

図 4.タヌキの交通事故死個体数/ 100 km の年次変化.A,姶良・伊佐地域;B,大隅(北東部)地域;C, 南薩地域.

子を単位にしている(金子,2008)ので、雌間の

棄地(荒廃農地)の割合は 18.0 % で高く,姶良・

高密度による個体数調節はみられず,食物などの

伊佐(21 頭 /100 km)では 10.1 %,大隅北東部(8

条件さえ良ければ増加の一途をたどると予想され

頭 /100 km)では 9.5 % で比較的に低かった.加

る.

えて,耕作地において廃棄される高栄養の作物残

ロードキル個体数の急増から推測される生息個

渣の利用が繁殖率向上に寄与しているかもしれな

体数の増加の要因について,環境条件の変化から

い.一方,姶良・伊佐の森林面積の割合(68.2 %)

みると,例えば,アナグマの生活域を広げる要因

は,3 地域の中で最も高い.この森林率の高さは,

の一つとして耕作放棄地の拡大が考えられる.耕

ねぐら場所(巣穴)や林縁域の採餌場(特に,腐

作放棄地は年々漸増しており(鹿児島県農政部,

葉土が多くミミズが豊富な場所)の提供(金子,

2016),2015 年度のロードキル個体数の多かった

2002)に大きく寄与しており,移動の際の道路の

南薩(38 頭 /100 km)の耕地面積に対する耕作放

横断の頻度を下げていると思われる.これは,ロー

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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図 5.鹿児島県におけるアナグマの狩猟・有害捕獲数の年次変化.

ドキル個体数が緩やかに増加しながらも比較的に

異なって減少傾向にあった.この相反する現象は,

低い状態が保たれていることに示されているかも

両種間における干渉でタヌキが減る一方でアナグ

しれない.

マが増えたとみられるが,南薩における 2013 年

アナグマの巣穴はタヌキも利用している(金子,

のロードキル個体数について,両種ともに急増し

2008; Kowalczyk et al., 2008; Sidorchuk et al.,

ていたこと(図 2, 4)から,必ずしも両種間にお

2015).その場合,時期や時間帯をずらして同一

ける干渉の影響が生息個体数の変化に反映してい

の巣穴を共有していると考えられている(島田・

るとは考えられない.

落合,2016).しかし,両種の食物資源が重複し

アナグマのロードキル個体数の 2013 年以降の

ていることから,ある程度空間的に棲み分けてい

増加で示された個体数の顕著な急増は,タヌキと

ると考えられる.タヌキは家族を形成し雌雄のペ

は異なった特異な要因によると推察される.基本

アで行動すること(芝田,1996)から,タヌキは

的には繁殖率の向上と死亡率の低下による個体数

アナグマに対して優位にあると思われる.加えて,

の増加であるが,それらの要因について現状では

タヌキはアナグマのように冬季に活動が低下する

明確に示すことができず,地球温暖化も視野に入

ことなく,食性の幅が広い(Saeki, 2015; Kaneko,

れた広い見地からも考察してみる必要がある.

2015).また,繁殖に関して両種とも年 1 回の出 産であるが,産子数はタヌキ(4–6 子)の方がア

今後の保全と管理について

ナ グ マ(1–4 子 ) よ り も 多 い(Saeki, 2015;

鹿児島県のアナグマの捕獲数について,1989–

Kaneko, 2015).以上のことから,タヌキの生息

2003 年までは多くが狩猟によるもので有害駆除

個体数がアナグマに比べて多く,交通事故に遭遇

による捕獲の割合は比較的に少なく,100 頭前後

する機会が多いために,タヌキのロードキル個体

で 推 移 し て い た( 船 越・ 重 信,2006). そ の 後

数がアナグマに比べて多いと考えられる.

2007 年から有害駆除数が徐々に増え始め,2010

タヌキのロードキル個体数の年次変化をみる

年から急増していった(図 5).各地域でみると,

と,特に大隅北東部(72–250 頭 /100 km)で非常

姶良・伊佐や南薩では 2013 年以降,大隅北東部

に多く,増大傾向にあった.一方,姶良・伊佐(1–26

では 2015 年に急増して高止まりの状態にあった

頭 /100 km)や南薩(11–20 頭 /100 km)では変動

(表 1).ロードキル個体数はこれらの捕獲数変化

があるものの少なく,2013 年以降はアナグマと

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に連動しており,姶良・伊佐や南薩では 2013 年,


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大隅北東部では遅れて 2016 年から急増に転じて いた.他地域でも同様に増加していると思われる. ロードキル個体数の増加が生息個体数の増加を反 映しているとすれば,生息個体数増加(高密度化) によって捕獲数が急増したと判断される.加えて, 2013 年度から捕獲に対する報償金(4 千円前後 /1 頭)が出たことで捕獲努力量が急増して 2014 年 以降も捕獲数がさらに上昇していったと考えられ る. いずれにしても,2015 年に 4 千頭以上捕獲さ れながらロードキル個体数が高止まりであること から,現状では狩猟・有害捕獲数の急増がアナグ マの個体数を激減させるほどには影響していない と判断される.しかし,鹿児島県における近年の 5 千頭前後の捕獲について,国内外から適切な駆 除数であるかどうか懸念されている.一方で,ア ナグマによる農作物被害等は無視できず,鹿児島 県の被害額は 2016 年度約 1,300 万円で 2007 年度 (約 370 万円)に比べて 3.5 倍になっている(鹿 児島県農政部,2017).対照的に,タヌキの被害 額は約 640 万円で 2007 年度(約 1,040 万円)に 比べて半減近く低下している.しかしながら,捕 獲の影響が徐々に現れる可能性は否定できず,過 剰な捕獲圧がかからないよう今後も注視しておく ことが必要である.本論では,パトロール日誌の 記録によるロードキル個体数の変化に注目して生 息個体数が高止まり状態にあることを推測した が,保全に本格的に取り組むためにも,個体数推 定の方法を確立し,個体数の変動に関わるモニタ リングを継続していくことが求められる. 謝辞 今回の資料収集に協力して頂いた鹿児島国際大学 国際文化学部学生の山下早紀,木下莉沙,小林なる み,永山 翼,横山 葵,田ノ上香純および穂満友 理の諸氏,資料提供の便宜をはかって頂いた鹿児島 県姶良・伊佐地域振興局建設部,大隅地域振興局曽 於庁舎建設部および南薩地域振興局建設部の諸氏, 鹿児島県林務部自然保護課野生生物係の諸氏,資料 についてアドバイスを頂いた東京農工大学大学院農 学研究院の金子弥生博士に感謝申し上げます.

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引用文献 船越公威・重信江利佳.2006.鹿児島県産のニホンアナグ マの生態.自然愛護,32: 1–4. 鹿児島県環境林務部.2016.平成 27 年度鹿児島県森林・林業の現況. 鹿児島県農政部.2016.平成 27 年度鹿児島県食・農業:耕 作放棄地の状況. 鹿児島県農政部.2017.平成 28 年度鹿児島県鳥獣被害対策: 鳥獣による農業被害額の推移. 金子弥生.2001.東京都日の出町におけるニホンアナグ マ(Meles meles anakuma)の生活環.哺乳類科学,41: 53–64. 金子弥生.2002.日の出町のアナグマの行動圏の内部構造. 日本生態学会誌,52: 243–252. 金子弥生.2008.生活史と生態-アナグマ.日本の哺乳類 学②中大型哺乳類・霊長類 (高槻成紀・山極寿一,編) pp. 76–99.東京大学出版会,東京. Kaneko, Y. 2015. Meles anakuma Temminck, 1842. In (S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, D. Fukui and T. Saitoh, eds.) The wild mammals of Japan. Second edition, pp. 266–268. Shoukadoh Book Sellers and the Mammal Society of Japan. Kaneko, Y., Suzuki, T. and Atoda, O. 2009. Latrine use in a low density Japanese badger (Meles anakuma) population determined by a continuous system. Mammal Study, 34: 179–186. Kowalczyk, R., Jedrzejewska, B., Zalewski, A. and Jedrzejewski, W. 2008. Facilitative interactions between the European badger (Meles meles), the red fox (Vulpes vulpes), and the invasive raccoon dog (Nyctereutes procynoides) in Bialowieza Primeval Forest, Poland. Canadian Journal of Zoology, 86: 1389–1396. Neal, E. G. 1977. Badgers. Blandford Press, Dorset, 321 pp. Saeki, M. 2015. Nyctereutes procyonoides (Gray, 1834). In (S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, D. Fukui and T. Saitoh, eds.) The wild mammals of Japan. Second edition, pp. 224–225. Shoukadoh Book Sellers and the Mammal Society of Japan. 鮫島正道・宅間友則・角 成生・今吉 努・下沖洋人・東 郷純一・中村麻理子.2015.アナグマの被害に対する 河川堤防の保全策.Nature of Kagoshima, 41: 7–15. 芝田史仁.1996.タヌキ.日本動物大百科 第 1 巻 哺乳 類 I(川道武男 編集)pp. 116–119.平凡社,東京. Sidorchuk, N., Maslox. M. V. and Rozhnov, V. V. 2015. Role of badger setts in life of other carnivores. Studia Ecologiae et Bioethicae, 13: 81–95. 島田将喜・落合可奈子.2016.アナグマ(Meles anakuma) とタヌキ(Nyctereutes procynoides)が利用する巣穴付 近における行動の違いと時間的ニッチ分化.哺乳類科 学,56: 159–165. Tanaka, H., Yamanaka, A. and Endo, K. 2002. Spatial distribution and sett use by the Japanese badger, Meles meles anakuma. Mammal Study, 27: 15–22. Tanaka, H. 2005. Seasonal and daily activity patterns of Japanese badgers (Meles meles anakuma) in Western Honshu, Japan. Mammal Study, 30: 11–17. Woodroffe, R. and Macdonald, D. W. 1995. Female/female competition in European badgers Meles meles: effects on breeding success. Journal of Animal Ecology, 64: 12–20.

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指宿市における国内外来種オキナワキノボリトカゲ Japalura polygonata polygonata の生態と現状 船越公威・大坪将平・港 眞美・小林なるみ 1

〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8 丁目 34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室

はじめに オ キ ナ ワ キ ノ ボ リ ト カ ゲ Japalura polygonata polygonata(以下,キノボリトカゲ)は,沖縄諸 島のほぼ全域と奄美諸島の中・北部に生息してお り,日本固有亜種である.本亜種は,昼行性で主 に樹上で生活し,昆虫を主食にしている.環境省 カテゴリーで絶滅危惧 II 類に位置づけられてい るが,一方で,人為的な移入によって分布域外で 繁殖する国内外来種として報告されている(宮崎 県日南市:Ota et al., 2006;末吉ほか,2007;岩 本 ほ か,2012, 2016; 鹿 児 島 県 指 宿 市: 中 間, 2008, 太 田 ほ か,2012; 屋 久 島:Jono et al., 2013;長崎県松浦市:松尾,2017).日南市の油 津地区では,1998 年にキノボリトカゲの生息情 報が得られて以来増え続けており,現状では幼体 を含めて推定 4 万頭近くに及んでいる(岩本ほか,

図 1.指宿市におけるオキナワキノボリトカゲの生息確認地 と聞き込みによる生息情報.●,生息確認地点;▲,生 息情報が得られた地点.A,揖宿神社とその周辺林;B, 宮の三叉路周辺林;C,湯之里園周辺林;D,野の香温泉 周辺林;E,東方の民家;F,県営大園原団地付近の樹林; G,宮ヶ浜の林;H,青隆寺の林.

2016).指宿市では,2003 年に西方(北指宿中学 校周辺)と東方(宮地区,揖宿神社境内)で発見 され(中間,2008),その後,それらの周辺域に 分布を広げている(太田ほか,2012). こうした状況の中で,指宿市におけるキノボリト カゲの本格的な生態的調査を実施し,現状の把握に 努めた.これらの調査結果を基に日南市のキノボリ トカゲと比較し,今後の在来種への影響や生息域拡

調査地と調査方法 調査地は,これまで生息が確認されている地 域とそれらの周辺域を対象とした.調査期間は 2013 年 8–11 月,2014 年 4–12 月および 2017 年 8 月から 2018 年 1 月である.調査の際に,住民か らの聞き込みで目撃情報も得た.各調査地でキノ

大の懸念と本格的な対策への取り組みを提案した.

ボリトカゲの有無を目視で確認し,観察時刻,気

Funakoshi, K., S. Otsubo, M. Minato and N. Kobayashi. 2018. Ecology and present status of the agamid lizard, Japalura polygonata polygonata, in Ibusuki City, Kagoshma Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 85–94. KF: Biological Laboratory, Faculty of International University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima 891– 0197, Japan (e-mail: funakoshi@int.iuk.ac.jp).

Tokyo), 発 見 地 点(GPS; GPSMAP 62s, Garmin,

Published online: 9 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-013.pdf

温(精度 ± 0.5℃; Thermo-Hygrometer TRH-CA, Shinyei, Ltd., Taipei),止まっている木の地上高,樹木の 胸高直径,性・年齢(成体,亜成体および幼体) を記録した.亜成体雄は便宜上未成熟で頭胴長 7 cm 以下および体重 10 g 以下,亜成体雌は未成熟 で頭胴長 6 cm 以下および体重 5 g 以下とした. 活動時の体表温度を測定するため,放射温度計(最 小単位 0.1℃; TR-510b, Minolta, Tokyo)を利用し

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図 2.指宿市に生息するオキナワキノボリトカゲの成体雄(A),成体雌(B)および幼体(C).各写真下の棒線: 2 cm.待機姿勢として通常頭を下にして,アリなどが登ってくるのを待ち,接近した個体を摂食していた.

た.捕獲した場合は,頭胴長,尾長の計測(精度

よび県営大園原団地付近の樹林であった(図 1A–C,

± 0.05 mm; ノ ギ ス KANON Hardened Stainless,

F).湯の香温泉周辺林では 2014 年の調査で観察

中村製作所,東京)および体重(精度 10 mg;電

されなかったが,2017 年の秋季には成体に加えて

子天秤 LIBROR EB-330S,島津製作所,東京)を

幼体が多数観察された(図 1D).また,2017 年 5

測定した.冷凍保存(30 分程度)した後,下腹

月 20 日に東方の民家の壁にいた 2 個体(成体雄

部の脂肪体量,精巣のサイズ(長径と短径)と重

と幼体)が捕獲された(図 1E).一方,2017 年の

量,輸卵管卵の有無と卵のサイズ・重量および卵

夏季に聞き込みで宮ヶ浜の林と青隆寺の林でキノ

黄濾胞の有無とそのサイズ・重量を測定した.消

ボリトカゲを目撃したとの情報を得た(図 1G, H).

化管(主に胃)を 70% アルコールで固定した後, それらの内容物を調べた.また,飼育を試み,餌

キノボリトカゲの発見位置と体表温度および行動パターン

として直翅目昆虫を与えた.

夏季に天候が良好であれば調査地で頻繁に樹皮

結果

上の待機個体(以下,活動個体:図 2)を観察す ることができるが,春・秋季には気温の低下で活

キノボリトカゲの生息確認地と聞き込みによる生息情報

動個体の発見頻度が低下した.例えば,揖宿神社

調査開始(2013 年)以来 2018 年までキノボリ

とその周辺林(夏季には通常合計 10 頭前後が発

トカゲの生息が確認された場所は,揖宿神社とそ

見 さ れ た ) の 調 査 で,2013 年 4 月 20 日( 気 温

の周辺林,宮の三叉路周辺林,湯之里園周辺林お

17–20℃)は樹皮上の活動個体は観察されなかっ

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図 3.オキナワキノボリトカゲが発見された位置について, 性年齢別の地上高と樹木の胸高直径との関係.

た.同年 6 月 16 日(気温 22℃ 前後)に 1 頭の活 動個体の発見,10 月 14 日(気温 23℃ 前後)2 頭 の個体発見,10 月 27 日(気温 18–24℃)活動個 体 発 見 無 し で あ っ た. 翌 年 の 6 月 4 日( 気 温 23℃ 前後)は活動個体の発見無し,同年 10 月 31 日(気温 25℃ 前後)2 頭の活動個体がいた一方で, 1 頭は樹皮にへばりついて静止(休眠)していた. 2017 年 11 月 5 日(21℃ 前後)に活動個体が発見 されなかった. 活動個体の発見位置について,樹皮上の地上高 と胸高直径との関係を図 3 に示した.また,性・ 年齢別の樹皮上待機個体の地上高の平均値を算出 した(表 1).その結果,性・年齢を問わず地上

図 4.オキナワキノボリトカゲ成体雄の行動パターン(2014 年 9 月 25 日の昼間に観察).◎,最初の発見位置;○, 他個体(幼体)の侵入;↑,移動方向;▲,上向きの待 機姿勢;▼,下向きの待機姿勢;●,休息;■,休眠姿 勢(枝の下に廻って張り付き,体色を樹皮の色に変える) ; F,捕食;J,ジャンプ;T,威嚇姿勢.

高 50–200 cm に集中しているが,幼体,亜成体お よび成体の順に高い位置へ移行し,雌よりも雄の

方,成体雌 1 頭では樹皮上の温度 31.2–31.4℃ の

方がより高い位置を占めていた.

時 に 頭 部 31.4–31.8℃, 腹 部 31.4–32.0℃, 尾 部

活動時の体表温度について,成体雄 1 頭では樹

30.8–31.6℃ であった.両個体とも樹皮上の外気

皮上の温度 31.7–32.0℃ の時に頭部 32.0–33.8℃,

温に近いが,頭部と腹部で少し高く,尾部では外

腹部 32.1–32.6℃,尾部 31.8–31.9℃ であった.他

気温と類似していた. 行動パターンについて,2014 年 9 月 9 日と 25 日に樹皮上待機個体を発見した後の午前 10 時頃

表 1.オキナワキノボリトカゲの性・年齢別における樹皮 上待機個体の地上高. 性

年齢

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

成体 成体 亜成体 亜成体 幼体 幼体

n 22 19 6 7 7 9

地上高(cm) Mean ± SD 164.3 ± 73.4 100.1 ± 57.5 94.7 ± 37.5 71.4 ± 18.9 68.6 ± 30.4 44.9 ± 31.1

から休息に入る午後 3 時頃まで計 4 個体を観察し た.基本的なパターンは類似していたので,特に 9 月 9 日に観察した成体雄の例を図 4 に示した. 午前 10 時の発見時に地上高 1 m の樹皮上に待機 していた.その後,上に移動して右下の枝へ渡り, 午後 11 時に休息した後,他個体に気が付いて威 嚇した(威嚇された個体はその後ジャンプして地

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上に移動し去っていった).再び幹に戻り,そこ から上に移動して左の枝先(地上高約 3 m)に渡 り,ジャンプして地上に降りた.素早く同じ樹に 登って,地上高約 3 m 上がった後,右の枝に渡っ て下の枝にジャンプして移動した.午後 1 時に幹 に戻り,そこから頂上部当たり(地上高約 3.5 m) まで移動した後,枝の下に廻って張り付き,午後 2 時 55 分から休眠に入った.以上の移動の間に, アリやその他の昆虫を 14 匹摂食した.他 2 個体 について,樹皮上の待機姿勢(地上高約 1 m)か 図 5.オキナワキノボリトカゲの成長に関連した頭胴長と尾 長の関係.

らジャップして地上に降りてすばやく昆虫を捕食 するのを観察した.

表 2.オキナワキノボリトカゲ捕獲個体の外部計測値,体重および脂肪体量. 年月日 捕獲場所 * 標本 No. 2013 .8. 4 A 1 2013 .8. 4 A 2 2013 .8. 4 A 3 2013 .8. 4 C 4 2013. 8.20 F 5 2013. 8.20 F 6 2013. 8.31 A 7 2013. 8.31 A 8 2013. 8.31 A 9 2013. 8.31 A 10 2013. 9.26 A 11 2013. 9.26 A 12 2013. 9.26 A 13 2014. 7.15 A 14 2014. 7.15 A 15 2014. 7.15 A 16 2014. 9.14 A 17 2014. 9.25 A 18 2014. 9.25 A 19 2014.10.31 B 20 2017. 8. 8 A 21 2017. 9. 2 A 22 2017. 9. 2 A 23 2017. 9. 2 A 24 2017. 9. 2 A 25 2017.10. 8 A 26 2017.10. 8 A 27 2017.10. 8 D 28 2017.10. 8 D 29 2017.10. 8 D 30 2017.10. 8 D 31 2017.12. 3 D 32 2017.12. 3 D 33 2018. 1. 7 D 34 2018. 1. 7 D 35

性 ♂ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♂ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♂ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀

年齢 頭胴長(cm) 尾長(cm) 全長(cm) 尾率(%)** 体重(g) 脂肪体量(g) 脂肪率(%)*** A 7.8 18.2 26.0 70.0 10.60 0.01 0.1 A 8.0 19.1 27.1 70.5 12.80 0.05 0.4 S 5.8 14.7 20.5 70.2 4.88 — — A 8.1 19.5 27.6 70.7 14.0 0.12 0.9 A 6.3 13.5 19.8 68.2 6.30 0.03 0.5 A 7.4 19.0 26.4 72.0 13.0 0.18 1.4 A 6.4 13.1 19.5 67.2 5.65 0.02 0.4 A 6.5 13.4 19.9 67.3 5.33 0.02 0.4 S 6.2 15.0 21.2 70.8 5.21 0.03 0.6 S 7.0 16.4 23.4 70.1 7.22 0.03 0.4 A 5.8 13.1 18.9 69.3 4.48 0.01 0.2 A 8.0 19.4 27.4 70.8 12.18 0.15 1.2 A 5.8 12.6 18.4 68.5 4.65 0 0 A 5.1 12.7 17.8 71.3 5.80 — — A 7.5 18.2 25.7 70.8 12.55 — — Y 3.0 6.0 11.0 54.5 0.90 — — A 6.7 17.8 24.5 72.7 11.47 0.16 1.4 Y 3.3 6.9 10.2 67.6 0.84 0 0 S 5.9 13.5 19.4 69.6 4.86 0.04 0.8 A 8.4 20.1 28.5 70.5 18.50 0.99 5.4 A 8.3 20.2 28.5 70.9 13.77 0.03 0.2 A 7.8 18.5 26.3 70.3 13.66 0.49 3.6 S 6.0 14.2 20.2 70.3 4.37 0 0 A 7.9 17.2 25.1 68.5 13.55 0.11 0.8 A 6.8 14.5 21.3 68.1 7.54 0 0 Y 2.5 5.4 7.9 68.4 0.51 0 0 Y 2.9 5.4 8.3 65.1 0.62 0 0 A 8.1 19.0 27.1 70.1 15.21 0.23 1.5 Y 3.0 6.0 9.0 66.7 0.85 0 0 Y 3.9 8.5 12.4 68.5 1.36 0 0 Y 3.8 8.4 12.2 68.9 1.62 0 0 Y 4.0 10.0 14.0 71.4 1.68 — — A 7.7 17.8 25.5 69.8 10.76 — — A 7.6 18.8 26.4 71.2 13.53 1.14 8.4 Y 3.1 6.6 9.7 68.0 0.78 0 0

* 図 1 の生息確認地点;** 尾長/全長(%);*** 脂肪体量/体重(%)

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図 6.オキナワキノボリトカゲの脂肪体(A の矢印:2014 年 10 月 31 日撮影),成体の精巣(B の矢印: 2013 年 8 月 31 日撮影)および成体の輸卵管卵(a)と卵黄濾胞(b) (C の矢印:2013 年 8 月 31 日撮影). 各写真下の棒線:5 mm.

捕獲個体 捕獲個体の外部計測値,体重および脂肪体量に ついて表 2 に示した.全長における成体の雌雄間 に 差 が あ り, 雄 26.6 ± 1.2 cm(Mean ± SD, n = 14),雌 19.4 ± 1.1 cm(Mean ± SD, n = 7)で,雄 が 大 き か っ た. 体 重 に お い て も 雄 13.3 ± 2.0 g (Mean ± SD, n = 14),雌 5.7 ± 1.0 g(Mean ± SD, n = 7)で,雄の方が雌に比べて 2 倍近く重かった. 成長に関して,雌雄含めた頭胴長と尾長の関係を 2 みると高い相関(R = 0.966:Y = 2.541x - 1.343)

を示した(図 5).尾率(%:尾長/全長)は雄 で 70.6 ± 0.98% (Mean ± SD, n = 14) , 雌 68.6 ± 1.41% (Mean ± SD, n = 14)で,雌雄差が認められ,雄 の尾が相対的に長かった(Mann-Whitney’s U-test, U = 13.5, P<0.006). 下腹部に脂肪体を形成していた(図 6A).脂肪 体量について,脂肪率(%:脂肪体量 / 体重)を みると成体雌は活動期を通じて少なかった(0– 0.5%).他方,成体雄では 8 月に平均 0.4%,9 月

図 7.オキナワキノボリトカゲの糞(A)と木の根元 付近に産み落とされた卵の殻(B).

1.4%,10 月 3.5% および 1 月 8.4% で,秋季に漸 増した.

カデ目(ムカデ類)の破片が散見された.飼育下 で糞を採集した(図 7A).排泄された糞の形状は,

胃内容からみた食性

長さ 2 cm 前後,太さ数 mm 前後の円筒状をなし,

活動期に捕獲した個体(計 28 個体)の胃内容

半分は細長い白色で残り半分は黒褐色の塊になっ

から,すべての個体で膜翅目アリ類の破片が見つ

ていた.

かり,個体によっては小型アリ類の頭部約 100 匹 が含まれていた.その他,鞘翅目(甲虫)や双翅

繁殖

目(ハエ類),直翅目(バッタ類),ゴキブリ目(サ

成体雄の精巣サイズについて,活動期 8 月の長

ツマゴキブリ),昆虫の幼虫,クモ目およびジム

径 は 4.2–5.5 mm,9 月 3.1–4.5 mm,10 月 3.8–6.2

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mm と変化し,冬季 1 月では 5.6 mm であった(図

同調査地で 2018 年 1 月 7 日に 2 個体(成体雄と

6B,表 3).重量も 8 月 0.02–0.03 g,9 月 0.01–0.02

幼体雌)を別々の木(前者:胸高直径 2 cm,後者:

g,10 月 0.02–0.06 g,1 月 0.04 g であった.

50 cm)の根元付近の落葉下で発見した(図 8B, C).

成体雌の輸卵管卵数とそのサイズおよび卵黄濾

これらの胃内容から,小型のアリ類(多数)や甲

胞( 図 6C) の 有 無 を 表 4 に ま と め た. 卵 数 は

虫の破片が見つかった.

2–3 個で,その長径は 11–16 mm,重量は 0.23–0.46 g であった.卵黄濾胞数は 0–9 個で長径最大 4.3

考察

mm であった.産卵場所は,木の根元付近の落葉

指宿市に生息するキノボリトカゲの生態と現状

下であった(図 7B).

指宿市に生息するキノボリトカゲのサイズにつ いて,日南市の成体雄の頭胴長最大値 8.3 cm(岩

越冬

本ほか,2012),指宿市では 8.4 cm,日南市の成

越冬場所について,調査地の野の香温泉周辺林

体雌 7.1 cm(岩本ほか,2012),指宿市では 6.8

で 2017 年 12 月 3 日に 2 個体(成体雄と幼体雄)

cm で,揖宿市のサンプル数が少ないものの近似

を別々の木(前者:胸高直径 45 cm,後者:33

していた.尾率が 7 割を占めていたことから,樹

cm)の根元付近の落葉下で発見した(図 8A).

上移動でバランスをとる際に尾が有効に機能して

表 3.オキナワキノボリトカゲにおける精巣のサイズと重量

年月日 2013.8.4 2013.8.4 2013.8.4 2013.8.20 2013.8.31 2013.8.31 2013.9.26 2014.10.31 2017.8.8 2017.9.2 2017.9.2 2017.9.2 2017.10.8 2017.10.8 2018.1.7

標本 No. 1 2 4 6 9 10 12 20 21 22 23 24 28 31 34

年齢 A A A A S S A A A A Y A A Y A

精巣サイズ(左)(長径 × 短径 mm) 5.1×3.4 5.5×4.1 4.6×3.2 5.3×4.1 1.6×1.6 3.2×2.1 3.3×2.6 6.0×4.8 4.7×3.6 3.6×2.1 0×0 4.0×3.2 3.8×3.5 0×0 5.6×3.8

重量(g) 0.03 0.03 0.02 0.03 0.005 0.007 0.01 0.05 0.03 0.01 0 0.02 0.01 0 0.04

精巣サイズ(右)(長径 × 短径 mm) 重量(g) 4.9×3.7 0.03 4.2×3.5 0.02 4.3×3.5 0.03 5.5×3.7 0.03 2.1×1.5 0.005 3.4×2.6 0.008 3.5×2.8 0.01 6.2×4.3 0.06 5.0×3.7 0.03 3.1×2.6 0.01 0×0 0 4.5×2.9 0.02 4.0×2.9 0.02 0×0 0 5.5×3.4 0.04

表 4.オキナワキノボリトカゲにおける卵黄濾胞の有無および輸卵管卵数と卵のサイズ. 年月日 標本 No. 年齢 卵黄濾胞(数とサイズ) 輸卵管卵(個数) 卵のサイズ(長径 × 短径 mm) 2013. 8.20 5 A 0 3 11.7×7.5 11.5×7.0 11.1×7.1 2013. 8.31 7 A 0 3 14.6×7.1 12.4×7.2 11.1×7.0 2013. 8.31 8 A 2(4.3×4.0) 2 16.3×6.7 16.1×6.6 2013. 9.26 11 9(大 1.9×1.52) 0 13 A 1(2.3×1.5) 2 14.8×6.2 15.2×6.8 2014. 9.25 19 S 0 0 2017. 9. 2 25 A 0 3 15.0×6.9 13.2×6.5 13.3×7.3

90

重量(g) 0.29 0.24 0.27 0.31 0.25 0.24 0.46 0.23 0.34 0.36 0.42 0.40 0.39


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いると考えられる.脂肪体量について,日南市で は夏季の雄で 0.2 g,雌 0.1 g 前後で雌の方が少な く(岩本ほか,2012),指宿市でも同様であった. これは,雌が産卵のために脂肪体よりも輸卵管卵 に栄養を蓄積しているためと思われる.秋季には 越冬に備えて漸増したと考えられる. 活動時の体温は,体表温度を測定することで, 間接的な相対温度を知ることができる.尾部の温 度は外気温に近いが,頭部や胴部は少し高めであ る.ヨナグニキノボリトカゲ Japalura polygonata donan でも同様の体温変化がみられ,体温変化は 気温の変化に並行している(田中,2009).いず れにしても,体温上昇によるエネルギー消費を避 けて効率よく活動しているといえよう.キノボリ トカゲは樹上生活者で林縁部に多く見つかるが, 林内の鬱蒼とした場所では少なく,道路端からの 距離が 5 m を越えると発見率が低下している(田 中,2009;岩本ほか,2012).今回の調査でも同 様であった.発見個体数は気温と関係しており, 日 南 市 で は 日 平 均 気 温 が 25℃, 日 最 高 気 温 が 28℃ を越えると急増し,それらの気温が下がる と急減している(岩本ほか,2012).同様の現象 は指宿市でもみられ,20℃ 以下では発見されず, 23℃ 以上から少しずつ発見個体数が増えていた. 樹皮上の待機位置をみると,地上高 50–200 cm に集中しており,幼体,亜成体および成体の順に

図 8.木の根元付近で越冬しているオキナワキノボ リトカゲ.休眠場所(A:2017 年 12 月 3 日撮影), 落葉下で発見された成体雄の頭部(B:2017 年 1 月 7 日撮影)および幼体(C:2017 年 1 月 7 日撮影).

高い位置へ移行し,雄の方が雌よりもより高い位 置を占めていた.日南市でも地上高 1 m 前後で高

ると考えられる(岩本ほか,2012).指宿市にお

頻度に発見されるが,雄では平均 180 cm,雌で

ける成体雄の行動パターンの観察からもナワバリ

平均 126 cm で,指宿市よりも少し高めであった

を持つことが示唆された.キノボリトカゲの成体

(岩本ほか,2012).この違いの原因の一つとして,

2 雄は,平均 35 m の行動圏を持ち,侵入者がいれ

日南市では夏季より春季 4–5 月により高所での発

ばディスプレイ(腕立て伏せや胴を反らす)によっ

見頻度が高いとのことで,指宿市では春季のデー

て排除してナワバリを守っている(田中,1993).

タを欠いているためと思われる.また,気温が低

キノボリトカゲの食性について,指宿市では膜

い場合(特に春季や秋季)には,より高所に移動

翅目アリ類が主食であった.日南市でも胃内容物

して日光浴で体温を上げているかもしれない.

に含まれる膜翅目(主にアリ科)の割合が 80%

行動観察から,樹皮上からジャップして地上の

を占めている(岩本ほか,2012).その他,鞘翅目,

獲物を得る上で,地上高約 1 m 前後の位置で待機

双翅目,直翅目,ゴキブリ目および昆虫の幼虫,

していることが最適であると示唆された.一方,

クモ目やジムカデ目の破片がみられた.日南市で

雄が雌に比べて高い位置を占めるのは,雄がナワ

は半翅目のツクツクボウシや鱗翅目も摂食してお

バリを持つことや求愛ディスプレイと関係してい

り多様な昆虫が食物の対象になっていた(岩本ほ

91


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か,2012).キノボリトカゲの糞の形状は鳥類と

カゲが発見され繁殖が示唆されている(松尾,

違って特有は形状(図 7A)なので,野外で生息

2017)ことから,温帯域における越冬時の低温耐

の有無を確認する上で参考になる.

性獲得が裏付けられたといえよう.

キノボリトカゲの繁殖について,日南市では成 体雄では 4–9 月に精子形成みられる(岩本ほか,

指宿市に生息するキノボリトカゲの生息域の漸次的拡大

2012).一方,成体雌も同期間に輸卵管卵が形成

これまで生息地として確認された県営大園原団

されているが,主に 5–8 月に輸卵管卵を 3 個抱え,

地周辺の照葉樹林,揖宿神社内の林,東方宮集落

1 年に 2 回産卵すると予想している(岩本ほか,

道路沿いの灌木(宮の三叉路周辺林内に含まれ

2016).産卵行動に関して,雌はリターを掻き分

る),湯之里園周辺林(太田ほか,2012)では,

けて深さ 3 cm の穴に埋めている(亘,2009).個

今回の調査で同様に生息が確認された.加えて,

体の栄養状態によって,一腹卵数は変化すると考

新たに野の香温泉周辺林や東方の民家で生息が確

えられる.指宿市でも精巣の発達や輸卵管卵の形

認された.こうした状況から,特に揖宿神社から

成が 9 月も認められたので,4–9 月に繁殖してい

南東へ漸次的に生息域が拡大していた(図 1 円内

て,10 月の幼体は 9 月以前に孵化した個体と思

の A–E).今後,調査地外の広域にわたる本格的

われる.また,指宿市では成体雄において 10 月

な調査を実施すれば分布域がさらに広がっていく

や 1 月にも個体によって精巣が肥大していたこと

可能性がある.指宿市では,かつて沖縄島や奄美

から,これらの時期にも繁殖に関与するのか今後

大島から熱帯・亜熱帯植物が大量に輸入され,そ

の課題である.沖縄産のキノボリトカゲは 3 月下

の際にキノボリトカゲが混入していて持ち込まれ

旬 か ら 8 月 ま で 産 卵 す る(Tanaka and Nishihira,

た可能性が指摘されている(中間,2008;太田ほ

1981).ヨナグニキノボリトカゲでは同一雌が一

か,2012;岩本ほか,2012).住民からの情報を

シーズンに少なくとも 3 回産卵すると示唆してい

基に,定着して 40 年程度経過(現時点では 45 年

る(田中,2009).

経過)しているとして,分散速度を 9.3 m/ 年と

指宿市におけるキノボリトカゲの越冬は 11 月

算出している(岩本ほか,2012).一方,聞き込

から本格的に始まると予想された.越冬中の個体

みで宮ヶ浜の林と青隆寺の林での目撃情報が得ら

について,越冬場所は木の根元付近の落葉下の地

れた.これらが確度の高い情報であれば,分布の

面で,穴を掘ることなく休眠していた.冬季 1 月

不連続性から,誰かが持ち込んだと思われる.

に捕獲された個体の脂肪率(8.4%)は高く,越 冬のためのエネレギー源になっていると考えられ

在来種への影響と今後の対策の必要性

る.一方で,同個体の胃には食物片がみられたこ

キノボリトカゲと競合が予想される在来捕食性

とから,暖かい日には覚醒して摂食していること

のトカゲ類として,ニホンカナヘビ Takydromus

が示唆された.

tachydromoides,ニホントカゲ Plestiodon japonicus

低温耐性に関して,キノボリトカゲの下限臨

およびミナミヤモリ Gekko hokouensis が挙げられ

界温度が- 2 から- 4℃ で,4℃ 以下の低温曝露

る.これらは,キノボリトカゲが生息する地域で

で 呼 吸 は 抑 制 さ れ る と し て い る( 岩 本 ほ か,

同時に観察される.太田ほか(2012)が指摘する

2012;加藤ほか,2017).気象統計情報による指

ように,競合的な干渉の中で在来種の減少が危惧

宿市の 2000–2017 年間の月別最低気温をみると,

される.特にニホンカナヘビは,キノボリトカゲ

特に 2016 年 2 月に最低- 3.4℃ を記録している.

とサイズが類似しており,昼行性で時には樹上に

2017 年の調査で生息が確認されていることから,

上がることもある.また,食性や休眠場所も類似

林内落葉下の気温が外気温よりも高いかは不明で

しているので両種間の関係を注視する必要があ

あるが,低温耐性が進行していることを示唆して

る. 小 笠 原 諸 島 の 父 島 で は グ リ ー ン ア ノ ー ル

いる.より高緯度の長崎県松浦市でもキノボリト

Anolis carolinensis(キノボリトカゲより小型)の

92


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Nature of Kagoshima Vol. 44

移入で,在来のオガサワラトカゲ Cryptoblepharus

にも,岩本ほか(2012)が指摘しているように,

nigropunctatus が減少している(太田,2002;自

キノボリトカゲを新たな非生息地に移動させない

然環境研究センター,2008).ニホントカゲもキ

ように徹底させる必要がある.そのためにも,外

ノボリトカゲと同様のサイズで昼行性であるが,

来種に対する住民の理解と啓蒙が不可欠である.

より開けた草地などで生活して,キノボリトカゲ との干渉は少ないと思われる.ミナミヤモリはキ

謝辞

ノボリトカゲと同様に樹上性で食性も似ている

調査協力していただいた鹿児島国際大学国際文

が,夜行性で時間的な棲み分けをしていると予想

化学部学生の田中広音,永峯 健,後藤 陽,大

される.しかし,休眠場所は木の根元近くの落葉

平理沙,内原愛美,福留慶久,小野明日香,木下

下でも観察されるので,ミナミヤモリとの関係も

莉沙,山下早紀および中村綾美氏,キノボリトカ

無視できない.在来性の樹上性昆虫類に対するキ

ゲの生息情報と捕獲個体を持参していただいた福

ノボリトカゲの捕食圧も指摘されており(岩本ほ

本貫二氏,資料や情報提供していただいた前宮崎

か,2016) ,その影響の程度も今後検討する必要

大学教育文化学部の岩本俊孝博士,兵庫県立大学

がある.

自然・環境研究所の太田英利博士,鹿児島県立博

キノボリトカゲの寒冷適応が進行していると思

物館の中間 弘と金井賢一氏に感謝申し上げま

われるので,太田ほか(2012)が指摘するように,

す.なお,本調査の一部は平成 29 年度鹿児島県

生息域が限定されている間に除去することが強く

自然環境保全協会研究助成により実施された.

望まれる.これまでの生態調査では釣りによる方 法(釣り糸の輪っかで,頭部を釣り上げる)で捕 獲したが,この方法では好天時の活動時間帯に限 られていて効率が悪い.小笠原諸島では,グリー ンアノールの捕獲用に開発されたポリプロピレン 製の粘着トラップ(戸田ほか,2009)の使用で効 果を発揮している.日南市でも粘着トラップの使 用が試みられたが,キノボリトカゲの他にニホン カナヘビやヤクヤモリ Gekko yakuensis が捕獲さ れていて,混獲率が 5 割に及んだ(岩本ほか, 2012).そのため,競合種がいる指宿市でも高い 混獲リスクが予想され,粘着トラップの使用は不 向きであろう.他に,日南市では長ペットボトル 型トラップの使用が試みられ,その結果,粘着ト ラップに比べて混獲もなく捕獲率が高かったこと で,このトラップが推奨されている(岩本ほか, 2012).今後,夏季に釣りと改良したペットボト ル(上下から入れる)の併用,さらには越冬時に おける一斉駆除(林縁部から林内 5 m の間)によっ て根絶することを提案する. 前述したように,指宿市におけるキノボリトカ ゲの移入の要因の一つとして,沖縄島や奄美大島 からの観葉植物の持ち込みが示唆されている.こ うした人為的な移入と分布拡大の阻止を図るため

引用文献 岩本俊孝・太田英利・那須哲夫・森田哲夫.2012.国内外 来種オキナワキノボリトカゲの生態系への影響評価に 関する研究.九州本土に侵入・定着したオキナワキノ ボリトカゲに関する研究成果報告書 科学研究費補助 金基盤研究(C),pp. 1–89. 岩本俊孝・太田英利・那須哲夫・森田哲夫・末吉豊文・星 野一三雄・石橋葵・武市知美・加藤悟郎・河野慎也・ 貴島康仁・斉藤政美.2016.日南市の国内外来種オキ ナワキノボリトカゲの分布及び繁殖状況についての報 告.宮崎の自然と環境,(1): 2–13. Jono, T., Kawamura, T. and Kohda, R. 2013. Invasion of Yakushima Island, Japan, by the Subtropical Lizard Japalura polygonata polygonata (Squamata: Agamidae). Current Herpetology, 32: 142–149. 加藤悟郎・中島淳志・保田昌宏・岩本俊孝・太田英利・森 田哲夫.2017.宮崎県日南市に定着したオキナワキノ ボリトカゲの低温耐性に関する報告.宮崎の自然と環 境,(2): 41–45. 松尾公則.2017.長崎県で発見されたオキナワキノボリト カゲ.九州両生爬虫類研究会誌,(8): 18–19. 中間 弘.2008.鹿児島県指宿市におけるキノボリトカゲ (Japalura polygonata)の分布について.鹿児島県立博 物館研究報告,27: 65–66. 太田英利.2002.グリーンアノール 在来種を圧迫する “ ア メリカカメレオン ”.外来種ハンドブック(日本生態学 会,編),p. 99.地人書院,東京. Ota, H., Hoshino, I. and Sueyoshi, Y. 2006. Colonization by the subtropical lizard, Japalura polygonata polygonata (Squamata: Agamidae), in southeastern Kyushu, Japan. Current Herpetology, 25: 29–34.

93


Nature of Kagoshima Vol. 44 太田英利・那須哲夫・末吉豊文・星野一三雄・森田哲夫・ 岩本俊孝.2012.鹿児島県本土部における国内外来種 オキナワキノボリトカゲ Japalura polygonata polygonata (Hallowell, 1861)(爬虫綱,アガマ科)の生息状況.Nature of Kagoshima, 38: 1–8. 自然環境研究センター.2008.日本の外来生物.(自然環境 研究センター,編著),平凡社,東京. 末吉豊文・星野一三雄・太田英利.2007.宮崎県日南市に おけるオキナワキノボリトカゲ外来個体群の発見.宮 崎県立博物館研究紀要,(28): 1–5. 田中 聡.1993.なわばりを守る雄 キノボリトカゲ.動 物たちの地球 両生類・爬虫類 5(山田恒史,編),pp. 178–180.朝日新聞社,東京.

94

RESEARCH ARTICLES 田中 聡.2009.ヨナグニキノボリトカゲの生態について. 与那国島総合調査報告書(沖縄県立博物館・美術館,編) pp. 13–22.沖縄県立博物館・美術館,那覇. Tanaka, S. and Nishihira, M. 1981. Notes on an agamid lizard, Japalura polygonata. Biological Magazine Okinawa, 19: 33–39. 戸田光彦・中川直美・鋤柄直純.2009.小笠原諸島にお けるグリーンアノールの生態と防除.地球環境,14: 39–46. 亘 悠 哉.2009. オ キ ナ ワ キ ノ ボ リ ト カ ゲ(Japalura polygonata polygonata)の野外における産卵行動.爬虫両 棲類学会報,2009 (2): 133–136.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

トカラ列島から得られた鹿児島県初記録および北限記録の 準絶滅危惧種アマクチビ (スズキ目 : フエフキダイ科) 畑 晴陵 ・大富 潤 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

フエフキダイ科フエフキダイ属 Lethrinus は頬

計数・計測方法は Carpenter and Allen (1989) に

部が無鱗であること,胸鰭軟条数が 13 であるこ

したがった.標準体長は体長と表記し,体各部の

と,背鰭軟条数が 8 であること,および臀鰭軟条

計測はノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.

数が 9 であることなどにより特徴づけられる

重量の計測はデジタル電子計りを用いて 1 g まで

(Carpenter and Allen, 1989; Carpenter, 2001).本属

おこなった.アマクチビの生鮮時の体色の記載は,

は日本からは 19 種が知られ(島田,2013),鹿児

固定前に撮影されたトカラ列島産標本(KAUM–I.

島 県 か ら は ア マ ク チ ビ L. erythracanthus

107801)のカラー写真に基づく.標本の作製,登

Valenciennes, 1830, ハ ナ フ エ フ キ L. ornatus

録,撮影,および固定方法は本村(2009)に準拠

Valenciennes, 1830,およびヤエヤマフエフキ L.

した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研

reticulatus Valenciennes, 1830 の 3 種を除く 16 種の

究博物館に保管されており,上記の生鮮時の写真

分布が確認されていた(Motomura et al., 2010;島

は同館のデータベースに登録されている.本報告

田,2013; 目 黒,2013; 木 村,2014; 畑 ほ か,

中で用いられている研究機関略号は以下の通り:

2015;小枝ほか,2016;萬代ほか,2017;畑・本村,

KAUM(鹿児島大学総合研究博物館) ;UMUTZ(東

2017; Motomura and Harazaki, 2017;小枝,2017).

京大学総合研究博物館動物部門).

アマクチビはこれまで日本国内において沖縄 県からのみ記録されており(島田,2013),2017

結果と考察

年に環境省版海洋魚類レッドリストにおいて準絶

Lethrinus erythracanthus Valenciennes, 1830

滅危惧種に指定された.2017 年 9 月 29 日,トカ

アマクチビ (Fig. 1)

ラ列島宝島近海から 1 個体のアマクチビが得られ た.本標本は鹿児島県におけるアマクチビの標本

標本 KAUM–I. 107801,体長 479.0 mm,全長

に基づく初めての記録となると同時に分布の北限

590.0 mm,体重 4,215 g,鹿児島県トカラ列島宝

を更新する記録となるため,ここに報告する.

島西方,水深 130 m, 2017 年 9 月 29 日,一本釣り,

Hata, H., J. Ohtomi and H. Motomura. 2018. First and northernmost records of Lethrinus erythracanthus (Perciformes: Lethrinidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 95–99. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 9 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/NK_044/044-014.pdf

鹿児島市中央卸売市場魚類市場で購入(田中 積・ 大富 潤) 記載 背鰭棘数 10;背鰭軟条数 9;臀鰭棘数 3; 臀鰭軟条数 8;胸鰭軟条数 13;腹鰭棘数 1;腹鰭 軟条数 5;有孔側線鱗数 48;背鰭第 5 棘起部にお ける側線上方鱗数 4½;側線下方鱗数 15;鰓耙数 3 + 7 = 10. 体各部測定値の標準体長に対する割合(%):

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Lethrinus erythracanthus from west of Takara-jima island, Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 107801, 479.0 mm standard length).

体高 39.7;頭長 37.7;吻長 21.7;口唇部を除く吻

りも僅かに後方,背鰭基底後端は臀鰭基底後端よ

長 17.9;眼の下縁から前鰓蓋骨後角までの長さ

りも僅かに後方にそれぞれ位置する.背鰭背縁は

19.2;眼窩径 7.1;胸鰭長 29.9;腹鰭長 23.4;尾

各棘間において僅かに切れ込むが,それ以外に欠

柄 長 18.8; 背 鰭 基 底 長 47.1; 背 鰭 棘 部 基 底 長

刻はない.背鰭後縁は丸みを帯びる.臀鰭起部は

28.6;背鰭軟条部基底長 17.2;臀鰭基底長 17.1;

背鰭第 1 軟条起部直下,臀鰭基底後端は背鰭第 7

臀鰭棘部基底長 3.6;臀鰭軟条部基底長 13.0;臀

軟条起部直下にそれぞれ位置する.臀鰭棘は第 3

鰭最長軟条長(第 5 軟条)15.8;眼窩前縁から眼

棘が最長.臀鰭軟条は第 5 軟条が最長であり,そ

下骨前縁までの長さ 15.6.

の長さは臀鰭基底長の 92.3%,臀鰭軟条部基底長

体は前後方向に長い楕円形でやや側扁し,尾

の 121.5%.臀鰭後縁は丸みを帯びる.背鰭,腹鰭,

柄部は強く側扁する.体背縁は吻端から背鰭起部

および臀鰭の軟条はすべて分枝する.尾鰭は円形

にかけて緩やかに上昇するが,眼隔域は上方に張

を呈し,湾入せず,後縁中央部は僅かに後方に膨

り出す.背鰭基底部から尾鰭基底上端にかけての

出する.尾鰭両葉後端は丸みを帯びる.肛門は臀

体背縁は極めて緩やかに下降する.体腹縁は下顎

鰭起部前方に位置し,前後方向に長い楕円形.眼

先端から腹鰭起部にかけて極めて緩やかに下降

と瞳孔はほぼ正円形に近い円形.眼隔域は膨出す

し,そこから尾鰭基底下端にかけて緩やかに上昇

る.鼻孔は 2 対で後鼻孔は眼の前方に位置し,前

する.胸鰭基底上端は腹鰭起部直上に位置し,腹

鼻孔は後鼻孔の前下方に離れて位置する.前鼻孔

鰭基底下端は基底上端よりも僅かに後方に位置す

および後鼻孔はともに正円に近い円形を呈し,前

る.胸鰭の上縁と下縁は直線状.胸鰭後端は丸み

鼻孔の後縁に皮弁を有する.両唇は厚い.上顎骨

を帯び,臀鰭起部直上に僅かに達しない.腹鰭起

の表面は滑らか.主上顎骨は皮下に埋没し,外部

部は鰓蓋後端よりも僅かに後方,腹鰭基底後端は

からは見えない.前鰓蓋骨および主鰓蓋骨の後縁

背鰭起部よりも僅かに前方にそれぞれ位置する.

はともに円滑.体は剥がれにくい円鱗に被われる

腹鰭の鰭条は第 1 軟条が最長.たたんだ腹鰭の後

が,前鰓蓋骨後縁よりも前方の頭部は,側頭部上

端は肛門に達しない.背鰭起部は腹鰭基底後端よ

部に 6 枚の鱗があるのを除いて無鱗.背鰭前方鱗

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Nature of Kagoshima Vol. 44

被鱗域の先端は眼窩後縁直上に達しない.各鰭は

さが臀鰭軟条部基底長よりも長く,臀鰭基底長の

被鱗しない.胸鰭基底部外側と内側,および尾鰭

92.3% で あ る こ と な ど が, 久 新 ほ か(1977,

基底部は小鱗に被われる.頭部には感覚孔が密在

1982),Carpenter and Allen (1989) や Carpenter

する.両顎側部には 1 列に強大な円錐歯が並ぶ.

(2001),島田(2013)の報告した L. erythracanthus

両顎先端に位置する 2 対の円錐歯は両顎側部のも

の標徴とよく一致したため,本種と同定された.

のよりも長い.側線は完全で,鰓蓋上方から始ま

アマクチビの日本国内における記録に関して

り,体背縁とほぼ平行に尾鰭基底中央部に達する.

は,以下のものなどがある.Sato (1970, 1978) は

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に黄土色を呈

石垣島産アマクチビ 1 個体(UMUTZ 52575,体

し,体側下部から体腹面にかけては灰色がかる.

長 385 mm)を L. kallopterus として報告し,具志

体側鱗後縁は橙色を帯びる.頭部側面は明るい橙

堅(1972)は沖縄県産アマクチビを L. kallopterus

色.眼の下方から前鰓蓋骨下縁にかけては桃色を

Bleeker, 1856 として報告すると同時に,沖縄県内

帯び,橙色小斑点が散在する.眼隔域背面と側頭

において本種が「やきーたまん」と称されること

部背面には暗褐色の不規則な斑紋がある.背鰭棘

を 報 告 し た. 現 在 L. kallopterus は L. erythra-

部は黄色を呈し,不規則な暗色斜帯が多数ある.

canthus の新参異名とされている(Carpenter and

背鰭軟条は黄色を呈し,各軟条間の鰭膜は赤色.

Allen, 1989; Carpenter, 2001). ま た, 太 田 ほ か

背鰭外縁は赤橙色.胸鰭は一様に赤橙色を呈し中

(2008)は 2005 年 3 月から 2007 年 6 月に八重山

央部は黄色を帯び,胸鰭上縁は僅かに白色がかる.

諸島近海で漁獲されたアマクチビ 40 個体が水揚

胸鰭基底部は赤色を呈し,中央部は黄色.腹鰭は

げされたことを報告すると同時に,それらのうち

赤色を呈し基底部付近は黄色を帯び,腹鰭前縁は

の 18 個体(体長 39–77 cm)に基づき,アマクチ

白色がかる.腹鰭各軟条間の基底部付近には黒色

ビの体長 ― 体重関係式を示した.

色素胞が密にある.臀鰭軟条は黄色がかった黄土

上記の通り,アマクチビは沖縄県内において

色を呈し,各軟条間の鰭膜は赤色.臀鰭中央部は

一定の個体数が漁獲されているものとみられる

黄色がかる.尾鰭は一様に赤色.虹彩は銅色を呈

が,鹿児島県以北における分布記録はなく,鹿児

し,瞳孔は青みがかった黒色.

島県内各地の魚類相調査(例えば Motomura et al.,

分布 アフリカ東岸,セーシェル,チャゴス諸

2010;本村ほか,2013;本村・松浦,2014;鏑木,

島,モルディブから日本,オーストラリア北岸,

2016; Motomura and Harazaki, 2017;岩坪・本村,

ツアモツ諸島にかけてのインド・太平洋に広く分

2017)においても報告されていない.したがって,

布 す る( 久 新 ほ か,1977, 1982; Sato, 1970, 1978,

記載標本はアマクチビの鹿児島県における標本に

1997; Carpenter and Allen, 1989;益田・小林,1994;

基づく初めての記録となると同時に,分布の北限

Carpenter, 2001; 吉 野,2008; 島 田,2013; Chiba,

を約 260 km 更新するものである.

2017).日本国内においてはこれまで沖縄県から

記載標本が水揚げされた鹿児島市中央卸売市

のみ記録されていたが(島田,2013),本研究に

場魚類市場には薩南諸島各地から一本釣りや延縄

より,トカラ列島における分布も確認された.

な ど に よ っ て 得 ら れ た ヨ コ シ マ フ エ フ キ L.

備考 記載標本は側線有孔鱗数が 48 であるこ

amboinensis Bleeker, 1854 や オ オ フ エ フ キ L.

と,背鰭第 5 棘起部直下の側線上方横列鱗数が

microdon Valenciennes, 1830 などの大型フエフキ

4½ であること,両顎側部に円錐歯が並ぶこと,

ダ イ 属 魚 類 が 多 数 水 揚 げ さ れ る( 萬 代 ほ か,

体高が体長の 39.7% であること,頭部に橙色小

2017;畑・本村,2017).しかし,同市場におけ

斑が散在すること,尾鰭両葉の後端が丸みを帯び

るアマクチビの水揚げは極めて稀であり(田中

ること,腹鰭各軟条間の基底部付近に黒色色素胞

積氏,私信),さらに著者らによる薩南諸島にお

があること,胸鰭基底部の内側に鱗があること,

ける継続的な魚類相調査においても記載標本を除

および臀鰭の最長軟条が第 5 軟条であり,その長

いて得られていない.したがって,トカラ列島に

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おける本種の出現は黒潮の輸送による極めて偶発

産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として

的なものであると思われる.

行われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2:

アマクチビは最大で全長 77 cm に達し(太田ほ

29-6652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS

か,2008),一般的に全長 50 cm 程度に成長する

科研費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

こ と が 知 ら れ る(Carpenter and Allen, 1989;

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・

Carpenter, 2001).本研究の記載標本は全長 590.0

アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本

mm と大型である.太田ほか(2008)によると,

の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究

2005 年 3 月から 2007 年 6 月に八重山諸島近海か

プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島

ら水揚げされたアマクチビの最小個体は全長 35

の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整

cm であった.同海域において,本種の小型個体

備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物

を漁獲できる漁法が展開されていない可能性も考

多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助

えられる.しかし,太田ほか(2008)ではアマク

を受けた.

チビと同属のイソフエフキ L. atkinsoni Seale, 1901 やミンサーフエフキ L. ravus Carpenter and Randall, 2003 などにおいて全長 20 cm 未満の小型個体が 漁獲されているほか,キツネフエフキ L. olivaceus Valenciennes, 1830 や ム ネ ア カ ク チ ビ L. xanthochilus Klunzinger, 1870 など,アマクチビ同様に全 長 60 cm 以上に達し,水深 100 m 以深にも生息す る 種(Carpenter and Allen, 1989; Carpenter, 2001; 島田,2013)に関しても全長 20 cm 程度の小型個 体が得られていることが報告されている.このこ とから,アマクチビは八重山諸島において,小型 個体の出現が極めて稀であることが推測される. 今回の記録は,八重山諸島の北方に位置するトカ ラ列島からのものであることから,成長段階初期 における黒潮による輸送によって定着した結果で はなく,大型に成長した個体がトカラ列島近海に 輸送されてきたと思われる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては鹿 児島市中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様に多 大なご協力を頂いた.また,田中水産の田中 積 氏には標本の採集にご協力いただいたほか,フエ フキダイ科魚類の水揚げ状況に関して重要な情報 を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表する. 本研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県

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引用文献 萬 代 あ ゆ み・ 畑 晴 陵・ 本 村 浩 之.2017. 鹿 児 島 県 か ら 得られたフエフキダイ科魚類オオフエフキ.Nature of Kagoshima, 43: 165–168. Carpenter, K. E. 2001. Lethrinidae, emperors (emperor snappers). Pp. 3004–3050, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H., eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. Carpenter, K. E. and Allen, G. R. 1989. FAO species catalogue. Vol. 9. Emperor fishes and large-eye breams of the world (family Lethrinidae). An annotated and illustrated catalogue of lethrinid species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 9: i–v + 1–118, pls. 1–8. Chiba, S. N. 2017. Lethrinus erythracanthus Valenciennes 1830. P. 155. Motomura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S., eds. Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp. 畑 晴陵・小枝圭太・本村浩之.2015.奄美大島からフエ フキダイ科魚類ミンサーフエフキ Lethrinus ravus. Nature of Kagoshima, 41: 129–132. 畑 晴陵・本村浩之.2017.トカラ列島から得られたフエ フキダイ科魚類ヨコシマフエフキ.Nature of Kagoshima, 43: 169–174. 岩坪洸樹・本村浩之.2017.火山を望む麑海 鹿児島湾の 魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総 合研究博物館,鹿児島.302 pp. 鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. 木村清志.2014.フエフキダイ科.Pp. 250–259.本村浩之・ 松浦啓一(編),奄美群島最南端の島 与論島の魚類. 鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島,国立科学博物館, つくば.


RESEARCH ARTICLES 小枝圭太.2017.フエフキダイ科.P. 182.岩坪洸樹・本村 浩之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島 水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 小枝圭太・前川隆則・本村浩之.2016.奄美大島から得 られたシモフリフエフキ Lethrinus lentjan の北限記録. Nature of Kagoshima, 42: 259–263. 久新健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉・谷野保夫・ 千田哲資.1977.インド洋の魚類.海洋水産資源開発 センター,東京.392 pp. 久新健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉・谷野保夫・ 千田哲資.1982.南シナ海の魚類.海洋水産資源開発 センター,東京.333 pp. 益田 一・小林安雅.1994.日本産魚類生態大図鑑.東海 大学出版会,東京.xlviii + 467 pp. 目黒昌利.2013.フエフキダイ科.Pp. 161–162.本村浩之・ 出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島・国立科学博物館,つくば. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) 本村浩之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一.2013.鹿児島 県三島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究 博物館,鹿児島・国立科学博物館,つくば.390 pp. Motomura, H. and Harazaki, S. 2017. Annotated checklist of marine and freshwater fishes of Yaku-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima, southern Japan, with 129 new records. Bulletin of the Kagoshima University Museum, 9: 1–183.

Nature of Kagoshima Vol. 44 Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara, G., Meguro, M., Matsunuma, M., Takata, Y., Yoshida, T., Yamashita, M., Kimura, S., Endo, H., Murase, A., Iwatsuki, Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi, H. and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247 in Motomura, H. and Matsuura, K., eds. Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. 本村浩之・松浦啓一.2014.奄美群島最南端の島 ― 与論島 の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科 学博物館,つくば.648 pp. 太 田 格・ 工 藤 利 洋・ 山 本 以 智 人.2008. 主 要 沿 岸 性 魚 類の体長 ― 体重関係式(八重山海域資源管理型漁業 水深調査).沖縄県水産海洋センター事業報告書,69: 184–188. Sato, T. 1970. A revision of the Japanese sparoid fishes of the genus Lethrinus. Journal of Faculty of Science, University of Tokyo. Section 4, 12 (2): 117–144. Sato, T. 1978. A synopsis of the sparoid fish genus Lethrinus, with the description of a new species. The University Museum, the University of Tokyo, Bulletin, 15: i–v + 1–70, pls. 1–12. 佐藤寅夫.1997.アマクチビ Lethrinus kallopterus. Pp. 362– 363.岡村 収・尼岡邦夫(編),山渓カラー名鑑 日本 の海水魚,第三版.山と渓谷社,東京. 島田和彦.2013.フエフキダイ科.Pp. 960–968, 2014–2017. 中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版. 東海大学出版会,秦野. 吉野雄輔.2008.山渓ハンディ図鑑 13 図鑑日本の海水魚. 山と渓谷社,東京.543 pp.

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種子島における淡水産コエビ類の出現と分布の状況 今井 正 ・大貫貴清 ・鈴木廣志 1

1

2

3

〒 761–0111 香川県高松市屋島東町 234 国立研究開発法人水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所資源生産部 2 3

〒 424–8610 静岡市清水区折戸 3–20–1 東海大学海洋学部 〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

Abstract Distribution of freshwater carideans in Tanegashima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan was investigated in 2015-2016. Eight species of atyid shrimps (Atyopsis spinipes, Caridina grandirostris, C. laoagensis, C. leucosticta, C. multidentata, C. typus, C. serratirostris and Paratya compressa) and five species of palaemonid prawns (Macrobrachium australe, M. formosense, M. japonicum, M. lar and Palaemon paucidens B type) were collected. Four collected species of A. spinipes, C. laoagensis, P. compressa and M. lar were the first records in Tanega-shima Island. The number of species was more abundant in rivers along the east coast than the west coast. This difference was thought to be due to the Kuroshio Current which flows close to the east coast. はじめに 種子島は九州の南,大隅諸島を構成する島の 1 2 つで,面積は 444.3 km である.種子島に生息す

る 淡 水 産 コ エ ビ 類 に つ い て は,1962 年 に 上 田 (1963)によって島間川と鹿鳴川で調査が行われ, ミ ゾ レ ヌ マ エ ビ Caridina leucosticta Stimpson, 1860, ヤ マ ト ヌ マ エ ビ C. multidentata Stimpson,

1860,ヒメヌマエビ C. serratirostris De Man, 1892, トゲナシヌマエビ C. typus H. Milne Edwards, 1837, ミナミテナガエビ Macrobrachium formosense Bate, 1868,スジエビ Palaemon paucidens De Haan, 1844 の 6 種が記録された.これ以降,種子島における 調査は,諸喜田(1979),鹿児島県立博物館(1990), Suzuki et al. (1993) によって行われ,ツノナガヌ マエビ C. grandirostris Stimpson, 1860,ザラテテ ナガエビ M. australe (Guérin–Méneville, 1838),ス ベスベテナガエビ M. equidens (Dana, 1852),ヒラ テテナガエビ M. japonicum (De Haan, 1849) が追加 された.これらをまとめると,種子島からはヌマ エビ科 5 種とテナガエビ科 5 種の計 10 種の淡水 産コエビ類が報告されている. 種子島の付近を流れる海流としては,黒潮が 種子島と奄美大島の間のトカラ海峡を通って太平 洋に入り,種子島の東岸を北へと流れる.また, トカラ海峡において,黒潮から大隅分枝流が分岐 し,大隅半島と種子島の間の大隅海峡を通って太 平洋へと流れる(山城ほか,2008).このような 種子島付近の海流の状況から,種子島の淡水産コ エビ類相は黒潮の影響を強く受けていると考えら れている.

Imai, T., T. Oonuki and H. Suzuki. 2018. The status of occurrence and distribution of freshwater carideans in Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 101–110. TI: Stock Enhancement and Aquaculture Department, National Research Institute of Fisheries and Environment of Inland Sea, Japan Fisheries Research and Education Agency, 234 Yashima-higashi, Takamatsu, Kagawa 761–0111, Japan (imait@fra.affrc.go.jp). Published online: 15 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-015.pdf

近年,鹿児島県が分布の北限とされる種のう ち( 鈴 木・ 佐 藤,1994), オ ニ ヌ マ エ ビ Atyopsis spinipes (Newport, 1847),ツノナガヌマエビ,ザラ テテナガエビ,コンジンテナガエビ Macrobrachium lar (Fabricius, 1798) が黒潮の影響を受けている太 平洋沿岸の各県から相次いで報告されるように なった(例えば,今井ほか,2002,2008,2012, 2015).このような事例や種子島を最後に調査し た Suzuki et al. (1993) の報告から 20 年以上が経過

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川,苦浜川,阿高磯川,脇之川,深川川,住吉川, 下二ツ川,上二ツ川,甲女川,二番川,三番川, 浦田川,中川の 31 河川で行った(Fig. 1).採集 は河口から 1 km 以内の下流域で,草木などの障 害物が目視で確認できる場所で行ったが,湊川 (北),西京川,湊川(南),大浦川,宮瀬川の 5 河川では,それぞれ河口から 2.5,1.8,3.0,1.2,2.5 km の場所で行った.また,湊川(北),西京川, 川脇川,大川田川,早稲田川,犬城川,向井川, 沸川,中山川,宮瀬川,鹿鳴川,島間川,甲女川 では,前述の下流地点に加えて,上流に 1–5 地点 を設けて採集した.また,中種子町に位置する御 新田の池,南種子町に位置する長谷の池および宇 宙ヶ丘公園の池の岸辺でも採集を行った. 採集にはフレームの大きさが 33×30 cm のたも Fig. 1. Locations of rivers and ponds sampled in Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan. R1 Minato River (North); R2 Saikyo River; R3 Annou River; R4 Minato River (South); R5 Asagou River; R6 Kawawaki River; R7 Ookawada River; R8 Waseda River; R9 Injou River; R10 Mukai River; R11 Tagiri River; R12 Nakayama River; R13 Kumano River; R14 Oura River; R15 Miyase River; R16 Shikanaki River; R17 Okawa River; R18 Shimama River; R19 Tanikiri River; R20 Kuhama River; R21 Adakaiso River; R22 Wakino River; R23 Fukagawa River; R24 Sumiyoshi River; R25 Shimofutatsu River; R26 Kamifutatsu River; R27 Koume River; R28 Niban River; R29 Sanban River; R30 Urata River; R31 Naka River; P1 Goshindenno-ike Pond; P2 Haseno-ike Pond; P3 Pond in the Uchugaoka Park.

網(目合い 2.5×2.5 mm)を用いた.網を河床に 固定し,足でその上流側約 50 cm の範囲の石をは ぐったり,草木などの障害物から追い出したりし て網に追い込む方法と,沈水植物を網ですくい上 げる方法でエビを採集した.現地の状況に合わせ て,2 人でこれらの採集方法を 1 人 10 回行った. 採集したエビのうち,前報(今井ほか,2017b) で報告したエビヤドリモ属 Cladogonium 藻類の付 着が見られたミナミテナガエビ 2 個体については 活かした状態で輸送した.スジエビについては個 体数を数え,1–7 個体を残して放流した.これら

していることから,種子島における淡水産コエビ

以外は全て 10% ホルマリンで固定し,標本とし

類の現状を知っておく必要がある.

た.

本研究では,種子島における淡水産コエビ類の

標本は後日,鈴木(2016)を参考にして種を同

分布の現状を明らかにすることを目的として,31

定した.また,スジエビには湖沼や河川の上流域

河川および 3 つの池で調査を実施したので報告す

に生息する A タイプと河川下流に生息する B タ

る. 調査河川と方法

イプが知られるが(Chow and Fujio, 1985),これ らは大貫(2010)に従って模様から判別した.同 定したエビは計数し,全ての眼窩体長(orbital

淡水産コエビ類の採集調査を 2015 年 9 月 8–12

body length, OBL)をノギスで測定した.一部の

日および 2016 年 9 月 6–9 日に種子島の北端の喜

種については,眼窩甲長(orbital carapace length,

志鹿崎と南端の門倉岬を境として,東岸に河口を

OCL)を測定し,額角歯数(眼窩よりも後ろの上

持つ湊川(北),西京川,安納川,湊川(南),浅

縁歯数,眼窩よりも前の上縁歯数,下縁歯数のそ

川川,川脇川,大川田川,早稲田川,犬城川,向

れぞれについて)および第 3 胸脚の指節後縁の小

井川,沸川,中山川,熊野川,大浦川,宮瀬川,

棘数を計数した.卵体積(V)については卵の長

鹿鳴川,西岸に河口を持つ大川川,島間川,谷切

さ(l)と幅(w)を双眼実体顕微鏡に取り付けた

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Fig. 2. Distributions of freshwater carideans in Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan.

Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 2. Continued.

ミクロメータで測定し,楕円体の体積を算出する

湊川(北)(n = 1),沸川(n = 3).

2 公式を利用して,V = πlw /6 から算出した.標本

東岸に位置する 2 河川で計 4 個体が採集され

は 70% エタノールに置換した後,一部の標本に

た (Fig. 2A).これらの OBL は 11.7–18.1 mm であっ

ついては鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に

た. 標 本 を KAUM–AT–340 か ら KAUM–AT–343

登録,保管し,他は今井の手元に保管した.

で登録した.

本調査で採集されたザラテテナガエビとコン ジンテナガエビの OCL は,それぞれをまとめて

2.ツノナガヌマエビ Caridina grandirostris Stimpson,

頻度分布図を作成し,相澤・滝口(1999)に従っ

1860

て,MS-Excel の Solver を用いて複合正規分布へ

湊川(北)(n = 8),西京川(n = 1),安納川(n

の分解を試みた.河川ごとのエビの多様度につい

= 2),湊川(南)(n = 1),浅川川(n = 2),大川

ては,Shannon-Wiener 関数(H’)を用いて算出し

田川(n = 2),早稲田川(n = 1),熊野川(n = 3),

た.ここで,N は総個体数,ni は種 i の個体数で

宮瀬川(n = 14),鹿鳴川(n = 11),島間川(n = 2),

ある.

甲女川(n = 2),浦田川(n = 3). 東岸に河口を持つ 10 河川,西岸に河口を持つ

結果

3 河川,計 13 河川で確認された (Fig. 2C).計 52 個体が採集され,OBL は 7.0–24.7 mm の範囲で

ヌマエビ科 Atyidae

あ っ た. こ れ ら の 個 体 を KAUM–AT–481 か ら

1.オニヌマエビ Atyopsis spinipes (Newport, 1847)

KAUM–AT–528 で登録した.

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Fig. 3. Caridina laoagensis Blanco, 1939 (KAUM–AT–349, ovigerous female, 21.9 mm OBL, Niban River, Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan). Scale bar = 10 mm

3.リュウグウヒメエビ Caridina laoagensis Blanco, 1939 湊川(南)(n = 1),犬城川(n = 2),島間川(n = 1),阿高磯川(n = 1),二番川(n = 1). 東岸に河口を持つ 2 河川,西岸に河口を持つ 3 河川で計 6 個体が採集された (Fig. 2B).これらの OBL は 10.6–25.2 mm で,額角歯式は 0+10–17/2–4

Fig. 4. Caridina laoagensis Blanco, 1939 (KAUM–AT–349, ovigerous female, 21.9 mm OBL, Niban River, Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan). (A) cephalothorax and cephalic appendages, lateral view; (B) telson, distal portion; (C) third pereiopod; (D) same, dactylus; (E) fifth pereiopod; (F) same, dactylus. Scale bars: A, C, E = 1 mm; B = 0.5 mm; D, F = 0.1 mm.

であった.湊川(南)と二番川の個体は抱卵して おり,湊川(南)の未発眼卵(n = 15)の長さは

窩前方から先端に向けて 16 歯が並び,先端には

0.36–0.40 mm,幅は 0.21–0.24 mm,卵体積 ± 標準

歯が無く,下縁には 3 歯が先端半分に位置した

偏差は 0.010±0.001 mm であった.二番川の未発

(Fig. 4A).尾節の後縁中央は小棘があって尖り,

3

眼 卵(n = 15) の 長 さ は 0.40–0.42 mm, 幅 は

その外側には 2 対の棘の間に長い羽毛状の剛毛が

0.24–0.26 mm,卵体積 ± 標準偏差は 0.014±0.001

2 対あり,右側の 2 本は先端が欠損していた(Fig.

mm であった.林(2007)がトゲナシヌマエビ

4B).第 3 胸脚の前節は指節の 4.8 倍の長さであ

に似ていると述べているように,採集時にはヤマ

り(Fig. 4C),指節後縁には 5 棘があった(Fig.

トヌマエビで見られる濃褐色から赤褐色の縦縞は

4D).第 5 胸脚の前節は指節の 3.6 倍の長さであ

なく,トゲナシヌマエビと思われたが,標本を調

り(Fig. 4E),指節後縁には 56 本の小棘があった

べるとヤマトヌマエビに似た額角歯の並びを有し

(Fig. 4F). 標 本 を KAUM–AT–344 か ら KAUM–

3

ていた.リュウグウヒメエビ(C. weberi De Man,

AT–349 で登録した.

1892 として示されている個体も含む)の公表さ れている写真の体色を見ると,腹部の明瞭な黒斑

4.ミゾレヌマエビ Caridina leucosticta Stimpson, 1860

が有るか無いかの 2 パターンが確認できる(諸喜

湊川(北)(n = 218),西京川(n = 38),安納

田,1979;Hung et al., 1993;Shy and Yu, 1998;山

川(n = 45),湊川(南)(n = 52),浅川川(n =

崎,2002;Lin, 2007; 豊 田・ 関,2014; 丸 山,

25),川脇川(n = 44),大川田川(n = 100),早

2017).種子島で採集された個体 (Fig. 3) は,黒斑

稲田川(n = 30),犬城川(n = 61),向井川(n =

が無いパターンであった.この様な違いは体色変

25),沸川(n = 6),熊野川(n = 126),大浦川(n

異なのか,種の違いなのかは検討の余地がある.

= 42),宮瀬川(n = 296),鹿鳴川(n = 335),大

二番川産の標本を調べると,額角はやや長く,第

川川(n = 52),島間川(n = 129),苦浜川(n = 4),

1 触角柄部の第 2 節の中程を超えた.上縁には眼

阿高磯川(n = 5),脇之川(n = 1),深川川(n = 1),

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Nature of Kagoshima Vol. 44

住吉川(n = 5),上二ツ川(n = 9),甲女川(n =

湊川(北) (n = 29),西京川(n = 43),安納川(n

48),二番川(n = 3),浦田川(n = 31),中川(n

= 15),湊川(南)(n = 10),川脇川(n = 3),大

= 3).

川田川(n = 21),早稲田川(n = 36),犬城川(n

東岸に河口を持つ 15 河川,西岸に河口を持つ

= 49),向井川(n = 2),沸川(n = 19),中山川(n

12 河川,計 27 河川で確認された(Fig. 2D).計 1,739

= 12),宮瀬川(n = 20),鹿鳴川(n = 42),大川

個体が採集され,OBL は 5.0–33.0 mm の範囲で

川(n = 1),島間川(n = 16),谷切川(n = 11),

あった.ヌマエビ科では最も多くの河川に出現し,

阿高磯川(n = 7),下二ツ川(n = 12),上二ツ川(n

個体数は最も多かった.

= 3),甲女川(n = 8),二番川(n = 6),浦田川(n = 29),中川(n = 1).

5.ヤマトヌマエビ Caridina multidentata Stimpson, 1860

東岸に河口を持つ 13 河川,西岸に河口を持つ

湊川(北)(n = 3),西京川(n = 14),川脇川(n

10 河川,計 23 河川で確認された (Fig. 2G).西京

= 6),大川田川(n = 3),犬城川(n = 20),沸川(n

川では西京ダム上流でも採集された.計 395 個体

= 4),宮瀬川(n = 2),鹿鳴川(n = 20),島間川(n

が採集され,OBL は 4.5–33.7 mm の範囲であった.

= 17),宇宙ヶ丘公園の池(n = 5). 東岸に河口を持つ 8 河川,西岸に河口を持つ 1 河川,計 9 河川で確認された(Fig. 2E).本種は 遡上能力が強く,ダムの上流部にも生息すること が知られており(三矢・濱野,1988),種子島では,

8.ヌマエビ Paratya compressa (De Haan, 1844) 湊川(北)(n = 1),大川田川(n = 3),早稲田 川(n = 2),犬城川(n = 3). 東岸に位置する 4 河川で計 9 個体が採集され

西京川の西京ダム上流部だけでなく宇宙ヶ丘公園

た (Fig. 2H). 湊 川( 北 ) で 採 集 さ れ た 個 体 の

の池(標高約 180 m)にも出現した.計 94 個体

OBL は 9.5 mm で あ っ た が, 他 は 20.5–27.5 mm

が採集され,OBL は 8.2–38.3 mm の範囲であった.

であった.湊川(北)の個体および額角欠損個体

なお,今井ほか(2017b)の Table 1 において,

を除いた額角歯式は 2–3+16–23/2–4 で,第 3 胸脚

2015 年に島間川の SM2 から記録されたヤマトヌ

の指節後縁の小棘は 4–6 本であった.抱卵個体は

マエビ(OBL 10.9 mm)は,リュウグウヒメエビ

採集されなかった.これらの個体を KAUM–AT–

の誤りであった.ここに訂正する.

350 から KAUM–AT–354 で登録した.

6.ヒメヌマエビ Caridina serratirostris De Man, 1892

テナガエビ科 Palaemonidae

湊川(北) (n = 28),西京川(n = 10),安納川(n = 11),川脇川(n = 34),大川田川(n = 75),早

9. ザ ラ テ テ ナ ガ エ ビ Macrobrachium australe (Guérin–Méneville, 1838)

稲田川(n = 12),犬城川(n = 71),向井川(n = 1),

安納川(n = 3),浅川川(n = 1),川脇川(n = 1),

沸川(n = 5),宮瀬川(n = 1),鹿鳴川(n = 3),

大川田川(n = 2),犬城川(n = 4),沸川(n = 1),

大川川(n = 3),島間川(n = 15),深川川(n = 4),

中山川(n = 10),熊野川(n = 3),鹿鳴川(n = 3),

住吉川(n = 2),上二ツ川(n = 5),二番川(n = 3),

西岸に河口を持つ大川川(n = 13),島間川(n = 1),

浦田川(n = 1),中川(n = 1).

谷切川(n = 1),阿高磯川(n = 1),下二ツ川(n = 1),

東岸に河口を持つ 11 河川,西岸に河口を持つ

二番川(n = 10),浦田川(n = 5),中川(n = 11).

8 河川,計 19 河川で確認された (Fig. 2F).計 285

東岸に河口を持つ 9 河川,西岸に河口を持つ 8

個体が採集され,OBL は 7.0–22.4 mm の範囲で

河川の計 17 河川で計 71 個体が確認された(Fig.

あった.

2I).OBL は 9.4–29.5 mm,OCL は 1.9–8.3 mm の 範囲であった.OCL 組成は平均値 3.5 mm の 1 群

7. ト ゲ ナ シ ヌ マ エ ビ Caridina typus H. Milne

だ け で 構 成 さ れ た(Fig. 5). 今 井 ほ か(2017a)

Edwards, 1837

が大隅半島で採集したザラテテナガエビの OCL

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た.これについては先に報告した(今井ほか, 2017b). 11.ヒラテテナガエビ Macrobrachium japonicum (De Haan, 1849) 湊川(北)(n = 1),安納川(n = 1),川脇川(n = 2),大川田川(n = 1),早稲田川(n = 1),犬城 川(n = 11),向井川(n = 2),沸川(n = 9),中 山川(n = 2),宮瀬川(n = 3),鹿鳴川(n = 5), 島間川(n = 5),谷切川(n = 5),阿高磯川(n = 4), 脇之川(n = 2),住吉川(n = 1),上二ツ川(n = 1), 二番川(n = 1). 東岸に河口を持つ 11 河川,西岸に河口を持つ Fig. 5. Frequency distributions of body length of Macrobrachium australe (Guérin–Méneville, 1838) in Tanega-shima Island and Oosumi Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan.

7 河川,計 18 河川で確認された(Fig. 2K).計 57 個体が採集され,OBL は 8.2–63.8 mm の範囲で あった.

組成も同様に平均値 4.4 mm の 1 群だけで構成さ

12. コ ン ジ ン テ ナ ガ エ ビ Macrobrachium lar

れ た. こ れ ら の 個 体 を KAUM–AT–529 か ら

(Fabricius, 1798)

KAUM–AT–564 で登録した.

湊川(北)(n = 1),西京川(n = 1),早稲田川(n = 6),犬城川(n = 24),向井川(n = 3),沸川(n = 3),

10.ミナミテナガエビ Macrobrachium formosense

中山川(n = 87),熊野川(n = 4),宮瀬川(n = 2),

Bate, 1868

鹿鳴川(n = 2),甲女川(n = 1),二番川(n = 12).

湊川(北) (n = 46),西京川(n = 24),安納川(n

東岸に河口を持つ 10 河川,西岸に河口を持つ

= 13),湊川(南)(n = 3),浅川川(n = 26),川

2 河 川 の 計 12 河 川 で 確 認 さ れ た(Fig. 2L). 計

脇川(n = 14),大川田川(n = 57),早稲田川(n

146 個体が採集されたが,このうち中山川では 3

= 9),犬城川(n = 11),向井川(n = 52),沸川(n

地点で 87 個体と半数以上であった.OBL は 9.4–

= 26),中山川(n = 7),熊野川(n = 28),大浦川

82.9 mm,OCL は 1.9–25.8 mm の 範 囲 で あ っ た.

(n = 63),宮瀬川(n = 29),鹿鳴川(n = 51),大

OCL 組成から 10 mm 未満の 1 群と 14 mm 以上の

川川(n = 67),島間川(n = 55),苦浜川(n = 3),

2 群で構成され(Fig. 6),小群の平均値(範囲)

阿高磯川(n = 5),脇之川(n = 1),深川川(n = 2),

は 3.4 mm (1.9–8.3 mm) で, 大 群 の そ れ は 20.1

住吉川(n = 6),下二ツ川(n = 1),甲女川(n = 2),

mm (15.9–25.8 mm) であった.今井ほか(2017a)

二番川(n = 4),浦田川(n = 36),中川(n = 9).

が大隅半島で採集したコンジンテナガエビの

東岸に河口を持つ 16 河川,西岸に河口を持つ

OCL 組成は平均値 3.1 mm の 1 群だけで構成され

12 河川の計 28 河川で確認され,最も多くの河川

た.これらの個体を KAUM–AT–355 から KAUM–

に 出 現 し た(Fig. 2J). 計 650 個 体 が 採 集 さ れ,

AT–480 で登録した.

OBL は 7.4–103.4 mm の範囲であった. 種子島における本種の特筆事項としては,上 田(1963)が島間川においてエビヤドリモ属藻類

13.スジエビ Palaemon paucidens De Haan, 1844 湊川(北)(n = 11),西京川(n = 2),安納川(n

に寄生された個体を採集している.本調査でも,

= 1),浅川川(n = 73),川脇川(n = 3),大川田川(n

島間川と鹿鳴川で藻類に寄生された個体を採集し

= 1),早稲田川(n = 1),犬城川(n = 1),向井川(n

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Fig. 7. Shannon-Wiener function (H’) of freshwater carideans sampled in rivers in Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan.

考察 今回の種子島の調査では,ヌマエビ科のオニ Fig. 6. Frequency distributions of body length of Macrobrachium lar (Fabricius, 1798) in Tanega-shima Island and Oosumi Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan.

ヌマエビ,ツノナガヌマエビ,リュウグウヒメエ ビ,ミゾレヌマエビ,ヤマトヌマエビ,ヒメヌマ エビ,トゲナシヌマエビ,ヌマエビ,テナガエビ 科のザラテテナガエビ,ミナミテナガエビ,ヒラ

= 1),沸川(n = 14),宮瀬川(n = 1),鹿鳴川(n

テテナガエビ,コンジンテナガエビ,スジエビ B

= 13),島間川(n = 251),苦浜川(n = 132),阿高

タイプの 13 種が確認された.すべて通し回遊種

磯川(n = 60),脇之川(n = 57),住吉川(n = 3),

であった.種子島におけるこれまでの知見(上田,

下二ツ川(n = 98),上二ツ川(n = 23),甲女川(n

1963;諸喜田,1979;鹿児島県立博物館,1990;

= 25),三番川(n = 23),中川(n = 1).

Suzuki et al., 1993)と比較すると,スベスベテナ

東岸に河口を持つ 12 河川,西岸に河口を持つ

ガエビのみ採集されなかったが,オニヌマエビ,

10 河川の 22 河川で確認された(Fig. 2M).スジ

リュウグウヒメエビ,ヌマエビ,コンジンテナガ

エビには非通し回遊性の A タイプと通し回遊性

エビの 4 種が新たに確認された(Table 1).

の B タイプが知られるが,大貫(2010)に従っ

リュウグウヒメエビは我が国では沖縄県が主

て模様から判別すると,今回採集されたスジエビ

分布域であるが(鈴木・成瀬,2011),林(2007)

はすべて B タイプであった.計 795 個体が採集

は徳之島産の標本を調べている.近年,遠く離れ

され,OBL は 9.7–47.0 mm の範囲であった.三

た神奈川・静岡の両県からも記録された(丸山,

番川では本種のみが採集された.

2017).神奈川県森戸川では個体数も比較的多く, 抱卵個体も確認されている.丸山(2017)によれ

河川別の種類数と多様度

ば,屋久島にも生息するとのことである.種子島

出現した種類数は,湊川(北)と犬城川で 11

では個体数は少ないが 5 河川で採集された.これ

種と最も多く,最小はスジエビ 1 種のみが出現し

らのことから,本種は近年分布を拡大しているも

た三番川であった.

のと思われる.

多様度は,西京川,安納川,川脇川,大川田川,

オニヌマエビは鹿児島県では徳之島,喜界島,

早稲田川,犬城川,沸川,住吉川,二番川の 9 河

中之島,口之島,屋久島,大隅半島から記録され

川で 2.09–2.83 と高く,苦浜川,脇之川,下二ツ

て い る( 諸 喜 田,1979;Suzuki et al., 1993;

川の 3 河川で 0.34–0.64 と低く,三番川では 0 で

Soomro et al., 2010, 2016).下甑島および薩摩半島

あった(Fig. 7).

からも採集された記述がある(柿本,1979;米沢, 1992).近年,宮崎県(山田ほか,2014),静岡県

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( 今 井 ほ か,2012), 神 奈 川 県( 丸 山,2015,

子島から記録されているが(Suzuki et al., 1993),

2017)からも出現が報告されている.本種もリュ

その後の記録はなく,鹿児島県以北の地域での記

ウグウヒメエビと同様に分布域を拡大していると

録もない.本種が今回出現しなかった要因として

思われるが,確認された個体数はいずれも少ない.

は,近年幼生が到達していない可能性が考えられ

ヌマエビは鹿児島県では徳之島,奄美大島,喜

る.

界島,宝島,屋久島,大隅半島から記録がある(上

ツノナガヌマエビとザラテテナガエビは,鹿

田,1963; 諸 喜 田,1979;Nishino, 1981;Suzuki

児島県では種子島を含めて,それぞれ屋久島,大

田,1999;Soomro et al., 2010,

隅半島,薩摩半島および徳之島,奄美大島,喜界

2016;今井ほか,2017a).種子島は鹿児島県にお

島,中之島,口之島,屋久島,大隅半島,薩摩半

ける分布の空白域であったが,今回の調査によっ

島 か ら 知 ら れ( 諸 喜 田,1979;Suzuki et al.,

て東岸に位置する河川で確認することができた.

1993;Soomro et al., 2010, 2016; 今 井 ほ か,

et al., 1993;

コンジンテナガエビは鹿児島県では与論島,徳

2017a),種子島では 2 河川ずつから記録されてい

之島,奄美大島,喜界島,中之島,口之島,屋久

た(諸喜田,1979;Suzuki et al., 1993).今回の調

島,口之永良部島,竹島,大隅半島,薩摩半島か

査ではそれぞれ 13 河川と 17 河川と多くの河川に

ら記録されている(諸喜田,1979;Suzuki et al.,

出現することが確認された.種子島で採集された

1993;Suzuki, 2001;Soomro et al., 2010, 2016;鈴

ザラテテナガエビの OCL は,大隅半島と同様に

木ほか,2014;今井ほか,2017a).種子島にも生

10 mm 未満の個体だけであった.

息するという情報もあった(越塩氏,私信).ヌ

ミゾレヌマエビ,ヤマトヌマエビ,ヒメヌマ

マエビと同様に,種子島は分布の空白域であった

エビ,トゲナシヌマエビ,ミナミテナガエビ,ヒ

が,12 河川と多くの河川で確認できた.今回,

ラテテナガエビは,黒潮の影響を受ける房総半島

種子島で採集されたエビは,大隅半島と同様に

までの太平洋沿岸の地域でよく見られる種である

OCL 10 mm 未満の個体が多かったが,15.9 mm

(例えば,浜野ほか,2000;宇佐美ほか,2008;

以上で抱卵個体も採集された.なお,大型個体は

今井・大貫,2013;今井ほか,2015).これらの

12 個体と少数のため,群を複数に分けることは

種のうち,ミゾレヌマエビ,ヤマトヌマエビ,ト

できなかった.

ゲナシヌマエビ,ミナミテナガエビ,ヒラテテナ

スベスベテナガエビは鹿児島県からは唯一種

ガエビは鹿児島県では奄美大島以南から大隅・薩

Table 1. List of the freshwater carideans recorded from Tanega-shima Island, Kagoshima Prefecture, Japan. Kagoshima Prefectual Suzuki et al. Kamita (1963) Shokita (1979) Museum (1990) (1993) Investigated number of rivers 2 8 1 5 Atyidae Atyopsis spinipes Caridina grandirostris ● C. laoagensis C. leucosticta ● ● ● C. multidentata ● ● C. serratirostris ● ● C. typus ● ● ● Paratya compressa Palaemonidae Macrobrachium australe ● ● M. equidens ● M. formosense ● ● ● M. japonicum ● ● M. lar Palaemon paucidens ● ● ●

108

This study 31 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●


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摩半島まで広く分布する種である(上田,1963;

大貫,2017).今回の種子島の調査では,人為的

諸喜田,1979;Suzuki et al., 1993;Suzuki, 2001;

な導入によると考えられるこれら淡水産コエビ類

Soomro et al., 2010, 2016;鈴木ほか,2014;今井

の生息は確認されなかった.なお,外来種として

ほか,2017a).ヒメヌマエビは前述の 5 種と同様

以前から知られているアメリカザリガニ

の範囲に分布するが,薩摩半島では確認されてい

Procambarus clarki (Girard, 1852) は,鹿児島県立

ない(Suzuki et al., 1993).種子島におけるこれら

博物館(1988)の調査により種子島でも確認され

の種は,ヤマトヌマエビが主として東岸側の河川

ていた.今回の調査でも宮瀬川と御新田の池の 2

に出現が偏っていることを除けば,全域で見られ

地点で採集された.

る.ミゾレヌマエビとミナミテナガエビについて は,個体数も多い.

以上のように,種子島における通し回遊性の 淡水産コエビ類は,過去の調査で確認された種に

スジエビには A タイプと B タイプが知られる

ついては,スベスベテナガエビを除いて全て確認

が,両タイプを分けて記述している研究は少ない.

された.また,今回の調査によって,オニヌマエ

スジエビは鹿児島県では奄美大島以北から知られ

ビ,リュウグウヒメエビ,ヌマエビ,コンジンテ

るが(鈴木ほか,2015),種子島で採集された個

ナガエビの 4 種が新たに確認された.種子島にお

体はすべて B タイプであり,全域で確認され,

いて通し回遊性の淡水産コエビ類の出現種数は,

個体数も多かった.B タイプは他に大隅半島から

東岸で多く,西岸で少なかった.このことは,黒

報告されている(今井ほか,2017a).

潮が東岸側を流れるためと考えられた.

今回の結果と過去の知見(上田,1963;諸喜田, 1979; 鹿 児 島 県 立 博 物 館,1990;Suzuki et al.,

謝辞

1993)から,これまでに種子島では通し回遊性の

種子島におけるコンジンテナガエビの情報を

淡水産コエビ類 14 種が出現した.このうち,東

提供して頂いた鹿児島大学水産学部の越塩俊介博

岸側では 14 種全てが出現したが,西岸側はオニ

士にお礼申し上げる.

ヌマエビとヌマエビを除く 12 種が見られた.多 様度は東岸の北寄りの 7 河川,および西岸の北部 に位置する 2 河川で高かった.通し回遊性の淡水 産コエビ類の出現に影響すると考えられる種子島 近辺の黒潮の流路は,東岸に沿って南から北へと 流れるほか,トカラ海峡において黒潮から分岐し た大隅分枝流が島北部を西から東へと通ることが 知られている(山城ほか,2008).このような種 子島付近の海流が通し回遊性の淡水産コエビ類の 出現種数や多様度に影響しているものと考えられ た.黒潮が東岸を流れる台湾でも,東岸側で通し 回遊性のヌマエビ科やテナガエビ属の出現種数が 多いという同様の傾向が報告されている(Hung et al., 1993; Chen et al., 2010). 近年,日本各地の淡水域から釣り餌として海 外から持ち込まれた非在来種のカワリヌマエビ属 の 数 種 Neocaridina spp. や チ ュ ウ ゴ ク ス ジ エ ビ Palaemon sinensis (Sollaud, 1911) の生息が相次い で確認されている(例えば,西野,2017;今井・

引用文献 相澤 康・滝口直之.1999.MS-Excel を用いたサイズ度数 分布から年齢組成を推定する方法の検討.水産海洋研 究,63: 205–214. Chen, R.-T., Chang, S.-T., Yeh, M.-F., Chen, H.-P., Chen, T.H., Tsai, C.-F. and Tzeng, W.-N. 2010. Distribution of the freshwater prawns (Macrobrachium Bate, 1868) in Taiwan in relation to their biogeographic origins. TW J. of Biodivers., 12 (1): 83–95. Chow, S. and Fujio, Y. 1985. Biochemical evidence of two types in the fresh water shrimp Palaemon paucidens inhabiting the same water system. Nippon Suisan Gakkaishi, 51 (9): 1451–1460. 浜野龍夫・鎌田正幸・田辺 力.2000.徳島県における淡 水産十脚甲殻類の分布と保全.徳島県立博物館研究報 告,10: 1–47. 林 健一.2007.日本産エビ類の分類と生態 Ⅱ.コエビ下 目(1).(ヒオドシエビ上科・イトアシエビ上科・ヌマ エビ上科・サンゴエビ上科・オキエビ上科・イガグリ エビ上科).生物研究社,東京.292 pp. Hung, M.-S., Chan, T.-Y. and Yu, H.-P. 1993. Atyid shrimps (Decapoda: Caridea) of Taiwan, with descriptions of three new species. J. Crust. Biol., 13 (3): 481–503. 池田 実.1999.遺伝学的にみたヌマエビの「種」.海洋と 生物,123: 299–307.

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Nature of Kagoshima Vol. 44 今井 正・北野 忠・小宮暢子・梅木康太郎・米田 透・ 秋山信彦.2002.伊豆半島で採集されたコンジンテナ ガエビ.神奈川自然保全研究会報告書,(16): 23–26. 今井 正・大貫貴清.2013.紀伊半島南西部の河川で採集 されたザラテテナガエビとコンジンテナガエビの未成 体.南紀生物,55 (1): 11–14. 今井 正・大貫貴清.2017.愛媛県宇和島市岩松川水系で 採集された淡水エビの移入種 チュウゴクスジエビ(改 称)Palaemon sinensis (Sollaud, 1911).南紀生物,59 (1): 82–86. 今井 正・大貫貴清・米田 透・梅木康太郎・秋山信彦. 2008.伊豆半島谷津川におけるコンジンテナガエビの 生息状況およびザラテテナガエビの本州初記録.神奈 川自然保全研究会報告書,(18): 1–7. 今 井 正・ 大 貫 貴 清・ 芹 澤( 松 山 ) 和 世・ 芹 澤 如 比 古, 2017b.緑藻エビヤドリモ属藻類が外部寄生したミナミ テナガエビ(十脚目,テナガエビ科)の種子島,島間 川からの再発見.Nature of Kagoshima,43: 305–310. 今井 正・大貫貴清・鈴木廣志.2012.伊豆半島谷津川で 採集されたオニヌマエビの記録.日本生物地理学会会 報,67: 185–188. 今井 正・大貫貴清・鈴木廣志.2015.高知県室戸半島と 足摺半島における淡水産コエビ類の分布.日本生物地 理学会会報,70: 159–171. 今井 正・大貫貴清・鈴木廣志,2017a.大隅半島におけ る 淡 水 産 コ エ ビ 類 の 分 布.Nature of Kagoshima,43: 297–303. 鹿児島県立博物館.1988.アメリカザリガニ Procambarus clarki (Girard)(ザリガニ科).Pp. 10–13.調べよう鹿児 島の自然(第 1 号).鹿児島県立博物館,鹿児島. 鹿児島県立博物館.1990.テナガエビ類(テナガエビ科). Pp. 23–24.調べよう鹿児島の自然(第 3 号).鹿児島県 立博物館,鹿児島. 柿本修一.1979.甑(こしき)島列島の魚類,貝類及びエビ類. 淡水魚,(5): 158–160. 上田常一.1963.奄美大島・屋久島・種子島の淡水エビ類(続 日本淡水エビ類の研究,第 1 部).島根大学論集(自然 科学),13: 1–28. Lin C.-C. 2007. A field guide to freshwater fish and shrimps in Taiwan Vol. 2. Commonwealth Publishing, Taipei, Taiwan. 239 pp. (in Chinese). 丸山智朗.2015.三浦半島におけるオニヌマエビ(節足動 物門:十脚目:ヌマエビ科)とコンジンテナガエビ(テ ナガエビ科)の記録.神奈川自然誌資料,36: 41–44. 丸山智朗.2017.神奈川県および伊豆半島の河川から採集 された注目すべき熱帯性コエビ類 5 種.神奈川自然誌 資料,38: 29–35. 三矢泰彦・濱野龍夫.1988.魚道のないダムが十脚甲殻 類の流程分布に与える影響.日本水産学会誌,54 (3): 429–435. Nishino, M. 1981. Brood habits of two subspecies of a freshwater shrimp, Paratya compressa (Decapoda: Atyidae) and their geographical variation. Japanese Journal of Limnology, 42 (4): 201–219. 西野麻知子.2017.日本への外来カワリヌマエビ属 (Neocaridina spp.) の侵入とその分類学的課題.地域自然史 と保全,39 (1): 21–28.

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RESEARCH ARTICLES 大貫貴清.2010.淡水性テナガエビ亜科スジエビ Palaemon paucidens 2 型および Palaemonetes sinensis の外部形態に おける個体群間ならびに種間の識別とその生物学的特 性に関する研究.113 pp.東海大学博士論文. Shy, J.-Y. and Yu, H.-P. 1998. Freshwater shrimps of Taiwan. National Museum of Marine Biology and Aquarium, Takao, Taiwan. 103 pp. (in Chinese). Soomro, A.N., Suzuki, H., Kitazaki, M. and Kobari, T. 2010. Species composition of freshwater shrimps in Kikaijima Island, southern Japan. J. Crust. Biol., 30 (4): 721–726. Soomro, A.N., Waryani, B., Suzuki, H., Baloch, W. A., Shoaka, M., Qureshi, S. T. and Saddozai, A. 2016. Diversity of freshwater shrimps (Atyidae and Palaemonidae) along the continuum of Urabaru Stream, Kikaijima Island, Japan. Pakistan J. Zool., 48 (2): 569–573. Suzuki, H. 2001. A comment on the geological formation of the Mishima Islands (Takeshima, Ioujima and Kuroshima) as inferred from their freshwater crustacean faunas. Kagoshima Univ. Res. Cent. Pacif. Isl., Occas. Pap., 34: 137–140. 鈴木廣志.2016.薩南諸島の陸水産エビとカニ-その種類 と生物地理-.Pp. 278–347.奄美群島の生物多様性 研 究最前線からの報告(鹿児島大学生物多様性研究会編). 南方新社,鹿児島. 鈴木廣志・大元一樹・光木愛理,2015.テナガエビ科スジ エ ビ の 奄 美 大 島 に け る 初 記 録.Nature of Kagoshima, 41: 191‒193. 鈴木廣志・成瀬 貫.2011.日本の淡水産甲殻十脚類.Pp. 39–73.エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類の保全と生物 学(川井唯史・中田和義編著).生物研究社,東京. 鈴木廣志・佐藤正典.1994.かごしま自然ガイド 淡水産 のエビとカニ.西日本新聞社,福岡.141 pp. 鈴木廣志・柴田慧菜・石走和義,2014.鹿児島県与論島に おける陸水産エビ類の生息状況.Nature of Kagoshima, 38: 91–98. Suzuki, H., Tanigawa, N., Nagatomo, T. and Tsuda, E. 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atyidae and Palaemonidae) from southern Kyushu and adjacent islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research, (22): 55–64. 諸喜田茂充.1979.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化 について –Ⅱ.琉球大学理学部紀要,28: 193–278. 豊田幸詞・関慎太郎.2014.リュウグウヒメエビ.Pp. 31. 日本産淡水性・汽水性甲殻類 102 種 日本の淡水性エビ・ カニ,誠文堂新光社,東京. 宇佐美 葉・横田賢史・渡邊精一.2008.関東を中心とし た淡水性十脚目甲殻類ヌマエビ科とテナガエビ科の流 程分布様式.日本生物地理学会会報,63: 51–62. 山田和也・田口智也・兒玉龍介・稲野俊直・岩田一夫・関 屋朝裕.2014.内水面域魚類生息分布調査.Pp. 312– 315.平成 25 年度宮崎県水産試験場事業報告書.宮崎県 水産試験場,宮崎. 山城 徹・繁原俊弘・浅野敏之.2008.鹿児島湾への外洋 水の流入に及ぼす大隅分枝流の影響について.海洋開 発論文集,24: 921–926. 山崎浩二.2002.リュウグウヒメエビ.Pp. 41.手に取るよ うにわかる エビ・カニ・ザリガニの飼い方.株式会社 ピーシーズ.東京. 米沢俊彦.1992.オニヌマエビを薩摩半島で採集.鹿児島 大学生物研究会会誌 LEBEN,(22): 48.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

マングローブ干潟におけるカワアイのサイズ分布の季節変化 今村留美子・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,メヒル ギやハマボウからなるマングローブ林が広がって おり干潟潮間帯には,ウミニナ科に属するカワア イ Cerithideopsilla djadjariensis,ウミニナ Batillaria multiformis, ヘ ナ タ リ Cerithideopsilla cingulata フ トヘナタリ Cerithidea rhizophorarum,の 4 種が同 所的に群生している.ウミニナ科の貝類は汽水域 や塩分の少ない内湾的環境の泥砂底ないし泥質の 干潟に生息しており,日本の干潟では最も普通に 見られる巻貝である.特徴は,成貝で殻長 50mm 内外,殻は細長い円錐形である.体層の縦張助が 弱く,殻口前端の張り出しが弱い.縦助は上部の 螺層で強く,螺助と交差して顆粒状になるが,下 方に向かって弱まる.縫合下とその次の螺溝の深 さが,同じである.殻色は暗褐色である.本研究 では,生態のよく分かっていないカワアイの分布 の季節変動を明らかにすることによって,生活史 を明らかにすることを目的とした.調査は愛宕川 河口の支流にある干潟で毎月 1 回大潮または中潮 の日の干潮時に行った.3 つの調査区を 60 m 間 隔で設けた.3 つの調査区において,25 cm × 25 cm のコドラートをランダムに置き,コドラート 内のカワアイを全て採集した.またカワアイの殻 高をノギスを用い,0.1 mm 単位で測定した.そ Imamura, R. and K. Tomiyama. 2018. Seasonal changes in the size distribution of Cerithideopsilla djadjariensis on the mangrove tidal flat. Nature of Kagoshima 44: 111–118. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp). Published online: 16 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-016.pdf

の結果,上流側は下流側に比べて大型の個体が多 く,中流側では小型,大型の個体とサイズの幅が 広く見られた.小型の個体は春から夏にかけて下 流,中流で見られ,大型の個体は場所や季節に関 係なく出現する傾向があることがわかった.殻高 頻度分布では,30 mm 以上の大型の個体はみら れず,月毎にサイズのピークが右の方へ移動して いることから,個体群全体として個体が,成長段 階にあることが分かった.また月毎の殻高の平均 値から,各 St. それぞれ大きな変化は見られず, 年間を通して一定であった.このことから,2003 年 1 月から 2004 年 1 月にかけての期間で,幼貝 の定着は無かったことが分かる.またカワアイの 寿命は数年であることが判った. はじめに カワアイ Cerithideopsilla djadjariensis (K.Martin, 1899),はフトヘナタリ科に属する汽水生腹足類 である.汽水域や塩分の少ない湾内環境の砂泥底 ないし泥底,干潟に生息している.特徴は,成貝 で殻長 50 mm 内外,殻は細長い円錐形である. 体層の縦張助が弱く,殻口前端の張り出しが弱い. 縦助は上部の螺層で強く,螺助と交差して顆粒状 になるが,下方に向かって弱まる.縫合下とその 次の螺溝の深さが,同じである,殻色は暗褐色で ある(波部,1955). カワアイの生態に関する研究は,発生様式に ついては波部(1955)が,若松・冨山(2000)に より,カワアイ,ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869),ヘナタリ Cerithideopsilla cingulate (Gmelin, 1791), フ ト ヘ ナ タ リ Cerithidea rhizophorarum (A. Adamus, 1855) の分布様式と生活史 の一部が報告されている.また,真木ほか(2002) がカワアイを中心にして,ウミニナ科 1 種とフト

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1.調査地の地図.

ヘナタリ科 3 種の分布と底質選好性の観点から,

いる.干潟周辺にはメヒルギやハマボウからなる

カワアイ,ウミニナ,ヘナタリの 3 種は少なくと

マングローブが広がっており,太平洋域における

も干潟底質の違いによって,同所的生息を可能に

北限のマングローブ林とされている.このため同

している,という詳しい考察がなされている.し

地は他の一般の海岸とは異なった生物相を持ち,

かし,カワアイは,サイズ頻度分布の季節変動な

フトヘナタリ,ゴゲツノブエ,ヒメカノコなど,

どの基礎生態に関する調査例がほとんどなく,生

他府県では既に絶滅あるいは出産の稀な種が普通

活史も不明な点が多い.そのため,本研究ではカ

に見られる.調査地周辺の干潟上には,ウミニナ,

ワアイの干潟での分布様式や生活史を明らかにす

カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリの4種が生息

ることを目的とした.

している.調査地から 1 km 以上海側に下った河

調査地と方法 材料 本研究で調査対象としたカワアイはフ

口干潟にはホソウミニナが生息している.この河 口干潟は日石原油備蓄基地の影響もあり,一年を とおして波の穏やかな場所である.

トヘナタリ科に属する潮間帯の巻貝である.フト

調査区の設置 愛宕川河口の支流にある干潟にお

ヘナタリ科の貝は汽水域や塩分の少ない湾内環境

いて,一つの干潟で,水平位置の異なる生息場所

の砂泥底,干潟に生息しており,日本産は 6 属に

での個体群の季節変化を比較するために,澪筋に

分けられている.

沿った流れの汀線際に 3 つの調査 Station を 60 m

カワアイは本州から九州,東南アジアに分布

間隔で設けた.干潟の末端部で川の本流に面した

し,内湾潮間帯の泥砂に群生する.7–8 月頃泥の

下流側を Station A,メヒルギ林の端に位置する中

中 に ひ も 状 の 卵 塊 を 産 む( 波 部,1955;Wells,

間地を Station B,メヒルギのマングローブ林内部

1984;山本・和田,1999;江川・坂下,2003;鹿

にある上流側を Station C とした(Fig. 1).

児島県,2004).

調査方法 2003 年 1 月から 2004 年 1 月の期間に

調査地 調査は鹿児島県揖宿郡喜入町を流れ

毎月 1 回,大潮から中潮に調査を行った.ただし,

る愛宕川の支流の河口干潟(31°23′N, 130°33′E)

2004 年 1 月の St. B は,調査地が大きく掘り返さ

で行った.愛宕川は鹿児島湾の日石原油基地の内

れていたため,カワアイの採集が不可能であった.

側に河口があり,この河口部で八幡川と交わって

その為,no data とした.

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Fig. 2.各 St. におけるカワアイの殻高頻度分布の季節変化.

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Fig. 3.殻高サイズの季節変動.

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Fig. 4.各 St. における殻高サイズの平均値の季節変化.

St. A–C の調査区 3 地点においてコドラート設

のピークは 18–20 mm にあった.

定地を設けた.コドラート設定地は,カワアイが

St. B(中流側),1 月のピークは,16–18 mm に

主に生息している干潟の澪筋沿いのその周辺で最

あった.6 月まで,小型の個体と大型の個体と両

も潮位の低い場所に設けた.各設定地において,

方見られ,サイズのピークにもばらつきが見られ

25 cm × 25 cm のコドラートをランダムに置いた.

たが,7 月以降は一山型になり小型の個体はあま

コドラート内のカワアイを全て採取し,それを 1

り見られなかった.8 月には 18–20 mm にあった

mm メッシュの分析篩でふるって貝を採集した.

ピークが,11 月までに 22–24 mm に移動していた.

個体数が約 100 個体になるまで繰り返し行い,各

St. C(上流側)では 1–3 月までピークは 16–18

St. のプロット数を記録した.また,殻高をノギ

mm にあった.4 月には 12–14 mm と下がったが,

スを用いて 0.1 mm 単位で計測して記録した.カ

4 月,5 月,6 月と右に 2 mm ずつ移動し 6–8 月

ワアイは殻頂が欠けた個体は少ないので,殻高を

までピークは 16–18 mm にあった.9 月,10 月に

もって個体サイズとした.計測は調査地で行い,

は 20–22 mm に移動したが,11 月には 16–18 mm

計測を終えたサンプルは採集した調査区内にすみ

にさがり,その後ピークは 18–20 mm にあった.

やかに再放流した. 結果 サイズ分布の季節変化

殻高サイズの季節的変動 殻高サイズの季節的変動を Fig. 3 と Table 1 に 示す.各 St. において,30 mm 以上の大型個体は

サイズ頻度分布の月毎の季節変化を Fig. 2 と

あまり見られなかった.St. A では,7 月までは

Table 1 に示す.St. A(下流側)ではサイズのピー

10 mm 前後でほぼ一定であったが,8 月以降少し

クは 3 月を除いて,6 月まで 12–14 mm にあった.

ずつ右上がりで推移している.St. B と St. C でも

7 月には 10 mm 未満の個体が今までより多く新

除々に右上がりに推移しているが,年間を通して

規加入が見られた.ピークも 14–16 mm に移動し

ほぼ一定であり,大きな変化は見られない.殻高

ている.8 月には 12–14 mm に下がったが,9 月

の最小値が,定期調査の範囲である,下流,上流,

以降,20 mm 前後の個体が集中し,10–1 月まで

中流で 2.4 mm,4–8 月にかけて見られた.最大

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 5.各 St. における生息密度の季節変化.

値が 2 月で,32.1 mm であった.

各 St. の密度の月毎変化 密度の月毎変化を Fig. 5 に示す.St. A におい ては,1 月から 7 月にかけて減少が見られる.し

各 St. における殻高サイズの平均値の月毎変化 殻高サイズの平均値を Fig. 4 と Table 1 に示す.

かし 10 月から 12 月にかけては,急激に増加して

1 月から 5 月まで St. B(中流側)の平均値がどの

いる.2004 年 1 月にはまた減少が見られた.St.

St. においても大きかった.しかし 6 月以降,St.

B では 2003 年 1 月が一番多く,その後減少して

A(上流側)が上回っている.3 つの St. を比較

いっているが,5 月から 9 月にまた増加が見られ

してみると,下流側より,上流側の方が平均値が

る.St. C では,2003 年 1 月から徐々に増加していっ

高いことから,小型の個体は下流側に多く生息し,

ている.12 月にピークが見られ,2004 年 1 月に

上流側に行くにつれて,大型に個体が生息してい

急激な減少が見られた.各 St. 共に,7 月,8 月,

ることがわかる.

9 月の夏季に減少の傾向があることがわかった.

Table 1.殻高サイズの季節変動. Staion A 月 平均値 標準偏差 最小値 最大値 2003 年 1 月 12.1 2.6 4.7 25.4 2 月 13.9 2.8 8.8 24.4 3 月 13.1 2.3 9.4 20.4 4 月 13.1 2.5 7.6 26.3 5 月 12.8 1.9 9.3 20.6 6 月 13.6 2.7 5.6 23.4 7 月 12.6 3.6 4.5 19.5 8 月 13.5 3.9 5.3 26.9+ 9 月 15.3 2.2 7.7 19.6 10 月 16.1 2.4 8.4 21.1 11 月 16.3 2.2 9.8 25.1 12 月 16.6 2.2 10.8 26.3 2004 年 1 月 16.6 2 8.9 22.3

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Station B 平均値 標準偏差 最小値 最大値 18.7 4.8 8.8 31.2 15.8 4.5 8.7 32.1 15.3 4.5 7.4 26.5 16.2 5.3 2.4 30.2 16.9 4.5 10.1 26.8 15.6 3.8 5 26.5 16.6 4.7 4.5 29.6 17.4 3.2 8.7 27.2 18.2 2.5 12.2 23.8 18.8 2.6 12.5 25.5 21.2 3.8 2.4 28.5 17.2 2.5 11 24.4

Staion C 平均値 標準偏差 最小値 最大値 13.9 3.6 6.8 30.4 15 3.9 7.7 28.3 14.6 3.5 7.8 25 14.6 2.6 7.5 20.9 16.2 3.6 10.3 29.1 16.9 3.6 9.5 26.8 18.3 3.9 10.4 27.8 18.8 3.3 12.2 29 20.8 3.4 11.8 30.3 20.4 3.3 11.8 27.9 16.8 2.9 5.4 24.2 20.7 3.2 10.8 29.5 20.5 3.2 12.5 27.8


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考察 本研究で調査を行った,喜入干潟におけるカ ワアイのサイズ頻度分布に関しては,本研究と同 じ調査地域で,ウミニナ科 1 種とフトヘナタリ 3 種(ウミニナ,カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタ リ)の分布と底質選考性に関するものがある(真 木ほか,2000).そこで,本研究で対象としたカ ワアイのサイズ頻度分布の季節変化に関しての研 究結果と比較しながらすすめる.カワアイのサイ ズ頻度分布について,真木ほか(2000)によると, 2000 年 4 月から 2001 年 3 月までの殻高頻度分布 では,ほぼ一山形を示した.20 mm 未満の個体 はほとんど見られず,26–28 mm のサイズグルー プが多くみられた.上流側では大型の個体が多く 分布しており,中流,下流側では出現個体の幅が 広く,比較的,小型の個体も多く分布していた, としている. 本研究の調査では,17–18 mm 前後のサイズグ ループの個体が多く見られた.26 mm 以上の大 型個体はほとんど見られず,真木ほか(2000)の 殻高頻度分布と比較すると,大型の個体が減少し ていることがわかる.このことから大型個体の, 死亡率が高いと考えられる.また,サイズのピー クが St. A(下流側)においては,12–14 mm から 18–20 mm,St. B( 中 流 側 ) に お い て は,16–18 mm から 22–24 mm,St. C においては,16–18 mm から 20–22 mm へ移動しており,月毎に徐々に右 へ推移していっている.この事などから,個体群 全体として,個体が成長段階にあると考えられる. またカワアイは,少なくとも,成長段階において 1 年間で 8–10 mm 近く成長することが明らかに なった. St. A(下流側)では,他の St. と比較すると 10 mm 未満の個体が多く見られ,また 7–8 月にかけ て二山型のグラフを示し,新規加入が見られた. しかし,カワアイの新規加入は 4–6 月にかけて多 いと報告されている(若松・冨山,2000).本研 究で 4–6 月に新規加入が見られなかったのは, 2003 年 1 月から 2004 年 1 月までの調査期間中に おいて,幼貝の定着がなかった為だと推定できる.

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St. B(中流側)では,大型の個体と小型の個体と それぞれ見られ,ピークにもばらつきがみられた. St. C(上流側)では,下流側と中流側とで比較す ると,大型の個体が比較的多く分布していた.こ れは,真木ほか(2000)の報告と一致している. 大型の個体が下流側より上流側に多い原因は,そ の大型の個体が移動する力を持っており,これま で下流側で生活していた貝が移動したためと考え られる.このことから,小型の貝は干潟のより海 に近い下流側で過ごし,大型の貝になって,干潟 全体に生息を広げているということがわかる. 各 St. の密度の月毎変化から,カワアイは,7 月, 8 月,9 月の夏季に生息密度が減少する傾向が見 られた.10 月から 11 月にかけては急激な増加が 見られる.殻高サイズの平均値と比較してみると, 密度が増加する 10 月から 11 月にかけては,大き な変化はみられず,ほぼ一定であった.真木ほか (2000)は,ウミニナは干出に対する耐性が高いが, カワアイ,ヘナタリは耐性が低いと報告している. このことからカワアイは,夏季の高温による乾燥 から回避する傾向があり,気温が比較的に下がる 10 月から 11 月にかけて多く出現するのではない かと考えられる. St. A(下流側)の干潟は他の St. と比べると, 比較的泥が多く,細かい粒子で構成されている泥 砂地である.真木ほか(2000)によれば,カワア イは,底質を構成する粒子が比較的細かいところ を好む傾向にある,と報告している.今回の調査 結果においても,St. A(下流側)が,他の St. と 比較すると生息密度が高くなっていることは,一 概には言えないが,その為ではないかと示唆され る. 今回の調査から,標準偏差や殻高サイズの平 均値において,カワアイは成長段階であり,サイ ズの平均値に大きな減少も見られないことから, 幼貝の定着は無かった事が明らかである.また, カワアイの寿命は数年であると推定できる.本研 究で検討できなかったものとして,幼貝の定着場 所と捕食者の有無などがあげられる.今後,これ らに関しても広範な調査研究が必要であると思わ れる.

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謝辞 本研究を行うにあたり,貴重なご助言をくだ さいました鹿児島大学理学部生態学研究室の皆様 方に感謝いたします.また,現地調査の手伝いを して頂いた鹿児島大学理学部の河野尚美,国村真 希,田上英憲の各氏に心から御礼申し上げます. そして,論文成作にあたり,ご助言,データ整理 やグラフ成作の手法を教えて頂いた同大学生態学 研究室の小野田剛氏,野澤香世氏をはじめ,ご協 力を頂きました同大学生態学研究室の皆様に心か ら感謝申し上げます.本稿の作成に関しては,日 本学術振興会科学研究費助成金の,平成 26–29 年 度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生態系におけ る 水 陸 境 界 域 の 生 物 多 様 性 の 研 究 」262410270001・平成 27–29 年度基盤研究(C)一般「島嶼 における外来種陸産貝類の固有生態系に与える影 響」15K00624・平成 27–29 年度特別経費(プロジェ クト分)-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生 物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」, および,2017 年度鹿児島大学学長裁量経費,以 上の研究助成金の一部を使用させて頂きました. 以上,御礼申し上げます.

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引用文献 江川和文・坂下泰典.2003.鹿児島県揖宿郡愛宕川河口域 の貝類相.九州の貝,61: 13–29. 波部忠重.1955.カワアイとフトヘナタリの産卵.Venus, 18: 204–205. 鹿児島県.2004. 鹿児島県の絶滅のあるおそれのある野生 動植物,動物編. 真木英子・大滝陽美・冨山清升.2002.ウミニナ科 1 種と フトヘナタリ科 3 種の分布と底質選好性:特にカワア イを中心にして.Venus, 61: 62–76. 大滝陽美・真木英子・冨山清升. 2002.フトヘナタリの木 登り行動.Venus, 61: 216–223. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限のマングローブ林周辺 干潟におけるウミニナ類-分布の季節変化.Venus, 59: 225–243. Wells, F. E. 1983. The Potamidiae (Mollusca:Gastropoda) of Hong Kong, with an examination of habitat segregation in a small mangrove system. In: Morton, B. & Dudgen, D. (eds.) Proceeding of the Second International Workshop on the Malacofauna of Hong Kong,1983, pp. 140–154. Hong Kong University Press, Hong Kong. 山本百合亜・和田恵次.1999.干潟に生息するウミニナ科 貝類 4 種の分布とその要因.南紀生物,41: 16–2.


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干潟におけるウミニナの生態 田上英憲・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,ウミ ニナ Batillaria multiformis (Lischke) が生息してい る.ウミニナは泥中に紐状の卵鞘を産み,ベリ ジャー幼生が孵化するプランクトン発生である. しかし,本種の生活史については,まだ不明な点 が多い.本研究ではウミニナの生活史を明らかに する目的の 1 つとして,愛宕川の河口干潟におい て複数の調査区を比較して,ウミニナのサイズ頻 度分布の季節変動について調査した.調査は毎月 行い,愛宕川の河口干潟に上流から Station A, B を設けて,25 × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ所とり,コドラート内のウミニナの 1 ヵ所は 出現数と殻高を計測し,残りの 2 ヵ所は出現数の み計測した.その結果,上流から下流になるにつ れて,サイズピークが大きくなることが観察され た.また,愛宕川河口のウミニナは年 2 回の繁殖 をしていることが示唆された.すなわち,春と秋 頃に卵鞘が産みつけられ,水中でのプランクトン 生活を経て,夏と冬頃までに着底し,春の卵は晩 秋から冬にかけて,秋の卵は翌年の夏頃にサイズ ピークの集団に近づくと予想される.その他に, 熊本県の天草列島の下島で複数の調査区で貝の組 成の違いについて調査した.調査は 8 月に行い, 下島のウミニナ類の生息が多く確認できた 3 ヵ所 Tanoue, H. and K. Tomiyama. 2018. Ecology of Batillaria multiformis on the tidal flat. Nature of Kagoshima 44: 119–128. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 16 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-017.pdf

を調査地として Site A, B, C とした.それぞれの 上部(Upper part),下部(Under part)で 25 × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ所とり,コド ラート内の貝の出現数と殻高を計測した.その結 果,イボウミニナとウミニナはすみわけをしてい る事や,カワアイとウミニナは上部の方が大きい 個体が多い事などがわかった . はじめに ウミニナは北海道以南,九州,朝鮮半島に分 布するウミニナ科の腹足類であり,内湾の泥の多 い干潟に群がっている.殻は塔形で中ほどが多少 膨れている.描く表には 5 本の螺肋をめぐらし, これが不規則に区切られて石畳状になっている. なかでも縫合下のものは普通,いぼ状になってい る.殻口の内唇から軸唇にかけて拡がる滑層は白 い,いぼの強さ,色彩は種々あり,殻の形ととも に変異が著しい.殻口外唇はあまり張りださず, 内面は黒いが白い縞がある.殻表にツボミガイを 付 け て い る も の が あ る( 網 尾,1999; 波 部, 1999).ウミニナの発生様式は,紐状の卵鞘を産み, ベリジャー幼生が孵化するプランクトン発生であ る. 雄 に ペ ニ ス は な い( 風 呂 田,2000; 佐 藤, 2000). ウミニナの生態に関しての研究は,発生様式 については,風呂田(2000)によるホソウミニナ Batillaria cumingii (Crosse) とウミニナの研究例が あり,分布様式については,Vohra (1971) がウミ ニナとヘナタリを,Adachi & Wada (1998) がウミ ニナとホソウミニナを研究した例がある.また, Wells (1983) は,香港のマングローブ林に生息す るウミニナ科とヘナタリ科の 6 種,ウミニナ,イ ボウミニナ,マドモチウミニナ Terebralia sulcata (Born), ヘ ナ タ リ, フ ト ヘ ナ タ リ Cerithidea

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Fig. 1.鹿児島県喜入町愛宕川河口干潟の調査地の地図.

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Fig. 2.熊本県天草地方の調査地の地図.

(Cerithidea)rhizophorarum A. Adams,カワアイの

較して,ウミニナのサイズ頻度分布の季節変動に

分布と生息環境との関係を考察し,山本・和田

ついて調査した.さらに,幼少から慣れ親しんだ

(1999)は耐塩性,底質選好性,干出選好性の観

海に生息している生物に興味があったため,天草

点から,ウミニナ,ホソウミニナ,ヘナタリ,フ

でウミニナ類の組成について調査した.ことを目

トヘナタリの 4 種の分布について詳しい考察を行

的とした.

い,若松・冨山(2000)は愛宕川の河口干潟にお いて同 4 種について,サイズ分布の季節変動を報 告している. しかしながら,ウミニナの幼貝の新規加入時

調査地 喜入 調査は鹿児島県揖宿郡喜入町を流れる愛 宕川の河口干潟(31°23′N,130°33′E)で行った.

期などの生活史については不明な点が多い.若松・

愛宕川は鹿児島湾の日石石油備蓄基地の内側に河

冨山(2000)はウミニナのサイズ分布をはじめて

口があり,この河口部で八幡河と合流している.

報告したが,その調査区は淡水域に近くウミニナ

干潟周辺にはメヒルギやハマボウからなるマング

の生息場所としてはかなり端の場所であった.ウ

ローブ林が広がっており,太平洋域におけるマン

ミニナは場所によって,生息密度や殻のサイズや

グローブ林の北限となっている.河口域の異なっ

形態の差異が大きく,同じ産地でも生活史が異

た生息環境での比較を行うために,川の上流側と

なっている可能性がある.そこで,本研究ではウ

河口に,それぞれ Station A,Station B を設けて調

ミニナの生活史を明らかにする目的の 1 つとし

査を行った(Fig. 1).調査地周辺の干潟には,ウ

て,愛宕川の河口干潟において複数の調査区を比

ミニナ,カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリの 4

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Fig. 3.愛宕川河口干潟の各ステーションにおけるウミニナの殻高分布の季節変化.

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天草 調査は熊本県の天草諸島の下島の干潟 で行った.調査区としてウミニナ類の多く確認で きた 3 ヵ所を設け,Site A,Site B,Site C として それぞれの潮間帯上部(Upper part)と潮間帯下 部(Under part)で調査を行った(Fig. 2). Site A この地点は,牛深市の亀浦と呼ばれる 湾の一番奥に位置する場所である.底質は泥質~ 砂泥質でウミニナやカワアイ,イボウミニナ,ヘ ナタリがみられる. Site B この地点は,新和町の宮野河内湾の奥 に位置する場所である.底質は泥質でカワアイが 多く存在し,ウミニナもみられる. Site C この地点は,本渡市の島原湾に面して いる場所である.底質は砂質~砂礫質でウミニナ が多くみられる. 調査方法 喜 入 Station A に お い て,2003 年 1 月 か ら Fig. 4.愛宕川河口干潟の各ステーションにおけるウミニナ の出現個体数の季節変化.

2004 年 1 月の期間に毎月 1 回,大潮から中潮の 日の干潮時に調査を行った.Station B において, 2003 年 4 月から 2004 年 1 月の期間に毎月 1 回, 大潮の日の干潮時に調査を行った.各 Station に

種のウミニナ類が生息している.調査地にはホソ

25 × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ おいて,

ウミニナに形態の似たウミニナ属が生息している

所おき,コドラート内の砂泥(深さ約 2 cm)を 1

が,によれば調査地とその周辺に分布しているウ

mm メッシュのふるい内で洗った 3 ヵ所のウミニ

ミニナ属はミトコンドリア DNA の分析からウミ

ナの出現数を記録し,その中の 1 ヵ所分だけにつ

ニナであるという結果が得られている(杉原,

いては殻高をノギスにより 0.1 mm 単位で計測し

2000).

た.

Station A この地点は,上流から続くマング

天草 2003 年 8 月の大潮の期間の干潮時に調査

ローブ林の切れ目にあたり,2 つの調査区の中で

を行った.各 Site の潮間帯上部(Upper part)と

は上流に位置する場所である.干潟は平坦であり,

潮間帯下部(Under part)において,それぞれに

大潮時は水の流れから数メートルの場所での潮位

25 × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ所おき,

は変わらない.底質は砂泥質~砂質でウミニナが

コドラート内の砂泥(深さ約 2 cm)を 1 mm メッ

非常に多く存在する.

シュのふるい内で洗ったものを持ち帰った.持ち

Station B この地点は,干潟を流れる愛宕川と

帰ったサンプルを種毎に出現数を記録し,殻高を

八幡川の合流する場所で,約 300 m で鹿児島湾に

ノギスにより 0.1 mm 単位で計測した.

通じ,2 つの調査区の中では下流に位置する場所 である.大潮時などよく潮が引く時しか干出しな い干潟で,他の調査区より潮位は低い.底質は砂

結果(喜入) ウミニナのサイズ分布の季節変化

質~砂礫質でウミニナが多く,他のウミニナ類は

2003 年 1 月~ 2004 年 1 月までの喜入の各調査

見られない.

区における,ウミニナの殻高頻度分布の季節変化

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Nature of Kagoshima Vol. 44

ウミニナの個体数変動 2003 年 1 月から 2004 年 1 月までの喜入の各調 査区における,ウミニナの出現個体数の季節変化 を示した(Fig. 4). Station A において,3 月の 194 個体から急速に 個体数を増やし,4 月に 364 個体でピークとなり, その後急速に減少して 6 月には 104 個体,7 月に は 96 個体になった.8 月には再び増加して 192 個体でピークとなり,9 月には減少して 108 個体 となるが,10 月には 180 個体と増加し,11 月, 12 月,2004 年 1 月とわずかに減少するが,160 個体前半で安定している.Station B において,4 月, 5 月,6 月はともに 110 個体前後で安定している. 7 月には 86 個体と減少し,そこから急速に増加し, 9 月には 239 個体となり,10 月には 254 個体となっ た.11 月には再び急速に増加し,375 個体でピー クとなった.その後急速に減少して 2004 年 1 月 には 143 個体となった. Fig. 5.愛宕川河口干潟の各ステーションにおけるウミニナ の殻高サイズの平均値の季節変化.グラフ中の種の比率 は,0 から左上の種名リストの順番に時計回りに並べら れている.

ウミニナの平均値の季節変化 2003 年 1 月から 2004 年 1 月までの喜入の各調 査区における,ウミニナの平均値の季節変化を示 した(Fig. 5).

を示す(Fig. 3) .

Station A において,1 月,2 月,3 月と最小値

Station A において,2003 年 1 月から 5 月まで

は上がっていったが,4 月には稚貝が出てきたた

は 3 月を除いて,17–19 mm をサイズピークとす

め最小値が下がり,標準偏差が大きくなった.5

る山型のグラフであった.3 月は 18–20 mm がサ

月には一度平均値,最小値,最大値ともに上がっ

イズピークであった.4 月に 1 mm 前後の稚貝が

たが,その後平均値と最小値は下がった.8 月に

現れて,7 月まで二山型のグラフになった.8 月

は再び稚貝が出てきたために,最小値がさらに下

にも 2 mm 前後の稚貝が現れて,三山型のグラフ

がった.Station B において,4 月,5 月と平均値,

になった.その後 11 月まで二山型のグラフであっ

最小値,最大値が下がっているが,6 月には稚貝

た.12 月と 2004 年 1 月は一山型になった.

が出てきたために最小値は下がり,標準偏差が大

Station B において,2003 年 6 月から 2004 年 1

きくなった.その後,7 月 8 月と徐々に平均値と

月までは 5 月を除いて,22–24 mm をサイズピー

最小値,最大値が上がるが,9 月には再び稚貝が

ク と す る 山 型 の グ ラ フ で あ っ た.5 月 は 20–22

出てきたために,最小値が下がり,標準偏差が大

mm がサイズピークであった.6 月には 3–6 mm

きくなった.

の稚貝がわずかに現れ,7 月には二山型のグラフ になった.9 月にも 3–4 mm の稚貝が現れ,12 月 までの 10 月を除いた期間は三山型のグラフで あった.10 月は一山型であった.2004 年の 1 月 は二山型となった.

結果(天草) 貝類の Site 別の個体数の割合変化 2003 年 8 月の天草下島の各調査区における貝類 の個体数の割合の変化を地点別に示した(Fig.6).

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 6.熊本県天草の干潟の各サイトにおける巻き貝類の個体数の割合.

Site A において,潮間帯上部にはウミニナ,イ

下部になるとほとんどいなくなる.イボウミニナ

ボウミニナ,ヘナタリ,カワアイが生息しており,

は上部では 2% なのに,下部では 48% も占めて

潮間帯下部にはカワアイ以外の 3 種が生息してい

いる.ヘナタリは上部より下部のほうが多い.カ

る.ウミニナは上部では半分以上を占めているが,

ワアイは上部のみ生息していた.Site B において,

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 7.熊本県天草の干潟の各サイトにおける各種の殻高サイズ頻度分布.

上部,下部ともにウミニナとカワアイが生息して

ナのみであるが,下部はアラムシロガイが微量に

おり,ともにウミニナが少量でカワアイがほとん

生息している.

どを占めている.Site C において,上部はウミニ

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Nature of Kagoshima Vol. 44

貝類の Site 別のサイズ分布 2003 年 8 月の天草下島の各調査区における貝

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は,1 mm メッシュのふるいで採取を行ったため, 殻高 2 mm 以下の個体はもれ落ちた可能性が高い

類の殻高頻度分布を地点別に示した(Fig. 7).

と思われる.もしくは,稚貝が全く採取できなかっ

Site A において,上部ではウミニナが多く,下

たことから,4–5 月には稚貝の着底がなかったも

部ではイボウミニナが多い.ウミニナは上部では

のとも思われる.

最小個体 13 mm,最大個体 28 mm で,二山型の

Station A において,4 月に着底した 2 mm 前後

グラフになった.下部では 22 mm 前後の個体が

の稚貝が 6–7 月には 3–5 mm をピークとして成長

微量にいるだけである.イボウミニナは上部では

していたのだが,8 月には 5–7 mm をピークとす

22 mm の個体があるだけで,下部では最小個体

る集団に成長して,10 月には成貝のピークの集

12 mm,最大個体 36 mm で,二山型のグラフになっ

団に吸収された.8 月に着底した 2 mm 前後の稚

た.ヘナタリは上部,下部とも数に差はあれ,サ

貝が 10–11 月には 5–6 mm をピークとして成長し

イズはあまり変わらなかった.カワアイは上部に

ていたのだが,12 月には成貝のピークの集団に

25 mm 前後の個体が少量いるだけであった.Site

吸収されているように見えるが,前年の秋に着底

B において,ウミニナは上部,下部とも少量で,

したはずの稚貝が 1–7 月にはまだ成長していて,

サイズはともに 20 mm 前後であった.カワアイ

7 月頃に成貝のピークの集団に吸収されているた

は上部で 24 mm,28 mm をサイズピークとする

め,稚貝がいなくなったのではなく,取れなかっ

二山型のグラフができた.下部で 21 mm,27 mm

ただけと思える.

をサイズピークとする二山型のグラフができた. 上部より下部のサイズの方が大きかった.Site C

Station B において,4 月に着底しただろう稚貝 が 6 月には 5–8 mm をピークとして成長していた

において,ウミニナは上部で 25 mm をサイズピー

のだが,11–12 月には 12–13 mm として成長し,

クとする一山型のグラフになった.下部で 19–20

2004 年 1 月には成貝のピークに吸収された.9 月

mm をサイズピークとする一山型のグラフになっ

に着底した 3 mm 前後の個体は 12–1 月には 7–9

た.ウミニナは下部よりは上部のサイズの方が大

mm をピークとして成長していた.そして,来年

きかった.アラムシロガイは下部にのみ生息し,

の秋には成貝のピークに吸収されることとなると

サイズは 17 mm 前後であった.

予測できる.また,成貝のピークはあまり変化し

考察 喜入のウミニナのサイズ分布の季節変動に関

ないが,稚貝のピークは 6–9 月にかけて成長して いた.しかし,そのピークも 10–1 月の間はサイ ズの頻度分布にあまり変化はみられなくなった.

しては,若松・冨山(2000)と杉原(2002)によっ

これは,低温が成長抑制に作用するという一般論

て今回の調査地と同じ喜入干潟の例が報告されて

に適合するが,菊池(1999)が論じた,種の分布

いる.若松・冨山の(2000)の調査では,ウミニ

南限に近いところでは高温による成長抑制が起こ

ナの新規加入は 4–8 月に多くみられたとしてい

るという仮説には合わなかった.

る.また,杉原の調査では,ウミニナの新規加入

Station A において,12 月と 2004 年 1 月には稚

は 8 月~秋にかけて多くみられたとしている.本

貝が採取できなかったにもかかわらず,Station B

研究では,4–9 月に稚貝が現れ,Station A では 4

では稚貝が採取できたことから,先にも述べたよ

月と 8 月に,Station B では 6 月と 9 月に最も多く

うにサンプリングミスもしくは,冬には高潮位の

の稚貝がみられた. 本研究では Station A において,

Station B に移動したかということが考えられる.

5 月には全く稚貝が採取できなかった.これは,

しかし,若松・冨山(2000)と杉原(2002)の調

サンプリングの不具合と思われる.Station B にお

査では稚貝が採取できていたため,前述の方の可

いては杉原(2002)の報告から,4–5 月稚貝の新

能性が高いだろう.

規加入があるはずなのだが見られなかった.これ

126

杉原(2002)の調査では,秋の新規加入しか


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Nature of Kagoshima Vol. 44

見られないのに対し,本研究では春と秋の 2 回稚

と,春と秋に稚貝が出ることにより,春と秋の最

貝の新規加入が見られた.これは,杉原(2002)

小値が小さく,標準偏差が大きくなる.そして平

が春の新規加入を見落としたか,その年には春の

均は下がり,産卵時期が終わると次の産卵時期ま

定着がなかった可能性が高いと思われる.本研究

で稚貝の成長により平均,最小値が上がり,標準

の結果から,ウミニナの稚貝は春と秋の 2 回に新

偏差も小さくなっていき,産卵の時期になると再

規加入するものと思われる.

び平均,最小値が減少し,標準偏差が大きくなる

菊池(1999)によれば,潮間帯にすむヨーロッ パイガイ Mytilus edulis,セイヨウイガイ Patella

という一連の流れになっている.最大値は時期に よって変化することはなさそうである.

vulgate において,低潮位にすむものでは成長が

この調査によりウミニナは冬の終わりと夏の

早く最大サイズが大きいのに対し,高潮位のもの

中頃に卵鞘が産みつけられ,ベリジャー幼生が孵

では成長はゆるやかで最大サイズが小さく,中間

化後,水中でのプランクトン生活を経て,初春と

の潮位のものはその中間の性質を示すと論じてい

夏の終わり頃に選択的に着底し,1–2 ヵ月後には

る.ヨーロッパイガイの場合,高潮位と低潮位で

3 mm 前後に成長し,1 ヵ月で 4–6 mm に成長す

は最大殻高に 3 cm 以上も差があると報告してい

ると予測された.Station A のサイズ頻度分布より,

る.これによって,本研究において干潟上流部と

初春に着底したものは,その後秋まで成長し続け

下流部のピークのサイズが 19 mm 前後,23 mm

て成貝のサイズピークに近づくものと予測され

前後と下流部の方が大きい.これは Station B が

る.期間は 7,8 ヵ月間になる.夏の終わりに着

海に近く,他の調査地に比べ潮位が低いために,

底したものは,秋までは成長し続けるが,冬には

餌条件,干出時間など環境条件がよいと考えられ,

成長が停止,または遅くなり,翌春からまた成長

そのような生息地の生育条件の差による影響が強

し続け夏から秋にかけて成貝のサイズピークに近

いためであると思われる.さらに杉原(2002)の

づくものと予測される.期間は冬を挟むため,長

場合は 18 mm 前後,26 mm 前後であり,Station

くなり,12,13 ヵ月になる.

B の方では 3 mm も差が出ている.このことから,

天草の貝類の個体数の割合変化をみてみると,

年によってサイズピークには多少のずれが生じる

Site A において,4 種のもの貝があり,上部では

可能性が大いにあるといえる.

イボウミニナが 1 個体しかいないのに,下部にな

喜 入 の ウ ミ ニ ナ の 個 体 数 の 変 化 を み る と,

るとその割合は急激に増え,39 個体になった.

Station A において,春に個体数が増え,夏に向け

ウミニナにおいては上部で 37 個体に対し,下部

て減少し,また秋に個体数が増加した.Station B

では 3 個体しかいない.このことや河口から海に

において,春は横ばいで夏に向けて減少し,秋か

近づくにつれてウミニナ,ホソウミニナ,イボウ

ら個体数が増加していった.網尾(1999)は比較

ミニナの順に現れることが多い(佐藤,2000)こ

的高等な腹足類では,産卵後 5, 6 週で変態し,約

とから,ウミニナとイボウミニナは『すみわけ』

0.6–0.9 mm に成長して着底すると論じているこ

をしている可能性が高いと予測される.また,カ

4 月と 8 月に 3 mm 前後の稚貝が出現して, とから,

ワアイにおいては上部のみに生息している.Site

産卵は冬の終わりと夏の終わりの頃までに起こる

B,Site C において,上部 ・下部とも個体数の割

と予想される.しかし,浮遊期の幼生は着底期が

合は変わらない.Site B,Site C のウミニナにつ

近づいても適当な環境が見当たらなければ相当変

いては,Site B は泥質で Site C は砂質であること

態が遅れることがあり,Crepidula の一種では普

から,ウミニナは底質環境において泥質より砂質

通の期間の約 2 倍も遅延する(網尾,1999)こと

を好むことがわかる.

から,産卵の終わる時期はもっと早いのかもしれ ない. 喜入のウミニナのサイズ平均値の変化をみる

天草の貝類のサイズ分布をみてみると,Site A においてすみわけを行っているウミニナとイボウ ミニナでは相手の種の個体数が多いお互いの有利

127


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

でない場所では 22 mm 前後と小さめのサイズで

成に関しては,日本学術振興会科学研究費助成金

あったことから,このサイズが生息していく上で

の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯

何かいい点を持っているのかもしれない.Site B,

島嶼生態系における水陸境界域の生物多様性の研

C においてカワアイは下部の方が個体の平均が大

究」26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研究(C)

きいのに対し,ウミニナは上部の方が大きい.前

一般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系

述の菊池(1999)が論じている低潮位にすむもの

に与える影響」15K00624・平成 27–29 年度特別

では成長が早く最大サイズが大きいのに対し,高

経費 ( プロジェクト分 ) -地域貢献機能の充実-

潮位のものでは成長はゆるやかで最大サイズが小

「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育

さく,中間の潮位のものはその中間の性質を示す

研究拠点整備」,および,2017 年度鹿児島大学学

とあるが,カワアイは合うが,ウミニナのほうは

長裁量経費,以上の研究助成金の一部を使用させ

合っていない.

て頂きました.以上,御礼申し上げます.

本研究の天草調査は単発であるがために,デー タの量が少ないのでわからないことが多い.その ため,さらに詳しい調査をする必要があると思わ れる. 風呂田(2000)はウミニナのようなプランク トン幼生による広域分散過程をもつ多くの底生動 物にとって,干潟の埋め立てのような着底場所の 消失による局所個体群のネットワークの消失が, それらの種の衰退の原因ではないかと推測し,東 京湾でのウミニナ類の衰退を説明している.鹿児 島湾では幸いにまだ多くのウミニナ類が見られる が,これらを保全していくには広範囲にわたる環 境の保護が必要になるだろう.そのためにプラン クトン幼生期をもつウミニナ類の詳しい着底機構 をさらに調査する必要がある. 謝辞 本研究を行うにあたり,貴重なご助言をくだ さいました鹿児島大学理学部生態学研究室の皆様 方に感謝いたします.適切なご助言を頂きました 鈴木英治教授(同),相場慎一郎助手(同)に心 より感謝申し上げます. 調査・計測や論文作成 に当たり,ご助言,ご協力をいただきました生態 学研究室の皆様に深く感謝申し上げます.最後に, 心の支えとなってくれた鹿児島大学理学部地球環 境科学科の皆様にお礼を申し上げます.本稿の作

128

引用文献 Adachi, N. and Wada, K. 1998. Distribution of two intertidal gastropods, Batillaria multiformis and B. cumingi (Btillariidae) at a co-occurring area. Venus, 57 (2): 115–120. 網 尾 勝.1999. 初 期 生 活 史, 腹 足 類.In: 波 部 忠 重・ 奥 谷 喬 司・ 西 脇 三 郎( 編 著 ), 軟 体 生 物 学 概 説,pp. 317–321.サイエンティスト社,東京. 風呂田利夫.2000.内湾の貝類,絶滅と保全.月間海洋 / 号外, 20: 74–82. 波部忠重.1999.分類,腹足類,前鰓亜綱,中腹足目.In: 波部忠重・奥谷喬司・西脇三郎(編著),軟体生物学概 説,pp. 30–44.サイエンティスト社,東京. 菊池泰二.1999.成長と年齢.In:波部忠重・奥谷喬司・ 西脇三郎(編著),軟体生物学概説,pp. 339-348.サイ エンティスト社,東京. 佐藤正典.2000.多毛類.In:佐藤正典(編),有明海の生 き物たち,pp. 100–137.海游舎. 杉原祐二.2002.ウミニナ集団におけるサイズ頻度分布季 節変動の個体群間比較.鹿児島大学理学部地球環境科 学科卒業論文. Vohra, F. C. 1971. Zonation on a tropical sandy shore. Journal of Animal Ecology, 40: 679–708. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限のマングローブ林周 辺 干 潟 に お け る ウ ミ ニ ナ の 季 節 変 化.Venus, 59 (3): 225–243. Wells, F. E. 1983. The Potamididae (Mollusca: Gastropoda) of Hong Kong, with an examination of habitat segregation in a small mangrove system. In: B.Morton and D.Dudgen (eds.), Proceeding of the Second International Workshop on the Malacofauna of Hong Kong and Southern China, Hong Kong, 1983, pp. 140–154. Hong Kong University Press, Hong Kong. 山本百合亜・和田恵次.1999.干潟に生息するウミニナ科 貝類 4 種の分布とその要因.南紀生物,41: 15–22.


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マングローブ干潟におけるカワアイ Cerithideopsilla djadjariensis の サイズ分布と他の貝との種間関係の季節変動 吉田 騰・今村留美子・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,メヒ ルギやハマボウからなるマングローブ林が広がっ て お り, 干 潟 干 潮 帯 に は, カ ワ ア イ Cerithideopsilla djadjariensis, ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis, ヘ ナ タ リ Cerithideopslla cingulata, フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum のウミニ ナ類の貝 4 種が同所的に群生している.ウミニナ 科やフトヘナタリ科に属するウミニナ類の貝類は 汽水域や塩分の少ない内湾的環境の泥砂底ないし 泥質の干潟に生息しており,日本の干潟では最も 普通に見られる巻貝である.本研究では,生態の よく分かっていないカワアイをサイズ分布と他の 貝との占有度の季節変動を明らかにすることに よって,生活史を明らかにすることを目的とした. 調査は愛宕川河口の支流にある干潟で 2004 年 2 月から 2005 年 1 月まで毎月 1 回,潮位 70 cm 以下の日の干潮時に行なった.3 つの調査区を 60m 間隔で設け,それぞれに 25 cm × 25 cm のコ ドラートをランダムに 3 ヶ所設置し,コドラート 内の貝類を全て採集した.採った貝類を種類わけ し,また,カワアイの殻高をノギスを用い,0.1 mm 単位で測定した.その結果,個体数の割合で は,上流域では,カワアイの割合が多く,中下流 Yoshida, N., R. Imamura and K. Tomiyama. 2018. Seasonal changes in the size distribution of Cerithideopsilla djadjariensis and interaction between some gastropod species on the mangrove tidal flat. Nature of Kagoshima 44: 129–135. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 21 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-018.pdf

域ではウミニナの割合が多いことがわかった.殻 高頻度分布は,上流域,下流域でグラフのサイズ グループの推移が見られることから成長段階にあ ることがわかった.上流域,下流域を比較すると 下流域では見られない大型個体が上流域では見ら れた.これは,大型個体が移動する力を持ってお り,これまで下流域で生活していた貝が移動した ためと考えられる.また,上流域では初夏から秋 にかけて,下流域では夏以来に幼貝が参入してき ていた.中流域では 2004 年一月に竣設工事があ り,環境が攪乱されカワアイの採集個体がほとん どなく,採集された約 80% 以上の貝がウミニナ であった.このことからカワアイはウミニナに比 べ,環境適応能力が低いと推定された. はじめに カワアイ Cerithideopsilla djadjariensis は腹足綱 前鰓亜綱 盤足目オニノツノガイ超科 ウミニナ科 に属する.ウミニナ科の貝類は汽水域や塩分の少 ない内湾的環境の砂泥底または泥底の干潟に生息 しており,日本の干潟では最も普通に見られる巻 貝である.本種は本州中部以南から東南アジアに 分布している(今村,2003).従来の研究では, 真木ほか(2002)がカワアイの生活史の一部とウ ミニナ類の分布と底質選好性について報告してい る.また,真木が喜入干潟におけるカワアイの生 活史(真木ほか,2002)を,今村がマングローブ 干潟におけるカワアイのサイズ分布の季節変化に ついて(今村,2003)報告している.これらの研 究で,カワアイの生活史として粒子の細かい砂泥 地,泥地を好む傾向にあること,喜入の干潟では 幼貝の定着はなかった事,寿命は数年であること が推定された(若松・冨山,2000).本研究では, カワアイの殻高のサイズ分布の季節変動とウミニ

129


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1.鹿児島県喜入町愛宕川河口のマングローブ干潟における調査地の地図.

ナ Batillaria multiformis,ヘナタリ Cerithideopslla

の境がはっきりしない場合もあった.St. B はメ

cingulata との占有度の季節変動を明らかにするこ

ヒルギ自生地の末端近くにあり,調査地干潟の中

とにより,さらにカワアイを調査し,上記に示し

央部に位置する.St. C は調査地干潟の愛宕川本

た先行研究よるもより詳細なカワアイの生活史を

流近くに位置する.St. C で,25 cm × 25 cm のコ

明らかにすることを目的とした.

ドラートを,St. A,St. B では 50 cm × 50 cm のコ

調査地と方法

ドラートをランダムに 3 ヵ所設置し,サンプルを 採集した.

調査区の設置化 2 調査は鹿児島県揖宿郡喜入町を流れる愛宕川

調査方法

の支流の河口干潟(31°23′N,130°33′E)で行なっ

調査は 2004 年 2 月から 2005 年 1 月までの期間

た(Fig. 1).愛宕川は鹿児島湾の日石原油基地の

に毎月一回,大潮または中潮の潮位 70 cm 以下の

内側に河口があり,この河口部で八幡川と交わっ

日に行なった.コドラート内の砂泥を深さ約 2

ている.ここの河口干潟には,メヒルギ Kandelia

cm まで掘り取り,採取した砂泥を 1.5 mm メッ

candel (L.)Druce やハマボウ Hibiscus hanbo Sieb. et

シュのふるい内で洗うことによって,残った砂と

Zucc. からなるマングローブ林が広がっており,

巻貝を研究室に持ち帰った.後日,巻貝を取り出

北太平洋地域の北限のマングローブ林とされてい

し,カワアイ,ウミニナ,ヘナタリの三種に分類

る.

しそれぞれの出現個体数を記録した.また,カワ

この河口干潟において,異なった干潟環境での

アイについては殻高をノギスを用いて 0.1 mm 単

カワアイの個体群の季節変化を比較するために,

位で計測した.

干潟の奥から川の本流まで,約 60 m 離れた 3 つ の調査区を設けた.調査区は,今村(2003)と同

結果

じ調査区である St. A,St. B,St. C を継承して調

各ステーションにおける貝の住み分けについて

査した.

各ステーションにおける貝の占有度を Table 1,

St. A はメヒルギ自生地の奥部に位置する.こ

Fig. 2 に示す.カワアイについては総数では St. A,

こは支流の西側にあたる場所で,香水後は支流と

St. C が多かった.St. B ではあまり見られず,9

130


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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 2.各ステーションにおけるウミニナ,ヘナタリ,カワアイの 3 種の個体数の割合の季節変動.

131


Nature of Kagoshima Vol. 44

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月と 12 月は採集できなかった.Fig. 2 に示すよう,

は 2 月から 5 月までは 29 mm 程度であったが,6

割合では多少のばらつきは見られるが St. A が最

月以降は 29 mm 以上の貝が見られ,最大で 12 月

も 多 く,12 月 は 90% 以 上 に 達 し た.St. B で は

の 31.6 mm の貝が見られた.

10% を超える月はなかった.総数では多い St. B

St. B は,出現個体数が少なく,グラフの推移

だ が, 割 合 で は 多 く と も 20% 弱 で だ い た い

などは見られなかった.

5–15% 程度であった.

St. C は,St. A と同じようなグラフの推移が見

ヘナタリは総数,割合とも St. C で最もよく見

られる.しかし,St. A では四月から 5 mm 程度

られ,各月で 20–40% を占めた.St. A,St. B で

の貝が参入してきたのに対して St. C ではそれは

はかなりのばらつきが見られた.例えば St. A の

5 月からである.また,St. C では 27 mm 以上の

9 月では 45% を占めるが,3 月,12 月は採集で

大きさの貝は 6 月を除くすべての月で見られな

きなく,St. B では 8 月は 25% を占めるが,10 月,

かった.2 月から 6 月まではグラフの山が 1 つだっ

11 月,12 月は採集できなった.

たのに対し,7 月以降は 2 つになり,さらに 10

ウミニナについては St. B では採取されたほと

月からは 3 つになり,そのまま推移している.

んどの貝がウミニナでその個体数も多く,少なく

考察

とも 50% 以上がウミニナであった.St. A ではか なりのばらつきが見られ,4 月と 10 月では 50%

本研究で調査を行なったマングローブ干潟に

弱を占めるが,3 月と 12 月では 10% にも満たな

おけるカワアイのサイズ分布と他の貝との占有度

かった.St. C では,毎月安定していて 50–70%

の季節変動に関しては,本研究と同じ調査地域で,

を占めた.

ウミニナ科 1 種とフトヘナタリ 3 種(ウミニナ, カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリ)の分布と底

カワアイの季節変動におけるサイズ分布

質選好性(真木ほか,2000),マングローブ干潟

カワアイの頻度サイズ分布の月毎の季節変化を

におけるカワアイのサイズ分布の季節変化につい

Fig. 3 に示す.St. A は,季節が進むに従って,グ

て(今村,2003)と深く関わっている.そこで,

ラフがだんだん右に推移していった.そして 5 月

本研究で得た研究結果と比較しながらすすめる.

から 5 mm 程度の貝が参入してきて,グラフの山

カワアイのサイズ頻度分布について,真木ほか

が 2 つになってきている.10 月からは,殻長 3

(2000)によると,2000 年 4 月から 2001 年 3 月

mm 以下の貝が大量に加入してグラフの山が 3 つ

までの殻高頻度分布では,グラフはほぼ一山型を

になり 12 月で再び 2 つになる.サイズの最大値

示した.20 mm 未満の個体はほとんどみられず,

Table 1.各ステーションにおけるカワアイ,ヘナタリ,ウミニナの各種の個体数の季節変化. St. A

Feb

Mar

Apr

May

Jun

Jul

Aug

Sep

Oct

Nov

Dec

カワアイ

56

39

23

68

99

61

78

12

83

58

126

Jan 66

ヘナタリ

28

0

9

27

27

51

41

46

13

12

0

39

ウミニナ

14

3

34

9

62

68

43

43

120

41

10

66

St. B

Feb

Mar

Apr

May

Jun

Jul

Aug

Sep

Oct

Nov

Dec

Jan

カワアイ

18

11

36

7

4

22

2

0

3

27

0

2

ヘナタリ

15

28

87

37

35

42

121

16

0

0

0

0

ウミニナ

400

297

544

526

550

264

362

388

362

305

394

408

St. C

Feb

Mar

Apr

May

Jun

Jul

Aug

Sep

Oct

Nov

Dec

Jan

カワアイ

165

242

87

87

105

74

28

17

26

29

35

42

ヘナタリ

155

382

128

115

113

103

108

177

139

166

96

153

ウミニナ

441

1195

333

374

364

232

132

221

392

343

261

241

132


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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 3.各ステーションににおけるカワアイの殻高頻度分布の季節変化.

133


Nature of Kagoshima Vol. 44

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26–28 mm のサイズグループが多くみられ,最大

泥の粒子が他の St. と比べかなり大きく,カワア

で 34 mm の個体がみられた.上流域では大型の

イの総個体数が少ない.しかし,へナタリは他の

個体が多く分布しており,中流,下流域では出現

St. と同程度,もしくはそれ以下,ウミニナは他

個体の幅が広く,比較的,小型の個体も多く分布

の St. より多くなっている.このことより,カワ

していた,としている.また,今村(2003)によ

アイはウミニナに比べて環境適応能力が低いこと

ると,17–18 mm 前後のサイズグループの個体が

が考えられる.真木ほか(2000)によれば,カワ

多く見られ,26 mm 以上の大型個体はほとんど

アイは,底質を構成する粒子が比較的細かいとこ

見られなかったとしている.ここでも真木ほか

ろを好む傾向にある,と報告しており,本研究の

(2000)と同様に上流域で多く大型個体がみられ たと報告している.

結果もその通りだといえる. 潮間帯下部の St. C では,夏から秋にかけて新

本研究の調査では,3 mm 以下の幼貝から 30

規幼貝が参入してくると考えられる.また,St. A

mm に達する大型個体までほぼまんべんなく広い

と比較して 15–23 mm の個体の割合が多くなって

幅のサイズの貝がみられた.真木ほか(2000),

おり,23 mm 以上の個体は St. C では 5 月を除く

今村(2003)との殻高頻度分布と比較すると明ら

St. C で, すべての月で見られない.このことから,

かに異なっている.このことから 2000 年では,

ある程度まで育った貝は St. A に移動しているこ

幼貝の定着がなく,2001 年か 2002 年で定着が起

とが伺える.今村(2003)も大型の個体が下流域

こり,2003 年では,今村(2003)によると定着

より上流域に多い原因は,その大型個体が移動す

は起こってないとされており,本研究の 2004 年

る力を持っており,これまで下流域で生活してい

で定着がおこっていることにより,カワアイの幼

た貝が移動したためと考えられると報告してい

貝の定着は 1–2 年おきだという事が考えられる.

る.

また,幼貝の定着が年によって異なるので当然に

貝の全体的な総数から見ると,ウミニナの数

サイズグループの分布も年によって異なると考え

が圧倒的に多い.このことは先ほど述べたとおり,

られる.今村(2003)はサイズのピークの移動に

ウミニナの環境適応能力が他の貝より高いことに

より,カワアイの個体が成長状態にあること,一

よるものであろうと思われる.また St. B,St. C

年間での成長幅が 8–10 mm であることを明らか

では,ほぼ各月で,カワアイより他の貝の方が総

にしている.本研究では幼貝が加入していること

数が多い.St. A ではそれが逆転している.この

により,サイズのピークの移動はみられない.

ことは潮間帯上部がカワアイにとってもっとも適

St. A において 2 月から 5 月まで 29 mm 以下の貝

した環境である,もしくは,他の貝にとって適さ

がみられなく,それ以降は出現している.これは,

ない環境であることを示している.

貝が成長して殻高が大きくなったか,大型個体が 参入してきたことが原因だと思われる.

本研究で検討できなかったものとして,幼貝 の定着場所と捕食者の有無などがあげられる.ま

潮間帯上部の,マングローブ林の中にある St.

た,真木ほか(2000),今村(2003)との殻高頻

A では,新規幼貝が入ってくる時期は 4 月と 10

度分布や幼貝の定着についても大きな差が見られ

月であると考えられる.しかし,カワアイの新規

る.今後,これらに関しても広範な調査研究が必

加入は 4–6 月にかけて多いと報告されている(若

要であると思われる.

松・冨山,2000)本研究でなぜ 10 月に定着があっ たのかは,原因はわからない.また,カワアイの 大きさの分布も多様性があり,あらゆる年齢のカ ワアイが St. A に生息している.

謝辞 本研究を行うにあたり,貴重なご助言をくだ さいました鹿児島大学理学部生態学研究室の皆様

マングローブ林の入り口付近にある St. B では,

方に感謝いたします.現地調査の手伝いをして頂

2004 年 1 月に竣設工事があり,環境が攪乱され,

いた鹿児島大学理学部の福留宗一郎氏に心から御

134


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Nature of Kagoshima Vol. 44

礼申し上げます.そして,論文作成にあたり,ご

「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育

助言,データ整理やグラフ作成の手法を教えて頂

研究拠点整備」,および,2017 年度鹿児島大学学

いた同大学生態学研究室の小野田剛氏,安東美穂

長裁量経費,以上の研究助成金の一部を使用させ

氏をはじめ,ご協力を頂きました同大学生態学研

て頂きました.以上,御礼申し上げます.

究室の皆様に心から感謝申し上げます.本稿の作 成に関しては,日本学術振興会科学研究費助成金 の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯 島嶼生態系における水陸境界域の生物多様性の研 究」26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研究(C) 一般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系 に与える影響」15K00624・平成 27–29 年度特別 経費(プロジェクト分)-地域貢献機能の充実-

引用文献 真木英子・大滝陽美・冨山清升.2002.ウミニナ科 1 種と フトヘナタリ科 3 種の分布と底質先行性:特にカワア イを中心にして.Venus, 61: 62–76. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限のマングローブ林周辺 干潟におけるウミニナ類分布の季節変化.Venus, 59: 225–243. 今村留美子.2003.マングローブ干潟におけるカワアイの サイズ分布の季節変化について.2003 年度鹿児島大学 理学部地球環境科学科卒業論文.

135


Nature of Kagoshima Vol. 44

136

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Nature of Kagoshima Vol. 44

干潟におけるウミニナ集団のサイズ頻度分布季節変化の個体群間比較 福留宗一郎・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,ウミニ ナ Batillaria multiformis (Lischke) が生息している. ウミニナは泥中に紐状の卵鞘を産み,ベリジャー 幼生が孵化するプランクトン発生である.しかし, 本種の生活史については,まだ不明な点が多い. 本研究ではウミニナの生活史を明らかにする目的 の 1 つとして,愛宕川の河口干潟において複数の 調査区を設置し,ウミニナのサイズ頻度分布の季 節変動について比較調査した. 調査は毎月行な い,愛宕川の河口干潟に上流から Station A, B を 設けて,25 × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ 所とり,コドラート内のウミニナの出現数と殻高 を計測した.その結果,上流から下流になるにつ れて,サイズピークが大きくなることが観察され た.また,愛宕川河口のウミニナは,春から夏ご ろに卵鞘が産みつけられ,水中でのプランクトン 生活を経て,夏から秋ごろに着底し,8 から 12 月 には約 3 mm に成長し,1 月には 4–6 mm に成長 すると予測された.その後,次の歳の春には 6 mm 程度に成長し,秋までに 18 mm に達する.冬 には成長が停止,または遅くなり,翌春にサイズ ピークのサイズ集団に近づくと予測された. また Station A と B の形態の比較も行なった. Fukudome, S. and K. Tomiyama. 2018. Inter-population variation of seasonal changes in the size distribution of Batillaria multiformis on the tidal flat. Nature of Kagoshima 44: 137–144. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 21 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-019.pdf

ウミニナの成長が落ち着く 10 月に Station A と B それぞれにおいて 220 個体ずつ採取し,殻高と螺 塔部位と殻幅の 3 ヵ所の長さを測定した.得られ た数値を t- 検定にかけて有意差の有無を調べた ところ,A と B の調査区において形態の差異が 確認された. はじめに ウミニナは北海道以南,九州,朝鮮半島に分 布するウミニナ科の腹足類であり,内湾の泥の多 い干潟に群がっている.殻は塔形で中ほどが多少 膨れている.殻表には 5 本の螺肋をめぐらし,こ れが不規則に区切られて石畳状になっている.な かでも縫合下のものは普通,いぼ状になっている. 殻口の内唇から軸唇にかけて広がる滑層は白い. イボの強さ,色彩は種種あり,殻の形とともに変 異 が 著 し い. 殻 表 に ツ ボ ミ ガ イ Patelloida pygmaea f. conulus を付けている個体もある.ウ ミニナの発生様式は,紐状の卵鞘を産み,ベリ ジャー幼生が孵化するプランクトン発生である (風呂田,2000).雄にペニスはない. ウミニナの生態に関して研究は,風呂田(2000) によるホソウミニナとウミニナの発生様式につい ての研究例があり,分布様式については,Vohra (1971) がウミニナとヘナタリを,Adachi & Wada (1998) がウミニナとホソウミニナを研究した例が ある.また,Wells (1983) は,香港のマングロー ブ林に生息するウミニナ科,ヘナタリ科の 6 種ウ ミニナ,イボウミニナ B. zonalis (Aruguiere),マ ドモチウミニナ Terebralia sulcata (Born),ヘナタ リ,フトヘナタリ,カワアイの分布と生息環境と の関係を考察し,山本・和田(1999)は,耐塩性, 底質選好性,干出選好性の観点から,ウミニナ, ホソウミニナ,ヘナタリ,フトヘナタリの 4 種の

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ローブが広がっており,太平洋域におけるマング ローブ林の北限とされている.河口域の異なった 生息環境での比較を行なうために,川の上流側か ら河口にかけて Station A,Station B を設けて調査 を行なった(Fig. 1).調査地周辺の干潟上には, ウミニナ,カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリの 4 種のウミニナ類が生息している.調査地にはホ ソウミニナに形態の似たウミニナ属が生息してい るが,調査地とその周辺に分布しているウミニナ 属はミトコンドリア DNA の分析からすべてウミ ニナであるという結果が得られている(若松・冨 山,2000). Station A は,調査区中の最上流であり,上流 から続くマングローブ林の切れ目にあたる場所で Fig. 1.鹿児島県喜入町愛宕川河口干潟における調査地の 地図.

ある.干潟は平坦であり,大潮時は水の流れから 数メートルの場所では潮位はほとんど変わらな い.底質は砂泥質~砂質でウミニナが非常に多く

分布について詳しい考察を行い,若松・冨山(2000) は愛宕川の河口干潟において同 4 種について,サ イズ分布の季節変動を報告している.

存在し,ヘナタリも見られる. Station B は,調査区中の最下流部にあたり,干 潟を流れる愛宕川と八幡川の合流する場所で,約

しかしながら,ウミニナの幼貝の新規加入時

300 m で鹿児島湾に出る.大潮時などよく潮が引

期など生活史については不明な点が多い.若松・

く時しか干出しない干潟で,他の調査区より潮位

冨山(2000)はウミニナのサイズ分布を初めて報

は低い.底質は砂質~砂礫質でウミニナが多く,

告したが,その調査区は淡水域に近くウミニナの

他のウミニナ類は見られない.

生息場所としてはかなり端の場所であった.ウミ

調査方法 2004 年 2 月から 2005 年 1 月の期間

ニナは場所によって,生息密度や殻のサイズや形

に毎月 1 回,大潮から中潮(12 月は長潮)の日

態の差異が大きく,同じ産地でも生活史が異なっ

の干潮時に調査を行なった.各 Station において,

ている可能性がある.そこで,本研究ではウミニ

25 cm × 25 cm のコドラートをランダムに 3 ヵ所

ナの生活史を明らかにする目的の 1 つとして,愛

置き,コドラート内の砂泥(深さ約 2 cm)を 1

宕川の河口干潟において複数の調査区を比較し

mm メッシュのふるい内で洗ったものを持ち帰っ

て,ウミニナのサイズ頻度分布の季節変動につい

た.持ち帰ったサンプルからウミニナ類を集め,

て調査した.また Station A と B のウミニナは同

種毎に出現数を記録し,殻高をノギスにより 0.1

種であるにも関わらず形態に差異が見られるた

mm 単位で計測した.

め,その実態を調査すべく形態の比較を行なった. 調査地と方法 調査地 調査は鹿児島県揖宿郡喜入町を流れる 愛宕川の河口干潟(31°23′N,130°33′E)で行った. 愛宕川は鹿児島湾の日石石油備蓄基地の内側に河 口があり,この河口部で八幡川と合流している. 干潟周辺にはメヒルギやハマボウからなるマング

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また 2004 年 10 月は採取したサンプルの内,A と B 各 St において 220 個体ずつ,殻高・螺塔・ 殻幅の 3 ヵ所をノギスにより 0.1 mm 単位で計測 した. 結果 ウミニナの平均値の季節変化 Fig. 2 に 2004 年 2 月から 2005 年 1 月までの各


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Fig. 2.各ステーションに殻高頻度分布の季節変化.

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Fig. 3.箱ヒゲ図による各ステーション間の形態の比較.

調査区における,ウミニナの殻高頻度分布の季節 変化を示す.

殻幅についての図である.①と②の結果とは違っ て,平均値では St. A の方が大きくなっていた.

St. A において,6 月を除くほぼ 1 年の期間に

最小値も①②では St. B の方がより小さかったの

おいて,17–19 mm をサイズピークとする一山形

に対して,St. A の方に最小の値が見られた.箱

のグラフであった.6 月は 15–16 mm がピークで

の大きさと最小から最大までの幅は,St. B の方

あった.また 6 月は,新規参入が顕著であり,唯

が大きかった.

一三山型となった.年間を通して幼貝が確認でき るが個体数は少なかった. St. B において,2 月から 8 月までは,7–8 mm,

以上の三つの結果から,殻高において St. B の サイズの方が大きく,殻高に占める螺塔部の大き さも St. B の方が大きいため全体的に尖っていた.

13–14 mm,21–13 mm をサイズピークとする三山

St. A は殻高に対して殻幅が大きいため,全体的

型を示した.12 月と 1 月に幼貝が少し確認でき

にずんぐりしていた.

るが,11–13 mm,21–23 mm をサイズピークとす る二山型に移行した.

Fig. 4 に t- 検定を用いた形態の比較を示す.殻 高 Ht /殻幅 Bm と殻高 Ht /螺塔 Hs について調 べたところ,どちらも優位さを示した.

Station A と B の個体間における形態比較 Fig. 3 に St. A と B の形態を比較した箱ひげ図 を示す.①は殻高についての図である.平均値,

各調査区におけるウミニナの個体数季節変化 2004 年 2 月から 2005 年 5 月までの各調査区に

最小から最大までの幅ともに St. B の方が大き

おけるウミニナの出現個体数の季節変化を Fig. 5

かった.箱の大きさも St. B の方が大きいが,平

に示す.

均値はさほど変わらなかった.②は螺塔について

St. A においては,2 月に最大 524 個体から減

の図である.こちらも平均値,最小から最大まで

少していき,7 月に最小の 153 個体となった.そ

の幅ともに St. B の方が大きかった.そして箱の

の後,10 月に落ち込むものの,12 月に 478 個体

大きさも St. B の方が大きいが,平均値はさほど

まで増えた.St. B では,2 月の 254 個体から徐々

変わらないというところまで同じであった.③は

に増加していき,7 月に 426 個体まで増えた.8

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集団があることから,4–5 月に着底があったもの と思われる.しかし 4 月の小さい集団は冬季に貝 の成長が止まることから考察すると,前年度着底 の冬越しした固体である可能性もあるため新規加 入かどうか分からない.杉原(2002)や田上(2003) の研究では新規加入が顕著に見られるが,本研究 では年間を通して小さい集団があまり採取できな Fig. 4.t- 検定による「殻長/殻幅」と「殻長/螺塔高」の ステーション間の違いの検出.数値は平均値 ± 標準偏差.

かった.サンプリング方法としては研究室に持ち 帰って綿密に測定したため,メッシュからもれ落 ちるなどの不具合の影響は小さいものと思われ る.今年の Station A における新規加入の個体数

月に最小値近くまで個体数が落ちたが,9・10 月

は過去の年に比べて少なかったようだ.サイズ

と増加して,10 月には最大の 604 個体となった.

ピークは 17–19 mm であり,6 月を除いて大きく

その後 1 月まで急激に減少した.

変動することはなかった.

考察 喜入のウミニナのサイズ分布の季節変動に関

Station B において,8 月に 2 mm 前後の幼貝の 着底が確認できる.他の研究の結果から見ると, 6–7 月には着底が始まっているものと思われる.

しては,若松・冨山(2000),杉原(2002)と田

2 月 に 5 mm 前 後 だ っ た 集 団 は,1 年 後 に は 13

上(2003)によって今回の調査地と同じ喜入干潟

mm をサイズピークとする集団に成長している.

の例が報告されている.若松・冨山(2000)の調

同様に 2 月に 13 mm 前後だった集団は,8 月ま

査では,ウミニナの新規加入は 4–8 月に多く見ら

でに Station B のサイズピークである 22–24 mm の

れたとしている.杉原の調査では,ウミニナの新

集団に成長している.

規加入は 8 月から秋にかけて多く見られたとして

杉原(2002)の調査では,秋の新規加入しか見

いる.また,田上の調査では,ウミニナの新規加

られないのに対し,田上(2003)の調査では春と

入は 4–9 月に多く見られたとしている.本研究で

秋 2 回の幼貝の新規加入が見られたとされてい

は,5~6月に幼貝が現れ,Station A では 6 月に,

る.しかし,冬季に抑制されることを考慮に入れ

Station B では 8 月に最も多くの幼貝が見られた.

ると幼貝の新規加入は 2 回ではなく,夏季の新規

本研究では Station A において,5・7 月に全く幼

加入のみであると考えた方が本研究の結果と一致

貝が採取できなかった.これは,サンプリングの

する.田上(2003)の調査において,秋に確認さ

不具合による可能性が高い.Station B においては

れた幼貝の集団は,晩夏に新規加入した集団で

7 月に全く幼貝が採取できなかった.これは,サ

あったと思われる.

ンプリングの不具合が考えられるのと,ちょうど

菊池(1999)によれば,潮間帯にすむヨーロッ

採集を行った日に喜入一円が台風の勢力下にあっ

パ イ ガ イ Mytilus edulis, セ イ ヨ ウ イ ガ イ Patella

たことも影響していると思われる.サンプリング

vulgate において,低潮位にすむものでは成長が早

の不具合として考えられるのは,採取に用いたふ

く最大サイズが大きいのに対し,高潮位のもので

るいが 1 mm メッシュであったことから,殻高 2

は成長はゆるやかで最大サイズが小さく,中間の

mm 以下の個体がもれ落ちてしまう事例が多いた

潮位のものはその中間の性質を示すと論じてい

めである.もしくは,幼貝が全く採取できなかっ

る.ヨーロッパイガイの場合,高潮位と低潮位で

たことから,7 月には幼貝の着底がなかったもの

は最大殻高に 3 cm 以上も差があると報告してい

とも思われる.

る.本研究において干潟上流部と下流部のサイズ

Station A において,6 月に 3 mm 前後の幼貝の

ピークが 17 mm 前後,23 mm 前後と下流部の方

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Fig. 5.各ステーションにおけるウミニナの出現個体数の季節変化.

が大きい.このことから Station B が海に近く,他

喜 入 の ウ ミ ニ ナ の 個 体 数 の 変 化 を 見 る と,

の調査地に比べ潮位が低いために,餌条件,干出

Station A において,春に個体数が増えて夏に向

時間など環境条件が良いと考えられ,そのような

かって減少し,また秋にかけて個体数が増加して

生息地の生育条件の差による影響が強いためであ

いった.Station B において,春は横ばいで夏に向

ると思われる.さらに杉原(2002)の場合は 18

けて減少し,秋に急激に個体数が増加していった.

mm 前後,26 mm 前後であり,田上(2003)の場

網尾(1999)は比較的高等な腹足類では,産卵後

合は 19 mm 前後,23 mm 前後であり,調査区間

5, 6 週で変態し,約 0.6–0.9 mm に成長して着底

の差の大きさにも年によってばらつきがある.こ

すると論じている.4 月から 8 月にかけて 3 mm

のことから,年によってサイズピークには多少の

前後の幼貝が出現していることから,産卵はより

ずれが生じる可能性が大いにあるといえる.

早い時期である春から夏に行なわれていると推測

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される.しかし,浮遊期の幼生は着底期が近づい

ナルド,ファミリーマート,ローソン,サンクス,

ても適当な環境が見当たらなければ相当変態が遅

タワーレコードの店員さん達,そして鹿児島大学

れることがあり,Crepidula の一種では普通の期

理学部地球環境科学科の皆様にお礼を申し上げま

間の約 2 倍も遅延する(網尾,1999)ことから,

す.本稿の作成に関しては,日本学術振興会科学

産卵の終わる時期はもっと早いかもしれない.

研究費助成金の,平成 26–29 年度基盤研究(A)

本研究における調査により喜入のウミニナの生

一般「亜熱帯島嶼生態系における水陸境界域の生

活史は,春先に卵鞘が産みつけられ,ベリジャー

物多様性の研究」26241027-0001・平成 27–29 年

幼生が孵化後,水中でのプランクトン生活を経て,

度基盤研究(C)一般「島嶼における外来種陸産

初夏から夏にかけて選択的に着底した 2–3 mm 前

貝類の固有生態系に与える影響」15K00624・平

後の幼貝の集団が徐々に成長しながら,5–6 mm

成 27–29 年度特別経費(プロジェクト分)-地域

の大きさで冬を越す.これは,低温が成長抑制に

貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその

作用すると言う一般論を根拠としている.その後

保全に関する教育研究拠点整備」,および,2017

一年で 13 mm 前後まで成長し,さらに一年後にサ

年度鹿児島大学学長裁量経費,以上の研究助成金

イズピークの集団に成長していくと推測された.

の一部を使用させて頂きました.以上,御礼申し

Station A・B における形態の比較については,

上げます.

箱ひげ図から Station A の個体は B と比べて全体 における螺塔部の占める割合が小さいにも関わら ず,横幅が大きいことからずんぐりとした形をし ていると思われる.B はその逆で,ほっそりとし ているようである.形態に有意な差があるかどう か,箱ひげ図のみでは判断し切れないため,平均 値による殻高 Ht /殻幅 Bm と殻高 Ht /螺塔 Hs について t- 検定を行なったところどちらも有意 な差が認められた.この形態の違いの要因となっ ているのは,環境による影響が強いと思われる. しかし,本研究では環境条件についてのデータを とっていなかったため,裏づけとなる情報が不足 している.ゴカイなど他の底性生物では,潮位や 塩分濃度などにより生息域や形態に差が出るのが 一般的であるため,ウミニナの形態の比較におい てもそれら環境条件のデータの収集も今後の研究 で行なわれる必要がある. 謝辞 本研究を行うにあたり,貴重なご助言をくだ さいました鹿児島大学理学部生態学研究室の皆様 方に感謝いたします.調査・計測や論文作成に当 たり,ご助言,ご協力をいただきました生態学研 究室の皆様に深く感謝申し上げます.最後に,心

引用文献 Adachi, N & Wada, K.1998. Distribution of two intertidal gastropids, Batillaria multiformis and B. cumingi (Btillariidae) at a co-orrurring area. Venus, 57(2): 115–120. 網 尾 勝.1999. 初 期 生 活 史, 腹 足 類.In: 波 部 忠 重・ 奥 谷 喬 司・ 西 脇 三 郎( 編 著 ), 軟 体 生 物 学 概 説,pp. 317–321.サイエンティスト社,東京. 風呂田利夫.2000.内湾の貝類,絶滅と保全.月間海洋 / 号外, 20: 74–82. 菊池泰二.1999.成長と年齢.In:波部忠重・奥谷喬司・ 西脇三郎(編著),軟体生物学概説,pp. 339–348.サイ エンティスト社,東京. 杉原祐二.2002.ウミニナ集団におけるサイズ頻度分布季 節変動の個体群比較.鹿児島大学理学部地球環境科学 科卒業論文. 田上英憲.2003.干潟におけるウミニナの生活史.鹿児島 大学理学部地球環境科学科卒業論文. Vohra, F. C. 1971. Zonation on a tropical sandy shore. Journal of Animal Ecology, 40: 679–708. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限のマングローブ林周 辺 干 潟 に お け る ウ ミ ニ ナ の 季 節 変 化.Venus, 59(3): 225–243. Wells, F. E. 1983. The Potamididae (Mollusca: Gastropoda) of Hong Kong, with an examination of habitat segregation in a small mangrove system. In: B.Morton and D.Dudgen (eds.) Proceeding of the Second International Workshop on the Malacofauna of Hong Kong and Southern China, Hong Kong, 1983, pp. 140–154. Hong Kong University Press, Hong Kong. 山本百合亜・和田恵次.1999.干潟に生息するウミニナ科 貝類 4 種の分布とその要因.南紀生物,41: 15–22.

の支えとなってくれた生物研究会部員一同とジョ イフル,ガスト,フラカッソ,ドトール,マクド

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鹿児島市伍位野川におけるマーキング法による イシマキガイ Clithon retropictus の生態の研究 原口由子・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 イシマキガイ Clithon retropictus は,本州中部以 南の淡水,汽水に生息する卵生の腹足類である. イシマキガイは,藻食性の傾向が強く,また,岩 に吸着する能力が高いため,藻類の多い河川の瀬 の岩場に多く見られる.鹿児島市内を流れる伍位 野川の中流部淡水域で調査した.本研究では,イ シマキガイの生活史を明らかにするとともに,春 と秋に 2 度の標識再捕を行い,季節やサイズにお ける移動距離の関係を明らかにすることを目的と した.イシマキガイの生活史の調査は,Stations 2–4 の調査区,3 地点において,2005 年 2 月から 2006 年 1 月までの 12 ヶ月間の間に,毎月 1 回, それぞれの Station で,100 個体以上をランダムに 集め,ノギスを用いて,計測した.イシマキガイ の標識再捕の調査は,Station 4 において,2005 年 5 月と 9 月に 7 mm 以下のイシマキガイ,500 個 体をそれぞれ,マーキングし,直線移動距離を測 定し,見つかった個体のサイズをノギスで,計測 した.イシマキガイは,どの Station でも,ほと んど瀬や淵の岩表で多く,確認され,イシマキガ イのサイズ頻度分布は,Station によって,大きな 違いが見られた.下流域である St. 4 では,10 月 以降,10 mm 以下の新規幼貝の加入が確認された. Haraguchi, Y. and K. Tomiyama. 2018. Studies on ecology of Clithon retropictus by a one-release and capture experiment in Goino River, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 145–150. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 21 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-020.pdf

St. 3 においては,12 月から,小型個体の加入が 始まった.5–11 月までは,個体成長が確認された. また,上流である St. 2 では,殻幅サイズの季節 的変動は,見られなかった.イシマキガイの標識 再捕の調査では,5 月と 9 月のイシマキガイの平 均直線移動距離は,季節的な変化は,見られなかっ た.また,イシマキガイの直線移動距離とサイズ の関係でも,相関関係は,確認されなかった. はじめに イシマキガイ Clithon retropictus は,本州中部 以南の河川などの淡水域や汽水域に生息する卵生 の腹足類である.鹿児島県の薩摩半島に位置する 伍位野川では,汽水域から淡水域にかけての下流 域にかけてイシマキガイが多数生息している.伍 位野川は,汽水域が河口から 200 m 程度と短いた め,イシマキガイの生活史を調査する上で,調査 を行ない易いという利点がある.イシマキガイは, 藻食性の傾向が強く,また,岩に吸着する能力が 高いため,藻類の多い河川の瀬の岩場に多く見ら れる(小原&冨山 ,2000). イシマキガイの調査は,阿部(1981, 1984),古 城・冨山(2000),小原・冨山(2000),小野田(2002, 2004)によって,その生態や分布が明らかにされ てきた.また,小原・冨山(2000)によって,同 一河川に生息するカワニナとイシマキガイのニッ チ分け,古城・冨山(2000)によって,同一河川 におけるカワニナとイシマキガイの分布と微小生 息場所,小野田(2002, 2004)によって,2002 年 に同所的に生息する淡水巻貝 2 種のニッチ分けと 夜間の行動,2004 年に同所的に生息する淡水巻 貝 2 種の種間関係とイシマキガイの生活史につい て研究されてきた.そこで,本研究では,イシマ キガイのみに焦点をあわせて,イシマキガイの生

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も見られる.一部岩盤が露出している.河口部で は,傾斜が緩やかになるが,河川全体としては, 急勾配で,一般の河川に比して,汽水域は,ごく 短い.川の近くに民家や動物園があり,生活排水 が流れ込んでいる場所が数ヶ所ある. 調査区の設置 伍位野川中流部から河口域にか けて,Stations 2, 3, 4 とした. Station 2 は,イシマキガイが,恒常的に出現す る最上流部である.竹林のなかを流れているので, 日当たりは悪く暗い.一部の岸では,石垣が積ん である.瀬は,流速が早く,水深 20 cm ほどで, 川底は,岩地が多いが,砂泥地の部分もある.淵 の川底は,砂泥地が多いが,一部,岩地も見られ Fig. 1.鹿児島市伍位野川の調査地の地図.

る.淵の水深は,50 cm ほどだが,深いところでは,

活史を詳細に明らかにすることと,マーキングに

日当たりは悪く暗い.大潮の際には,潮の影響を

よる標識再捕によって,イシマキガイの季節や,

受けて,水深が変化する.瀬は,岩地が多いが底

サイズごとの川の遡上の仕組みを考察することを

は,砂泥地となっている部分もあり,水深は,20

目的とした.

cm ほどで,流速は速い.淵は,砂泥地が多く,

1 m 以上ある. Station 3 は,竹林の中を川が流れているので,

材料と調査方法

岩地は少なく,水深 50 cm ほどである. Station 4 は,河口部と汽水域となっており,日

材料 本研究では,イシマキガイを調査対象と

当たりは,非常に良い.コンクリートと石垣で護

した.イシマキガイは,アマオブネガイ科に属す

岸がなされており,潮の影響を受けて,水深は大

る卵生腹足類で,本州中部以南,奄美諸島,沖縄

きく変化する.干潮時の水流域の水深は,30 cm

諸島,中国南部の淡水,汽水に生息する.殻は,

ぐらいである.瀬は,水深 20 cm ほどで,ほとん

球形に近く,暗緑色で殻表に,多数の三角模様が

どが,岩地だが,底質が多少,砂泥地の場所もあ

あり,個体によっては,淡い 2–3 条の色帯がある.

る.淵は,底が砂泥地で,一部岩地の場所もある.

夏季に石の表面に黄白色の卵嚢を産みつける.

淵の水深は,50 cm 程度だが,1 m を越す場所も

調査地の概要 調査は,鹿児島市南部の平川町

ある.

を流れる伍位野川(31°28′N, 130°31′E)で行った

イシマキガイのサイズ頻度分布調査 2005 年 2

(Fig. 1).薩摩半島中部の烏帽子岳(522 m)から

月から 2006 年1月までの 12 ヶ月の間に,毎月1

鹿児島湾に流れ込む全長が,約 4 km,中流域の

回,Stations 2–4 の調査区 3 地点において,100 個

川幅が,4–5 m の小型河川である.上流域では,

体以上の個体をランダムに集め,ノギスを用いて,

スギ人口林,照葉樹二次林の中を流れる.中流域

殻のサイズを計測した.大型個体は,殻頂部が欠

では,同市の平川動物園を通り,河口付近にかけ

損した個体が多く,殻高が測れないため,殻幅を

ては,竹林が生育しており,日光が遮られている

その個体のサイズとした.

場所が多い.中流付近から下流には,民家が近く

イ シ マ キ ガ イ の 標 識 再 捕 2005 年 5 月,9 月,

にあり,護岸が施されている.しかし,コンクリー

12 月に,Station 4 において,7 mm 以下のイシマ

ト護岸は,一部分のみで,石垣を積んだだけの簡

キガイ 500 個体を,それぞれ,マーキングし,直

単な護岸が多い.河床は主に砂礫で,軽石や円礫

線移動距離を測定し,見つかった個体のサイズを

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 2.イシマキガイの地点別,月別の殻幅サイズの頻度分布.

147


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分布(Fig. 2)から,イシマキガイは,St. 2 では, 1 年間を通して,同じような殻幅サイズ頻度分布 であり,季節変化は,見られなかった.また,新 規加入個体は,確認されなかった.個体サイズの ピークは,8–9 mm であった.St. 3 では,12 月に 2 mm 前後をサイズピークとする新規加入個体が 見られた.1 月には,新規加入の小型個体の数が 増加して,2 山型のグラフになった.5–11 月まで, 個体サイズのピークが,だんだんと,右にずれ, 大きくなっている.St. 4 では,10 月に新規加入 個体が見られた.10 月に 6 mm 前後と 13 mm 前 後の 2 山型グラフが現れ,1 月まで,続いた.新 規幼貝の割合は,徐々に増加していった.1 月に は,2 mm 前後の個体が,全体の半分以上を占めた. 殻幅サイズの季節的変動(Fig. 3)から,St. 2 では,季節変化は,見られなかった.殻幅サイズ の平均は,10 mm 前後であった.St. 3 では,12 月, 1 月に個体サイズが最小になっている.St. 4 では, 殻幅サイズの平均値が,2–7 月まで大きくなって いることが分かる.個体サイズの最小値が,10 月には,急に小さくなっている.1 月まで続いた. また,各 Station における殻幅サイズの平均値 の季節変化(Fig. 4)を見てみると,4–12 月までは, 下流にいくほど,殻幅サイズが大きくなっている. 1–2 月は,上流にいくほど,殻幅のサイズが大き Fig. 3.各ステーションにおけるイシマキガイの殻幅サイズ の季節的変動.

くなっている. イシマキガイの標識再捕 イシマキガイの 5 月と 9 月の平均直線移動距

ノギスで,測定した.12 月は,マーキングした

離を Fig. 5 に,イシマキガイの直線移動距離とサ

個体が見つからなかったため,5 月と 9 月を比較

イズの関係を Fig. 6 に示す.5 月,9 月ともに,1

して,季節においての直線移動距離の変化や,大

回に 500 個体を 3 回,合計 1500 個体を放流し,5

きさによる直線移動距離の変化を検討した.

月は 28 個体,9 月は 8 個体を捕獲した.5 月は全

結果 イシマキガイのサイズ頻度分布調査 イシマキガイの各調査区におけるサイズ頻度

体の約 1.87%,9 月は,全体の約 0.53% が発見さ れた.イシマキガイの 5 月の平均直線移動距離 (Fig. 5)は,最大で 3.2 m,最小で 0.04 m であった. イシマキガイの 9 月の平均直線移動距離(Fig. 5)

分布を Fig. 2 に示す.殻幅サイズの季節変化を

は,最大で 0.58 m,最小で 0.3 m であった.イシ

Fig. 3 に示す.Station ごとを比較するために,平

マキガイの直線移動距離とサイズの相関関係

均値のみの季節変化を Fig. 4 に示す. イシマキガイの各調査区におけるサイズ頻度

148

2 (Fig. 6)は,R = 0.0082 となっているため,相関

関係はないと考えられる.


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Fig. 4.各ステーションにおけるイシマキガイの殻幅サイ ズの平均値の季節的変化.

Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 5.標識再捕されたイシマキガイの平均移動距離(距離 /日数).

考察 イシマキガイのサイズ頻度分布 イシマキガイのサイズ頻度分布は,Station に よって,大きな違いが見られた. St. 4 において,10 月以降,10 mm 以下の新規 幼貝の加入が確認された.これは,小野田(2002, 2004)の調査の結果より,2 ヶ月後であるが,8 月, 9 月は,雨のため,水嵩が多い日に調査したため, 新規幼貝の加入が確認出来なかったのではないか

Fig. 6.標識再捕されたイシマキガイの移動距離とサイズの 関係.

と考えられる. St. 3 においては,12 月から,小型個体の加入 が始まった.上流である St. 2 では,このような

シマキガイが成長しているものと考えられる.こ

小型個体は,確認されていないことから,St. 3

れはイシマキガイの幼生が汽水域で着生,変態す

における,この加入個体は,下流域である St. 4

るという推測(阿部,1981;西脇ほか,1991a)

より遡上してきたものと推測される.5–11 月ま

を支持している.

で,個体サイズのピークが大きくなっていること から,成長していると考えられる.

また,各 Station における殻幅サイズの平均値 を比較した.阿部(1981),小野田(2002)のイ

また,St. 2 では,1 年間を通して,同じような

シマキガイが淡水域上部に遡るにしたがい,順次

殻幅サイズ頻度分布であり,ここは,遡上したイ

個体サイズが大きくなるという報告があるが,今

シマキガイが完全にたまっている場所と推測でき

回の調査では,4–12 月までは,下流にいくほど,

る.これらの結果は,阿部(1981)の,イシマキ

殻幅サイズが大きくなっており,1–2 月は,上流

ガイは,汽水域から上流部へ遡っているとの考察

にいくほど,殻幅のサイズが大きくなっていると

を支持している.

いう結果になっている.これは,成長した個体の

殻幅サイズの季節的変動で,St. 4 で個体サイ

が,すべて上流に遡るわけではなく,その場で成

ズの最小値が 10 月に急に小さくなっているのは,

長し,留まる個体もいるということと考えられる.

新規幼貝の加入のためである.また,殻幅サイズ

イシマキガイの集団内で遡上する集団と汽水域に

の平均値が 2–7 月まで大きくなっているのは,イ

定住する集団とでは,遺伝的変異が起こっている

149


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ものと推測される.このことを検証するために, 上流と下流の集団間での遺伝的調査を行なう必要 がある. イシマキガイの標識再捕 5 月と 9 月のイシマキガイの平均直線移動距離 を比較してみると,大きな差はなく,季節的な変 化はないものと考えられる. St. 4 でマーキングした個体は,放した地点よ りも上流である St. 3 付近で全て,見つかったた め,遡上していることから,阿部(1981)のイシ マキガイは,汽水域から上流部へ遡っているとの 考察を支持している. イシマキガイの直線移動距離とサイズの関係 で相関関係はない.小さな個体の方が遡上しやす く,大きな個体の方が,遡上しにくいのだが,小 さな個体は,遡上する距離も短いため,このよう な相関関係がないという結果になったと考える. イシマキガイの標識再捕の調査によって,St. 4 から St. 3 への遡上が確認された.また,イシマ キガイの平均直線移動距離は,5 月と 9 月の結果 を比較して,季節的な変化はないとしたが,12 月の標識再捕の調査では,マーキングした個体が 発見されなかったため,12 月も 5 月や 9 月と同 様の結果になるとは限らない.今回の 12 月の調 査では,マーキングした日から 2 週間後に再捕に 行ったが,もっと,マーキングから再捕までの日 数を縮めて,調査を行なう必要がある. また,イシマキガイの直線移動距離とサイズ 2 の関係では,R = 0.0082 という結果から,相関関

係はないと考えた.しかし,今回の調査では,5 月は 1500 個体をマーキングし,放流し,再捕し た個体は 28 個体で,全体の約 1.87%,9 月は,8 個体で全体の約 0.53% という,わずかな再捕率 だった.もっと,マーキングする個体や回数を増 やし,マーキングから再捕までの日数を縮め,再 捕する日を大潮の干潮時にすることで,再捕率を 高める必要がある.

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謝辞 本研究を行うにあたり,貴重なご助言をくだ さいました鹿児島大学理学部生態学研究室の皆様 方に感謝いたします.また,小野田剛さんには, 多くのの助言や御協力を頂きました.また,武内 有加さん,平田今日子さん,柴垣紘子さん,前島 信之さん,藤谷裕介さん,多様性生物学講座の 3 年生の皆さんには,野外調査や計測のお手伝いを して頂きました.また,鹿児島大学理学部鈴木英 治教授,渡辺名月さん,鈴鹿達二郎さん,セシリ アさん,デシィさん,多様性生物学講座のみなさ んには,本当にお世話になりました.一人一人に 心から感謝いたします.本稿の作成に関しては, 日本学術振興会科学研究費助成金の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生態系にお ける水陸境界域の生物多様性の研究」262410270001・平成 27–29 年度基盤研究(C)一般「島嶼 における外来種陸産貝類の固有生態系に与える影 響」15K00624・平成 27–29 年度特別経費(プロジェ クト分)-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生 物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」, および,2017 年度鹿児島大学学長裁量経費,以 上の研究助成金の一部を使用させて頂きました. 以上,御礼申し上げます. 引用文献 阿部 茂.1981.イシマキガイの河川における棲息状況. ちりぼたん,12: 55–61. 阿部 茂.1984.進化の過程から見たイシマキガイ.ちり ぼたん,14: 97–99. 古城祐樹・冨山清升.2000.同一河川におけるカワニナ と イ シ マ キ ガ イ の 分 布 と 微 小 生 息 場 所.Venus, 59: 245–260. 小原淑子・冨山清升.2000.同一河川に生息するカワニナ とイシマキガイのニッチ分け.Venus, 59: 135–147. 小野田剛.2002.同所的に生息する淡水巻貝 2 種のニッチ 分けと夜間の行動.鹿児島大学理学部地球環境科学科 卒業論文. 小野田剛.2004.同所的に生息する淡水巻貝 2 種の種間関 係とイシマキガイの生活史.鹿児島大学大学院理工学 研究科地球環境科学専攻修士論文.


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鹿児島県から採集された準絶滅危惧種ハナザメのアルビノ 藤原恭司 ・伊東正英 ・Kunto Wibowo ・本村浩之 1

1

1, 3

4

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2

3

2

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

Research Center for Oceanography, LIPI, Jl. Pasir Putih I, Ancol Timur, Jakarta 14430, Indonesia 4

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに アルビノはチロシナーゼの欠損を起こす変異遺 伝子により,チロシンからのメラニン形成が行わ れない先天的な遺伝子疾患(アルビニズム)が ある個体のことである(巌佐ほか,2013).アル ビノは多くの生物で確認されており,メラニンの 欠乏により体や眼などに色素が生じない特徴をも つ(巌佐ほか,2013). 2017 年 12 月 28 日に鹿児島県南さつま市笠沙 町からアルビノのメジロザメ科魚類が 1 個体採集 された.この標本を精査したところ,体各部の特 徴 か ら ハ ナ ザ メ Carcharhinus brevipinna (Valenciennes, 1839) に同定された.ハナザメは国際自然 保護連合が発行するレッドリストにおいて準絶滅 危惧種に指定されている.日本における板鰓類の アルビノの報告は少なく,さらに,ハナザメのア ルビノの報告はこれまで行われていないため,こ こに詳細に報告する. 材料と方法 標本の計測方法は基本的に岸本ほか(2006)に したがい,第 1–2 背鰭間長(1st to 2nd dorsal-fin Fujiwara, K., M. Itou, K. Wibowo and H. Motomura. 2018. Record of an albino Spinner Shark Carcharhinus brevipinna (Carcharhinidae) from Kagoshima, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 151–155. KF: Graduate School of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: kyojifujiwara627@yahoo.co.jp). Published online: 23 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-021.pdf

length)は第 1 背鰭基部後端から第 2 背鰭起部ま でを計測した.計測はノギスを用いて基本的に 0.1 mm の精度で計測した(全長,尾鰭前長,および 総 排 泄 孔 前 長 は 1 mm の 精 度 ). 全 長(Total length)は TL と表記した.生鮮時の体色の記載は, 固定前に撮影されたカラー写真に基づく.標本の 作製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009) に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学 総合研究博物館(KAUM)に保管されており,上 記の生鮮時の写真は同館のデータベースに登録さ れている. 結果と考察 Carcharhinus brevipinna (Valenciennes, 1839) ハナザメ (Figs. 1–3; Table 1) 標本 KAUM–I. 110752,雌,全長 847 mm,鹿 児島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側 (31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m, 定 置 網, 2017 年 12 月 28 日,伊東正英採集. 記 載 体 各 部 の 全 長 に 対 す る 割 合(%) を Table 1 に示す.体は紡錘形で細長く,隆起線を 欠く.吻は突出し,よく尖る.眼は小さく,瞬膜 をもつ.瞳孔は背腹方向に細長い雫形.眼後縁に 欠刻がない.噴水孔を欠く.鼻孔は吻部腹面に開 孔し,吻端と眼前縁の中間付近に位置する.口は 下位で,大きい.口裂の先端は眼後縁を僅かに越 える.両顎には鋭く尖ったナイフ状の歯がややま ばらに並ぶ.上顎前方の歯は幅がせまく,湾曲し ない.両顎側方部の歯の先端はやや内側に湾曲す る.鰓孔は 5 対.肛門は腹鰭基底直後に開孔する.

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Fig. 1. Fresh albino specimen of Carcharhinus brevipinna collected from Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 110752, female, 847 mm TL). A, lateral view; B, dorsal view; C, ventral view.

背鰭は 2 基で,棘をもたない.第 1 背鰭と第 2 背 鰭はよく離れ,第 1–2 背鰭間長は第 1 背鰭高の 2.9 倍.第 1 背鰭起部は胸鰭後端の僅か後方に位置す る.第 1 背鰭後端は腹鰭起部よりも前方に位置す る.第 1 背鰭は三角形で,やや大きく,その後端 はよく尖る.第 2 背鰭起部は臀鰭中央部の垂線よ Fig. 2. Head of albino specimen of Carcharhinus brevipinna (KAUM–I. 110752, female, 847 mm TL), showing white iris and brown pupil.

り前方に位置する.第 2 背鰭後端はよく尖り,臀 鰭後端と同一垂線上に位置する.胸鰭はやや大き く,その起部は第 4 鰓孔直下に位置する.胸鰭先 端は僅かに尖る.腹鰭は小さく,第 1 背鰭と第 2 背鰭の中間に位置する.臀鰭は小さく,その起部 は第 2 背鰭起部を僅かに越える.尾鰭上葉はひ

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じょうに長く,後縁上方に切れ込みがある.尾鰭

などの特徴が青沼ほか(2013)が示したハナザメ

下葉は短く,先端は僅かに尖る.尾鰭基底背腹面

Carcharhinus brevipinna の 特 徴 と よ く 一 致 し た.

はくぼむ.

また,KAUM–I. 110752 の体各部の全長に対する

色彩 生鮮時の体色(Figs. 1, 2):体は全体的

割合は比較標本である 2 個体の C. brevipinna と同

に乳白色.虹彩は白色,瞳孔は淡い褐色.各鰭は

値またはひじょうに近い値となったため,記載標

乳白色.

本は C. brevipinna に同定された.記載標本は体が

分布 Carcharhinus brevipinna は東太平洋を除

乳白色を呈し,色素の薄い瞳孔をもつことで C.

く全世界の熱帯から温帯に分布する(Compagno

brevipinna の通常の色彩と異なる(Figs. 1, 2)(通

and Niem, 1998;青沼ほか,2013).日本国内では

常,体側背面は青色がかった黒色,腹面は白色,

相模湾から九州南岸の太平洋,天草灘,および琉

瞳孔は黒色;Fig. 3).これらの特徴はアルビノの

球列島から記録がある(青沼ほか,2013).

特 徴 と よ く 一 致 し た た め, 記 載 標 本 は C.

備考 鹿児島県産の 1 標本(KAUM–I. 110752) は体に隆起線をもたない,眼の後縁に欠刻がない,

brevipinna のアルビノであると判断した. 板鰓類のアルビノは世界中で確認されており

上顎前方の歯は幅がせまく,先端が尖り,湾曲

(Clark, 2002),日本国内ではオオテンジクザメ

しない,第 1 背鰭起部は胸鰭後端のわずか後方

Nebrius ferrugineus (Lesson, 1831) のアルビノが和

に位置する,第 1 背鰭後端は腹鰭起部よりも前方

歌 山 県 か ら 報 告 さ れ て い る(Taniuchi and

に位置する,第 2 背鰭がひじょうに小さく,その

Yanagisawa, 1987).しかし,ハナザメが含まれる

起部は臀鰭中央部の垂線より前方に位置する,

メ ジ ロ ザ メ 属 魚 類 に つ い て は,Carcharhinus

第 1–2 背鰭間長は第 1 背鰭高の 2.9 倍であること

amboinensis (Müller and Henle, 1839)(オーストラ

Table 1. Morphometrics (expressed as percentages of total length) of specimens of Carcharhinus brevipinna from Kagoshima, Japan.

Total length (mm; TL) Pre-caudal length Head length Trunk length Tail length Snout-vent length Body depth Caudal-peduncle depth Pre-orbital length Pre-oral length Orbit diameter 1st gill-slit length Interorbital width Internarial width Mouth width 1st dorsal-fin length 1st dorsal-fin height 2nd dorsal-fin length 2nd dorsal-fin height Pectoral-fin length Pelvic-fin length Anal-fin length Anal-fin height Dorsal caudal-fin length Preventral caudal-fin length 1st to 2nd dorsal-fin length

KAUM–I. 110752 Satuma Peninsula Albino 847 72.7 24.6 29.2 20.2 53.0 12.1 3.9 9.7 8.4 1.5 4.2 8.9 5.0 7.0 11.8 7.5 6.5 2.0 13.5 6.5 7.4 2.9 27.9 10.8 21.7

KAUM–I. 10238 Satuma Peninsula Normal 694 73.3 25.3 29.3 18.7 52.3 13.7 4.3 9.4 8.6 1.8 3.8 9.8 5.6 7.7 14.0 8.6 7.3 2.5 16.9 7.6 7.2 3.1 28.4 11.4 21.9

KAUM–I. 31526 Osumi Peninsula Normal 891 74.5 24.2 28.8 19.4 52.6 13.9 3.9 9.3 8.2 1.7 4.5 8.8 4.9 7.3 11.8 7.9 6.7 2.1 13.8 6.9 7.2 2.5 27.1 11.5 23.5

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Fig. 3. Fresh normal specimen of Carcharhinus brevipinna collected from Osumi Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 31526, male, 891 mm TL). A, lateral view; B, ventral view.

リア)やドタブカ C. obscurus (Lesueur, 1818)(メ キ シ コ ) に 限 ら れ て い た(McKay and Beinssen, 1988; Bejarano-Álvarez and Galván-Magaña, 2013). したがって,本研究はハナザメ C. brevipinna にお けるアルビノの初めての記録となる. 板鰓類のアルビノに関する報告では,同時に 単眼症や第 2 背鰭の欠如など形態異常を伴う個体 が報告されている(Taniuchi and Yanagisawa, 1987; Bejarano-Álvarez and Galván-Magaña, 2013; EscobarSánchez et al., 2014).しかし,本研究で確認され たアルビノのハナザメでは通常個体と比べ,顕著 な形態異常は確認されなかった. 比 較 標 本 ハ ナ ザ メ Carcharhinus brevipinna: KAUM–I. 10238,雌,全長 694 mm,鹿児島県指 宿 市 開 聞 岳 沖(31°10′20″N, 130°32′56″E), 水 深 50 m,定置網,2008 年 6 月 4 日,荻原豪太採集; KAUM–I. 31526,雄,全長 891 mm,鹿児島県肝 属 郡 肝 属 町 内 之 浦 湾 新 地 沖(31°16′55″N, 131°04′49″E), 水 深 25 m, 定 置 網,2010 年 7 月 22 日,荻原豪太・山下真弘・大橋祐太採集.

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謝辞 本報告を取りまとめるにあたり鹿児島大学総 合研究博物館ボランティアの皆さまと鹿児島大学 大学院連合農学研究科の田代郷国氏と同大学大学 院水産学研究科の稲葉智樹氏を中心とする鹿児島 大学総合研究博物館魚類分類学研究室の皆さまに は標本の調査にご協力して頂いた.これらの方々 に謹んで感謝の意を表する.本研究は鹿児島大学 総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査 プロジェクト」の一環として行われた.本研究の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形 成事業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型, 国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ トの構造に関する研究プロジェクト」,文部科学 省特別経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に 関する教育研究拠点整備」,および鹿児島大学重 点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロジェクト) 学長裁量経費の援助を受けた.


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引用文献 青沼佳方・山口敦子・柳下直己・吉野哲夫.2013.メジロ ザメ科.Pp. 171–176, 1761– 1762.中坊徹次(編).日 本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会, 秦野. Bejarano-Álvarez, O. M. and F. Galván-Magaña. 2013. First report of an embryonic Dusky Shark (Carcharhinus obscurus) with cyclopia and other abnormalities. Marine Biodiversity Records, doi 10.1017/s1755267212001236. Compagno, L. J. V. and V. H. Niem. 1998. Family Carcharhinidae. Pp. 1312–1360 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Vol. 2. Cephalopods, crustaceans, holothurans and sharks. FAO, Rome. Clark, S. 2002. First report of albinism in the White-Spotted Bamboo Shark, Chiloscyllium plagiosum (Orectolobiformes: Hemiscyllidae), with a review of reported color aberrations in Elasmobranchs. Zoo Biology, 21: 519–524.

Nature of Kagoshima Vol. 44 Escobar-Sánchez, O., X. G. Moreno-Sánchez, C. A. Aguilar-Cruz and L. A. Abitia-Cárdenas. 2014. First case of synophthalmia and albinism in the Pacific Angel Shark Squatina californica. Journal of Fish Biology, 85: 494–501. 巌佐 庸・倉谷 滋・斎藤成也・塚谷裕一.2013.岩波 生物学辞典 第 5 版.岩波書店,東京.2192 pp. 岸本浩和・赤川 泉・鈴木伸洋.2006.魚類学実験テキスト. 東海大学出版会,秦野.130 pp. McKay, R. J. and K. Beinssen. 1988. Albinism in the Pigeye Whaler Shark Carcharhinus amboinensis (Müller and Henle) from Queensland. Memoirs of the Queensland Museum, 25: 463–464. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp. Taniuchi, T. and F. Yanagisawa. 1987. Albinism and lack of second dorsal fin in an adult Tawny Nurse Shark, Nebrius concolor, from Japan. Japanese Journal of Ichthyology, 34: 393–395.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県から得られたカラチョウザメの形態学的 ・ 生態学的知見 畑 晴陵 ・山田守彦 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 892–0814 鹿児島市港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに チ ョ ウ ザ メ 科 魚 類 の 1 種, カ ラ チ ョ ウ ザ メ Acipense sinensis Gray, 1835 は体重 560 kg に達し, 本科魚類の最大種として知られ,長江をおもな産 卵河川とした遡河回遊魚である(倪,1990).本 種は日本近海には迷魚として極めて稀に出現する (細谷,2013).長江における環境開発,乱獲によ り個体数が激減しており(倪,1990),IUCN のレッ ドリストにおいては “CR(絶滅寸前)” に位置づ けられている(Qiwei, 2010).1991 年には観賞魚 として生体が日本に輸入されたこともあったよう であるが(松坂,1997),1998 年にワシントン条 約付属書 II 類にリストされ,現在は輸出入が規制 されている.その稀少さから中国では「泳ぐパン ダ」や「水中のジャイアントパンダ」などと称さ れることもある(どうぶつのくに編集部,2017;畑, 2017). 1997 年 5 月 17 日,鹿児島県薩摩半島南端に位 置する開聞岳の近海で,1 個体のカラチョウザメ が定置網により漁獲された.その後,いおワール ドかごしま水族館により同個体の飼育が始められ た.当初,約 9 ヶ月にわたって全く摂餌をおこな わなかったものの,その後餌を食べ始め(出羽, Hata, H., M. Yamada and H. Motomura. 2018. Morphological and ecological notes on Acipenser sinensis (Chondrostei: Acipenseriformes) in Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 157–161. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 23 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-022.pdf

1998;中畑,2008;財団法人鹿児島市水族館公社, 2008),日本国内の水族館においては初めて,本 種の餌付けに成功した(白濱,2000).その後, 10 年以上の長きにわたり,同水族館において飼育 がなされ,来館者の人気を集めたが,2011 年 9 月 4 日に死亡が確認された.飼育期間 14 年 110 日は, カラチョウザメの日本国内における最長飼育記録 である(中畑,2011).同個体はその後,標本と して鹿児島大学総合研究博物館に収蔵され,標本 写真が畑(2017)により示された.日本産カラチョ ウザメの記録は極めて少なく,形態学的知見の蓄 積のため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1949) にし たがった.背側鱗の計数方法は竹内(1979)にし たがい,体背面に並ぶ鱗のうち,頭部の鱗板に接 するものは含めなかった.腹側鱗は体腹面に並ぶ 鱗のうち,胸鰭基底後端から腹鰭起部にかけて並 ぶものを数えた.標準体長は体長と表記し,体各 部の計測はノギスを用いて 1 mm までおこなった. 重量の計測はデジタル電子計りを用いて 1 kg ま でおこなった.カラチョウザメの生鮮時の体色の 記 載 は, 固 定 前 に 撮 影 さ れ た 鹿 児 島 県 産 標 本 (KAUM–I. 99269)のカラー写真に基づく.標本 の作製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009) に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学 総合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時 の写真は同館のデータベースに登録されている. 本報告中で用いられている研究機関略号は以下の 通 り:KAUM( 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ); CMNH-ZF(千葉県立中央博物館分館海の博物館).

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Fig. 1. (A) Lateral, (B) dorsal and (C) ventral views of fresh specimen of Acipenser sinensis from south of Mt. Kaimon, Ibusuki, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 99269, 2700 mm standard length).

結果と考察 Acipense sinensis Gray, 1835 カラチョウザメ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 99269, 体 長 2700 mm, 全 長 3100 mm,体重 158 kg,メス,鹿児島県指宿市開 聞岳南方(31°09′N, 130°32′E),1997 年 5 月 17 日, 定置網にて漁獲された後,いおワールドかごしま 水族館において 2011 年 9 月 4 日まで飼育され, 死亡. 記載 背鰭軟条数 65;臀鰭軟条数 37;背側鱗 数 14;左体側の体側鱗数 36;右体側の体側鱗数 37; 左 体 側 の 腹 側 鱗 数 12; 右 体 側 の 腹 側 鱗 数 12;左側の第 1 鰓弓上の総鰓耙数 17;右側の第 1 鰓弓上の総鰓耙数 17. 体各部測定値の標準体長に対する割合(%): 頭長 27.0;頭幅 12.0;体高 14.5;体幅 12.2;吻長 11.5;眼窩径 0.8;眼隔域幅 8.9;尾柄長 7.4;尾 柄高 3.4;背鰭前長 77.8;臀鰭前長 85.9;胸鰭前 長 28.6;腹鰭前長 67.0;背鰭基底長 15.3;臀鰭基 底長 8.3;眼後長 16.7;胸鰭基底上端から背鰭起 部にかけての長さ 49.3;胸鰭基底上端から腹鰭起 部にかけての長さ 38.9;腹鰭起部から臀鰭起部に

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かけての長さ 18.9;胸鰭基底長 5.0;腹鰭基底長 5.6;前鼻孔の最大径 0.8;後鼻孔の最大径 1.6; 後鼻孔後端から眼窩先端までの長さ 1.5;外側の ひげの長さ 2.3;内側のひげの長さ 2.2;口幅 6.2. 体は前後方向に長い円筒形を呈し,頭部はわ ずかに縦扁する.体背縁は吻端から,前方から 7 番目の背側鱗にかけて極めて緩やかに上昇し,背 鰭基底後端にかけて極めて緩やかに下降する.体 腹縁は下顎先端から胸鰭基底後端直下にかけて極 めて緩やかに下降し,そこから腹鰭起部にかけて 体軸とほぼ平行となる.臀鰭基底部の体腹縁はわ ずかに上昇する.尾柄部における体背縁と体腹縁 はともに体軸とほぼ平行.左右の体側中央に,頭 部後方から尾鰭基底にかけて鱗が 1 列ずつ並ぶ. 体背面中線に鱗が 1 列に並ぶ.左右の体側下縁の 胸鰭基底後端から腹鰭起部にかけて鱗が 1 列ずつ 並ぶ.臀鰭前方の体腹面に鱗が 1 枚ある.尾柄部 の背面にと腹面に鱗が 1 枚ずつある.各鱗はひ じょうに固く,剥がれにくい.鱗の表面には多数 の小孔が密在し,触るとざらざらしている.胸鰭 基底上端は鰓蓋後端よりも後方,第 1 背側鱗と第 1 体側鱗の直下に位置する.たたんだ胸鰭後端は 第 5 背側鱗と第 7 体側鱗の直下に達する.腹鰭起


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部は第 12 背側鱗と第 16 体側鱗の直下に位置する.

1955),竹内(1979)により前者のホロタイプの

背鰭起部は第 20 体側鱗直上,背鰭基底後端は第

背鰭軟条数は 56 であり,その他の差異も 2 名義

27 体側鱗直上にそれぞれ位置する.臀鰭起部は

種間に認められなかったことから,前者は後者の

背鰭基底後端よりも前方,第 23 体側鱗直下に位

新参異名とされた.

置し,臀鰭基底後端は第 27 体側鱗直下に位置す

本研究で記載をおこなった標本の背鰭軟条数

る.尾鰭は異尾を呈し,上葉は下葉と比べて極端

は 65 と,従来知られていた A. sinensis の背鰭軟

に長い.肛門は臀鰭起部前方に位置し,ほぼ正円

条数の値(54–59;竹内,1979)よりも多い.し

形.眼と瞳孔はほぼ正円形.鼻孔は 2 対で眼の前

かし,チョウザメ科魚類においては,同一種内に

方に位置する.前鼻孔はわずかに前後方向に長い

おいて背鰭軟条数に 15 本程度の幅がみられるこ

楕円形を呈し,後鼻孔のほぼ直上に位置する.後

とが知られており[例えばダウリアチョウザメ

鼻孔は背腹方向に長い楕円形を呈する.口は裂孔

Huso dauricus (Georgi, 1775) においては,背鰭軟

状を呈し,左右方向に長い.口内に歯はない.吻

条数が 43–57 であることが知られている;細谷,

部腹面に左右で 2 対の扁平なひげがある.

2013],本研究においても記載標本の背鰭軟条数

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は体側鱗上方で一様

に関する従来の知見との差異は,種内変異と判断

に焦げ茶色を呈し,下方は一様に淡褐色.各鱗は

した.なお,記載標本は直径数 mm 程度の卵を

黄土色.

多数もっており,メスであると判明した.

分布 カラチョウザメはおもに長江流域に分

カラチョウザメを日本から初めて報告したの

布し,その支流や周辺の湖,黄河,銭塘江,およ

は Jordan and Snyder (1901) である.上述の通り,

びそれらの河口付近の沿岸域に分布する(倪,

彼らは三崎沖から得られた 1 個体に基づき,A.

1990;稲田・山田,1998).また,朝鮮半島や日

kikuchii を記載している. その後,Jordan et al. (1913)

本にも稀に迷魚として出現することが知られる

は Acipenser kikuchii に対して,和名キクチチョウ

(森,1933;細谷,2013).日本国内においては東

ザメを提唱した.田中(1915)は有明海から得ら

京湾,相模湾,徳島県吉野川,鹿児島県鹿屋市沖,

れ た 体 長 175 cm の チ ョ ウ ザ メ 科 魚 類 1 個 体 を

石川県白山市沖,山口県下関市沖,福岡県北九州

Acipenser dabryanus として報告したが,これはカ

市藍島沖,有明海,鹿児島県開聞岳南方(Jordan

ラ チ ョ ウ ザ メ で あ る と 思 わ れ る.Acipenser

and Snyder, 1901;田中,1915;竹内,1979;出羽,

sinensis に対し,和名「カラチョウザメ」を提唱

1998;西岡,2012;畑,2017;本研究)から記録

したのは森(1933)である.彼は,韓国麗水近海,

されている.

中国宜昌,および重慶から得られた計 4 個体の形

備考 記載標本は臀鰭軟条数が 37 であること,

態を詳細に報告し,同時に和名を提唱した.その

背側鱗数が 14,腹側鱗数が左右ともに 12 である

後,金子(1958)は 1958 年 5 月 24 日に千葉県富

こと,臀鰭起部が背鰭基底後端よりも前方に位置

津市金谷沖から得られた全長 220 cm の本種 1 個

す る こ と な ど が Kim et al. (2005) や 細 谷(2013)

体(CMNH-ZF 17289)を報告した.同個体は川瀬・

の報告した A. sinensis の標徴とよく一致したため,

奥野(2011)によって再度詳細に報告がなされた.

本種に同定された.

竹内(1979)は A. kikuchii を A. sinensis の新参異

日本産チョウザメ科魚類に,キクチチョウザ

名とするにあたり,A. kikuchii のホロタイプに加

メ A. kikuchii Jordan and Snyder, 1901 が知られる.

え,千葉県富津市金谷沖[金子(1958)によって

本名義種は Jordan and Snyder (1901) により神奈川

報告された個体],神奈川県横須賀市佐島沖,山

県三崎沖から得られた 1 個体に基づき記載され,

口県近海,山口県下関市岡沖,および福岡県北九

その後 1 例も報告のなかった種である(竹内,

州市藍島沖から得られたものと,産地不明のもの

1979).本名義種は背鰭軟条数が 66 本と多いこと

の計 8 個体のカラチョウザメに関して形態の詳細

により,A. sinensis と識別されるとされたが(松原,

な報告をおこなった.出羽(1998)は本研究で記

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載をおこなった個体の水族館における餌付けの成 功に関して詳述したほか,1987 年 6 月に鹿児島 県串良町(現鹿屋市)沖で,1991 年 7 月に石川 県美川町(現白山市)でそれぞれカラチョウザメ が漁獲されたことを報告した. 西岡(2012)は徳島県吉野川においてカラチョ ウザメ 1 個体(全長 81 cm,体重 2.8 kg)が漁獲 されたことを報告した.また,本研究で記載をお こなった標本は,畑(2017)によって報告されて いる.したがって,日本国内におけるカラチョウ ザメの分布域は「分布」の項で示したとおりであ る. カラチョウザメは一般的にオスで体長 1.7 m, 体重 33.5 kg,メスで体長 2.4 m,体重 148 kg で成 熟するとされる.また本種は遡河性回遊魚であり, 長江においては 5–6 月から遡上を始め,10–11 月 に上流域で産卵をおこなう.その後,親魚は直ち に降海し,孵化した当歳魚も翌年の 5–6 月には河 口に達することが知られる(倪,1990).本研究 において記録と体長または全長が確認できた日本 産カラチョウザメの内,西岡(2012)が報告した 全長 81 cm,体重 2.8 kg のものを除き,全て[田 中(1915),金子(1958),竹内(1979),および 本研究において報告したもの]が全長 1500 mm 以上と比較的大きく,いずれも 4 月から 6 月にか けて出現している.このことから,日本で得られ るカラチョウザメの多くは成魚となって日本近海 に迷入し,河川遡上を伴う産卵のために接岸した ところ,漁獲されたものと思われる.また,カラ チョウザメは産卵のための遡上に際してほとんど 摂餌をおこなわないことが知られている(倪, 1990;どうぶつのくに編集部,2017).「はじめに」 の項でもふれたとおり,本研究において記載をお こなった個体は水族館へ搬入後,9 ヶ月にわたり 摂餌をおこなわなかったことが報告されている (出羽,1998;中畑,2008;財団法人鹿児島市水 族館公社,2008).この絶食は,漁獲のストレス や環境の急変によるものである可能性も考えられ るが,産卵・遡上が近くなったためのものとも思 われる.

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謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,かいゑい漁 業協同組合の関係者の皆様には標本の採集に際し て,多大なご協力を頂いた.原口百合子氏をはじ めとする鹿児島大学総合研究博物館ボランティア と同博物館魚類分類学研究室の皆さまには適切な 助言を頂いた.また,鹿児島大学総合研究博物館 魚類分類学研究室といおワールドかごしま水族館 の皆さまには標本作製・写真の撮影・計測にあたっ て多大なご協力を賜った.以上の方々に謹んで感 謝の意を表する.本研究は鹿児島大学総合研究博 物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク ト 」 の 一 環 と し て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹川科学研究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基 盤形成型,国立科学博物館「日本の生物多様性ホッ トスポットの構造に関する研究プロジェクト」, 文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とそ の保全に関する教育研究拠点整備」,および鹿児 島大学重点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロ ジェクト)学長裁量経費の援助を受けた. 引用文献 出羽慎一.1998.カラチョウザメの餌付けに成功!さくら じまの海,2 (1): 7. どうぶつのくに編集部.2017.“ 水中のジャイアントパンダ ” カラチョウザメ.どうぶつのくに,104: 1–15. 畑 晴陵.2017.カラチョウザメ.P. 27.岩坪洸樹・本村 浩之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島 水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 細谷和海.2013.チョウザメ科.Pp. 232, 1779–1780.中坊 徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東 海大学出版会,秦野. Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, 26: i–xi + 1–186. 稲田伊史・山田梅芳.1998.西水研玄関に展示されている 「チョウザメ」標本.西海水研ニュース,93: 3–8. Jordan, D. S. and Snyder, J. O. 1901. Descriptions of nine new species of the fishes contained in museums on Japan. Journal of the College of Science. Imperial University, Tokyo, 15 (2): 301–311, pls. 15–17.


RESEARCH ARTICLES Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. 金子虎寿.1958.千葉県にチョウザメ.採集と飼育,20: 365. 川瀬裕司・奥野淳兒.2011.房総半島西岸から記録された ダウリアチョウザメ Huso dauricus とカラチョウザメ Acipenser sinensis(硬骨魚綱:チョウザメ目).千葉中 央博自然史研究報告特別号,9: 107–112. Kim, I. S., Choi, Y., Lee, C. L., Lee, Y. J., Kim, B. J. and Kim, J. H. 2005. Illustrated book of Korean fishes. Kyohak Publishing, Seoul. 615 pp. 松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.Part I.石崎書店,東京. xi + 789 pp. 松坂 實.1997.熱帯魚 2000 & 水草 300 種大図鑑.433 pp. FAIR WIND,千葉. 森 為三.1933.朝鮮の「テウザメ」に就テ.朝鮮博物学会誌, 16: 6–10. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

Nature of Kagoshima Vol. 44 中畑勝見.2008.カラチョウザメ 10 年間の飼育を振り返っ て.さくらじまの海,12 (1): 7. 中畑勝見.2011.カラチョウザメの死 国内最長飼育記録 を残して.さくらじまの海,15 (3): 8. 倪 勇.1990.鱘形目.Pp. 86–90.中国水産科学研究院東 海水産研究所・上海市水産研究所(編).上海魚類誌. 上海科学技術出版社,上海. 西岡智哉.2012.吉野川で漁獲されたカラチョウザメにつ いて.徳島水研だより,83: 11–12. Qiwei, W., 2010. Acipenser sinensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2010. T236A13044272. http://dx.doi. org/10.2305/IUCN.UK.2010-1.RLTS.T236A13044272.en 白濱重則.2000.生きた化石「カラチョウザメ」.市民フォ ト.80: 30. 竹内経久.1979.相模湾で記録されたカラチョウザメ及び キクチチョウザメ.京急油壺マリンパーク水族館年報, 10: 20–25. 田中茂穂.1915.有明海産テフザメ.動物學雑誌,27: 556. 財団法人鹿児島市水族館公社.2008.鹿児島水族館が確認 した ― 鹿児島の定置網の魚たち.260 pp.財団法人鹿 児島市水族館公社,鹿児島.

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マングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithdea cingulate (Gmelin, 1790) の サイズ頻度分布の季節変化と ω 指数に基づく他種との共存関係 平田今日子・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 ヘ ナ タ リ Cerithdea cingulata (Gmelin.1790) は, フトヘナタリ科に属する巻貝で,内湾の干潮帯に 生息する.そのヘナタリにおける季節のサイズ分 布を研究した.ヘナタリの殻高は 20–30 mm で, 殻の形態は輪郭が直線的な円錐形をしており,体 層の右には太く張り出した縦張肋があり,前面は 平坦になる.外唇は大きくそりかえり,ウミニナ の仲間では特徴的な口の形である.調査は鹿児島 県鹿児島市喜入町を流れる愛宕川の河口干潟 (23°23′ N , 130°33′ E)調査区の設置はマングロー ブ林の植生がないところから愛宕川の下流に向か いそれぞれ station E,station F を約 20 m の間隔を 空け設置した.調査方法は 2005 年 1–12 月の期間 に毎月 1 回,大潮または中潮の日の干潮時に調査 区内の個体採集を行った.各 station に 50 × 50 の コドラート内の砂泥を深さ 2 cm まで掘り,掘り あげた砂泥を 1.5 mm のふるいで洗い流し,残っ たものを冷凍保存した.その後,出現個体数を記 録した.さらに,ヘナタリについてのみ殻幅をノ ギスを使い,0.1 mm 単位で計測した.サイズ頻 度分布の季節変化結果から,各 station とも 2–4 月 は 10 mm 以下の稚貝でピークをつくっているが 夏季を過ぎる頃から成貝のグループに融合されて Hirata, K. and K. Tomiyama. 2018. Seasonal changes in the size distribution of Cerithdea cingulata (Gmelin, 1790) and coexistence relations with the other species based on ω-index on the mangrove tidal flat. Nature of Kagoshima 44: 163–172. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 28 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-023.pdf

いった.ω 指数結果はヘナタリーウミニナは年間 を通じて数値がマイナスを示す月がほぼ見られな かったのに対して,ウミニナーカワアイ・ヘナタ リーカワアイは年間を通じて数値が大きいもので ₋0.4 までだがマイナスを示す月が多く見られた. 密度変化の結果はウミニナとヘナタリに関しては い年を通じて大きな変化は見られなかった.カワ アイに関しては季節に関係なく増減が見られた. これらの結果より各 station でのヘナタリは 2–4 月 にかけて 10–11 月に新規加入した個体が多く出現 するようになり,6 月以降成長していることがわ かった.また,それらの稚貝は成長し 15 mm 以 上の成貝グループに融合されていくと考えられ る.また,ω 指数の結果より,ヘナタリとウミニ ナは大変親密な関係にあることがわかった.最後 に,季節による密度変化の結果よりヘナタリ・ウ ミニナは夏季を過ぎる頃から減少の傾向が見られ たことと過去のデータより,移動,捕食された, 種内の競争または,死亡したと考えられる.カワ アイの関しては不規則に出現するため季節に関係 ないと考えられる. はじめに イ ヘ ナ タ リ Cerithdea cingulata (Gmelin, 1790) は, フ ト ヘ ナ タ リ 科 に 属 す る 巻 貝 で( 奥 谷, 2000),内湾の干潮帯に生息する(Fig 1).ヘナ タリの生活史についてフィリピンでは 3–8 月に最 も多くが確認され,孵化したベリジャー幼生は約 2 週間自由浮遊したのち定着すること,岡山県で の観察では 7–8 月に産卵が行われること(波部, 1955),シンガポールでは夏に新規加入が起こり, 成貝は産卵後に死亡すること(Vohra, 1970)が報 告されている.また,鹿児島県では 5 月以降上流 部の個体が下流部に移動すること(若松・冨山,

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Fig. 1.ヘナタリの標本写真.左:殻口が肥厚した成熟個体, 右:殻口が肥厚していない未成熟個体.

Fig. 3.調査地の地図.鹿児島県鹿児島市喜入町を流れる愛 宕川河口のマングローブ干潟.

安東・冨山(2002)は,ヘナタリ成貝個体数 が一年を通して安定せず激減することから下流部 へ成貝が季節的に移動しているのではないかとの 仮説を提示した.そこで,本研究では,安東・冨 Fig. 2.調査地で採集された貝類.左:ウミニナ,右:カワアイ.

山(2002)の研究場所よりも下流部において 2 ヶ 所を調査区に決定し,季節的な個体数変動を追っ て行った.他のウミニナ類との種間関係を調べる ため,同所的生息の程度を ω 指数から推定し,

2000)や,産卵に要する時間や卵の形状・産卵後 の状態,孵化幼生の形態についての報告がある(網 尾,1963).さらにヘナタリは粒子の細かい泥地 に対する選好性があり(真木ほか,2002;山本・

変動を比較した. 材料と方法 材料 ヘナタリは国外では,インド・西太平洋,

和田,1999),水はけのよい泥地を回避すること

国内では房総半島以南,四国,九州に生息し,県

が知られている(Vohra, 1970).真木ほか(2002)

内では,鹿児島湾,種子島,奄美大島などの内湾

はヘナタリを含むウミニナ科・フトヘナタリ科腹

の干潟や河口干潟に生息している.主に,淡水の

足類の同所的生息を可能にする要因として,干潟

影響する内湾干潟砂泥の底床にウミニナ類ととも

底質による微小生息域の違いを挙げている.以上

に生息する.南方ではマングローブ林周辺の砂泥

のような先行研究の例から判るように,ヘナタリ

地などに多産する.殻高は 20–30 mm で,概観は

の生活史は生息地によって大きな違いがあること

輪郭が直線的な円錐形をしており,体層の右には

明らかである.ヘナタリは生活環境によって生活

太く張り出した縦張助があり,前面は平坦になる.

史が大きく異なっている可能性もある.しかし,

外唇は大きくそりかえり,ウミニナの仲間では特

ヘナタリに関して,稚貝の新規加入時期等の個体

徴的な口の形である.ヘナタリは,確実に絶滅の

数の季節変動を一年間通じて複数ヶ所で比較する

方向へ向かっている危険に位置づけられている

研究は安東・冨山(2002)が行なったもののみで

(和田ほか,1996)ほか,鹿児島県レッドデータブッ

ある.

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クでは,現時点での絶滅危険度は小さいが,生息・


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生育状況の推移からみて,絶滅危惧として上位ラ

肉眼で見える範囲内で記録した.月ごとにヘナタ

ンクに移行する要素を有すると判断される準絶滅

リ,ウミニナ,カワアイの分布がどのように変化

危惧種に指定されており(鹿児島県,2003),各

するかを調べるため,各月の各種個体数を用いて

地で急激な減少や絶滅が報告されている.しかし,

ω 指数(Iwao, 1977)を求めた.ω 指数は群集生

本研究の調査地には多数生息している.

態学の分析で頻用される指数であり,2 種間の独

調査地 調査は鹿児島県鹿児島市喜入町を流

立的分布に対する相対的な分布の重なり度の尺度

れる愛宕川の河口干潟(23°23′ N , 130°33′ E)で

を数値化したものである(安東・冨山,2002).

行った(Fig. 3).愛宕川は鹿児島湾の日石原油基

数値 ω は,分布が完全に重なっているとき最大

地の内側に河口があり,この河口部で八幡川と合

値 1,独立分布の時 0,完全に排他的なとき最小

流している.干潟周辺にはメヒルギやハマゴウか

値 -1 をとる.ω 指数は 2 種間の独立的分布に対

らなるマングローブが広がっており,太平洋域に

する相対的な分布の重なり度の尺度であり,次式

おける北限のマングローブ林とされている.調査

で表される.

地の周辺の干潟にはウミニナ科のウミニナ Batilllaria multiformis (Lischke, 1869),フトヘナタ リ科のフトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum (A. Adams, 1885), ヘ ナ タ リ, カ ワ ア イ Cerithidea djadjariensis (Martin, 1899) のほかに,ヒメカノコ

ω は,分布が完全に重なっているとき最大値 1,

Clithon oualaniensis (Lesson, 1831), ア ラ ム シ ロ

独立的分布のとき 0,完全に排他的なとき最小値

Reticunassa festiva (Powy, 1833),コゲツノコブエ

―1 をとる.

Cerithium coralium (Kiener, 1841) などの巻貝が生 息している(Fig. 2). 調査地の設置 調査は鹿児島県鹿児島市喜入町 を流れる愛宕川の支流の河口干潟で行った.愛宕 が川は鹿児島湾の日石原油基地の内側に河口があ

種 X と種 Y に属する個体が同一空間に分布す ると仮定する.種Xに対する種Yの平均こみあい 度は

り,この河口部で八幡川と合流している.マング

であり,種Yに対する種Xの平均こみあい度は

ローブ林の植生がないところから愛宕川の下流に

向かいそれぞれ station E,station F を約 20 m の間 隔を空け設置した(Fig. 3). 調査方法 2005 年 1–12 月の期間に毎月 1 回, 大潮または中潮の日の干潮時に調査区内の個体採

ここで,χXj と χYj はそれぞれ j 番目の区画内 の種Xと種Yの個体数であり,

る.

は総区画数であ

集を行った.各 station E と station F に 50 × 50 の

個々の種内の平均こみあい度が次式

コドラート内の砂泥を深さ 2 cm まで掘り,掘り

あげた砂泥を 1.5 mm のふるいで洗い流し,残っ たものを冷凍保存した.その後,出現個体数を記

録した.さらに,ヘナタリについてのみ殻幅をノ

ギスを使い,0.1 mm 単位で計測した.ヘナタリ は成長すると殻口が大きく外に広がり,外唇肥厚 反転する.殻幅を計測する際に,殻口が肥厚した 個体と殻口が肥厚してない個体(以下,肥厚個体, 非肥厚個体と呼ぶ)のく区別も記録した.また, ヘナタリ,カワアイにおいては貝卵の付着状況も

で表されるとき,種Xに対する種Xと種Y両種 の平均こみあい度は となる.同様に種Yに対する種Xと種Y両種の

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平均こみあい度は

グラフを確認することができる. Station F では 2–4 月にかけて 10 mm の非肥厚

個体グループがピークをつくっている.5 月以降

である.もし種Xと種Yの区別をしなければ, 両種を含む全体のこみあい度は

ピークが 11 mm 以上に成長する.そして,11 mm 以上のグループに融合されていく.1 月に 5 mm

以下の稚貝でピークが作られている.5 月以降で は 7 mm 以下の稚貝が急激に減少したと同時に,

となる.ここで,

はっきりと二山型が確認できるようになった.10

月と 11 月に 5 mm 以下の新規加入が起こってい る.Station E に比べると肥厚個体は全体的に多く,

である.

特に 5・6・7 月に多くみられた.9 月以降 station F

γ は χXj と χYj との間のある種の相関係数と

における全体の採取個体数が減少しているが,一

一致しており,直線関係 χXj = aχYj にどの程度

山型をつくっており,ピークは 15 mm 以上の成

近いかを示す.

貝である.年間を通じて 6 月までは二山型のグラ

フが確認できるが 7 月以降一山型に変化した. 幼生の定着状況

結果 サイズ頻度分布の季節変化 2005 年 1–12 月の各 station におけるヘナタリの 殻幅サイズ分布を Figs. 5, 6 に示す. Station E では 2–4 月にかけて 10 mm の非肥厚

Station E 6 月に採取したウミニナに小さな白 い卵がほぼ全部のウミニナに付着していた.その 月のヘナタリには 10 分の 1 程度でしかなかった. 7 月になると,6 月と変わらずウミニナには白い 卵が付着していた.ヘナタリは 6 月に付着してい た量よりも約 2 倍増えていた.8 月になると,ウ

個体でピークをつくっている.5–7 月になると

ミニナに付着していた卵が全体の 10 分の 1 程度

ピークが 10 mm 以上に変化する.わずかではあ

に減少した.またヘナタリには数える程度でしか

るが,2–4 月には 17–21 mm の肥厚個体が存在す

なかった.9 月以降ではウミニナ・ヘナタリとも

る.また,2–4 月にかけて 3–13 mm の非肥厚個

に卵の付着が見られなかった.

体が増加している.5 月になると 15–20 mm で非

Station F 6 月のウミニナにほんの少し卵がつ

肥厚個体,肥厚個体ともに増加している.また

き始めていた.ヘナタリにかんしては全体の半分

2–4 月まで 3–13 mm と 15–20 mm でつくられてい

くらいに付着していた.7 月になると,ヘナタリ

た二山型が 5 月になるとはっきりと二山型になっ

には全体の 10 分の 3 の卵が付着していた.ウミ

た.また,5 月になると非肥厚個体のピークのサ

ニナに関してはほとんど付着が見られなかった.

イズが大きいほうに移動している.8 月まではサ

8 月以降にウミニナ・ヘナタリともに卵の付着が

イズの小さいものが二山型のピークをつくってい

みられなかった.

いたが,8・9 月は大きなサイズが二山型のピー クをつくっている.また 9 月になると,3 mm 以

ω 指数 2 種間の ω 指数の季節変化を Fig. 6 に 示す.

下の新規加入がみられ,10 月になると 5 mm 以 下 の 稚 貝 で ピ ー ク を つ く っ て い る.9 月 以 降

季節に関すること

station E における全体の採取個体数が減少してい

ヘナタリ — ウミニナ Station E, F ともに 3 月に

る.Station E は年間を通じて夏季と 1 月に肥厚個

減少する傾向が見られる.また,4 月にはまた増

体の増加がみられた.また年間を通じて二山型の

加 し,6 月 に は ま た 減 少 し て い る.Station F が

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Fig. 4.2005 年 1–12 月における Station E におけるヘナタリの殻幅サイズ頻度分布の季節変化.白抜き:非肥厚個体,黒塗り: 肥厚個体.

station E と同じような増減が見られるがすべて 1 ヶ月遅れて傾向が現れている.

ヘナタリ — カワアイ Station E, F ともに 5 月を 除く全ての月で増減の同じ増減の傾向が見られ

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Fig. 5.2005 年 1–12 月における Station F におけるヘナタリの殻幅サイズ頻度分布の季節変化.白抜き:非肥厚個体,黒塗り: 肥厚個体.

る.8・9・11 月の分布では重なりが見られた.

同時に大きな個体数の変動が見られなくなった.

また全体的に 7 月以降減少の傾向が見られると,

カワアイ — ウミニナ Station E, F ともに,1–4 月

168


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は重なりがない月もあるがほぼ増減は同じ傾向を 示 し て い る. ま た 8 月 に 重 な り が 見 ら れ る. Station F では 7 月以降増減の変動が見られるが, station E では大きな変動がなく 12 月まで横ばい が続いている. グラフに関すること ヘナタリ — ウミニナ 変動が激しかったが 2・5・ 8・10 月に重なりがみられた.数値は一年通じて ほぼプラスを示した. ヘナタリ — カワアイ 8・9・11 月に重なりがみ られたが,数値はマイナスを示す月が多かった. ウミニナ — カワアイ 変動が多く重なりは 8 月 にしかみられなかった.また station E に関しては ほとんどの月でマイナスの数値がみられ,夏季を 過ぎてからは常にマイナスであった. 密度変化 各 station における個体密度の季節変化を Fig. 7 に示す. ヘナタリ 年間を通じてめだった変動はみられ

Fig. 6.ヘナタリ,ウミニナ,カワイのそれぞれ 2 種間での ω 指数の季節変化.(a):ヘナタリとウミニナの間での ω 指数変化,(b) ヘナタリとカワアイの間での ω 指数変化, (c) カワアイとウミニナの間での ω 指数変化.■:Station E,●:Station F.

なかったが,各 station とも 2 月に少し増加したが, 3 月に増加はみられなかった.6・7・8 月に年間を 通じてもっとも密度の高い時期なっているが,9

月 と 8 月 に 最 も 密 度 の 高 い 月 を で あ っ た. 各

月になると各 station とも減少の傾向がみられる.

station における違いもはっきりみられ,ウミニナ・

各 station による年間を通じて密度変化に大きな

ヘナタリとはまったくちがう傾向がみられた.

違いはみられなかった. ウミニナ 年間を通じてめだった変動はみられ

考察

なかったが,ヘナタリ同様,各 station とも 2 月

各 station において,1 月に殻幅 3.0 mm 未満の

に少し増加し,3 月には減少している.Station E

非肥厚個体グループを確認することができる.こ

は 1–6 月まで増加月と減少月が交互にみられる.

のグループは前年の夏に産卵された卵から孵化

それに対して station F では 6 月までは増加してい

し,秋に新規加入した稚貝グループである.この

るが,6 月以降減少,わずかな増加,変化なしと

グループのピークは 5 月ごろから 12 月にかけて

いった月が続いている.ウミニナに関して年間を

移行し,稚貝の成長が確認できる.

通じて各 station における微妙な違いがみられた.

各 station において 10–11 月に新規加入がみら

カワアイ 年間を通じて 3 種の中でもっとも密

れた.本研究で使用したふるいの目は約 1.5 mm

度が低く,変動の大きい種でもあった.Station E

であり,ふるいの目よりも小さな個体が採取され

において 4 月と 10 月にもっとも密度の低い月で

ていない可能性が高い.そのため,実際の稚貝の

あったのに対し,2 月と 5 月と 8 月には密度の高

着床時期は,10 月よりも若干早いものと考えら

い月であった.また station F においては 5 月と

れる.ヘナタリは砂粒で表面が覆われた卵紐を産

12 月に最も密度の低い月なのに対して,1 月と 6

卵し,卵は底層上にほとんど全部露呈したままで

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月になると各 station に稚貝の新規加入が見られ る.Station E で 10 月 11 月にみられた新規加入が 12 月にはみられないのは採取個体数が少ないた めであり,新規加入個体がなくなってしまったの ではないと考えられる.これらの新規加入個体は 7–8 月に産卵された卵から生まれたプランクトン 幼生が,夏の間浮遊生活を送り,10 月頃になる と着底を始めるためだと考えられる.海水に運ば れてきた幼生は 2 つの station で同時期に定着し て い な い か も し れ な い が 調 査 区 の station E・ station F 間には高低差がほとんどないため,正確 な定着時期を知るためには卵紐の確認と 2 mm 未 満の稚貝についてのサイズ構成を詳しく調査する 必要があるだろう.また station F の方が station E よりも肥厚個体が多いことから稚貝の新規加入も 多いと予想されたが,そのような結果は得られな かった.つまり,成熟個体が多い場所=新規加入 が多いということはないと考えられる.これは成 熟個体が各 station で産卵するが,幼生は何らか の影響で違う場所で定着する,または産卵を行う ために成熟個体が違う場所へ移動しているのでは ないかと考えられる. また,本研究では安東・冨山(2002)が調査 したヘナタリのサイズ頻度分布の結果よりも肥厚 個体の割合は少なくなっているのは,本研究の調 査区が安東の調査区よりも下流部であったこと か,肉眼での判別であるため,誤差が生じたと考 Fig. 7.ヘナタリ,ウミニナ,カワアイの Station E と Station F における個体数密度の季節変化.

えられる. 各 station において 2–4 月に 10 mm 以下の非肥 厚個体がピークをつくっているが 5 月以降急激に 減少している.このことから非肥厚個体が成長し,

地盤には付着せず,孵化後は浮遊生活を送るプラ

成熟個体グループに融合されたのではないかと考

ンクトン幼生期を持つことが報告されている(波

えられる.また,本研究では 4 月以降肥厚個体の

部,1965;網尾,1963).したがって,本研究の

増加がみられることより,この時期に肥厚個体が

肉眼で記録したウミニナ・ヘナタリに付着してい

下流部に移動してくるか,2–4 月に稚貝であった

た卵はヘナタリのものではないと考えられる.し

ものが成長したと考えられる.シンガポールでの

かし,卵の付着状況から示唆すると,夏季前に多

成貝は 4–6 月の産卵前に干潟上部へ移動し,産卵

く付着しており夏季を過ぎるころにはなくなって

後の 7–8 月には大部分が死亡する(Vohra, 1970)

いたため夏季に孵化したと考えられる.しかし,

が報告した結果とは一致しなかった.

この卵は何の卵かは詳しく調べないとわからな

4 月以降の各 station において肥厚個体が station

い.年間を通じたサイズ頻度分布の結果より,10

E よりも下流部である station F において肥厚個体

170


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Nature of Kagoshima Vol. 44

が多く出現したという結果は,大きな個体は小さ

以上のことから,ヘナタリは成貝になると干

な個体よりも上部でたくさん出現したという若

潟の上流部へ移動しているという過去の報告は確

松・冨山(2000),干潟の下部にいた若い kor 個

認できなかったため,干潟の全ての成貝のヘナタ

体の多くは,成長すると干潟の上部移動する傾向

リが上流部へ移動しているとしか考えられないこ

にあるという安東・冨山(2002)の報告とは一致

とが明らかになった.

しなかった.これは,本研究において調査地が高

ヘナタリは絶滅危惧種とされているが(和田

低差の見られない調査区であったことと,狭い干

ほか,1996;山本・和田,1999),本研究の調査

潟内での他種とのすみわけ,調査地の底質がヘナ

区である愛宕川下流の干潟では各 station におい

タリの好む泥地で station によるちがいがあまり

て出現個体数は多く,稚貝の新規加入による世代

なかったからだと考えられる.サイズ頻度分布よ

交代も確認することができた.今回設置した調査

り肥厚個体のサイズが各 station とも 15–20 mm で

区以外の場所でも出現率は高く,ヘナタリは喜入

成長がみられなかったことより,成熟個体は 20

の干潟の生態系の中で重要な位置を占めていると

mm で成長がとまると考えられる.

考えられる.今後ヘナタリの生態を詳しく明らか

また,下夏季を過ぎる頃からヘナタリ・ウミ

にしていくことは,河口干潟の環境指標生物とし

ニナにおいて各調査区での密度変化の平均値に減

てのヘナタリの保全と,ヘナタリが生息できる環

少の傾向がみられた.Station E では 11 月にわず

境の保全につながるだろう.

かに増加したが,やはり 12 月には減少していた. また station F においても 6 月から減少している. この結果より,ヘナタリは各 station から稚貝,

謝辞 本研究の調査をするにあたり,武内有加さん,

成貝にかかわらず 6 月以降減少している.サイズ

原口由子さん,前島信行さん,堀ノ内甲市さん,

頻度分布の結果より成貝のめだった減少がみられ

古川洸太郎さん(以上,鹿児島大学理学部),後

ないのに密度が減少していることより,全体的に

藤隆介さん,渡邊賢作さん(以上,鹿児島大学工

何らかの理由で移動している,種内での競争がお

学部),福山みなさん(鹿児島大学教育学部),お

きている,また他種による捕食がおきていると考

よび,倉地真児さん(鹿児島大学農学部)には喜

えられる.

入に同行いただいた.また,鹿児島大学理学部地

ω 指数の結果から,ヘナタリとウミニナは年間

球環境科の鈴木英治氏ほかの先生方に調査や論文

を通じてマイナスを示す月が少なかったことよ

作成にあたりたくさんの助言をいただきましたこ

り,2 種間で排他的な傾向は確認できず,種間競

とを心より感謝いたします.本稿の作成に関して

争は起きていない(安東,2002)と一致する.ヘ

は,日本学術振興会科学研究費助成金の,平成

ナタリとウミニナに対してウミニナとカワアイ,

26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生態

ヘナタリとカワアイは年間を通じて大きな変化は

系における水陸境界域の生物多様性の研究」

ないが,排他的な傾向がみられたことより,それ

26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研究(C)一

ぞれの種で季節的な移動をもたらすのは底質選好

般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系に

性以外の要因が関係しているのではないかと考え

与える影響」15K00624・平成 27–29 年度特別経

られる.また,Vohra (1970) は,ヘナタリは中潮

費 ( プロジェクト分 ) -地域貢献機能の充実-「薩

位から低潮位にかけて多く分布することを報告し

南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究

ている.これらの報告と今回求めた ω 指数の結

拠点整備」,および,2017 年度鹿児島大学学長裁

果より,カワアイとヘナタリは同じ干潟内の上部

量経費,以上の研究助成金の一部を使用させて頂

と中部以下にすみわけを行うことで,同所的生息

きました.以上,御礼申し上げます.

を可能にしている(安東・冨山,2002)と一致し た.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

引用文献 Adachi, N & Wada, K. 1999. Distribution in relation to life history in the direct-developing gastropod Batillaria cumingi (Batillariidae) on two shores of contrasting substrate.Journal of Molluscan Studies, 65: 275–287. 安東美穂・冨山清升.2002.マングローブ林におけるヘナ タリ(複足網:フトヘナタリ科)のサイズ分布の季節 変化.Venus, 63 (3-4): 145–151. 網尾 勝.1963.海産腹足類の比較発生学ならびに生態学 的研究.水産大学校研究報告,12: 15–144. 風呂田利夫.2000.内湾の貝類,絶滅と保全-東京湾の ウミニナ類衰退からの考察-.月刊海洋/号外,20: 74–82. 波部忠重.1955.カワアイとフトヘナタリの産卵.Venus, 18 (3): 204–205. Iwao, S. 1977. Analysis of spatial association between two species based on the interspecies mean crowding. Researches on Population Ecology, 18 (2): 243–260.

172

RESEARCH ARTICLES 真木英子・大滝陽美・冨山清升.2002.ウミニナ科 1 種と フトヘナタリ科 3 種の分布と底質選好性:特にカワア イを中心にして.Venus, 61: 61–76. 奥 谷 喬 司( 編 著 ).2000. 日 本 近 海 産 貝 類 図 鑑:pp. 132– 133.東海大学出版会. Vohra, F. C. 1971. Zonation on a tropical sandy shore. Journal of Animal Ecology, 40: 679–708. 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・ 西川輝昭・五嶋聖治・鈴木孝男・加藤真・島村賢正・ 福 田 宏.1996. 日 本 に お け る 干 潟 海 岸 と そ こ に 生 息する底生生物の現状.WWF Japan Science Report, 3: 5–22. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限マングローブ林周辺 干潟におけるウミニナ類分布の季節変化.Venus, 59: 225–243. 山本百合亜・和田恵次.1999.干潟に生息するウミニナ科 貝類 4 種の分布とその要因.南紀生物,41 (1): 15–22.


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桜島の火山溶岩の転石海岸におけるカヤノミカニモリ Clypeomorus bifasciata (G. B. Sowerby II, 1855) の生活史 吉田稔一・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨

はじめに

鹿児島県の桜島にある溶岩性転石海岸である袴

鹿 児 島 県 の 桜 島 に あ る 袴 腰 海 岸 は, 桜 島 が

腰海岸には,複数の肉食貝類が生息している.そ

1914 年に噴火した時に噴出した溶岩で覆われて

のなかでもカヤノミカニモリ Clypeomorus bifasci-

いる転石海岸である.この海岸には複数種の海産

ata は普通に見られる種であるが研究対象とされ

肉食性貝類が生息している.そのなかでも,カヤ

た例が無く,その生態はほとんど解明されていな

ノミカニモリ Clypeomorus bifasciata とシマベッコ

い.また,愛媛県では絶滅,沖縄県では準絶滅危

ウ バ イ Japeuthria cingulata が 比 較 的 多 く み ら れ

惧種となっている.本研究ではその生態の解明の

る. 同 調 査 地 で 肉 食 性 貝 類 を 取 り 扱 っ た 鎌 田

第一歩として,カヤノミカニモリの月ごとのサイ

(1999)の論文にはカヤノミカニモリは出てこな

ズ頻度分布と季節ごとの密度分布の季節変動を追

いことから,本種は最近個体数が増加したものと

うことにより,その生活史の解明を試みた.季節

思われる.他にも,調査した年の秋ごろから藻食

ごとの密度調査では 5 月・8 月・10 月・12 月に潮

性 で は あ る が 同 じ 目 の ゴ マ フ ニ ナ Planaxis

間帯の中部と下部(10 月と 12 月は下部のみ)で

sulcatus (Born, 1779) が多く見られるようになって

50 × 50 cm のコドラートをそれぞれ 5 ヶ所置き,

き た. 他 の 転 石 海 岸 で よ く 見 ら れ る イ ボ ニ シ

その中に出現したカヤノミカニモリの個体数と殻

Thais clavigera Kuster, 1860 やイソニナ Japeuthria

高を測定した.この結果,本種は冬に岸側の密度

ferrea Reeve, 1847 は確認できなかった.

が低下し,海側の密度が増加することから,冬に

シマベッコウバイについての研究例としては,

は海側へ移動しているようであった.毎月のサイ

Takada (1999) や Ota & Tokesi (2000),鎌田(2000,

ズ頻度分布調査では,見つけ取りで 2007 年 1 月

2001),大田(2001)によって生息分布や食性と

から 2008 年 1 月の 12 回(2007 年 3 月は欠損)潮

成長が報告されているが,カヤノミカニモリの生

間帯全域で貝を採集し,個体数と殻高を測定した.

態的な研究例はこれまで全く報告が無い.愛媛県

この結果,サイズピークは 21 mm 前後で,他に

のレッドデータブックでは絶滅,沖縄県のレッド

13 mm 前後の小型の個体の集団が秋に確認でき

データブックでは準絶滅危惧種とされているが

た.密度調査の結果と合わせて,受精・産卵は冬

(愛媛県,2003),存在の確認のみで生態的な研究

の時期であることが考えられる. Yoshida, T. and K. Tomiyama. 2018. Life history of Clypeomorus bifasciata (G. B. Sowerby II, 1855) (Cerithiidae) on the lava sea shore, Sakura-jima island, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 173–179. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 28 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-024.pdf

まではされていない.また,Abdul-Salam (1996) では本種に寄生する新種のセルカリア(Cercaria kuwaitae)が記載されているが,本種の生態につ いては触れていない. そこで,本研究では桜島袴腰海岸の潮間帯に おけるカヤノミカニモリの生息状況と季節変動に よる分布の変遷およびそれに影響を与えている要 因を調査するため,月ごとのサイズ頻度分布調査 と季節ごとの密度分布調査を行った.

173


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1.桜島の袴腰大正溶岩海岸潮間帯の調査地周辺地図. 黒丸は調査地の位置を示す.

材料と調査方法 材料 カヤノミカニモリ Clypeomorus bifasciata 腹足綱 前鰓亜綱 盤足目 オニノツノガイ科 分布は,房総半島以南,山口県以南(熱帯イン ド,西太平洋域).殻高 2 cm,殻径 1 cm で太い紡 錘型.黒褐色で螺肋と縦肋が交わりいぼ状になる. 殻はやや厚い.転石海岸の石の上や砂地にいるこ とが多い(波部ほか,1994, 1999). 本種は死肉食と捕食による肉食性である.転石 海岸の潮間帯における肉食性貝類の摂餌様式につ いて報告した大田(2001)によると,死体があれ ばそれを利用し,死体供給がなければ自ら他の動 物を捕食する.主要な餌動物はヒメアサリ,イシ ダタミガイ,スガイなどであるとされている.こ こではイソニナとシマベッコウバイについて報告 されているが,本研究の調査地においても上記餌 動物が確認できたことから同じ摂餌様式であると 考えられる. 雌雄異体,もしくは交代的雌雄同体(目の特徴),

Fig. 2.桜島の袴腰大正溶岩海岸潮間帯の調査地各部の様子. 写真上:潮間帯の上部と中部の境界線付近.写真中:潮 間帯の中部と下部の境界線付近.写真下:潮間帯の中上 部と中下部の境界線付近.

産卵様式と初期生活史は卵塊を岩に生みつけ,こ れがベリジャー幼生になり海中で浮遊生活をした

線の間を上部,小潮の満潮線と干潮線の間を中部,

後岩場に定着する.

大潮の干潮線と小潮の干潮線の間を下部とした. 下部の下限は大潮干潮時の海岸線である.上部で

調査地概要

は全く個体が見つからず,二ヶ所では比較できる

桜島 袴腰海岸(31°35′N, 130°36′E)(Fig. 1)

要因が少ないため,中部を二等分し海側から中部

桜島が大正 3 年に噴火したときに溶出した大正 溶岩が基盤となっている転石海岸である. 調査地の潮間帯は,大潮の満潮線と小潮の満潮

174

下,中部上と分けた.各部の境界線は,地面の湿 り具合や転石の大きさ,藻類が生えている様子か ら判断した(Fig. 2).


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Nature of Kagoshima Vol. 44

上部は小石に覆われており,石の層も薄い.中

Fig. 3b から 16 mm が成貝の集団と小型の個体の

部は上部よりも大きな石に覆われていて,場所に

集団の境となっていることが多いため,16 mm 以

よっては石の層が 30 cm 以上になるところもある

下の個体を小型としている.

が,石の下の砂地が見えているほど石の層が薄い

月ごとの成長の度合いを推し量るため,サイズ

ところもある.本研究では石の層が薄いところと

ピークと小型個体の集団に着目して細かく見てみ

砂地を中心に採取し,ここで最も多くの個体が取

ると 1 月では 22 mm の個体が一番多く,小型の

れた.下部では石の層は,ほぼどの層も一様であ

個体はほとんど採取できていない.2 月は 1 月と

り,20–30 cm ほどである.

比べて採取した数は少ないが大きさのばらつきが 増加し,小型の集団が出現する.サイズピークは

調査方法 サイズ頻度分布調査 サイズ頻度分布調査は,

21 mm となっている.4 月では小型の集団がより 多くなり,大型の集団は全体的にサイズが大きく

桜島の調査区で 2007 年 1 月から 2008 年 1 月まで

なっているがサイズピークは 21 mm のままであ

の大潮の日中の干潮前後に月に 1 回,計 12 回行っ

る.5 月には小型の集団の個体のサイズが全体的

た.調査区全域にて見つけ取りで 50 個体以上採

に大きくなり,サイズピークも 22 mm になる.6

取し,個体数を記録してノギスで 0.1 mm の単位

月になると小型の集団はほぼ無くなり,サイズ

まで殻高を測定し記録した.3 月は採取に行くこ

ピークは 20 mm まで低下する.7 月になっても目

とができなかったためデータが欠損している.基

立った小型の集団は確認できず,サイズピークも

本的に採取した貝は今後別の研究に使えるように

そのままである.8 月ではサイズピークは 21 mm

持ち帰って冷凍保存し,調査区には戻していない.

になり,個体のサイズが全体的に大きくなってい

密度分布調査 季節ごとの調査では,5 月,8 月,

る.9 月は 8 月とグラフが良く似た形でサイズピー

10 月,12 月に中部上と中部下と下部でそれぞれ

クも同じであるが,小型の個体がわずかに確認で

5 ヶ所ずつ 50 cm × 50 cm の方形区画を置き,その

きる.10 月になると小型の集団がより明確に出現

中に出現した個体を見つけ取りで採取し,個体数

する.サイズピークは 21 mm のままである.11

を記録してノギスで 0.1 mm の単位まで殻高を測

月では二つの集団がはっきりと別れ,サイズピー

定し記録した.下部では個体が確認できなかった

クは 22 mm になる.12 月に小型の集団は大型の

ため 5 月と 8 月では調査していないが,後から存

集団とほぼひとつになり,サイズピークが 21 mm

在が確認できたため 10 月と 12 月では調査した.

に低下する.2008 年 1 月には小型の集団がまた少

その結果の個体数とサイズの平均,最大値,最小

し増加する.サイズピークは 21 mm のままである.

値をグラフにして比較した.

一年を通して 10 mm 以下の個体は見つけること

結果 サイズ頻度分布調査結果

ができなかった. 密度調査結果

Fig. 3a は横軸を殻高(mm),縦軸を個体数とし

密度調査の結果は Fig. 4 に示しているが,縦軸

て示したグラフである.採取できた個体数が月ご

がそれぞれ個体数,殻高(mm)で,折れ線が平

とにかなり異なるため,個体数を割合に直して比

均値,垂直線の上端が最大値,下端が最小値であ

較しやすくしたものが Fig. 3b である.

る.

この結果,サイズピークは年間を通して 21 mm

本種は 5–20 個体で群れて生息していることが

前後であること,月によっては成貝の集団とは別

多く,コドラートが群れに当たると多く採取でき

に小型の個体の集団が存在することがわかる.こ

たが,そうでないときにはほとんど採取できな

こで言う集団とはグラフ上での集団であり,集

かった.

まって生息しているということではない.また,

中部上では,5 月に全く採取できなかったこと

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Fig. 3a.桜島袴腰大正溶岩海岸の潮間帯におけるカヤノミカニモリのサイズ頻度分布の季節変化.縦軸を個体数で表示.

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Fig. 3b.桜島袴腰大正溶岩海岸の潮間帯におけるカヤノミカニモリのサイズ頻度分布の季節変化.縦軸を個体数の割合で表示.

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Fig. 4.桜島袴腰大正溶岩海岸の潮間帯におけるカヤノミカニモリの個体数密度の季節変化.個体数密度は,50 cm × 50 cm の方 形区内で採集された個体数で表した.

を除けば,8 月,10 月,12 月と冬になるにつれて

出現するが,貝類は冬の間代謝と移動能力が低下

密度が減少している.12 月の調査でも 1 個体も採

して成長できないので,この二つの集団はもとも

取できなかった.中部下では中部上とは対照的に

と同じ時期に発生しており秋に出現したほうの集

5 月,8 月,10 月,12 月と冬になるにつれて密度

団が正常に発生・成長したものと思われる.また,

が増加している.下部では 10 月と 12 月しか調査

密度調査の結果,夏は岸側で密度が高く,冬は海

していないが,12 月に 1 個体見つかっただけで

側の密度が高くなっていたことから,冬になると

あった.

海側へ移動することが示唆された.本種は岩場に

サイズには大きな変化は見られなかったが,サ

卵塊を生みつけ,それが孵化してベリジャー幼生

イズ頻度分布調査の結果と比較すると全体的に小

になりしばらく海中生活をする.これらのことか

さかった.

ら,本種の生殖・産卵時期は冬であることが考え

考察

られる. 10 mm 以下の個体を見つけられなかったことに

サイズ頻度分布の結果において,サイズピーク

は 2 つの可能性が考えられる.まず,定着した稚

が年間を通してほぼ一定であることから,本種の

貝は潮間帯下部の石の層の底や岩の割れ目に入っ

寿命は少なくとも一年以上であることが分かる.

ていた,あるいは,海中で生活しているためと思

殻高 10–16 mm の小型の個体の集団は春と秋に

われる.また,別の考えとして,以下の可能性も

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ある.本種を採取する際半分ほど砂に潜っている

成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生

個体がしばしば見られた.砂を 5 cm ほど掘って

態系における水陸境界域の生物多様性の研究」

目視で探したこともあったが,砂ごと持ち帰りふ

26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研究(C)一

るいにかけてもっと詳しく調査すれば稚貝を見つ

般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系に

けることができたかもしれない.サイズ頻度分布

与える影響」15K00624・平成 27–29 年度特別経費

調査の結果に関しては,このことを除いて,はっ

( プロジェクト分 ) -地域貢献機能の充実-「薩

きりとした二山構成を示していたので信頼できる

南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究

結果であると考えられる. 密度調査の結果に関しては,群れで生活してい ることが多く群れの大きさもさまざまであった. 加えて,あくまで潮間帯の中部の間だけでの移動 なので今回の調査の結果は偶然かもしれない. 最後に本研究とはあまり関係ないが,8 年前の 同調査地の他の論文(鎌田,2000)と比較すると, ウネレイシガイダマシ Cronia margariticola とシマ レイシガイダマシ Morula musiva はほとんどいな くなり,カヤノミカニモリとゴマフニナが増えて きたか,移入している.この生物相の変遷の理由 は明らかではないが,何かしら本調査地の環境に 変化が起こっていると考えられる. 謝辞 本研究の調査をするにあたり,論文作成にあた りご協力いただきました多様性生物学講座の先輩 方心から感謝申し上げます.そして袴腰海岸にと もに出向いて調査をお手伝いいただきました同輩 の皆様に深くお礼申し上げます.本稿の作成に関

拠点整備」,および,2017 年度鹿児島大学学長裁 量経費,以上の研究助成金の一部を使用させて頂 きました.以上,御礼申し上げます. 引用文献 鎌田育江.2000.火山溶岩の転石海岸における肉食性貝類 3 種の生活史と分布について.2000 年 鹿児島大学理学 部生物学科 卒業論文. 大田直友.2001.死体食と捕食 : 肉食性貝類における季節 的な摂餌様式の転換.MRI レポート,2: 16–17. 鎌田育江・野中佐紀・冨山清升.2002.溶岩転石海岸に お け る シ マ ベ ッ コ ウ バ イ の 垂 直 分 布.Venus, 60 (4): 285–294. Jasem Abdul-Salam and Bhaskaran Nair Saralamma Sreelatha. 1996. Studies on Cercariae from Kuwait Bay Ⅶ. Description and Surface Topography of a New Cercaria Kuwaitae Ⅶ. Department of Zoology, University of Kuwait, P. O. Box 5969, Safat, Kuwait 13060. 愛媛県.2003.愛媛県レッドデータブック 愛媛県の絶滅 のおそれのある野生生物.愛媛県県民環境部環境局自 然保護課.447 pp. 波部忠重・奥谷喬司・西脇三郎.1994.軟体動物学概説上巻. サイエンティスト社,東京.273 pp. 波部忠重・奥谷喬司・西脇三郎.1999.軟体動物学概説下巻. サイエンティスト社,東京.321 pp.

しては,日本学術振興会科学研究費助成金の,平

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フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum の生態学的研究 : 異なる環境下における同種の個体群間比較と ω 指数に基づく種間関係の分析 中島貴幸・片野田裕亮・小麦崎彰・轟木直人・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum (A. Adams, 1855) は,東北地方以南,西太平洋各地に分布す るフトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻貝であ り,アシ原やマングローブ林の干潟泥上に生息し ている.鹿児島市喜入町を流れる愛宕川の河口干 潟にはメヒルギ Kandelia candel (L) Druce やハマ ボウ Hibiscus hmabo Sieb. et Zucc. からなるマング ローブ林が広がっており,周辺の干潟泥上にはフ トヘナタリが生息している.また,鹿児島市谷山 を流れる永田川の河口域は,喜入の環境とは異な り,中礫の転石河岸となっており,植生はなく, コンクリート護岸で囲まれているが,河岸上には フトヘナタリが生息している.本研究では,この 異なる環境において,フトヘナタリのサイズ頻度 分布の季節的変化や生息密度を調査して生態学的 比較を行うとともに,喜入ではフトヘナタリとウ ミニナの種間関係についても調査した. まず,2006 年 2 月~ 2007 年 1 月の期間に毎月 1 回,大潮から中潮の日の干潮時に,各調査地に おいて,フトヘナタリをランダムに 100 個体以上 採取し,殻幅を記録した.その結果,喜入調査地 では,2 mm 前後の稚貝が 9 月頃に出現すること Nakashima, T., Y. Katanoda, A. Komugizaki, N. Todoroki and K. Tomiyama. 2018. Ecological studies of Cerithidea rhizophorarum based on intraspecific variation of life history, and coexistence relations with the other species based on ω-index on the mangrove tidal flat, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 181–187. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 28 Feb. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-025.pdf

から,この時期に新規加入が起こっていることが わかった.また 9 月に新規加入した個体は,冬に かけて 3–6 mm に成長し,春から初夏にかけて 10 mm 前後に成長することがわかった.谷山調査地 でも,喜入調査地と同様の結果が得られ,この 2 つの地域のフトヘナタリの繁殖時期,新規加入時 期,成長パターンはほぼ同じであると考えられる. 生息密度調査は 2006 年 12 月に行った.各調 査地において,50 × 50 cm 区画をランダムに 20 区画用意し,区画内のフトヘナタリの出現個体数 を記録した.その結果,谷山調査地よりも喜入調 査地のほうが平均密度が高いという結果が得られ た.この密度効果が各調査地において個体成長に 影響を与えているものと考えられる. フトヘナタリとウミニナの種間関係調査は, 2006 年 2 月~ 2007 年 1 月の期間に毎月 1 回行っ た.喜入調査地において 50 × 50 cm 区画をランダ ムに 10 区画用意し,区画内のフトヘナタリとウ ミニナの個体数を記録し,それをもとに ω 指数 から同所的生息の程度を求めた.その結果,フト ヘナタリとウミニナは排他的な分布ではないこと がわかり,この 2 種は,餌の種類や餌のサイズを 異にすることにより,同所的に生息しているもの と考えられる. はじめに フトヘナタリは東北地方以南,西太平洋各地 に分布するフトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻 貝であり,アシ原やマングローブ林の泥上に生息 している.鹿児島市喜入町を流れる愛宕川河口域 の干潟には,小規模ながらメヒルギやハマボウの 樹種を主とするマングローブが形成されており, ウ ミ ニ ナ 科 の ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) と,フトヘナタリ科のフトヘナタ

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Fig. 1a.フトヘナタリ C. rhizophorarum の標本写真.稚貝(左) から成貝(右)へ並べたもの. Fig. 2.調査地の概要.鹿児島市谷山の永田川河口干潟,お よび鹿児島市喜入町愛宕川河口干潟.

にフトヘナタリは高潮位にその分布が偏ることを 示した.また,フトヘナタリ,ウミニナ,カワア イ, ヘ ナ タ リ, コ ゲ ツ ノ ブ エ ガ イ Clypeomorus coralium (Kiener, 1834) の 5 種の垂直分布に関して Fig. 1b.フトヘナタリ C. rhizophorarum の殻の色彩変異.左: 通常型個体,右:白色型個体.

大滝(2001)によって報告され,フトヘナタリの 木登り行動に関して大滝(2002),武内・冨山(2005) によって報告されている.サイズ分布の季節変動

リ, カ ワ ア イ Cerithidea diadjariensis (K. Martin,

に関しては,愛宕川の河口干潟において若松・冨

1899), ヘ ナ タ リ Cerithidea cingulate (Gmelin,

山(2000),武内・冨山(2005)によって報告さ

1791) の 4 種が同所的に生息している.ウミニナ

れているが,稚貝が新規加入する時期の特定が不

科とフトヘナタリ科の貝類は汽水域の砂泥底ない

十分で,新規加入が見られる年とそうでない年が

し泥上に生息しており,日本の干潟では普通に見

あるとされている.また,鹿児島県内における愛

られる巻貝である(奥谷,2000).

宕川以外でのサイズ分布の季節変動は報告されて

フトヘナタリの生態に関してはいくつかの研

おらず,異なる環境において同種の生活史が同じ

究例がある.波部(1995)は岡山県笠原市の潮間

であるかどうかは定かではない.そこで,本研究

帯における本種の産卵様式について報告してい

では愛宕川河口干潟におけるフトヘナタリの生活

る.また,フトヘナタリ,ウミニナ,ホソウミニ

史についてさらに調査を進めるとともに,鹿児島

ナ Batillaria cumingi (Crosse,1862), ヘ ナ タ リ の 4

市谷山を流れる永田川河口域の転石河岸をもう一

種について対塩性,低湿選好性,干出選好性の観

つの調査対象地とし,そこに生息するフトヘナタ

点からの分布について山本・和田(1999)によっ

リの生活史についても調査し,異なる環境におけ

て詳しい考察が行われた.

る同種の比較を行ったものである.また,潮間帯

Wells (1983) は,香港のマングローブ林に生息

に生息するフトヘナタリ,ウミニナ,カワアイ,

するウミニナ科・フトヘナタリ科の 6 種フトヘナ

ヘナタリの 4 種のウミニナ類に関して,カワアイ

タリ,カワアイ,ヘナタリ,ウミニナ,イボウミ

とヘナタリは低潮帯に,フトヘナタリは高潮帯に,

ニナ Batillaria zonalis (Bruguiere, 1792),マドモチ

ウミニナは低潮帯から高潮帯にまで見られる.そ

ウミニナ Terebralia sulcata (Born, 1778) の分布と

こで,フトヘナタリと同所的に生息するウミニナ

生息環境との関係を考察するとともに,フトヘナ

との 2 種の種間関係についても調査を行う.

タリがマングローブの樹上に粘液で付着し,さら

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調査地と方法 調査区の設置 調査地は,鹿児島市喜入町を流れる愛宕川の 支流の河口干潟(31°23′N, 130°33′E)と,鹿児島 市谷山を流れる永田川河口域の河岸(31°31′N, 130°31′E)で行った(Fig. 2). 愛宕川は鹿児島湾の日石石油基地の内側に河 口があり,この河口部で八幡川と合流している. 干潟周辺にはメヒルギやハマボウからなるマング ローブ林が広がっており,太平洋域における北限 のマングローブ林とされている.調査地周辺の干 潟上には,ウミニナ科のウミニナ,フトヘナタリ 科のカワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリの 4 種の ウミニナ類が生息している.本調査では,愛宕川 河口の支流にある干潟において,マングローブ林 の端から 20 m ほど離れたところで,満潮線から 支流までの水平距離が約 9 m,高低差が 150 cm の Line 沿いを調査地とした.底質は砂泥である. 永田川の河口域は,中礫の転石河岸となって おり,植生は無く,周りを護岸コンクリートで囲 まれている.調査地周辺の河岸上には,ウミニナ, フトヘナタリの 2 種のウミニナ類しか生息してい ない.本調査では,鹿児島情報高校の下に位置す る河岸を下流に 200 m ほど下り,満潮線から川ま

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集した貝は,計測後,採集した調査地内に放した. 生息密度調査 2006 年 12 月に 1 回,各調査地において,50 × 50 cm 区画をランダムに 20 区画用意し,区画内 の目視可能なフトヘナタリの出現個体数を記録し た.殻幅が 1 mm に満たない個体は,調査地での 目視では同定が不可能のため調査対象から外し た.採集した貝は,計測後,採集した調査地内に 放した. フトヘナタリとウミニナの種間関係調査 2006 年 2 月~ 2007 年 1 月の期間に毎月 1 回, 喜入干潟において 50 × 50 cm 区画をランダムに 10 区画用意し,区画内の目視可能なフトヘナタ リとウミニナの個体数を記録した.殻幅が 1 mm に満たない個体は,調査地での目視では同定が不 可能のため調査対象から外した.採集した貝は, 計測後,採集した調査地内に放した.月ごとにフ トヘナタリとウミニナの分布がどのように変化す るのかを調べるため,各月の各種個体数を用いて ω 指数(Iwao, 1977)を求めた.ω 指数は 2 種間 の独立的分布に対する相対的な分布の重なり度の 尺度であり,次式で表される.

での水平距離が約 15 m,高低差が 150 cm の Line 沿いを調査地とした. サイズ分布の定期調査 2006 年 2 月~ 2007 年 1 月の期間に毎月1回, 大潮から中潮の日の干潮時に,各調査地において, 目視可能なフトヘナタリをランダムに 100 個体以 上採取し,殻幅(mm)を,ノギスを用いて 0.1 mm 単位まで計測して記録した.フトヘナタリは 成貝になると殻頂部が失われることが多いため殻 幅を記録する.大滝(2001)の調査では,フトヘ ナタリはサイズによって同じ Line 内で分布が異 なっていることが示された.そのため,サンプル はできるだけ Line に沿ってランダムに採集した. 殻幅が 1 mm に満たない個体は,調査地での目視 では同定が不可能のため調査対象から外した.採

ω は,分布が完全に重なっているとき最大値 1, 独立的分布のとき 0,完全に排他的なとき最小値 ―1 をとる. 種 X と種 Y に属する個体が同一空間に分布す ると仮定する.種Xに対する種Yの平均こみあい 度は であり,種Yに対する種Xの平均こみあい度は ここで,χXj と χYj はそれぞれ j 番目の区画内

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Nature of Kagoshima Vol. 44

の種Xと種Yの個体数であり,

る.

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は総区画数であ

個々の種内の平均こみあい度が次式 と で表されるとき,種Xに対する種Xと種Y両種 の平均こみあい度は となる.同様に種Yに対する種Xと種Y両種の 平均こみあい度は である.もし種Xと種Yの区別をしなければ, 両種を含む全体のこみあい度は

となる.ここで, である. γ は χXj と χYj との間のある種の相関係数と一 致しており,直線関係 χXj = aχYj にどの程度近 いかを示す.

結果 サイズ分布の季節変化 2006 年 2 月~ 2007 年 1 月の各調査地における

Fig. 3.各調査地(鹿児島市谷山の永田川河口干潟,および 鹿児島市喜入町愛宕川河口干潟)におけるフトヘナタリ の殻幅分布の季節変化.

頃からピークを移行させ,6 月頃から 11 mm 前後 のグループに融合を始め,8 月にはグラフの山が 1 つになった.9 月には稚貝の新規加入が起こり,

フトヘナタリのサイズ頻度分布の季節変化を Fig.

2 mm 前後の個体が出現した.この個体はその後

3 に,各調査地におけるフトヘナタリの殻幅サイ

ピークを移行させ,翌年 1 月には 4 mm 前後に成

ズの季節的変動を Fig. 4 に示す.

長した.

谷山では,2006 年 2 月に,わずかではあるが

喜入では,2006 年 2 月に 2 つのグループは確

5 mm 前後にサイズピークを持つグループと 11

認できず,10 mm 前後にサイズピークをもつグ

mm 前後にサイズピークを持つグループの 2 つの

ループのみ確認できたが,3 月から,わずかでは

グループが存在し,5 mm 前後のグループは 4 月

あるが 4 mm 前後の個体が確認でき,2 つのグルー

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Fig. 5.各調査地(鹿児島市谷山の永田川河口干潟,および 鹿児島市喜入町愛宕川河口干潟)におけるフトヘナタリ の平均生息密度.50 × 50 cm の方形区を 20 区画分とり, 出現個体数を数えた値の平均値.

Fig. 4.各調査地(鹿児島市谷山の永田川河口干潟,および 鹿児島市喜入町愛宕川河口干潟)におけるフトヘナタリ の殻幅サイズの季節的変動.

Fig. 6.フトヘナタリとウミニナの 2 種間の ω 指数の季節変 化.

プとなった.4 mm 前後のグループは 4 月頃から ピークを移行させ,6 月頃から 10 mm 前後のグ ループに融合をはじめ,8 月にはグラフの山が 1

の生息密度を Fig. 5 に示す. 20 区画の生息密度の平均が谷山では 8.4 個体,

つになった.9 月には稚貝の新規加入が起こり,

喜入では 20.6 個体と,谷山よりも喜入のほうが

2 mm 前後の個体が出現した.この個体はその後

生息密度が高い.谷山では最大値 14 個体,最小

少しずつピークを移行させ,翌年 1 月には 4 mm

値 3 個体,喜入では最大値 56 個体,最小値 5 個

前後に成長した.

体と,谷山よりも喜入のほうが最大値と最小値の

各調査地とも 6 月から 7 月の調査の時にフト

差が大きく,密度差が大きい.

ヘナタリの繁殖行動が確認できた.1 年を通して, 喜入では 10 mm 前後にサイズピークが,谷山で

フトヘナタリとウミニナの種間関係 (ω 指数)

は 11 mm 前後にサイズピークが多く,Fig. 4 から

2 種間の ω 指数の季節変化を Fig. 6 に示す.ω

もわかるように,喜入よりも谷山ほうが平均個体

指数は,年間を通して変動が激しく明確な傾向は

サイズ大きい.

見られなかったが,0 に近い値,または 0 以上の 値をとる月が多く,両者の分布は独立的,または

生息密度

重なる傾向にあった.

2006 年 12 月の各調査地におけるフトヘナタリ

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Nature of Kagoshima Vol. 44

考察 喜入調査地におけるフトヘナタリのサイズ分 布の季節変動に関して.本研究では,2 mm 前後 の個体が 2006 年 9 月より見られ始め,フトヘナ タリの稚貝が 9 月頃から新規加入することが明ら かになり,武内・冨山(2005)の報告と同様であっ た.またそれらの個体は 2–7 月にかけて 10 mm 前後の個体に成長することが明らかになった.9 月に新規加入した稚貝は冬にかけて 3–6 mm に成 長し,春から初夏にかけて 10 mm 前後になるも のと推定できる. 谷山調査地におけるフトヘナタリのサイズ分 布の季節変動に関しても,2006 年 2 月には稚貝 グループが見られなかったものの,3 月以降喜入 とほぼ同じパターンでグラフの移行が進んでいる ことにより,谷山と喜入のフトヘナタリの繁殖時 期,新規個体の加入時期や成長パターンはほぼ同 じであると考えられる. また,武内・冨山(2005)の報告では,2001 年 9 月の新規加入個体数に比べて,2002 年 9 月 の新規加入個体数は少なく,新規加入が見られる 年と,そうでない年があるとしているが,本研究 でも新規加入個体数は少なく,やはり新規加入の 見られる年と,そうでない年があると考えられ, また,新規加入の個体が年々減少しているとも考 えられる.これらの理由として,新規加入が年に よって異なる場所で行われているのか,それとも 幼貝の定着自体が減少している可能性が考えられ る.前者の仮説については,今後調査地を増やし て季節変動を調査することが必要である.後者の 仮説については,大滝ほか(2001)によって,有 機スズ剤汚染,いわゆる環境ホルモンによって引 き起こされるインポセックスによる繁殖力の低下 や,生息域と定着場所の汚染による幼生や幼貝の 高死亡率の可能性があげられている.インポセッ クスとは,巻貝の雌に雄の生殖器と輸精管が形成 されて発達し,卵形成阻害や輸卵管の入り口が閉 塞され,産卵できなくなる一連の症状を指す.愛 宕川調査地においては,武内・冨山(2005)の交 尾頻度調査によって有機スズ剤の汚染の可能性は

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支持されるかもしれないとしており,今後の追跡 調査が必要である. 殻幅サイズの季節的変動において,喜入より も谷山のほうが一年を通して平均個体サイズが大 きかったことは,谷山よりも喜入のほうが高密度 で生息しているという生息密度調査の結果によ り,餌や生息場所など競争の少ない谷山のほうが 個体成長に優位であり,密度効果が個体サイズに 影響を与えているものと説明できる.また,植生 のない転石河岸の谷山調査地よりも,周辺にマン グローブ林やアシ原もある泥干潟の喜入調査地の ほうが栄養的にも優位なのであると考えられ,小 型個体が生存していく上でも非常に適した環境だ と考えられる.このため,小型~中型個体の多い 喜入調査地のほうが平均個体サイズが低く,生息 密度も高くなったと考えられる.これらは,調査 地砂泥中の有機物量,植物由来の有機物量,天敵 の有無など,詳しい調査がなされていないことな どからはっきりとは言いきれない.今後詳しい調 査が必要である. ω 指数により,フトヘナタリとウミニナは年間 を通して排他的な分布をすることはなく,2 種間 の種間競争は起きていないと考えられる.2 種は, 餌の種類,餌のサイズを異にすることにより,同 所的に生息しているものと考えられる. フトヘナタリ,ウミニナ,ヘナタリ,カワア イの 4 種のウミニナ類の分布を比較したとき,谷 山調査地では,フトヘナタリとウミニナの二種し か確認できていないのに対し,喜入調査地ではフ トヘナタリとウミニナの他,ヘナタリやカワアイ の全種が生存している.武内・冨山(2005)によ れば,ウミニナ類の鹿児島県における分布調査に よってウミニナが随所で大量に見られ,カワアイ は愛宕川以外で見られず,フトヘナタリやヘナタ リがウミニナほど多く確認されなかったことか ら,ウミニナは環境に対応する力が他の種に比べ て優れており,反対にカワアイについては環境を より選択する種であるとしている.よってこの 4 種全てが生存できている愛宕川マングローブ林は 生態学的にも重要な位置を占め,太平洋北限のマ ングローブ林とされている非常に珍しい場所であ


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る.しかし,国道の拡張工事による破壊や,船舶

研究(A)一般「亜熱帯島嶼生態系における水陸

から流出する油や汚染物質などにより,環境が悪

境界域の生物多様性の研究」26241027-0001・平

化している.また,谷山永田川は,大型工業団地

成 27–29 年度基盤研究(C)一般「島嶼における

等の開発による取水のため水量が減り,さらに,

外来種陸産貝類の固有生態系に与える影響」

粗大ゴミの不法投棄や生活排水による汚染によ

15K00624・平成 27–29 年度特別経費(プロジェ

り,環境の悪化が問題となっている.しかしなが

クト分)-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生

ら,こういった状況を前に,鹿児島情報高校の生

物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」,

徒による昭和 61 年から続く「永田川クリーン作

および,2017 年度鹿児島大学学長裁量経費,以

戦」と称したボランティア活動など,地域住民の

上の研究助成金の一部を使用させて頂きました.

環境に対する意識が無いわけではなく,こうした

以上,御礼申し上げます.

地道で持続的な保護措置は重要である.こうした 活動が広がり,我々の身近なところに浸透して, さらに地域住民の環境保護への意識向上となって いくことを期待したい. 本研究における喜入愛宕川と谷山永田川とい うような全く異なる環境においても,フトヘナタ リは必死にその環境に適応し,生存している.我々 人間による身勝手な汚染行為により多大な害を被 り,生命を脅かされている生物たちがいることを 忘れてはならない. 謝辞 本研究の調査をするにあたり,論文作成にあ たりご協力いただきました多様性生物学講座の先 輩方心から感謝申し上げます.また ω 指数につ いてご指導して頂いた鹿児島大学理学部鈴木英治 先生に厚くお礼申し上げます.ご多忙の中,共に 調査していただいた冨山研究室の皆様方に心から お礼申し上げます.また,論文作成にあたり助言 をいただいた小野田剛,長野 徹,鈴鹿達二郎, 小長井利彦,武内有加,宮澤絵理子の各氏,助言 や励ましを頂いた生態学研究室の皆様に深く感謝 申し上げます.本稿の作成に関しては,日本学術 振興会科学研究費助成金の,平成 26–29 年度基盤

引用文献 安藤美穂・冨山清升.2005.マングローブ干潟におけるヘ ナタリのサイズ分布の季節変化.鹿児島大学大学院理 工学研究科地球環境科学専攻修士論文. 波部忠重.1955.カワアイとフトヘナタリの産卵.Venus, 8 (3): 204–205. Iwao, S. 1977. Analysis of spatial association between two species based on the interspecies mean crowding. Researches on Population Ecology, 18 (2): 243–260. 河野尚美・冨山清升.2004.鹿児島湾におけるヒメウズラ タマキビガイの生息地による生活史の違い.鹿児島大 学理学部地球環境科学科卒業論文. 奥 谷 喬 司( 編 著 ).2000. 日 本 近 海 産 貝 類 図 鑑:pp. 132– 133.東海大学出版会. 小野田剛・冨山清升.2004.同所的に生息する淡水巻貝 2 種の種間関係とイシマキガイの生活史.鹿児島大学大 学院理工学研究科地球環境科学専攻修士論文. 大滝陽美・真木英子・冨山清升.2001.フトヘナタリの分 布の季節変化と繁殖行動.Venus, 60 (3): 199–210. 武内麻矢・冨山清升.2005.鹿児島県喜入干潟におけるフ トヘナタリの生活史及びウミニナ類の鹿児島県内にお ける分布.鹿児島大学理学部地球環境科学科卒業論文. Wells, F. E. 1983. The Potamididae (Mollusca: Gastropoda) of Hong Kong, with an examination of habitat segregation in a small mangrove system. In: B. Morton and D. Dudgen (eds.) Proceeding of the Second International Workshop on the Malacofauna of Hong Kong and Southern China, Hong Kong, 1983, pp. 140–154. Hong Kong University Press, Hong Kong. 山本百合亜・和田恵次.1999.干潟に生息するウミニナ科 貝類 4 種の分布とその要因.南紀生物 , 41: 15–22.

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鹿児島県喜入町のマングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithidea cingulata (Gmelin, 1791) の生活史と ω 指数に基づく種間関係の分析 片野田裕亮・中島貴幸・小麦崎 彰・轟木直人・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 ヘ ナ タ リ Cerithdea cingulata (Gmelin, 1790) は, 潮間帯や内湾の干潟などの汽水域に生息する巻貝 である.本研究では,ヘナタリのサイズ頻度分布 の季節変化を調査し,生活史を明らかにすること を目的とした.また,同所に生息するウミニナ, カワアイとの種間関係の調査及び,3 種の個体密 度の調査を行なった.ヘナタリの殻は高い円錐形 をしており,殻高は 2–3 cm.殻口が大きく外側に 広がり,前端は水管溝をこえて伸びるのが特徴で ある.また,ある程度殻が成長すると,殻口が肥 厚反転して,本種独特の殻口形態となる.調査は 鹿児島県鹿児島市喜入町を流れる愛宕川 (23°23′N,130°33′E)の河口干潟で行なった.調 査地は,マングローブ林の植生がないところから 愛宕川の下流に向かいそれぞれ station E,station F を約 20 m の間隔を空けて設置した.2006 年 1–12 月の期間に毎月 1 回,大潮または中潮の日の干潮 時に調査区内の個体採集を行った.各 station E と station F に 3 つ設置した 50 × 50 cm のコドラート 内の砂泥を約 2 cm の深さまで掘り,掘りあげた 砂泥を 1.5 mm のふるいで洗い流し,残ったもの をサンプルとして研究室に持ち帰った.その後, 各コドラートに含まれるヘナタリ,ウミニナ,カ Katanoda, Y., T. Nakashima, A. Komugizaki, N. Todoroki and K. Tomiyama. 2018. Life history of Cerithidea rhizophorarum and coexistence relations with the other species based on ω-index on the mangrove tidal flat, Kiire, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 189–199. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 9 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-026.pdf

ワアイを肉眼で分類し,種ごとに出現個体数を記 録した.また,ヘナタリについては殻幅を,ノギ スを用いて 0.1 mm 単位まで計測して記録し,肥 厚個体と非肥厚個体の区別も記録した.サイズ頻 度分布の季節変化の結果から,各 station において 9–10 月に 2 mm 未満の個体の新規加入がみられた. また,各 station とも 2–7 月に 7.0 mm 未満の稚貝 グループにサイズピークがあるが,夏季を過ぎる 頃から成貝のグループに融合されていった.ω 指 数の結果は,ヘナタリ-ウミニナが各 station とも に年間を通してほとんどの月でプラスの値を示し たのに対して,ヘナタリ-カワアイ,ウミニナ- カワアイは各 station ともに年間を通してほとんど の月で 0 に近い値を示した.密度変化の結果は, ヘナタリとカワアイは station E よりも station F の ほうが密度が高く,ウミニナは station F よりも station E のほうが密度が高くなっていた.サイズ 頻度分布の季節変化の結果より,各 station でのヘ ナタリは,2–7 月にかけて 2 年前に新規加入した 個体が成貝へと成長し,9–10 月に成貝が産んだ卵 から孵化した稚貝の新規加入がみられることがわ かった.また,ω 指数の結果より,ヘナタリ・ウ ミニナ・カワアイは互いに排他的な傾向はみられ ず,種間競争は起きていないと考えられる.また, 密度変化の結果より,ヘナタリとウミニナとカワ アイの分布は重なってはいるが,ヘナタリとカワ アイが干潟の下部を好み,ウミニナが干潟の上部 を好んで分布していると考えられる. はじめに ヘナタリ Cerithdea cingulata (Gmelin, 1790) は, フトヘナタリ科に属する巻貝で,おもに淡水の影 響する内湾干潟の砂泥の底床にウミニナ類ととも に棲息する(Fig. 1).南方ではマングローブ周辺

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Fig. 1.調査地で採集されたヘナタリの標本写真.左:殻口 が肥厚した成熟個体,右:殻口が肥厚していない未成熟 個体.

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Fig. 3.調査地の地図.鹿児島県鹿児島市喜入町を流れる愛 宕川河口のマングローブ干潟.

的生息を可能にする要因として,干潟底質による 微小生息域の違いを挙げている.以上のような先 行研究の例から判るように,ヘナタリの生活史は 生息地によって大きな違いがあることが明らかで ある.ヘナタリは生活環境によって生活史が大き く異なっている可能性もある.しかし,ヘナタリ に関して,稚貝の新規加入時期等の個体数の季節 変動を 1 年間通して複数ヶ所で比較する研究は安 藤(2005)が 3 年間と平田(2006)が 1 年間行なっ Fig. 2.調査地で採集されたウミニナとカワアイの標本.左: ウミニナ,右:カワアイ.

たのみである. そこで,本研究では,安藤(2005)の研究場 所よりも下流部において 2 ヶ所を調査区に決定 し,季節的な個体数変動を追って行なった平田

の砂泥地などに多産するが,内地では減少傾向に

(2006)の追跡調査を行なった.他のウミニナ類

ある.ヘナタリの生活史については,フィリピン

との種間関係を調べるため,同所的生息の程度を

において,孵化したベリジャー幼生が約 2 週間自

ω 指数から推定し,変動を比較した.また,ヘナ

由浮遊したのち定着すること(Lantin-Olaguer and

タリ・ウミニナ・カワアイ各種の季節的な密度変

Bagarinao, 2001),岡山県の観察では 7–8 月に産

動の調査を行なった.

卵が行なわれていること(波部,1955),シンガポー ルでは夏に新規加入が起こり,成貝は産卵後に死

材料と方法

亡すること(Vohra, 1970)が報告されている.ま

材料 ヘナタリは,国外ではインド洋・西太

た,鹿児島県では 5 月以降上流部の個体が下流部

平洋,国内では房総半島以南・四国・九州に生息

に移動すること(若松・冨山,2000)や,産卵に

し,県内では鹿児島湾・種子島・奄美大島などの

要する時間や卵の形状・産卵後の状態,孵化幼生

内湾の干潟や河口干潟に生息している.南方では

の形態についての報告がある(網尾,1963).さ

マングローブ林周辺の砂泥地などに多産する.殻

らにヘナタリは粒子の細かい泥地に対する選好性

は高い円錐形をしており,殻高は 2–3 cm.殻口

が あり(山本・和田,1999;真木ほか,2002),

が大きく外側に広がり,前端は水管溝をこえて伸

水はけのよい泥地を回避すること(Vohra, 1970)

びるのが特徴である.また,ある程度殻が成長す

が報告されている.真木ほか(2002)はヘナタリ

ると,殻口が肥厚反転して,本種独特の殻口形態

を含むウミニナ科・フトヘナタリ科腹足類の同所

となる.ヘナタリは,絶滅・絶滅寸前・危険・希

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少・普通・状況不明というランク分けの中で,今

持ち帰り冷凍保存した.その後,各コドラート内

すぐ絶滅に瀕するというわけではないが,現状で

に含まれるヘナタリ,ウミニナ,カワアイを肉眼

は確実に絶滅の方向へ向かっていると判断される

と顕微鏡で分類し,出現個体数を記録した.さら

危険に位置づけられている(和田ほか,1996)ほ

に,ヘナタリについてのみ殻幅をノギスで 0.1

か,鹿児島県レッドデータブックでは,現時点で

mm 単位まで計測し,記録した本研究で調査対象

の絶滅危険度は小さいが,生息・生育状況の推移

としたヘナタリは,殻頂が欠けた個体が多いため

からみて,絶滅危惧として上位ランクに移行する

殻高は測定項目から外し,殻幅をもって個体のサ

要素を有すると判断される「準絶滅危惧種」に指

イズとした.ヘナタリは成長すると殻口が大きく

定されており(冨山ほか,2003),各地で急激な

外に広がり,外唇が肥厚反転する.殻幅を計測す

減少や絶滅が報告されている.東京湾では 1980

る際,殻口が肥厚した個体と殻口が肥厚していな

年代に消滅している(風呂田,2000)が,本研究

い個体(以下,肥厚個体,非肥厚個体と呼ぶ)の

の調査地には多数生息している.

区別も記録した.また,月ごとにヘナタリ,ウミ

調査地 調査は鹿児島県鹿児島市喜入町を流

ニナ,カワアイの分布の重なり度がどのように変

れる愛宕川の河口干潟(23°23′N, 130°33′E)で行

化するのかを調べるため,各月の個体数を用いて

なった(Fig. 3) .愛宕川は鹿児島湾の日石原油基

ω 指数(Iwao, 1977)を求めた.ω 指数は 2 種間

地の内側に河口があり,この河口部で八幡川と合

の独立分布に対する相対的な分布の重なり度の尺

流している.干潟周辺にはメヒルギからなるマン

度であり,次式で表される.

グローブ林が広がっており,太平洋域における北 限のマングローブ林とされている.調査地の周辺 の 干 潟 に は ウ ミ ニ ナ 科 の ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869),フトヘナタリ科のフ ト ヘ ナ タ リ Cerithidea rhizophorarum (A. Adams,

ω は,分布が完全に重なっているとき最大値 1,

1855), ヘ ナ タ リ, カ ワ ア イ Cerithidea djadjari-

独立的分布のとき 0,完全に排他的なとき最小値

ensis (Martin, 1899) のほかに,ヒメカノコ Clithon

―1 をとる.

oualaniensis (Lesson, 1830), ア ラ ム シ ロ

種 X と種 Y に属する個体が同一空間に分布す

Reticunassa festiva (Powy, 1833), コ ゲ ツ ノ ブ エ

ると仮定する.種Xに対する種Yの平均こみあい

Cerithium coralium (Kiener, 1841) などの巻貝が生

度は

息している(Fig. 2).

調査区の設置 調査は,鹿児島県鹿児島市喜入 町を流れる愛宕川の支流の河口干潟で行なった.

であり,種Yに対する種Xの平均こみあい度は

愛宕川は鹿児島湾の日石原油基地の内側に河口が

あり,この河口部で八幡川と合流している.調査 区は,マングローブ林の植生がないところから愛 宕川の下流に向かいそれぞれ station E ,station F を約 20 m の間隔を空けて設置した. 調査方法 2006 年 1 月~ 2006 年 12 月の期間 に毎月 1 回,大潮または中潮の日の干潮時に調査 区内の個体採集を行なった.各 station E と staion

ここで,χXj と χYj はそれぞれ j 番目の区画内 の種Xと種Yの個体数であり,

る.

個々の種内の平均こみあい度が次式

F に 3 つ設置した 50 × 50 cm のコドラート内の砂

泥を深さ 2 cm まで掘り,掘りあげた砂泥を 1.5

mm のふるいで洗い流し,残ったものを研究室に

は総区画数であ

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で表されるとき,種Xに対する種Xと種Y両種 の平均こみあい度は

10–12 月には 1.1–2.0 mm の非肥厚個体にサイズ ピークがある.Station E は年間を通して,夏季に

肥厚個体の割合が高くなっている.

となる.同様に種Yに対する種Xと種Y両種の

肥 厚 個 体 に サ イ ズ ピ ー ク が あ る.1–5 月 に は,

Station F では,1–8 月にかけて 5.1–6.0 mm の非

平均こみあい度は

1.1–2.0 mm の非肥厚個体と 5.1–6.0 mm の非肥厚

個体にサイズピークがある二山型のグラフになっ

である.もし種Xと種Yの区別をしなければ,

以降月をおうごとに減少し,8 月には 6.1–7.0 mm

ているが,1.1–2.0 mm の非肥厚個体の割合は 2 月

両種を含む全体のこみあい度は

にサイズピークがある一山型のグラフになってい

る.1 月以降サイズピークをつくっている 5.1– 6.0mm の非肥厚個体の割合は 3 月以降減少し,8

となる.ここで,

月にはサイズピークが 6.1–7.0 mm の非肥厚個体

へと移行している.9–12 月にかけて新たに 1.1–2.0 mm の非肥厚個体が出現しており,10–12 月には

である.

1.1–2.0 mm の非肥厚個体と 4.1–5.0 mm の非肥厚

γ は χXj と χYj との間のある種の相関係数と一

個体にサイズピークがある.Station F も station E

致しており,直線関係 χXj = aχYj にどの程度近 いかを示す.

と同様,夏季に肥厚個体の割合が高くなっている. 各 station を比較すると,station E が station F よ りも年間を通して肥厚個体の割合が高く,9 月以 降の 1.1–2.0 mm の非肥厚個体の割合が高くなっ ている.

結果

ω 指数 2 種間の ω 指数の季節変化を Fig. 6 に 示す.

サイズ頻度分布の季節変化 2006 年 1 月~ 2006 年 12 月の各 station におけ るヘナタリの殻幅サイズ分布を Figs. 4, 5 に示す.

季節に関すること ヘナタリ — ウミニナ 各 station ともに 1–3 月に

Station E では,1 月には 1.1–2.0 mm の非肥厚個体

かけて減少し,4–5 月にかけて増加する傾向がみ

にサイズピークがあり,2–7 月には 6.1–7.0 mm の

られる.また,各 station ともに 8 月から 10 月に

非肥厚個体にサイズピークがあるが,8–9 月にな

かけて増加し,11 月には減少して 12 月には再び

るとサイズピークが 8.1–9.0 mm の非肥厚個体と

増加する傾向がみられる.Station E は年間を通し

肥厚個体に移行する.1 月には,1.1–2.0 mm の非

てほとんど変化はみられないが,7 月に大きな増

肥厚個体と 6.1–7.0 mm の非肥厚個体にサイズピー

加がみられる.Station F は年間を通して大きな変

クがある二山型のグラフになっているが,1.1–2.0

化がある.3,4,8 月には ω 指数の値が 0 に近く

mm の非肥厚個体は 7 月まで月をおうごとに減少

なっているが,その他の月は ω 指数の値は高く

し,7 月には 6.1–7.0 mm の非肥厚個体にサイズ

なっている.

ピークがある一山型のグラフになっている.8–12

ヘナタリ — カワアイ 各 station ともに ω 指数の

月にかけて新たに 1.1–2.0 mm の非肥厚個体が出

値は 0 に近くなっているが,station F では 1 月と

現しており,9–12 月には 1.1–2.0 mm の非肥厚個

12 月 に ω 指 数 の 値 が 1 に 近 く な っ て い る.

体と 8.1–9.0 mm の非肥厚個体と肥厚個体にサイ

Station E はカワアイの採取個体数が非常に少な

ズピークがある二山型のグラフになっている.

く,ω 指数を算出できない月があったが,算出で

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Fig. 4.2006 年 1 月~ 12 月の Station E におけるヘナタリの殻幅サイズ頻度分布の季節変化.白抜き:非肥厚個体(未成熟個体), 黒塗り:肥厚個体(成熟個体).

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Fig. 5.2006 年 1 月~ 12 月の Station F におけるヘナタリの殻幅サイズ頻度分布の季節変化.白抜き:非肥厚個体(未成熟個体), 黒塗り:肥厚個体(成熟個体).

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Fig. 6.ヘナタリ・ウミニナ・カワアイ 3 種の中でにおける 2 種間の ω 指数の季節変化.四角:Station E,丸:Station F.a: ヘナタリとウミニナの間での ω 指数の季節変化,b: ヘナタリとカワアイの間での ω 指数の季節変化,c: ウミ ニナとカワアイの間での ω 指数の季節変化.

きた月をみると年間を通して ω 指数の値にほと んど変化はみられなかった. カワアイ — ウミニナ 各 station ともに ω 指数の 値は 0 に近くなっているが,station F では 12 月 に ω 指数の値が 1 に近くなっている.Station E は, ヘナタリ-カワアイと同様にカワアイの採取個体 数が非常に少なく,ω 指数を算出できない月が

Fig. 7.各 station における個体数密度の季節変化.個体数は, 50 cm × 50 cm 方形区の中で採集された個体の数.個体数 密度は,方形区の平均値で表した.黒丸が平均値.バー は最大値と最小値を表す.

あったが,算出できた月をみると年間を通して ω 指数の値にほとんど変化はみられなかった.

11–12 月に大きな増加がみられた. ヘナタリ — カワアイ 各 station ともに年間を通

グラフに関すること

してほとんどの月で 0 に近い値を示した.Station

ヘナタリ — ウミニナ 各 station ともに年間を通

E では年間を通して少ししか値の変動がみられな

してほとんどの月でプラスの値を示した.Station

か っ た.Station F で は 1–3 月,9–11 月 に 大 き な

E では 7 月以外の月で少ししか値の変動がみられ

減少がみられ,11 月には大きな増加がみられた.

なかった.Station F では値の変動が激しく,2–3 月,

ウミニナ — カワアイ 各 station ともに年間を通

7–8 月 に 大 き な 減 少 が み ら れ,4–5 月,8–9 月,

してほとんどの月で 0 に近い値を示した.Station

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E では年間を通して少ししか値の変動がみられな

あり,ふるいの目より小さな個体が採取されてい

か っ た.Station F で は 1–4 月,9–11 月 に 大 き な

ない可能性が高い.そのため,実際の着底時期は

減少がみられ,11–12 月に大きな増加がみられた.

9 月よりも若干早いものと考えられる.9–10 月に

密度変化

から孵化したプランクトン幼生が夏の間浮遊生活

見られる新規加入個体は,7–8 月に産出された卵 各 station における個体密度の季節変化を Fig. 7 に示す.

を送り,9–10 月頃になると着底を始めるためだ と考えられる.正確な着底時期を知るためには,

ヘナタリ Station E と F の密度変化は年間を通

卵紐の確認と殻幅 1 mm 未満の稚貝についてのサ

して同調する傾向にある.各 station とも 4 月以

イ ズ 構 成 を 詳 し く 調 査 す る 必 要 が あ る. 平 田

降密度が減少し,8 月以降密度が増加する傾向が

(2006)は,各 station において 10–11 月に新規加

あり,5–9 月に最も密度の低い時期となっている.

入がみられたと報告している.新規加入の時期に

Station E よりも station F のほうが各月の密度が高

ついては,稚貝の着底状況が各年の気候や気温な

くなっている.

どの環境条件によって変化するため,年によって

ウミニナ Station E と station F の密度変化は年

ずれが生じるのではないかと考えられる.

間を通してほぼ同調する傾向にあり,各 station

9 月以降確認される 1.1–2.0 mm の新規加入個

とも 8 月以降密度が増加する傾向がある.Station

体グループは,station E のほうが station F よりも

E で は 3 月 以 降 に 密 度 が 減 少 す る の に 対 し,

割合が高くなっているが,これは産出された卵か

station F では 4 月以降に密度が減少する傾向があ

ら孵化したプランクトン幼生が着底するのが下流

る.1 月以外の各月で station F よりも station E の

である station F よりも上流である station E のほう

ほうが密度が高くなっている.

が早いために,ふるいで採取できるサイズに成長

カ ワ ア イ 11 月 以 外 の 各 月 で station E よ り も

するのが早くなるためではないかと考えられる

station F のほうが密度が高くなっている.Station

が,station E と station F の距離は 20 m 程しか離

E は 1 年を通してほとんど密度変化がみられず,

れておらず,高低差もほとんどないため,偶然

5–7 月にかけて密度の変動が全くみられなかっ

station E のほうが station F よりも新規加入個体の

た.Station F は station E に比べて密度変化が激し

割合が高くなったとも考えられる.幼貝の着底状

く,2,8,12 月に密度が高く,1,4,9,11 月に

況が河川の上流と下流で変化するのかを知るため

密度が低くなっている.各 station における密度

には,もっと距離の離れた調査区を上流と下流に

の季節変化の違いがはっきりみられ,ヘナタリ・

設置し調査する必要がある.

ウミニナとは全く異なる傾向がみられた. 考察 各 station において 1 月に殻幅 1.1–2.0 mm の非

2 月以降 station E では 6.1–7.0 mm の非肥厚個 体グループにサイズピークがあり,station F では 5.1–6.0 mm の非肥厚個体グループにサイズピー クがあるが,ヘナタリは,着底した 2 mm 未満の

肥厚個体グループを確認することができる.この

稚貝が 1 年かけて殻幅 5.0 mm 程度まで成長し,

グループは前年の夏に産卵された卵から孵化し,

さらに 1 年かけて肥厚個体の平均的サイズである

秋に新規加入した稚貝グループであると考えられ

8.0–9.0 mm に成長するという安藤・冨山(2005)

る.このグループのサイズピークは 3 月頃から

の報告より,これらの個体グループは前年に新規

12 月にかけて移行し,12 月には station E で 5.1–6.0

加 入 し た 個 体 グ ル ー プ で あ る と 考 え ら れ る.

mm,station F で 4.1–5.0 mm の非肥厚個体の割合

Station E では,2–7 月に 6.1–7.0 mm の非肥厚個体

が増加しており,稚貝の成長が確認できる.

グループの割合が高くなっているが,8 月には

各 station において 9–10 月に新規加入がみられ

8.1–9.0 mm 以上の非肥厚個体と肥厚個体グルー

た.本研究で使用したふるいの目は約 1.5 mm で

プの割合が高くなっていることから,2–7 月の

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6.1–7.0 mm の非肥厚個体グループの成長が確認

べての月で ω 指数の値が 1 に近くなっているこ

できる.Station F では,1–7 月に 5.1–6.0 mm の非

とから,station E よりも station F のほうがヘナタ

肥厚個体グループの割合が高くなっているが,8

リとウミニナの分布の重なりが大きいと考えられ

月には 6.1–7.0 mm 以上の非肥厚個体と肥厚個体

る.

グループの割合が高くなっていることから,1–7

ヘナタリ-カワアイ,ウミニナ-カワアイは,

月の 5.1–6.0 mm の非肥厚個体グループの成長が

ω 指数が各 station とも年間を通して 0 に近い値

確認できる.

をとっていることから独立分布をしており,2 種

年間を通して station E における肥厚個体の割

間で排他的な傾向はみられず,種間競争は起きて

合が station F における肥厚個体の割合よりも高い

いないと考えられる.ヘナタリ-カワアイ,ウミ

ことから,安藤・冨山(2005)の報告と同様に成

ニナ-カワアイの station F の 12 月の ω 指数の値

長に伴って干潟上部へ分布域を広げるのではない

が 11 月に比べて急激に上昇しているのは,真木

かと考えられる.このことは,ヘナタリの肥厚個

(2002) のカワアイは寒い時期に活動しないという

体が砂地である干潟上部を好み,非肥厚個体は泥

報告から,気温が低いためカワアイの行動が不活

地である干潟下部を好む底質選好性があるという

発になり,たまたま密集していた場所で材料を採

安藤・冨山(2005)の報告からも示唆される.各

取したためだと考えられる.

station ともに,8–9 月に肥厚個体の割合が高くな

ヘナタリは,各 station ともに 8 月以降に密度

り,9 月以降肥厚個体の割合が減少していること

が増加している.この密度増加の時期は,サイズ

か ら,Vohra (1970) の シ ン ガ ポ ー ル で の 成 貝 が

頻度分布で示した 9–10 月に新規個体が加入する

4–6 月の産卵前に干潟上部へ移動し,産卵後の

時期と重なっているため,8 月以降に密度が増加

7–8 月には大部分が死亡するという報告とは,成

しているのは新規個体が加入しているためだと考

貝の干潟上部への移動時期と産卵後の死亡時期に

えられる.このことは,ウミニナにもあてはまる.

2 ヶ月ほどずれがある.本調査地では,産卵後の

ウミニナは春から秋にかけて生殖活動を行なうこ

成貝の死亡は確認されておらず,過去の研究でシ

とが杉原・冨山(2002)や吉田・冨山(2003)の

ンガポールのヘナタリと日本のヘナタリの生活史

調査により示唆されている.また,ヘナタリ,ウ

の違いが示唆されていることから,今回の 2 ヶ月

ミニナともに 6–8 月に密度が低くなっている.ヘ

のずれは生活史の違いによるものだと考えられ

ナタリは,Vohra (1970) によるシンガポールでの

る.

調査により成貝は産卵後に死亡することが報告さ

サイズ頻度分布のデータより,肥厚個体のサ

れている.本調査地でも,成貝が産卵後に死亡し

イズが各 station ともに 10.1–11.0 mm 以上の個体

たために 6–8 月に密度が低くなっている可能性が

がみられなかった.また,安藤(2005)における

考えられるが,過去の研究で,本調査地での成貝

同調査地の上部干潟においても肥厚個体のサイズ

の産卵後の死亡についての報告がないため,この

が 11.0 mm 以上の個体がみられないことにより,

時期に新規加入がなく,寿命により死亡する個体

ヘナタリは 11.0 mm 前後で成長が止まると考えら

が常に存在することにより密度が低くなるなどの

れる.

他の要因も十分に考えられる.ウミニナについて

ω 指数の結果から,ヘナタリ-ウミニナは年間

も,過去に成貝が産卵後に死亡することについて

を通してマイナスを示す月が少なかったことよ

の報告がなく,今回はウミニナについてのサイズ

り,2 種間で排他的な傾向はみられず,種間競争

頻度分布の調査を行なっていないため,成貝が産

は起きていないと考えられ,平田(2005),安藤

卵後に死亡するために密度が低くなっている可能

(2002)の報告と一致する.また,station E では

性も考えられるが,この時期に新規加入がなく,

すべての月で ω 指数の値が 0 に近くなっている

寿命により死亡する個体が常に存在することによ

のに対して,station F では,3,4,8 月を除くす

り密度が低くなるなどの他の要因も十分に考えら

197


Nature of Kagoshima Vol. 44

れる.

RESEARCH ARTICLES

環境科学科冨山研究室,鈴木研究室のみなさんに

今回の調査においては,11–12 月にヘナタリに

調査や論文作成にあたりたくさんの助言をいただ

おいて多くの肥厚個体の死亡が確認できた.これ

きましたことを心より感謝いたします.本稿の作

は,殻頂部分が破損していたため,冬場の餌不足

成に関しては,日本学術振興会科学研究費助成金

による鳥類のヘナタリの捕食行動によるものだと

の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯

考えられるが,冬場に密度の減少がみられないた

島嶼生態系における水陸境界域の生物多様性の研

め,鳥類の捕食による個体数の減少量よりも新規

究」26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研究(C)

加入による個体数の増加量のほうが多いのではな

一般「島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系

いかと考えられる.

に与える影響」15K00624・平成 27–29 年度特別

ヘナタリとカワアイは,station E よりも station

経費 ( プロジェクト分 ) -地域貢献機能の充実-

F の 密 度 が 高 く, ウ ミ ニ ナ は station F よ り も

「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育

station E の密度が高いことから,ヘナタリとウミ

研究拠点整備」,および,2017 年度鹿児島大学学

ニナとカワアイの分布は重なってはいるが,ヘナ

長裁量経費,以上の研究助成金の一部を使用させ

タリとカワアイが干潟の下部を好み,ウミニナが

て頂きました.以上,御礼申し上げます.

干潟の上部を好んで分布していると考えられる. ヘナタリ,カワアイに比べ,ウミニナの淡水耐性 が高いことが若松・冨山(2000)の塩分濃度変化 耐性の調査で報告されていることからも,ヘナタ リとカワアイが干潟の下部を好み,ウミニナが干 潟の上部を好むことが確認できる. ヘナタリは,危険種とされている(和田ほか, 1996)が,本研究の調査地である愛宕川河口のマ ングローブ干潟ではどの station においても出現 個体数は多く,稚貝の新規加入における世代交代 も確認することができた.今回設置した調査区以 外の場所でも出現率は高く,ヘナタリは喜入のマ ングローブ干潟の生態系の中で,重要な位置を占 めていると考えられる.今後ヘナタリの生態を詳 しく明らかにしていくことは,河口干潟の環境指 標生物としてのヘナタリの保全と,ヘナタリが生 息できる環境の保全に繋がるだろう. 謝辞 本研究の調査をするにあたり,論文作成にあ たりご協力いただきました多様性生物学講座の先 輩方心から感謝申し上げます.ご多忙の中,共に 調査していただいた冨山研究室の皆様方に心から お礼申し上げます.また,鹿児島大学理学部地球 環境科学科の鈴木英治先生をはじめ,ほかの先生 方や鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学 専攻冨山研究室の先輩方,鹿児島大学理学部地球

198

引用文献 Adachi, N and Wada, K. 1999. Distribution in relation to life history in the direct-developing gastropod Batillaria cumingi (Batillariidae) on two shores of contrasting substrate. Journal of Moluscan Studies, 65: 275–287. 網尾 勝.1963.海産腹足類の比較発生学ならびに生態学 的研究.水産大学校研究報告,12: 15–144. 安東美穂.2005.マングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithidea cingulate (Gmelin,1791) のサイズ分布の季節変化. 鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻修士 論文. 安東美穂・冨山清升.2002.マングローブ林におけるヘナ タリ(複足網:フトヘナタリ科)のサイズ分布の季節 変化.Venus, 63 (3–4): 145–151. 風呂田利夫.2000.内湾の貝類,絶滅と保全-東京湾のウ ミニナ類衰退からの考察.月刊 海洋 / 号外 20: 74–82. 波部忠重.1955.カワアイとフトヘナタリの産卵.Venus, 8 (3): 204–205. 平田今日子.2006.マングローブ干潟におけるヘナタリ Cerithidea cingulate (Gmelin, 1791) のサイズ分布の季節 変化.鹿児島大学理学部地球環境科学科卒業研究論文. Iwao, S. 1977. Analysis of spatial association between two species based on the interspecies mean crowding. Researches on Population Ecology, 18 (2): 243–260. Lantin-Olaguer, I., and Bagarinao, T. U. 2001. Gonadal maturation, fecundity, spawning and timing of reproduction in the mud snail, Cerithidea cingulata, a pest in milkfish ponds in the Philippines. Invertebrate Reproduction and Development, 39 (3): 195–207. 真木英子・大滝陽美・冨山清升.2002.ウミニナ科 1 種と フトヘナタリ科 3 種の分布と底質選好性:特にカワア イを中心にして.Venus, 61: 61–76. 増田 修・内山りゅう.日本産淡水貝類図鑑 2 汽水域を含 む全国の淡水貝類.株式会社ピーシーズ,59: 64–67. 奥 谷 喬 司( 編 著 ).2000. 日 本 近 海 産 貝 類 図 鑑:pp. 132– 133.東海大学出版会.


RESEARCH ARTICLES Vohra, F. C. 1971. Zonation on a tropical sandy shore. Journal of Animal Ecology, 40: 679–708. 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・ 西 川 輝 昭・ 五 嶋 聖 治・ 鈴 木 孝 男・ 加 藤 真・ 島 村 賢 正・福田 宏.1996.日本における干潟海岸とそこに 生息する底生生物の現状.WWF Japan Science Report, 3: 5–22. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限マングローブ林周辺干 潟におけるウミニナ類分布の季節変化.貝類学雑誌, 59: 225–243.

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199


Nature of Kagoshima Vol. 44

200

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Nature of Kagoshima Vol. 44

宝島および奄美群島における アオカナヘビ Takydromus smaradinus の形態変異の分析 下之段佑一・山根正気・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 琉球列島に生息するアオカナヘビ Takydromus smaradinus を宝島,喜界島,奄美大島,加計呂麻島, 請島,与路島,徳之島,沖永良部島において捕獲 し,液浸標本をつくり,体色および頭胴長に対す る上腕,前腕,大腿,下腿の長さの割合を島ごと に比較した.その結果,奄美大島と沖永良部島で は調査期間中 1 個体のサンプルも得ることができ ず,この 2 島においては,生息数が減少してしまっ ていることが考えられた.それ以外の 6 つの島に おいてはサンプルを得ることができ,島ごとの データを得た.得られたデータを比較したところ, 体色については島ごとに緑色個体と緑色/褐色個 体,褐色個体の割合はまちまちであったが,その 変化の様子に一貫性は見られず,その要因につい ても手がかりを見つけることはできなかった.ま た,体長と脚の長さの割合に着目したデータを比 較したところ,その割合において他の島と比べて 突出した特徴をもつ島はなく,結果それぞれの島 に生息するアオカナヘビについて特に他の島の個 体群と異なる特徴を持つものはないという結論に 達した.本研究を進める過程で,アオカナヘビを 含む多くの野生種の両生類,爬虫類がペットとし てインターネット上などで商取引されているとい Shimonodan, Y., S. Yamane and K. Tomiyama. 2018. Morphological variation of Takydromus smaradinus among populations in the Amami Islands and Takara-jima island, northern part of the Ryukyu Islands, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 201–210. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp.) Published online: 9 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-027.pdf

う事実もわかった.このことに加え,急速な生息 地の破壊も進んでおり今後,琉球列島の両生類, 爬虫類の種数,個体数ともにさらに減少すること が予想される.そのため,保護に関しては早急な 対策が必要であると思われる. はじめに 琉球列島において,例えばヤモリの場合,九 州南部から琉球列島に分布しているヤモリは,ミ ナミヤモリというひとつの種であると思われてい たが,奄美大島の個体群と宝島の個体群は別種で あり,新たにアマミヤモリ,タカラヤモリとして 命 名 さ れ た と い う 事 例 が あ る( 中 村・ 上 野, 1963;千石ほか,1996;疋田,2002). また,本研究で用いたアオカナヘビについて も例外ではなく,沖縄の宮古島に生息しているカ ナヘビはもともとアオカナヘビであるとされてき たが,体側に見られる白線が見られないなどの特 徴から,1996 年に新たにミヤコカナヘビと命名 され記載された(竹中,2006). 琉球列島は,過去において地殻変動により地 盤の下降や上昇がおこり,大陸や他の島々と陸続 きになったり,他の地域と隔てられたりというこ とを繰り返してきた経緯がある.そのため,請島 のみに生息するウケシママルバネクワガタや,宝 島,小宝島に生息するトカラハブなどのようにさ まざまな島において動植物の固有種が知られてい る(環境省,2006a, b).また,南西諸島域は交通 の便がよいとは言いがたく,そのためさまざまな 島の個体群を比較検討するという研究はあまり多 くはなされていない. このようなことからも,南西諸島域に生息し ている同一の両生類や爬虫類を比較することで, 他の生息域に生息する個体群とは異なった特徴を

201


Nature of Kagoshima Vol. 44

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持つものがあったとしても不思議なことではな

鼻板は原則として正中線上で接し合い,吻端板と

い.

前額鼻板とを前後に隔てているが,稀には吻端板

なお,アオカナヘビは 2006 年版レッドリスト

と前額鼻板とが接し合っていることもある.前額

において,徳之島と沖永良部島の個体群が絶滅の

鼻板はほぼ六角形のことが多く,前額板よりは明

恐れのある地域個体群として指定された(環境省,

らかに短い.額板は細長い楯形で前額板より多少

2006b).さらに,近縁種であるミヤコカナヘビは

とも長く,側縁が第 1–2 両眼上板に接している.

絶滅危惧 Ib 類,それ以外にもサキシマカナヘビ

眼上板は 3 対あって,第 3 眼上板は小型.第 1 眼

は絶滅危惧 IIb 類にそれぞれ指定されている.こ

上板の前端に接して 1 枚の微小な鱗のあることが

のことからも生息個体数が減少していることがわ

多い.上睫板は 4 枚あって,前方の 2 枚は非常に

かる.

細長く,第 1 上睫板は普通第 1 眼上板に接してい

材料と方法 材料 現在日本には 6 種のカナヘビが生息している.

るが,それより後方では,眼上板と上睫板との間 に 1 列に並んだ粒状の鱗がある.前頭頂板は小型 で,一般に細長い.後頭板はほぼ三角形で,頭頂 間板より更に小さい.個体によっては,頭頂間板

す な わ ち, 北 海 道 に 生 息 す る コ モ チ カ ナ ヘ ビ

と後頭板との間に微細な鱗板の介在していること

Lacerta vivipara,本州,四国,九州および種子島,

がある.頭頂板は前額板よりも大きくて幅が広く,

屋 久 島 に 生 息 す る( 渡 瀬 線 以 北 ) カ ナ ヘ ビ

左右両板が接し合っていない.頬板は 2 枚あって,

Takydromus tachydromoides,対馬に生息するアムー

後頬板のほうが前頬板よりも大型.眼前下板はか

ルカナヘビ Takydromus amurensis,宝島,小宝島

なり大きくて,普通は 1 枚,稀には 2 枚.側頭板

から沖縄本島,久米島などに生息するアオカナヘ

は 5–6 枚ずつ 2 列に並んでいるが,後列上端の 1

ビ Takydoromus smaragdinus,宮古島に生息するミ

枚を除けばいずれも小型,後列下方のものは隆条

ヤコカナヘビ Takydromus toyamai,石垣島や西表

をそなえている.耳孔は大きくて垂直方向の楕円

島 に 生 息 す る サ キ シ マ カ ナ ヘ ビ Takydoromus

形.上唇板は口縁に 8–9 枚あって,普通は第 5 上

dorsalis である(千石ほか,1996).

唇板が大きくて非常に長く,著しい隆条をそなえ,

この中で,本研究で用いたアオカナヘビは,体

眼の下方に位置している.眼の下方にある長大な

の背面は緑色で,個体によって(とくに尾部に)

上唇板(普通は第 5 上唇板)より後方では,上唇

黄色味を帯びることがある.中村・上野(1963)

板が 2 列に分かれ,上列は普通 4–5 枚あって耳孔

によると,本種の形態的特徴は以下のようなもの

の前まで続いている.下唇板は 6–8 枚で,中央部

である.体側には,頬板の下縁部に始まって眼と

のものは細長い.咽頭板は 3 対しかなく,第 3 対

耳孔との下側を通り,前肢基部の上側を経て後走

目は非常に長大で,その長さが第 1–2 両咽頭板の

し,後肢の基部で中断されてさらに尾の基部に続

長さの和よりも大きい.左右の第 1 咽頭板はつね

く,細くて明瞭な黄白色の縦条があり,その上側

に正中線上で接し合い,また,普通は,第 2 咽頭

の部分は多少色が暗い.また,眼の前後では,黄

板の前半部も互に接し合っているが,時には,縦

白縦条の上側が黒褐色の条線で縁取られている.

に 1 列に並んだ微小な鱗によって左右の第 2 咽頭

腹面は青味を帯びた黄白色.指趾は黄褐色.頭部

板が完全に隔てられていることもある.左右の第

は長く,吻は細長くて側扁し,吻端がややとがっ

2 咽頭板の間から頸環板までには 26–31 枚ぐらい

ている.吻端から頭頂板の後端までの長さは,両

の鱗があって,前方のものは細かい粒状,後方の

眼の勧角の 3 倍に近い.吻端板は小型で,頂縁が

ものはとくに中央部で大きく,後端がとがり,著

1 対の上鼻板に接している.鼻孔は上鼻板,鼻板

しい隆条をそなえている.背面の鱗は,頭頂板の

および第 1 上唇板で囲まれ,吻端板の後縁背端と

直後では粒状であるが,後方にいくほど大きく

は明らかに離れている.後鼻板がない.左右の上

なって明瞭な隆条と後端の突起とをそなえるよう

202


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Nature of Kagoshima Vol. 44

になり,胴では 8–10 列に規則正しく並ぶ.これ

2 東経 129 度 13 分,面積 7.14 km ,周囲 13.77 km.

らの鱗列のうち,背中線上の 2 列の鱗は,その両

亜熱帯気候の島である.

側の各 3–4 列のものより小さい.それぞれの鱗板

奄美大島 鹿児島県本土から南西に 380 km の

の隆条は,前後につながり合って,8–10 本のほ

海上に位置し,国内で 3 番目に大きな島である.

ぼ平行で連続な隆条を形作っている.体側の鱗は

2 北緯 27 度,東経 129 度 25 分,面積 712.38 km ,

細かい粒状で,胴の中央部で各 8–10 列に並び,

周囲 461 km.亜熱帯気候の島である.

部分的に弱い隆条をそなえているものもある.こ

加計呂麻島 奄美大島の南に位置し,大島郡

の細かい鱗と腹板との間には,やや大型で明瞭な

瀬戸内町に属する.北緯 28 度 07 分,東経 129 度

隆条のある鱗が,同の中央部で各 3–5 列に並んで

15 分,面積 77.39 km2,周囲 147.50 km.亜熱帯

いる.腹板は背板より大きくて 6 列に並び,頸環

気候の島である.

板から肛板までの間に 26–30 枚ぐらいある.それ

請島 加計呂麻島の南に位置し,大島郡瀬戸

ぞれの腹板には,顕著な隆条と後端中央部の小歯

内町に属する.北緯 28 度 02 分,東経 129 度 14 分,

状突起とがあり,これらが前後につながり合って,

2 面積 13.34 km ,周囲 24.80 km.亜熱帯気候の島

6 本の連続した隆条を形成している.肛板は大き

である.

くて著しい隆条をそなえ,原則として 1 対存在す

与路島 加計呂麻島の南に位置し,大島郡瀬

る.肛板の両側には左右各 1 枚の比較的小さい鱗

戸内町に属する.北緯 28 度 03 分,東経 129 度

板があり,肛板と同様に著しい隆条をそなえてい

09 分,面積 9.35 km2,周囲 18.40 km.亜熱帯気

る.鼠蹊腺の開口はただ 1 対しかない.四肢はサ

候の島である.

キシマカナヘビより短いが構造はほぼ同様で,第

徳之島 奄美大島の南西に位置し,北緯 27 度

4 趾の下面には,26–32 枚くらいの趾下板がある.

51 分,東経 128 度 57 分,面積 247.76 km2,周囲

なお,趾下板は部分的に 2 分していることが多い.

89.2 km.亜熱帯気候の島である.

尾は非常に長く,サキシマカナヘビの場合と同じ

沖永良部島 奄美大島の南西,徳之島の南に

ような長方形の鱗におおわれている.体長:150–

位置し,北緯 27 度 20 分,東経 128 度 34 分,面

200 mm(尾は体長の 2/3 以上を占めている).

2 積 93.65 km ,周囲 50.3 km.亜熱帯気候の島であ

琉球列島の固有種で,トカラ列島小宝島から

る.

奄美大島,喜界島,徳之島,沖縄本島,久米島な ど各島に分布している.畑地や草むらなどに多い (中村・上野,1963).

生息環境 多くの文献において,アオカナヘビの主要な 生息場所としてサトウキビ畑が挙げられている

調査地 本研究において,調査地として設定したのは,

が,今回の調査において,サトウキビ畑の中では アオカナヘビの生息を確認することはできなかっ

トカラ列島南部の小宝島,宝島,奄美群島の奄美

た.また,集落のすぐそばにおいても見られない

大島,喜界島,加計呂麻島,請島,与路島,徳之

か,たとえ見つけても幼個体であることが多かっ

島,沖永良部島である.しかし,小宝島は宝島で

た.宝島で滞在中に聞いた話ではあるが,集落周

調査中に負傷したことと,船便の都合とで結局調

辺の草地などへは害虫対策として殺虫剤の散布が

査に行くことはできなかった.そのため,実際に

行われることがあるという.

調査を行ったのは小宝島を除く 8 島であった.各

より多くの個体を採集できた場所は,あまり

島の特徴を以下に示す(鹿児島県,2007;日本離

車通りの多くない道路沿いや砂利道の脇の日当た

島センター,1982).

りのよい藪であり,とくにそのような環境に多く

宝島 鹿児島郡十島村に属する.十島村の有

生育しているつる植物であるキク科のキダチハナ

人島の中で最も南に位置する.北緯 29 度 09 分,

グルマの群落やイラクサ科の植物の群落などのあ

203


Nature of Kagoshima Vol. 44

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る場所であった.これらの植物の持つ,幅の広い

そのため,釣りに関しても調査で用いる機会は非

葉の上で日光浴をしている個体を多く採集でき

常に少なかった.

た.そのため,これらの植物群落の存在は採集す

採集した大半の個体は,道路などに面した茂

るにあたって,非常にわかりやすい目印となった.

みの表面で日光浴をしている事例が多かったの

しかし,明らかに生息に適しているように見

で,ゆっくり近づいたり,死角から近づいたりし

える環境であってもアオカナヘビを確認できな

てそのまま手で捕まえるという方法が最も効率が

かった場所も多く,分布は偏在していると感じら

よかった.たとえ捕獲できなかったとしても,頻

れた.

繁に生息している場所を移動しているわけではな いため,少し時間を置く,あるいは翌日再び採集

捕獲および計測方法 捕獲方法 アオカナヘビを捕獲するにあたり さまざまな方から助言をいただき,また文献等を

に行けば捕獲のチャンスを得ることができた. 計測方法 データを得る要素として,外見上 の特徴を確認し,体の各部位を計測した.

調べた.その結果として,ヤモリ類の捕獲におい

外見に関しては,体色を目視で確認し,頭部

ては餌を針に掛け捕食したところを釣るという方

および胴体がほぼ全体的に緑色であるものを緑色

法が有効であることがわかった.疋田(2002)に

個体,背面が緑色であるが体側が褐色のものを緑

おいても釣りによる捕獲方法や,カゴ罠を用いる

色/褐色個体,全体的に概ね褐色であるものを褐

方法などが紹介されている.

色個体とした.

実際に調査をするにあたっては,調査する島

体の各部位の計測にあたっては,採集したサ

に船便で渡り捕獲するという方法を用いたため

ンプルを 90% アルコールで固定した液浸標本を

に,大量の罠の運搬は容易ではないために,見つ

つくり,標本のサイズを計測した.

け取りを行った.

なお,各部位の計測をするにあたって,ダイ

前項にて述べたように道路沿いの幅の広い葉

ヤル式ノギスを用い,計測する部位は以下のとお

を持つ植物の群落を目印として探した.また,そ

りとし,上腕,前腕,大腿,下腿に関しては左右

の効率をよくし,採集範囲を広げるためにすべて

の長さを計測し,その平均値とした.頭胴長:標

の島で原動機付自転車もしくは自転車を持ち込

本をまっすぐに伸ばした状態で口吻の先から肛門

み,島全域を調査対象とした.

までとした;上腕:上腕を体側と垂直になるよう

本種を捕獲する状況で最も多かったのは道路

にし,また前腕と上腕が直角になるようにした状

沿いの茂みなどで日光浴をしている個体を見つけ

態で,上腕の付け根から肘までとした;前腕:上

て捕獲するというものであった.捕虫網を用いた

腕を計測するときと同じ状態で,肘から一番外側

ところ,気配を察し逃げる個体や,捕虫網が茂み

の第 5 指の付け根までとした;大腿:上腕の計測

に引っ掛かるなどして,あまり効率がよい方法と

と同様,大腿が体側と垂直になるようにし,大腿

はいえず,ほとんどの調査で用いることはなかっ

の付け根から膝までとした;下腿:前腕の計測と

た.また,釣りに関しては,竿の先に糸を結びそ

同様,大腿と下腿が直角になるようにして,その

の先に針を結んだのだが,あまり糸の長さが短い

状態で膝から一番外側の第 5 指の付け根までとし

と接近する竿の気配を察して逃げてしまうが,か

た.

といって糸の長さを長くすると茂みに絡まってし まったり,あるいは風の影響を受けてしまったり するなど,扱いに苦労するものであった.さらに, ヤモリ類と比べるとカナヘビは頭の大きさが小さ

結果 採集結果 各島において,2 日から 5 日の採集期間を設け,

く,口の大きさも小さいために針に掛かりにくく,

採集を行った.しかし,沖永良部島および奄美大

小型の個体に関してはあまり捕獲できなかった.

島においては 1 個体の生息も確認できず,した

204


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Nature of Kagoshima Vol. 44

がってサンプルを得ることはできなかった. 宝島では,9 月中旬に調査を行い,51 個体の アオカナヘビを捕獲した. 喜界島では 5 月中旬に調査を行い,32 個体の アオカナヘビを捕獲した. 奄美大島では 10 月中旬および下旬に調査を 行ったが,アオカナヘビを捕獲することはできな かった. 加計呂麻島では,10 月中旬に調査を行い,19 個体のアオカナヘビを捕獲した. 請島では,10 月中旬に調査を行い,24 個体の アオカナヘビを捕獲した. 与路島では,10 月中旬に調査を行い,20 個体 のアオカナヘビを捕獲した. 徳之島では,7 月中旬に調査を行ったものの, 3 個体目撃し,そのうちの 1 個体を採集できただ けであったため,再度 10 月中旬に調査に赴き, 17 個体のアオカナヘビを捕獲した. 沖永良部島では,10 月中旬に調査を行ったが,

Fig. 1.各島で採集した個体の体色を 3 つのパターンに分類 し,その割合を地図上に円グラフ化して示した.

アオカナヘビを捕獲することはできなかった. 体色による比較 Fig. 1 に結果を地図上の円グラフにまとめた.

計測結果による比較 採集し,液浸標本にした全個体の頭胴長および,

宝島では 51 個体のうち緑色個体が 13 個体,緑

上腕,前腕,大腿,下腿の長さを計測し,その長

色/褐色個体が 19 個体,褐色個体が 19 個体であっ

さおよび頭胴長に対する上腕,前腕,大腿,下腿

た.喜界島では 32 個体のうち緑色個体が 18 個体,

の長さの割合を島ごとに比較した.

緑色/褐色個体が 11 個体,褐色個体が 3 個体で

宝島の個体群では,体長の平均値は 36.8 mm,

あった.加計呂麻島では,1 9個体のうち,緑色

標準偏差は 8.45,最小の個体は 26.5 mm,最大の

個体が 3 個体,緑色/褐色個体画 10 個体,褐色

個体は 54.6 mm,上腕の長さの平均値は 4.9 mm,

個体が 6 個体であった.請島では,24 個体のうち

標準偏差は 1.16,最小の個体は 3.4 mm,最大の

緑色個体が 1 個体,緑色/褐色個体が 12 個体,

個体は 7.1 mm,前腕の長さの平均値は 4.9 mm,

褐色個体が 11 個体であった.与路島では,20 個

標準偏差は 1.19,最小の個体は 3.3 mm,最大の

体のうち緑色個体が 0 個体,緑色/褐色個体が 8

個体は 7.3 mm,大腿の長さの平均値は 5.7 mm,

個体,褐色個体が 12 個体であった.徳之島では

標準偏差は 1.27,最小の個体は 4.0 mm,最大の

17 個体のうち,緑色個体が 11 個体,緑色/褐色

個体は 8.2 mm,下腿の長さの平均値は 5.8 mm,

個体が 6 個体,褐色個体が 0 個体であった.

標準偏差は 1.33,最小の個体は 3.9 mm,最大の

以上のように,非常に島ごとの差が大きく,中

個体は 8.3 mm となり,頭胴長に対する上腕の長

には緑色個体が採集できなかった与路島や,褐色

さの割合の平均値は 0.133,標準偏差は 0.006,最

個体が採集できなかった徳之島などのように,3

小の個体は 0.115,最大の個体は 0.148,頭胴長に

パターンの体色のうち,2 パターンしか確認でき

対する前腕の長さの割合の平均値は 0.134,標準

なかった島もあった.

偏差は 0.006,最小の個体は 0.116,最大の個体は

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Fig. 2.各島で採集した個体の頭胴長の島ごとの比較.

Fig. 5.各島で採集した個体の大腿長の島ごとの比較.

Fig. 3.各島で採集した個体の上腕長の島ごとの比較.

Fig. 6.各島で採集した個体の下腿長の島ごとの比較.

Fig. 4.各島で採集した個体の前腕長の島ごとの比較.

Fig. 7.各島で採集した個体の頭胴長に対する上腕の長さの 島ごとの比較.

0.145,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平均値 は 0.155,標準偏差は 0.007,最小の個体は 0.133,

大の個体は 8.4 mm となり,頭胴長に対する上腕

最大の個体は 0.167,頭胴長に対する下腿の長さ

の長さの割合の平均値は 0.132,標準偏差は 0.006,

の割合の平均値は 0.156,標準偏差は 0.006,最小

最小の個体は 0.124,最大の個体は 0.144,頭胴長

の個体は 0.138,最大の個体は 0.169 となった.

に対する前腕の長さの割合の平均値は 0.135,標

喜 界 島 の 個 体 群 で は, 体 長 の 平 均 値 は 46.1

準偏差は 0.006,最小の個体は 0.125,最大の個体

mm, 標 準 偏 差 は 4.39, 最 小 の 個 体 は 37.8 mm,

は 0.142,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平

最大の個体は 53.2 mm,上腕の長さの平均値は 6.1

均値は 0.149,標準偏差は 0.008,最小の個体は

mm,標準偏差は,0.48 最小の個体は 5.2 mm,最

0.138,最大の個体は 0.165,頭胴長に対する下腿

大の個体は 6.9 mm,前腕の長さの平均値は 6.2

の長さの割合の平均値は 0.152,標準偏差は 0.007,

mm,標準偏差は 0.53,最小の個体は 5.3 mm,最

最小の個体は 0.141,最大の個体は 0.163 となった

大の個体は 7.3 mm,大腿の長さの平均値は 6.9

加計呂麻島の個体群では,体長の平均値は 39.5

mm,標準偏差は 0.65,最小の個体は 5.7 mm,最

mm, 標 準 偏 差 は 9.86, 最 小 の 個 体 は 25.7 mm,

大の個体は 8.5 mm,下腿の長さの平均値は 7.0

最大の個体は 56.1 mm,上腕の長さの平均値は 5.1

mm,標準偏差は 0.64,最小の個体は 6.0 mm,最

mm,標準偏差は 1.29,最小の個体は 3.4 mm,最

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Fig. 8.各島で採集した個体の頭胴長に対する前腕の長さの 島ごとの比較.

Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 11.計測結果をもとに作成した頭胴長と上腕の長さの 散布図.

Fig. 9.各島で採集した個体の頭胴長に対する大腕の長さの 島ごとの比較. Fig. 12.計測結果をもとに作成した頭胴長と前腕の長さの 散布図.

Fig. 10.各島で採集した個体の頭胴長に対する下腕の長さ の島ごとの比較.

大の個体は 7.0 mm,前腕の長さの平均値は 5.3

Fig. 13.計測結果をもとに作成した頭胴長と大腿の長さの 散布図.

mm,標準偏差は 1.40,最小の個体は 3.4 mm,最 大の個体は 7.65 mm,大腿の長さの平均値は 5.9 mm,標準偏差は 1.54,最小の個体は 3.9 mm,最 大の個体は 8.5 mm,下腿の長さの平均値は 6.1 mm,標準偏差は 1.57,最小の個体は 4.0 mm,最 大の個体は 8.6 mm となり,頭胴長に対する上腕 の長さの割合の平均値は 0.130,標準偏差は 0.007, 最小の個体は 0.116,最大の個体は 0.139,頭胴長 に対する前腕の長さの割合の平均値は 0.133,標 準偏差は 0.006,最小の個体は 0.120,最大の個体

Fig. 14.計測結果をもとに作成した頭胴長と下腿の長さの 散布図.

は 0.146,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平 均値は 0.150,標準偏差は 0.006,最小の個体は

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0.137,最大の個体は 0.164,頭胴長に対する下腿

の長さの割合の平均値は 0.156,標準偏差は 0.006,

の長さの割合の平均値は 0.155,標準偏差は 0.007,

最小の個体は 0.146,最大の個体は 0.167 となった.

最小の個体は 0.143,最大の個体は 0.169 となった.

徳 之 島 の 個 体 群 で は, 体 長 の 平 均 値 は 40.2

請島の個体群では,体長の平均値は 40.0 mm,

mm, 標 準 偏 差 は 7.85, 最 小 の 個 体 は 30.1 mm,

標準偏差は 5.48,最小の個体は 31.8 mm,最大の

最大の個体は 54.2 mm,上腕の長さの平均値は 5.3

個体は 51.3 mm,上腕の長さの平均値は 5.2 mm,

mm,標準偏差は 1.11,最小の個体は 3.6 mm,最

標準偏差は 0.89,最小の個体は 3.0 mm,最大の

大の個体は 7.6 mm,前腕の長さの平均値は 5.4

個体は 6.7 mm,前腕の長さの平均値は 5.3 mm,

mm,標準偏差は 1.05,最小の個体は 3.7 mm,最

標準偏差は 0.79,最小の個体は 4.0 mm,最大の

大の個体は 7.5 mm,大腿の長さの平均値は 6.1

個体は 6.9 mm,大腿の長さの平均値は 6.1 mm,

mm,標準偏差は 1.21,最小の個体は 4.5 mm,最

標準偏差は 0.83,最小の個体は 4.9 mm,最大の

大の個体は 8.7 mm,下腿の長さの平均値は 6.2

個体は 7.9 mm,下腿の長さの平均値は 6.2 mm,

mm,標準偏差は 1.28,最小の個体は 4.4 mm,最

標準偏差は 0.86,最小の個体は 4.9 mm,最大の

大の個体は 8.7 mm となり,頭胴長に対する上腕

個体は 8.3 mm となり,頭胴長に対する上腕の長

の長さの割合の平均値は 0.132,標準偏差は 0.007,

さの割合の平均値は 0.133,標準偏差は 0.004,最

最小の個体は 0.117,最大の個体は 0.143,頭胴長

小の個体は 0.124,最大の個体は 0.140,頭胴長に

に対する前腕の長さの割合の平均値は 0.134,標

対する前腕の長さの割合の平均値は 0.134,標準

準偏差は 0.006,最小の個体は 0.123,最大の個体

偏差は 0.004,最小の個体は 0.126,最大の個体は

は 0.143,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平

0.143,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平均値

均値は 0.153,標準偏差は 0.006,最小の個体は

は 0.155,標準偏差は 0.005,最小の個体は 0.145,

0.145,最大の個体は 0.164,頭胴長に対する下腿

最大の個体は 0.164,頭胴長に対する下腿の長さ

の長さの割合の平均値は 0.154,標準偏差は 0.007,

の割合の平均値は 0.157,標準偏差は 0.006,最小

最小の個体は 0.139,最大の個体は 0.168 となった.

の個体は 0.147,最大の個体は 0.168 となった. 与 路 島 の 個 体 群 で は, 体 長 の 平 均 値 は 35.0 mm, 標 準 偏 差 は 7.81, 最 小 の 個 体 は 23.4 mm,

考察 採集結果

最大の個体は 47.9 mm,上腕の長さの平均値は 4.6

今回の調査にあたって,宝島,喜界島,加計

mm,標準偏差は 1.13,最小の個体は 2.8 mm,最

呂麻島,請島,与路島の 5 つの島においては,1

大の個体は 6.4 mm,前腕の長さの平均値は 4.7

度の調査でサンプルを採集することができた.徳

mm,標準偏差は 1.14,最小の個体は 3.0 mm,最

之島では 2 度目の調査でやっと複数のサンプルを

大の個体は 6.5 mm,大腿の長さの平均値は 5.3

得ることができた.奄美大島および沖永良部島で

mm,標準偏差は 1.26,最小の個体は 3.5 mm,最

は,アオカナヘビを採集することも目撃すること

大の個体は 7.3 mm,下腿の長さの平均値は 5.5

もできなかった.

mm,標準偏差は 1.32,最小の個体は 3.7 mm,最

徳之島では,1 度目の 7 月中旬の調査では,4

大の個体は 7.7 mm となり,頭胴長に対する上腕

日間の滞在中 1 個体採集できたのみであった.し

の長さの割合の平均値は 0.132,標準偏差は 0.008,

かし,2 度目の調査で 17 個体採集することがで

最小の個体は 0.109,最大の個体は 0.145,頭胴長

きたことから,生息数,生息密度以外の理由によっ

に対する前腕の長さの割合の平均値は 0.133,標

て 1 度目の調査が成功しなかったのではないかと

準偏差は 0.007,最小の個体は 0.116,最大の個体

思われる.その理由として考えられるのが,調査

は 0.141,頭胴長に対する大腿の長さの割合の平

期間が 7 月中旬という真夏であったために,昼間

均値は 0.152,標準偏差は 0.006,最小の個体は

の気温があまりにも高温で生物の活動に適さな

0.136,最大の個体は 0.164,頭胴長に対する下腿

かったということと,日の出の時間が早く夜間,

208


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Nature of Kagoshima Vol. 44

早朝の気温も高いために朝短時間で十分な日光浴

るとおり島ごとに明らかな差異があった.これら

を終えることができ,さらには餌となる小型の昆

の差異がある要因についてはわからなかったが,

虫類の数が非常に多く採餌行動を短時間で終わら

雌雄の特徴として,メスの個体は全身が緑色であ

せることができたからではないかと考えられる.

り,オスの個体は体側の白線の上に褐色の線が入

その結果としてほとんど日中は人目につくところ

る,つまりメスは緑色個体でありオスは緑色/褐

で活動することなく採集できなかったと推測する

色個体であるということに関しては,たいていの

7 月中旬に採集した 1 個体も, ことができる.実際,

個体には当てはまるものの,頭部付近にわずかに

早朝 7 時過ぎに採集したものであったし,目撃し

褐色の線が入っているだけでほぼ全身緑であるオ

たものの採集できなかった 2 個体も,どちらも午

スや,全身が褐色のメスの個体などの存在も確認

前 9 時ごろまでに目撃したものであった.

することができたので,確実に体色で雌雄の判別

奄美大島においては,10 月中旬と下旬に名瀬

ができるとは言い難いと思われる.このことは,

市街地周辺の山林付近や林道沿い,空港付近をは

与路島では緑色個体がまったく採集できなかった

じめとした奄美大島北部,瀬戸内町周辺の奄美大

ということや,請島や加計呂麻島では緑色個体の

島南部,島の中央付近に多い林道沿いを主に調査

割合が全体の半分に遠く及んでいないということ

した奄美大島中部をそれぞれ最低 1 日は調査した

からも明らかである.

ものの 1 個体のアオカナヘビも目撃することがで

また,メスの緑色個体を飼育したところ産卵

きなかった.その原因については,10 月下旬に

し,孵化したが,その誕生した幼個体はすべて緑

行った調査については,寒波の影響により気温が

色/褐色個体であった.オスの個体の体色は不明

下がったうえに風が強く,日光浴をはじめとした

であり,またこれらの個体をうまく成長させるこ

活発に活動するアオカナヘビの数が少なかったと

とができなかったため確実なことはいえないが,

いう理由が挙げられる.しかし,10 月中旬に行っ

しかし,緑色個体から緑色/褐色個体が生まれた

た調査に関しては,最終日に強風が吹いたという

ということは事実である.

こと以外には原因が挙げられず,したがって本来

飼育環境化において土のみの環境で飼育して

の生息数自体が少ないという理由が考えられる.

も緑色個体は緑色個体のままであり,周囲が緑色

また,奄美大島は他の島に比べて島の規模が大き

になっている環境下でも褐色個体は褐色のままで

いために,採集地点を探し,採集し,移動すると

あることから,短期間に周辺の環境に体色を合わ

いう効率があまりよくなかったということも考え

せるということはしていないといえるが,幼個体

られる.

が成長に伴って体色が変化する可能性はある.

沖永良部島の調査では,天候には恵まれたも のの生息を確認することはできなかった.このこ とは,2006 年に発行されたレッドリストに登録

計測結果による比較 計測結果から,喜界島の個体群のサイズの平

されているとおり,生息個体の減少が考えられ,

均値は他の島のものより大きいという結果が得ら

実際島で出会った何人かの方たちに聞き取り調査

れたが,このことについては 2 つの理由が考えら

を行っても,目撃例は得られなかった.しかし, 「沖

れる.

永良部島のアオカナヘビについて」(竹中,2006)

1 つ目は,アオカナヘビを研究対象とし行った

などからも,まったく生息していないというわけ

最初の調査であったために,アオカナヘビが好む

ではなく,生息数が非常に少ないということが考

生息場所や捕獲方法などの採集のノウハウが十分

えられる.

ではなく,採集に不慣れであったために目に付き やすい比較的サイズの大きな個体ばかりを採集し

体色による比較 体色による比較については,結果からもわか

たということであり,2 つ目は他の島々は 9 月以 降に調査を行っているのに比べ,喜界島は 5 月に

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Nature of Kagoshima Vol. 44

調査を行っているため,この年に孵化したばかり の幼個体の数が少なくそのために大きな個体の割 合が増したのではないかということである. 与路島では逆に他の島と比べ平均したサイズ が若干小さくなっているが,この原因をもたらし た理由についてはよくわからない.しかし,採集 した個体の中で幼個体の割合が多かったというこ とと,採集を行った場所が島に唯一ある採水地の すぐそばで,草刈りの行われたばかりでもともと は藪であったが,わりと開けている場所であった ため,大きな個体は移動してしまったのではない かということが考えられる. Figs. 2–6 より,計測結果には島ごとに差異が見 られたものの,Figs. 7–10 より,体長に対する上腕, 前腕,大腿,下腿の長さの割合に関しては数値が ほぼ一定となっている.体長と各部の長さの散布 図を作成し比較したものでも,Figs. 11–14 より, その割合には相関が見られるため,島ごとの身体 的な特徴は見られないと考えられる. 今後の課題 今回の研究において,いくつかの課題が出て きた.1 つ目は,さらに多くのサンプルを得るこ とによってより正確なデータが得られると考えら れるので,それぞれの島においてより多くのアオ カナヘビを捕獲する必要があるということであ る.また,奄美大島と沖永良部島ではサンプルを 得ることができなかったので,より詳細な調査が 必要であると感じる. 2 つ目は,体色の変異の様子についてより詳し く調べる必要があるということである.飼育下に おいて,短期間で周囲の環境に対して体色を変化 させるというようなことは見られなかったもの の,もしかすると幼個体から成体へ成長する過程 においては体色が変化する可能性もあるかもしれ ない.また,親の体色と産まれる幼体の体色の関 係についても非常に興味深い.これらのことに関 しては,飼育下において管理して観察することが 適切であると思われる.

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謝辞 本研究の調査をするにあたり,研究室の方々 には,調査から論文作成まで手取り足取り教えて いただきようやく研究をまとめることができまし た.また,調査を行うにあたり,調査地に住んで いらっしゃる多くの方々にいろいろな場面で助け ていただき,さまざまなご助言をいただきました. 多くの方々にご助力いただき論文をここにまとめ ることができました.お世話になりました皆様に 深く感謝申しあげます.本稿の作成に関しては, 日本学術振興会科学研究費助成金の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜熱帯島嶼生態系にお ける水陸境界域の生物多様性の研究」262410270001・平成 27–29 年度基盤研究(C)一般「島嶼 における外来種陸産貝類の固有生態系に与える影 響」15K00624・平成 27–29 年度特別経費(プロジェ クト分)-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生 物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」, および,2017 年度鹿児島大学学長裁量経費,以 上の研究助成金の一部を使用させて頂きました. 以上,御礼申し上げます. 引用文献 疋田 努.2002.爬虫類の進化.東京大学出版会. 鹿児島県.2007.平成 18 年 鹿児島県統計年鑑. 環境省.2006a.環境省自然環境局生物多様性センター.生 物多様性情報システム.絶滅危惧種情報. 環境省.2006b.2006 年 12 月 22 日報道発表資料.鳥類,爬 虫類,両生類およびその他無脊椎動物のレッドリスト の見直しについて.別添資料 2,爬虫類のレッドリスト. 中村健児・上野俊一(編著).1963 原色日本両生爬虫類図鑑. 保育社.Pp. 127–133. 日本離島センター(財団法人).1982.日本島嶼一覧(改訂版). 千石正一・疋田 努・松井正文・仲谷一宏.1996.日本動 物大百科第 5 巻 両生類・爬虫類・軟骨魚類.平凡社. 82 pp. 竹中 践.2006.沖永良部島のアオカナヘビについて.爬 虫 両 棲 類 学 会 報( 日 本 爬 虫 両 棲 類 学 会 ),2006 (1): 24–26.


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薩摩半島西岸から得られたエビスシイラ 畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに シ イ ラ 科 魚 類 は, 世 界 で エ ビ ス シ イ ラ Coryphaena equiselis Linnaeus, 1758 と シ イ ラ C. hippurus Linnaeus, 1758 の 2 種 が 知 ら れ(Gibbs and Collette, 1959),日本においても両種の分布が 知られている(瀬能,2013).シイラは鹿児島県 において本土,薩南諸島を問わず県内各地で定置 網や延縄などで大量に漁獲され,食用魚として盛 んに利用される(蒲原,1956;財団法人鹿児島市 水 族 館 公 社,2008; 千 葉,2013,2014; 鏑 木, 2016;岩坪,2017).さらに,嘉永年間には薩摩 藩主,島津斉彬に本種の干物が坊津より献上され たことも知られる(橋村,2003). 一方,エビスシイラの漁獲は極めて稀なものと みられ,その記録は鹿児島湾と種子島からのもの に限られていた(瀬能,2013).鹿児島県本土の 魚類相調査の過程で,2 個体のエビスシイラが薩 摩半島西岸に位置する笠沙町の沖から得られた. これらは薩摩半島東シナ海沿岸における本種の初 めての記録となるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1949) にし たがった.標準体長は体長と表記し,体各部の計 Hata, H., M. Itou and H. Motomura. 2018. Records of Coryphaena equiselis (Perciformes: Coryphaenidae) from west coast of Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 211–214. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 12 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-028.pdf

測はノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.エ ビスシイラの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮 影された鹿児島県島産標本(記載標本を参照)の カラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影, および固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に 保管されており,上記の生鮮時の写真は同館の データベースに登録されている.本報告中で用い られている研究機関略号は以下の通り:KAUM (鹿児島大学総合研究博物館);KPM(神奈川県 立生命の星・地球博物館);OMNH(大阪市立自 然史博物館). 結果と考察 Coryphaena equiselis Linnaeus, 1758 エビスシイラ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 11007, 体 長 248.7 mm, 尾 叉 長 262.7 mm,全長 316.5 mm,鹿児島県南さつま 市 笠 沙 町 片 浦 高 崎 山 地 先(31°26′00″N, 130°10′05″E), 水 深 36 m,2007 年, 定 置 網, 伊 東 正 英;KAUM–I. 56110, 体 長 387.0 mm, 尾 叉 長 408.0 mm,全長 504.0 mm,鹿児島県南さつま 市笠沙町野間岬南側(31°24′49″N, 130°07′00″E), 水深 27 m,2013 年 9 月 20 日,定置網,伊東正英. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い楕円形 で強く側扁する.体高は KAUM–I. 11007 では背 鰭 第 22 軟 条 起 部,KAUM–I. 56110 で は 第 32 軟 条起部,たたんだ腹鰭の後端付近で最大.体背縁 は吻端から体高最大部付近にかけて緩やかに上昇 し,そこから尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降

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Fig. 1. Fresh specimens of Coryphaena equiselis (upper: KAUM–I. 11007, 248.7 mm standard length; lower: KAUM–I. 56110, 387.0 mm standard length, off Kasasa, west coast of Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan).

する.体復縁は下顎先端からたたんだ腹鰭の後端

帯を形成する.鋤骨と口蓋骨には小円錐歯が密生

付近にかけて緩やかに下降し,そこから尾鰭基底

し,歯帯を形成する.鋤骨の歯帯は後方に伸長し,

下端にかけて緩やかに上昇する.背鰭起部は眼窩

三角形に近い形状を呈する.下顎側部には鋭い円

後端よりも後方に位置する.胸鰭基底上端は鰓蓋

錐歯が 1 列に並び,下顎前部には小円錐歯が密生

後端よりも後方,背鰭第 7–9 軟条起部直下に位置

する.舌上には細かい歯が密生し,歯帯を形成す

する,胸鰭後端は尖り,背鰭第 16–20 軟条起部直

る.舌上の歯帯は幅の広い台形に近い形状を呈し,

下に達するが,肛門直上には達しない.腹鰭起部

前部ほど幅が広くなる.前鰓蓋骨および主鰓蓋骨

は胸鰭基底下端よりもわずかに後方に位置し,た

の後縁はともに円滑.体は剥がれにくい円鱗に被

たんだ腹鰭の後端は肛門に達しない.臀鰭起部は

われる.頭部は眼の後方に鱗が密生するのを除い

背鰭第 27 軟条起部直下,臀鰭基底後端は背鰭基

て,無鱗.側線は完全で,鰓蓋上方から始まり,

底後端直下にそれぞれ位置する.尾鰭は二叉型で,

胸鰭上方で上方へ向かい,下降したのち,体側中

深く湾入する.肛門は臀鰭起部前方に位置し,正

央部をほぼ直走し,尾鰭基底中央部に達する.

円形を呈する.眼と瞳孔はほぼ正円形に近い円形.

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色を呈

鼻孔は 2 対で互いに近接し,眼の前方に位置する.

し,KAUM–I. 56110 では体側に小黒色斑が散在

両鼻孔はいずれも正円形を呈し,前鼻孔後縁には

する.体背面から体側上部にかけては緑がかり,

皮弁をそなえる.口裂は大きく,上顎後端は瞳孔

眼よりも下方の体側は黄色がかる.背鰭は暗褐色

先端よりも後方に達する.上顎には鋭い円錐歯が

を呈し,KAUM–I. 11007 では黄色がかる.腹鰭

1 列に並び,その内側には小円錐歯が密生し,歯

は KAUM–I. 11007 で は 一 様 に 白 色 で あ る が,

212


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Fig. 2. Fresh specimen of Coryphaena hippurus (KAUM–I. 109832, 455.0 mm standard length, Tanega-shima island, Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, Japan).

KAUM–I. 56110 では暗褐色.臀鰭は淡褐色を呈し,

Coryphaena equiselis を日本から初めて報告した

縁辺部は暗色.胸鰭は灰白色.尾鰭は暗い黄緑色.

のは内田(1935)である.彼は 1932 年から 1933

虹彩は金色を呈し,瞳孔は青みがかった黒色.

年にかけて島根県浜田市沖から得られた本種 6 個

分布 インド・汎太平洋と北緯 40 度から南緯

体を報告し,同時に本種に対して和名エビスシイ

10 度にかけての大西洋の広範囲に分布する (Gibbs and Collette, 1959; Collette, 1999; 瀬 能,2013; Kawama, 2017).日本国内での記録は少なく,兵 庫県浜坂,島根県浜田市沖,高知県土佐湾,鹿児

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Coryphaena equiselis from Kasasa, west coast of Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan.

島湾,種子島,渡嘉敷島から記録されていた(瀬 能,2013) .本研究において新たに鹿児島県薩摩 半島西岸における分布が確認された. 備考 記載標本は,体背縁と腹縁が膨らみ,弧 状を呈すること,体高が腹鰭基底後端と肛門の中 間付近で最大となること,背鰭軟条が 52 である こと,側線有孔鱗数 171 であること,舌上の歯帯 が幅広く,台形を呈することなどが,Gibbs and Collette (1959),Collette(1999),および瀬能(2013) の報告した Coryphaena equiselis の標徴と一致し たため,本種に同定された.エビスシイラは唯一 の同属種であるシイラ(Fig. 2)と比較して,上 述の体背縁と体腹縁の形状(シイラでは膨らまず, 直線上を呈する),最大体高の位置(シイラでは 腹鰭起部付近で最大),背鰭軟条数が 48–59(55– 67),側線有孔鱗数が 200 以下(200 以上),およ び舌上の歯帯が幅広い台形を呈する(舌上の歯帯 は小さく,円形)ことにより,容易に識別される (Gibbs and Collette, 1959; Collette, 1999;瀬能,2013).

Standard length (mm; SL) Counts Dorsal-fin rays Anal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin spines Pelvic-fin rays Pored lateral-line scales Measurements (% SL) Head length Snout length Orbit diameter Interorbital width Maximum body depth Caudal-peduncle length Caudal-peduncle depth Upper-jaw length Mandible length Pre-dorsal-fin length Pre-anal-fin length Pectoral-fin length Pelvic-fin length Pelvic-fin spine length Dorsal-fin base length Anal-fin base length Postorbital length

KAUM–I. 11007

KAUM–I. 56110

248.7

387.0

52 broken 18 1 5 broken

52 25 18 1 5 171

23.4 7.6 5.3 7.9 27.0 7.8 5.6 9.6 11.2 20.5 56.4 12.2 15.6 11.5 76.1 broken 11.2

23.2 7.7 4.3 8.9 31.4 7.8 6.1 9.2 10.6 17.2 55.0 13.0 15.4 12.6 80.0 39.8 12.0

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Nature of Kagoshima Vol. 44

ラを提唱した.その後,Kamohara (1964) はエビ スシイラの土佐湾における分布を報告し,鈴木ほ か(2000)は兵庫県浜坂町沖から得られた本種 1 個体(OMNH 8330)を報告した.また,渡井ほ か(2009)は慶良間諸島渡嘉敷島渡嘉志久湾の水 深 0.1–0.2 m から得られた本種 1 個体(KPM-NI 18666)を報告した. 鹿児島県におけるエビスシイラの記録は少な く,今井・中原(1969)は鹿児島湾産魚類に本種 を含めたものと,瀬能(2013)が本種の種子島に おける分布を報告したものに限られる.今井・中 原(1969)の記録は標本に基づくものではなく, 本研究において記載をおこなった 2 個体は,鹿児 島県本土における本種の標本に基づく初めての記 録となる. 比較標本 シイラ Coryphaena hippurus: KAUM– I. 109832, 体 長 455.0 mm, 鹿 児 島 県 種 子 島 沖, 鹿児島市中央卸売市場で購入,2013 年 11 月 13 日, 釣り,畑 晴陵. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては笠 沙町漁業協同組合の関係者の皆様に多大なご協力 を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表する. 本研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県 産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として 行われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 科研費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた.

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引用文献 千葉 悟.2013.シイラ.P. 140.本村浩之・出羽慎一・古 田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫黄島と竹 島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立 科学博物館,つくば. 千葉 悟.2014.シイラ.P. 213.本村浩之・松浦啓一(編), 奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島大学総合 研究博物館,鹿児島,国立科学博物館,つくば. Collette, B. B. 1999. Coryphaeniade, Dolphinfishes (“dolphins”). Pp. 2656–2658 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO, Rome. Gibbs, R. H., Jr. and Collette, B. B. 1959. On the identification, distribution and biology of the dolphins, Coryphaena hippurus and C. equiselis. Bulletin of Marine Science of the Gulf of Caribbean, 9: 117–152. 橋村 修.2003.亜熱帯性回游魚シイラの利用をめぐる地 域性と時代性:対馬暖流域を中心に.国立民族学博物 館調査報告,46: 199–223. Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, 26: i–xi + 1–186. 岩坪洸樹.2017.シイラ Coryphaena hippurus Linnaeus 1758. P. 140.岩坪洸樹・本村浩之(編),火山を望む麑海 鹿 児島湾の魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島. 鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. 蒲原稔治.1956.トカラの魚.高知大学学術研究報告,3: 1–11. Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Report of Usa Marine Biological Starion, 11: 1–99. Kawama, K. 2017. Coryphaena equiselis Linnaeus 1758. P. 103. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) 瀬能 宏.2013.シイラ科.Pp. 876, 1990.中坊徹次(編). 日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海大学出版会, 秦野. 鈴木寿之・細川正富・波戸岡清峰.2000.兵庫県産魚類標 本目録 -鈴木寿之魚類コレクション兵庫県産編 ―. 大阪市立自然史博物館収蔵資料目録第 32 集.大阪自然 史博物館,大阪.143 pp. 内田恵太郎.1935.島根縣沖合で漁獲されるエビスシイラ に就て.日本水産学会誌,4 (4): 224–228. 渡井幹雄・宮崎佑介・村瀬敦宣・瀬能 宏.2009.慶良間 諸島渡嘉敷島渡嘉志久湾の魚類相.神奈川県立博物館 研究報告(自然科学),38: 119–132. 財団法人鹿児島市水族館公社.2008.鹿児島水族館が確認 した ― 鹿児島の定置網の魚たち.260 pp.財団法人鹿 児島市水族館公社,鹿児島.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島嘉徳川における陸水産甲殻十脚類の生息状況と下流域の利用 鈴木廣志 ・豊福真也 ・岡野智和 ・岡野和夏 1

1 2

1

2

3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4−50−20 鹿児島大学水産学部

〒 894−8588 鹿児島県奄美市名瀬安勝町 7−1 鹿児島県立大島高等学校 3

〒 894−0061 鹿児島県奄美市名瀬朝日町 31−2 奄美市立朝日小学校

Abstract The monthly survey was conducted at the lower reaches of River Katoku in Amami-Ohshima Island to clarify the fresh-water crustacean decapod fauna and their usage the reaches of the river. The surveys were done from May 2015 to September 2017. A total of 1778 shrimps, divided into 11 species, four genera and two families, was collected during the survey period. Among them, six species, Macrobrachium formosense, Macrobrachium japonicum, Palaemon debilis, Paratya compressa, Caridina typus and Caridina leucosticta, account for over 90 % of a total number of individuals. Almost all these species might be inhabited in the river as occurring in every survey time. However, Palaemon paucidens and Caridina grandirostris were thought to be collected by chance. Their usage the reaches were also discussed about each species. はじめに 奄美群島は南西諸島のほぼ中央に位置する,南 北約 200 km に及ぶ島嶼群であり,中琉球ともい われている.亜熱帯地域としては世界でも有数の 雨の多い気候条件下にあり,大陸や日本列島から 分離されたことから,固有種や希少種等の貴重な 野生動植物が確認されている(鮫島,1995).奄 Suzuki, H., S. Toyofuku, T. Okano and K. Okano. 2018. On the crustacean decapods fauna and their usage the lower reaches of River Katoku in Amami-Ohshima Island, Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 44: 215– 219. HS: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: suzuki@ fish.kagoshima-u.ac.jp). Published online: 12 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-029.pdf

美群島の陸水産甲殻十脚類に関する研究は上田 (1963) の 研 究 に 始 ま り, 諸 喜 田(1975,1979, 1989)により初めて奄美群島における総合的な分 布と種分化の研究がなされるに至り,その後多く の研究が行われ多数の成果が挙げられている(論 文の詳細は鹿児島大学生物多様性研究会編(2016) を参照).しかしながら,これらの研究は,いず れも時空間的に断続的な研究であり,一つの河川 を継続的に調査した研究はほとんどない.両側回 遊を行う種が多い陸水産甲殻十脚類において,断 続的な調査では,各種の対象河川の利用の仕方, すなわち恒常的利用か,偶来的利用かなどは判断 できない.そこで,本研究では奄美大島嘉徳川下 流域において,陸水産甲殻十脚類の継続的出現状 況を明らかにし,各種の下流域の利用方法を検討 することを目的とした. 材料と方法 調 査 は 2015 年 5 月 か ら 2017 年 9 月 ま で, 毎 月 1 回,奄美大島嘉徳川の河口から約 1.4 km の ところにある支流下流域(北緯 28°11′49.19″,東 経 129°23′31.69″)で行った(図 1).陸水産甲殻 十脚類の採集にはたも網(メッシュサイズ 1 mm × 1 mm,間口 25 cm)を使用し,キック&スイー プ法や抽水植物などをたも網で掬い取る方法で採 集した.この際に採集者の人数と採集時間を記録 した. 採集した個体は全て 99% アルコールに保存し 研 究 室 に 持 ち 帰 っ た. 実 体 顕 微 鏡(Nikon SMZ-U)を用いて外部形態から,種の同定,性 の判別,及び抱卵の有無を記録し,精度 0.05 mm のノギスを用いて,カニ類は甲長と甲幅を,エ

215


Nature of Kagoshima Vol. 44

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図 1.調査河川(嘉徳川;右)及び調査流域の全景(左).

エビが 391 個体(22.1%),トゲナシヌマエビが 228 個体(12.8%) ,ヒラテテナガエビが 149 個体 (8.4%),スネナガエビが 142 個体(8.0%),ミゾ レヌマエビが 137 個体(7.7%)であり,この 6 種で全体の 93.9% を占めていた.一方,スジエ ビとツノナガヌマエビはそれぞれ 6 個体(0.4%) 及び3個体(0.3%)しか出現しなかった(図 2). 各種の出現状況 11 種の出現状況をみると,4 つのパターンが認 められた.すなわち,パターン I:出現個体数が 多くほぼ毎調査日に出現する(図 3);ミナミテ 図 2.調査期間を通した甲殻十脚類の出現割合.N は総出現 個体数.

ナガエビ,ヒラテテナガエビ,ヌマエビ,及びト ゲナシヌマエビ,パターン II:出現個体数は多く ないが毎年一定期間出現する(図 4);コンジン

ビ類については眼窩甲長と眼窩体長を計測した.

テナガエビ,スネナガエビ,及びヤマトヌマエビ,

性の判別は,カニ類については腹部の形で,エビ

パターン III:出現状況に年変動が認められる(図

類については第 2 腹肢先端の雄性突起の有無で

5) ;ミゾレヌマエビ及びヒメヌマエビ,及びパター

行った.各月の出現個体数は,努力量(30 人分)

ン IV:出現個体数が極端に少なく不規則あるい

あたりの個体数に換算した.

は偶来的に出現する(図 6);スジエビ及びツノ

結果と考察 出現した陸水産甲殻十脚類

ナガヌマエビ,である. これら 4 つの出現パターンのうち,パターン IV を除く 3 パターンを比較すると,もっとも出

調査期間において,テナガエビ科 2 属 5 種,ヌ

現個体数の多かったミナミテナガエビの出現状況

マエビ科 2 属 6 種の 2 科 4 属 11 種が出現し,そ

と他種の出現状況の間に弱い負の関係が認められ

の総個体数は 1778 個体であった.ただし,その

た.つまり,ミナミテナガエビの出現個体数が少

うち 8 個体は損傷していたため種まで同定できな

ない 2015 年 5 月から 11 月にはヒラテテナガエビ

かった.採集期間を通して,ミナミテナガエビが

及びスネナガエビの出現個体数が多く,2016 年 6

最も多い 622 個体(34.9%)出現し,次いでヌマ

月から 8 月及び 2017 年 5 月から 9 月を見ると,

216


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Nature of Kagoshima Vol. 44

図 3.ミナミテナガエビ,ヌマエビ,トゲナシヌマエビ及びヒラテテナガエビにおける出現個体数並びに平均眼窩甲長の経月変化. 縦軸は最大 — 最小の範囲を示す.

トゲナシヌマエビ,ヌマエビ,及びスネナガエビ

ら 9 月に見られる点で共通していた.このことは,

の出現個体数が多くなっている.また,コンジン

少なくとも 9 種にとって下流域は新規加入個体の

テナガエビ及びヤマトヌマエビは,ミナミテナガ

定着流域もしくはその近傍流域であることを示し

エビを含む他種の個体数が一様に少ない 2016 年

ている.しかしながら,最小値を示した後の平均

1 月から 3 月及び 2017 年 1 月から 3 月に出現す

眼窩甲長の変化では各種異なる傾向を示した.

る傾向を示した.この時期にはパターン III を示

ミナミテナガエビでは,7 月から 9 月に最小値

すミゾレヌマエビ及びヒメヌマエビも出現した.

を示した平均眼窩甲長は,その後翌年の 2 月ごろ

スジエビ及びツノナガヌマエビを除く 9 種の

までほぼ 5 mm で変化せず,3 月以降は増加傾向

平均眼窩甲長の最小値は,ミナミテナガエビのオ

を示し 6・7 月に最大となった(図 3).この間,

スが 4.9 mm,メスが 3.6 mm,ヌマエビではオス 3.3

最大 − 最小幅を見ると,7・8 月から翌 2 月まで

mm,メス 2.8 mm,ヒラテテナガエビのオスが 4.8

は小さく,3 月以降は大きくなる傾向を示し,こ

mm, メスが 5.4 mm,スネナガエビではオス 5.3

の時期には抱卵メスも出現していた.以上のこと

mm,メス 5.0 mm,トゲナシヌマエビのオスが 3.8

から,ミナミテナガエビでは夏期から初冬にかけ

mm,メスが 2.0 mm,ミゾレヌマエビではオス 2.9

定着した新規加入個体は,この下流域で留まり成

mm,メス 2.7 mm,ヤマトヌマエビのメスが 3.0

長することなく,すぐに上流や本流域などへ移動

mm,コンジンテナガエビではオス 4.3 mm,メス

すると考えられる.その後成長成熟した個体は繁

4.0 mm,ヒメヌマエビのオスが 2.9 mm,メスが 3.5

殖のために河口へ移動する途中で本下流域を通過

mm と,どの種においても各種の定着サイズもし

していくと考えられる.すなわち,ミナミテナガ

くはその直後のサイズであり,かつ夏期の 7 月か

エビは下流域を新規加入個体の定着流域及び繁殖

217


Nature of Kagoshima Vol. 44

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図 5.ミゾレヌマエビ及びヒメヌマエビにおける出現個体数 並びに平均眼窩甲長の経月変化.縦軸は最大 — 最小の範 囲を示す.

図 4.コンジンテナガエビ,スネナガエビ及びヤマトヌマ エビにおける出現個体数並びに平均眼窩甲長の経月変化. 縦軸は最大 — 最小の範囲を示す.

のための通過流域として利用していると考えられ る. 一方,ヌマエビ及びミゾレヌマエビの平均眼 窩甲長の変化を見ると,最小値が夏期の 5 月から 7 月に見られるのはミナミテナガエビと類似する が,その後雌雄とも増加する点で異なっていた. この間個体数は急激に減少するも,夏期あるいは 秋期から初冬にかけて 5–10 個体程度で推移して いた.さらに,抱卵メスは数少ないが冬から夏に かけて出現した.これらのことは,両種が本下流 域を新規加入流域として利用すると同時に,一部 の個体にとっては成長の場としても利用されてお り,かつ繁殖の場でもあることを推察させた.

218

図 6.スジエビ及びツノナガヌマエビにおける出現個体数並 びに平均眼窩甲長の経月変化.縦軸は最大 — 最小の範囲 を示す.


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トゲナシヌマエビの平均眼窩甲長の変化は前 3

Nature of Kagoshima Vol. 44

ガエビの個体数に左右されて変動すると考えられる.

種とは少し異なり,調査期間を通じて 4 mm から

2 年 5 ヶ月の調査期間を通じて,スジエビは 6

5 mm の値を示し,かつ最大 — 最小幅も小さかっ

個体,ツノナガヌマエビは 3 個体しか出現しな

た.同時に多くの抱卵メスも出現した.このこと

かった.しかも,それぞれの眼窩甲長は 3.3 mm

は定着した新規加入個体がすぐに他の流域に移動

から 4.7 mm,並びに 2.4 mm から 4.7 mm の小型

し,成長後に下流域に戻って滞留することを推察

個体であった.このことは両種が本河川では偶来

させた.すなわち,トゲナシヌマエビは下流域を

種であることを示唆している.スジエビの分布南

主に繁殖の場として利用していると考えられる.

限は屋久島と言われていたが,鈴木ほか(2015)

ヒラテテナガエビの平均眼窩甲長は,2015 年

が奄美大島で初記録をしている.今回の調査では

のオスではほぼ 9 mm 前後の値を示し,メスでは

成体が出現しなかったことから本種が奄美大島か

15 mm から 7 mm へと減少した.2016 年でも個

ら報告されたのも偶来的に定着した個体だったと

体数は少ないが初夏から初冬にかけて減少してい

考えられる.ただ,屋久島と奄美大島の位置関係

る.これらのことは,本種にとって下流域は繁殖

を考慮すると幼生がどのようにして奄美大島まで

のための通過流域であることを示唆している.

たどり着くのかはとても興味あるところである.

コンジンテナガエビ及びヤマトヌマエビの平 均眼窩甲長はそれぞれ 5 mm 前後,4 mm 前後の 小型サイズで一定していた.スネナガエビでは若

今後の研究が期待される. 謝辞

干の変動や最大 — 最小幅をときおり示すが,や

本研究を進めるにあたり,数々のご助言,激

はり 5 mm 前後で推移していた.これらのことは

励ならびにご協力をいただいた鹿児島大学農水産

3 種にとって下流域は新規加入個体の定着場では

獣医学域水産学系准教授の小針 統博士及び久米

あるが,定着後はすぐに他の流域に移動すること

元博士,並びに同大学水産学部海洋生物研究室の

を示唆している.また,抱卵メスもほとんど出現

皆様に厚く御礼申し上げる.なお,本研究の一部

しないことから,繁殖場としてもあまり利用され

は科学研究費補助金(基盤研究(A)26241024)

ていないことを推察させる.

並びに鹿児島大学概算要求特別経費「薩南諸島の

ヒメヌマエビの平均眼窩甲長の変化は,前 8 種と は大きく異なり,まずは成長成熟した個体が出現し, その後小型個体が出現する傾向を示した.しかも多 くのメス個体は抱卵個体であった.本種の一般的な 生息域は汽水域で,本調査流域が感潮線より淡水側 であることを考慮すると,汽水域に定着した新規加 入個体が汽水域で成長成熟し,ミナミテナガエビを 含む他種の生息数が少ない場合に,本流域に偶来的 に移動してくるものと考えられる. 以上まとめると,本河川では少なくとも 9 種 の淡水産コエビ類が恒常的に生息しており,優先 種のミナミテナガエビは下流域を新規加入個体の 定着流域及び繁殖のための通過流域として利用す ると考えられる.これに対し,ヒメヌマエビを除 く 7 種も下流域を新規加入個体の定着流域として 利用しているが,ミナミテナガエビの新規加入個 体と競合関係にあるためその定着量はミナミテナ

生物多様性とその保全に関する教育研究拠点形 成」の経費により実施された. 引用文献 鹿児島大学生物多様性研究会編,2016.奄美群島の生物多 様性 ― 研究最前線からの報告.南方新社,鹿児島市, 393 pp. 上田常一,1963.奄美大島・屋久島・種子島の淡水エビ類. 島根大学論集(自然科学),13: 1–28. 水田 拓 編著,2016.奄美群島の自然史学 — 亜熱帯島 嶼の生物多様性 −.東海大学出版部,平塚市,388 pp. 鮫島正道,1995.東洋のガラパゴス ― 奄美の自然と生きも のたち.南日本新聞社,鹿児島市,177 pp. 諸喜田茂充,1975.琉球列島の陸水産エビ類の分布と種分 化について- Ⅰ.琉球大学理工学部紀要(理学篇),18: 115–136. 諸喜田茂充,1979.琉球列島の陸水産エビ類の分布と種分 化について- Ⅱ.琉球大学理学部紀要,28: 193–278. 諸喜田茂充,1989.奄美大島の陸水産エビ類相と分布.昭 和 63 年度奄美大島調査報告書 : 267–275. 鈴木廣志,大元一樹,光木愛理,2015 テナガエビ科スジエ ビの奄美大島における初記録.Nature of Kagoshima, 41: 191–193.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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タンポポスズメダイの水中写真に基づく屋久島からの記録 岩坪洸樹 ・原崎 森 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 892–0847 鹿児島市西千石町 11–21 鹿児島 MS ビル 鹿児島水圏生物博物館 2 3

〒 891–4205 鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦 2473–294

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ス ズ メ ダ イ 科 魚 類 Chromis albicauda Allen and Erdmann, 2009,Chromis analis (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1830), お よ び Chromis xouthos Allen and Erdmann, 2005 は,体高が高く体は丸みを帯び ること,背鰭棘数が 13 であること,および成魚 は体が黄系色を呈することなどの特徴を共有し, 互に酷似するため,日本国内では長らく混同され ていた(岩坪・本村,2010, 2016).岩坪・本村(2010) は標本に基づき,国内から C. albicauda を報告し, 標準和名コガネスズメダイを適用した.その後, 岩坪・本村(2016)は,岩坪・本村(2010)が C. analis と同定し,標準和名ヒマワリスズメダイ提 唱の基準とした標本(KAUM–I. 29566,体長 95.9 mm) を C. xouthos に 同 定 し た. そ れ と 同 時 に, 八重山諸島西表島から得られた C. analis の標本 (OMNH-P 34155,体長 96.0 mm)に基づき,標準 和名タンポポスズメダイを提唱した(岩坪・本村, 2016).したがって,標準和名と学名の対応は, コガネスズメダイ C. albicauda,タンポポスズメ ダ イ C. analis, お よ び ヒ マ ワ リ ス ズ メ ダ イ C. xouthos となった. タンポポスズメダイは,国内からは八重山諸島 Iwatsubo, H., S. Harazaki and H. Motomura. 2018. An underwater photograph record of Chromis analis (Perciformes: Pomacentridae), from Yaku-shima island, Osumi Islands, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 221–223. HI: Kagoshima Museum of Aquatic Biodiversity, Kagoshima MS Building, 11–21 Nishisengoku, Kagoshima 892– 0847, Japan (e-mail: k8878027@kadai.jp). Published online: 14 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-030.pdf

西表島からのみ記録されていた(加藤,2011;岩坪・ 本村,2016).しかし,2005 年 3 月 27 日に大隅諸 島屋久島の一湊沖水深 25m で撮影されたスズメ ダイ属魚類の水中写真が,タンポポスズメダイに 同定された.この写真は本種の北限更新記録とな るため,ここに報告する. 材料と方法 囲眼部の骨の名称は,岸本ほか(2006)にし たがった.写真から明瞭にわかる形質の計数を 行った.涙骨上の鱗列(Preorbital scale rows)は 眼窩前縁下方・主上顎骨間の鱗の横列数,眼下骨 上の鱗列(Suborbital scale rows)は眼下骨上の鱗 の横列数を計数した.本報告に用いた水中写真は, 鹿児島大学総合研究博物館の画像データベース (KAUM–II)に登録されている.本報告中で用い られている研究機関略号は以下の通り:KAUM (鹿児島大学総合研究博物館);OMNH(大阪市 立自然史博物館). 結果と考察 Chromis analis (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1830) タンポポスズメダイ (Fig. 1) 写真 KAUM–II. 64,大隅諸島屋久島一湊,水 深 25 m,2005 年 3 月 27 日,原崎 森. 分布 日本国内では,大隅諸島屋久島(本報告) と八重山諸島西表島(加藤,2011;岩坪・本村, 2016)から報告された.日本国外では,フィリピ ンのセブ島とルソン島(加藤,2011),インドネ シ ア の ア ン ボ ン 島(Cuvier and Valenciennes, 1830),スマトラ島(岩坪・本村,2016),バリ島

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Underwater photograph of Chromis analis (off Isso, Yaku-shima island, Osumi Islands, Kagoshima, Japan, 25 m depth, 27 March 2005). Photo by S. Harazaki.

(加藤,2011; Allen and Erdmann, 2012: 577, left fig.),

以降,タンポポスズメダイは日本国内から記録さ

フ ロ ー レ ス 島(Kuiter and Tonozuka, 2004: 390,

れていない.したがって,本報告は本種の西表島

upper fig.),およびオーストラリアのグレートバ

以北の海域からの初めての記録となる.第 2 著者

リアリーフ (Allen, 1991: 238, fig.) から記録がある.

による長年の屋久島における観察でも,タンポポ

備考 屋久島一湊で撮影された水中写真は,体

スズメダイは 2 回確認されたのみである.本種は

高が高く体は丸みを帯びること,背鰭が 13 棘 12

屋久島周辺海域で再生産しておらず,黒潮によっ

軟条であること,臀鰭が 2 棘 11 軟条であること,

て八重山諸島や台湾周辺から偶発的に来遊したも

胸鰭が 18 軟条であること,有孔側線鱗が 15 枚で

のと考えられる.

あること,涙骨上の鱗列が 1–2,眼下骨上の鱗列 が 1 であること,尾鰭が黄色を呈すること,胸鰭

謝辞

基底上端がわずかに黒色がかること,背鰭棘部が

本研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児

一様に黄色であること,および体が緑色がかった

島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環と

灰色であることから,岩坪・本村(2016)が示し

し て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費

たタンポポスズメダイ Chromis analis の標徴とよ

(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),

く一致した.

JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学

加藤(2011)は標本や水中写真を示していない

術基盤形成型,国立科学博物館「日本の生物多様

が,タンポポスズメダイを “ ヒマワリスズメダイ

性ホットスポットの構造に関する研究プロジェク

(タイプ 2)” として八重山諸島西表島に分布する

ト」,文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様

ことを記述した.その後,岩坪・本村(2016)は

性とその保全に関する教育研究拠点整備」,およ

西 表 島 か ら の 標 本(OMNH-P 34155, 体 長 96.0

び鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性・島

mm)に基づき C. analis を記録し,標準和名タン

嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助を受けた.

ポポスズメダイを提唱した.岩坪・本村(2016)

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引用文献 Allen, G. R. 1991. Damselfishes of the world. Mergus Publishers, Melle, 271 pp.

Nature of Kagoshima Vol. 44 岩 坪 洸 樹・ 本 村 浩 之 2016. ス ズ メ ダ イ 科 魚 類 Chromis analis タンポポスズメダイ(新称)と C. xouthos ヒマワ リスズメダイの日本における記録と標準和名.タクサ, 41: 40–45.

Allen, G. R. and Erdmann, M. V. 2012. Reef fishes of the East Indies, vol. 2, pp. 425–856, Tropical Reef Research, Perth.

加藤昌一 2011.ネイチャーウォッチングガイドブック スズメダイ~ひと目で特徴がわかる図解付き~.239 pp.誠文堂新光社,東京.

Cuvier, G. and Valenciennes, A. 1830. Histoire naturelle des poisons, vol. 5. Chez F. G. Levrault, Paris. xviii + 499 + 4 pp., pls 100–140.

岸本浩和・鈴木伸洋・赤川 泉 2006.魚類学実験テキスト. 130 pp.東海大学出版会,秦野.

岩 坪 洸 樹・ 本 村 浩 之 2010. ス ズ メ ダ イ 科 魚 類 Chromis analis ヒマワリスズメダイ(新称)と C. albicauda コガ ネスズメダイの日本における記録と標準和名.日本生 物地理学会会報,65: 57–64.

Kuiter, R. H. and Tonozuka, T. 2004. Pictorial guide to: Indonesian reef fishes, part 2, second edition, pp. 304–622, PT Dive & Dive’s, Bali.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島市喜入干潟におけるフトヘナタリ Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum の生活史 高田滉平・村永 蓮・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 フトヘナタリ Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum (A. Adams, 1855) は日本では東 京湾以南に分布し,西太平洋沿岸に広く分布する フトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻貝である. 鹿児島市喜入町を流れる愛宕川河口干潟には,メ ヒルギやハマボウからなるマングローブ林が広 が っ て お り, ウ ミ ニ ナ 科 の ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) とフトヘナタリ科のフ トヘナタリ,カワアイ Cerithidea djadjariensis (K. Martin, 1899),ヘナタリ Cerithidea cingulate (Gmelin, 1791) の 4 種が同じ生息域に生息している.本研 究では,愛宕川河口干潟におけるフトヘナタリの 殻幅サイズの季節変動および生息密度について調 査と考察を行った.調査は,鹿児島県鹿児島市喜 入 町 を 流 れ る 愛 宕 川 の 河 口 干 潟(31°23′N, 130°33′E)において満潮線から支流までの水平距 離が約 9 m,高低差が 150 cm の比較的急傾斜な場 所で行った.サイズ頻度分布は 2017 年 1 月から 2017 年 12 月の期間に毎月 1 回,大潮の干潮時に, 目視可能なフトヘナタリを無作為に 100 個体程度 採集し,殻幅(mm)をノギスを用いて 0.1 mm 単 位まで計測し記録した.フトヘナタリは成貝にな ると殻頂部が失われることがほとんどであるため Takada, K., R. Muranaga and K. Tomiyama. 2018. Life history of Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum in Kiire, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 225–231. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp). Published online: 22 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-031.pdf

殻幅を記録した.生息密度調査は無作為にコド ラート 5 箇所設置して行った.コドラートは 50 cm × 50 cm 区画のものを使用し,区画内の目視可 能なフトヘナタリの個体数を記録した.その結果, 愛宕川河口干潟において,過去の調査と比較して, 殻幅サイズの季節変動に若干のずれがあった.新 規加入が見られる年とそうでない年があるが, 2017 年においては特に目立った新規加入は確認さ れなかった.フトヘナタリの生息密度に関しては, 6 月以降に急激に個体数が増加し,区画間での平 均値なども増加したことから,6–9 月の時期に生 殖行動が行われたため高密度に集合したのではな いかと考えられる. はじめに フトヘナタリ Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum (A. Adams, 1855) は日本では東 京湾以南に分布し,西太平洋沿岸に広く分布する フトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻貝であり, アシ原やマングローブ林の潮間帯上部干潟の砂泥 上に生息する.殻長 40 mm 内外であり,成貝で は殻頂部は,腐食によって失われることが多い. 殻表には多くの明瞭な螺肋と,弱く細く縦肋を持 つ.鹿児島県内では大小河川の河口干潟に生息し ており,種子島,屋久島,奄美大島にも分布する. 鹿児島市喜入町を流れる愛宕川河口干潟には,メ ヒルギやハマボウからなるマングローブ林が広 がっており,太平洋域におけるマングローブ林の 北 限 と な っ て い る. ウ ミ ニ ナ 科 の ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) とフトヘナタ リ 科 の フ ト ヘ ナ タ リ, カ ワ ア イ Cerithidea djadjariensis (K. Martin, 1899),ヘナタリ Cerithidea cingulate (Gmelin, 1791) の 4 種が同じ生息域に生 息している.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 2.喜入干潟の概略地図と調査場所の位置.楕円で囲ま れた地域で調査を行った.

の変化について考察を行っていくことを目的とし た. Fig. 1.鹿児島県の地図と喜入干潟の調査地の位置.楕円の 場所が調査地を示す.

材料と方法 調査地 調査は,鹿児島県鹿児島市喜入町を 流れる愛宕川の河口干潟(31°23′N, 130°33′E)で

フトヘナタリは 1855 年に A. Adams によって

行った(Figs. 1, 2).愛宕川は鹿児島湾の日石原

Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizophorarum

油基地の内側に河口があり,この河口部で八幡川

と記載された.フトヘナタリの生態に関しての研

河口と合流している.干潟周辺には,メヒルギや

究としては,Wells (1983) により香港のマングロー

ハマボウからなるマングローブ林が広がってお

ブ林に生息するウミニナ科,ヘナタリ科の 6 種の

り,太平洋域におけるマングローブ林の北限と

フトヘナタリ,カワアイ,ヘナタリ,ウミニナ,

なっている.調査地周辺の干潟の底質は泥質から

イ ボ ウ ミ ニ ナ Batillaria zonalis (Bruguiere, 1983),

砂泥質であり,ウミニナ,カワアイ,ヘナタリ,

マ ド モ チ ウ ミ ニ ナ Terebralia sulcata (Born, 1778)

フトヘナタリなどのフトヘナタリ科やウミニナ科

の分布と生息環境の関係が考察されている.フト

の巻貝を中心に多くの軟体動物が生息している.

ヘナタリの木登り行動に関しては,大滝(2002),

本調査では,愛宕川河口の支流にある干潟におい

武内・冨山(2005)により報告されており,フト

て,満潮線から支流までの水平距離が約 9 m,高

ヘナタリのサイズ分布の季節変動に関しては,喜

低差が 150 cm の比較的急傾斜な場所で行った.

入町愛宕川の河口干潟において若松・冨山(2000),

尚,3 月は諸事情により調査を行うことができな

大滝ほか(2001),武内・冨山(2005),中島(2007),

かった.

井上(2008)により報告されているが,稚貝の新

材料 盤足目 フトヘナタリ科 フトヘナタ

規加入時期が特定不十分であり,新規加入が見ら

リ Cerithidea (Cerithidea) rhizophorarum rhizopho-

れる年とそうでない年があるとされている.

rarum A. Adams, 1855

調査地である鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川

東京湾以南に分布し,西太平洋沿岸に広く分

河口干潟では,2010 年から道路整備事業が行わ

布する.鹿児島県内では大小河川の河口干潟に生

れており,マリンピア橋が建設された.この工事

息しており,種子島,屋久島,奄美大島にも分布

によって近辺の干潟が相当攪乱された.本調査で

する.内湾域の干潮帯や,河川河口域の汽水域に

は愛宕川河口干潟におけるフトヘナタリの生活史

生息し,アシ原やマングローブ林の潮間帯上部干

についてさらに調査を進め明らかにしていくとと

潟の砂泥上に生息する.同じ生息域にヘナタリ,

もに,橋が建設された前後のフトヘナタリの生態

カワアイ,ウミニナなどが生息する.殻長 40 mm

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 3.喜入干潟におけるフトヘナタリの殻幅サイズ頻度分布の季節変化.2017 年 1 ~ 12 月まで.3 月はデータ欠失.横軸 は殻幅のサイズ(mm),縦軸はそれぞれのサイズクラスにおける出現個体数を示す.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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内外であり,成貝では殻頂部は失われる.殻表に

サイズピークを持つグループが存在した.11 月

は多くの明瞭な螺肋と,弱く細い縦肋を持つ.殻

と 12 月にわずかであるが 2–3 mm の個体を確認

口は外唇が反転肥厚し,前端に弱い水管が形成さ

することができた.

れる.殻色の色彩は変異に富むが,白色地に黒褐 色の色帯が出る個体が多い(鹿児島県レッドデー タブック,2016). 方法 サイズ頻度分布の調査—調査は喜入の

殻幅サイズの季節変化 喜入干潟におけるフトヘナタリの殻幅サイズ の季節変化を Fig. 4 に示す.喜入町愛宕川河口干

愛宕川河口干潟において,2017 年 1 月から 12 月

潟において,殻幅のサイズの最大値については,

の期間に毎月 1 回,大潮の干潮時に,目視可能な

6 月に最大をとり,10 月に最小をとった.殻幅の

フトヘナタリを無作為に 100 個体程度採集し,殻

サイズの最小値については,2 月に最大をとり,

幅(mm)をノギスを用いて 0.1 mm 単位まで計

12 月に最小をとった.殻幅のサイズの平均値に

測し記録した.フトヘナタリは成貝になると殻頂

ついては,1 月に最大をとり,7 月に最小をとった.

部が失われることがほとんどであるため殻幅を記

平均値については 1 月と 2 月において高い値を

録した.採取した貝は持ち帰り,冷凍保存したの

とったが 4 月以降は 7 mm 前後を推移していた.

ち,乾燥させ計測を行った. 生息密度調査—調査は喜入の愛宕川河口干潟 において,2017 年 1 月から 12 月の期間に毎月 1 回,

個体数の変動 喜入干潟におけるフトヘナタリの生息数の季

大潮の干潮時に,無作為にコドラート 5 箇所設置

節変化を Fig. 5 に示す.喜入町愛宕川河口干潟に

して行った.コドラートは 50 cm × 50 cm 区画の

おいて,1 月のから 4 月にかけて個体数が少しず

ものを使用し,区画内の目視可能なフトヘナタリ

つ増加し,5 月と 6 月を境に急速に個体数が増加

の個体数を記録した.

した.その後も増加していき,9 月の 175 個体で

結果

ピークをとった.その後は減少し,11 月で増加 したものの,12 月には 60 個体であった.

サイズ分布の季節変化 喜入干潟におけるフトヘナタリの殻幅サイズ

生息密度

頻度分布の季節変化を Fig. 3 に示す.喜入町愛宕

喜入干潟におけるフトヘナタリの生息密度の

川河口干潟において,2017 年 1 月は 10–11 mm に

季節変化を Fig. 6 に示す.喜入町愛宕川河口干潟

サイズピークをもつ山型のグラフになり,わずか

において,5 区画間での平均出現個体数は,9 月

ではあるが 4 mm 前後にサイズピークをもつグ

に最大値 35 個体,1 月に最小値 4.2 個体であった.

ループも確認できた.2 月は 4–5mm にサイズピー

1 区画での出現個体数は,8 月と 9 月に最大値 46

クを持つグループがわずかに存在し,9–10mm に

個体,1 月に最小値 1 個体であった.

サイズピークを持つグループも存在した.4 月は 5 mm 前後にサイズピークを持つグループが存在

考察

した.5 月は 3–4 mm にサイズピークを持つグルー

喜入町愛宕川河口干潟におけるフトヘナタリ

プが存在し,サイズピークが下がった.6 月は 5

のサイズ頻度分布の季節変動に関しては,大滝ほ

月とほぼ同じようなサイズピークであった.7 月

か(2001),若松・冨山(2000),武内・冨山(2005),

では小さいサイズのグループと大きいサイズのグ

中島(2007),井上(2008)により報告されている.

ループの山が一つになり,4–5 mm にサイズピー

本研究において,5 月にサイズピークの移行が見

クを持つグループになった.8 月は 5–6 mm にサ

られた.これは井上(2008)による報告とは若干

イズピークを持つ大きな山型のグラフになった.

のずれがあった.サイズピークの移行に関しては

9 月になるとサイズピークが移行し,6–7 mm に

前年の新規加入個体の成長や 4 月に 9–10 mm に

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Fig. 4.喜入干潟におけるフトヘナタリの殻幅サイズの季節 変化.折れ線グラフの黒四角はそれぞれの月の殻幅サイ ズ(mm)の平均値を表す.それぞれの月の縦のバーは, 殻幅サイズの最小値と最大値を表す.

Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 6.喜入干潟におけるフトヘナタリの生息密度の季節変 化.生息密度は,50 cm × 50 cm 区画コドラートの 5 箇所 で採集された個体数の平均値で表した.グラフの縦軸は その月の平均密度を表す.

おり,新規加入が見られる年と,そうでない年が あるとしている.本研究と武内・冨山(2005), 中島(2007)の調査との比較からもやはり,新規 加入がある年とそうでない年があることは明らか であり,また,新規加入の個体数が年々減少して いる可能性も考えられる.これらの理由として, Fig. 5.喜入干潟におけるフトヘナタリの生息数の季節変化. 生息数は,50 cm × 50 cm 区画コドラートの 5 箇所で採集 された個体数で表した.グラフの縦軸はその月に採集さ れた個体数を表す.

武内・冨山(2005),中島(2007)および井上(2008) の報告から,以下に示す 7 通りの可能性が考えら れる.(1)新規加入が年ごとに異なる場所で行わ れている.(2)幼貝の定着自体の減少している. (3)月別による平均気温の差異の結果,幼貝の定

存在していたグループが寿命や愛宕川における環

着時期が年によって異なっている.(4)月別によ

境的変異により減少したことが考えられるが,今

る平均降水量の差異の結果,幼貝の定着時期が年

後詳細な継続調査を行っていく必要がある.武内・

によって異なっている.(5)月別による平均湿度

冨山(2005),中島(2007)の調査において 2004

の差異の結果,幼貝の定着時期が年によって異

年 9 月,2006 年 9 月に新規加入個体が加入した

なっている.(6)月別による全天日射量の差異の

のに対し,本研究では井上(2008)の報告と同様

結果,幼貝の定着時期が年によって異なっている.

に目立った加入の時期は確認されなかった.若松・

(7)月別による喜入町愛宕川の調査地における水

冨山(2000)の調査ではフトヘナタリの 3 mm 以

温の変化の結果,幼貝の定着時期が年によって異

下の個体が年間を通してほとんど採集されず新規

なっている.(1)の可能性については,新規加入

加入の時期については明らかにならなかったとし

が見られる年とそうでない年が存在することは明

た.また,大滝ほか(2001)の調査では,若松・

らかであるので,今後調査地を増やし季節変動を

冨山(2000)と同様に小型個体があまり得られず,

引き続き調査していくことが必要である.(2)の

加入時期にばらつきが見られたため新規加入の時

可能性については大滝ほか(2001)により,有機

期の特定には至らなかったとし,新規加入は調査

スズ剤汚染,いわゆる環境ホルモンにより引き起

場所外で行われているか,もしくは,幼貝の定着

こされるインポセックスによる繁殖力の低下や,

自体が減少している可能性があるとした.武内・

生息域と定着場所の汚染における幼生や幼貝の高

冨山(2005)の調査ではフトヘナタリの稚貝が 9

死亡率の可能性が報告されている.インポセック

月頃に新規加入することが明らかになったとして

スとは,巻貝の雌に雄の生殖器と輸精管が形成さ

229


Nature of Kagoshima Vol. 44

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れて発達し,卵形成阻害や輸卵管の入り口が閉鎖

いてカワアイ,ウミニナ,ヘナタリ,フトヘナタ

され,産卵できなくなる一連の症状を指す.愛宕

リが生息している数少ない場所である.しかし,

川河口干潟の調査地においては武内・冨山(2005)

この地域も道路整備事業による浚渫工事や船舶か

により,有機スズ剤汚染の可能性は支持されてい

ら流出する汚染物質などにより環境が悪化してい

る.この可能性においては今後の追跡調査が必要

る.さらには,粗大ごみなどの不法投棄,生活排

である.(3)–(6)の可能性については井上(2008)

水による水質汚染なども地域問題となっている.

により新規加入が見られた年(2001 年・2006 年)

本研究おいて,喜入町愛宕川河口干潟ではフトヘ

と新規加入が見られなかった年(2000 年・2002 年・

ナタリだけでなくヘナタリ,ウミニナ,カワアイ

2007 年)に目立って共通するデータは無く,可

も確認された.我々人間の破壊および汚染行為に

能性は非常に低いとされている.(7)については,

よりこのような環境が破壊され,生命が脅かされ

今後新たに調査を行い明らかにしていく必要があ

ることはあってはならず,現状そのような生物が

る.さらに,調査地では 2010 年にから道路整備

存在していることは忘れてはならない.

事業が行われており,マリンピア橋が建設され, 周囲の生態系に著しく被害を与えたが,この工事 による影響による可能性も考えられる.

謝辞 本研究の調査をするにあたり,鹿児島大学理

愛宕川河口干潟におけるフトヘナタリの個体

学部生態学地球環境科学科の生態学研究室の方々

数に関して,1–5 月と 6 月以降を比較して 6 月以

には,さまざまなご助言をいただきました.お世

降に急激に個体数が増加している.さらに 5–6 月

話になりました皆様に深く感謝申しあげます.本

頃にサイズピークの移行も見られることから前年

稿の作成に関しては,日本学術振興会科学研究費

の新規加入個体がこの時期に 3–6 mm 前後の個体

助成金の,平成 26–29 年度基盤研究(A)一般「亜

に成長したことが考えられるが,武内・冨山(2005)

熱帯島嶼生態系における水陸境界域の生物多様性

の報告では,9 月に新規加入した個体は冬にかけ

の研究」26241027-0001・平成 27–29 年度基盤研

て 3–6 mm に成長し,春から初夏にかけて 10 mm

究(C)一般「島嶼における外来種陸産貝類の固

前後に成長するとされており,本研究の結果とは

有生態系に与える影響」15K00624・平成 27–29

3–4 ヶ月程度のずれが見られる.しかしその一方

年度特別経費(プロジェクト分)-地域貢献機能

で,6–9 月にかけて個体数が増加しているのが生

の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関

殖行動のために高密度に集合しているのではない

する教育研究拠点整備」,および,2017 年度鹿児

かと考えると,7 月頃に生殖行動が見られたとす

島大学学長裁量経費,以上の研究助成金の一部を

る中島(2007),井上(2008)の報告と一致する.

使用させて頂きました.以上,御礼申し上げます.

そのためサイズ頻度分布の季節変動のずれが本調 査内だけの事であったのか,近年そのような傾向 にあるのかは判断しがたい.愛宕川河口干潟にお ける 2010 年以降のフトヘナタリのサイズ頻度分 布および個体数の調査は本研究が初めてであるの で,引き続き調査を行っていくことで明確にして いく必要がある. 本調査地である鹿児島市喜入町愛宕川河口干 潟では,2010 年から道路整備事業として干潟上 にマリンピア橋の建設が行われていた.本調査地 の愛宕川のマングローブ林は,太平洋のマング ローブ林の北限とされており,鹿児島県本土にお

230

引用文献 武内麻矢・冨山清升.2005.鹿児島県喜入干潟におけるフ トヘナタリの生活史及びウミニナ類の鹿児島県内にお ける分布.2004 年度鹿児島大学理学部地球環境科学科 卒業論文. 井上康介・冨山清升.2008.フトヘナタリ(Cerithidea rhizophorarum)の生態学的研究~マングローブ林周辺にお けるサイズ頻度分布の季節変化~.2007 年度鹿児島大 学理学部地球環境科学科卒業論文. 鹿児島県.2016.改訂・鹿児島県の絶滅の恐れのある野生 動植物 動物編 鹿児島県レッドデータブック 2016. 209 pp. 中島貴幸・冨山清升.2007.フトヘナタリの生態学的研究 ~異なる環境における同種の比較~.2006 年度鹿児島 大学理学部地球環境科学科卒業論文.


RESEARCH ARTICLES 大滝陽美・真木英子・冨山清升.2001.フトヘナタリの分 布と季節変化と繁殖行動.Venus, 60 (3): 199–210. 大滝陽美・真木英子・冨山清升.2002.フトヘナタリの木 登り行動.2001 年度鹿児島大学大学院理工学研究科地 球科学専攻修士論文. 若松あゆみ・冨山清升.2000.北限マングローブ林周辺 干潟におけるウミニナ分布の季節変化.Venus, 59 (3): 225–243.

Nature of Kagoshima Vol. 44 Wells, F. E. 1983. The Potamididae (Mollusca : Gastropoda) of Hong Kong, with an examination of habitat segregation in a small mangrove system. In: B. Morton and D. Dudgen (eds.) Proceeding of the Second International Workshop on the Malacofauna of Hong Kong and Southern China, Hong Kong, 1983, pp. 140–154. Hong Kong University Press, Hong Kong.

231


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Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島湾喜入での防災整備事業により破壊された干潟における 腹足類貝類の動物相の生態回復 村永 蓮・高田滉平・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科

要旨 干潟は河川が運んだ土砂が河口付近や湾奥など の海底に堆積し,干潮の際に海面上へ姿を現した ものであり,水質浄化や生物多様性の保全など重 要な役割を持った環境である.日本の干潟は , 全 国 で 過 去 60 年 の 間 に 40% が 失 わ れ た( 花 輪, 2006).干潟は遠浅で開発がしやすいことから, 埋め立てや干拓の対象になってきた.これらの一 度消失した干潟は自然に回復することは難しく, 人工的な再生では持続的な生態系を維持すること は困難である.鹿児島湾喜入町愛宕川支流河口干 潟である喜入干潟は,太平洋域における野生のマ ングローブ林の北限地とされ,腹足類や二枚貝類 をはじめ多くの底生生物が生息している.しかし, 2010 年から始まった道路整備事業の工事によって 喜入干潟の一部が破壊され,干潟上の生物相が大 きな被害を受けた.この干潟の破壊が干潟上の生 物相へどれほどの影響を与えているか調査する必 要性があると感じ,研究することとした.喜入干 潟には非常に多くの巻貝類が生息している.その 中でも特に多く生息している,ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869), ヘ ナ タ リ Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791), カ ワ ア イ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensisi (K. Muranaga, R., K. Takada and K. Tomiyama. 2018. The habitation recovery of snail fauna in the disturbance of road construction at the tideflat in Kiire, Kagoshima, Japan. Nature of Kago-shima 44: 233–248. KT: Department of Earth & Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065 (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp). Published online: 22 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-032.pdf

Martins, 1899) が多く生息している.採集もしやす く,個体の移動も少ないことから,この三種を環 境評価基準として研究に用いた.種の同定を行う 際,ヘナタリとカワアイの幼貝が目視で判別する ことが極めて困難であるため,今研究ではこの 2 種をヘナタリの仲間としてまとめた.防災道路整 備事業が巻貝類の生態へどれほど影響するかを比 較するため,二つの調査地点を設置した.一つ目 は干潟上に建設されている橋の真下で Station A, 二つ目は工事による直接的な影響をあまり受けて いないと思われる愛宕川支流の近くで Station B と した.調査は 2017 年1月から同年 12 月まで行っ た.毎月 1 回採取したウミニナとヘナタリの仲間 について,各月土とのサイズ別頻度分布,個体数 の季節変動をグラフにして,生態の変化について 研究した.結果として,ウミニナの新規加入個体 数 は,Station A で は 昨 年 よ り も 増 加 し て い る. Station B においては 10 mm 以上の成貝の個体数 が増加する一方で,10 mm よりも小さい新規加入 個体の減少傾向が続いていた中,2015 年の研究で は少し増加したが,昨年の研究では新規加入個体 は少し減少した.今年の研究では昨年と比較する と新規加入個体は増加した.ヘナタリの新規加入 個体は Station A では昨年とほぼ同様で,Station B では昨年よりかなり増加している.昨年は一昨年 より Station A,Station B ともに減少しており,新 規加入個体も少ないことから完全に回復傾向が続 いているとは言えないと推測されていたが,今年 の結果を見てみると個体数,新規加入個体は昨年 に比べ Station A,Station B ともに増加しており, わずかではあるが回復傾向が見られるのではない かと推測される.2012 年以降急激に個体数の減少 傾向が続いていき,2013,2016 年では一時増加し ており,今年も増加が見られたため少しずつ生態

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が回復しているのではないかと思われる.次世代

生産量の大半を占め,ヘナタリとカワアイは同所

を担う新規加入個体の大きな増加がみられないこ

的に生息している(若松 ・ 冨山,2000;大滝ほか,

とから Station A では Station B よりも生態が回復

2001;杉原 ・ 冨山,2002;真木ほか,2002;武内

するまでにまだ時間を要するのではないかと推測

・ 冨山,2010;吉住 ・ 冨山,2010;春田 ・ 冨山,

される.2010 年に行われた道路防災整備事業によ

2011).これら三種は干潟上に多く生息しており,

る人的破壊が干潟に影響を与えたことはこれまで

採集も容易であることから,環境評価基準として

の研究結果をみても否定できない.また,この 7

有用であると考えられ,今回の研究対象とした.

年間の研究結果を比較してみると,喜入干潟上の

調査は,2017 年 1 月から同年12 月までの 1 年間

生態域が乱されて以来はっきりとした回復傾向に

行った.月に 1 回,巻貝類を採取し,各月ごとの

向かっているとは言えないと考えられる.この研

サイズ別頻度分布と個体数の季節変化を調査し

究はこれからも継続していくことに意味があると

た.喜入干潟上に生息するウミニナ属の個体はす

思われる.

べてウミニナのミトコンドリア DNA を持ってい

はじめに

ると報告されている(春田,2011).したがって, 本研究では,調査地点上に生息しているウミニナ

干潟は川が海へ注ぎ込むところに砂や泥が蓄

属の一種はすべてウミニナであるとした.またヘ

積して形成される汽水域,砂泥性地帯のことをい

ナタリとカワアイの幼貝は目視での判別が難しい

う.干潟は,海の中で最も生産力が高い場所の一

ため,今研究ではこの二種をヘナタリの仲間とし

つであり,そこには多様な生物が生息している.

てまとめた.以下に示す先行研究において,今回

干潟周辺では,そこに生息する底生生物により海

の調査区ではカワアイの生息数が著しく少ないた

水が浄化され,栄養分も豊富となっている.干潟

め,カワアイの幼貝をヘナタリの幼貝に加えて分

はまさに「命の宝庫」となっている.生物だけで

析したとしても,統計的な影響は少ないことが

なく,私たちもこの干潟から豊かな水産資源の恩

判っている.調査で得られた結果は春田(2011),

恵を享受している.ところが,20 世紀後半以降,

前 川(2012), 前 川 ほ か(2015), 神 野(2016),

日本では沿岸域における埋め立て事業の進行に

井上(2017)による過去の報告と比較し,整備事

よってその多くが急速に減少した.日本にあった

業が開始されてから約 7 年間の生態の変化を考察

干潟の半分はすでに失われてしまったと見積もら

した.

れている(佐藤,2014).一度消失した干潟が再 び自然に復活することは難しく,人工的な再生で は持続的な生態系を維持することは難しい(森田,

材料と方法 調査地

1986;渡部,1995;山本 ・ 和田,1999;風呂田,

調査は鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川支流河口

2000;田代 ・ 冨山,2001;上村 ・ 土屋,2006;安

干潟(31°23′N, 130°33′E)にて行った(Figs. 1, 2).

達,2012).

愛宕川は鹿児島湾の中部に位置する日本石油基地

鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川支流河口干潟

の裏側に河口があり,この河口部で八幡川と合流

である喜入干潟も人の手によって環境を攪乱され

している.干潟の底質は泥質,砂泥質である.干

たものの一つである.2010 年からの防災道路整

潟周辺にはメヒルギやハマボウなどからなるマン

備事業によって,マリンピア橋が建設された.こ

グローブ林が広がっており,太平洋域における野

れにより,喜入干潟の一部が破壊され,干潟上の

生のマングローブ林の北限地とされている.干潟

生物相が大きな被害を受けた.

上には腹足類や二枚貝類をはじめ多くの底生生物

この喜入干潟には非常に多くの巻貝類が生息

が生息している.以上のことから貴重な干潟だと

している.その中で,主にウミニナ,ヘナタリ,

評価され,鹿児島県のレッドデータブックには「規

カワアイが生息している.ウミニナは貝類の生物

模は小さいが重要な中小河口干潟や小規模前浜干

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Nature of Kagoshima Vol. 44

a

a

b

b c

Fig. 1.調査地の位置.調査地は喜入の愛宕川河口のマング ローブ林干潟に位置する.Station A は架橋部分の真下に 設置した.Station B は愛宕川本流の近くの川のほとりに 設置した.

Fig. 2.調査地の様子.a の写真は愛宕川本流.b は調査地 の干潟の写真と干潟破壊の原因となった干潟に架橋され た道路橋.c の写真は陸地側である.

潟」として掲載されている.

愛宕川の本流の傍で,工事の直接的な影響をあま

2010 年から道路整備事業として,干潟上に 3 本の橋脚を持つマリンピア橋の建設が行われ,干

り受けていないと思われる地点で,Station B とし た.

潟の一部が破壊された.工事に先立って、周辺の 干潟にブルドーザーが入り、干潟表層の泥が深さ

材料

約 30 cm 程度削り取られた。工事内容や日程に関

ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869)

する細かな資料は入手できなかったが,大まかに

吸腔目ウミニナ科に分類される腹足類で準絶滅危

は 2009 年に橋の両端の柱,2010 年に中心の柱,

惧種である(Fig. 3a).太い塔形で,成殻では殻

2011 年に橋の上部が建設された.2011 年には橋

口が張り出してずんぐりしている.体層側面には

自体は完成していたが,それ以降も橋の両端の道

低い縦張肋が現れる.殻口後端の滑層瘤は白く顕

路整備が続き,周辺の土砂の流入が生じた.2015

著である.殻表の螺肋は低く,肋間は狭い.縦肋

年 3 月 25 日に,旧市中名橋からマリンピア喜入

は不明瞭である.発生様式は紐状の卵を産み,ベ

グラウンド前交差点の区間の道路が開通され,住

リンジャー幼生が孵化するプランクトン発生の生

民が利用できるようになった.

活史をとる.堆積物食である.北海道南部から九

喜入干潟でのこの防災道路整備事業が巻貝類へ

州,朝鮮半島,中国大陸に分布している.かつて

どれほど影響を与えているかを調査するため,2

は各地の内湾域に多産していたが,東京湾や三浦

つの調査地点を設置した.1 つ目は,干潟上に建

半島では著しい減少傾向が認められる.イボウミ

設されている橋の真下で,工事の影響を大きく受

ニナと比較すると本種の生息地は多く,浜名湖以

けたと思われる地点で,Station A とした.2 つ目は,

西に三河湾,伊勢湾,瀬戸内海,有明海等に健全

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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年以降死殻は多数見られるものの生貝は一カ所か

a

らしか見出されていない(行田,2003).喜入干 潟では粒子の細かい泥質~砂泥質を好み,潮間帯 の中流~下流に生息している. カワアイ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martins, 1899) 吸腔目キバウミニナ科に属す る腹足類.準絶滅危惧種である(Fig. 3c).殻は

b

細長い円錐形である.体層の縦張肋が弱く,殻前 端の張り出しが弱い.縦肋は上部の螺層で強く, 螺肋と交差して顆粒状になるが,下方に向かって 弱まる.縫合下とその次の螺溝の深さが同じであ る.発生様式はプランクトン発生である.堆積物 食である.東北地方から南西諸島,朝鮮半島,中

c

国大陸,インド・太平洋に分布し,内湾環境の干 潟,河口域の汽水に生息している.潮間帯中部の 泥地干潟を好む.かつて各地の内湾域にごく普通 に生息していたが,東京湾や三浦半島では著しい

Fig. 3.巻貝類の写真.a ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869),b ヘナタリ Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791),c カワアイ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martins, 1899).

減少傾向が認められる.三河湾では汐川干潟の狭 い範囲でのみかろうじて生息が確認できるにすぎ ず,伊勢湾でも個体数が著しく減少している場所 が少なくない.伊勢湾以西から南西諸島にかけて 健全な個体群が確認できる干潟が多いが,生息場

な個体群が残されている.しかし,生息地場所は

所は埋め立て等で減少している(行田,2003).

埋め立て等で減少している(風呂田,2000).喜

喜入干潟ではヘナタリと同所的に,わずかに生息

入干潟では粒の粗い砂礫~砂を好み,潮間帯の中

している.ウミニナ科の生態に関する研究例とし

流~下流に生息している.

ては,沖縄本島に生息するイボウミニナの個体群

ヘ ナ タ リ Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate

と餌資源の季節変動,また喜入マングローブに生

(Gmelin, 1791) 吸腔目キバウミニナ科に属する

息する 4 種の腹足類について垂直分布や塩分濃度

腹足類.準絶滅危惧種である(Fig. 3b).殻は高

と乾燥要因を報告した若松・冨山(2000)の研究

い円錐形で,体層は幅広く,強い縦張肋がある.

や,喜入干潟でのウミニナ科 1 種とフトヘナタリ

殻口は大きく外側に広がり,前端は水管溝を超え

科 3 種の分布と底質選好性を報告した真木ほか

て延びる.縦肋は上部の螺層で強く,螺肋と交差

(2002)の研究や,喜入干潟に生息するウミニナ,

して顆粒状になるが,下方に向かって弱まる.殻

ヘナタリ,フトヘナタリの 3 種のサイズ別の季節

色は殻色と黄褐色の縞模様を体層に巡らす.発生

変 動 と 新 規 加 入 に つ い て 報 告 し た 吉 住・ 冨 山

様式はプランクトン発生である.堆積物食である.

(2010)の研究などがあげられる.

房総半島・北長門海岸から南西諸島,朝鮮半島, 中国大陸,インド・西太平洋に分布し,内湾部の

調査方法

干潟や河口汽水域の干潟,低潮帯表層に生息して

2017 年 1 月から同年 12 月までの期間に毎月 1

いる.西日本や南西諸島では現在も多産地が少な

回,中潮~大潮の日に調査を行った.時間帯は干

くないが,東京湾や瀬戸内海中央部など湾奥の開

潮時刻付近に設定した.調査地点 A,B にそれぞ

発と汚染が著しい地域で激減し,岡山県では 2000

れ 2 カ所,ランダムに 50 cm × 50 cm のコドラー

236


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Nature of Kagoshima Vol. 44

トを設置した.コドラート内を 4 分割し(25 cm

月 は 6.1–26.0 mm の 範 囲 で 18.1–20.0 mm を ピ ー

× 25 cm),そのうちランダムに 2 つの範囲の砂泥

クとする山型を示した.殼高の平均値は 18.4 mm

を深さ約 5–10 cm 採取し,それらを 1 mm メッシュ

であった.最大値は 24.2 mm,最小値は 6.8 mm

の篩にかけ貝類を採取した.採集した貝類は研究

であった.9 月は 6.1–18.0 mm の範囲で 8.1–10.0

室に持ち帰り,一度冷凍し,乾燥機で乾燥した後

mm と 16.1–18.0 mm をピークとする 2 つの山型

分類した.そして分類した貝の出現数を記録し,

を示した.殼高の平均値は 10.1 mm であった.最

ノギスで 0.1 mm の精度で殻高の計測を行った.

大値は 19.8 mm,最小値は 6.8 mm であった.10

その後,チャック付ポリ袋に入れて保管した.結

月 は 4.1–22.0 mm の 範 囲 で 8.1–10.0 mm と 20.1–

果は月ごとの頻度分布,年間の個体数季節変化を

22.0 mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼

表にした.そして過去の研究報告(春田,2011;

高の平均値は 14.9 mm であった.最大値は 23.8

前川,2012;前川ほか,2015;神野,2016;井上,

mm,最小値は 4.3 mm であった.11 月は 4.1–24.0

2017)との比較を行い,環境の変化に対する巻貝

mm の範囲で 8.1–10.0 mm と 16.1–22.0 mm をピー

類の変化を考察した.

クとする 2 つの山型を示した.殼高の平均値は

結果 ウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化

15.4 mm であった.最大値は 22.8 mm,最小値は 5.3 mm で あ っ た.12 月 は 8.1–24.0 mm の 範 囲 で 10.1–12.0 mm と 18.1–22.0 mm を ピ ー ク と す る 2

Station A (Figs. 4, 6a) 2017 年 1 月 は 2.1–26.0

つの山型を示した.殼高の平均値は 16.3 mm で

mm の 範 囲 で,14.1–16.0 mm と 20.1–22.0 mm を

あった.最大値は 23.0 mm,最小値は 8.3 mm であっ

ピークとする 2 つの山型を示した.殼高の平均値

た.Station A での年間の殻高の平均値は 16.8 mm

は 18.3 mm であった.最大値は 24.7 mm,最小値

で,最大値は 6 月の 25.0 mm,最小値は 1 月の 3.5

は 3.5 mm であった.2 月は 4.1–26.0 mm の範囲で,

mm となった.

14.1–16.0 mm をピークとする山型を示した.殼

Station B (Figs. 5, 6b) 2017 年 1 月 は 2.1–24.0

高の平均値は 17.1 mm であった.最大値は 24.6

mm の 範 囲 で,4.1–6.0 mm と 12.1–14.0 mm,

mm,最小値は 5.5 mm であった.3 月は 10.1–24.0

20.1–22.0 mm をピークとする 3 つの山型を示し

mm の範囲で,14.1–16.0 mm をピークとする山型

た.殼高の平均値は 14.7 mm であった.最大値

を示した.殼高の平均値は 17.8 mm であった.最

は 23.4 mm,最小値は 3.3 mm であった.2 月は

大値は 24.0 mm,最小値は 11.7 mm であった.4

4.1–26.0 mm の範囲で,14.1–16 mm をピークとす

月は 2.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm と 20.1–

る山型を示した.殼高の平均値は 14.7 mm であっ

22.0 mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼

た.最大値は 24.3 mm,最小値は 4.1 mm であった.

高の平均値は 17.5 mm であった.最大値は 24.5

3 月 は 4.1–26.0 mm の 範 囲 で,4.1–6.0 mm と

mm,最小値は 3.7 mm であった.5 月は 2.1–24.0

16.1–18.0 mm をピークとする 2 つの山型を示し

mm の範囲で,16.1–18 mm をピークとする山型

た.殼高の平均値は 10.3 mm であった.最大値

を示した.殼高の平均値は 16.9 mm であった.最

は 23.5 mm,最小値は 4.3 mm であった.4 月は

大 値は 24.0 mm,最小値は 3.9 mm であった.6

2.1–24.0 mm の 範 囲 で,6.1–8.0 mm と 16.1–18.0

月は 4.1–26.0 mm の範囲で,20.1–22.0 mm をピー

mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼高の

クとする山型を示した.殼高の平均値は 20.6 mm

平均値は 12.8 mm であった.最大値は 23.4 mm,

であった.最大値は 25.0 mm,最小値は 5.0 mm

最 小 値 は 3.7 mm で あ っ た.5 月 は 4.1–26.0 mm

で あ っ た.7 月 は 4.1–26.0 mm の 範 囲 で 6.1–8.0

の範囲で,6.1–8.0 mm と 16.1–18.0 mm をピーク

mm と 16.1–18.0 mm をピークとする 2 つの山型

とする 2 つの山型を示した.殼高の平均値は 10.6

を示した.殼高の平均値は 14.2 mm であった.最

mm であった.最大値は 24.8 mm,最小値は 4.8

大値は 24.3 mm,最小値は 5.8 mm であった.8

mm で あ っ た.6 月 は 2.1–22.0 mm の 範 囲 で,

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Fig. 4.Station A におけるウミニナのサイズ頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は採取個体数,横軸は殻高(mm)を示す.

6.1–8.0 mm と 14.1–18.0 mm をピークとする 2 つ

7 月 は 4.1–22.0 mm の 範 囲 で,6.1–8.0 mm と

の山型を示した.殼高の平均値は 9.3 mm であっ

14.1–16.0 mm をピークとする 2 つの山型を示し

た.最大値は 20.6 mm,最小値は 3.9 mm であった.

た.殼高の平均値は 9.9 mm であった.最大値は

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Fig. 5.Station B におけるウミニナのサイズ頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は採取個体数,横軸は殻高(mm)を示す.

20.4 mm, 8 月は 6.1–22.0 最小値は 5.8 mm であった.

16.0 mm,16.1–18.0 mm,18.1–20.0 mm,20.1–

mm の範囲で,8.1–10.0 mm でピークを示し 31 個

20.2 mm の範囲で 1 個体ずつ確認された.殼高の

体,6.1–8.0 の範囲で 7 個体,12.1–14 mm,14.1–

平均値は 9.7 mm であった.最大値は 21.6 mm,

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a

b

Fig. 6.ウミニナの季節ごとの殻長の最大値,最小値,平均値を示したグラフ.a 上図は Station A のグラフ.b 下図は Station B のグラフ.

最 小 値 は 7.4 mm で あ っ た.9 月 は 4.1–22.0 mm

最小値は 3.3 mm であった.11 月は 2.1–22.0 mm

の範囲で,8.1–10.0 mm をピークとする山型を示

の範囲で,10.1–12.0 mm をピークとする山型を

した.殼高の平均値は 9.9 mm であった.最大値

示した.殼高の平均値は 10.6 mm であった.最

は 21.9 mm,最小値は 4.2 mm であった.10 月は

大値は 21 mm,最小値は 3.2 mm であった.12 月

2.1–24.0 mm の 範 囲 で,2.1–4.0 mm と 10.1–12.0

は 2.1–22.0 mm の範囲で,10.1–12.0 mm をピーク

mm をピークと 2 つのする山型を示した.殼高の

とする山型を示した.殼高の平均値は 11.5 mm で

平均値は 14.7 mm であった.最大値は 23.4 mm,

あった.最大値は 20.8 mm,最小値は 3.8 mm であっ

240


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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 7.Station A におけるヘナタリの仲間のサイズ頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は採取個体数,横軸は殻高(mm) を示す.

た.Station B での年間の殻高の平均値は 11.0 mm で,最大値は 5 月の 24.8 mm,最小値は 10 月の 3.0 mm となった.

ヘナタリの仲間のサイズ別頻度分布の季節変化 Station A (Figs. 7, 9a) 2017 年 1 月 は 2.1–26.0 mm の範囲で,20.1–24.0 mm をピークとする山型

241


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 8.Station B におけるヘナタリの仲間のサイズ頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は採取個体数,横軸は殻高(mm) を示す.

を示した.殼高の平均値は 20.3 mm であった.最

クとする山型を示した.殼高の平均値は 19.2 mm

大 値は 25.8 mm,最小値は 4.0 mm であった.2

であった.最大値は 25.1 mm,最小値は 5.7 mm

月は 4.1–26.0 mm の範囲で,18.1–20.0 mm をピー

であった.3 月は 16.1–24.0 mm の範囲で,20.1–

242


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

a

b

Fig. 9.ヘナタリの仲間の季節ごとの殻長の最大値,最小値,平均値を示したグラフ.a Station A のグラフ.b Station B のグラフ.

22.0 mm をピークとする山型を示した.殼高の平

月は 4.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm と 22.1–

均値は 20.6 mm であった.最大値は 23.5 mm,最

24.0 mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼

小値は 16.5 mm であった.4 月は 4.1–26.0 mm の

高の平均値は 20.2 mm であった.最大値は 25.2

範囲で,4.1–6.0 mm でピークを示し 4 個体,6.1–8.0

mm,最小値は 4.5 mm であった.6 月は 14.1–24.0

mm の範囲で 1 個体,24.1–26.0 mm の範囲で 1 個

mm の範囲で,22.1–24.0 mm でピークを示し 3 個

体確認された.殼高の平均値は 8.5 mm であった.

体,14.1–16.0 mm の 範 囲 で 1 個 体,18.1–20.0

最大値は 25.2 mm,最小値は 4.6 mm であった.5

mm,20.1–22.0 mm の範囲で 2 個体ずつ確認され

243


Nature of Kagoshima Vol. 44

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た.殼高の平均値は 21.0 mm であった.最大値

示した.殼高の平均値は 13.4 mm であった.最

は 23.9 mm,最小値は 15.7 mm であった.7 月は

大 値 は 24.8 mm, 最 小 値 は 4.4 mm で あ っ た.6

2.1–26.0 mm の範囲で,20.1–22.0 mm をピークと

月は 4.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピーク

する山型を示した.殼高の平均値は 20.0 mm で

とする山型を示した.殼高の平均値は 13.2 mm で

あった.最大値は 25.2 mm,最小値は 5.4 mm であっ

あった.最大値は 24.9 mm,最小値は 5.1 mm であっ

た.8 月 は 2.1–26.0 mm の 範 囲 で,8.1–10.0 mm

た.7 月は 6.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm を

と 20.1–22.0 mm をピークとする 2 つの山型を示

ピークとする山型を示した.殼高の平均値は 15.3

した.殼高の平均値は 18.7 mm であった.最大

mm であった.最大値は 24.5 mm,最小値は 6.9

値は 24.6 mm,最小値は 5.8 mm であった.9 月

mm で あ っ た.8 月 は 6.1–24.0 mm の 範 囲 で,

は 2.1–26.0 mm の 範 囲 で,10.1–12.0 mm と 18.1–

4.1–6.0 mm をピークとする山型を示した.殼高

20.0 mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼

の 平 均 値 は 13.3 mm で あ っ た. 最 大 値 は 23.7

高の平均値は 19.0 mm であった.最大値は 25.4

mm,最小値は 7.0 mm であった.9 月は 8.1–26.0

mm,最小値は 7.8 mm であった.10 月は 2.1–26.0

mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピークとする山型を

mm の範囲で,20.1–22.0 mm をピークとする山型

示した.殼高の平均値は 15.2 mm であった.最

を示した.殼高の平均値は 19.2 mm であった.最

大値は 25.7 mm,最小値は 8.4 mm であった.10

大値は 25.2 mm,最小値は 12.2 mm であった.11

月は 2.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピーク

月 は 2.1–26.0 mm の 範 囲 で,10.1–12.0 mm と

とする山型を示した.殼高の平均値は 16.1 mm で

20.1–22.0 mm をピークとする 2 つの山型を示し

あった.最大値は 26.0 mm,最小値は 3.1 mm であっ

た.殼高の平均値は 18.6 mm であった.最大値

た.11 月は 6.1–240 mm の範囲で,4.1–6.0 mm を

は 25.2 mm,最小値は 9.9 mm であった.12 月は

ピークとする山型を示した.殼高の平均値は 16.6

2.1–26.0 mm の範囲で,12.1–14.0 mm と 20.1–22.0

mm であった.最大値は 24.0 mm,最小値は 7.2

mm をピークとする 2 つの山型を示した.殼高の

mm で あ っ た.12 月 は 2.1–26.0 mm の 範 囲 で,

平均値は 18.6 mm であった.最大値は 25.0 mm,

4.1–6.0 mm をピークとする山型を示した.殼高

最小値は 9.2 mm であった.Station A での年間の

の 平 均 値 は 16.9 mm で あ っ た. 最 大 値 は 26.0

殻高の平均値は 19.2 mm で,最大値は 1 月の 25.8

mm,最小値は 3.8 mm であった.Station B での

mm,最小値は 1 月の 4.0 mm となった.

年間の殻高の平均値は 15.5 mm で,最大値は 4 月

Station B (Figs. 8, 9b) 2017 年 1 月 は 2.1–26.0

の 27.2 mm,最小値は 10 月の 3.1 mm となった.

mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピークとする山型を 示した.殼高の平均値は 13.7 mm であった.最

ウミニナの個体数の季節変化

大 値 は 24.4 mm,最小値は 3.8 mm であった.2

Station A 年間の総個体数は 1,445 個体であっ

月は 4.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピーク

た.最も多かったのは 2 月の 275 個体で,最も少

とする山型を示した.殼高の平均値は 16.6 mm で

なかったのは 8 月の 51 個体であった.2 月は 1

あった.最大値は 25.5 mm,最小値は 4.3 mm であっ

月から急増し最も多い個体数を確認した.3 月に

た.3 月は 2.1–26.0 mm の範囲で,4.1–6.0 mm を

は 119 個体減少し,その後も 6 月まで増加と減少

ピークとする山型を示した.殼高の平均値は 16.1

を繰り返した.7 月から 8 月にかけて再び減少し,

mm であった.最大値は 26.0 mm,最小値は 3.7

9 月に増加するも 11 月まで減少し続け 12 月に少

mm で あ っ た.4 月 は 4.1–28.0 mm の 範 囲 で,

し増加した.また年間の 10 mm 以下の個体数は

4.1–6.0 mm をピークとする山型を示した.殼高

222 個体であった.そのうち最も多かったのは 9

の 平 均 値 は 19.7 mm で あ っ た. 最 大 値 は 27.2

月の 81 個体で,最も少なかったのは 3 月の 0 個

mm,最小値は 4.5 mm であった.5 月は 4.1–26.0

体であった.1 月から 2 月にかけて増加したが 3

mm の範囲で,4.1–6.0 mm をピークとする山型を

月には減少し 0 個体であった.その後,4 月に個

244


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体数が増加し 6 月まで減少した.7 月から 9 月に

Nature of Kagoshima Vol. 44

10 月で 0% であった.

かけて,増加と減少を繰り返し,81 個体まで増

Station B 年間の総個体数は 2,373 個体であっ

加した.10 月以降毎月減少し続けた.総個体数

た.最も多かったのは 3 月の 255 個体で,最も少

に対する 10 mm 以下の個体数を百分率で表して

なかったのは 1 月の 112 個体であった.1 月から

み た と こ ろ, 年 間 は 15.6%, 最 大 は 10 月 の

毎月増加し 3 月には 225 個体となり最も多くなっ

78.6%,最小は 3 月の 0% であった.

た.4 月に一度減少するも 6 月まで増加した.そ

Station B 年間の総個体数は 1,348 個体であっ

の後は 12 月まで減少と増加を繰り返した.また

た.最も多かったのは 3 月の 210 個体で,最も少

年間の 10 mm 以下の個体数は 558 個体であった.

なかったのは 8 月の 43 個体であった.1 月から 3

そのうち最も多かったのは 6 月の 123 個体で,最

月にかけて個体数が一度減少してからまた増加し

も少なかったのは 11 月で 7 個体であった.1 月

た.その後,4 月に 3 月の約 2/3 まで減少するが,

の 39 個体から 4 月まで減少と増加を繰り返し 12

6 月まで毎月徐々に増加し 175 個体となった.そ

個体となった後,6 月まで増加し続け 123 個体と

の後,7 月から 8 月まで減少,9 月から 10 月まで

なった.その後,12 月まで減少と増加を繰り返

増加,11 月から 12 月まで減少した.また年間の

し 10 個体となった.総個体数に対する 10 mm 以

10 mm 以下の個体数は 698 個体であった.その

下の個体数を百分率で表してみたところ,年間は

うち最も多かったのは 3 月の 129 個体で,最も少

23.5%,最大は 6 月の 49.4%,最小は 11 月で 3.8%

なかったのは 12 月の 7 個体であった.1 月から 2

であった.

月にかけて減少し,3 月には急増し 129 個体となっ た.そこから 4 月には 1/2 以下に減少し 6 月まで 毎月増加,8 月まで再び減少した.9 月に一度増

考察 ウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化について

加するも 12 月まで毎月減少し続けた.総個体数

Station A では,8 mm 付近と 18–20 mm 付近の 2

に対する 10 mm 以下の個体数を百分率で表して

つの山型を表すグラフになった.1–5 月は 6 mm

み た と こ ろ, 年 間 は 51.8%, 最 大 は 8 月 の

付 近 の 個 体 が 比 較 的 多 く み ら れ,7–12 月 は 10

88.4%,最小は 2 月の 11.7% であった.

mm 付近の個体が比較的多く見られる.井上(2017) の調査では 10–12 mm 付近と 16–18 mm 付近の 2

ヘナタリの仲間の個体数の季節変化 Station A 年間の総個体数は 565 個体であっ

つの山型を表すグラフが多く,その点が少し異 なっている.

た.最も多かったのは 11 月 103 個体で,最も少

Station B では,1–7 月は 8 mm 付近と 18 mm 付

なかったのは 4 月の 6 個体であった.1 月から 4

近の二つの山型を表すグラフが多く 8–12 月は 12

月まで毎月個体数は減少し,5 月から 12 月まで

mm 付近の 1 つの山型を表すグラフが多かった.

毎月増加と減少を繰り返した.また年間の 10 mm

前川ほか(2015),神野(2016),井上(2017)の

以下の個体数は 31 個体であった.そのうち最も

報告によると,春から夏にかけて 10 mm 付近で

多かったのは 5 月の 7 個体で,最も少なかったの

山型がみられていない.今回も春から夏にかけて

は 3,6,10 月で個体数が確認されなかった.1

10 mm 付近で山型がみられず,秋以降は 10 mm

月から 2 月には 1 個体増加し 3 個体となるも 3 月

付近の 1 つの山型のグラフが見られた.

に 0 個体となった.4 月,5 月には増加し 6 月に は再び 0 個体となった.7 月には増加し 9 月まで

ヘナタリのサイズ別頻度分布の季節変化について

ほぼ横ばいであった.10 月に 0 個体となり 12 月

Station A では,4 月と 6 月を除いて 1–7 月は 22

まで 1 個体ずつ増加した.総個体数に対する 10

mm 付 近 の 1 つ の 山 型 が 多 く,8–12 月 は 10–12

mm 以下の個体数を百分率で表してみたところ,

mm 付近と 22 mm 付近の 2 つの山型が多かった.

年間は 5.5%,最大は 4 月の 83.3%,最小は 3,6,

井 上(2017) の 報 告 に よ る と,2015 年 12 月 ~

245


Nature of Kagoshima Vol. 44

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2016 年 5 月は 18–20 mm 付近の 1 つの山型のグラ

半数以上が新規加入個体であったため,上記の考

フ に な っ た 月 が 多 く,2016 年 6–11 月 に な る と

え方が当てはまると考えられる.夏に産卵され,

20–22 mm 付近の個体が多く確認されており,新

孵化した個体が着底したのではないかと考えられ

規加入個体はほぼ同様になった.また,神野(2016)

る.

の 報 告 に よ る と,2014 年 以 降 の Station A で は,

Station B では,1–3 月に急増し,4 月に減少す

各月比較的に 10 mm 付近の大きさの幼貝よりも

るも 6 月まで増加傾向にある.7–8 月には減少し,

20 mm 付近の成貝が見られていると考えられてい

9–11 月には再び増加傾向が見られた.これは春に

る.今研究でも同様の結果となった.

向けて個体数が増加し,夏にかけて減少している

Station B では,1–6 月は 8 mm 付近と 20 mm 付

と示唆している杉原(2002),田上(2004),安永

近の 2 つの山型を表すグラフが多く,7–12 月は

(2008),春田(2011)の調査報告とほぼ同様であっ

12 mm 付近と 22 mm 付近の 2 つの山型を表すグ

た.夏は別の場所で生殖活動を行ったのではない

ラフが多かった.昨年と比較すると全体の個体数

か と 考 え ら れ る. こ こ で も Station A と 同 様 に

がかなり増加しており Station A と比較してもかな

10–11 月に新規加入個体が確認されたため,夏に

り多い.そして,ヘナタリは潮間帯の比較的粒の

産卵され,孵化した個体が着底したのではないか

粗い泥地を好む傾向にあり(真木・冨山,2002),

と考えられる.そして 12 月には再び減少した.

先行研究より Station A において砂~砂礫に変化し

Station A,Station B ともに冬に個体数が多く見

たため生息域の移動が起こったということと異な

られる.これは干潟上に流入している地下水に関

る.これは,Station B の地質が変化した,もしく

係していると考えられる.地下水は海水の表面水

は夏に産卵され孵化した個体が Station B で着底し

よりも温度が高いため,寒い冬を耐えしのぐのに

たということが考えられる.

好都合である.したがって,その周辺に個体が集 合したのではないかと考えられる.もしくは潮の

ウミニナの個体数の季節変化 Station A では,1–2 月に急増し 3 月に一度減少

満ち引きの関係で個体が集合しやすい場所ができ たのではないかと考えられる.年間の新規加入個

する.その後 6 月まで増加と減少を繰り返し 7–8

体は Station A では 2012 年から毎年減少している.

月には減少する.これは,春に向けて個体数が増

小島(2003)の研究によると,喜入干潟に生息す

加し,夏に向けて減少しているという杉原(2002),

るウミニナはプランクトン幼生による広域分散過

田上(2004),安永(2008),春田(2011)の調査

程をもつ.風呂田(2000)はこのような広域分散

報告とほぼ同様であった.また,9 月に個体数が

過程をもつ多くの底生生物にとって,干潟の着底

急増したのち 11 月まで減少し 12 月に再び増加し

場所の消失による局所個体群のネットワーク消失

た.巻貝 類の生活史は生活環境によって異なる場

が,種の衰退の原因であると推測した.Station A

合が多いが,喜入干潟では過去の研究報告から,

で毎年新規加入個体が減少したのは,これも理由

7–8 月が繁殖期,9–10 月が幼貝として着底後,幼

の一つであると考えられる.今研究では,先行研

貝のままで冬を越し,3 年目の 6–8 月に成熟する

究(2016.12–2017.11)よりも新規加入個体は増加

ことが分かっている(金田・冨山,2013).生殖

した.これは生態が少しずつ回復してきていると

活動のため夏に向けて個体が集合して,9 月は別

考えられる.しかし,干潟が掘削される以前の新

の場所で生殖活動を行ったのではないかと考えら

規加入個体数にはまだ及ばないことから,完全に

れる.また,冬から春にかけて新規加入個体が増

生態が回復したとはいえないと推測される.

加している.これは別の地点で着底したものが移 動してきたのではないかと考えられる.また,吉

ヘナタリの仲間の個体数の季節変化

住(2010)と前川(2012)は 10–11 月に新規加入

Station A では,春から夏にかけて個体数は少な

個体が確認されたと示唆している.2017 年 9 月も

いが,7 月から個体数は増加した.生活環境によっ

246


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Nature of Kagoshima Vol. 44

て異なることがあるが,喜入干潟でのヘナタリの

一つとされている.日本でも千葉県谷津干潟,愛

仲間の生活史は,夏に産卵し(鋼尾,1963),秋

知県藤前干潟,佐賀県東よか干潟,佐賀県肥前鹿

に着底,2 年目に成熟個体となる.また,ヘナタ

島干潟,熊本県荒尾干潟がラムサール条約登録湿

リは世代交代が他の腹足類よりも比較的遅く,産

地になっているなど,干潟への保全意識は高まり

卵も少ないという報告がある.したがって春から

つつある.干潟の破壊は,生物にとっての重要な

夏にかけて個体数が増加しているのは生殖活動の

機能を奪い,生物の多様性に繋がりにくくなる.

ためであると考えられる.10 月に新規加入個体が

また,干潟上の巻貝類が同所的に生息できる要因

確認されなかったのは別の場所に着底したのでは

は大変複雑に関係し合っており,干潟の破壊が起

ないかと考えられる.もしくは繁殖が行われてい

こるとこれらの要因に大きな影響を及ぼすことに

ない,性成熟した成貝の減少などが考えられる.

なる.そのため,2010 年に行われた道路防災整備

Station B では,春から夏にかけて個体数が増加

事業による人的破壊が干潟に影響を与えたことは

している.これは生殖活動のために,個体が集合

これまでの研究結果をみても否定できない.また,

したからであると考えられる.また 10 月に新規

今研究の 7 年間の研究結果を比較してみると,喜

加入個体が増加しているのは,夏に産卵され,孵

入干潟上の生態域が乱されて以来,干潟の巻き貝

化した個体が着底したためではないかと考えられ

相は回復傾向に向かっているとは言えないと考え

る.

られる.今研究では一部のみ個体数の増加が見ら

Station A,Station B を比較すると夏に Station A

れたが,2012 年以降大きく減少し続けていること

で産卵され,孵化した個体は Station B で着底した

から個体群の消滅の可能性がないとは言えない.

と考えられる.さらに,新規加入個体は昨年と比

そのため,この研究はこれからも継続することに

較して,Station A ではやや増加,Station B ではか

意味があるだろう.

なり増加した.しかし,干潟が掘削される以前の 新規加入個体数にはまだ及ばないことから,回復 傾向にはあるが生態系が完全に回復するにはまだ まだ時間を要するのではないかと考えられる.

謝辞 本研究の調査をするにあたり,鹿児島大学理学 部生態学地球環境科学科の生態学研究室の皆様に 心よりお礼申し上げます.また,調査や論文作成

ウミニナとヘナタリの仲間の総個体数の季節変動

にあたり多くの助言やご協力を頂きました生態学

今研究では,先行研究より両地点ともに増加し

研究室の先輩方,4 年生の皆様にも深くお礼を申

ていた.Station A では 2011 年から干潟の掘削が

し上げます.本稿の作成に関しては,日本学術振

行われ,個体数の減少が起きた.次世代を担う新

興会科学研究費助成金の平成 26–29 年度基盤研究

規加入個体の大きな増加がみられないことから

(A)一般「亜熱帯島嶼生態系における水陸境界域

も,Station A では Station B よりも生態が回復する

の生物多様性の研究」26241027-0001・平成 27–29

までに時間を要するので はないかと推測される.

年度基盤研究(C)一般「島嶼における外来種陸

また各月の両地点の個体数の比較をすると,ウミ

産貝類の固有生態系に与える影響」15K00624・平

ニナ,ヘナタリの仲間はともに Station B に生息し

成 27–29 年度特別経費(プロジェクト分)-地域

ている傾向が強いことが分かった.

貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその 保全に関する教育研究拠点整備」,および 2017 年

喜入干潟における今後の課題 干潟は生物に対して,生息機能,水質浄化機能, 生物生産機能,親水機能などの様々な役割をもっ

度鹿児島大学学長裁量経費,以上の研究助成金の 一部を使用させて頂きました.以上,御礼申し上 げます.

ている.その重要性は世界でも評価され,現在, 干潟はラムサール条約によって保全される湿地の

247


Nature of Kagoshima Vol. 44

引用文献 安達建夫.2012.干潟の絶滅危惧動物図鑑 ― 海岸ベントス のレッドデータブック.日本ベントス学会編.東海大 学出版会. 安達建夫.2014.干潟の自然と文化.山下博由・李善愛編. 東海大学出版部. 行田義三.2003.貝の図鑑 ― 採集と標本の作り方.南方新社. 風呂田利夫.2000.湾内の巻貝,絶滅と保全 ― 東京湾のウ ミニナ類衰退からの考察.月刊海洋号外,(20): 74–82. 春田拓志・冨山清升.2011.鹿児島湾喜入干潟での防災道 路整備事業における巻貝類の生態.2010 年度鹿児島大 学理学部地球環境科学科卒業論文. 井上真理奈・冨山清升.2017.鹿児島湾喜入干潟において 防災整備事業によって破壊された愛宕川河口干潟の巻 貝相の生態回復.Nature of Kagoshima, 43: 347–362. 上村了美・土屋 誠.2006.沖縄本島におけるイボウミ ニナ個体群および餌資源の季節変動.Venus, 66 (3–4): 191–204. 神野瑛梨奈・前川菜々・春川拓志・富山清升.鹿児島湾喜 入干潟での防災整備事業における愛宕川河口干潟の巻 貝類の生態回復.Nature of Kagoshima, 42: 437–452. 金田竜祐・中島貴幸・片野田裕亮・冨山清升.2013.鹿児 島県喜入干潟における海産巻貝.ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke,1869)(腹足鋼ウミニナ科)の貝殻 内部成長線分析.Nature of Kagoshima, 39: 127–136. Kojima, S., Ota, N., Mori, K., Kurizumi, T. and Furuta, T. 2001. Molecular phylogeny of Japanese gastropods in the genus Batillaria. Journal of Molluscan Studies, 67: 377–384. 前川菜々・春田拓志・冨山清升.2015.鹿児島湾喜入での 防災道路整備事業における巻貝類の生態回復.Nature of Kagoshima, 41: 271–286. 真木英子・大滝陽美・冨山清升.2002.ウミニナ科 1 種と フトヘナタリ科 3 種の分布と底質選好性:特にカワア イを中心にして.Venus, 61 (1–2): 61–76. 森田昌之.1986.東京湾およびその周辺に産する潮間帯腹 足類ウミニナ属の比較生物的観察.東邦大学特別問題 研究報告.30 pp.

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県から得られたコバンザメ科魚類シロコバン 畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに コバンザメ科魚類は世界に 8 種が知られ (Strasburg, 1964; Lachner, 1973, 1986), こ れ ら の う ち,Echeneis neucratoides Zuiew, 1789 を 除 く 7 種が日本近海から記録されている(波戸岡・甲斐, 2013).鹿児島県においてはこのうち,シロコバ ン Remora albescens (Temminck and Schlegel, 1850) とオオコバン R. australis (Bennett, 1840) の 2 種を 除く 5 種が記録されていた(財団法人鹿児島市水 族館公社,2008;岩坪,2017;畑,2018). 鹿児島県本土における魚類相調査の過程で,薩 摩半島西岸に位置する笠沙町の沖においてシロコ バン 4 個体が採集された.これらの標本は本種の 鹿児島県における標本に基づく初めての記録とな るため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Strasburg (1964) にしたがった. 標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを用い て 0.1 mm までおこなった.シロコバンの生鮮時 の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児島県産 の 4 標本(記載標本の項目を参照)のカラー写真 に基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定 方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた Hata, H., M. Itou and H. Motomura. 2018. First records of Remora albescens (Perciformes: Echeneidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 249–252. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 23 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-033.pdf

標本は,鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に 保管されており,上記の生鮮時の写真は同館の データベースに登録されている.なお,シロコバ ンに適用する学名は O’Toole (2002) にしたがい, Remora albescens とした. 結果と考察 Remora albescens (Temminck and Schlegel, 1850) シロコバン (Figs. 1, 2; Table 1) 標 本 4 個 体, 体 長 59.9–112.4 mm:KAUM–I. 13072,体長 75.6 mm,鹿児島県南さつま市笠沙 町片浦高崎山地先(31°26′00″N, 130°10′05″E),水 深 36 m,2008 年 9 月 24 日,定置網,伊東正英; KAUM–I. 65325,体長 112.4 mm,KAUM–I. 65326, 体長 112.1 mm,KAUM–I. 65335,体長 59.9 mm, 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側 (31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2014 年 7 月 14 日,定置網,伊東正英. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円 形で頭部は縦扁するが,尾柄部は側扁する.頭部 背面に背腹方向に薄く,上から見ると前後方向に 長い楕円形の吸盤がある(Fig. 2).吸盤背面中線 上に 1 本の隆起線がある.吸盤の背面には前後方 向に薄い板状体が密に並ぶ(板状体の数は Table 1 に表記).各板状体の後縁は顆粒状の突起が密 生し,触るとざらざらしている.吸盤の外縁は滑 らか.体背縁は吻端から背鰭起部にかけてと,尾 柄部においてはほぼ体軸と平行であり,背鰭基底 部のみ緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から 腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そこから臀鰭 起部にかけて体軸とほぼ平行となる.臀鰭基底部

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimens of Remora albescens from Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 65335, 59.9 mm standard length (SL); B: KAUM–I. 13072, 75.6 mm SL; C: KAUM–I. 65326, 112.1 mm SL.

における体腹縁はわずかに上昇し,尾柄部におい

顎よりも著しく突出する.両顎には鋭い円錐歯が

ては体軸とほぼ平行.体高は胸鰭後端付近で最大

密生する.鋤骨には鋭い円錐歯がほぼ 2 列に並ぶ.

となり,体幅は胸鰭基底部付近で最大となる.胸

舌には円錐歯が密生し,触るとざらざらしている.

鰭基底上端は鰓蓋後端よりわずかに後方に,胸鰭

肛門はほぼ正円形を呈し,臀鰭起部前方に開孔す

基底下端は腹鰭基底後端よりもわずかに後方にそ

る.前鰓蓋骨と鰓蓋の後縁はともに円滑.側線は

れぞれ位置する.胸鰭後縁は丸く,後端は頭部背

ない.

面の吸盤の後端よりも後方に位置する.腹鰭起部

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は各鰭を含めて一様

は胸鰭第 2 軟条起部直下に位置し,腹鰭基底後端

に白色を呈し,黒色色素胞が不規則に散在する.

は胸鰭第 15–17 軟条起部直下に位置する.腹鰭後

KAUM–I. 13072 は体に黒色色素胞が密に分布し,

縁は丸く,たたんだ腹鰭の後端は頭部背面の吸盤

各鰭を含む体は一様に焦げ茶色を呈する.

の後端よりもわずかに前方に位置する.左右の腹

分布 インド・汎太平洋,大西洋の暖海に広

鰭は近接する.背鰭起部は臀鰭起部直上に位置し,

く分布する(Shen, 1993;波戸岡・甲斐,2013).

背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.尾

日本国内においては,千葉県外房から相模湾にか

鰭は円形に近い形状を呈するが,わずかに後縁中

けての太平洋沿岸,土佐湾,青森県深浦,新潟県

央部がくぼむ.眼と瞳孔はともにほぼ正円形.鼻

佐渡島,富山湾,島根県浜田,山口県日本海沿岸,

孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の

東シナ海,南鳥島から記録されており(波戸岡・

前縁前方に位置する.前鼻孔は正円形に近い形状

甲斐,2013),本研究において新たに鹿児島県薩

を呈し,後鼻孔は背腹方向に長いスリット状.両

摩半島西岸における分布が確認された.

鼻孔に皮弁はない.口は小さく端位で,下顎は上

250

備考 鹿児島県産の標本は,頭部背面の吸盤


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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 2. Lateral (upper) and dorsal (lower) views of fresh specimen of Remora albescens (KAUM–I. 65325, 112.4 mm SL, Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan).

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length (SL), of Remora albescens from Kagoshima. Registration number 65335 13072 65326 65325 (KAUM–I.) Standard length (mm) 59.9 75.6 112.1 112.4 Counts Dorsal-fin rays 17 18 17 18 Anal-fin rays 20 20 17 18 Pectoral-fin rays 16 17 16 16 Pelvic-fin spines 1 1 1 1 Pelvic-fin rays 5 5 5 5 Caudal-fin rays 8+7 8+7 8+7 8+7 Upper gill rakers 1 1 1 1 Lower gill rakers 10 10 10 10 Gill rakers-toral 11 11 11 11 Disc lacrimae 12 13 11 12 Measurements (% SL) Body depth 11.2 11.3 19.8 14.6 Body width 20.8 22.6 25.1 23.8 Head length 25.3 25.8 26.4 25.7 Orbit diameter 3.6 4.0 3.1 2.8 Interorbital width 17.8 21.0 20.4 20.5 Snout length 11.9 12.9 13.0 13.1 Eye diameter 3.6 4.0 3.1 2.8 Upper-jaw length 11.6 11.9 11.8 10.4 Lower-jaw length 13.0 12.0 13.7 13.4 Dorsal-fin base length 20.8 19.3 19.7 22.6 Anal-fin base length 21.6 22.6 21.0 21.4 Caudal-peduncle length 9.9 11.5 9.1 10.4 Caudal-peduncle depth 5.2 6.1 6.4 6.4 Pectoral-fin length 18.2 19.5 19.3 20.4 Pelvic-fin length 10.3 11.9 10.8 11.5 Pre-dorsal-fin length 69.4 71.2 72.2 69.8 Pre-anal-fin length 67.3 66.6 70.3 69.7 Pre-pectoral-fin length 26.0 26.0 26.5 25.9 Pre-pelvic-fin length 28.2 27.5 29.0 28.3 Disc width 20.5 22.9 25.5 23.8 Disc length 35.6 36.9 37.0 36.0

の板状体が 11–13 枚であること,背鰭軟条数が 17 または 18 であること,臀鰭軟条数が 17–20 で あることなどの特徴が,Strasburg (1964) や Shen (2003),波戸岡・甲斐(2013)によって報告され た Remora albescens の標徴とよく一致したため, 本種に同定された. Remora albescens は Temminck and Schlegel (1850) によって,長崎から得られた標本に基づき, Echeneis albescens と し て 記 載 さ れ た. そ の 後, Jordan et al. (1913) において,東京近海における分 布が報告されると同時に,和名「シロコバン」が 提唱された.また,Tanaka (1915) は神奈川県三崎 松輪から得られたコバンザメ科魚類 1 個体を Echeneis clypeata Günther, 1860 として報告すると 同時に,和名「アブラコバン」を提唱した.現在, E. clypeata は R. albescens の新参異名とされてい る(Kamohara, 1958, 1964; Lachner, 1973; Shen, 1993).宇井(1924)は和歌山県から得られたシ ロ コ バ ン を Remora albescens と し て 報 告 し た. Kamohara (1958, 1964) は非常に稀ではあるもの の,シロコバンが土佐湾から得られることを報告 した.辻ほか(2010)は石川県能登町七見沖から シロコバンが定置網により得られたと報告した が,標本や写真は残されていない.シロコバンの 日本国内における分布域は「分布」の項で述べた とおりであり,本研究において,本種の鹿児島県

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Nature of Kagoshima Vol. 44

からの記録は一切みつからなかった.したがって, 本研究の記載標本は鹿児島県におけるシロコバン の初めての記録となる. なお,シロコバンは宿主としてイトマキエイ 類に対する依存度が高いことが知られる(Collette, 1999;波戸岡・甲斐,2013).本研究において記 載をおこなった 4 標本のうち,KAUM–I. 13072 はイトマキエイ Mobula mobular (Bonnaterre, 1788) と バ シ ョ ウ カ ジ キ Istiophorus platypterus (Shaw, 1792) と同時に水揚げされており,これらのいず れかに吸着して入網したものと思われる.また, 残りの 3 個体は,タイワンイトマキエイ Mobula tarapacana (Philippi, 1892) に吸着した状態で定置 網から水揚げされたことが第 2 著者によって確認 されている. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子氏 をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン ティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには 適切な助言を頂き,謹んで感謝の意を表する.本 研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産 魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行 われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652), 笹 川 科 学 研 究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Collette, B. B. 1999. Echeneidae, Remoras (sharksuckers, discfishes). Pp. 2652–2654 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO, Rome.

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RESEARCH ARTICLES 畑 晴陵.2018.コバンザメ科.Pp. 223–226.小枝圭太・ 畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編).黒潮あたる鹿児 島の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち.鹿児島大 学総合研究博物館,鹿児島. 波戸岡清峰・甲斐義晃.2013.コバンザメ科.Pp. 872–874, 1989–1990.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 岩坪洸樹.2017.コバンザメ科.Pp. 138–139.岩坪洸樹・ 本村浩之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿 児島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博 物館,鹿児島. Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. Kamohara, T. 1958. A catalogue of fishes of Kochi Prefecture (Province Tosa), Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 5 (1): 1–76. Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Report of Usa Marine Biological Starion, 11: 1–99. Lachner, E. A. 1973. Echeneidae. Pp. 636–640 in Hureau, J. C. and Monod, T. (eds.) Check-list of the fishes of the northeastern Atlantic and of the Mediterranean. CROFNAM 1. UNESCO, Paris. Lachner, E. A. 1986. Echeneidae. Pp. 1329–1334 in Whitehead, P. J. P., Bauchot, M.-L., Hureau, J.-C., Nielsen, J. and Tortonese, E. (eds.) Fishes of the north-eastern Atlantic and the Mediterranean, vol. 3. UNESCO, Paris. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp. O’Toole, B. 2002. Phylogeny of the species of the superfamily Echeneoidea (Perciformes: Carangoidei: Echeneidae, Rachycentridae, and Coryphaenidae), with an interpretation of echeneid hitchhiking behaviour. Canadian Journal of Zoology, 80: 596–623. Shen, S.-C. 1993. Fishes of Taiwan. Department of Zoology, National Taiwan University, Taipei. 960 pp. Strasburg, D. W. 1964. Further notes on the identification and biology of echeneid fishes, Pacific Science, 18: 51–57. Tanaka, S. 1915. Figures and descriptions of the fishes of Japan including Riukiu Islands, Bonin Islands, Formosa, Kurile Islands, Korea and southern Sakhalin. V. 19: 319–342, pls. 91–95. Temminck, C. J. and Schlegel, H. 1850. Pisces. Supplement. Pp. 270–324 in von Siebold P. F. (ed.) Fauna Japonica. Lugduni Batavorum, Leiden. 辻 俊宏・坂井恵一・木本昭紀・奥野充一.2010.のと班 長周辺海域で新たに確認された魚類.石川県水産総合 センター研究報告,5: 35–39. 宇井縫蔵.1924.紀州魚譜.紀元社,東京.282 + 43 pp. 財団法人鹿児島市水族館公社.2008.鹿児島水族館が確認 した ― 鹿児島の定置網の魚たち.260 pp.財団法人鹿 児島市水族館公社,鹿児島.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたフエダイ科魚類バケアカムツ 畑 晴陵 ・前川隆則 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに バケアカムツ Randallichthys filamentosus (Fourmanoir, 1970) は最大で体長 50 cm に達するフエダ イ科魚類 Lutjanidae の 1 種である(Anderson and Allen, 2001;島田,2013).バケアカムツの日本 における分布記録は少なく,これまで伊豆諸島, 小笠原諸島,沖ノ鳥島,および沖縄諸島からのみ 記録されている(島田,2013).本種は沖縄県に お い て 水 深 200 m 以 深 か ら ハ マ ダ イ Etelis coruscans Valenciennes, 1862 などと混獲されるが, その漁獲量は極めて少ないことが知られる (Yoshino and Araga, 1975;益田ほか,1980). 奄美群島における魚類相調査の過程で,1 個体 のバケアカムツが採集された.本標本は鹿児島県 における本種の標本に基づく初めての記録となる ため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Anderson (1981) にしたがっ た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを 用いて 0.1 mm までおこなった.バケアカムツの 生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された奄美 大島産の 1 標本(KAUM–I. 11548)のカラー写真 に基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定 Hata, H., T. Maekawa and H. Motomura. 2018. First record of Randallichthys filamentosus (Perciformes: Lutjanidae) from Amami-oshima island, Amami Islands, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 253–256. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 23 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-034.pdf

方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた 標本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されて おり,上記の生鮮時の写真は同館のデータベース に登録されている.本報告中で用いられている研 究機関略号は以下の通り:KAUM(鹿児島大学 総合研究博物館);KPM(神奈川県立生命の星・ 地球博物館);NSMT-P(国立科学博物館). 結果と考察 Randallichthys filamentosus (Fourmanoir, 1970) バケアカムツ (Fig. 1) 標本 KAUM–I. 111548,体長 440.0 mm,尾叉 長 508.0 mm,全長 565.0 mm,鹿児島県奄美大島 近海(名瀬漁港で購入),2018 年 1 月 18 日,前 川隆則. 記載 背鰭棘数 10;背鰭軟条数 11;臀鰭棘数 3; 臀鰭軟条数 9;胸鰭軟条数 16;腹鰭棘数 1;腹鰭 軟条数 5;側線有孔鱗数 48;前鰓蓋骨上の鱗列数 9;背鰭前方鱗数 21;側線上方横列鱗数 8;背鰭 中央部における側線上方横列鱗数 6.5;側線下方 横列鱗数 11;鰓条骨数 7;鰓耙数 4 + 14 = 18. 体各部の体長に対する割合(%):頭長 30.7; 吻長 10.3;水平肉質眼窩径 7.0;眼後長 14.6;眼 隔域幅 9.3;眼下骨幅 3.8;上顎長 14.0;下顎長 17.0;吻端から前鰓蓋骨屈曲部までの長さ 24.7; 眼科後端から前鰓蓋骨屈曲部までの長さ 12.3;背 鰭起部における体高 32.0;背鰭最後軟条長 8.5; 臀鰭基底長 14.1;臀鰭第 3 棘長 9.1;臀鰭最後軟 条長 7.9;胸鰭長 20.0;腹鰭長 22.2;尾鰭上葉長 32.9;尾鰭下葉長 33.3. 体は前後方向に長い楕円形でやや側扁し,体 高は背鰭起部で最大.体背縁は吻端から背鰭起部

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Randallichthys filamentosus (KAUM–I. 111548, 440.0 mm standard length) from Amami-oshima island in the Amami, Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

にかけて上昇し,そこから尾鰭基底上端にかけて

む.尾鰭後縁は湾入し,両葉の後端は尖る.肛門

緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から腹鰭起

は正円形を呈し,臀鰭起部前方に位置する.眼と

部にかけて下降し,そこから臀鰭起部にかけて体

瞳孔はともにほぼ正円形.眼隔域は平坦.吻部側

軸とほぼ平行となったのち,尾鰭基底後端にかけ

面は溝がなく,平坦.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻

て緩やかに上昇する.胸鰭基底上端は鰓蓋後端よ

孔は互いに近接し,眼の前縁前方に位置する.両

りもわずかに後方,胸鰭基底下端は腹鰭起部直上

鼻孔はともに正円形に近い形状を呈する.前鼻孔

にそれぞれ位置する.胸鰭後端は尖り,背鰭第 8

の後縁には皮弁をそなえる.体は剥がれにくい櫛

棘起部直下にわずかに達しない.胸鰭上縁と下縁

鱗に被われ.各鰭,両顎,吻部,眼の周囲,およ

はそれぞれ上方と下方にわずかに膨らみ,胸鰭後

び前鰓蓋骨後部は無鱗.前鰓蓋骨後縁は鋸歯状を

縁は直線に近い.腹鰭起部は背鰭起部よりもわず

呈し,鰓蓋後縁は円滑.前鰓蓋骨の後縁は円滑で

かに前方,腹鰭基底後端は背鰭第 3 棘起部直下に

あるが,屈曲部と下縁は鋸歯状を呈する.口裂は

それぞれ位置する.たたんだ腹鰭の後端は,背鰭

大きく,上顎後端は瞳孔先端よりも後方に達する.

第 9 棘起部よりもわずかに後方に達するが,肛門

前上顎骨は非可動性で突出させることができず,

には達しない.腹鰭後縁は丸みを帯びる.腹鰭最

吻部と連続する.主上顎骨側面には 5 本の骨質隆

長軟条は第 1 軟条で,第 1 棘よりも長い.背鰭起

起線がある.上顎には 1 列の円錐歯が並び,最前

部は腹鰭第 2 軟条起部直上,背鰭基底後端は臀鰭

のものは他の上顎歯よりも大きく,牙状を呈する.

基底後端よりもわずかに後方にそれぞれ位置す

鋤骨と口蓋骨には小円錐歯が密生する.下顎には

る.背鰭背縁は棘部と軟条部の間にわずかに欠刻

1 列に円錐歯が並ぶ.舌上は無歯.擬鰓上にフィ

がある.背鰭棘は第 3 棘が最長.背鰭と臀鰭の最

ラメント状の鰓弁を有する.鰓耙は細長く,棒状.

後軟条はいずれも糸状に伸長せず,直前の軟条と

側線は完全で,鰓蓋上部後方から尾鰭基底中央部

ほぼ同長.臀鰭起部は背鰭第 3 軟条起部よりもわ

にかけて,体背縁に対しほぼ平行にはいる.

ずかに後方,臀鰭基底後端は背鰭第 10 軟条起部

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部に

直下にそれぞれ位置する.臀鰭後縁はわずかに凹

かけては明るい黄土色を呈し,体側下部から体腹

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Nature of Kagoshima Vol. 44

面にかけては桃色.頭部は橙がかった桃色を呈し,

海 か ら 得 ら れ た 2 個 体 に 基 づ き,Etelis nudi-

前鰓蓋骨と主鰓蓋骨は黄土色がかる.背鰭は一様

maxillaris を記載すると同時に,和名バケアカム

に黄土色.胸鰭と臀鰭は桃色がかった黄土色.腹

ツを提唱した.現在,E. nudimaxillaris は Randall-

鰭は橙色を帯びた黄色を呈し,縁辺部は黒色がか

ichthys filamentosus の新参異名とされている(益

る.尾鰭は黄色を呈し,下葉下部は桃色を帯びる.

田 ほ か,1980; Allen, 1985; Anderson and Allen,

虹彩は金色がかった橙色を呈し,瞳孔は青みを帯

2001).なお,田中(1917)は東京市場に水揚げ

びた黒色.

された全長 184 mm の個体を Apsilus pluvius(和

分布 日本,キャロライン諸島,ミクロネシア,

名をアメフエダイ)として記載した.島田(2013)

ニューカレドニア,マーシャル諸島,クック諸島,

は A. pluvius をバケアカムツ R. filamentosus の異

ソサイエティ諸島,ハワイ諸島,およびオースト

名である可能性を示唆したが,田中(1917)には

ラリア北西岸から記録されている(Fourmanoir,

記載標本の図も示されておらず,またその標本の

1970; Yoshino and Araga, 1975; 益 田 ほ か,1980;

所在も不明である.

Allen, 1985; Anderson and Allen, 2001; Leis, 2005;

バケアカムツの日本国内における分布記録は

Mundy, 2005; Newman, 2009;島田,2013).日本

ほ か に, 管 野 ほ か(1980) が バ ケ ア カ ム ツ を

国内においては伊豆諸島,小笠原諸島,沖ノ鳥島,

Etelis nudimaxillaris として小笠原諸島近海におけ

お よ び 沖 縄 諸 島 か ら 記 録 さ れ て お り( 島 田,

る 分 布 を 報 告 し た も の な ど が あ る. さ ら に,

2013),本研究によって,奄美大島近海からも確

Randall et al. (1997) が 本 種 1 個 体(NSMT-P

認された.

46700,体長 573 mm)を小笠原諸島から報告した.

備考 奄美大島産の標本は,主上顎骨側面が

また,瀬能・大沼(2000)は伊豆諸島伊豆大島秋

被鱗せず,骨質隆起線を 5 本そなえること,胸鰭

の浜の水深 25–30 m において撮影された本種の水

が長く,吻長の 1.94 倍であり,腹鰭よりわずか

中写真(KPM-NR 35595A)を報告しており,こ

に短いこと,臀鰭軟条数が 9 であること,吻部側

れが本種の分布の北限と思われる.東京都小笠原

面に溝がないこと,鋤骨と口蓋骨に小円錐歯を多

水産センター(2009)は沖ノ鳥島近海で 2 個体の

数そなえること,背鰭と臀鰭の最後軟条はいずれ

バケアカムツが釣獲されたことを報告した.した

も糸状に伸長せず,直前の軟条とほぼ同長である

がって,バケアカムツの日本国内における分布記

こと,前上顎骨は非可動性で突出させることがで

録は伊豆諸島,小笠原諸島,沖ノ鳥島,および沖

きないことなどが,Allen (1985) や Anderson and

縄諸島からのものに限られていた.

Allen (2001), お よ び 島 田(2013) が 報 告 し た

鹿児島県内における本種の記録はなく,奄美

Randallichthys filamentosus の標徴とよく一致した

大島の魚類相を報告した Nakae et al. (2018) にも

ため,本種に同定された.

記録されていない.したがって,本研究の記載標

なお,バケアカムツは本種 1 種のみでバケア カ ム ツ 属 Randallichthys を 形 成 す る(Allen, 1985).本種は生鮮時,赤色に近い色彩を呈する ことなどから,ハマダイ属 Etelis の各種と類似す るが,上顎が被鱗せず,複数の骨質隆起線がある

本は鹿児島県における本種の初めての記録とな る. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子氏

こと(ハマダイ属では被鱗し,骨質隆起線がない),

をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン

および背鰭と臀鰭の最後軟条が糸状に伸長しない

ティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには

こと(糸状に伸長する)などにより,識別が可能

適切な助言を頂き,謹んで感謝の意を表する.本

である(Allen, 1985; Anderson and Allen, 2001).

研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産

バケアカムツを日本から初めて報告したのは

魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行

Yoshino and Araga (1975) である.彼らは沖縄島近

われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2:

255


Nature of Kagoshima Vol. 44

29-6652), 笹 川 科 学 研 究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・ アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本 の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究 プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島 の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整 備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物 多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助 を受けた. 引用文献 Allen, G. R. 1985. FAO species catalogue. Vol. 6. Snappers of the world. An annotated and illustrated catalogue of lutjanid species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 6: 1–208. Anderson, W. D. 1981. A new species of Indo-west Pacific Etelis (Pisces: Lutjanidae), with comments on other species of the genus. Copeia, 1981 (4): 820–825. Anderson, W. D. and Allen, G. R. 2001. Lutjanidae Snappers (Jobfishes). Pp. 2840–2918, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. Fourmanoir, P. 1970. Notes ichthyologiques (I). Cahiers O. R. S. T. O. M. (Office de la Recherche Scientifique et Technique Outre-Mer) Série Océanographie 8 (2): 19–33. 管野 徹・倉田洋二・柳沢富雄.1980.IV-a 小笠原諸島の 魚類相概要.Pp. 119–155.東京都立大学自然環境現況 調査班(編).小笠原諸島自然環境現況調査報告書.東 京都公害局,東京.

256

RESEARCH ARTICLES Leis, J. M. 2005. A larva of the eteline lutjanid, Randallichthys filamentosus (Pisces: Perciformes), with comments on phylogenetic implications of larval morphology of basal lutjanids. Zootaxa, 1008: 57–64. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1980.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚 改訂版.東海大学出版会,東京.382 pp. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Mundy, B. C. 2005. Checklist of the Hawaiian Archipelago. Bishop Museum Bulletins in Zoology, 6: 1–703. Nakae, M., Motomura, H., Hagiwara, K., Senou, H., Koeda, K., Yoshida, T., Tashiro, S., Jeong, B., Hata, H., Fukui, Y., Fujiwara, K., Yamakawa, T., Aizawa, M., Shinohara, G. and Matsuura, K. 2018. An annotated checklist of fishes of Amami-oshima Island, the Ryukyu Islands, Japan. Memoirs of National Museum of Natural Science, Tokyo, 52: 1–157. Newman, S. J. 2009. First record of Randall’s snapper Randallichthys filamentosus (Perciformes: Lutjanidae) from the eastern Indian Ocean (north-western Australia). Journal of Fish Biology, 75 (6): 1513–1517. Randall, J. E., Ida, H., Kato, K., Pyle, R. L. and Earle, J. L. 1997. Annotated checklist of the inshore fishes of the Ogasawara Islands. National Science Museum Monographs, 11: 1–74, pls. 1–19. 瀬能 宏・大沼久之.2000.今月の魚 バケアカムツ.伊 豆海洋公園通信,11 (8): 1. 島田和彦.2013.フエダイ科.Pp. 913–930, 2001–2004.中 坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版. 東海大学出版会,秦野. 29 (340): 田中茂穂.1917.日本産魚類の六新種.動物学雑誌, 37–40. 東京都小笠原水産センター.2009.沖ノ鳥島の経済効果. 海洋島,11 (1): 1. Yoshino, T. and Araga, C. 1975. Etelis nudimaxillaris Yoshino et Araga, sp. nov. P. 236, pl. P 61-H, in Masuda, H., Araga, C. and Yoshino, T. (eds.) Coastal fishes of southern Japan. Tokai University Press, Tokyo.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

宇治群島から得られた魚類 3 種の記録 畑 晴陵 ・川間公達 ・本村浩之 1

2

3

1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科

2

〒 894–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに 宇治群島は南さつま市笠沙町野間岬の南西約 70 km(31°11ʹN, 129°27ʹE 付近),甑列島の南方, 草垣群島の北方に位置する無人島のみからなる群 島である.群島を形成する主な島は宇治島(家島 とも称される)と宇治向島(向島とも称される) であり,それらの周辺に小岩が散在する.かつて は近海において捕鯨が試みられ(不和・花田, 2011),さらに宇治島においてはウシの放牧がお こなわれたこともあったが(桑水流ほか,2003, 2004),現在はいずれの島も無人島となっており, 近海において小規模な漁業,遊漁船による釣りが わずかにおこなわれるのみである.行政区画は南 さつま市笠沙町片浦に属し,かつては大隅諸島の 薩摩硫黄島,竹島,および黒島とともに「口五島」 と称されたこともある(波多江,1955). 宇治群島における自然調査は鹿児島大学や鹿 児島県立博物館の主導のもとにおこなわれ,これ まで地質(波多江,1955;桑水流,2003, 2004), 植物(廣森,2003),昆虫類(中峯,2004),貝類 ( 行 田,2002, 2003), 鳥 類( 小 倉・ 中 間,2004) などに関して報告がおこなわれている.哺乳類に 関しては上述の通りかつてウシの放牧がおこなわ れ,それらは全て死滅したとされる一方で(桑水

流ほか,2003, 2004),人為的に持ち込まれたと思 われるカイウサギの野生化が確認されている(廣 森,2003).また,陸貝類に関しては宇治群島固 有の種が多数報告されている(行田,2003). 宇治群島近海における魚類相調査は従来ほと んどおこなわれておらず,山下ほか(2012)が同 群 島 産 の 軟 骨 魚 類 を 報 告 し た も の や, 畑 ほ か (2015)が宇治島から得られたモヨウモンガラド オシ Myrichthys maculosus Cuvier, 1816 を報告した も の な ど が あ る に 過 ぎ な か っ た. し か し, Motomura et al. (2016) によって包括的な魚類相調 査がなされ,70 科 153 種が報告された.その後, 宇治群島近海からはシキシマハナダイ Callanthias japonicus Franz, 1910(畑ほか,2015)とキビレカ ワ ハ ギ Thamnaconus modestoides (Barnard, 1927) (畑・本村,2017)の 2 種が標本に基づき報告さ れており,現在宇治群島近海からは計 155 種が記 録されている.さらなる魚類相調査の進展により, これまで宇治群島から記録のなかったアカムツ Doederleinia berycoides (Hilgendolf, 1879),ナガオ オメハタ Malakichthys elegans Matsubara and Yamaguti, 1943,およびゴイシウマヅラハギ Thamnaconus tessellatus (Günther, 1880) の 3 種が得られた ため,ここに報告する. 材料と方法

Hata, H., Kawama, K. and H. Motomura. 2017. First records of three fish species from the Uji Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 257–264. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 24 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-035.pdf

計数・計測方法は,アカムツとナガオオメハ タの 2 種については Yamanoue and Yoseda (2001) に, ゴ イ シ ウ マ ヅ ラ ハ ギ に つ い て は Matsuura (1980) を改変した Matsuura and Chiba (2013) にし たがった.標準体長は体長と表記し,体各部の計 測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこ なった.上記 3 種の生鮮時の体色の記載は,固定

257


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Doederleinia berycoides. KAUM–I. 97799, 240.5 mm standard length, Uji Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

前に撮影された宇治群島産の標本(記載標本の項

尾柄高 13.0;背鰭前長 40.8;吻端から背鰭基底後

を参照)のカラー写真に基づく.標本の作製,登

端までの距離 46.9;臀鰭前長 72.5;吻端から臀鰭

録,撮影,および固定方法は本村(2009)に準拠

基底後端までの距離 85.4;胸鰭前長 35.9;腹鰭前

した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研

長 39.5;胸鰭長 32.9;腹鰭長 20.3;背鰭基底長

究博物館に保管されており,上記の生鮮時の写真

45.5;臀鰭基底長 15.6;眼後長 17.1;頭高 34.7;

は同館のデータベースに登録されている.本報告

下顎長 22.0;吻端から肛門先端までの距離 69.0;

中で用いられている研究機関略号は以下の通り:

腹 鰭 棘 長 11.9; 背 鰭 最 長 軟 条( 第 4 軟 条 ) 長

KAUM(鹿児島大学総合研究博物館) ;USNM(ス

14.1;臀鰭最長軟条(第 1 軟条)長 14.6;背鰭第

ミソニアン自然史博物館). 結果と考察 Doederleinia berycoides (Hilgendolf, 1879) アカムツ (Fig. 1)

1 棘 長 4.6; 背 鰭 第 2 棘 長 8.6; 背 鰭 第 3 棘 長 12.6;背鰭第 4 棘長 14.4;臀鰭第 1 棘長 2.4;臀 鰭第 2 棘長 8.1. 体は前後方向に長い楕円形で側扁し,体高は 背鰭棘部基底中央で最大.体背縁は吻端から背鰭 棘部基底中央にかけて緩やかに上昇し,そこから

標 本 KAUM–I. 97799, 体 長 240.5 mm, 尾 叉

尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降する.体腹縁

長 304.9 mm,全長 314.8 mm,鹿児島県宇治群島

は下顎先端から腹鰭起部にかけて緩やかに下降

宇 治 島 南 方(31°09′44″N, 129°17′″E),2017 年 2

し,そこから尾鰭基底下端にかけて極めて緩やか

月 2 日,釣り,川間公達,鹿児島市中央卸売市場

に上昇する.胸鰭基底上端は鰓蓋後端よりもわず

魚類市場にて購入.

かに前方,胸鰭基底下端は背鰭起部よりもわずか

記載 背鰭条数 IX, 10;臀鰭条数 III, 7;胸鰭

に前方にそれぞれ位置する.胸鰭上縁と下縁は直

軟条数 16;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 47;側

線状.胸鰭後縁は丸く,後端は背鰭第 1 軟条起部

線上方横列鱗数 5;側線下方横列鱗数 14;鰓耙数

直下にわずかに達しない.背鰭起部は腹鰭基底後

6 + 1 + 18 = 25.

端よりもわずかに後方に位置する.背鰭各棘間の

体各部測定値の体長に対する割合(%):頭長

鰭膜はわずかに切れ込む.背鰭背縁は起部から第

38.1; 体 高 36.2; 体 幅 21.1; 吻 長 8.7; 眼 窩 径

4 棘後端にかけて上昇し,そこから第 8 棘起後端

12.8;眼隔域幅 7.2;上顎長 17.7;尾柄長 23.2;

にかけて下降する.背鰭背縁は第 8 棘後端から第

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

1 軟条後端にかけて緩やかに上昇し,そこから緩

2005, 2011;波戸岡,2013;鏑木,2016;本研究).

やかに下降する.腹鰭起部は胸鰭基底下端よりも

備考 宇治群島産の標本は,背鰭棘数が 9,臀

わずかに後方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は

鰭棘数が 3,体表には発光器がないこと,下顎に

背鰭第 6 棘起部よりも後方に達するが,肛門には

1 列に円錐歯が並ぶこと,肛門が臀鰭起部直前に

達しない.腹鰭後縁は丸みを帯びる.臀鰭起部は

位 置 す る こ と な ど が,Yamanoue and Matsuura

背鰭第 2 軟条起部よりもわずかに後方,臀鰭基底

(2007) や 波 戸 岡(2013) に よ っ て 報 告 さ れ た

後端は背鰭基底後端直下にそれぞれ位置する.臀

Doederleinia berycoides の標徴とよく一致したた

鰭腹縁は起部から第 1 軟条後端にかけて下降し,

め,本種に同定された.また,同標本の計数・計

そこから緩やかに上昇する.尾鰭はわずかに湾入

測値は Yamanoue and Matsuura (2007) によって示

する.肛門は正円形を呈し,臀鰭起部前方に位置

された D. berycoides の値と概ね一致したが,背

する.眼と瞳孔はともに正円形.鼻孔は 2 対で前

鰭 基 底 長 が 体 長 の 45.5% と,Yamanoue and

鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,吻端に位置する.

Matsuura (2007) によって示された値(体長の 38–

前鼻孔は正円形を呈し,後鼻孔は背腹方向に長い

45%)よりわずかに大きい.しかし,この差は極

楕円形.後鼻孔は前鼻孔と比較して著しく大きい.

めて小さいため,本研究ではこの差異を種内変異

両鼻孔に皮弁はない.口は端位で大きく,上顎後

と判断した.なお,アカムツは本種 1 種のみでア

端は瞳孔中心よりもわずかに後方に達する.主鰓

カムツ属 Doederleinia を形成する(Yamanoue and

蓋骨上部に 2 本の棘がある.鰓耙は細長い.鰓弁

Matsuura, 2007).

は細長いフィラメント状.体は剥がれにくい櫛鱗

Doederleinia berycoides は Hilgendolf (1879) に

に被われる.吻部と下顎,および両唇は被鱗しな

よって,Anthias berycoides として日本産標本に基

い.背鰭前方鱗被鱗域の先端は両眼の先端を結ん

づき記載された.その後,Steindachner and Döder-

だ線にわずかに達しない.上顎には円錐歯が数列

lein (1883) は Doederleinia orientalis Steindachner

に並び,先端付近には牙状歯が数本ある.鋤骨と

and Döderlein, 1883 を東京湾から得られた個体に

口蓋骨には円錐歯が密生する.下顎には円錐歯が

基づき記載したが,本名義種は D. berycoides の

1 列に並ぶ.側線は完全で,鰓蓋上方から始まり,

新参異名とされている(Jordan et al., 1913; Yama-

体背縁と平行に尾鰭基底にかけてはいる.

noue and Matsuura, 2007).また,Jordan et al. (1913)

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側は赤色 を呈し,体腹面は一様に銀白色.背鰭と胸鰭は一 様に赤色.腹鰭は赤色を呈し,外縁は白色.臀鰭

は D. berycoides に対して和名アカムツを提唱し た. アカムツは鹿児島県内において宇治群島のほ

は一様に赤みがかった白色.尾鰭は赤色を呈し,

か,鹿児島湾(今井・中原,1969;鹿児島県衛生

後縁は黒色.尾鰭下葉後端は白色.虹彩は白色を

研究所,1988; Iwata and Kikuchi, 2006;財団法人

呈し,瞳孔は青みがかった黒色.

鹿児島市水族館公社,2008;吉田,2017),甑島

分布 日本から台湾にかけての北西太平洋と,

列 島 下 甑 島( 財 団 法 人 鹿 児 島 市 水 族 館 公 社,

フィリピン,インドネシア,およびオーストラリ

2008),および種子島(鏑木,2016)などから記

ア 北 西 岸 か ら 記 録 さ れ て い る(Yamanoue and

録されている.

Matsuura, 2007; 波 戸 岡,2013; Okamoto, 2017). 日本国内においては北海道から九州南岸にかけて

Malakichthys elegans Matsubara and Yamaguti, 1943

の日本海・東シナ海沿岸,青森県から九州南岸に

ナガオオメハタ (Fig. 2)

かけての太平洋沿岸,宇治群島,種子島,東シナ 海, お よ び 大 東 諸 島 近 海 に 広 く 分 布 す る

標 本 KAUM–I. 97800, 体 長 212.8 mm, 尾 叉

(Kamohara, 1964;蒲生・加藤,1973;茨城の海

長 241.2 mm,全長 257.0 mm,鹿児島県宇治群島

産 動 物 研 究 会,2004, 2005; Shinohara et al., 2001,

宇 治 島 南 方(31°09′44″N, 129°17′″E),2017 年 2

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 2. Fresh specimen of Malakichthys elegans. KAUM–I. 97800, 212.8 mm standard length, Uji Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

月 2 日,釣り,川間公達,鹿児島市中央卸売市場

体腹縁は下顎先端から腹鰭起部にかけて緩やかに

魚類市場にて購入.

下降し,そこから尾鰭基底下端にかけて極めて緩

記載 背鰭条数 IX-I, 10;臀鰭条数 III, 8;胸鰭

やかに上昇する.腹鰭起部は鰓蓋後端よりもわず

軟条数 14;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 48;側

かに前方,腹鰭基底後端は背鰭起部直下にそれぞ

線上方横列鱗数 5;側線下方横列鱗数 12;鰓耙数

れ位置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門に達しな

8 + 1 + 22 = 31.

い.腹鰭最長軟条は第 1 軟条で,腹鰭棘よりも長

体各部測定値の体長に対する割合(%):頭長

い.胸鰭基底上端は腹鰭起部よりもわずかに後方,

37.7; 体 高 32.3; 体 幅 16.2; 吻 長 9.6; 眼 窩 径

胸鰭基底下端は腹鰭基底後端よりもわずかに前方

14.1;眼隔域幅 8.0;上顎長 16.3;尾柄長 20.4;

にそれぞれ位置する.胸鰭の上縁,下縁,および

尾柄高 10.6;背鰭前長 39.3;吻端から背鰭基底後

後縁はいずれも直線状.胸鰭後端はとがり,肛門

端までの距離 81.6;臀鰭前長 71.7;吻端から臀鰭

直上にわずかに達しない.背鰭起部は胸鰭基底上

基底後端までの距離 82.8;胸鰭前長 36.3;腹鰭前

端よりもわずかに後方,背鰭基底後端は臀鰭基底

長 39.1;胸鰭長 28.4;腹鰭長 21.4;背鰭基底長

後端直上にそれぞれ位置する.背鰭背縁は第 9 棘

44.9;臀鰭基底長 13.3;眼後長 14.6;頭高 31.5;

と第 10 棘の間に欠刻がある.背鰭各棘間の鰭膜

下顎長 22.6;吻端から肛門先端までの距離 66.9;

はわずかに切れ込む.背鰭軟条は第 1 軟条のみ不

腹 鰭 棘 長 15.1; 背 鰭 最 長 軟 条( 第 3 軟 条 ) 長

分枝.臀鰭起部は背鰭第 4 軟条起部直下に位置す

13.8;臀鰭最長軟条(第 1 軟条)長 14.2;背鰭第

る.臀鰭棘は第 3 棘が最長.臀鰭軟条は全て分枝

1 棘 長 6.4; 背 鰭 第 2 棘 長 13.0; 背 鰭 第 3 棘 長

する.尾鰭は湾入する.肛門は正円形を呈し,臀

16.1;背鰭第 4 棘長 17.3;臀鰭第 1 棘長 4.7;臀

鰭起部前方に位置する.眼と瞳孔はともに正円形.

鰭第 2 棘長 11.8;臀鰭第 3 棘長 15.1.

鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔はいずれも正円形.

体は前後方向に長い楕円形で側扁し,体高は

両鼻孔に皮弁はなく,互いに近接し,眼の前方に

背鰭第 3 棘起部付近で最大.体背縁は吻端から背

位置する.口は端位.上顎後端は瞳孔先端よりも

鰭第 3 棘起部にかけて緩やかに上昇し,そこから

わずかに後方に達する.主鰓蓋骨上部に 2 本の棘

尾鰭基底上端にかけて極めて緩やかに下降する.

がある.鰓耙は細長い.鰓弁は細長いフィラメン

260


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

ト状.体は剥がれにくい櫛鱗に被われる.両顎,

種が得られたことを報告した.大隅諸島における

鋤骨,および口蓋骨には円錐歯が密生し,歯帯を

記録としては,Motomura et al. (2010) と Motomura

形成する.舌上には歯がない.側線は完全で,鰓

and Harazaki (2017) が屋久島近海から得られた本

蓋上方から始まり,体背縁と平行に尾鰭基底にか

種 1 個体(USNM 117989,体長 100.3 mm)を報

けてはいる.

告したものと,福井ほか(2015)が黒島近海から

色彩 生鮮時の色彩 ― 鰓蓋後端に瞳孔よりも 小さい黒色斑がある.黒色斑よりも上方の体側は

得 ら れ た 本 種 4 個 体(KAUM–I. 55330, 55750, 55751, 55772)を報告したものがある.

一様に茶色.体側中央から体腹面にかけては一様 に銀白色.背鰭,腹鰭,および臀鰭の各棘と軟条

Thamnaconus tessellatus (Günther, 1880)

は淡い茶褐色を呈し,鰭膜は白色半透明.胸鰭と

ゴイシウマヅラハギ (Fig. 3)

尾鰭は一様に茶色.虹彩は銀色を呈し,瞳孔は濃 青色. 分布 南日本,韓国済州島,南シナ海北部,イ ンドネシア・スマトラ島東岸,アラフラ海,およ びオーストラリア北西岸から記録されている (Yamanoue and Matsuura, 2004; 波 戸 岡,2013). 日本近海においては相模灘から日向灘にかけての

標 本 KAUM–I. 85316, 体 長 269.6 mm, 鹿 児 島県宇治群島北方(31°13′N, 129°27′E),水深 138 m,2015 年 12 月 9 日,釣り,小林憲史. 記載 背鰭条数 II, 33;臀鰭条数 31;胸鰭軟条 数 13. 体各部測定値の体長に対する割合(%):体高

太平洋沿岸,鹿児島県枕崎市沖,大隅諸島黒島,

31.8; 第 2 背 鰭 起 部 か ら 臀 鰭 起 部 ま で の 距 離

屋久島,宇治群島,および沖縄舟状海盆から記録

32.9;体幅 11.8;頭長 29.4;吻長 24.7;吻端から

が あ る(Matsubara and Yamaguti, 1943; Kamohara,

第 1 背鰭起部までの距離 31.4;吻端から臀鰭起部

1964; 小 沢,1983; Yamanoue and Matsuura, 2004;

までの距離 62.3;吻端から腹鰭後端までの距離

Shinohara et al., 2001; Motomura et al., 2010; 波 戸

56.9;第 2 背鰭基底長 34.1;臀鰭基底長 29.1;鰓

岡,2013, 福 井 ほ か,2015; Motomura and Hara-

孔長 8.6;眼径 8.7;眼隔域幅 8.4;第 1 背鰭棘長

zaki, 2017;本研究).

24.3;背鰭最長軟条(第 8 軟条)長 11.2;臀鰭最

備考 宇治群島産の標本は,下顎先端に左右

長軟条(第 8 軟条)長 10.6;胸鰭長 11.0;背鰭 1

で 1 対の小棘をそなえること,臀鰭基底が臀鰭

棘基底後端から第 2 背鰭起部までの長さ 24.8;尾

最長軟条(第 1 軟条)よりも短いこと,体高が低

鰭長 19.5;尾柄高 8.1;尾柄長 13.1.

く,体長の 32.3% であること,胸鰭軟条数が 14

体は前後方向に長い卵型で強く側扁する.体

であること,側線有孔鱗数が 48 であること,第

背縁は吻端から第 1 背鰭起部にかけて緩やかに上

1 鰓 弓 下 枝 鰓 耙 数 が 22 で あ る こ と な ど が,

昇し,そこから第 2 背鰭起部にかけては体軸とほ

Yamanoue and Matsuura (2004) や 波 戸 岡(2013)

ぼ平行となり,第 2 背鰭起部から尾鰭基底上端に

によって報告された Malakichthys elegans の標徴

かけて下降する.体腹縁は下顎先端から腹鰭起部

とよく一致したため,本種に同定された.また,

にかけて下降し,そこから臀鰭起部にかけて急激

同標本の計数・計測値は Yamanoue and Matsuura

に上昇する.臀鰭起部から尾鰭基底下端にかけて

(2004) によって示された M. elegans の値とよく一

の体腹縁は緩やかに上昇する.第 1 背鰭起部は瞳

致した.

孔中央直上に位置する.第 2 背鰭起部は臀鰭起部

Malakichthys elegans は駿河湾から得られた 10

よりもわずかに前方,第 2 背鰭基底後端は臀鰭基

個 体 に 基 づ き Matsubara and Yamaguti (1943) に

底後端直上にそれぞれ位置する.第 2 背鰭の背縁

よって記載された.ナガオオメハタは鹿児島県に

は起部から第 8 軟条後端にかけて上昇し,そこか

おいては薩摩半島南方から大隅諸島にかけて多く

ら緩やかに下降する.胸鰭基底の上端と下端はい

記録されている.小沢(1983)は枕崎市沖から本

ずれも眼の中央よりも後方に位置する.胸鰭後縁

261


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 3. Fresh specimen of Thamnaconus tessellatus. KAUM–I. 83516, 269.6 mm standard length, Uji Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

は丸みを帯びる.胸鰭基底上端は口よりも上方に

ニューカレドニアから記録されている(Hutchins,

位置する.腰骨後端には左右 2 対の鱗からなる鞘

2001; Peristywady, 2008; 林・ 萩 原,2013; Matsu-

状鱗を有し,その関節部は可動.臀鰭起部は第 2

ura, 2017; Park et al., 2017).日本国内においては

背鰭第 6 軟条起部直下に位置する.臀鰭の復縁は

小笠原諸島,相模灘,土佐湾,鹿児島湾,および

起部から第 7 軟条後端にかけて下降し,そこから

東シナ海大陸斜面上部から記録されており(林・

緩やかに上昇する.尾鰭は円形に近く,後縁中央

萩原,2013;岩坪,2017),本研究により,宇治

部は後方へ膨出する.肛門は正円形を呈し,臀鰭

群島における分布も確認された.

起部の前方に位置する.鰓孔は裂孔状を呈し,そ

備考 宇治群島産の標本は,体が灰色を呈し,

の後端は眼の中央より後方に位置し,先端は眼の

多数の焦げ茶色の斑点が密にあること,尾鰭は一

先端よりも後方に位置する.眼および瞳孔はとも

様に黄色がかった灰色を呈し,目立った模様がな

に正円形.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに

いこと,臀鰭軟条数が 33 であること,鰓孔が眼

近接し,眼の前縁前方に位置する.

の前半部下方に位置すること,腰骨後端に左右 2

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に黄色がかっ

対の鱗からなる鞘状鱗を有し,その関節部が可動

た灰白色を呈し,体側上部はやや茶色がかる.体

であること,および体の後半部に小棘を欠くこと

側には瞳孔よりも小さい,多数の焦げ茶色の斑点

などが林・萩原(2013)によって報告されたゴイ

が密にある.体腹面には目立った模様がない.背

シウマヅラハギの標徴と一致したため,本種と同

鰭と腹鰭の棘は一様に灰褐色.胸鰭,背鰭,およ

定された.

び臀鰭の各軟条は黄褐色を呈し,鰭膜は白色.尾

ゴイシウマヅラハギの鹿児島県における分布

鰭は一様に黄色がかった灰色を呈し,目立った模

記録は極めて少なく,岩坪(2017)が鹿児島湾か

様がない.虹彩は銀色を呈し,瞳孔は青みがかっ

ら 得 ら れ た 1 個 体(KAUM–I. 29245, 体 長 43.5

た黒色.

mm)を報告したもののみに限られる.したがっ

分布 日本,韓国・済州島,中国広東省,海 南島,マレーシア,フィリピン,インドネシア南 西部,オーストラリア北西岸,北東岸,および

262

て,本研究の記載標本はゴイシウマヅラハギの鹿 児島県における 2 例目の記録となる.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

謝辞

波多江信宏.1955.鹿児島縣宇治群島および草垣島の地質. 地學雑誌,64 (2): 44–56.

本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学総

波 戸 岡 清 峰.2013. ホ タ ル ジ ャ コ 科.Pp. 750–753, 1958– 1959.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野.

合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類学 研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.また, 標本の採集に際しては,田中水産の田中 積氏, 鹿児島市中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様, ならびにいおワールドかごしま水族館の山田守彦 氏に多大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで 感謝の意を表する.謹んで感謝の意を表する.本 研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県 産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として 行われた.本研究の一部は笹川科学研究助成金 (28-745),JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 29-6652), JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物 館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関 する研究プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩 南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究 拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研究環境 (生物多様性プロジェクト)学長裁量経費「奄美 群島における生態系保全研究の推進」の援助を受 けた. 引用文献 福井美乃・松沼瑞樹・本村浩之.2015.鹿児島県黒島沖の 大陸斜面域から得られた底生魚類およびギンザメ科ア カギンザメ Hydrolagus mitsukurii の記録.Nature of Kagoshima, 41: 177–186. 不和 茂・花田芳裕.2011.甑島の捕鯨.鹿児島大学水産 学部紀要,60: 13–23. 蒲生重男・加藤 直.1973.真鶴附近の魚類.横浜国立大 学真鶴理科教育実験所業績,1: 69–84. 行田義三.2002.家島の陸・淡水産貝類相.鹿児島県立博 物館研究報告,21: 19–25. 行田義三.2003.宇治群島の貝類相.鹿児島県立博物館研 究報告,22: 38–40. 畑 晴陵・日比野友亮・伊東正英・本村浩之.2015.宇治 群島宇治島と奄美群島喜界島から得られたウミヘビ科 魚類モヨウモンガラドオシ Myrichthys maculosus. Nature of Kagoshima, 41: 23–29.

林 公 義・ 萩 原 清 司.2013. カ ワ ハ ギ 科.Pp. 1712–1721, 2236–22237.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Hilgendorf, F. M. 1879. Einige Beiträge zur Ichthyologie Japan’s. Sitzungsberichte der Gesellschaft Naturforschender Freunde zu Berlin, 1879: 78–81. 廣森敏昭.2003.宇治群島 2002 年 4 月,9 月,10 月の昆虫. 鹿児島県立博物館研究報告,22: 19–37. Hutchins, J. B. 2001. Monacanthidae, Filefishes (leatherjackets). Pp. 3929–3779 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 6. Bony fishes part 4 (Labridae to Latimeriidae), estuarine crocodiles, sea turtles, sea snakes and marine mammals. FAO, Rome. 茨城の海産動物研究会.2004.茨城北沿岸域を中心とした 魚類.Pp. 429–449. ミュージアムパーク茨城県自然博 物館(編).茨城県自然博物館第 3 次総合調査報告書. ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東. 茨城の海産動物研究会.2007.久慈川河口沖合を中心とし た魚類.Pp. 409–430. ミュージアムパーク茨城県自然博 物館(編).茨城県自然博物館第 4 次総合調査報告書. ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東. 今井貞彦・中原官太郎.1969.錦江湾海中公園候補地の魚 類相.Pp. 51–82.鹿児島県(編),霧島・屋久国立公園 錦江湾海中公園調査書.鹿児島県,鹿児島. Iwata, N. and Kikuchi, K. 2006. Review of mercury concentration and its characteristics in fish and shellfish. iv + 27 pp. Central Research Institute of Electric Power Industry, Tokyo. 岩坪洸樹.2017.ゴイシウマヅラハギ Thamnaconus tessellatus (Günther, 1880) P. 280.岩坪洸樹・本村浩之(編). 火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水圏生物博 物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島. Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. 鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. 鹿児島県衛生研究所.1988.食品部の業務報告.鹿児島県 衛生研究所報,24: 23–28. Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Report of Usa Marine Biological Starion, 11: 1–99. 桑水流淳二.2003.宇治群島向島の地形・地質.鹿児島県 立博物館研究報告,22: 2–5. 桑水流淳二.2004.宇治群島の地形・地質.鹿児島県立博 物館研究報告,23: 2–5, 19.

畑 晴陵・本村浩之.2017.宇治群島から得られた鹿児島 県 2 例 目 の キ ビ レ カ ワ ハ ギ.Nature of Kagoshima, 43: 235–238.

桑水流淳二・森田康夫・丸野勝敏・廣森敏昭・行田義三・ 坂下泰典・中間 弘・山元幸夫・鮫島正道・溝口文男. 2003.宇治群島の自然調査報告(その 2).鹿児島県立 博物館研究報告,22: 1–58.

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桑水流淳二・中峯浩司・小倉豪・中間 弘.2004.宇治群 島の自然調査報告(その 3).鹿児島県立博物館研究報告, 23: 1–20.

263


Nature of Kagoshima Vol. 44 Matsubara, K. And Yamaguti, M. 1943. On a new serranid fish, Malakichthys elegans from Suruga Bay, with special reference to a comparison of hitherto known species. Journal of the Shigenkagaku Kenkyusho, 1 (1): 83–96. Matsuura, K. 1980. A revision of Japanese balistoid fishes. Bulletin of National Science Museum, Series A (Zoology), 6 (1): 27–69. Matsuura, K. 2017. Thamnaconus tessellatus (Günther 1880). P. 234. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. Matsuura, K. and Chiba, S. N. 2013. First record of the filefish, Pseudomonacanhus macrurus (Bleeker, 1856), from Yoronjima Island, Ryukyu Islands (Actinopterygii, Tetraodontiformes, Monacanthidae). Bulletin of National Science Museum, Series A (Zoology), 39 (4): 211–213. 森田康夫・丸野勝敏.2003.宇治群島の植物採集記録.鹿 児島県立博物館研究報告,22: 6–18. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp. Motomura, H., Habano, A., Arita, Y., Matsuoka, M., Furuta, K., Koeda, K., Yoshida, T., Y. Hibino, Jeong, B., Tashiro, S., Hata, H., Fukui, Y., Eguchi, K., Inaba, T., Uejo, T., Yoshiura, A., Ando, Y., Haraguchi, Y., Senou, H. and Kuriiwa, K. 2016. The ichthyofauna of the Uji Islands, East China Sea: 148 new records of fishes with notes on biogeographical implications. Memoirs of Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 64: 10–34. Motomura, H. and Harazaki, S. 2017. Annotated checklist of marine and freshwater fishes of Yaku-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima, southern Japan, with 129 new records. Bulletin of the Kagoshima University Museum, 9: 1–183. Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara, G., Meguro, M., Matsunuma, M., Takata, Y., Yoshida, T., Yamashita, M., Kimura, S., Endo, H., Murase, A., Iwatsuki, Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi, H. and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247 in Motomura, H. and Matsuura, K. (eds.) Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. 中峯浩司.2004.宇治群島家島 2003 年 7 月の昆虫.鹿児島 県立博物館研究報告,23: 6–11, 20. 小倉 豪・中間 弘.2004.宇治群島家島における観察鳥 類について.鹿児島県立博物館研究報告,23: 12–19. Okamoto, M. 2017. Doederleinia berycoides (Hilgendorf 1879). P. 78. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto.

264

RESEARCH ARTICLES 小沢貴和.1983.枕崎沖陸棚斜面底魚の研究 1.水産海洋研 究会報,44: 9–16. Park, J.-H., Jang, S. H., Kim, D. G., J. J.-M., Kang, S. and Kim, J.-K. 2-17. First record of a filefish, Thamnaconus tessellatus (Monacanthidae: Tetraodontiformes) from Jeju Island, Korea. Korean Journal of Ichthyology, 29 (4): 277–281. Peristiwady, T. 2008. Occurrence of deep-water leatherjacket fish Thamnaconus tessellatus (Gunther, 1880) (Tetraodontiformes: Monacanthidae) from Bitung, Indonesia. Jurnal Iktiologi Indonesia, 8 (2): 41–50. Shinohara, G., Endo, H., Matsuura, K., Machida, Y. and Honda, H. 2001. Annotated checklist of the deepwater fishes from Tosa Bay, Japan. National Science Museum Monographs, 20: 283–343. Shinohara, G., Sato, T., Aonuma, Y., Horikawa, H., Matsuura, K., Nakabo, T. and Sato, K. 2005. Annotated checklist of deepsea fishes from the waters around the Ryukyu Islands, Japan. National Science Museum Monographs, 29: 385–452. Shinohara, G., Shirai, S. M., Nazarkin, M. V. and Yabe, M. 2011. Preliminary list of the deep-sea fishes of the Sea of Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science Series A, 37 (1): 35–62. Steindachner, F. and Döderlein, L. 1883. Beiträge zur Kenntniss der Fische Japan’s. (I.). Denkschriften der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften in Wien, Mathematisch-Naturwissenschaftliche Classe, 47 (1): 211–242, pls. 1–7. Yamanoue, Y. and Matsuura, K. 2004. A review of the genus Malakichthys Döderlein (Perciformes: Acropomatidae) with the description of a new species. Journal of Fish Biology, 65: 511–529. Yamanoue, Y. and Matsuura, K. 2007. Doederlinia gracilispinis (Fowler, 1943), a junior synonym of Doederleinia berycoides (Hilgendolf, 1879), with review of the genus. Ichthyological Research, 54: 404–411. Yamanoue, Y. and Yoseda K. 2001. A new species of the genus Malakichthys (Perciformes: Acropomatidae) from Japan. Ichthyological Research, 48: 257–261. 山下真弘・吉田朋弘・本村浩之.2012.鹿児島県産軟骨魚 類標本目録.Nature of Kagoshima, 38: 119–138. 吉田朋弘.2017.アカムツ Doederleinia berycoides (Hilgendolf, 1878).P. 112.岩坪洸樹・本村浩之(編).火山を望む 麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・ 鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島. 財団法人鹿児島市水族館公社.2008.鹿児島水族館が確認 した ― 鹿児島の定置網の魚たち.260 pp.財団法人鹿 児島市水族館公社,鹿児島.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美群島沖永良部島から得られたモンガラカワハギ科ソロイモンガラ 川間公達 ・本村浩之 1

1

2

〒 894–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに モンガラカワハギ科ソロイモンガラ属 Melichthys は,口が端位であること,歯が白いこと,両 顎の先端の歯が門歯状であること,鰓孔後部に骨 質の肥大鱗があること,眼前に 1 縦溝があること, 背鰭第 3 棘が短く体背縁からわずかに突出するこ となどの形質によって特徴づけられる(Matsuura, 1980, 2014).本属は世界で 3 種が知られ(Matsuura, 2014),そのうち,日本国内からはソロイモンガ ラ M. niger (Bloch, 1786) とクロモンガラ M. vidua (Richardson, 1845) の分布が確認されている(林・ 萩原,2013). 2017 年 7 月 6 日に沖永良部島沖から 1 個体の ソロイモンガラが採集された.本標本は鹿児島県 における本種の標本に基づく初めての記録となる ため,ここに報告する. 材料と方法 標本の計数・計測は,Matsuura (1980) にしたがっ た.標準体長は体長と表記し,体各部の計測はデ ジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった. ソロイモンガラの生鮮時の体色の記載は,固定前 に 撮 影 さ れ た 沖 永 良 部 島 産 標 本(KAUM–I. 101800)のカラー写真に基づく.標本の作成,登 録,撮影,および固定方法は本村(2009)にした がった.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合 Kawama, K. and H. Motomura. 2018. First record of Melichthys niger (Tetraodontiformes: Balistidae) from Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 44: 265–268. HM: the Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@ kaum.kagoshima-u.ac.jp). Published online: 27 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-036.pdf

研究博物館に保管されており,上記の生鮮時の画 像は同館のデータベースに登録されている.本報 告中で用いられている研究機関略号は以下の通 り:HMNH(比和町立自然科学博物館) ;KAUM(鹿 児島大学総合研究博物館);TUFO(東京海洋大 学). 結果と考察 Melichthys niger (Bloch, 1786) ソロイモンガラ (Fig. 1) 標本 KAUM–I. 101800,体長 254.0 mm,鹿児 島 県 沖 永 良 部 島 国 頭 沖(27°25'27"N, 128°42'32"E),水深 20 m,2017 年 7 月 6 日,釣り, 川間幸男・川間力士. 記載 頭部縦列鱗数 22;体側縦列鱗数 58;背 鰭鰭条数 III, 33;臀鰭軟条数 26;胸鰭軟条数 16. 体各部の体長に対する割合(%)最大体高 53.0; 臀 鰭 起 部 に お け る 体 高 47.1; 頭 長 19.1; 吻 長 20.9;眼径 4.1;鰓孔開孔長 7.2;吻端から第 1 背 鰭起部までの距離 29.8;吻端から第 2 背鰭起部ま で の 距 離 56.5; 吻 端 か ら 臀 鰭 起 部 ま で の 距 離 65.0;吻端から腹鰭起部までの距離 53.3;第 1 背 鰭 と 第 2 背 鰭 間 の 距 離 24.8; 第 2 背 鰭 基 底 長 41.2;臀鰭基底長 35.4;背鰭最長軟条(第 3 軟条) 長 18.7;臀鰭最長軟条(第 4 軟条)長 18.7;胸鰭 軟 条 長 12.0; 尾 柄 高 9.2; 尾 柄 長 12.2; 尾 鰭 長 26.5. 体は前後方向に長い卵型で強く側扁する.体 背縁は吻端から第 1 背鰭起部までは弧を描きなが ら上昇し,そこから第 2 背鰭起部までは緩やかな 弧状.その後,体背縁は第 2 背鰭起部から尾柄部 中央にかけて下降し,尾鰭基底にかけて再び上昇 に転じる.体腹縁は吻端から腹鰭起部にかけて急

265


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Melichthys niger. KAUM–I. 101800, 254.0 mm standard length, off Kunigami, Okinoerabu-jima island, Amami Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

激に下降し,腹鰭後方から尾柄部中央にかけて上 昇し,尾鰭基底に向け再度下降する.胸鰭は楕円

ある. 色彩 (Fig. 1) 生鮮時の色彩 ― 体は一様に黒

形で,その基底上端は鰓孔下端直下に位置する.

色.吻部から眼後方の背部にかけての鱗は淡い山

腰骨後端には鞘状鱗を有する.第 1 背鰭起部は鰓

吹色を呈する.眼を中心に,前方から上方にかけ

孔直上,第 1 背鰭基底後端は胸鰭後端直上にそれ

て放射状に灰青色帯がある.眼よりも下方の頭部

ぞれ位置する.第 1 背鰭は第 1 棘が最長で,第 2

側面と体側後部の鱗は暗い桃色で縁取られる.下

棘は第 1 棘の半分程度の長さ.背鰭第 3 棘は小さ

顎先端から肛門にかけての体腹面と眼の後方から

く,体背縁からわずかに突出する.第 2 背鰭起部

第 2 背鰭起部前方にかけての体側上部の鱗は空色

は肛門の直上,第 2 背鰭基底後端は臀鰭基底後端

に縁取られる.歯は白色.各鰭は黒色.第 2 背鰭

直上にそれぞれ位置する.第 2 背鰭背縁は起部か

基底部と臀鰭基底部にそれぞれ体背縁と体腹縁に

ら第 3 軟条後端にかけて急激に上昇し,その後,

平行な白色線がある.尾鰭後部には,尾鰭後縁と

最後軟条後端にかけて緩やかに低くなる.背鰭軟

平行な細い白横線がある.

条は第 1 と第 2 軟条を除き,全て分枝する.臀鰭

固定後の色彩 ― 体側各部の淡色部は消失し,

起部は背鰭第 4 軟条起部直下に位置する.臀鰭外

体側は一様に暗色となる.各鰭は濃い茶褐色.第

縁は起部から第 3 軟条にかけて急激に下降したの

2 背鰭基底部と臀鰭基底部の白色線は明瞭.

ち,緩やかに上昇する.臀鰭軟条は第 1 から第 3 軟条を除き,全て分枝する.尾鰭は二重湾入型で,

分布 本種は三大洋の熱帯域に広く分布する (Matsuura, 1980, 2014;

浦,1997; Allen and

両葉の後端はやや伸長する.口は端位でやや上を

Erdmann, 2012;林・萩原,2013).国内では,こ

向く.両顎の先端の歯は門歯状.眼の前方に縦溝

れまで南鳥島,小笠原諸島[小笠原群島,火山列

がある.鰓孔後方,胸鰭上方に肥大した骨質鱗が

島(北硫黄島,硫黄島,および南硫黄島)],大東

266


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

諸島(南大東島),沖縄諸島(沖縄島),八重山諸

東島西岸の山羊道から得られた本種 1 個体

島(西表島),および尖閣諸島から報告されてお

(HMNH-P 6564)を報告した.林・萩原(2013)

り(青柳,1950; Matsuura, 1980;東京都水産試験

はソロイモンガラの国内における分布域を総括す

場,1994;Randall et al., 1997;松浦,1997;吉郷,

ると同時に,本種の尖閣諸島における分布を報告

2004;林・萩原,2013),本研究により,奄美群

した.したがって,本研究で記載した沖永良部島

島沖永良部島における分布も確認された.

産標本は鹿児島県における本種の初めての記録と

備考 沖永良部島産の標本は,鰓孔後部に骨 質の肥大鱗があること,眼の前方に 1 縦溝がある こと,両顎の先端の歯は門歯状であること,背鰭 第 3 棘が著しく小さいことなどが Matsuura (1980)

なる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集

によって定義された Melichthys 属に同定された.

に際しては沖永良部島在住の川間幸男氏,川間力

また,第 2 背鰭と臀鰭が黒くその基底に白色線が

士氏,鹿児島大学水産学部の川路由人氏,中村潤

あること,尾鰭両葉がやや伸長すること,および

平氏,および森下悟至氏にご協力いただいた.原

尾 鰭 後 縁 が 白 く 縁 取 ら れ な い こ と が Matsuura

口百合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博

(1980) や Allen and Erdmann (2012),林・萩原(2013)

物館ボランティアと畑 晴陵氏をはじめとする同

の報告した M. niger の標徴とよく一致したため,

博物館魚類分類学研究室の皆さまには適切な助言

本種に同定された.ソロイモンガラは唯一の日本

を頂いた.本研究は鹿児島大学総合研究博物館の

産同属種であるクロモンガラと体が一様に黒いこ

「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の

とで類似する.しかし,ソロイモンガラは尾鰭両

一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科研

葉後端が伸長すること(クロモンガラでは尾鰭が

費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

截形),第 2 背鰭と臀鰭が一様に黒色を呈し,基

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・

底部に白色線があること(第 2 背鰭と臀鰭は一様

アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本

に白色を呈し,外縁が黒色に縁取られる)によっ

の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究

て識別される(林・萩原,2013).

プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島

現在,M. niger に対して用いられる和名ソロイ

の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整

モンガラを提唱したのは蒲原(1940)である.彼

備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物

は 本 種 の 学 名 を M. radula (Solander, 1848) と し,

多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助

本種が琉球列島で採集された記録があるとした

を受けた.

(詳しい産地は不明).青柳(1950)や吉野ほか (1975)もソロイモンガラの学名として M. radula が使用されたが,Berry and Baldwin (1966) によっ て M. radula は M. niger の新参異名であることが 明らかにされた. 青柳(1950)は沖縄島から,Matsuura (1980) は 南鳥島から得られたソロイモンガラ 2 個体 (TUFO-1151, 1158)を報告した.火山列島では, 西村ほか(1988)が北硫黄島から,東京都水産試 験場(1994)が硫黄島と南硫黄島においてソロイ モンガラが目視観察されたことを報告した.松浦 (1997)は西表島の水深 7 m において撮影された 本種の水中写真を報告した.吉郷(2004)は南大

引用文献 Allen, G. R. and Erdmann, M. V. 2012. Reef fishes of the East Indies. Vols. 1–3. Tropical Reef Research, Perth. xiv + 1292 pp. 青柳兵司.1950. 琉球列島産珊瑚礁魚類の研究 7.ツバメ ウヲ科,ヒメツバメウヲ科,モンガラカハハギ科,ア ヰゴ科,カハハギ科,カサゴ科.動物学雑誌,59 (5) :118–122. Berry, F. H. and Baldwin, W. J. 1966. Triggerfishes (Balistidae) of the eastern Pacific. Proceedings of the California Academy of Sciences, Series 4, 34 (9): 429–474. 林 公 義・ 萩 原 清 司.2013. モ ン ガ ラ カ ワ ハ ギ 科.Pp. 1703–1711,2235–2236.中坊徹次(編).日本産魚類検 索 全種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 蒲原稔治.1940.魚綱・真口亜綱・硬骨魚目・堅皮類.Pp. 1–112.岡田弥一郎・内田 亨・江崎悌三(編).日本 動物分類,第 15 巻,第 2 編,第 3 號.三省堂,東京.

267


Nature of Kagoshima Vol. 44

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268


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県から得られたイサキ科魚類ヒレグロコショウダイの記録 畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

イサキ科コショウダイ属 Plectorhinchus は,背

計数・計測方法は Satapoomin and Randall (2000)

鰭棘を 11 本以上そなえ,背鰭軟条数が 14–22 で

にしたがった.標準体長は体長または SL と表記

あること,側線上方横列鱗数が 10–17 であること

し,体各部の計測はデジタルノギスを用いて 0.1

などによって特徴づけられる(McKay, 2001).本

mm までおこなった.ヒレグロコショウダイの生

属魚類は日本近海からは 11 種が知られ(島田,

鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児島

2013),鹿児島県本土からはそのうち,ダイダイ

県産の標本(KAUM–I. 110748)のカラー写真に

コショウダイ P. albovittatus (Rüppell, 1838),ヒレ

基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定方

グロコショウダイ P. lessonii (Cuvier, 1830),およ

法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標

びアヤコショウダイ P. lineatus (Linnaeus, 1758) を

本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されてお

除く 8 種の分布が確認されていた(今井・中原,

り,上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに

1969;財団法人鹿児島市水族館公社,2008;畑ほ

登録されている.本報告中で用いられている研究

か,2012, 2016, 2017; 島 田,2013; 畑,2017,

機 関 略 号 は 以 下 の 通 り:FAKU( 京 都 大 学 );

2018;公益財団法人鹿児島市水族館公社,2018).

FRLM(三重大学大学院生物資源科学研究科水産

鹿児島県本土における魚類相調査の過程で,薩

実験所);KAUM(鹿児島大学総合研究博物館);

摩半島西岸に位置する南さつま市笠沙町沖からヒ

KPM( 神 奈 川 県 立 生 命 の 星・ 地 球 博 物 館 );

レグロコショウダイが採集された.本種は薩南諸

NSMT-P(国立科学博物館).

島においては多く記録されているものの(例えば 鏑木,2016;木村ほか,2017; Nakae et al., 2018),

結果と考察

県本土からの記録はないことから,本標本は本種

Plectorhinchus lessonii (Cuvier, 1830)

の鹿児島県本土における標本に基づく初めての記

ヒレグロコショウダイ (Fig. 1)

録となるため,ここに報告する. 標本 KAUM–I. 110748,体長 260.2 mm,尾叉 長 307.7 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町黒瀬漁 港沖(31°22.29′N, 130°10.04′E),2017 年 12 月 21 日, Hata, H., M. Itou and H. Motomura. 2018. First specimenbased record of a sweetlip (Perciformes: Haemulidae), Plectorhinchus lessonii, from the mainland of Kagoshima, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 269–274. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 30 Mar. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-037.pdf

定置網,伊東正英. 記載 背鰭鰭条数 XIII, 18;臀鰭鰭条数 III, 7; 胸鰭軟条数 16;腹鰭鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 56; 側 線 上 方 横 列 鱗 数 10; 側 線 下 方 横 列 鱗 数 18;鰓耙数 5 + 15 = 20. 体各部の体長に対する割合(%):体高 39.3; 頭長 30.1;眼窩径 7.1;瞳孔径 3.9;眼隔域幅 8.8; 尾柄高 11.1;尾柄長 20.0;背鰭前長 36.0;臀鰭前

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Plectorhinchus lessonii. KAUM–I. 110748, 260.2 mm standard length, Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan.

長 72.2;腹鰭前長 38.6;上顎長 8.6;吻長 11.9;

直下にそれぞれ位置する.胸鰭後端はやや尖り,

最長背鰭棘(第 5 棘)長 13.1;最長背鰭軟条(第

背鰭第 9 棘起部直下に達する.背鰭起部は胸鰭基

11 軟条)長 13.9;背鰭棘部基底長 35.3;背鰭軟

底上端よりもわずかに後方,背鰭基底後端は臀鰭

条部基底長 27.6;臀鰭第 1 棘長 5.3;臀鰭第 2 棘

基底後端よりも後方にそれぞれ位置する.背鰭各

長 17.4;臀鰭第 3 棘長 16.1;最長臀鰭軟条(第 1

棘間の鰭膜はわずかに切れ込み,背鰭外縁中央部

軟条)長 17.8;臀鰭基底長 11.7;尾鰭長 17.8;胸

に深い欠刻はない.背鰭棘は第 5 棘が最長で,背

鰭最長軟条(第 3 軟条)長 24.1;腹鰭長 12.8.

鰭軟条は第 11 軟条が最長.背鰭軟条部基底は細

体は前後方向に長い楕円形で側扁し,背鰭第

かい櫛鱗に被われる.腹鰭起部は胸鰭基底下端よ

10 棘起部付近で最大.体背縁は吻端から背鰭第 8

りも後方,背鰭第 4 棘起部よりもわずかに前方に

棘起部にかけて上昇し,そこから背鰭第 13 棘基

位置し,腹鰭基底後端は背鰭第 5 棘起部直下に位

底後端にかけて体軸とほぼ平行となり,以後,背

置する.たたんだ腹鰭の後端は背鰭第 11 棘起部

鰭基底後端にかけて下降する.体腹縁は下顎先端

直下に達するが,肛門には達しない.腹鰭は腋鱗

から肛門前方にかけて緩やかに下降し,そこから

を有する.臀鰭起部は背鰭第 3 軟条起部直下,臀

臀鰭基底後端にかけて緩やかに上昇する.尾柄部

鰭基底後端は背鰭第 9 軟条起部直下にそれぞれ位

では体背縁,体腹縁ともに体軸にほぼ平行.吻端

置する.臀鰭棘は第 2 棘が最長で,臀鰭軟条は第

は丸く,両唇は厚い.口裂は小さく,主上顎骨後

1 軟条が最長.臀鰭基底部は細かい櫛鱗に被われ

端は眼窩前縁直下に達しない.上顎の先端は下顎

る.尾鰭は截形に近い形状で,後縁は中央部でわ

の先端よりも前方に突出する.眼と瞳孔は正円形.

ずかに湾入する.肛門は体の中央よりも後方に位

鼻孔は 2 対で,前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,

置し,臀鰭起部前方に開孔する.下顎腹面の先端

眼の前縁前方に位置する.前鼻孔と後鼻孔はいず

には左右で 3 対の感覚孔を備える.両顎歯は細か

れも正円形に近い形状を呈し,後鼻孔前縁に微小

く,絨毛状.鋤骨に歯はない.前鰓蓋骨後縁は鋸

な皮弁をそなえる.胸鰭基底上端は鰓蓋後端より

歯状であるが,鰓蓋後縁は円滑.鰓耙は細長い.

もわずかに後方,胸鰭基底下端は背鰭第 2 棘起部

体は細かい櫛鱗に被われ,頭部は吻部,両顎を除

270


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig.2. Fresh specimen of Plectorhinchus vittatus. KAUM–I. 9925, 276.0 mm standard length, Bonotsu, Kagoshima Prefecture, Japan.

き被鱗する.頭頂部の鱗域の先端は楔形をなし,

白色半透明.胸鰭基底上部には茶褐色斑がある.

前端は両前鼻孔前縁間に達する.側線は胸鰭基底

腹鰭は白色を呈し,前半部は暗色.臀鰭は黄色が

部上方から始まり,尾鰭基底付近にかけて体背縁

かった白色を呈し,不規則な暗色斑が散在し,臀

とほぼ平行にはいる.

鰭下縁は黒色.尾鰭は黄色がかった白色を呈し,

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は銀白色を呈し,胸

瞳孔よりも小さい黒色斑が多数散在し,後縁は黒

鰭よりも上方の体側に 5 本の黄緑色がかった茶褐

色.鰓蓋後縁は暗赤色.虹彩は金色を呈し,瞳孔

色の縦帯がある.最上のものは 5 本の縦帯の中で

は青みがかった黒色.

最も細く,背鰭起部から始まり,体背縁にはいる.

分布 アフリカ東岸からスリランカにかけて

上から 2 本目のものは眼の上方から背鰭軟条部基

のインド洋と,インドネシアからサモア,南日本

底中央にかけてあり,太さは瞳孔とほぼ同大.3

にかけての太平洋に広く分布する(瀬能・島田,

本目は 5 本の縦帯の中で最も太く,最も太い部分

1991; 益 田・ 小 林,1994; 赤 崎,1997; McKay,

では瞳孔よりも幅広い.2 本目と 3 本目は両体側

2001;島田,2013).日本国内においては,伊豆

のものは連続しない.眼の上方から背鰭基底後端

諸島,千葉県館山,伊豆半島,紀伊半島,渭南海

にかけてはいる.4 本目は眼を通り,尾柄上部に

岸,高知県柏島,大隅諸島種子島,竹島,琉球列

かけてはいり,瞳孔よりもわずかに幅が狭い.5

島,および尖閣諸島から記録があり(瀬能・島田,

本目は眼の下部を通り,尾柄部中央にはいり,瞳

1991; 平 田 ほ か,2010; 島 田,2013; 鏑 木,

孔よりも幅は狭い.胸鰭よりも下方の体側には縦

2016),本研究により,新たに鹿児島県薩摩半島

帯がない.頭部側面には眼の下方に 2 本の瞳孔よ

西岸における分布も確認された.

りも幅の狭い黒色縦帯がある.背鰭は黄色がかっ

備考 薩摩半島産の標本は,胸鰭基底よりも

た白色.各棘間の鰭膜には 1 つずつ黒色斑があり,

上方の体側にのみ,黒色縦帯が体背縁のものを含

前後方向に 1 列に並ぶ.この黒色斑列は背鰭軟条

めて 5 本あること,左右の眼の直上の暗色縦帯が

部中央よりも後方で 2 列になる.背鰭背縁は黒色.

不連続であること,腹鰭前半部が暗色であること,

胸鰭各軟条は暗い鶯色を呈し,各軟条間の鰭膜は

尾鰭に黒色斑が散在すること,腹鰭後端が肛門に

271


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

達しないこと,第 1 鰓弓上の総鰓耙数が 20 であ

かし,これら 3 報告はいずれも標本に基づくもの

ることなどが,瀬能・島田(1991)や McKay (2001),

ではなく,写真の掲載や色彩に関する記述もない

島田(2013)の報告した Plectorhinchus lessonii の

ため,ムスジコショウダイなどの近縁種である可

標徴と一致したため,本種に同定された.

能性を否定できない.したがって,ヒレグロコショ

ヒレグロコショウダイは体側に複数の黒色縦 帯 を 有 す る こ と か ら, ム ス ジ コ シ ョ ウ ダ イ P.

ウダイの小笠原諸島における分布は現在のところ 不明である.

vittatus (Linnaeus, 1758) に類似するが,胸鰭基底

鹿児島県内において,本種は薩南諸島から多

部よりも下方の体側に黒色縦帯がないこと(ムス

く記録されている.吉野(2008)は屋久島近海で

ジコショウダイでは腹部に 2–3 本の黒色縦帯があ

撮影されたヒレグロコショウダイの水中写真を報

る),腹鰭前部が暗色であること(ほぼ一様に淡

告し,Motomura et al. (2010) は屋久島近海から得

色),左右の眼直上の暗色縦帯が不連続であるこ

ら れ た ヒ レ グ ロ コ シ ョ ウ ダ イ 2 個 体(FRLM

と(連続する),第 1 鰓弓総鰓耙数が 20–22(27–33)

34694, 体 長 266.1 mm,NSMT-P 77633, 体 長

であることにより,識別が可能である(McKay,

282.0 mm)を報告した.畑ほか(2012)は大隅

2001;島田,2013; Fig. 2).これら 2 種は長らく

諸島竹島近海から得られた本種 1 個体(KAUM–I.

混同されており,ムスジコショウダイの和名は益

37915,体長 308.5 mm)を報告した.千葉(2013)

田ほか(1975)や赤崎(1984)においては,現在

は畑ほか(2012)が報告した標本に加え,竹島近

ヒレグロコショウダイとされている P. lessonii に

海で撮影された本種の水中写真を報告した.千葉

対しあてられていた.しかし,これら 2 種の識別

(2014)は奄美群島与論島近海で得られた体長

法や和名と学名の対応関係は,瀬能・島田(1991)

23.5–65.4 mm の ヒ レ グ ロ コ シ ョ ウ ダ イ 4 個 体

によって確立され,同時に P. lessonii に対して和

(KAUM–I. 47912, 48057, 51346, KPM-NI 30854)

名ヒレグロコショウダイが提唱された.

を報告し,鏑木(2016)は種子島近海から得られ

その後,日本国内においてヒレグロコショウ

た本種の写真を報告した.木村ほか(2017)は大

ダイは伊豆半島沿岸(益田・小林,1994),伊豆

隅諸島口永良部島近海から得られた体長 246.9

大島(赤崎,1997),八丈島(古瀬ほか,1996),

mm のヒレグロコショウダイ 1 個体(KAUM–I.

三重県志摩市片田沖(鈴木・片岡,1997;ムスジ

91551)を報告し,Nakae et al. (2018) は奄美大島

コショウダイ P. diagrammus として報告している

近 海 か ら 得 ら れ た 本 種 5 個 体(FAKU 104403,

が,体側下部に黒色縦帯がないことからヒレグロ

NSMT-P 119177, 131070, 131330, 12890)と水中写

コショウダイである),和歌山県白浜町(池田・

真 1 枚(KPM-NR 40703)を報告した.なお,藤

中坊,2015),愛媛県愛南町室手,高知県大月町(平

山(2004)がムスジコショウダイ P. orientalis と

田ほか,2010),高知県柏島(平田ほか,1996),

して報告した奄美大島産の個体は,体側下部に暗

伊 江 島(Senou et al., 2006), 沖 縄 島( 吉 野,

色縦帯がないことから,ヒレグロコショウダイで

2008; 三 浦,2012), 宮 古 諸 島(Senou et al.,

ある.上記の通り,ヒレグロコショウダイは大隅

2007),西表島(赤崎,1997;吉野,2008;峯水・

諸島から奄美群島まで,薩南群島の広域に分布す

松 沢,2010), お よ び 与 那 国 島(Koeda et al.,

ることが知られているが,鹿児島県本土における

2016)などから報告されている.

記録はなく,本研究の記載標本は同地域における

Randall et al. (1997) は,小笠原諸島の魚類相リ ストにおいて,彼ら自身では観察できなかったも

ヒレグロコショウダイの初めての記録となる. 比較標本 ムスジコショウダイ Plectorhinchus

のの,従来小笠原諸島から P. diagrammus として,

vittatus: KAUM–I. 9925, 体 長 276.0 mm, 鹿 児 島

和名をムスジコショウダイとして杉浦(1970),

県 南 さ つ ま 市 坊 津 町 久 志 湾 内(31°13′N, 130°

倉田ほか(1971),座間・藤田(1977)が報告し

13′E),2008 年 5 月 13 日,定置網,東宝水産.

たものはヒレグロコショウダイであるとした.し

272


RESEARCH ARTICLES

謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学 総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類 学研究室の皆さまには適切な助言を頂き,謹んで 感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研 究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部 は笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 研究奨励費 (DC2: 29-6652),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事 業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立 科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの 構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特 別経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に関す る教育研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領 域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量 経費「奄美群島における生態系保全研究の推進」 の援助を受けた. 引用文献 赤崎正人.1984.ムスジコショウダイ.P. 167, pl. 160-G.益 田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編), 日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京. 赤 崎 正 人 一.1997.ヒレグロコショウダイ Plectorhinchus lessonii. P. 349.岡村 収・尼岡邦夫(編),山渓カラー 名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京. 千葉 悟.2013.イサキ科.Pp. 155–157.本村浩之・出羽 慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫 黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・ 国立科学博物館,つくば. 千葉 悟.2014.イサキ科.Pp. 245–248.本村浩之・松浦 啓一(編),奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島,国立科学博物館,つ くば.

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273


Nature of Kagoshima Vol. 44 Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara, G., Meguro, M., Matsunuma, M., Takata, Y., Yoshida, T., Yamashita, M., Kimura, S., Endo, H., Murase, A., Iwatsuki, Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi, H. and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247 in Motomura, H. and Matsuura, K. (eds.) Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. Nakae, M., Motomura, H., Hagiwara, K., Senou, H., Koeda, K., Yoshida, T., Tashiro, S., Jeong, B., Hata, H., Fukui, Y., Fujiwara, K., Yamakawa, T., Aizawa, M., Shinohara, G. and Matsuura, K. 2018. An annotated checklist of fishes of Amami-oshima Island, the Ryukyu Islands, Japan. Memoirs of National Museum of Natural Science, Tokyo, 52: 1–157. Randall, J. E., Ida, H., Kato, K., Pyle, R. L. and Earle, J. L. 1997. Annotated checklist of the inshore fishes of the Ogasawara Islands. National Science Museum Monographs, 11: 1–74, pls. 1–19. Satapoomin, U. and Randall, J. E. 2000. Plectorhinchus macrospilus, a new species of thicklip (Perciformes: Haemulidae) from the Andaman Sea off southwestern Thailand. Phuket Marine Biological Center Research Bulletin, 63: 9–16. Senou, H., Kobayashi, Y., and Kobayashi, N. 2007. Coastal fishes of the Miyako Group, the Ryukyu Islands, Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum (Natural Science), 36: 47–74.

274

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県八房川の感潮域上部から淡水域における魚類相 日比野友亮 ・松重一輝 ・大石隆一 ・安武由矢 ・望岡典隆 1

1 2

2

2

2

1

〒 812–8581 福岡市東区箱崎 6–10–1 九州大学大学院農学研究院水産増殖学研究室

〒 812–8581 福岡市東区箱崎 6–10–1 九州大学大学院生物資源環境科学府水産増殖学研究室

はじめに 八房川は鹿児島県北西部を流れる総延長約 19 km の中規模河川で,中岳北斜面からほぼ南西流 して東シナ海に注いでいる(池・君付,2001). 河道は上流から中流にかけて数十 m の深さの谷 を刻みながら流れ,小刻みに蛇行して下流の沖積 低地に達する.上流には市来ダム(1981 年竣工) があり,そこから下流にかけて 8 個の横断工作物 (可動堰または固定堰)が設置されている(Fig. 1). 鹿児島県には大小合わせて 300 本以上の河川 が存在するが,河川魚類相について詳細に報告さ れた例はきわめて少ない.八房川では鹿児島県立 博物館が主導して行なった自然観察会を通じて得 られた生物が魚類も含めて報告されている(鹿児 島県立博物館,2001).しかし一部の生鮮・標本 写真が掲載されているものの,具体的な標本情報 には触れられておらず,またその内容も断片的な ものに留まっている.本研究ではこうした状況を 踏まえ,八房川においてより詳細な魚類相調査を 実施した. 方法 調査地点 河川感潮域上部から市来ダム上流にかけて,合 計 10 地点を調査地点として設定した(Figs. 1, 2). Hibino, Y., K. Matsushige, R. Oishi, Y. Yasutake and N. Mochioka. 2018. Ichthyofauna of freshwater and upper estuary in Yafusa River, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 275–284. YH: Laboratory of Fisheries Biology, Kyushu University, 6–10–1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812–8581, Japan (e-mail: yusukeelology@gmail.com). Published online: 2 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-038.pdf

八房川は河口から約 7 km 地点までは河川勾配が 低く,感潮域が比較的長い.10 個の調査地点の うち,下流の 2 地点(St. 1,St. 2)が感潮域であ る(Table 1).以下に各地点の環境の概要を示す. St. 1 河口からの距離は約 3.1 km.平水時の水 際は右岸で植生帯か砂泥や砂礫,左岸でコンク リート護岸であった.主な底質は砂礫で,下流方 向には植生のある寄洲が形成されていた.地点の 周辺に横断工作物はなく,満潮時には塩水の遡上 が確認された.河川形態は Bc 型を示した. St. 2 河口からの距離は約 3.7 km.平水時の水 際は概ね植生帯であったが,一部で石,岩盤,コ ンクリート護岸であった.主な底質はこぶし大の 石で,岩盤が露出している箇所もあった.地点の 中流部には河道横断方向に巨石のつらなりがあ り,右岸にはコンクリート製の水制が設置されて いたものの,地点の周辺に横断工作物はなかった. 河川形態は Bc 型を示した. St. 3 河口からの距離は約 4.5 km.平水時の水 際は左岸の一部でコンクリート護岸があるるが, 植生が豊富で概ね植生帯か,または石であった. 地点の上流端には可動堰が設置され,その直下に は根固めブロックが併設されていた.可動堰には 勾配の緩やかな魚道が設置されていた.主な底質 は礫で,人頭大の石が点在していたが,可動堰直 下では砂や砂泥であった.河川形態は Bc 型を示 した. St. 4 河口からの距離は約 6.6 km.平水時の水 際は左岸では基本的にコンクリート護岸,右岸で は石であったが,下流に向かうにつれて両岸の水 際は植生帯になっていた.地点の上流側には可動 堰が設置され,その直下には根固めブロックと布 団籠が併設されていた.さらに,地点の下流端に も可動堰が設置されていた.2 つの可動堰にはい

275


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Map of Yafusa River. Bars indicates river-crossing structures.

ずれも魚道が設置されていた.主な底質はこぶし

St. 8 河口からの距離は約 10.0 km.平水時の

大の石で,岩が点在しているが,上流の可動堰下

水際は両岸ともにコンクリート護岸であり,一部

の布団籠直下では砂が堆積していた.河川形態は

で植生帯か石であった.流路内には植生のある寄

Bb 型を示した.

洲が形成されていた.主な底質は巨石で,長径 1

St. 5 河口からの距離は約 7.6 km.平水時の水

m ほどの岩が飛び石状に散在していた.地点の上

際は植生帯で,流路内には植生のある寄洲が形成

流端にはほぼ垂直に切り立った固定堰があり,そ

されていた.地点の上流端にスロープ状の固定堰

の高さは 1 m 弱であった.堰直下には長径 1 m ほ

があり,その直下には根固めブロックが併設され

どの岩が集中して分布していた.河川形態は Aa

ていた.主な底質は長径 30 cm ほどの巨石であっ

型を示した.

た.河川形態は Bb 型を示した.

St. 9 本地点は市来ダムを除く全ての横断工作

St. 6 河口からの距離は約 7.9 km.平水時の水

物の上流側にあたり,河口からの距離は約 11.4

際は右岸ではほとんどが植生帯で上流端のみ石,

km.平水時の水際は概ね植生帯であった.主な

左岸ではコンクリート護岸であった.主な底質は

底質は長径 30 cm ほどの巨石であった.地点の周

巨石であった.地点の上流端にスロープ状の固定

辺に横断工作物はなかった.河川形態は Bb 型を

堰が設置されていた.河川形態は Bb 型を示した.

示した.

St. 7 河口からの距離は約 9.1 km であった.

St. 10 本地点は全調査地点で唯一,市来ダム

平水時の水際は概ねコンクリート護岸で,主な底

の上流側に位置し,河口からの距離は約 13.4 km.

質は巨石であった.地点の上流部にスロープ状の

平水時の水際は概ね砂で,一部で植生帯が発達し

固定堰があり,その直上と直下には根固めブロッ

ていた.主な底質は砂と小石で,流路内には流木

クが併設されていた.河川形態は Bb 型を示した.

が点在していた.河川形態は Bc 型を示した.

Table 1. Salinity and velocity of flowing-fluid of each station in Yafusa River.

St. 1 St. 2 St. 3 St. 4 St. 5 St. 6 St. 7 St. 8 St. 9

276

Salinity (PSU) 3.8 1 0.1 0 0 0 0 0 -

7–9 October, 2017 Water flow velocity (cm/s) 21.14 23.27 50.89 7.9 32.94 15.68 14.66 6.52 -

Salinity (PSU) - - 0.1 0 0 - 0.1 - 0

27–29 October, 2017 Water flow velocity (cm/s) - - 25.47 27.76 14.66 - 25.74 - 11.78


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Nature of Kagoshima Vol. 44

なお,本研究で設定した 10 地点のうち 3 地点 (St. 3,4 および 10)は池・君付(2001)の調査 地点とほぼ同地点にあたる. 調査方法 電気ショッカー調査 2017 年 10 月 7 日から 9 日 と、同 27 日から 29 日にかけて電気ショッカーに よる調査を行なった.調査は基本的に電気ショッ カー担当 1 名と採集担当 2 名で行い,電気ショッ カーの実施に伴って出現した魚類を可能な限りす べて採集し,種同定を行なった.電気ショッカー は先に設定した 10 地点のうち,市来ダム上流の 1 地点(St. 10)を除く 9 地点について,およそ 2 から 5 m の幅で流程方向に 15 から 30 m の範囲 を 2 度かける方法で各地点 1 回ないし 2 回行なっ た. 潜水調査 電気ショッカー調査による不足を 補うために,3 地点(St. 2,3 および 4)で潜水 調査を実施した.調査は 2 名または 3 名で行ない, St. 2 については 10 月 7 日に,St. 3 と St. 4 につい ては 10 月 8 日と 27 日の夜間に各地点約 1 時間行 なった.St. 2 では右岸約 40 m の区間を,St. 3 で は地点上流に設置されている可動堰から下流約

Fig. 2. Stations of the present survey in Yafusa River. A, St. 1; B, St. 2; C, St. 3; D, St. 4; E, St. 5; F, St. 6; G, St. 7; H, St. 8; I, St. 9; J, St. 10.

150 m を,St. 4 では地点上流に設置されている可 動堰から下流約 250 m と,可動堰から上流約 100 m をそれぞれ調査対象区間とした.潜水調査では タモ網を用いた採集とデジタルカメラによる写真 撮影を行なった.

結果と考察 本研究で行なわれた一連の調査によって得ら れた魚類は 14 科 24 属 27 種であった(Table 2).

採集された魚類のうちの一部を研究室に持ち

本調査の結果に池・君付(2001)の結果を含める

帰り,鮮時の色彩を撮影したのちに 10% ホルマ

と 16 科 26 属 30 種となる.最も多くの地点で出

リンで固定,70% エタノールに保存し九州大学

現した種はオイカワ Zacco platypus (Temminck and

総合研究博物館(KYUM-PI)の所蔵標本として

Schlegel, 1846) と カ ワ ム ツ Nipponocypris temmin-

登録した.魚類の同定と学名,および記載の順序

ckii (Temminck and Schlegel, 1846) で,両種は塩分

については中坊(2013)にしたがった.ただし,

の影響がなくなる St. 3 から市来ダム上流の St. 10

カワムツとオイカワの学名については Ito et al.

まで幅広く記録された.遡河性を示す魚類のうち

(2017) の,タカハヤの学名については Sakai et al.

ニ ホ ン ウ ナ ギ Anguilla japonica Temminck and

(2006) の,トウヨシノボリの学名と同定について

Schlegel, 1846, ア ユ Plecoglossus altivelis altivelis

は中坊(2000)の,ゴクラクハゼの学名について

(Temminck and Schlegel, 1846) およびボウズハゼ

は Suzuki et al. (2015) の見解にしたがった.なお

Sicyopterus japonicus (Tanaka, 1909) はそれぞれ St.

本調査は鹿児島県特別採捕許可のもとで行なわれ

9,St. 7 および St. 7 までの地点で記録されたが,

た.

ゴクラクハゼ Rhinogobius similis Gill, 1859,シマ

277


Nature of Kagoshima Vol. 44

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ヨ シ ノ ボ リ Rhinogobius nagoyae Jordan and Seale,

ANGULLIDAE ウナギ科

1906, ヌ マ チ チ ブ Tridentiger brevispinis Katsu-

Anguilla japonica Temminck and Schlegel, 1846

yama, Arai and Nakamura, 1972 お よ び ウ キ ゴ リ

ニホンウナギ (Figs. 3A, 4A)

Gymnogobius urotaenia (Hilgendorf, 1879) は St. 4 ま

標本 KYUM-PI 5156,182.0 mm TL,St. 9,10

でしか記録されなかった.八房川には可動堰が

月 27 日採集.

St. 3 の上端から St. 4 の上流側にかけて 3 個設置

概要 St. 5,7 とダム上流の St. 10 を除く 7 地

されている.このうちの下流側 2 個については堰

点で出現した.特に St. 1,2,3,4 では多数の個

の稼働時期または魚道機能によって遡上障害のリ

体が出現し,最長のものでは 645.0 mm TL であっ

スクが低減されていると推測される一方,St. 4

た.電気ショッカー調査による採集個体の多くは

の上流側のものは遡上能力の低い魚種にとっての

河床の石の下から出現し,その他に河岸の植生帯

遡上障害となっている可能性が高い.この可動堰

の根際から出現したものがあったが,目立った障

には魚道が併設されているが,構造面での改善が

害物の全くない平坦な礫底から出現したものは

必要だと考えられる.以下に調査で出現した種と

St. 3 の 1 個体(97.0 mm TL)のみであった.夜

概要を魚種別に記載する.全長については TL,

間の潜水調査においてもコンクリート護岸の隙間

標準体長については SL と表記した.

や岩石の下などから顔を出している個体が確認さ れた.本調査および池・君付(2001)では得られ ていないが,2017 年 7 月には八房川で 2 個体の

Table 2. List of fishes found from Yafusa River. Ike and Kimizuki (2001) St. 3

St. 4

St. 10

Anguilla japonica Cyprinus carpio

Carassius sp.

Nipponocypris temminckii

Zacco platypus

Present study St. 1

St. 2

St. 3

St. 4

Tanakia lanceolata

St. 8

St. 9

St. 10

○ ○

Plecoglossus altivelis altivelis

Oryzias latipes

Mugil cephalus cephalus

○ ○

○ ○

○ ○

Lateolabrax latus ○

Acanthopagrus latus

Rhynchopelates oxyrhynchus

○ ○

Kuhlia marginata Odontobutis obscura

Eleotris oxycephala

Sicyopterus japonicus

○ ○

○ ○

Luciogobius guttatus ○

Glossogobius olivaceus Tridentiger brevispinis

Rhinogobius nagoyae

○ ○

○ ○

Rhinogobius fluviatilis Rhinogobius sp. TO

Rhinogobius similis

Gymnogobius petschiliensis

○ ○

Gymnogobius urotaenia

Channa argus

278

St. 7

Tachysurus aurantiacus

Micropterus salmoides

St. 6

Phoxinus oxycephalus jouyi Misgurnus anguillicaudatus

St. 5

○ ○

○ ○


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Nature of Kagoshima Vol. 44

オオウナギ Anguilla marmorata Quoy and Gaimard,

文献においてもヤリタナゴはこれまで鹿児島県で

1824 が捕獲されたことが MBC 南日本放送で報道

は川内川水系のみに分布するとされてきた(鹿児

された.

島の自然を記録する会,2002)ことから,八房川 のものは移入個体群であると考えられる.池・君

CYPRINIDAE コイ科

付(2001)ののち,2009 年には St. 4 で 4 個体の

Cyprinus carpio Linnaeus, 1758

ヤリタナゴが採集されており,これは本種の八房

コイ (Fig. 4B, C)

川における初の生息確認と思われる(中島淳氏,

標本なし

私信).八房川のヤリタナゴは川内川のものと同

概要 標本は得られていないが,St. 3,4 で出

一の九州広域でみられるハプロタイプを保有して

現した.St. 3 では 20 cm SL 程度の 1 個体が目視

い た( 河 村 功 一 氏, 私 信 ) こ と か ら, 本 種 は

され,St. 4 では上流側の可動堰よりも上流の淵

2001 年から 2009 年までの間に八房川に九州のい

で 50 ないし 60 cm SL 程度の錦鯉 2 個体が目視さ

ずこかから移入されたものと考えることが妥当で

れた.

ある.川内川のヤリタナゴは移入個体群であると の 見 方 が 強 く( 鹿 児 島 の 自 然 を 記 録 す る 会,

Carassius sp.

2002;稲留・山本,2012),八房川のものは同様

フナ属の 1 種 (Fig. 3B, C)

の経路か,あるいは川内川から移入された可能性

標本 KYUM-PI 5144,5145,2 個体,88.2–106.7

が高い.

mm SL,St. 3,10 月 27 日 採 集;KYUM-PI 5158, 83.2 mm SL,St. 3,10 月 27 日採集. 概要 St. 3,4 で出現した.St. 4 では少数の個

Nipponocypris temminckii (Temminck and Schlegel, 1846) カワムツ (Fig. 3E)

体が群れをなして遊泳している様子が観察され

標本 KYUM-PI 5076,131.4 mm SL,St. 4,10

た.本 3 標本は中坊(2013)にしたがうとギンブ

月 8 日 採 集;KYUM-PI 5133,5134,2 個 体,

ナに同定されるが,このうちの 1 標本の形態は他

54.2–113.7 mm SL,St. 10,10 月 28 日 採 集;

2 個体と明らかに異なっており,八房川には少な

KYUM-PI 5157,63.1 mm SL,St. 9,10 月 27 日

くとも 2 つの異なる遺伝的・形態的特徴をもつフ

採集.

ナ属が生息する可能性がある.

概要 塩分の影響がなくなる St. 3 から St. 10 まで幅広い範囲で出現した.

Tanakia lanceolata (Temminck and Schlegel, 1846) ヤリタナゴ (Fig. 3D) 標 本 KYUM-PI 5087,60.7 mm SL,St. 4,10

Zacco platypus (Temminck and Schlegel, 1846) オイカワ (Fig. 3F)

月 9 日 採 集;KYUM-PI 5090,5091,2 個 体,

標本 KYUM-PI 5135,65.0 mm SL,St. 10,10

43.0–59.0 mm SL,St. 3,10 月 8 日採集;KYUM-

月 28 日採集;KYUM-PI 5163,77.3 mm SL,St. 9,

PI 5095–5099,5 個 体,32.9–50.0 mm SL,St. 4,

10 月 28 日採集.

10 月 8 日 採 集;KYUM-PI 5148,5164,2 個 体, 60.3–64.8 mm SL,St. 4,10 月 27 日採集.

概要 塩分の影響がなくなる St. 3 から St. 10 まで幅広い範囲で出現した.

概要 St. 3,4,6,7 で出現した.特に St. 4 で は可動堰直下で 100 個体以上が群泳する様子が観

Rhynchocypris oxycephalus (Sauvage and Dabry de

察され,優占的に生息していた.St. 3 と St. 4 は池・

Thiersant, 1874)

君付(2001)の採集地点と重複するうえに,本種

タカハヤ (Fig. 3G)

が比較的容易に採集できる種であるにもかかわら ず,今回の調査によって初めて報告された.他の

標本 KYUM-PI 5136,40.2 mm SL,St. 10,10 月 28 日採集.

279


Nature of Kagoshima Vol. 44

概要 St. 10 のみで出現した.

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MUGILIDAE ボラ科 Mugil cephalus cephalus Linnaeus, 1758

BAGRIDAE ギギ科

ボラ (Fig. 4G)

Tachysurus aurantiacus (Temminck and Schlegel, 1846)

標本なし

アリアケギバチ (Figs. 3H, 4E)

概要 St. 1,3 で出現した.St. 3 では約 25 cm

標本 KYUM-PI 5075,217.8 mm SL,St. 4,10

SL の 1 個体を目視するにとどまった.

月 9 日 採 集;KYUM-PI 5142,41.3 mm SL,St. 10,10 月 28 日採集. 概 要 St. 4 と St. 10 で 出 現 し た.St. 10 で は 35–45 mm SL 程度の個体が高密度で生息していた が,St. 4 では網羅的に潜水調査を行なったにも かかわらず,わずか 4 個体が観察されるのみで あった.本種は池・君付(2001)では St. 10 から

LATEOLABRACIDAE スズキ科 Lateolabrax latus Katayama, 1957 ヒラスズキ (Fig. 4H) 標本なし 概要 St. 3 で約 20 cm SL の 1 個体のみが出現 した.

採集され,良好な状態であるとされており,現在 もその状態を継続していることが確認された.

CENTRARCHIDAE サンフィッシュ科

St. 4 は今回新たに確認された場所であるが,現

Micropterus salmoides (Lacépède, 1802)

状では洗掘防止の蛇籠マットが敷設され,砂が堆

オオクチバス

積するなど生息環境が良好とは言えない.本種と

標本なし

近 縁 な ネ コ ギ ギ Tachysurus ichikawai (Okada and

概要 St. 4 で約 15 cm SL の 2 個体が出現した

Kubota, 1957) では長期的な生息に浮き石等による

が,標本,水中写真ともに得られていない.池・

隙間の維持が重要であることが知られ,中には護

君付(2001)では八房川産のものであるか不明で

岸や堰堤の浸食部を利用している例も知られてい

はあるものの,本種の固定後標本写真が掲載され

る(渡辺・森,2012).St. 4 の可動堰直下は元々

ている.

洗掘等による隙間環境が創出されていたものが 2014 年に改修された経緯があり,従来よりもア

SPARIDAE タイ科

リアケギバチにとって好適ではなくなっている可

Acanthopagrus latus (Houttuyn, 1782)

能性がある.八房川が本種の東シナ海流入河川の

キチヌ (Fig. 4I)

生息南限にあたることを踏まえ,St. 4 について

標本なし

は今後保全上の配慮が行なわれることが望まし

概要 St. 3 で約 15 cm SL の 1 個体のみが出現

い.

した.

PLECOGLOSSIDAE アユ科

TERAPONTIDAE シマイサキ科

Plecoglossus altivelis altivelis (Temminck and

Rhynchopelates oxyrhynchus (Temminck and Sch-

Schlegel, 1846)

legel, 1843)

アユ (Figs. 3I, 4F)

シマイサキ (Fig. 4J)

標本 KYUM-PI 5162,102.7 mm SL,St. 4,10 月 27 日採集. 概要 St. 3,4,5,7 で出現した.St. 4 では比

標本なし 概要 St. 3 でのみ約 7–10 cm SL 程度のものが 複数個体出現した.

較的個体数が多かったが,その他の地点では少数 個体が採集または目視で確認された.

KUHLIIDAE ユゴイ科 Kuhlia marginata (Cuvier, 1829)

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 3. Flesh color specimens (1 of 2). A, Anguilla japonica, KYUM-PI 5156, 182.0 mm TL; B, Carassius sp., KYUM-PI 5144, 106.7 mm SL; C, Carassius sp., KYUM-PI 5145, 88.2 mm SL; D, Tanakia lanceolata, KYUM-PI 5148, 60.3 mm SL; E, Nipponocypris temminckii, KYUM-PI 5076, 131.4 mm SL; F, Zacco platypus, KYUM-PI 5135, 65.0 mm SL; G, Phoxinus oxycephalus jouyi, KYUM-PI 5136, 40.2 mm SL; H, Tachysurus aurantiacus, KYUM-PI 5075, 217.8 mm SL; I, Plecoglossus altivelis altivelis, KYUM-PI 5162, 102.7 mm SL.

ユゴイ (Fig. 5A) 標 本 KYUM-PI 5159,51.6 mm SL,St. 4,10

地点でも個体数は少なく,基本的に水際の植生帯 に沿った場所で採集,目視された.

月 27 日採集. 概要 St. 4 で 1 個体のみが出現した.

ELEOTRIDAE カワアナゴ科 Eleotris oxycephala Temminck and Schlegel, 1845

ODONTOBUTIDAE ドンコ科 Odontobutis obscura (Temminck and Schlegel, 1845) ドンコ (Fig. 5B)

カワアナゴ (Figs. 4K, 5C) 標 本 KYUM-PI 5100,61.8 mm SL,St. 4,10 月 9 日採集.

標 本 KYUM-PI 5088,5102,2 個 体,83.4–

概要 St. 2 から St. 4 にかけて出現した.特に

104.7 mm SL,St. 6,10 月 9 日 採 集;KYUM-PI

St. 3 では個体数が多く,一度の電気ショッカー

5137,77.6 mm SL,St. 10,10 月 28 日 採 集;

調査で複数個体が採集された.

KYUM-PI 5161,75.0 mm SL,St. 4,10 月 27 日 採集. 概要 St. 3,4,6,10 で出現した.いずれの

GOBIIDAE ハゼ科 Sicyopterus japonicus (Tanaka, 1909)

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Glossogobius olivaceus (Temminck and Schlegel, 1845) ウロハゼ (Fig. 5F) 標 本 KYUM-PI 5077,81.6 mm SL,St. 1,10 月 8 日採集. 概要 塩分の影響がある St. 1,2 で出現した. Tridentiger brevispinis Katsuyama, Arai and Nakamura, 1972 ヌマチチブ (Fig. 5G) 標 本 KYUM-PI 5081,60.4 mm SL,St. 4,10 月 9 日採集;KYUM-PI 5094,31.9 mm SL,St. 3, 10 月 8 日採集;KYUM-PI 5160,79.2 mm SL,St. 4,10 月 27 日採集. 概要 St. 2 から St. 4 にかけて出現した.St. 4 ではさまざまな体サイズの個体が全体的に分布し ていた. Rhinogobius nagoyae Jordan and Seale, 1906 シマヨシノボリ (Fig. 5H) 標 本 KYUM-PI 5093,35.0 mm SL,St. 3,10 月 8 日採集;KYUM-PI 5153,34.2 mm SL,St. 4, Fig. 4. Underwater photographs. A, Anguilla japonica, St. 4; B, Cyprinus carpio, St. 3; C, Cyprinus carpio, St. 4; D, Carassius sp., St. 3; E, Tachysurus aurantiacus, St. 4; F, Plecoglossus altivelis altivelis, St. 4; G, Mugil cephalus cephalus, St. 3; H, Lateolabrax latus, St. 3; I, Acanthopagrus latus, St. 3; J, Rhynchopelates oxyrhynchus, St. 3; K, Eleotris oxycephala, St. 3; L, Gymnogobius urotaenia, St. 3; M, Channa argus, St. 3.

10 月 27 日採集. 概要 St. 3 と St. 4 で出現した.St. 4 ではさま ざまな体サイズの個体が全体的に分布していた が,個体数は同所的に出現するヌマチチブやゴク ラクハゼと比べ明らかに少なかった. Rhinogobius fluviatilis Tanaka, 1925

ボウズハゼ (Fig. 5D) 標 本 KYUM-PI 5082,48.1 mm SL,St. 4,10 月 9 日採集. 概要 St. 4,7 で出現した.いずれの地点でも 個体数はきわめて少なく,確認個体数は 5 個体に 満たなかった.

オオヨシノボリ (Fig. 5I) 標 本 KYUM-PI 5084,5085,2 個 体,54.6– 54.9 mm SL,St. 8,10 月 9 日 採 集;KYUM-PI 5154,5155,2 個体,42.4 mm SL,St. 9,10 月 27 日採集. 概要 St. 4 から St. 9 にかけて出現した.St. 4 以外の地点では他の底生性魚種に比べ明らかに優

Luciogobius guttatus Gill, 1859

占的に分布していた.

ミミズハゼ (Fig. 5E) 標 本 KYUM-PI 5092,53.7 mm SL,St. 3,10 月 8 日採集. 概要 St. 3 で 1 個体のみが出現した.

Rhinogobius sp. TO トウヨシノボリ (Fig. 5J) 標 本 KYUM-PI 5083,46.2 mm SL,St. 4,10 月 9 日採集;KYUM-PI 5101,42.3 mm SL,St. 6,

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Fig. 5. Flesh color specimens (2 of 2). A, Kuhlia marginata, KYUM-PI 5159, 51.6 mm SL; B, Odontobutis obscura, KYUM-PI 5161, 75.0 mm SL; C, Eleotris oxycephala, KYUM-PI 5100, 61.8 mm SL; D, Sicyopterus japonicus, KYUM-PI 5082, 48.1 mm SL; E, Luciogobius guttatus, KYUM-PI 5092, 53.7 mm SL; F, Glossogobius olivaceus, KYUM-PI 5077, 81.6 mm SL; G, Tridentiger brevispinis, KYUMPI 5081, 60.4 mm SL; H, Rhinogobius nagoyae, KYUM-PI 5153, 34.2 mm SL; I, Rhinogobius fluviatilis, KYUM-PI 5084, 54.9 mm SL; J, Rhinogobius sp. TO, KYUM-PI 5143, 55.9 mm SL; K, Rhinogobius similis, KYUM-PI 5147, 70.0 mm SL; L, Gymnogobius urotaenia, KYUM-PI 5146, 67.5 mm SL.

10 月 9 日採集;KYUM-PI 5143,55.9 mm SL,St.

とを理由に,本種がダムによって陸封された可能

10,11 月 17 日採集;KYUM-PI 5138–5141, 4 個体,

性が高いとした.著者らの調査においては市来ダ

34.1–58.8 mm SL,St. 10,10 月 28 日採集.

ムより下流側でも出現したが,その出現は比較的

概要 St. 4,6,9,10 で出現した.St. 4 と St.

上流の地点に限定されていることから,市来ダム

6 では 1 個体のみが採集され,同所的に出現する

によって陸封されたものが流下,あるいは流下後

オオヨシノボリより明らかに少なかったが,St. 9

に再生産したものと推測された.市来ダムでは

では比較的多くの個体が採集されたほか,市来ダ

2000 年 4 月頃にダムの水を抜いて放水路の工事

ム上流の St. 10 では本種のみが早瀬環境に優占的

が行なわれており(池・君付,2001),その際ダ

に分布していた.池・君付(2001)は本種が調査

ム上流に生息していたトウヨシノボリを含む魚類

地点のうちの市来ダム上流でのみ多数出現したこ

が流下したものと考えられる.

283


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Rhinogobius similis Gill, 1859

資源学研究科の河村功一氏にはヤリタナゴの遺伝

ゴクラクハゼ (Fig. 5K)

子解析を行なっていただいた.福岡県保健環境研

標 本 KYUM-PI 5086,42.4 mm SL,St. 4,10

究所の中島 淳氏には八房川の魚類の生息状況に

月 9 日採集;KYUM-PI 5147,70.0 mm SL,St. 4,

ついてご教示をいただいた.この場をお借りして

10 月 27 日採集.

御礼申し上げる.本研究の一部は鹿児島県内水面

概要 St. 3 と St. 4 で出現した.いずれの地点 でもさまざまな体サイズの個体が全体的に分布し ていた. Gymnogobius urotaenia (Hilgendorf, 1879) ウキゴリ (Figs. 4L, 5L) 標 本 KYUM-PI 5146,67.5 mm SL,St. 3,10 月 27 日採集. 概要 St. 3 と St. 4 で出現した.St. 3 では 4 個 体を確認し,このうちの 1 個体を採集したが, St. 4 では 1 個体が目視されるに留まり,いずれ の地点においても個体数はきわめて少なかった. 池・君付(2001)は St. 4 と St. 5 付近からスミウ キ ゴ リ Gymnogobius petschiliensis (Rendahl, 1924) を報告しているが,本調査では確認されなかった. CHANNIDAE タイワンドジョウ科 Channa argus (Cantor, 1842) カムルチー (Fig. 4M) 標本なし 概要 St. 3 で約 20 cm SL の 1 個体のみが出現 した. 謝辞 九州大学大学院生物資源科学府水産増殖学研 究室の小関宗平氏ならびに松川康介氏には調査の 補助を行なっていただいた.三重大学大学院生物

284

うなぎ資源管理推進事業によって行なわれた. 引用文献 池 俊人・君付 学.2001.Pp. 66–71.鹿児島県立博物館 (編)親と子の自然観察ゼミナール博物館自然リサーチ 報告書(4)水辺の自然.鹿児島県立博物館,鹿児島市. 稲留陽尉・山本智子.2012.北薩地域におけるタナゴ類と イシガイ類の分布と産卵床としての利用.保全生態学 研究,17: 63–71. Ito, T., Fukuda, T., Morimune, T. and Hosoya, K. 2017. Evolution of the connection patterns of the cephalic lateral line canal system and its use to diagnose opsariichthyin cyprinid fishes (Teleostei, Cyprinidae). ZooKeys, 718: 115–131. 鹿児島県立博物館.2001.親と子の自然観察ゼミナール博 物館自然リサーチ報告書(4)水辺の自然.鹿児島県立 博物館,鹿児島市.92 pp. 鹿児島の自然を記録する会(編).2002.川の生きもの図鑑 鹿児島県の水辺から.南方新社,鹿児島市.386 pp. 中坊徹次(編).2013.日本産魚類検索全種の同定 第三版. 東海大学出版会,秦野.2530 pp. 中坊徹次(編).2000.日本産魚類検索全種の同定 第二版. 東海大学出版会,東京.1810 pp. Sakai, H., Ito, Y., Shedko, S.V., Safronov, S.N., Frolov, S.V., Chereshnev, I.A., Jeon, S.R. and Goto, A. 2006. Phylogenetic and taxonomic relationships of northern Far Eastern phoxinin minnows, Phoxinus and Rhynchocypris (Pisces, Cyprinidae), as inferred from allozyme and mitochondrial 16S rRNA sequence analyses. Zoological Science, 23: 323–331. Suzuki, T., Shibukawa, K., Senou, H. and I-S. Chen. 2015. Redescription of Rhinogobius similis Gill 1859 (Gobiidae: Gobionellinae), the type species of the genus Rhinogobius Gill 1859, with designation of the neotype. Ichthyological Research, 63: 227–238. 渡辺勝敏・森 誠一.2012.ネコギギ:積極的保全に向けた アプローチ.魚類学雑誌,59: 168–171.


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トカラ列島臥蛇島の鳥類相 稲留陽尉 ・外園九十九 ・宮﨑泰子 ・江嵜正裕 ・鹿児島県環境林務部自然保護課 1

1

1

1

1

2

〒 891–0132 鹿児島市七ツ島 1 丁目 1 番地 5 (一財)鹿児島県環境技術協会 2

〒 890–8577 鹿児島市鴨池新町 10 番 1 号 鹿児島県環境林務部自然保護課

はじめに トカラ列島は,鹿児島県の屋久島と奄美大島 の間に位置し,有人島 7 島,無人島 5 島からなる 島々にて構成されている.これらの島々は,日本 本土と奄美大島,沖縄,東南アジア地域を行き来 する鳥類にとって,季節的な渡りを行う際の重要 な中継地と考えられている(関ほか,2011). トカラ列島の中でも定期便が就航している有 人島では,鳥類も含め動植物を対象とした調査が 比較的行われている(例えば鹿児島県,1991). 一方,臥蛇島は,以前は人の生活が営まれていた が,1970 年(昭和 45 年)に集団移転によって無 人島化し,定期船も廃止された(十島村,1995). その後島へ渡航するには船をチャーターする必要 があり,容易には行くことができなくなった.そ の結果,渡航機会が少なく現地の生物相を調べる 機会も限られている. 鳥類もこれまで臥蛇島の記録は,非常に限ら れていた.しかしながら,2011 年にこれまでの トカラ列島での鳥類相の記録が整理され(関ほか, 2011),その翌年には,自動記録装置による長期 的な調査も行われている(関,2012).そのため, 徐々にではあるが臥蛇島で記録が充実しつつあ る.今回,臥蛇島で鳥類相調査を実施し,これま

Inadome, T., T. Hokazono, Y. Miyazaki, M. Esaki and Kagoshima Prefecuture Environment and Forestry Affairs Department (Nature Conservation Division). 2018. Avifauna in Gaja-jima of the Tokara Islands, Japan. Nature of Kagoshima 44: 285–289. TI: The Foundation of Kagoshima Environmental Research and Service, 1–1–5 Nanatsujima, Kagoshima 891– 0132, Japan (e-mail: inadome@kagoshima-env.or.jp). Published online: 10 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-039.pdf

でに記録のない種も確認された.鳥類相の情報蓄 積として残すべくここに報告する. 調査地 調査は,2012 年 10 月 20–23 日の 4 日間,鹿児 島県鹿児島郡十島村臥蛇島にて行った(図 1). 2 臥蛇島の面積は 4.07 km で,島の中央部に標高

497 m の御岳が位置する.人工構造物等は,島の 北側に集中しており,船着き場から急峻な崖を 登ったところに集落跡地がある.集落跡地から灯 台までは道が残っているがそれ以外に道はない. 島の最高峰御岳近くの稜線までは行くことは可能 だが,山頂や島の南側へ行くのは困難である. 島の植生は,常緑広葉樹が大部分を占め,集 落跡が位置する北西部はリュウキュウチクに覆わ れている.河川や湖沼等の淡水環境は見られず, 水環境は海岸のみである.海岸は断崖となってお り,干潟は見られない. 調査方法 集落跡地から灯台までの道にルートを設定し, ルートセンサスを実施した.集落跡地,灯台,両 地点の中間の 3 カ所に定点を設定し,定点調査を 実施した.また,島に滞在中調査時間以外に確認 された鳥類も記録した.それぞれの調査にて確認 された個体数を,全体の個体数で除して優占度を 求めた.調査は,約 8 倍の双眼鏡と約 20 倍の望 遠鏡を用いて鳥類を観察し,直接観察できたもの や鳴き声から判断し,確認種を記録した. 結果 確認された鳥類 調査の結果,8 目 18 科 30 種の鳥類が確認され た(表 1).なかでも,チョウゲンボウ,コシア

285


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図 2.ルートセンサス,定点調査位置.

ロの順で優占度が高かった(表 2).定点調査では, 集落跡地ではカツオドリ,ヒヨドリ,中間地点で はマヒワ,メジロ,ヒヨドリ,灯台ではアトリ, マヒワ,メジロの優占度がそれぞれ高く,定点調 査全体では,ルートセンサスと同じ傾向であった 図 1.臥蛇島の位置.

(表 2). 優占上位を占めた 3 種を生息区分で見るとア トリ,マヒワは冬鳥,メジロは留鳥であった.ま

カツバメ,キセキレイ,ハクセキレイ,コホオア

た,利用環境の分類では,アトリ,マヒワは森林

カの 5 種は臥蛇島にて初めて確認された.これら

及び耕地,メジロが森林であった.

の鳥類を所﨑・山元(1999)の鹿児島県産鳥類リ ストに基づき生息区分別の分類を行った.その結 果,1 年中生息する留鳥が 21 種,繁殖のために

考察 臥蛇島の鳥類相

飛来する夏鳥が 1 種,越冬のために飛来する冬鳥

これまで臥蛇島にて確認された鳥類は,2011

が 6 種,春または秋の渡りの時期に確認される旅

年に各地での情報が整理され 42 種(周辺海域で

鳥が 1 種,稀に飛来する迷鳥が 1 種と留鳥が最も

の確認含む)として公開された(関ほか,2011).

多かった.

一方,今回の調査では 30 種であった.生息区分

また,鹿児島県自然愛護協会(1979)の生息

で見ると留鳥が最も多く,確認された鳥類の 7 割

地別鳥類分布の凡例に基づき,利用環境の分類を

を占めた.今回確認されなかった多くの種類は,

行うと,森林を利用している鳥類が 15 種,草原・

夏鳥,冬鳥,旅鳥,迷鳥と観察できる季節が限定

原野を利用している鳥類が 2 種,海岸・湖沼等水

されたり,偶発的な発見によるものであった.調

辺を利用している鳥類が 12 種,耕地・市街地等

査を実施したのが 10 月であったため,秋の渡り

の開けた環境を利用している鳥類が 14 種となり,

を行う鳥類が中継地として利用していることが期

森林を利用している鳥類が最も多かった.

待された.しかしながら,旅鳥はコホオアカの 1 種のみであり,マヒワ,アトリといった冬鳥に区

優占上位種 ルートセンサスでは,マヒワ,アトリ,メジ

286

分される鳥類の方が多かった.なお,今回用いた 生息区分は,鹿児島県内(鹿児島県本土,離島を


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含む)にて確認された時期を基に区分されている.

ドリ類,カモ類は全く確認されていない.これら

しかし,臥蛇島のような特殊な地理的条件を持ち,

の鳥類は,渡りを行うものが多い.臥蛇島には淡

規模の小さい離島では,そのまま区分を当てはめ

水や湿地,干潟といった環境が存在しないため,

ることができない可能性もあり,注意が必要であ

シギ・チドリ類,カモ類の中継地として利用され

る.

ず,結果として渡りを行う鳥類の割合が少ないこ

利用環境区分の種数で見ると,一見森林,海岸・

とにつながっていると考えられた.

湖沼,耕地周辺に該当する種数に大きな違いは見

今回の調査は,10 月に 1 度実施されたのみで

られない(表 1) .しかしながら,海岸・湖沼に

ある.時期によっては種の構成が異なることは十

区分される種数の内訳を見ると,カツオドリ,ミ

分期待される.また,島の面積が小さく利用環境

サゴ,トビ等いずれも海岸周辺を主に利用する鳥

が限られるため,生息区分上留鳥として分類され

類であり,淡水環境や干潟等を利用するシギ・チ

る鳥類であっても,種類によっては季節毎に周辺

表 1.臥蛇島にて確認された鳥類及び生息環境・利用区分. 森林 目名

科名

ペリカン

カツオドリ

種名

カツオドリ アカアシカツオドリ コウノトリ サギ ゴイサギ アオサギ タカ タカ ミサゴ トビ ハヤブサ ハヤブサ チョウゲンボウ ハト ハト カラスバト キジバト ズアカアオバト スズメ ツバメ ツバメ コシアカツバメ セキレイ キセキレイ ハクセキレイ サンショウクイ リュウキュウサンショウクイ ヒヨドリ ヒヨドリ モズ モズ ツグミ アカヒゲ ジョウビタキ イソヒヨドリ シロハラ ウグイス ウグイス シジュウカラ ヤマガラ メジロ メジロ ホオジロ コホオアカ アトリ アトリ マヒワ ムクドリ ムクドリ カラス ハシブトガラス 5

18

30

針 葉 樹 林

広 葉 樹 林

草 原 ・ 原 野

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○

15

14 15

○ ○

○ ○ ○

○ ○

2

耕地周辺 耕 地

宅 地 ・ 市 街 地

○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○ ○

湖 沼 ・ 河 川 ・ 湿 地

海 岸 ・ 海 洋

○ ○

○ ○ ○

主な生息環境 海岸 ・ 湖沼

○ 10

○ 6 12

○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○ 14

○ ○ ○ ○ 13 14

区分

留鳥 迷鳥 留鳥 留鳥 留鳥 留鳥 留鳥 冬鳥 留鳥 留鳥 留鳥 留鳥 夏鳥 留鳥 冬鳥 留鳥 留鳥 留鳥 留鳥 冬鳥 留鳥 冬鳥 留鳥 留鳥 留鳥 旅鳥 冬鳥 冬鳥 留鳥 留鳥 -

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の島を利用している可能性も考えられる.そのた

べられており(寺田,1999),林床を利用する鳥

め,時期を変え複数回調査を実施し情報を蓄積す

類への影響が懸念される.また,イタチは伊豆諸

ることで,より詳細な生息情報を担保できると考

島三宅島で地表を利用するアカコッコを捕食して

えられる.

激減させており(高木ほか,1992),クマネズミ は小笠原諸島で海鳥類の卵や成鳥を捕食している (堀越ほか,2009).そのため,臥蛇島でも,これ

カツオドリの繁殖地 島の北部に位置する立神は,以前からカツオ ドリの繁殖地として記録されている(十島村,

らの外来種によって鳥類が捕食されている可能性 がある.

1995).今回は,抱卵や雛の確認といった繁殖を 直接示す状況は確認されなかった.しかしながら,

臥蛇島の位置づけ

立神周辺には多くのカツオドリが飛翔したり,止

トカラ列島の島々は,渡りを行う鳥類にとっ

まったりする姿が確認された.また,同じ年の夏

て重要な中継地である.しかしながら,臥蛇島は,

に実施された調査(関,2012)では,営巣や巣立

島の面積が小さく,淡水・干潟環境等が存在しな

ち後間もない雛が確認されていた.そのため,こ

いため,他の島々に比べると利用できる渡り鳥の

れまでと変わらず繁殖地として利用しており,秋

種類が限られると考えられる.一方で,無人島化

には繁殖を終えていることが示唆された.

していることで人による影響は皆無である.した がって,利用可能な渡り鳥にとっては,他の島以 上に重要な中継地として機能している可能性があ

外来種の影響 臥蛇島にはトカラヤギ,マゲシカ,イタチ,ク マネズミが生息している.これらの哺乳類種は,

る.また,外来種の影響を排除することで鳥類に とってより好適な環境になると考えられた.

いずれも外来種である.これまでのところ,現地

謝辞

を利用する鳥類にとってどのような影響が出てい るかは把握できていない.しかしながら,トカラ

今回の調査を実施するにあたり,瀬渡しにて

ヤギ,マゲシカによってほとんどの林床植物が食

お世話になったトカラ黒潮丸船長肥後栄男氏,現

表 2.臥蛇島にて確認された鳥類の優占度. 目名

科名

ペリカン

カツオドリ

タカ

ハヤブサ

スズメ

ツバメ セキレイ ヒヨドリ モズ ツグミ

ウグイス シジュウカラ メジロ アトリ ムクドリ カラス

288

種名 カツオドリ アカアシカツオドリ ハヤブサ チョウゲンボウ ツバメ ハクセキレイ ヒヨドリ モズ ジョウビタキ イソヒヨドリ シロハラ ウグイス ヤマガラ メジロ アトリ マヒワ ムクドリ ハシブトガラス

ルートセンサス - - - - 0.9 0.9 5.4 - 1.8 2.7 0.9 4.5 2.7 15.2 26.8 32.1 2.7 3.6

集落跡地 27.3 - - 9.1 - 9.1 18.2 9.1 9.1 - - - - 9.1 - - - 9.1

定点調査 中間地点 灯台 優占率 4.7 - 2.3 - 2.3 - 4.7 - 3.8 - 2.3 1.9 3.8 11.6 - - 2.3 1.9 2.3 - - - 4.7 - - - 23.3 9.6 38.5 - 27.9 38.5 7 4.7 1.9

定点調査総計 4.7 0.9 0.9 2.8 1.9 2.8 8.5 0.9 2.8 0.9 1.9 15.1 18.9 30.2 2.8 3.8


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地調査時,原稿作成時に協力いただいた当協会職 員に厚く御礼申し上げます.また,本調査は,鹿 児島県が実施する「平成 24 年度自然植生等調査 業務委託」にて実施した鳥類調査の結果から一部 抜粋している. 引用文献 堀越和夫・鈴木 創・佐々木哲朗・千葉勇人.2009.外来 哺乳類による海鳥類への被害状況.地球環境,14 (1): 103–105. 鹿児島県.1991.トカラ列島学術調査報告. 鹿児島県自然愛護協会.1979.市町村別鳥類分布調査報告 書(鹿児島市群・指宿地区).鹿児島県自然愛護協会, 鹿児島.

Nature of Kagoshima Vol. 44 関 伸一・所崎 聡・溝口文男・高木慎介・仲村 昇・ファー ガスクリスタル.2011.トカラ列島の鳥類相.森林総 合研究所報告,10 (4): 183–229. 関 伸一.2012.自動撮影カメラとタイマー付録音機で記 録されたトカラ列島の無人島群における鳥類相.Bird Research, 8: A35–A48. 寺田仁志.1999.移入動物が無人島の植生に与える影響 - 臥 蛇 島 の 植 物 相 と 現 存 植 生 -. 南 日 本 文 化,33: 59–108. 十島村.1995.十島村誌.斯文堂株式会社,鹿児島,1758 pp. 高木昌興・樋口広芳.1992.伊豆諸島三宅島におけるアカ コッコ Turdus celaenops の環境選好とイタチ放獣の影響. Strix, 11: 47–57. 所崎 聡・山本幸夫.1999.鹿児島県産鳥類リスト.鹿児 島県立博物館研究報告,18: 21–42.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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鹿児島県沿岸域で漁獲されたヘダイに寄生していたタイノヒトガタムシ Lernanthropus atrox (カイアシ亜綱ヒトガタムシ科) 長澤和也 ・菅 孔太朗 1

1

2

〒 739–8523 広島県東広島市鏡山 1–4–4 広島大学大学院生物圏科学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科

Abstract The lernanthropid copepod, Lernanthropus atrox Heller, 1865, is reported based on two adult females from the gills of goldlined seabream, Rhabdosargus sarba (Forsskål, 1775) (Perciformes, Sparidae), in the East China Sea off the west coast of Kagoshima Prefecture, southern Kyushu, Japan. This represents a new host record for L. atrox and the first record of the species from Kyushu. はじめに タイノヒトガタムシ Lernanthropus atrox Heller, 1865 は,日本や中国,オーストリアに生息する 主にタイ科魚類に寄生するカイアシ類の 1 種であ る( 例 え ば 宍 戸,1898;Shiino, 1955;Song and Chen, 1976;Kabata, 1979; 長 澤・ 上 野,2011; Nagasawa, 2017).最近,筆者らは鹿児島県の東 シナ海沿岸域で漁獲されたヘダイ Rhabdosargus sarba (Forsskål, 1775) に寄生するタイノヒトガタ ムシを見つけた.これは,鹿児島県を含む九州か らの本種の初記録であるとともに,ヘダイは本種 の新宿主になることから,ここに報告する.

材料と方法 本研究で調べたヘダイは,2017 年 7 月 6 日に 鹿児島県出水郡長島町にある鮮魚市場で購入した 2 尾である.このヘダイは,同日の朝,鹿児島県 阿久根市黒之浜地先の東シナ海沿岸域で漁獲され たものである.ヘダイを購入後,氷蔵して鹿児島 大学に運び,標準体長を測定後,実体顕微鏡を用 いて外部寄生虫を調べたところ,鰓に寄生するタ イノヒトガタムシを見出した.それをピンセット を用いて注意深く摘出後,70% エタノール液で 固定して標本とした.これを広島大学に運び,実 体顕微鏡を用いて観察・同定するとともに,実体 顕微鏡に取り付けたカメラを用いて写真撮影を 行った.本標本は,茨城県つくば市にある国立科 学博物館筑波研究施設の甲殻類コレクションに収 蔵されている(NSMT-Cr 26838).本論文で記し た魚類の学名と英名は Froese and Pauly (2018) に 従った.ただし,チダイの学名は Iwatsuki et al. (2007) に従った. 結果と考察 カイアシ亜綱 Copepoda Milne Edwards, 1830 新カイアシ下綱 Neocopepoda Huys and Boxshall, 1991

Nagasawa, K. and K. Kan. 2018. Lernanthropus atrox (Copepoda, Siphonostomatoida, Lernanthropidae) parasitic on goldlined seabream, Rhabdosargus sarba, in the East China Sea off southern Kyushu, Japan. Nature of Kagoshima 44: 291–295. KN: Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima University, 1–4–4 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hiroshima 739–8523, Japan (e-mail: ornatus@hiroshima-u. ac.jp). Published online: 11 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-040.pdf

管口目 Siphonostomatoida Burmeister, 1835 ヒトガタムシ科 Lernanthropidae Kabata, 1979 ヒトガタムシ属 Lernanthropus de Blainville, 1882 タイノヒトガタムシ Lernanthropus atrox Heller, 1865 (Fig. 1) 形態 得られた標本は雌成体 2 個体で,写真 個体の頭胸甲前端から第 4 胸節背板後端までの長

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Fig. 1. A female of Lernanthropus atrox Helller, 1865 (A, dorsal view; B, ventral view; C, lateral view), NSMT-Cr 26838, from the gills of goldlined seabream, Rhabdosargus sarba (Forsskål, 1775) in the East China Sea off the west coast of Kagoshima Prefecture, southern Kyushu, Japan. Scale bar: 1 mm.

さは 2.8 mm.頭胸甲背面はほぼ四角形で幅広い.

た.

短い頸部に続き,背面は肩状をなし,後方は円板

タイノヒトガタムシは,オーストラリア産タ

状となる.生殖節は背板で覆われる.腹部は小さ

イ 科 魚 類 の 1 種,silver seabream Pagrus auratus

く,尾叉は指状を呈する.第 1 胸肢と第 2 胸肢は

(Forster, 1801) から得られた標本に基づいて Heller

小さい.第 3 胸肢は二叉し,内肢は細く後方に向

(1865) によって新種記載された(この記載では宿

かう.第 4 胸肢も二叉して中央部がやや太く,外

主は Pagrus guttulatus Valenciennes, 1830 と報告さ

肢は内肢よりやや長い.

れた).その後,本種はオーストラリアでは同一

宿主 ヘダイ Rhabdosargus sarba(スズキ目タ イ科).

宿 主 に 加 え て, 同 じ く タ イ 科 魚 類 の yellowfin bream Acanthopagrus australis (Günther, 1859), black

寄生部位 鰓.

bream Acanthopagrus butcheri (Munro, 1949), yellow

採集地 鹿児島県阿久根市黒之浜地先の東シ

seabream Acanthopagrus latus (Houttuyn, 1782) から

ナ海沿岸域.

記 録 さ れ て い る(Heider, 1879;Kabata, 1979;

寄生状況 ほぼ同じ標準体長のヘダイ 2 尾を

Roubal, 1981, 1986, 1989, 1990a, 1990b, 1995, 1996;

調べ,1 尾(210 mm)の鰓に雌成体 2 個体が寄

Roubal et al., 1983;Byrnes, 1988;Byrnes and

生していた.被寄生魚の第 2 鰓と第 3 鰓にそれぞ

Rohde, 1992). ま た, 本 種 は 日 本 産 ク ロ ダ イ

れ 1 個体が寄生していた.

Acanthopagrus schlegelii (Bleeker, 1854) と マ ダ イ

備考 本研究で得られたカイアシ類は Yamaguti

Pagrus major (Temminck and Schlegel, 1843) に寄生

(1936),Shiino (1955),Izawa (2014),Nagasawa (2017)

す る ほ か( 宍 戸 , 1898;Yamaguti, 1936;Shiino,

によって報告されたタイノヒトガタムシの雌成体

1955, 1959;Ho and Do, 1985;Izawa. 2014),最近,

の形態的特徴に一致したことから,本種と同定し

チ ダ イ Evynnis tumifrons (Temminck and Schlegel,

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RESEARCH ARTICLES

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1843) からも報告された(Nagasawa, 2017).中国 産クロダイにも寄生する(Song and Chen, 1976; Song and Kuang, 1980).このように本種はタイ科 魚類の寄生虫として知られているが,日本ではイ ボダイ Psenopsis anomala (Temminck and Schlegel, 1844)(イボダイ科)に寄生した例がある(市原 ほ か,1965 [Lernanthropus sp. と し て 報 告 ];Ho and Do, 1985 を参照).なお,宿主は不明であるが, ロシア沿岸の日本海からも記録がある (Markevitch and Titar, 1978). 一方,多くの調査にもかかわらず,本種はこ れまでのところニュージーランド(Roubal et al., 1983;Roubal, 1996) や 台 湾(Ho et al., 2008, 2011;Liu et al., 2009a, 2009b)からは見出されて いない.ペルシャ湾における本種の記録(BassettSmith, 1898;Gnanamuthu, 1949 を参照)は誤同定 と さ れ て い る(Shiino, 1955;Ho and Do, 1985). Chin (1947:29) は 本 種 に Lernanthropus shishidoi なる学名を提案したが,この学名は用いられてい ない. 今回,本種の寄生を確認したヘダイは,上記

Fig. 2. Map of the Japanese Archipelago, showing the localities where Lernanthropus atrox was collected in the previous (open circles) and present (closed circle) studies (modified from Nagasawa, 2017). Localities 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 and 8 are: Tokyo Bay (Shishido, 1898); Sagami Bay (Shishido, 1898; Ichihara et al., 1965 [as Lernanthropus sp.]); Momotori and Tsu, Mie Prefecture (Shiino, 1955, 1959); Seto, Wakayama Prefecture (Izawa, 2014); the Seto Inland Sea (Yamaguti, 1936); Hiroshima Bay (Nagasawa, 2017); Tassha, Sado Island, Niigata Prefecture (Ho and Do, 1985); and the eastern East China Sea off the west coast of Kagoshima Prefecture (this paper), respectively. The routes of the warm current, Kuroshio, and its branch, the Tsushima Current, are also shown.

した本種の既知宿主に含まれておらず,ここに新 宿主として記録される. わが国でこれまでにタイノヒトガタムシが採 集された場所は,東京湾・相模湾(宍戸,1898;

イ科魚類を調べることが望ましいと述べている.

市原ほか,1965;長澤・上野,2011 を参照),三

広島湾産チダイでは本種は主に第 1 鰓に寄生

重県の桃取と津(Shiino, 1955, 1959),和歌山県

していた(Nagasawa, 2017).しかし,今回,本

の 瀬 戸(Izawa, 2014), 瀬 戸 内 海(Yamaguti,

種はメダイの第 2 鰓と第 3 鰓に寄生していた.た

1936),広島湾(Nagasawa, 2017),新潟県佐渡島

だ,いずれの例でも検査尾数が少ないため(チダ

の達者(Ho and Do, 1985;Honma and Kitami, 1995

イ 11 尾,ヘダイ 2 尾),今後,検査尾数を増やし

も参照)であり,今回の鹿児島県産ヘダイからの

て,本種による各鰓の利用状況を知ることも課題

採集は九州からの本寄生虫の初記録となる(Fig.

のひとつであろう.

2).これらの採集地は,黒潮と対馬暖流の影響を

タイノヒトガタムシに関しては,上記した報

強く受ける水域である(Nagasawa, 2017, Fig. 2).

文のほか,わが国では椎野(1965, 1979)による

東アジアにおける本種の地理的分布に関して,

解説が有用である.ただ,そのなかで本種の宿主

本種が中国南部の海南島沿岸域に分布するが

を「マダイ Sparus macrocephalus などタイ科魚類」

(Song and Chen, 1976;Song and Kuang, 1980) 台

と記してマダイの学名に Sparus macrocephalus を

湾から記録がないことから(Ho et al., 2008, 2011;

用いたが,これはクロダイの古い学名であり,マ

Liu et al., 2009a, 2009b),Nagasawa(2017) は 本

ダイの学名ではない(Nagasawa, 2017).椎野(1965,

種の地理的分布に関する理解を深めるために四

1979)の記述に誤りが含まれることに留意すべき

国・九州から琉球列島に至る南日本に生息するタ

である.

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今回調べたヘダイから得られた外部寄生虫は タイノヒトガタムシのみであり,他の寄生虫は認 められなかった. 謝辞 鹿児島大学大学院理工学研究科の佐藤正典教 授は,本論文の主著者に研究施設の使用を快く許 可された.また,同研究科の上野大輔博士はヘダ イを同定くださった.両氏に深く感謝する. 引用文献 Bassett-Smith, P. W. 1898. Further new parasitic copepods found on fish in the Indo-tropical region. Annals and Magazine of Natural History, 7: 77–98. Byrnes, T. 1988. Lernanthropids and lernaeopodids (Copepoda) parasitic on Australian bream (Acanthopagrus spp.). Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 33: 97–120. Byrnes, T. and Rohde, K. 1992. Geographical distribution and host specificity of ectoparasites of Australian bream, Acanthopagrus spp. (Sparidae). Folia Parasitologica, 39: 249–264. Chin, J.-H. 1947. On two new species of Lernanthropus (Copepoda parasitica) from Chinese marine fishes. Sinensia, 18: 21–33. Froese, R. and Pauly, D., eds. 2018. FishBase. World Wide Web electronic publication. www.fishbase.org, version (02/2018). (accessed on 29 March 2018). Gnanamuthu, C. P. 1949. Lernanthropus sciaenae sp. nov., a copepod parasitic on the gills of the fish Sciaena glauca from Madras. Records of the Indian Museum, 45: 291–298. Heller, C. 1865. Crustacean. Reise der Öesterreichischen Fregatte “Novara” um die Erde in der Jahren 1857, 1858, 1859, (Zoologischer Theil), 2(3): 1–280. Heider. C. 1879. Die Gattung Lernanthropus. Arbeiten aus dem Zoologischen Institut der Universität Wien, 2(3): 269–368. Ho, J.-S. and Do, T. T. 1985. Copepods of the family Lernanthropidae parasitic on Japanese marine fishes, with a phylogenetic analysis of the lernanthropid genera. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 15: 31–76. Ho, J.-S., Liu, W.-C. and Lin, C.-L. 2008. Six species of lernanthropid copepods (Siphonostomatoida) parasitic on marine fishes of Taiwan. Journal of the Fisheries Society of Taiwan, 35: 251–280. Ho, J.-S., Liu, W.-C. and Lin, C.-L. 2011. Six species of Lernanthropidae (Crustacea: Copepoda) parasitic on marine fishes of Taiwan, with a key to 18 species of the family known from Taiwan. Zoological Studies, 50: 611–635. Honma, Y. and Kitami, T. 1995. Fauna and flora in the waters adjacent to the Sado Marine Biological Station, Niigata University: Supplement 2. Reports of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, (25): 13–30. 市原醇郎・加藤和子・亀谷俊也・亀谷 了・野々部春登・ 町田昌昭.1965.相模湾産魚貝類の寄生虫について(第 3 報) 2.イボダイの寄生虫.3.ハシキンメの寄生虫. 目黒寄生虫館月報,(78–80): 2–14.

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椎野季雄.1979.たいのひとがたむし Lernanthropus atrox Heller. P. 401. 今島 実・武田正倫(編).新編日本動物 図鑑.北隆館,東京.

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住用マングローブ林における底生生物の分布 川瀬誉博 ・藤井椋子 ・古川拓海 ・山口 涼 ・山本智子 1

1

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2

2

2

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

はじめに

調査地と方法

マングローブは熱帯・亜熱帯の河口汽水域に

調査は 2017 年 7 月 9 日から 7 月 11 日の干潮時

生育する耐塩性植物の総称であり,それによって

で 3 日間行った.住用マングローブ林は住用川と

形成される林のことをマングローブ林という.陸

役勝川や支流に挟まれており,マングローブ林は

域から海域への移行帯(エコトーン)を形成し,

幾つかの林に分断されている形となっているため

それぞれの地に適応した特徴的な生物が生息する

(図 1-M),調査は川やマングローブ林内を流れる

場となっていることから,生物多様性保全上も重

支流に沿って行った.地点 A から F(図 1-M)で

要な地域と位置づけられている(松田,2011).

はそれぞれのポイントで数回,15 分間の見つけ

マングローブ域では,鳥類や魚類のほか,甲殻類

取り調査と景観の撮影を行った(図 1-A~F).地

などの多くの無脊椎動物など多様な生物が生息し

点 G から L(図 1-M)では生物調査をせず,景

ており,これらの生物からなる生態系をマング

観の調査だけを行った(図 1-G~L).

ローブ生態系と呼ぶ(福岡ほか,2010).鹿児島

奄美群島は 2017 年 3 月 7 日に国立公園に指定

県には奄美大島や屋久島,種子島などにマング

され,住用マングローブ林も特別保護地区となっ

ローブ林は広がっており,特に奄美大島の住用川

た.そのため,捕まえた生物はその場で同定を行

と役勝川に広がるマングローブ林は県内最大であ

い,記録をした.その場で同定が困難な種に関し

る.住用マングローブ林はメヒルギとオヒルギか

ては写真を撮影し,調査後に写真から同定を行っ

ら構成されている.過去に林・山本(2011)や三

た.

浦(2012)が住用マングローブ林とその前浜に広 がる干潟での調査を行った.しかし,いずれも広 い林内における底生生物の分布と生息環境の空間

結果 住用マングローブ林の景観

変異をとらえていない.そこで本研究は住用マン

地点 A から D までは役勝川の支流のひとつに

グローブ林の広い範囲で調査をし,出現した生物

沿って調査を行った.地点 A では水量の少ない

を記録し,マングローブ林内における底生生物の

支流沿いに大型のマングローブ樹木が密に分布

分布について明らかにすることを目的とした.

し,支流から離れた場所には陸上植物が生育して いた.林内にギャップがあり,マングローブ幼木

Kawase, T., R. Fujii, T. Furukawa, R. Yamaguchi and T. Yamamoto. 2018. The distribution of benthic animals in Sumiyo mangrove forest of Amami-Oshima Island, Japan. Nature of Kagoshima 44: 297–302. RF: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0066, Japan (e-mail: k2067912 @kadai.jp). Published online: 13 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-041.pdf

の生育が見られた(図 1-A).地点 B は支流に沿っ てマングローブ林が生育していた.支流を覆うよ うに樹冠がある地点であり,トンネルのような構 造となっている(図 1-B).地点 C は地点 B より も河口に近いため,川幅が広く,干潮時には広い 範囲が干出した(図 1-C).地点 D はマングロー ブ林ではなく,干潟が広がっていた(図 1-D). この地点は地点 1 から 3 までを流れる支流が役勝

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図 1.M は住用マングローブ林の上空写真.写真下側を流れる川が役勝川,上を流れているのが住用川.写真 M 内の A ~ F は 徒歩で調査した地点,G ~ L は景観の撮影のみを行った地点である.なお,写真 M は大成ジオテック株式会社よりご提供頂 いた.

川に合流する地点でもあった(図 1-M).

育していた(図 1-E).地点 F は役勝川由来の支

地点 E は林内から住用川に流れ込んでいる小

流がマングローブ林内を流れ,その支流が河口へ

さな支流に沿って調査を行った(図 1-M).この

と流れる構造となっていた(図 1-M).また支流

地点は地点 A の環境に近いが A よりも支流の幅

は 2 つに分かれており,左側の支流が右側の支流

が小さく,支流から離れた場所には陸上植物が生

よりも大きかった.左側の支流は地点 C に環境

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が近く(図 1-F),右側の支流の上の方は地点 A に近い環境であった.しかし,両支流とも支流か ら離れた場所には陸上植物が生育していた. その他のポイントは住用川や役勝川に沿う形

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林内で採集された希少種 以下に本調査で見られた希少種について,鹿 児島県レッドデータリストのカテゴリとともにま とめる.

で景観の調査を行った.役勝川に沿って行った調 査は地点 G と H であった.地点 G は粒度が荒い

カタシイノミミミガイ(図 2-a)絶滅危惧 I 類

砂質性の干潟が地点 D よりも小さいが広がって

Cassidula crasssiuscula Mousson, 1869

いた(図 1-G).地点 H では基本的にマングロー

マングローブ林内全地点で確認された.この種

ブ植物ではなく,別の陸上性の植物が生育してい

は鹿児島県では奄美大島でしか確認されておら

た.また,このポイントは地盤が高く,崖のよう

ず,マングローブ林の潮上帯の落葉層の中に生息

になっていた(図 1-H).地点 I 付近は地点 G と

していることが多い(鹿児島県環境林務部自然保

H と違い,マングローブ植物が生育していた.ま

護課,2016).環境省は本種を準絶滅危惧として

た他の地点と違い,地面が乾燥している地点にマ

いる.

ングローブ植物が生育していた(図 1-I).地点 K と J は支流側に背の低いメヒルギが,その奥側に

シマカノコガイ(図 2-b)絶滅危惧 II 類

オヒルギが生育していた(図 1-K).また地点 J

Nerita (Vittina) turrita Gmelin, 1791

は地点 H と同じく傾斜が高く,土手のようになっ

マングローブ林内の 1 地点のみで確認された.

ていた(図 1-J) .図 1-L は住用川と役勝川の合流

鹿児島県が分布の北限となっており,近年県本土

付近に位置しており,川により地面が削られ,マ

でも採集されている.生息域はマングローブ干潟

ングローブ植物の根が露出していた.

を中心に生息し,気根の根元や根元の泥状にも見 られる(鹿児島県環境林務部自然保護課,2016).

確認された底生生物

環境省は本種を準絶滅危惧としている.

今回の調査では 21 種の底生生物が確認された (表 1).腹足綱 9,軟甲綱 12 であった.生物調査

ムラクモカノコ(図 2-c)絶滅危惧 II 類

を行った全ての地点において,マングローブ林内

Nerita (Vittoida) variegata Lesson, 1831

外に関わらずチゴガニを確認することができた.

マングローブ林内の 1 地点のみで確認された.本

また,フタバカクガニ Perisesarma bidens とユビ

種は奄美市以南に生息し,鹿児島県が分布の北限

アカベンケイガニ Parasesarma tripectinus はマン

地となっている.生息域は渓流や小規模な滝のす

グローブ林内全域で確認された.逆に,オキナワ

ぐ脇の飛沫で表面が濡れるような岩の上に付着し

ハクセンシオマネキ Uca perplexa とツノメチゴガ

ている(鹿児島県環境林務部自然保護課,2016).

ニ Tmethypocoelis choreutes, コ メ ツ キ ガ ニ Scopimera globose は干潟のみでしか確認すること

ヒロクチカノコ(図 2-d)絶滅危惧 II 類

ができなかった.オキナワアナジャコ Thalassina

Neritina cormucopia (Benson, 1836)

anomala は川沿いで確認されたが,マングローブ

マングローブ林内の複数の地点で確認された.

林内で本種が生息しているとみられる塚が確認さ

本種は本州中部以南の内湾に生息する.三浦湾や

れたためマングローブ林内で見られた種にした.

東京湾では絶滅したとされる.三河湾,瀬戸内海,

今回の調査で鹿児島県の準絶滅危惧は 2 種,絶滅

有明海に分布し,鹿児島県では薩摩地方,大隅地

危惧 I 類は 2 種,絶滅危惧 II 類は 2 種,分布特性

方,奄美大島に分布する.生息域としては河口汽

上重要は 7 種が発見された.

水域の干潟の泥状に生息する.マングローブ林干 潟では落葉や朽ち木に付着していることが多い (鹿児島県環境林務部自然保護課,2016).環境省

299


300

軟甲綱十脚目

腹足綱

カノコガイ ヒメカノコ シマカノコ ムラクモカノコ ヒロクチカノコ カワザンショウガイ科の 1 種 ウミニナ属の 1 種 *¹ ドロアワモチ属の 1 種 カタシイノミミミガイ オキナワアナジャコ アシハラガニ フタバカクガニ クロベンケイガニ ユビアカベンケイガニ チゴガニ ツノメチゴガニ コメツキガニ ヤマトオサガニ オキナワハクセンシオマネキ ヤエヤマシオマネキ アリアケモドキ

和名

Clithon faba (Sowerby, 1836) Clithon oualaniensis (Lesson, 1831) Nerita (Vittina) turrita Gmelin, 1791 Nerita (Vittoida) variegata Lesson, 1831 Neritina cormucopia (Benson, 1836) Assimimeidae indet. gen. and sp. Batillaria spp. Onchidium sp. Cassidula crasssiuscula Mousson, 1869 Thalassina anomala (Herbst, 1804) Helice tridence (de Haan, 1835) Perisesarma bidens (de Haan, 1835) Chiromantes dehaani (H. Milne Edwards, 1853) Parasesarma tripectinus Shen, 1940 Ilyoplax pusilla (de Haan, 1835) Tmethypocoelis choreutes Davie Kosuge, 1995 Scopimera globosa de Haan, 1835 Macrophthalmus (Mareotis) japonicus (De Haan, 1835) Uca perplexa (H. Milne Edwards, 1837) Tubuca dussumieri (H. Milne Edwards, 1852) Deiratonotus cristatus (de Man, 1895)

学名

マングローブ林内 マングローブ外 ( 干潟 ) (A ~ C,E,F,H ~ I) (D,G) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ○ ○ ○ ○ 分類特性上重要 分類特性上重要 分類特性上重要 絶滅危惧

分類特性上重要

絶滅危惧 I 類 分類特性上重要

絶滅危惧 II 類 絶滅危惧 I 類 絶滅危惧 II 類 絶滅危惧 分布特性上重要

分布特性上重要

鹿児島 RDB 評価

準絶滅危惧

準絶滅危惧

準絶滅危惧 準絶滅危惧

環境省 RDB 評価

表 1.住用マングローブ林で出現した生物種リスト.●は生物調査で確認されたのではなく,景観を調査している時に確認された種(G ~ L)を表している.オキナワアナジャコは林外で確認さ *1 れたが,本種が作ったと考えられる塚が林内に存在したため,林内で記録した.全 22 種を確認(腹足綱 9 種,軟甲綱十脚目 12 種). 奄美大島ではウミニナ(Batillaria multiformis)とリュウ キュウウミニナ(Batillaria flectosiphonata)の分布が確認されており,形態での判別は困難.両種が混在している可能性があるため,ここでは spp. とする.「以下の表の環境省の RDB 評環境省 RDB 評価については,NPO 法人野生生物調査協会・NPO 法人エンヴィジョン環境保全事務所が運営する「日本のレッドデータ検索システム」によった.

Nature of Kagoshima Vol. 44 RESEARCH ARTICLES


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図 2.今回採集された希少種とその生息場所.a,カタシイノミミミガイ;b,シマカノコガイ;c,ムラクモカノコ;d,ヒロク チカノコ;e,アリアケモドキ;f,オキナワハクセンシオマネキ;g,ヤエヤマシオマネキ;h,オキナワアナジャコ;i,オ キナワアナジャコが作ったとされる塚.

は本種を準絶滅危惧としている.

息する(鹿児島県環境林務部自然保護課,2016).

アリアケモドキ(図 2-e)準絶滅危惧

ヤエヤマシオマネキ(図 2-g)分類特性上重要

Deiratonotus cristatus (de Man, 1895)

Tubuca dussumieri (H. Milne Edwards, 1852)

複数の地点で採集され,林・山本(2011)でも

マングローブ内の 1 地点のみで確認された.日

確認されている.日本では北海道から沖縄島まで

本での本種分布は主に石垣島と西表島である.内

広く分布する.生息域としては比較的大きな河川

湾の汽水域のマングローブ沼沢地に生息する(鹿

の上流域,底質は砂泥もしくは泥で,ヨシやマン

児島県環境林務部自然保護課,2016).

グローブ域などが付属水域となる場所である(鹿 児島県環境林務部自然保護課,2016).

オキナワアナジャコ(図 2-i)分類特性上重要 Thalassina anomala (Herbst, 1804)

オキナワハクセンシオマネキ(図 2-f)分類特性上重要

今回の調査ではマングローブ林の端で生きた個

Uca perplexa (H. Milne Edwards, 1837)

体が採集され,塚が林内の複数箇所で見られた(図

本調査では干潟域のみで確認された.日本では

2-j).日本での分布域は南西諸島に限定されてお

本種は沖縄列島,八重山列島に分布し,マングロー

り,マングローブ林域では 1 m もの大きな塚を作

ブ林の下側の干潮時に露出する干潟の砂泥底に生

り穴居する.

301


Nature of Kagoshima Vol. 44

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考察

謝辞

今回の調査で確認した生物のうち,腹足綱は

本研究を行うにあたって,野外調査の便宜を

全種,甲殻類は一部の種を除いてマングローブ林

はかってくださった黒潮の森マングローブパーク

内で確認された(表 1).絶滅危惧種であるカタ

に心から感謝申し上げる.また,今回の調査は鹿

シイノミミミガイやシマカノコ,ヒロクチカノコ

児島県自然環境保全協会の研究助成,および文部

は落葉や根元などに生息することから,マング

科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とその保

ローブ植物の構造がこれらの生物に生息場所を提

全に関する研究拠点形成」によって行われた.

供していると示唆される.オキナワハクセンシオ マネキは干潟で,ヤエヤマシオマネキは林内で確 認された.両種は同じシオマネキ属に属するが, 前種は干潟に,後種はマングローブ林沼沢地に生 息する種であるとされている.オキナワアナジャ コは今回マングローブ林の外側で発見されたが, マングローブ林内に図 2-i のように塚が存在した ことから,林内に生息していると推察される.ま た,本種は夜行性であるため昼間の調査では確認 が難しい種であるため,今回は林内で確認するこ とができなかったと考えられる. 今回の調査は見つけ取りが中心であったため, 表在性生物や巣穴からでてくるチゴガニのような 種のみが発見され,二枚貝やゴカイのような埋在 性生物を発見することはできなかった.しかし, 今回の調査だけでも絶滅危惧種や分類特性上重要 種が多く確認されており,かつ,その種の分布域 を明らかにすることができたことは重要であると 考えられる.

302

引用文献 林 真由美・山本智子.2011.北限域のマングローブ林に おける底生生物相:亜熱帯域との比較.Nature of Kagoshima,37:143-147. 三浦知之.2012.奄美大島住用河口域に生息する甲殻類と 貝類の記録.Nature of Kagoshima,38:55-61 鹿児島県環境林務部自然保護課.2016.改訂.鹿児島県の 絶滅のおそれのある野生動植物 動物編 鹿児島県 RED DATA BOOK 2016.一般財団法人鹿児島県環境技 術協会.鹿児島. 松田義弘.2011.マングローブ環境物理学.東海大学出版会. 神奈川. 福岡雅史・南條楠土・佐藤 守・河野裕美.2010.西表島 浦内川のマングローブ域におけるシレナシジミ Geloina coaxans の分布特性.東海大学海洋研究所報告,31:19– 29. 三宅貞祥.1998.原色日本大型甲殻類図鑑(II).保育社.大阪. NPO 法人 野生生物調査協会・NPO 法人エンヴィジョン環境 保全事務所.日本のレッドデータ検索システム.http:// jpnrdb.com/index.html,2018 年 3 月 31 日確認.


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鹿児島県初記録のタチウオ科魚類カンムリダチ 畑 晴陵 ・三木涼平 ・本村浩之 1

1 2

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科

〒 889–0517 宮崎県延岡市赤水 376–6 宮崎大学農学部附属フィールド教育研究センター 延岡フィールド(水産実験所) 3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに タチウオ科魚類 Trichiuridae は日本近海に 13 種 が分布することが知られ(中坊・土居内,2013), そのうち鹿児島県内からはナガユメタチモドキ Assurger anzac (Alexander, 1917),ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatum Gill, 1863,ヒレナガユメ タチ E. poeyi Günter, 1887, ヒレナガオオメユメタ チ E. macrophthalmum Chakraborty, Yoshino and Iwatsuki, 2006,タチウオ Trichiurus japonicus Temminck and Schlegel, 1844,オキナワオオタチ Trichiurus sp. 1 およびテンジクタチ Trichiurus sp. 2 の少なくとも 7 種が標本に基づき報告されている (中坊・土居内,2013;遠藤・片山,2014;畑ほか, 2015, 2016; Motomura, 2016; 畑,2017; 小 枝, 2018). 南九州における魚類相調査の過程で,1 個体の カ ン ム リ ダ チ Tentoriceps cristatus (Klunzinger, 1884) が薩摩半島西岸に位置する笠沙沖から採集 された.同標本は本種の鹿児島県における標本に 基づく初めての記録となるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は崎山ほか(2011)にしたがっ Hata, H., R. Miki and H. Motomura. 2018. First record of Tentoriceps cristatus (Perciformes: Trichiuridae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 303–306. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 13 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-042.pdf

た.標準体長は体長と表記し,体各部の計測はデ ジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった. 生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児 島県産標本(KAUM–I. 300033)のカラー写真に 基づく.標本の作製,登録,撮影,および固定方 法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標 本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されてお り,上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに 登録されている.本報告中で用いられている研究 機 関 略 号 は 以 下 の 通 り.FAKU - 京 都 大 学; KAUM -鹿児島大学総合研究博物館;SNFR - 西海区水産研究所. 結果と考察 Tentoriceps cristatus (Klunzinger, 1884) カンムリダチ (Fig. 1) 標本 KAUM–I. 300033,全長 753.0 mm,鹿児 島県南さつま市笠沙町片浦高崎山地先 (31°26′00″N, 130°10′05″E),水深 36 m,2017 年 5 月 17 日,定置網,三木涼平・緒方悠輝也. 記載 背鰭鰭条数 145;胸鰭軟条数 11;腹鰭棘 数 1;鰓耙数 5 + 12. 体各部測定値の全長に対する割合(%):臀鰭 前長 36.0;頭長 9.3;吻長 3.3;眼後長 4.4;前鰓 蓋骨長 1.0;上顎長 4.4;胸鰭基底部における体高 4.5;胸鰭基底における体幅 1.2;肛門における体 高 5.5;肛門における体幅 1.3;背鰭第 1 鰭条長 1.7; 背鰭前長 6.6;背鰭基底長 85.3;眼窩径 1.6;眼下 高 0.6;眼隔域幅 1.0;肛門における体高(側線上 方)3.4;肛門における体高(側線下方)2.2;胸 鰭前長 8.9;胸鰭基底長 0.6.

303


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Lateral views of body (upper photo) and head (lower photo) of fresh specimen of Tentoriceps cristatus (KAUM–I. 300033, 753.0 mm total length, off Kasasa, west coast of Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan).

体は細長く,強く側扁し,リボン状を呈する.

あったが,起部は背鰭第 47 鰭条直下に位置する.

体背縁は下顎先端から背鰭起部にかけて急に上昇

臀鰭第 1 鰭条は腹鰭と同様に著しく薄い円盤状を

する.頭部背縁は丸みを帯び,わずかに前上方に

呈する.尾鰭はなく,尾部は糸状に伸長する.肛

張り出す.体背縁は背鰭基底部では直線状となる

門は臀鰭起部前方に位置し,前後方向に長い楕円

が,背鰭基底後部から尾部にかけて緩やかに下降

形.鰓蓋と前鰓蓋骨後縁はともに円滑.鰓蓋後縁

する.体腹縁はほぼ直線状であるが,臀鰭基底後

はくぼまず,丸みを帯びる.前鰓蓋骨は皮下に埋

部から尾部にかけて緩やかに上昇する.背鰭起部

没する.眼と瞳孔はともに正円形.鰓耙は短い針

は前鰓蓋骨後縁よりも前方,眼の後端よりも後方

状で,先端は尖る.擬鰓を有する.鼻孔は 1 対で

に位置する.背鰭背縁は起部から第 10 鰭条にか

背腹方向に長い楕円形を呈し,眼の前方に位置す

けて緩やかに上昇し,その後は体背縁とほぼ平行

る.吻端は著しく尖り,下顎は上顎よりも前方に

となり,第 100 鰭条付近から緩やかに下降する.

突出する.口は端位で,口裂は大きく,上顎後端

胸鰭基底先端は背鰭 5 鰭条起部直上に位置し,基

は瞳孔中央直下に達する.上顎前部の左側には倒

底後端は背鰭第 6 鰭条起部直下に位置する.胸鰭

すことのできない 2 本の牙状歯があり,これらは

は短く,その上端は側線に達しない.胸鰭前縁は

後方に緩やかに湾曲する.上顎側部,口蓋骨,お

前方に膨らみ,後縁は直線状.胸鰭背縁は直線状

よび下顎側部には鋭い円錐歯が 1 列に並ぶ.鋤骨

を呈し,第 1 軟条後端から緩やかに下降する.腹

は無歯.側線は完全で,鰓蓋上部後方から尾鰭基

鰭は背腹方向に著しく薄い鱗状を呈し,その後縁

底にかけてほぼ直走する.

は滑らか.左右の腹鰭は互いに近接する.腹鰭起

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色.背

部は背鰭第 10 鰭条直下に位置する.臀鰭鰭条は

鰭には黒色色素胞が密に存在し,一様に黒色を呈

ほとんどが皮下に埋没しており,計数は不可能で

する.胸鰭は一様に透明を呈し,各軟条に黒色色

304


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素胞が並ぶ.瞳孔は青みがかった黒色で,虹彩は

ら,カンムリダチであると思われる.彼の報告し

金色.

た標本の産地は明記されておらず,同標本は焼失

分布 アフリカ東岸からタスマン海,南日本

し て い る( 千 田,1976). し か し, 蒲 原(1940)

に か け て の イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る

はオシロイダチの当時の日本国内における分布域

(Senta, 1975;Nakamura and Parin, 1993, 2001;中坊・

を朝鮮半島西岸のほかに,従来の文献にみられな

土居内,2013;Okamoto, 2017).日本国内では相

い山口県沖を加えており,千田(1976)は蒲原

模湾から高知県以布利にかけての太平洋沿岸,東

(1940)の報告が山口県産の標本に基づいておこ

シナ海南部から記録されており(中坊・土居内,

なわれた可能性が高いとしている.また,岩井・

2013),山口県沿岸からのものと思われる記録も

堀田(1950)は徳島県美波町日和佐沖から得られ

ある(蒲原,1940;千田,1976).さらに,本研

たタチウオ科魚類 2 個体(全長 863.5, 858.0 mm)

究により,鹿児島県薩摩半島西岸における分布も

の学名を Trichiurus muticus,和名をオシロイダチ

確認された.

として報告した.しかし,彼らのオシロイダチは

備考 笠沙産の標本は尾鰭がなく,尾部が糸

図示されたものを見る限り,頭部背縁が丸みを帯

状に伸長すること,側線が胸鰭上方で下降しない

び前上方に張り出すこと,鱗状の腹鰭が背鰭第

こと,胸鰭が短く,その上端が側線に達しないこ

11 と第 12 軟条起部の間に位置することから,カ

と,鰓蓋後縁はくぼまず,丸みを帯びること,鱗

ンムリダチであると思われる.

状の腹鰭をそなえ,背鰭第 10 軟条起部直下に位

Senta (1975) は南シナ海とアンダマン海から得

置すること,頭部背縁が丸みを帯び,前上方に張

られた 21 個体の Tentoriceps cristatus を詳細に報

り出すことなどが Nakamura and Parin (1993, 2001)

告すると同時に,本種に対して和名カンムリダチ

や 中 坊・ 土 居 内(2013) の 報 告 し た Tentoriceps

を提唱した.千田(1976)はこれら 2 種を比較し,

cristatus の標徴とよく一致したため,本種と同定

Trichiurus muticus と Tentoriceps cristatus に対する

された.なお,カンムリダチは本種 1 種のみでカ

和名をそれぞれオシロイダチとカンムリダチにす

ンムリダチ属 Tentoriceps を形成する(Nakamura

べきであるとした.なお,脊椎骨数などが既知種

and Parin, 1993, 2001).

と一致しないことから,近年では日本近海から得

カンムリダチは鰓蓋後縁がくぼまず,丸みを

られるオシロイダチを未記載種 Eupleurogrammus

帯びること,尾鰭がなく,尾部が糸状に伸長する

sp. とする見解が多い(時村ほか,1995;山田ほか,

こと,側線が胸鰭上方で下降しないこと,胸鰭が

2007;中坊・土居内,2013).その後,山田(1991)

短く,その上端が側線に達しないことなどにより,

は神奈川県三浦市三戸から得られた全長 618 mm

渤海,黄海,および東シナ海に分布するとされる

のカンムリダチ 1 個体を報告しており,これが本

オシロイダチ Eupleurogrammus sp. に類似するが

種の分布記録の北限と思われる.また,鳥居(2001)

(中坊・土居内,2013),頭部背縁が丸みを帯び前

は高知県土佐清水市以布利から得られた全長

上方に張り出すこと(オシロイダチでは頭部背縁

64.1–85.5 cm の カ ン ム リ ダ チ 3 個 体(FAKU

は直線状),鱗状の腹鰭が背鰭第 9–12 軟条起部直

68619, 69617, 73462)を報告し,山田ほか(2007)

下に位置する(第 15–17 軟条起部直下に位置する)

は東シナ海南部から得られた本種 3 個体(SNFR

ことにより,容易に識別される(Senta, 1975;千田,

159, 1096, 1097)を報告した.

1976;Nakamura and Parin, 1993, 2001; 中 坊・ 土

したがって,これまで知られていた日本国内

居内,2013).しかし,これら 2 種はかつて混同

におけるカンムリダチの分布域は「分布」の項で

されていたものと思われ,蒲原(1940)は全長

記述したとおりであり,本研究の記載標本は鹿児

700–900 mm のタチウオ科魚類の標本の学名を

島県における本種の標本に基づく初めての記録と

Trichiurus muticus,和名をオシロイダチとして報

なる.カンムリダチの鹿児島県での採集記録は,

告したが,この標本は頭部背縁が膨出することか

これまでの国内における本種の分布の空白域を埋

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Nature of Kagoshima Vol. 44

めるものであり,本種が相模湾から東シナ海にか けて連続的に広く分布することを示唆する. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集に 際しては伊東正英氏(鹿児島県南さつま市),笠 沙町漁業協同組合の関係者の皆さま,ならびに緒 方悠輝也氏(宮崎大学)には多大なご協力を頂い た.原口百合子氏をはじめとする鹿児島大学総合 研究博物館ボランティアの皆さまと同博物館魚類 分類学研究室の皆さまには標本の作成・登録作業 などを手伝って頂いた.これらの方々に謹んで感 謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究 博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ クト」の一環として行われた.本研究の一部は笹 川科学研究助成金(28-745, 29-737),藤原ナチュ ラルヒストリー振興財団,宮崎大学平成 29 年度 戦略重点経費,JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652), JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物 館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関 する研究プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩 南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究 拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研究環境 (生物多様性プロジェクト)学長裁量経費「奄美 群島における生態系保全研究の推進」の援助を受 けた. 引用文献 遠藤広光・片山英里.2014.P. 580.本村浩之・松浦啓一(編). 奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島大学総合 研究博物館,鹿児島,国立科学博物館,つくば. 畑 晴陵.2017.タチウオ科.Pp. 260–261.岩坪洸樹・本 村浩之(編).火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児 島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 畑 晴陵・原口百合子・本村浩之.2015.鹿児島湾から得 られたタチウオ科魚類ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatum.Nature of Kagoshima, 41: 157–16. 畑 晴陵・高山真由美・本村浩之.2016.鹿児島県から得 られたタチウオ科魚類ヒレナガユメタチ Evoxymetopon poeyi.Nature of Kagoshima, 42: 321–325. 岩井 保・堀田秀之.1950.本邦太平洋岸産未記録魚オシ ロイダチに就いて.徳島県水産試験場事業報告,1950: 23–26.

306

RESEARCH ARTICLES 蒲原稔治.1940.日本動物分類,第 15 巻,第 2 巻,第 5 号. 魚綱・真口亜綱・硬骨魚目・棘鰭亜目・鱸型族・鯖群(鰺 型類ヲ除ク).三省堂,東京.vii + 225 pp. 小枝圭太.2018.タチウオ科.Pp. 423–425.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編) .黒潮あたる鹿児島 の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち.鹿児島大学 総合研究博物館,鹿児島. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. 2016. The ichthyofauna of Yoron-jima Island in the southern extremity of the Amami Islands, Japan, including comparisons with similar nearby regions. Pp. 71–78 in Kawai, K., Terada, R. and Kuwamura, S. (eds.) The Amami Islands: Culture, Society, Industry and Nature. Kagoshima University Research Center for the Pacific Islands, Kagoshima. 中坊徹次・土居内 龍.2013.タチウオ科.Pp. 1644–1647, 2221–2224.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Nakamura, I. and Parin, N. 1993. FAO species catalogue. Snake mackerels and cutlassfishes of the world (families Gempylidae and Trichiuridae). FAO Fisheries Synopsis, 125 (15): i– viii + 1–136. Nakamura, I. and Parin, N. Trichiuridae, cutlassfishes. Pp. 3709– 3719 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 6. Bony fishes part 4 (Labridae to Latimeriidae), estuarine crocodiles, sea turtles, sea snakes and marine mammals. FAO, Rome. Okamoto, M. 2017. Tentoriceps cristatus (Klunzinger 1884). P. 210. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 崎 山 直 夫・ 瀬 能 宏・ 御 宿 昭 彦・ 神 応 義 夫・ 伊 藤 寿 茂. 2011.相模湾初記録のナルトビエイ・ヒメイトマキエ イ(エイ目トビエイ科),および稀種ユメタチモドキ(ス ズキ目タチウオ科)の同湾からの確実な記録について. 神奈川県自然誌資料,32: 101–108. 千田哲資.1976.“ オシロイダチ Trichiurus muticus” として 日本より報告された魚の種名および和名について.魚 類学雑誌,23 (2): 109–113. Senta, T. 1975. Redescription of trichiurid fish Tentoriceps cristatus and its occurence in the South China Sea and the Staraits of Malacca. Japanese Journal of Ichthyology, 21 (4): 175–182. 時村宗春・山田梅芳・入江隆彦.1995.東・黄海及び隣接 海域のタチウオ類の種と分布についての見解.西海区 水産研究所ニュース,80: 12–14. 鳥居高志.2001.カンムリダチ.P. 257.中坊徹次・町田吉彦・ 山岡耕作・西田清徳(編).以布利 黒潮の魚.海遊館, 大阪. 山田和彦,2011.神奈川県三崎魚市場に水揚げされた魚類 II.神奈川自然誌資料,12: 21–28. 山田梅芳・時村宗治・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・ 黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.1262 pp.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

薩摩半島から得られた鹿児島県初記録のクロタチカマス科魚類フウライカマス 畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに スズキ目クロタチカマス科のフウライカマス Nealotus tripes Johnson, 1865 は世界中の暖海に広 く分布する.一般的に体長 15 cm 程度,最大でも 25 cm の小型種であり,ハダカイワシ科魚類など の小型魚や,軟体類,甲殻類などを餌とする.日 周鉛直移動をおこなうことが知られ,昼間は水深 679 m 以浅の中深層にいるが,夜間には表層付近 にまで上昇する(Nakamura and Parin, 1993, 2001; Balanov et al., 2009). 分布域が非常に広いにもかかわらず,フウラ イカマスはこれまで鹿児島県において一切記録さ れていなかった.しかし,鹿児島県における魚類 相調査の過程で,1 個体の本種が薩摩半島西岸に 位置する笠沙町において採集された.本標本はフ ウライカマスの鹿児島県における標本に基づく初 めての記録となるため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Nakamura et al. (1983) にした がった.標準体長は体長と表記し,体各部の計測 はノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.フウ ライカマスの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮 Hata, H., M. Itou and H. Motomura. 2018. First record of Nealotus tripes (Perciformes: Gempylidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 307–310. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 13 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-043.pdf

影された鹿児島県産標本(KAUM–I. 3223)のカ ラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,お よび固定方法は本村(2009)に準拠した.本報告 に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に保 管されており,上記の生鮮時の写真は同館のデー タベースに登録されている.本報告中で用いられ ている研究機関略号は以下の通り:BSKU(高知 大学理学部海洋生物学教室);KAUM(鹿児島大 学総合研究博物館);NSMT(国立科学博物館); OMNH(大阪市立自然史博物館); WMNH-PISWW(和歌山県立自然博物館池田魚類コレクショ ン);YCM(横須賀市自然・人文博物館). 結果と考察 Nealotus tripes Johnson, 1865 フウライカマス (Fig. 1) 標本 KAUM–I. 3223,体長 52.3 mm,鹿児島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 貝 浜(31°24′37″N, 130°11′32″E),水深 0.5 m,2007 年 3 月 17 日,手 網,伊東正英. 記載 背鰭 21 棘 17 軟条;体背縁上の小離鰭 2 個;臀鰭 2 棘 18 軟条;体腹縁上の小離鰭 2 個; 胸鰭 13 軟条;腹鰭 1 棘 1 軟条. 体各部の体長に対する割合(%):28.6;眼窩 径 7.4; 眼 隔 域 幅 4.5; 腹 鰭 起 部 に お け る 体 高 11.3;臀鰭第 1 軟条起部における体高 9.2;胸鰭 長 12.2;吻長 9.7;眼後長 10.1;上顎長 12.2;眼 下 骨 幅 0.8; 第 1 背 鰭 前 長 25.9; 第 2 背 鰭 前 長 75.4;第 1 背鰭基底長 51.3;第 2 背鰭基底長(第 2 背鰭起部から背鰭後方の小離鰭基底後端までの 距離)19.4;胸鰭前長 29.5;腹鰭前長 30.2;臀鰭

307


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Nealotus tripes. KAUM–I. 3223, 52.3 mm standard length, Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan (upper: frozen after collection; lower: directly after collection, living condition).

前長(吻端から臀鰭第 1 軟条起部までの長さ)

起部は背鰭第 19 棘起部よりもわずかに後方,臀

71.5;肛門前長 69.6;腹部長 41.8;尾部長 27.5;

鰭第 1 軟条起部は背鰭第 2 軟条起部直下にそれぞ

尾柄長 5.6;尾柄高 3.5.

れ位置する.背鰭と臀鰭の後方にそれぞれ 2 本ず

体は前後方向に長く,強く側扁し,帯状に近い.

つ遊離軟条をそなえる.尾鰭は二叉型.吻端は尖

体背縁は吻端から眼の中央直上にかけて緩やかに

り,下顎は上顎よりも突出する.眼と瞳孔はとも

上昇し.そこから背鰭第 1 軟条起部にかけては体

に正円形.鼻孔は 2 対で,眼の前縁前方に位置す

軸とほぼ平行となったのち,尾鰭基底上端にかけ

る.両鼻孔はともに正円形に近い形状を呈し,後

て緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から背鰭

鼻孔は前鼻孔に比べてわずかに大きい.肛門は臀

起部直下にかけて緩やかに下降し,そこから臀鰭

鰭第 1 起部前方に位置し,前後方向に長い楕円形.

基底後端にかけては体軸とほぼ平行となったの

側線は 1 本で,鰓蓋上方から始まり,背鰭第 5 棘

ち,尾鰭基底下端にかけて極めて緩やかに上昇す

起部直下付近で緩やかに下降し,そこから体側中

る.体腹縁は滑らかで,骨質隆起を欠く.尾柄部

央付近を尾柄中央にかけて直走する.体表は一様

には隆起線を欠く.背鰭起部は鰓蓋後端よりも前

に前後方向に長い皮褶に被われる.口裂は大きく,

方に位置する.背鰭背縁は起部から第 2 棘後端に

上顎後端は露出し,瞳孔先端直下にわずかに達し

かけて上昇し,そこから第 16 棘後端にかけては

ない.上顎後縁は前方に 2 カ所で凹む.鰓蓋と前

体軸とほぼ平行となり,そこから第 21 棘後端に

鰓蓋骨の後縁はともに円滑.鰓耙は短い針状を呈

かけて緩やかに下降したのち,第 1 軟条後端にか

し,鰓弁よりも短い.両顎の側部と口蓋骨には 1

けて再び上昇し,そこから緩やかに下降する.胸

列に鋭い円錐歯が並ぶ.上顎前部には左右で 3 対

鰭基底上端は背鰭第 2 棘起部直下に,胸鰭基底下

の犬歯状歯がある.鋤骨には左右で 1 対の円錐歯

端は背鰭第 3 棘起部よりもわずかに前方にそれぞ

がある.舌上は無歯.

れ位置する.胸鰭の上縁,下縁,および後縁はい

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色を呈

ずれも直線に近い形状を呈する.腹鰭起部は胸鰭

し,体背面は黒みがかる.各鰭は白色半透明を呈

基底下端直下に位置する.たたんだ腹鰭の後端は

し,尾鰭は両葉の中央部に各軟条に沿って黒色色

肛門に達しない.臀鰭の 2 棘は軟条部から遊離し,

素胞が分布する.虹彩は銀色.両顎の先端は黒色.

強大であり,前方のものの方が長い.臀鰭第 1 棘

308

分布 世界中の暖海に広く分布する(藤井,


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

1983; Nakamura and Parin, 1993, 2001;中坊・土居

告した(今村,1997).山田・工藤(1998)は神

内,2013) .日本国内においては青森県下北半島

奈川県三浦市三戸から得られた全長 234 mm のフ

東方から熊野灘にかけての太平洋沿岸,兵庫県浜

ウライカマス 1 個体(YCM-P35346)を報告し,

坂,山口県日本海沖,対馬海峡,および沖縄舟状

松 崎・ 小 沢(1998) は 北 緯 27°59′05″ か ら 北 緯

海盆から記録されており(西川,1987; Balanov et

19°58′08″ にかけての琉球列島から南シナ海にか

al., 2009;中坊・土居内,2013),本研究によって

けての海域から得られた体長 2.2–16.5 mm の本種

新たに鹿児島県薩摩半島西岸における分布も確認

の稚魚の形態を詳細に報告した.北川ほか(2008)

された.備考にて詳述するが,土佐湾における分

は東北地方太平洋沿岸から得られたフウライカマ

布は今のところ不明である.

ス 1 個体を報告し,Balanov et al. (2009) は青森県

備考 笠沙産の標本は,側線が強く湾曲せず,

下北半島東方から岩手県南部東方にかけての水深

ほぼ直走すること,臀鰭第 1 軟条起部前方に顕著

25–679 m から得られた 11 個体のフウライカマス

な 2 棘をそなえること,口蓋骨に歯があること,

を報告した.池田・中坊(2015)は和歌山県みな

腹鰭が 1 棘 1 軟条からなること,側線が 1 本であ

べ町と白浜町から得られた計 4 個体[WMNH-PIS-

ること,背鰭棘が 21 本であること,および体腹

WW 21903 (1–4)]の本種を報告した.

縁 に 骨 質 隆 起 を 欠 く こ と な ど が Nakamura and

なお,Shinohara et al. (2001) は岡田・松原(1938)

Parin (1993, 2001) や中坊・土居内(2013)の報告

を引用し,本種を土佐湾に分布するとした.岡田・

した Nealotus tripes の標徴とよく一致したため,

松原(1938)はフウライカマスの分布域に高知沖

本種に同定された.なお,Nealotus 属は本種 1 種

を含めているが,その根拠となる標本や引用元は

のみからなる(Nakamura and Parin, 1993).

明示されていない.また,松原(1955)は本種の

Nealotus tripes を日本から初めて報告したのは

分布域に高知県を含めておらず,高知県の魚類相

Smith and Pope (1906) である.彼らは三重県浜島

を報告した Kamohara (1958, 1964) においても本

町沖から得られた全長 240 mm の本種 1 個体を報

種は含まれていない.本研究においても,高知県

告した.Jordan et al. (1913) は本種に対し和名フウ

におけるフウライカマスの標本に基づく記録は見

ラ イ カ マ ス を 提 唱 し た. そ の 後,Jordan and

つからず,本種の高知県における分布は不明であ

Hubbs (1925) は神奈川県三崎周辺から得られたフ

る.

ウライカマス 1 個体を報告した.また,田中(1950)

フウライカマスの日本国内における分布は上

は山口県日本海沖見島近海から得られたフウライ

述の通りであり,鹿児島県内においては本土,島

カ マ ス 1 個 体 を 報 告 し た.Matsubara and Iwai

嶼域のいずれにおいても記録されていない.した

(1952) は三重県尾鷲沖から得られた体長 199 mm

がって,本研究の記載標本は鹿児島県におけるフ

のフウライカマス 1 個体を報告し,町田(1985)

ウライカマスの初めての記録となる.なお,「は

は沖縄舟状海盆の水深 515–713 m から得られた体

じめに」の項でも触れたとおり,フウライカマス

長 190–193 mm の 本 種 2 個 体(BSKU 28450,

は昼間には水深 679 m までの中深層におり,夜間

29878)を報告した.西川(1987)は対馬海峡か

は表層付近に移動することが知られる(Nakamura

ら得られた体長 25 mm のフウライカマスの稚魚

and Parin, 1993; Balanov et al., 2009).本研究の記

を報告した.鈴木・宇野(1993),鈴木・細川(1994),

載標本は夜間,漁港の水面付近において得られて

鈴 木 ほ か(2000), お よ び Shinohara et al. (2011)

おり,日周鉛直運動の中で表層付近に移動した結

は兵庫県浜坂町釜屋沖に設置された定置網によっ

果,漁港に出現したものと思われる.また,記載

て得られたフウライカマス 1 個体(OMNH-P2584,

標本は漁港の電気照明の照射する海面において採

体長 127.8 mm)を報告した.Shinohara et al. (1996)

集されており,フウライカマスに正の走光性があ

は福島県沖から得られた体長 20.2–21.1 cm のフウ

ることが示唆される.

ライカマス 5 個体(NSMT-P 48125, 48203)を報

309


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

謝辞

Matsubara, K. and Iwai, T. 1952. Studies on some Japanese fishes of the family Gempylidae. Pacific Science, 6: 193–212.

本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学総

松崎加奈恵・小澤貴和.1998.フウライカマス仔稚魚の 摂餌関連形態の発達と摂餌生態.魚類学雑誌,45 (2): 77–85.

合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類学 研究室の皆さまには適切な助言を頂き,謹んで感 謝の意を表する.本研究は鹿児島大学総合研究博 物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク ト」の一環としておこなわれた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),笹川科学研究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基盤 形成型,国立科学博物館「日本の生物多様性ホッ トスポットの構造に関する研究プロジェクト」, 文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とそ の保全に関する教育研究拠点整備」,および鹿児 島大学重点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロ ジェクト)学長裁量経費の援助を受けた. 引用文献 Balanov, A. A., Moku, M., Kawaguchi, K. and Shinohara, G. 2009. Fishes collected by commercial size midwater trawls from the Pacific coast off northern Japan. National Museum of Nature and Science Monographs, 39: 655–681. 藤 井 英 一.1983. フ ウ ラ イ カ マ ス Nealotus tripes Johnson, 1865. P. 410.上野輝彌・松浦啓一・藤井英一(編),ス リナム・ギアナ沖の魚類.海洋水産資源開発センター, 東京. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野,597 pp. 今村 央.1997.東北太平洋岸の魚類相 ― スズキ目.東北 底魚研究,17: 55–68. Jordan, D. S. and Hubbs C. L. 1925. Record of fishes obtained by David Starr Jordan in Japan, 1922. Memoirs of the Carnegie Museum, 10 (2): 93–346. Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. 北川大二・今村 央・後藤友明・石戸芳男・藤原邦浩・上 田祐司.2008.東北フィールド魚類図鑑.東海大学出 版会,秦野.xvii + 140 pp. 町 田 吉 彦.1985. フ ウ ラ イ カ マ ス Nealotus tripes Johnson. Pp. 537–538, 702.岡村 収(編),沖縄舟状海盆及び周 辺海域の魚類 II.日本水産資源保護協会,東京. 松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.Part I–III.石崎書店, 東京.xi + 1605 + pls. 135 pp.

310

本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) 中 坊 徹 次・ 土 居 内 龍.2013. ク ロ タ チ カ マ ス 科.Pp. 1640–1643, 2221.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全 種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Nakamura, I., Fujii, E. & Arai, T. 1983. The gempylid, Nesiarchus nasutus from Japan and the Sulu Sea. Japanese Journal of Ichthyology, 29: 408–415. Nakamura, I. and Parin, N. V. 1993. FAO species catalogue. Vol. 15. Snake mackerels and cutlassfishes of the world (families Gempylidae and Trichiuridae). FAO Fisheries Synopsis, 125 (15): i–vii + 1–136. Nakamura, I. and Parin, N. V. 2001. Gempylidae snake mackerels. Pp. 3698–3708 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 6, no. 4. FAO, Rome. 西川康夫.1987.九州北西沿岸から初記録のカゴカマスと フウライカマスの稚魚.遠洋水産研究所研究報告,24: 155–158. 岡田弥一郎・松原喜代松.1938,日本産魚類検索.三省堂, 東京.xi + 584 pp. Shinohara, G., Endo, H., Matsuura, K. 1996. Deep-sea water fishes collected from the Pacific coast of northern Honshu, Japan. Memoirs of the Natural Science Museum, 29: 153–185. Shinohara, G., Endo, H., Matsuura, K., Machida, Y. and Honda, H. 2001. Annotated checklist of the deepwater fishes from fishes from Tosa Bay. Monographs of the National Science Museum Tokyo, 20: 283–343. Shinohara, G., Shirai, S. M., Nazarkin, M. V. and Yabe, M. 2011. Preliminary list of the deep-sea fishes of the Sea of Japan. Bulletin of National Museum Nature and Science, Series A (Zoology), 37 (1): 35–62. Smith, H. M. and Pope, T. E. B. 1906. List of fishes collected in Japan in 1903, with descriptions of new genera and species. Proceedings of the U. S. National Museum, 31 (1489): 459–499. 鈴木寿之・細川正富.1994.山陰但馬で採集・確認された 魚類の日本海初記録種.伊豆海洋公園通信,5 (4): 2–6. 鈴木寿之・細川正富・波戸岡清峰.2000.兵庫県産魚類標 本目録.大阪市立自然史博物館収蔵資料目録,第 32 集. 大阪市立自然史博物館,大阪.143 pp. 鈴木寿之・宇野政美.1993.魚類図鑑 浜坂町の沿岸魚. 浜坂町,浜坂.34 pp. 田中市郎.1950.珍魚の誉.62 pp.萩文化協会,萩. 山田和彦・工藤孝浩.1998.神奈川県三崎魚市場に水揚げ された魚類・VII.神奈川自然誌資料,19: 5–11.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

種子島近海から得られたシマガツオ科魚類リュウグウノヒメの記録 畑 晴陵 ・高山真由美 ・本村浩之 1

1

2

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

シマガツオ科魚類 Bramidae は日本近海から 6

計数・計測方法は Moteki et al. (1995) にしたがっ

属 10 種が知られ(波戸岡・甲斐,2013; Hibino et

た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを

al., 2014), そ の う ち ツ ル ギ エ チ オ ピ ア Taractes

用いて 0.1 mm までおこなった.各種の生鮮時の

rubescens (Jordan and Evermann, 1887) を 除 く 9 種

体色の記載は,固定前に撮影された鹿児島県産標

が鹿児島県から報告されている(畑ほか,2015;

本のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮

畑・本村,2016;畑,2017, 2018).また,本科魚

影,および固定方法は本村(2009)に準拠した.

類の 1 種,リュウグウノヒメ Pterycombus petersii

本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物

(Hilgendorf, 1878) は漁獲されることが極めて稀な

館(KAUM)に保管されており,上記の生鮮時

魚として知られる(Last and Moteki, 2001).本種

の写真は同館のデータベースに登録されている.

は幼魚期に極めて大きな背鰭と臀鰭をもち(波戸 岡・甲斐,2013),その特徴的な形態から日本近 海において漁獲されると,報告されることも多く (例えば田中,1950;水沢,1964;本間・杉原,

結果と考察 Pterycombus petersii (Hilgendorf, 1878) リュウグウノヒメ (Fig. 1)

1964),水族館において飼育が試みられたことも ある(冨山,2013).しかし,鹿児島県における

標 本 KAUM–I. 88482, 体 長 206.9 mm, 尾 叉

記録は極めて少なく,薩摩半島西岸(南さつま市

長 234.9 mm,全長 261.1 mm,鹿児島県大隅諸島

笠沙町沖)と大隅半島東岸(内之浦湾)からのも

種子島北方(西之表市国上喜志鹿崎と肝属郡南大

のに限られ(畑ほか,2015;畑,2018),薩南諸

隅町佐多辺塚辺塚の間;30°56′N, 130°57′E),水

島における記録はなかった.

深 130 m, 2016 年 7 月 20 日,延縄,漁船第三鳳洋

2016 年 7 月 20 日,鹿児島県大隅諸島種子島北 方から延縄により,1 個体のリュウグウノヒメが

丸が漁獲. 記 載 背 鰭 条 数 48; 臀 鰭 条 数 40; 胸 鰭 条 数

漁獲された.本標本は薩南諸島における本種の初

20;腹鰭条数 I, 5;縦列鱗数 49;側線上方横列鱗

めての記録となるため,ここに報告する.

数 7;側線下方横列鱗数 12. 体各部測定値の体長に対する割合(%):体高

Hata, H., M. Takayama and H. Motomura. 2018. First record of Pterycombus petersii (Perciformes: Bramidae) from Tanega-shima island, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 311–314. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 13 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-044.pdf

40.3;体幅 10.7;頭幅 11.3;背鰭前長 18.7;臀鰭 前長 32.2;腹鰭前長 26.0;胸鰭前長 24.6;背鰭基 底長 76.7;臀鰭基底長 70.0;背鰭起部から胸鰭基 底上端までの長さ 24.2;胸鰭基底長 4.5;胸鰭基 底 上 端 か ら 臀 鰭 起 部 ま で の 長 さ 16.6; 尾 柄 長 11.4;尾柄高 6.2;頭長 24.5;背鰭第 5 軟条長 5.3; 臀鰭第 5 軟条長 76.4;後ろから数えて 5 番目の背

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方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は臀鰭起部に 達しない.胸鰭基底上端は背鰭第 8 軟条起部直下, 眼の下端よりも下方に位置する.胸鰭基底下端は 背鰭第 9 軟条起部直下,口を閉じたときの主上顎 骨下端よりも下方に位置する.胸鰭後縁は丸みを 帯び,後端は背鰭第 23 軟条起部直下に達する. 胸鰭上縁,後縁,および下縁はいずれも直線状に 近い.臀鰭起部は胸鰭上端と背鰭第 6 軟条起部よ りもわずかに後方に位置する.臀鰭基底後端は背 鰭基底後端よりもわずかに後方に位置する.臀鰭 腹縁は起部から第 4 軟条後端にかけて急に下降 し,そこから最後軟条である第 40 軟条後端にか けて緩やかに下降する.臀鰭最長軟条は第 4 軟条 で,体高よりも長い.尾鰭は二叉型を呈し,深く 湾入する.尾鰭は両葉の中央部まで被鱗する.尾 鰭を除き,各鰭は被鱗しない.体側鱗は背腹方向 に長い円鱗で,剥がれにくい.胸鰭よりも後方の Fig. 1. Fresh specimen of Pterycombus petersii. KAUM–I. 88482, 206.9 mm standard length, north of Tanega-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

各体側鱗の中央部に前後方向に長い隆起線があ る.背鰭と臀鰭の基底部には前後方向に長い鞘状 鱗が並ぶ.背鰭と臀鰭は左右の鞘状鱗の間にたた むことができる.吻部と下顎は無鱗.肛門は正円 形に近い形状を呈し,臀鰭起部前方に位置する.

鰭軟条長 13.7;後ろから数えて 5 番目の臀鰭軟条

眼と瞳孔はともに正円形.鼻孔は 2 対で眼の前方

長 13.5;尾鰭上葉長 29.3;尾鰭賀陽町 29.6;尾鰭

に位置し,互いに近接する.前鼻孔は正円形,後

中央軟条長 13.4.

鼻孔は背腹方向に長い裂孔状をそれぞれ呈する.

体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長

口は大きく,上顎後端は瞳孔先端よりも後方に達

24.5;水平眼窩径 31.6;最大眼窩径 31.9;眼隔域

する.下顎先端は上顎先端よりも突出する.上顎

幅 25.1;上顎長 53.3.

には鋭い円錐形の歯が側部で 1 列に,先端付近で

体は卵型で強く側扁し,体高は背鰭第 9 軟条 起部で最大.体背縁は吻端から背鰭第 12 軟条起

2 列に並ぶ.下顎には鋭い円錐歯が側部で 2 列に, 先端付近で数列に並ぶ.

部付近にかけて上昇し,そこから尾鰭基底上端に

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色.背

かけて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から

鰭と臀鰭の各軟条は白色.背鰭と臀鰭の各軟条間

臀鰭起部付近にかけて下降し,そこから尾鰭基底

の鰭膜は黒色を呈し,背鰭中央部と臀鰭下縁の鰭

下端にかけて緩やかに上昇する.背鰭起部は眼の

膜は灰色.腹鰭は一様に黒色.胸鰭は白色半透明

後端よりもわずかに後方,背鰭基底後端は臀鰭第

を呈し,腋部は黒色.尾鰭は黒色を呈し,後縁は

39 軟条起部直上にそれぞれ位置する.背鰭背縁

半透明.尾鰭状の鱗は銀白色.瞳孔は銀白色を呈

は起部から第 12 軟条後端にかけて急に上昇し,

し,虹彩は青みがかった黒色.

そこから最後軟条である第 48 軟条後端にかけて

分布 南アフリカ大西洋沿岸とアフリカ東岸

緩やかに下降する.背鰭最長軟条は第 12 軟条で,

から日本,ニュージーランド北方,キリバスにか

体高よりも長い.背鰭前部の軟条はいずれもほぼ

けてのインド・太平洋に広く分布する(Mead,

同じ太さ.腹鰭起部は背鰭起部よりもわずかに後

1972; Last and Moteki, 2001; 波 戸 岡・ 甲 斐,

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Nature of Kagoshima Vol. 44

2013).日本国内においては東北地方沖から慶良

方々にこの場を借りて感謝申し上げる.本研究は

間諸島にかけての太平洋,北海道から山口県にか

鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の

けての日本海沿岸,薩摩半島西岸,九州-パラオ

多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.

海嶺,および東シナ海から記録されており(山田

本研究の一部は JSPS 研究奨励費(DC2: 29-6652),

ほ か,2007; 波 戸 岡・ 甲 斐,2013; 畑 ほ か,

笹 川 科 学 研 究 助 成 金(28-745),JSPS 科 研 費

2015;藤原ほか,2018;畑,2018),新たに本研

(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,

究により,大隅諸島種子島近海における分布が確

26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・

認された.

アフリカ学術基盤形成型,国立科学博物館「日本

備考 種子島産の標本は背鰭起部が眼の後端

の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究

よりもわずかに後方に位置すること,背鰭と臀鰭

プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸島

の前部の軟条がいずれもほぼ同じ太さであるこ

の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整

と,背鰭と臀鰭が被鱗しないなどの特徴が Mead

備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生物

(1972) や Last and Moteki (2001), 波 戸 岡・ 甲 斐

多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量経費の援助

(2013)の報告した Pterycombus petersii の標徴と よく一致した. リュウグウノヒメの日本国内における分布状 況と和名の変遷は,畑ほか(2015)と畑(2018) に詳述されている.分布の項目で述べたとおり, リュウグウノヒメの日本国内における分布は広い ものの,本種の鹿児島県内における記録は極めて 少なく,以下の 3 例に限られる:畑ほか(2015) が薩摩半島西岸に位置する南さつま市笠沙町と坊 津町の沖から定置網により得られた 2 個体 (KAUM–I. 12001,体長 168.0 mm,KAUM–I. 30506, 体長 132.1 mm)を報告したもの;畑(2018)が大 隅半島東岸に位置する内之浦湾において定置網に よ り 得 ら れ た 1 個 体(KAUM–I. 101850, 体 長 158.1 mm)を報告したもの;公益財団法人鹿児 島市水族館公社(2018)が内之浦湾から得られた もの[畑(2018)が報告した個体と同じ]と薩摩 半島西岸に位置する秋目から得られた個体(標本 は残されていない)を報告したもの.したがって, 種子島北方から採集されたリュウグウノヒメは, 本種の薩南諸島における初めての記録となる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,漁船第三鳳洋 丸の皆様,種子島漁業協同組合の皆様には標本の 採集に多大なご協力をいただいた.鹿児島大学総 合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類学 研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.以上の

を受けた. 引用文献 藤原恭司・田上英明・毛利雅彦・鎌野 忠・秦 一浩・岡 田翔平・永井節子・本村浩之.2018.山口県響灘およ び見島から採集された日本海初記録を含む魚類.水産 大学校研究報告,66 (2): 47–80. 畑 晴陵.2017.ヒレジロマンザイウオ Taractichthys steindachneri (Döderlein,1883).P. 162.岩坪洸樹・本村浩之 (編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水圏 生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館,鹿 児島. 畑 晴陵.2018.シマガツオ科.Pp. 268–269.小枝圭太・ 畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編),黒潮あたる鹿児 島の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち.鹿児島大 学総合研究博物館,鹿児島. 畑 晴陵・伊東正英・山田守彦・高山真由美・本村浩之. 2015.標本に基づく鹿児島県のシマガツオ科魚類相. Nature of Kagoshima, 41: 73–93. 畑 晴陵・本村浩之.2016.トカラ列島から得られたゴマ サバの胃内容物から見つかったマルバラシマガツオ(シ マガツオ科).Nature of Kagoshima, 42: 203–206. 波戸岡清峰・甲斐嘉晃.2013.シマガツオ科.Pp. 905–909, 1998–1999.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Hibino, Y., Okada, M., Moteki, M. and Kimura, S. 2014. Redescription of the shortfin pomfret, Brama pauciradiata, based on Japanese specimens (Actinopterygii: Perciformes: Bramidae). Species Diversity, 19: 111–115. 本間義治・杉原千代太.1964.日本海で得られたリュウグ ウノヒメ.採集と飼育,26 (9): 245. 公益財団法人鹿児島市水族館公社.2018.鹿児島水族館が 確認した ― 鹿児島の定置網の魚たち 増訂版.335 pp. 公益財団法人鹿児島市水族館公社,鹿児島. Last, P. R. and Moteki, M. 2001. Bramidae. Pp. 2824–2835 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, volume 5: Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome.

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Mead, G. W. 1972. Bramidae. Dana Report, 81: 1–166, pls. 1–9.

田中市郎.1950.珍魚の誉.62 pp.萩文化協会,萩.

水沢六郎.1964.新潟県で得たリュウグウノヒメ.採集と 飼育,26 (7): 183.

冨山晋一.2013.駿河湾で採集されたリュウグウノヒメ. 海のはくぶつかん,43 (2): 6.

Moteki, M., Fujita, K. and Last, P. R. 1995. Brama pauciradiata, a new bramid fish from the seas off tropical Australia and the Central Pacific Ocean. Japanese Journal of Ichthyology, 41: 421–427.

山田梅芳・時村宗治・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・ 黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.1262 pp.

本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

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ニザダイ科魚類ナガテングハギモドキの 鹿児島県薩摩半島と種子島からの記録 和田英敏 ・本村浩之 1

1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ニザダイ科テングハギ属 Naso 魚類は,世界で 20 種 が 有 効 と さ れ て お り(Randall, 2001, 2002; Johnson, 2002; Ho et al., 2011),日本からは 16 種 が知られている(島田,2013;瀬能ほか,2013; 松沼・本村,2013).ナガテングハギモドキ Naso lopezi Herre, 1927 は,インド洋東部と西太平洋の 温帯から熱帯域に広く分布し(Randall et al., 2003; Allen and Erdmann, 2012;島田,2013),日本国内 では新潟県,千葉県から九州の太平洋沿岸,甑島, 屋久島,沖縄諸島以南の琉球列島,および小笠原 諸島から記録されている(島田,2013;松沼ほか, 2015;Iwatsuki et al., 2017). 鹿児島県における魚類相調査の過程で,薩摩 半島西岸と種子島から 6 個体のテングハギ属魚類 が採集された.これらの標本は計数形質や体各部 の特徴からナガテングハギモドキに同定された. 記載標本は鹿児島県本土と種子島における本種の 標本に基づく初めての記録となるため,ここに報 告する. 材料と方法 標本の計数・計測は Ho et al. (2011) と松沼・本 村(2013)にしたがった.標準体長は体長または Wada, H. and H. Motomura. 2018. Records of Naso lopezi (Perciformes: Acanthuridae) from Satsuma Peninsula and Tanega-shima island, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 315–319. HW: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: gd120300@gmail.com). Published online: 13 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-045.pdf

SL と表記し,ノギスを用いて 0.1 mm 単位で計測 した.生鮮時の体色の記載は,6 個体の鹿児島県 産標本(記載標本の項を参照)のカラー写真に基 づく.標本の作製,登録,撮影,および固定方法 は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標本 は,鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に保 管されており,上記の生鮮時の写真は同館のデー タベースに登録されている. 結果と考察 Naso lopezi Herre, 1927 ナガテングハギモドキ (Figs. 1, 2; Table 1) 標本 6 個体(体長 247.3–436.3 mm):KAUM– I. 58614,体長 436.3 mm,鹿児島県いちき串木野 市串木野沖(30°42′N, 130°14′E),2014 年 1 月 28 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 82002, 体 長 411.1 mm, 鹿 児島県種子島西之表市西之表箱崎沖(30°43′39″N, 130°58′43″E),水深 30 m,刺網,2015 年 11 月 6 日, 安 栄 丸;KAUM–I. 91096, 体 長 371.9 mm, 鹿 児 島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側 (31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m, 定 置 網, 2016 年 6 月 18 日, 伊 東 正 英;KAUM–I. 98918, 体長 264.2 mm,鹿児島県種子島西之表市花里港 沖(30°45′N, 130°54′E), 水 深 15 m, 刺 網,2017 年 3 月 17 日, 安 栄 丸;KAUM–I. 101824, 体 長 247.3 mm,KAUM–I. 101826,体長 312.7 mm,鹿 児 島 県 種 子 島 西 之 表 市 大 崎 沖(30°39′N, 130°54′E),水深 15 m,刺網,2017 年 3 月 30 日, 安栄丸. 記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体はやや側扁し,中庸に細 長い(Fig. 1).尾柄は円筒形で,後方に向かって

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Fig. 1. Fresh specimens of Naso lopezi from Kagoshima Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 101824, 247.3 mm SL, Tanega-shima island; B: KAUM–I. 98918, 264.2 mm SL, Tanega-shima island; C: KAUM–I. 101826, 312.7 mm SL, Tanega-shima island; D: KAUM–I. 91096, 371.9 mm SL, Kasasa, west coast of Satsuma Peninsula; E: KAUM–I. 82002, 411.1 mm SL, Tanega-shima island; F: KAUM–I. 58614, 436.3 mm SL, Kushikino, west coast of Satsuma Peninsula.

よくすぼまる.尾柄部の体背縁と体腹縁に 1 つず

長く,よく尖る.頭部と体は,下唇後方を除いて

つ欠刻がある.後頭部から吻にかけての頭部背縁

微細で粗雑な鱗に覆われる.各鰭の鰭条も同様の

はゆるやかに曲線をえがき,突出部はない.頭部

鱗で覆われるが,鰭膜と胸鰭基底部は無鱗.尾柄

腹縁の輪郭も背縁のものと同様.後頭部から尾鰭

側面に楕円形の 2 対の骨質板が固着し,それぞれ

基底上端にかけての体の背縁は,背鰭第 3–4 軟条

の骨質板の間隔は短い.骨質板には半円形の板状

基底を頂点とするゆるやかな曲線をえがく.体腹

隆起縁が発達し,その先端は尖らない.側線は主

縁は体背縁とほぼ対称で,同程度に膨らむ.体側

鰓蓋骨上端付近から始まり,尾柄前方の骨質板直

面は前後方向に長い楕円形.鼻孔は 2 対で眼の前

前で終わる.背鰭起部は主鰓蓋後端直上に位置す

方に位置する.前鼻孔は後鼻孔よりやや大きく,

る.背鰭棘部は軟条部よりも高く,軟条部は後方

開孔部に薄い肉質の縁をもち,後縁にごく小さな

に向かうにつれやや低くなる.背鰭棘は,第 1 と

三角形の皮弁をもつ.後鼻孔には皮弁がなく,眼

第 2 棘がほぼ同長で最長,第 3–5 棘はほぼ同長で

と前鼻孔の中間よりやや前方に位置する.眼の前

やや短い.臀鰭起部は背鰭第 4–5 棘基底部直下に

縁から前鼻孔下方をとおり口裂後端上方に達す

位置する.胸鰭は上から第 3 軟条が最長で,それ

る溝がある.眼の前方の溝は頭部背縁に平行して

より下方は短くなり,後縁は丸みをおびる.腹鰭

曲がり,眼の前縁から前鼻孔下方にかけては深く,

は胸鰭基底部直下に位置し,第 1 軟条が最長.尾

前鼻孔下方から口裂後端上方にかけては浅い.ま

鰭は截形で中央部が僅かに後方に膨出する.尾鰭

た,溝の幅は前方から後方にいくにしたがい,広

後端は尖り,伸長しない.

くなる.口はわずかに突出し,両顎歯は 1 列で細

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色彩 生鮮時の色彩-体と頭部は全体に青色


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がかった灰色で,体背面から体側上部にかけてと

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ものと判断した.

不対鰭に黒色点が散在する.この黒色点は体長

備考 Naso lopezi は Herre (1927) によりフィリ

300 mm 以 下 の 2 個 体(KAUM–I. 98918, 体 長

ピン産の標本に基づき記載された.Fowler and

264.2 mm;KAUM–I. 101824,体長 247.3 mm)で

Bean (1929) は N. lopezi を Naso vomer Klunzinger,

は不明瞭.背部はやや黒色がかり,腹部は白色が

1871 の新参異名であるとした.しかし,Mayer

かる(体長 300 mm 以下の個体では背部がより黒

(1940) は N. lopezi が N. vomer と比べ,尾柄部骨

い).胸鰭基底部に白色斑をもつ.背鰭はやや黒

質板の間隔が短いこと(N. vomer では尾柄部骨質

色がかった灰色.腹鰭は白色がかった灰色.臀鰭

板の間隔は長い),体高が吻長のほぼ 2 倍である

は前縁から第 2 軟条までは白色がかった灰色で,

こと(N. vomer では吻長の 2.33 倍以上),および

その後方は青色がかった灰色.胸鰭は白色で後縁

頭部,体背面および尾鰭に固定後も明瞭な黒色点

は白色透明.尾鰭は濃いオリーブ色で後縁は白色

が存在すること(N. vomer では黒色点を欠く)に

がかる.

より識別が可能であるとし,N. lopezi を有効種と

分布 アンダマン海から日本とニューカレド ニアまでのインド・西太平洋に分布する(益田ほ か,1975; Randall et al., 2003; Allen and Erdmann, 2012;島田,2013).日本国内では新潟県寺泊,

Table 1. Counts and proportional measurements of specimens of Naso lopezi from Kagoshima Prefecture, Japan.

千葉県外房・内房,相模湾,伊豆半島,和歌山県 串本,宮崎県日向灘,鹿児島県甑島・屋久島,沖 縄諸島以南の琉球列島,および小笠原諸島から記 録されていた(山田・工藤,2005;島田,2013; 松 沼 ほ か,2015;Motomura and Harazaki, 2017; Iwatsuki et al., 2017).本研究によって鹿児島県薩 摩半島西岸と種子島からも本種の分布が確認され た. 同定 鹿児島県薩摩半島と種子島から得られ た標本は,背鰭条数が V, 29–30,臀鰭条数が II, 28–29,胸鰭条数が 17 であること,尾柄部に不可 動の骨質板が 2 対あること,吻や頭部が突出しな い こ と, お よ び 体 長 が 体 高 の 3.3–4.0 倍( 体 長 300 mm 以上の標本)であることなどの特徴が Randall (2001) や 島 田(2013) が 示 し た Naso lopezi の標徴と一致したため,本種に同定された. な お, 体 長 300 mm 以 下 の 個 体(KAUM–I. 98918, 体 長 264.2 mm;KAUM–I. 101824, 体 長 247.3 mm)は Randall (2001) の示した N. lopezi の 体高(体長が体高の 3.4–4.0 倍)より高い(KAUM– I. 98918 では 3.0 倍,KAUM–I. 101824 では 2.8 倍). しかし,Randall (2001) で記載された標徴は成魚 (詳細な体長は不明)に対するものであること, 本種は成長にしたがい体高が低くなることから (Figs. 1, 2),これらの相違は成長段階に起因する

Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin rays Anal-fin rays Pectoral-fin rays

Satsuma Peninsula n=2 371.9–436.3

Tanegashima island n=4 247.3–411.1

V, 30 II, 28–29 17

V, 29–30 II, 28–29 17 4 + 10–11 = 14–15

Gill rakers

4 + 11 = 15

Measurements (% SL) Head length Body depth Body width Pre-dorsal-fin length Pre-pectoral-fin length Pre-pelvic-fin length Pre-anal-fin length Snout length Eye diameter Interorbital width Upper-jaw length Suborbital width 1st dorsal-fin spine length 2nd dorsal-fin spine length 3rd dorsal-fin spine length 4th dorsal-fin spine length 5th dorsal-fin spine length Pectoral-fin length Pelvic-fin length 1st anal-fin spine length 2nd anal-fin spine length Longest anal-fin ray Caudal-peduncle length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle width Caudal-fork length Caudal-fin length

22.4–22.6 28.1–29.0 13.7–14.6 25.1–25.3 21.6 25.0–25.6 34.3–34.7 14.3–14.8 4.6–5.1 7.1–7.2 4.4 10.1–10.4 9.3–9.4 8.9–8.9 8.3–8.6 7.8–8.6 6.4–7.8 14.8–15.2 10.0–10.1 5.8–6.3 5.8–6.2 7.2–7.3 14.4–14.7 4.0–4.1 7.2–7.3 10.6–11.1 20.7–21.2

23.0–23.6 29.8–35.7 12.8–14.4 25.8–26.2 22.2–22.9 26.1–26.5 34.0–35.8 14.3–15.3 4.6–5.8 7.4–8.2 4.4–4.7 10.2–11.1 9.8–10.5 9.4–10.5 8.9–10.2 8.4–9.7 7.8–9.0 13.0–15.1 10.6–12.0 5.9–6.3 5.4–6.3 7.6–8.4 13.5–16.1 4.3–4.7 5.6–7.9 10.4–12.7 21.6–24.2

317


Nature of Kagoshima Vol. 44

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これまで本種は鹿児島県本土と種子島からは記録 されておらず,本報告は本種の両地域における初 めての記録となる.また,本研究ではナガテング ハギモドキは成長するにしたがい,体高が低くな ること(Figs. 1, 2)が明らかになった.テングハ ギ属ではゴマテングハギモドキやテングハギモド キにおいて同様の成長変化が確認されている (Randall and Struhsaker, 1971;松沼・本村,2013). 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集 に際しては鹿児島水圏生物博物館の岩坪洸樹氏, Fig. 2. Relationship of body depth (% of standard length; SL) to SL (mm) in specimens of Naso lopezi from Kagoshima, southern Japan.

笠沙町漁業協同組合の伊藤正英氏,鹿児島大学総 合研究博物館の高山真由美氏,漁船安栄丸の乗組 員の皆様,ならびに種子島漁業協同組合関係者の 皆様にご協力いただいた.原口百合子氏をはじめ

みなした.なお,N. vomer は現在,テングハギモ

とする鹿児島大学総合研究博物館ボランティアと

ドキ Naso hexacanthus (Bleeker, 1855) の新参異名

畑 晴陵氏,藤原恭司氏,上城拓也氏をはじめと

とされている(Randall and Bell, 1992).

する同博物館魚類分類学研究室の皆さまには適切

Randall and Struhsaker (1971) はハワイ諸島から

な助言を頂いた.本研究は鹿児島大学総合研究博

得られた 4 個体の標本にもとづき N. lopezi を報

物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク

告 し た. し か し, こ れ ら の 標 本 は 後 に Naso

ト 」 の 一 環 と し て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は

maculatus Randall and Struhsaker, 1981 として新種

JSPS 科

記載された.ナガテングハギモドキはこれまで,

26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業-

ハ ワ イ 諸 島 か ら は 記 録 さ れ て い な い(Mundy,

B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立科学博

2005).

物館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に

費(19770067, 23580259, 24370041,

Naso lopezi を日本から初めて報告したのは益田

関する研究プロジェクト」,文部科学省特別経費

ほか(1975)である.彼らは沖縄島から得られた

「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育

4 個体の標本に基づき,本種を N. vomer として報

研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研究

告し,和名ナガテングハギモドキを提唱した.同

環境(生物多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量

時に,N. lopezi に対して和名ゴマテングハギモド

経費の援助を受けた.

キを提唱した.Randall and Struhsaker (1981) は益 田ほか(1975)で掲載されている N. lopezi(ゴマ テングハギモドキ)が N. maculatus であること,N. vomer(ナガテングハギモドキ)が N. lopezi であ ることを指摘した.岸本(1984)は Randall and Struhsaker (1981) の見解を踏襲し,ナガテングハ ギ モ ド キ N. lopezi と ゴ マ テ ン グ ハ ギ モ ド キ N. maculatus とした. ナガテングハギモドキの日本国内における分 布は上述の「分布」の項に示したとおりである.

318

引用文献 Allen, G. R. and Erdmann, M. V. 2012. Reef fishes of the East Indies. Vols. 1–3. Tropical Reef Research, Perth. xiv + 1292 pp. Fowler, H. W. and Bean, B. A. 1929. Contributions to the biology of the Philippine Archipelago and adjacent regions. The fishes of the series Capriformes, Ephippiformes, and Squamipennes collected by United States Bureau of Commercial Fishes steamer “Albatross,” chiefly in Philippine Seas and adjacent waters. United States National Museum Bulletin 100, 8: 1–352. Herre, A. W. C. T. 1927. Philippine surgeon fishes and moorish idols. Philippine Journal of Science, 34 (4): 403–478, pls. 1–16.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Randall, J. E. 2001. Naso reticulatus, a new unicornfish (Perciformes: Acanthuridae from Taiwan and Indonesia, with a key to the species of Naso. Zoological Studies, 40: 170–176.

Johnson, J. W. 2002. Naso mcdadei, a new species of unicornfish (Perciformes: Acanthuridae), with a review of the Naso tuberosus species complex. Australian Journal of Zoology, 50: 293–311.

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岸本浩和.1984.ナガテングハギモドキ.P. 221,pl. 225. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編). 日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚.東海大学出版会,東京.382 pp. 松沼瑞樹・本村浩之.2013.鹿児島県トカラ列島から得ら れた日本初記録のニザダイ科シノビテングハギ(新称) Naso tergus.魚類学雑誌,60 (2): 103–110. 松沼瑞樹・桜井雄・本村浩之.2015.琉球列島から得られ たニザダイ科魚類シノビテングハギ Naso tergus の記録. Nature of Kagoshima, 41: 149–152. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. and Harazaki, S. 2017. Annotated checklist of marine and freshwater fishes of Yaku-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima, southern Japan, with 129 new records. Bulletin of the Kagoshima University Museum, 9: 1–183. Mundy, B. C. 2005. Checklist of the Hawaiian Archipelago. Bishop Museum Bulletins in Zoology, 6: 1–703.

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Randall, J. E. and Struhsaker, P. 1971. The acanthurid fish Naso lopezi Herre from the Hawaiian Islands. Copeia, 1971: 320– 322. Randall, J. E. and Struhsaker, P. 1981. Naso maculatus, a new species of acanthurid fish from the Hawaiian Islands and Japan. Copeia, 1981: 553–558. Randall, J. E., Williams, J. T., Smith, D. G., Kulbicki, M., Tham, G. M., Labrosse, P., Kronen, M., Clua, E. and Mann, B. S. 2003. Checklist of the shore and epipelagic fishes of Tonga. Atoll Research Bulletin, 502: 1–35. 瀬能 宏・御宿昭彦・伊東正英・本村浩之.2013.日本初 記録のニザダイ科テングハギ属の稀種マサカリテング ハギ(新称)とその分布特性.神奈川県立博物館研究 報告(自然科学),42: 91–96. 島 田 和 彦.2013. ニ ザ ダ イ 科.Pp. 1619–1631, 2215–2218. 中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会,秦野. 山田和彦・工藤孝浩.2005.三崎魚市場に水揚げされた魚 類 ―XIV.神奈川自然誌資料,26: 85–86.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県本土と大隅諸島から初めて記録された ヒメジ科魚類ヨスジヒメジ 萬代あゆみ ・伊東正英 ・高山真由美 ・本村浩之 1

1

2

3

3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

ヒメジ科ヒメジ属 Upeneus は,背鰭棘数が 7–8

標 本 の 計 数・ 計 測 方 法 は Uiblein and Gledhill

であること,鋤骨と口蓋骨に絨毛状歯をもつこと,

(2015)にしたがった.計測はデジタルノギスを

第 2 背鰭と臀鰭の基底部に小鱗をもつこと,吻長

用いて 0.1 mm 単位まで行い,計測値は標準体長

が眼後長より短いかほぼ等しいこと,および尾鰭

(Standard length)に対する百分率(%)で示した.

に斜線があるか側線に沿う縦帯があること,また

標準体長は体長または SL と表記した.標本の作

はその両方の色彩をもつことによって特徴づけら

製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009)

れる(Uiblein and Gouws, 2014; Uiblein and White,

に準拠した.ヨスジヒメジの生鮮時の体色の記載

2015; Uiblein et al., 2016, 2017).本属魚類は日本

は,固定前に撮影された鹿児島県産の標本(記載

から 11 種が知られており(Yamashita et al., 2011;

標本の項を参照)のカラー写真に基づく.本報告

Motomura et al., 2012; 波戸岡・土居内,2013;萬

に用いた標本は鹿児島大学総合研究博物館

代ほか,2018),このうちヨスジヒメジ U. quadri-

(KAUM)に保管されており,上記の生鮮時の写

lineatus Cheng and Wang, 1963 はこれまでに日本 国内において和歌山県みなべ町,土佐湾,奄美大 島,および沖縄島からのみ記録されていた(山川,

真は同館のデータベースに登録されている. 結果と考察

1984;藤山,2004;波戸岡・土居内,2013;池田・

Upeneus quadrilineatus Cheng and Wang, 1963

中坊,2015;Nakae et al., 2018).

ヨスジヒメジ (Fig. 1; Table 1)

鹿児島県の魚類相調査の過程で,薩摩半島西 岸沖から 1 個体,大隅諸島種子島から 2 個体のヨ

標本 3 個体(体長 97.8–126.7 mm) :KAUM–I.

スジヒメジが採集された.これらの標本は鹿児島

7097,体長 97.8 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町

県本土および大隅諸島における本種の標本に基づ

片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深

く初めての記録となるため,ここに報告する.

27 m,2007 年 9 月 18 日, 定 置 網, 伊 東 正 英; KAUM–I. 110174,体長 119.9 mm,鹿児島県種子

Bandai, A., M. Itou, M. Takayama and H. Motomura. 2018. First records of Upeneus quadrilineatus (Perciformes: Mullidae) from the mainland of Kagoshima and the Osumi Islands, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 321–325. HM: the Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@ kaum.kagoshima-u.ac.jp). Published online: 16 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-046.pdf

島西之表市現和田之脇田之脇漁港(30°41′29″N, 131°04′17″E),水深 5 m,2017 年 11 月 28 日,釣り, 高 山 真 由 美;KAUM–I. 110577, 体 長 126.7 mm, 鹿児島県種子島西之表市現和田之脇田之脇漁港 (30°41′29″N, 131°04′17″E),水深 5 m,2017 年 12 月 3 日,釣り,高山真由美. 記載 計数・計測値を Table 1 に示す.体は細 長く側扁する.体背縁は吻端から第 1 背鰭起部

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Fig. 1. Fresh specimens of Upeneus quadrilineatus. A: KAUM–I. 7097, 97.8 mm SL, Kasasa, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan; B: KAUM–I. 110174, 119.9 mm SL, C: KAUM–I. 110577, 126.7 mm SL, Tanega-shima island, Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.

322


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Nature of Kagoshima Vol. 44

まで上昇し,尾柄部にかけて緩やかに下降する.

る.肛門は前後方向に長い楕円形で臀鰭起部直前

体腹縁は下顎先端から尾柄にかけて丸みを帯び

に位置する.眼は円形で頭部背縁付近にある.口

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Upeneus quadrilineatus from Kagoshima, Japan.

Standard length (SL ; mm) Counts Dorsal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays Anal-fin rays Total gill rakers on upper limb Total gill rakers on lower limb Total gill rakers Scales along lateral line Measurements (as % of SL) Body depth at first dorsal-fin origin Body depth at anal-fin origin Half body depth at first dorsal-fin origin Half body depth at anal-fin origin Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle width Maximum head depth Head depth through eye Suborbital depth Interorbital length Head length Snout length Postorbital length Orbit length Orbit depth Upper-jaw length Lower-jaw length Snout width Barbel length Maximum barbel width First pre-dorsal length Second pre-dorsal length Interdorsal distance Caudal-peduncle length Pre-anal length Pre-pelvic length Pre-pectoral length Second dorsal-fin depth Pelvic-fin depth Pectoral-fin depth Length of first dorsal-fin base Length of second dorsal-fin base Caudal-fin length Length of anal-fin base Anal-fin height Pelvic-fin length Pectoral-fin length Pectoral-fin width First dorsal-fin height Second dorsal-fin height

West coast of Satsuma Peninsula KAUM–I. 7097 97.8

Tanega-shima island, Osumi Islands KAUM–I. 110174 KAUM–I. 110577 119.9 126.7

VIII+ 9 16 I, 5 I, 7 8 20 28 —

VIII+ 9 16 I, 5 I, 7 9 20 29 38

VIII+ 9 16 I, 5 I, 7 8 20 28 37

27.0 26.2 damaged 18.6 11.5 3.6 23.1 19.7 11.0 8.8 30.6 12.0 13.1 7.4 6.6 12.6 11.7 11.3 17.8 0.9 39.7 68.3 17.0 20.0 67.6 32.8 32.1 26.4 27.3 17.3 15.3 13.8 damaged 12.9 10.6 18.7 23.4 5.8 damaged damaged

28.6 25.6 22.3 19.6 10.4 3.9 24.1 18.1 11.1 8.3 29.0 11.1 12.8 6.8 6.2 11.8 11.6 10.8 16.8 1.0 37.4 66.9 17.2 21.4 66.8 31.8 29.1 25.9 27.6 16.8 15.8 13.7 28.2 11.8 9.0 18.2 23.7 5.9 22.4 14.5

29.0 25.1 22.6 19.2 11.0 4.1 23.8 18.9 10.7 9.1 30.5 12.3 13.7 6.8 6.1 11.5 11.0 11.4 17.7 0.9 40.2 68.5 16.8 20.8 69.8 32.1 30.4 26.0 29.1 18.4 15.2 14.4 28.4 11.8 damaged 17.0 24.7 5.7 22.3 14.7

323


Nature of Kagoshima Vol. 44

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は小さく吻の下方に位置し,口裂は体腹縁に沿っ

縁辺は白色で縁取られる.下葉後縁に黄色の 1 斜

て下降する.両顎に先端の鈍い円錐歯で形成され

走帯があり,斜走帯後部は僅かに黒色.固定後,

た歯帯をもつ.鋤骨は V 字型で絨毛状歯帯をもつ.

体側上部は白色がかり,体側下部から体腹面は白

口蓋骨に絨毛状歯帯をもつ.内翼状骨歯をもたな

色となる.第 1 背鰭先端の黒色域は明瞭に残る.

い.下顎縫合部に 1 対の髭がある.たたんだ髭の

第 1 背鰭,第 2 背鰭,および尾鰭両葉の黄色縦帯

後端は眼の後縁下を越える.前鼻孔は後鼻孔の前

と斜走帯は淡い黒色に変化する.

方下に位置し,後鼻孔は眼の僅かに前方に位置す

分布 インドネシア・スラウェシ島マカッサ

る.主鰓蓋骨後端上方に短い 1 棘をもつ.鱗は櫛

ル,南シナ海,中国・大陳島,台湾南部,および

鱗.頭部は鱗に被われる.第 2 背鰭と臀鰭の基底

日本から記録されている(山川,1984;Randall,

および鰭膜の一部は小鱗で被われる.側線鱗は有

2000, 2001;波戸岡・土井内,2013;池田・中坊,

孔.側線は鰓蓋直上から尾鰭基底中央部にかけて

2015).日本国内ではこれまで和歌山県みなべ町,

体背縁に並走する.背鰭は 2 基で互いによく離れ

土佐湾,奄美大島,および沖縄島からのみ記録さ

る.第 1 背鰭起部は腹鰭起部より後方に位置する.

れており(山川,1984, 1997;藤山,2004;波戸岡・

第 1 背鰭は第 1 棘が最も短い.第 2 背鰭は第 1 軟

土 居 内,2013; 池 田・ 中 坊,2015;Nakae et al.,

条のみ不分枝で,第 2 軟条が最も長い.胸鰭基底

2018),本研究により,薩摩半島西岸沖ならびに

前端は鰓蓋後縁より僅かに後方に位置し,腹鰭起

大隅諸島種子島における分布も確認された.

部より前方に位置する.胸鰭は第 1 軟条のみ不分

備考 記載標本は第 1 鰓弓の総鰓耙数が 25–29

枝で,その後端は尖る.胸鰭は第 4 軟条が最も長

であること,体側に 4 本の黄色縦線があること,

く,その後端は第 1 背鰭基底後端直下に達する.

第 1 背鰭の先端が黒く,尾鰭上葉に数本の斜走帯

胸鰭長は腹鰭長より長い.腹鰭軟条はすべて分枝

があること,尾鰭下葉に暗色帯がないことが山川

する.臀鰭起部は第 2 背鰭第 3 軟条起部直下,臀

(1984, 1997),Randall (2001), 波 戸 岡・ 土 井 内

鰭基底後端は第 2 背鰭最後軟条基底直下にそれぞ

(2013),および池田・中坊(2015)の報告した U.

れ位置する.臀鰭は第 1 軟条のみ不分枝で,第 2

quadrilineatus の標徴とよく一致したため,本種

軟条が最も長い.尾鰭は二叉し,後縁は中央部で

と同定された.ヨスジヒメジは体側に 4 本の黄色

湾入する.尾鰭両葉の後端は僅かに尖る.

縦 帯 が あ る こ と か ら, ミ ナ ミ ヒ メ ジ U. vittatus

色彩 生鮮時,体は白色.体側に 4 黄色縦帯

(Forsskål, 1775) と類似するが,尾鰭下葉に斜走帯

があり,第 1 縦帯は第 2 背鰭基底前端下まで,第

をもたないこと(ミナミヒメジは黒色の斜走帯を

2 縦帯は第 2 背鰭基底後端下まで,第 3 縦帯およ

もつ)によって識別される(山川,1984;波戸岡・

び第 4 縦帯は尾鰭後縁まで伸長し,いずれの縦帯

土井内,2013).

も後端は僅かに黒色.頭部と体側の第 3 黄色縦帯

山川(1984)は高知県と沖縄県から得られた

上方の体背部は暗色.頬部と第 3 黄色縦帯下方の

計 5 個 体( 体 長 12–17 cm) に 基 づ き Upeneus

体側面は白色.髭は白色.虹彩は赤色.瞳孔は黒

quadrilineatus を報告し,和名ヨスジヒメジを提

色.鰭は全て半透明.第 1 背鰭の先端は黒色で,

唱した.山川(1984)以前には Kamohara (1951)

第 2 軟条および第 3 軟条の先端は白色.第 1 背鰭

が高知市産ヒメジ属魚類を U. vittatus,和名をミ

先端の黒色域の下方に白色縦線と黄色縦線が 3 本

ナミヒメジとして報告したが,このミナミヒメジ

ずつ交互にある.第 2 背鰭の先端は白色で,その

は尾鰭下葉に斜走帯がないことからヨスジヒメジ

下方に黄色縦線と白色縦線が 3 本ずつ交互にあ

と思われる(山川,1984).藤山(2004)は奄美

る.腹鰭軟条は黄色で,縁辺は白色.臀鰭軟条は

大島からヨスジヒメジの写真を報告したが,標本

黄色で,縁辺は白色.尾鰭上葉に黄色縦帯と白色

は残されていない.

縦帯が 5 本ずつ交互にあり,黄色縦帯の前縁と後 縁は僅かに黒色.尾鰭下葉の下部は橙色がかり,

324

ヨスジヒメジは上記以外の日本国内における 記録がなく,本報告の記載標本は本種の鹿児島県


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本土と大隅諸島における初めての記録である. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに は適切な助言を頂いた.本研究は鹿児島大学総合 研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部 は JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立科学博 物館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に 関する研究プロジェクト」,文部科学省特別経費 「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育 研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研究 環境(生物多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量 経費の援助を受けた. 引用文献 萬代あゆみ・伊東正英・本村浩之,2018.鹿児島県から得 られた北半球初記録のヒメジ科魚類 Upeneus spottocaudalis ユカタヒメジ(新称).魚類学雑誌,DOI 10.11369/ jji.17-056. 藤山萬太.2004.私本 奄美の釣魚.藤山萬太,名瀬.180 pp. 波 戸 岡 清 峰・ 土 居 内 龍.2013. ヒ メ ジ 科.Pp. 976–982, 2018–2020.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野.597 pp. Kamohara, T. 1951. Notes on some rare fishes from Prov. Tosa, Japan. Reports of the Kochi University, Natural Science, 1: 1–8, pls. 1–2. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp.

Nature of Kagoshima Vol. 44 Nakae, M., Motomura, H., Hagiwara, K., Senou, H., Koeda, K., Yoshida, T., Tashiro, S., Jeong, B., Hata, H., Fukui, Y., Fujiwara, K., Yamakawa, T., Aizawa, M., Shinohara, G. and Matsuura, K. 2018. An annotated checklist of fishes of Amamioshima Island, the Ryukyu Islands, Japan. Memories of National Museum of Natural Science, Tokyo, 52: 205–361. Randall, J. E. 2000. Family Mullidae (goatfish). P. 622. In Randall, J. E. and Lim, K. K. P. (eds.) A checklist of the fishes of the South China Sea. The Raffles Bulletin of Zoology, Supplement, No. 8. Randall, J. E. 2001. Mullidae, goatfishes (surmullets). Pp. 3175– 3200. In Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. Uiblein, F. and Gledhill, D. C. 2015. A new goatfish of the genus Upeneus (Mullidae) from Australia and Vanuatu, with interand intraspecific comparisons. Marine Biological Research, 11: 475–491. Uiblein, F., Gledhill, D. C. and Peristiwady, T. 2017. Two new goatfishes of the genus Upeneus (Mullidae) from Australia and Indonesia. Zootaxa, 4318: 295–311. Uiblein, F. and Gouws, G. 2014. A new goatfish species of the genus Upeneus (Mullidae) based on molecular and morphological screening and subsequent taxonomic analysis. Marine Biological research, 10: 655–681. Uiblein, F., Gouws, G., Gledhill, D. C. and Stone, K. 2016. Just off the beach: intrageneric distinctiveness of the bandtail goatfish Upeneus taeniopterus (Mullidae) based on a comprehensive alpha taxonomy and barcoding approach. Marine Biological research, 12: 675–694. Uiblein, F. and White, W. T. 2015. A new goatfish of the genus Upeneus (Mullidae) from Lombok, Indonesia and first verified record of U. asymmetricus for the Indian Ocean. Zootaxa, 3980: 51–66. 山川 武.1984.ヨスジヒメジ.P. 159, pl. 148.益田 一・ 尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),日本 産魚類生態大図鑑.東海大学出版会,東京. 山 川 武.1997. ヨ ス ジ ヒ メ ジ Upeneus quadrilineatus. P. 379.岡村 収・尼岡邦夫(編),山渓カラー名鑑 日 本の海水魚. 山と渓谷社,東京. Yamashita, M., Golani, D. and Motomura, H. 2011. A new species of Upeneus (Perciformes: Mullidae) from southern Japan. Zootaxa, 3109: 47–58.

Motomura, H., M. Yamashita, M. Itou, Y. Haraguchi and Y. Iwatsuki. 2012. First records of the Two-tone Goatfish, Upeneus guttatus, from Japan, and comparisons with U. japonicus (Perciformes: Mullidae). Species Diversity, 17: 7–14.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Nature of Kagoshima Vol. 44

九州沿岸と種子島から初めて記録された フエフキダイ科魚類キツネフエフキ 畑 晴陵 ・伊東正英 ・鏑木紘一 ・本村浩之 1

1

2

3

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに キツネフエフキ Lethrinus olivaceus Valenciennes, 1830 は体長 80 cm,全長 1 m に達する大型のフエ フキダイ科フエフキダイ属魚類である(Carpenter and Allen, 1989; Carpenter, 2001;島田,2013).本 種は薩南群島を含む琉球列島から多く報告されて おり,沖縄県においては「おもながー」や「うむ ながー」などと称され,延縄や釣り,刺網などに よって漁獲される(具志堅,1972;池口,2005; 三浦,2012; Nakae et al., 2018).しかし,キツネ フエフキは琉球列島よりも北方においては非常に 稀な種であり,和歌山県みなべ町と大隅諸島屋久 島からのみ記録されていた(池田・中坊,2015; Motomura and Harazaki, 2017). 鹿児島県における魚類相調査の過程で,薩摩 半島西岸に位置する笠沙町の沖合から 2 個体,大 隅諸島種子島から 1 個体のキツネフエフキが得ら れた.これらの標本はそれぞれ,九州沿岸と種子 島における本種の標本に基づく初めての記録とな るため,ここに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Carpenter and Allen (1989) に Hata, H., M. Itou, K. Kaburagi and H. Motomura. 2018. First records of Lethrinus olivaceus (Perciformes: Lethrinidae) from the Kagoshima mainland and Tanega-shima island, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 327–332. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 16 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-047.pdf

したがった.標準体長は体長と表記し,体各部の 計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこ なった.キツネフエフキの生鮮時の体色の記載は, 固定前に撮影された鹿児島県産の 3 標本(記載標 本の項を参照)のカラー写真に基づく.標本の作 製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009) に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学 総合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時 の写真は同館のデータベースに登録されている. 本報告中で用いられている研究機関略号は以下の 通り:FRLM(三重大学大学院生物資源科学研究 科水産実験所);KAUM(鹿児島大学総合研究博 物 館 );MIKU( 京 都 大 学 み さ き 臨 海 実 験 所 ); NSMT-P(国立科学博物館) ;WMNH-PIS-WW(和 歌山県立自然博物館池田魚類コレクション). 結果と考察 Lethrinus olivaceus Valenciennes, 1830 キツネフエフキ (Fig. 1; Table 1) 標本 3 個体,体長 74.8–191.5 mm:KAUM–I. 10250, 体長 74.8 mm,鹿児島県南さつま市笠沙 町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水 深 27 m,2007 年 11 月 22 日,定置網,伊東正英; KAUM–I. 83794,体長 179.1 mm,鹿児島県南さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,2015 年 12 月 19 日, 定置網,伊東正英;KAUM–I. 98919,体長 191.5 mm, 鹿 児 島 県 種 子 島 南 種 子 町 島 間 港 (30°28′02″N, 130°51′38″E),2017 年 2 月 7 日,釣り, 鏑木紘一.

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Fig. 1. Fresh specimens of Lethrinus olivaceus (A: KAUM–I. 10250, 74.8 mm SL, Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan; B: KAUM–I. 83794, 179.1 mm SL, Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan; C: KAUM–I. 98919, 191.5 mm SL, Tanega-shima island, Osumi Islands, Japan).

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Nature of Kagoshima Vol. 44

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

に達する.胸鰭上縁,下縁,および後縁はいずれ

を Table 1 に示した.体は前後方向にやや長い楕

も直線状に近い.腹鰭起部は背鰭第 3 棘起部より

円形で側扁し,尾柄部は強く側扁する.体高は背

もわずかに前方に位置するが,体長 74.8 mm の

鰭第 3 棘起部付近で最大.体背縁は吻端から背鰭

個体(KAUM–I. 10250)では背鰭起部よりもわず

第 4 棘起部付近にかけて緩やかに上昇し,そこか

かに前方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門

ら尾鰭基底上端にかけて極めて緩やかに下降す

に達するが,臀鰭起部には達しない.臀鰭起部は

る.体腹縁は下顎先端から腹鰭起部にかけて緩や

背鰭第 10 棘起部よりもわずかに後方に位置する.

かに下降し,そこから臀鰭起部にかけて体軸とほ

臀鰭棘は第 3 棘が最長.尾鰭上縁,下縁,および

ぼ平行となった後,尾鰭基底下端にかけて緩やか

後縁は直線状に近いが,後縁は中央でわずかに前

に上昇する.吻部背縁は鼻孔上方でわずかに上方

方に凹む.尾鰭両葉の後端は尖る.肛門は臀鰭起

に膨出する.背鰭起部は鰓蓋後端よりもわずかに

部前方に位置し,前後方向に長い楕円形.眼およ

後方,背鰭基底後端は臀鰭基底後端よりもわずか

び瞳孔はほぼ正円形.眼隔域は平坦.鼻孔は 2 対

に後方にそれぞれ位置する.背鰭各棘間の鰭膜は

で後鼻孔は眼の前方に位置し,前鼻孔は後鼻孔の

わずかに切れ込む.背鰭軟条部背縁は丸みを帯び

前下方にやや離れて位置する.前鼻孔は正円に近

る.胸鰭基底上端は背鰭起部直下付近に,胸鰭基

い円形で,後縁に皮弁を有する.後鼻孔は前後方

底下端は背鰭第 2 棘起部直下付近にそれぞれ位置

向に長い楕円形.吻端は尖り,両唇は厚い.上顎

する.胸鰭後端は尖り,背鰭第 9 棘起部直下付近

は突出する.上顎骨の表面は滑らか.主上顎骨は

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Lethrinus olivaceus from Kagoshima Prefecture, Japan.

Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin spines Dorsal-fin rays Anal-fin spines Anal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin spines Pelvic-fin rays Lateral-line scales Scale rows above lateral line Scale rows below lateral line Gil rakers Measurement (% SL) Body depth Head length Snout length (without lips) Snout length Cheek height Eye length Pectoral-fin length Pelvic-fin length Caudal-peduncle length Dorsal-fin base length Spinous dorsal-fin base length Soft dorsal-fin base length Anal-fin base length Spinous anal-fin base length Soft anal-fin base length

KAUM–I. 10250 KAUM–I. 83746 Kasasa, Satsuma Peninsula 74.8 179.1

KAUM–I. 98919 Tanega-shima island, Osumi Islands 191.5

10 9 3 8 13 1 5 47 6 16 3+9

10 9 3 8 13 1 5 48 6 16 3+9

10 9 3 8 13 1 5 48 6 16 3+8

33.4 40.5 15.0 19.6 9.1 10.5 25.0 20.4 18.8 43.9 27.5 15.0 18.8 4.9 12.6

33.2 37.8 16.7 21.0 11.9 7.0 24.3 21.9 19.5 46.1 28.1 16.4 17.7 4.1 12.4

33.3 39.3 17.3 21.5 12.1 7.4 24.2 21.2 16.7 46.0 27.5 17.0 18.7 4.0 13.9

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鰭軟条数が 9 であること,および臀鰭軟条数が 8 で あ る こ と な ど が Carpenter and Allen (1989) や Carpenter (2001) によって定義された Lethrinus 属 の特徴とよく一致した.また,調査標本は吻部が 著しく長く,唇を除いた吻の長さが眼の下端から 前鰓蓋骨下端までの距離の 1.4–1.65 倍であるこ と,体高が低く,体長は体高の 3.0 倍であること, Fig. 2. Fresh specimen of Lethrinus microdon. KAUM–I. 110118, 303.4 mm standard length, Tanega-shima island, Osumi Islands, Japan.

胸鰭基底と鰓蓋のいずれにも赤色斑がないこと, 背鰭棘部中央下における側線上方横列鱗数が 6 で あること,両顎の側部に円錐歯が 1 列に並ぶこと,

皮下に埋没し,外部からは見えない.主鰓蓋骨後

胸 鰭 基 底 部 の 内 側 が 無 鱗 で あ る こ と な ど が,

縁,前鰓蓋骨の後縁と下縁はいずれも円滑.体は

Carpenter and Allen (1989) や Carpenter (2001), 島

剥がれにくい円鱗に被われる.前鰓蓋骨後縁より

田(2013)の報告した L. olivaceus の標徴とよく

も前方の頭部は,側頭部上方部に 5–8 枚の鱗があ

一致したため,本種に同定された.

るのを除いて無鱗.背鰭前方鱗被鱗域の前縁は眼

キツネフエフキは吻が著しく長い点や,胸鰭

窩後縁に達しない.背鰭,臀鰭,腹鰭および胸鰭

基底部の内側が被鱗しない点などにおいて,オオ

基底部内側は無鱗.胸鰭基底部外側と尾鰭基底部

フ エ フ キ Lethrinus microdon Valenciennes, 1830

は小鱗に被われる.頭部には感覚孔が密在する.

(Fig. 2)に類似する.しかし,キツネフエフキで

両顎には 1 列に円錐歯が並び,その内側には小円

は側線上方横列鱗数が 6 枚であるのに対し,オオ

錐歯が密生し,歯帯を形成する.側線は完全で,

フエフキでは 5 枚であることなどで識別される

鰓蓋上方から尾柄にかけて,体背縁に並走する.

(Carpenter and Allen, 1989; Carpenter, 2001;島田,

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は明るい黄土色を呈

2013;萬代ほか,2017).

し,体腹面は白色がかる.体側上部から体側中央

な お, キ ツ ネ フ エ フ キ に 適 用 さ れ る 学 名 は

にかけて白色斑が不規則に散在する.吻部に眼か

Lethrinus miniatus (Forster, 1801) とされることが多

ら放射状に伸びる数本の白色または淡青色帯があ

かったが(例えば松原,1955;佐藤,1984),そ

る.唇には模様がない.背鰭と臀鰭の各棘と軟条

の学名は現在,アマミフエフキに適用されている

は黄土色を呈し,各鰭条間の鰭膜は赤みがかった

(Carpenter and Allen, 1989; Carpenter, 2001;島田,

灰色を呈し,背鰭と尾鰭の縁辺部は赤色.胸鰭は 淡い黄土色を呈し,無斑.腹鰭は一様に暗い褐色.

2013). 日本から初めてキツネフエフキを報告したの

虹彩は黄褐色を呈し,瞳孔は青みがかった黒色.

は Fowler (1933) と思われる.彼は 1910 年 2 月 7

分布 アフリカ東岸から南日本,仏領ポリネ

日に沖縄県那覇市に水揚げされた全長 533 mm の

シアにかけてのインド・太平洋に広く分布する(赤

本種 1 個体を L. miniatus として報告した.岡田・

崎,1962; Sato, 1970; Carpenter and Allen, 1989;佐藤,

松 原(1938) は Fowler (1933) を 引 用 し,L.

1997; Carpenter, 2001; 島 田,2013; Chiba, 2017).

miniatus の分布域に琉球列島を含めると同時に,

日本国内においてはこれまで,和歌山県みなべ町,

本種に対して和名キツネフエフキを提唱した.そ

大隅諸島屋久島,および琉球列島から記録されて

の後,キツネフエフキは沖縄島中城湾(三浦,

おり(島田,2013;池田・中坊,2015; Motomura

2012),宮古島(蒲原, 1964)や八重山諸島近海(太

and Harazaki, 2017),本研究において,鹿児島県

田・工藤,2007;太田ほか,2008),石垣島(蒲原,

薩摩半島西岸と大隅諸島種子島における分布が確

1964; Sato, 1970),西表島(佐藤,1997),および

認された.

与那国島(Koeda et al., 2016)など,沖縄県の各

備考 調査標本は,頬部が無鱗であること,背

330

所から多く報告されている.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

キツネフエフキは鹿児島県においては以下の

ジア・アフリカ学術基盤形成型-「東南アジア沿

通り,薩南諸島から度々記録されている[赤崎

岸生態系の研究教育ネットワーク」,総合地球環

(1962)が奄美大島近海から得られた本種 1 個体

境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケ

(MIKU 1915, 体長 52.4 cm)を L. miniatus として

イパビリティーの向上プロジェクト」,国立科学

報告;藤山(2004)が奄美大島近海から釣獲され

博物館「日本の生物多様性ホットスポットの構造

た本種の写真を報告;木村(2014)と武藤(2018)

に関する研究プロジェクト」,文部科学省特別経

が与論島から得られた本種 1 個体(FRLM 43142,

費「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教

体 長 145.2 mm) を 報 告;Motomura and Harazaki

育研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研

(2017) が屋久島一湊近海で撮影された本種の水中

究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費

写真を報告;Nakae et al. (2018) が奄美大島近海か

「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援

ら 得 ら れ た キ ツ ネ フ エ フ キ 2 個 体(NSMT-P 127492, 131083)を報告]. しかし,キツネフエフキの日本本土における 記録は乏しく,池田・中坊(2015)が和歌山県み なべ町から得られた体長 168 mm の本種 1 個体 [WMNH-PIS-WW 17409 (1)]を報告した 1 例のみ に限られる.また,種子島における記録もなく, 同地域の魚類相を報告した鏑木(2016)にも含ま れていない.したがって,調査標本はキツネフエ フキの九州沿岸と種子島における標本に基づく初 めての記録となる. 比 較 標 本 オ オ フ エ フ キ Lethrinus microdon: KAUM–I. 110118,体長 303.4 mm,鹿児島県大隅 諸 島 種 子 島 西 之 表 市 西 之 表 港(30°44′08″N, 130°59′18″E),水深 27 m,刺網,2017 年 10 月 30 日,漁船安栄丸. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ

助を受けた. 引用文献 赤崎正人.1962.タイ型魚類の研究 形態・系統・分類お よび生態.京大みさき臨海研究所特別報告,1: 1–368. 萬 代 あ ゆ み・ 畑 晴 陵・ 本 村 浩 之.2017. 鹿 児 島 県 か ら 得られたフエフキダイ科魚類オオフエフキ.Nature of Kagoshima, 43: 165–168. Carpenter, K. E. 2001. Lethrinidae emperors (emperor snappers). Pp. 3004–3050, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. Carpenter, K. E. and Allen, G. R. 1989. FAO species catalogue. Vol. 9. Emperor fishes and large-eye breams of the world (family Lethrinidae). An annotated and illustrated catalogue of lethrinid species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 9: i–v + 1–118, pls. 1–8. Chiba, S. N. 2017. Lethrinus olivaceus (Valenciennes, 1830). P. 157. Moromura, H., Alama, U. B., Muto, N. Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. Fowler, H. W. 1933. Fishes of the Philippine seas and adjacent waters. Bulletin of the United States National Museum 100, 12: 1–465.

ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに

藤山萬太.2004.私本 奄美の釣り魚.藤山萬太,奄美. 179 pp.

は適切な助言を頂いた.西之表市の高山真由美氏,

具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp.

漁船安栄丸の乗組員の皆様ならびに種子島漁業協 同組合の皆様には比較標本の採集・寄贈にご尽力 いただいた.以上の方々に謹んで感謝の意を表す る.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿 児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環 として行われた.本研究の一部は笹川科学研究助 成 金(28-745) ,JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 296652),JSPS 科研費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業-ア

池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野,597 pp. 池口明子.2005.沖縄島羽地内海における漁船漁業の資源 利用.地域研究,1: 77–90. 鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. 蒲原稔治.1964.沖縄及び八重山群島の魚類.高知大学学 術研究報告(自然科学 I),13 (5): 31–43. 木村清志.2014.キツネフエフキ Lethrinus olivaceus Valenciennes, 1830. Pp. 255–256.本村浩之・松浦啓一(編), 奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島大学総合 研究博物館,鹿児島,国立科学博物館,つくば.

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Koeda, K., Hibino, Y., Yoshida, T., Kimura, Y., Miki, R., Kunishima, T., Sasaki, D., Fukuhara, T., Sakurai, M., Eguchi, K., Suzuki, H., Inaba, T., Uejo, T., Tanaka, S., Fujisawa, M., Wada, H. and Uchinyama T. 2016. Annotated checklist of fishes of Yonaguni-jima island, the westernmost island in Japan. The Kagoshima University Museum, Kagoshima. vi + 120 pp.

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松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.Part I–III.石崎書店, 東京.xi + 1605 + pls. 135 pp. 三浦信男.2012.美ら海市場図鑑 知念市場の魚たち.ウェー ブ企画,与那原.140 PP.

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332

太田 格・工藤利洋.2007.八重山海域における主要沿岸 性魚類の種別漁獲量の推定.Pp. 176–180.沖縄県水産 試験場(編),平成 17 年度沖縄県水産試験場事業報告書. 沖縄県水産試験場,那覇.

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

カタクチイワシ科魚類タイワンアイノコイワシの 志布志湾からの確かな記録 畑 晴陵 ・本村浩之 1

1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

カタクチイワシ科タイワンアイノコイワシ属

計数・計測方法は Hata and Motomura (2017a) に

魚類 Encrasicholina は,尾鰭が二叉型であること,

したがった.標準体長は体長と表記し,体各部の

腹鰭の前方にのみ稜鱗を有し,背鰭前方と腹鰭後

計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこ

方には稜鱗を欠くこと,尾舌骨が露出し,鰓膜と

なった.タイワンアイノコイワシの生鮮時の体色

峡部筋肉を隔てることなどで特徴付けられ

の記載は,固定前に撮影された志布志湾産標本

(Whitehead et al., 1988; Wongratana et al., 1999),世

(KAUM–I. 112605)のカラー写真に基づく.標本

界で 9 種が知られる(Whitehead et al., 1988; Hata

の作製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009)

and Motomura, 2015, 2016a, b; 2017a).このうち日

に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学

本からはシロガネアイノコイワシ E. heteroloba

総合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時

(Rüppell, 1837), ミ ズ ス ル ル E. pseudoheteroloba

の写真は同館のデータベースに登録されている.

(Hardenberg, 1933),タイワンアイノコイワシ E.

本研究において使用した研究機関略号は以下の通

punctifer Fowler, 1938 の 3 種 が 知 ら れ( 畑 ほ か,

り:HCM -平塚市博物館;KAUM -鹿児島大学

2012; 青 沼・ 柳 下,2013; Hata and Motomura,

総合研究博物館.

2016b),鹿児島県においてはこれら全ての種の分 布 が 標 本 に 基 づ き 確 認 さ れ て い る( 畑・ 本 村, 2011, 2017b, c;畑,2017, 2018a, b; Nakae et al., 2018). 鹿児島県本土における魚類相調査の過程で志

結果と考察 Encrasicholina punctifer Fowler, 1938 タイワンアイノコイワシ (Fig. 1)

布志湾南岸に位置する高山町の沖合から 1 個体の タイワンアイノコイワシが得られた.本標本は志 布志湾における本種の標本に基づく確かな記録と なるため,ここに報告する.

Hata, H. and H. Motomura. 2018. First reliable record of Encrasicholina punctifer (Clupeiformes: Engrauliade) from Shibushi Bay, east coast of the mainland of Kagoshima, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 333–340. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 16 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-048.pdf

Stolephorus zollingeri (not of Bleeker): Hardenberg, 1934: 326, fig. 8 [Ambon, Menado (currently Manado), and Java, Indonesia]; Matsubara, 1955: 195 (Kaohsiung, Taiwan; East Indies; Polynesian Islands): Hayashi and Tadokoro, 1962a: 27, figs. 1–3 (Miyazaki, Japan); Hayashi and Tadokoro, 1962b: 30, figs. 1–3 (Shizuoka, Aichi, Wakayama, and coast of Seto Inalnd Sea in Yamaguchi, Japan); Nishishimamoto, 1963: 56 (Funaki Bay and Funaura, Iriomote Island, Okinawa, Japan); Higo, 1964: 37 (Amami-oshima island, Amami Islands, Japan); Nakai et al., 1969: 51 (Okitsu, Komagoe, Mochimune, Yoshida, Omaezaki and Maisaka, Sizuoka Prefecture, Japan); Yoshino et al., 1975: 66 (Ryukyu Islands); Hayashi and Nishiyama, 1980: 17

333


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Encrasicholina punctifer (KAUM–I. 112605, 64.2 mm standard length, Shibushi Bay, east coast of Osumi Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan).

(Ninomiya, Kanagawa Prefecture, Japan). Encrasicholina punctifer Fowler, 1938: 157, pl. 7, fig. 13 (type locality: Fare Bay, Huaheine Island, Society Islands, French Polynesia); Nelson, 1983: 52 [in part: Celebes (currently Sulawesi), Indonesia; Taiwan; Fiji; Hawaii]; Wongratana 1987: 6 (in part: Pacific); Whitehead et al., 1988: 399, unnumbered fig. (in part: Indonesia; Thailand; the Philippines; China; north to southern Japan; northern and eastern coasts of Australia; Hawaii; Solomon Islands; Fiji; Samoa: Tahiti); Aonuma, 1993: 209, unnumbered fig. (in part: southern Japan, south to Southeast

334

Asia, Hawaii); Young et al., 1994: 221, fig. 4 (Chinshan, Tachi, Tongkang, Suao, and Fangliao, Ta i w a n ) ; Wo n g r a t a n a e t a l . , 1 9 9 9 : 1 7 1 7 , unnumbered fig. (in part: Gulf of Thailand, Indonesia, northern Australia to east to Tahiti; Philippines, southern Japan, and Hawaii); Tanaka and Ozawa, 2000: 35 (western Pacific from north of Mariana Islands to Solomon Islands); Aonuma, 2000: 249 (in part: southern Japan, south to Southeast Asia, Hawaii); Awaiwanont, 2001: 30, fig. 1C (Thailand); Aonuma, 2002: 249 (in part: southern Japan, south to Southeast Asia, Hawaii);


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Chen, 2003: 22, unnumbered fig. (Penghu Islands, Taiwan); Senou et al., 2006: 410 (Sagami Sea, Japan); Maeda et al., 2006: 34, fig. 3 (Okinotorishima island, Japan); Ueda and Morioka, 2007: 10, fig. 2 (Shishikui, Tokushima, Japan); Kagoshima City Aquarium Foundation, 2008: 53, unnumbered fig. (Kasasa, Koyama, Uchinoura, and Funama, Kagoshima, Japan); Hata and Motomura, 2011: 61, fig. 14 (Ibusuki, Kaimon, and Uchinoura, Kagoshima, Japan); Ambak et al., 2012: 44, unnumbered fig. (Malaysia); Aoyagi and Yagishita, 2013: 303, unnumbered fig. (in part: Pacific coast from Sagami Bay to southern coast of Kyushu, Seto Inland Sea, and Ryukyu Islands, Japan; Taiwan; Hong Kong; Pacific); Ishikawa 2013: 31, unnumbered fig. (Bang Pakong, Gulf of Thailand, Thailand); Hata and Motomura 2015: 123 (in part: mouth of Bang Pakong River, Chachoengsao, Thailand; Manila, Philippines; Hainan Island, China; Minami-satsuma, Kaimon, Ibusuki, and Uchinoura, Kagoshima, Japan; 1.8 km west of Lehua Island, and Honolulu, Oahu, Hawaiian Islands; Bora Bora Island and Fare Bay, Huaheine Island, Society Islands, French Polynesia); Hata and Motomura, 2016a: 86 (Chiringa-jima island, Kasasa, Uchinoura Bay and Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan; Iriomnote-jima island, Yaeyama Islands, Japan; East China Sea; Hainan Island, China; Manila, Luzon, Philippines; Nha Trang, Vietnam; Gulf of Thailand; Phuket Island, Thailand; Lombok and Sulawesi, Indonesia; New Britain Island, Papua New Guinea; Pomona, Queensland, Australia; Haputo, Guam; Apia, Upolu Island, Samoa; Hawaiian Islands; northern Mariana Islands; Kiribati, Fare Bay, Huaheine Island, Society Islands, French Polynesia); Hata, 2017a: 44, unnumbered figs. (Panay Island, Philippines); Hata, 2017b: 42, unnumbered figs. (Kagoshima Bay, Japan); Hata, 2018a: 82, unnumbered figs. (Uchinoura Bay, Kagoshima Prefecture, Japan); Kagoshima City Aquarium Foundation, 2018: 69, unnumbered fig. (Kasasa, Koyama, Uchinoura, and Funama, Kagoshima Prefecture, Japan); Nakae et al., 2018: 215 (Atetsu and Setouchi, Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan). Anchoviella zollingeri: Fowler and Bean, 1922: 2 [Takao (currently Kaohsiung), Taiwan]; Fowler, 1941: 700 (East Indies, Formosa, and Polynesia). Stolephorus buccaneeri Strasburg, 1960: 396, fig. 1b, 2 (type locality: 200 yard west of Lahua Island, Niihau, Hawaiian Islands); Whitehead, 1967: 256,

Nature of Kagoshima Vol. 44

fig. 36 (Taiwan; Hong Kong, China; Philippines; Palau; Singapore); Shen, 1971: 102 (Taiwan); Wongratana, 1980: 149 (Thailand); Uyeno and Sato, 1984: 20, pl. 337-H (in part: southern Japan, Southeast Asia, and Hawaii); Hamaguchi, 1991: 108 (Ninomiya, Kanagawa Prefecture, Japan); Mohsin and Ambak, 1996: 129, fig. 196 (in part: Malaysia and eastward to Hawaii); Kimura et al., 1998: 15 (north of Papua New Guinea). Stolephorus punctifer: Shen, 1984: 10, pl. 10, 44-2 (Taiwan). 標 本 KAUM–I. 112605, 体 長 64.2 mm, 鹿 児 島県肝属郡肝付町高山町沖志布志湾(31°21′N, 131°02′E),2018 年 2 月 20 日,定置網,畑 晴陵・ 小枝圭太・川間公達・中村潤平. 記載 背鰭不分枝軟条数 2;背鰭分枝軟条数 11;臀鰭不分枝軟条数 2;臀鰭分枝軟条数 13;胸 鰭不分枝軟条数 1;胸鰭分枝軟条数 13;腹鰭不分 枝軟条数 1;腹鰭分枝軟条数 6;尾鰭軟条数 19; 第 1 鰓 弓 上 枝 鰓 耙 数 18; 第 1 鰓 弓 下 枝 鰓 耙 数 24;第 1 鰓弓総鰓耙数 42;第 2 鰓弓上枝鰓耙数 11;第 2 鰓弓下枝鰓耙数 20;第 2 鰓弓総鰓耙数 31;第 3 鰓弓上枝鰓耙数 10;第 3 鰓弓下枝鰓耙 数 12;第 3 鰓弓総鰓耙数 22;第 4 鰓弓上枝鰓耙 数 7;第 4 鰓弓下枝鰓耙数 8;第 4 鰓弓総鰓耙数 15;第 3 上鰓骨後面上の鰓耙数 5;腹鰭前方稜鱗 数 4;側線鱗数 40;擬鰓上の鰓弁数 24. 体各部の体長に対する割合(%):頭長 23.4; 体高 15.9;背鰭前長 52.0;胸鰭前長 24.4;腹鰭前 長 43.5;臀鰭前長 65.0;背鰭基底長 10.4;臀鰭基 底 長 14.3; 尾 柄 長 19.2; 尾 柄 高 7.2; 胸 鰭 長 13.0;眼隔域幅 4.1;上顎長 13.6;下顎長 15.1; 背鰭第 1 不分枝軟条長 5.7;背鰭第 2 不分枝軟条 長 14.0;背鰭第 3 軟条長 13.6;臀鰭第 1 不分枝軟 条長 3.2;臀鰭第 2 不分枝軟条長 8.8;臀鰭第 3 軟 条長 9.6. 体 各 部 の 頭 長 に 対 す る 割 合(%): 眼 窩 径 34.3;眼径 24.8;吻長 16.0;背鰭起部から胸鰭基 底上端までの距離 129.2;背鰭起部から腹鰭起部 までの距離 74.6;背鰭起部から臀鰭起部までの距 離 93.7;胸鰭基底上端から腹鰭起部までの距離 85.5;腹鰭起部から臀鰭起部までの距離 95.1;眼

335


Nature of Kagoshima Vol. 44

後長 49.8. 体は円筒形に近い形状を呈し,やや側扁する.

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ほぼ同じ幅の銀色縦帯があり,その上方に緑が かった黒色縦帯がある.頭部側面は一様に銀白色.

体背縁は吻端から背鰭起部前方にかけて緩やかに

吻端から眼の下方にかけてと,項部に小黒斑が散

上昇し,そこから尾鰭基底上端にかけて極めて緩

在する.背鰭,臀鰭,および尾鰭の各軟条に黒色

やかに下降する.体腹縁は吻端から鰓蓋後縁にか

色素胞が散在する.尾鰭は基底付近が黄色がかる.

けて緩やかに下降し,そこから臀鰭起部にかけて

胸鰭と腹鰭の各軟条は白色半透明.虹彩は銀色.

体軸とほぼ平行となり,そこから尾鰭基底下端に

瞳孔は青みがかった黒色.

かけて極めて緩やかに上昇する.胸鰭基底上端は

分布 タイ・プーケット島から南日本,ハワイ,

鰓蓋後端よりも後方に位置する.胸鰭後端は尖り,

および仏領ポリネシアにかけてのインド・太平洋

腹鰭起部直上に達しない.胸鰭上縁,下縁,およ

に広く分布する(Hata and Motomura, 2016a).日

び後縁はいずれも直線に近い.腹鰭起部は背鰭起

本国内においては神奈川県二宮町(林・西山,

部よりも前方に位置し,たたんだ腹鰭の後端は背

1980; 浜 口,1991), 駿 河 湾(Hayashi and

鰭第 5 軟条起部直下に達する.背鰭起部は腹鰭基

Tadokoro, 1962b,中井ほか,1969),遠州灘(中

底後端よりも後方に位置する.背鰭背縁は起部か

井ほか,1969),愛知県,和歌山県(Hayashi and

ら第 3 軟条後端にかけて上昇し,そこから下降す

Tadokoro, 1962b),徳島県宍喰町,(上田・守岡,

る.臀鰭起部は背鰭基底後端よりも後方に位置す

2007), 山 口 県 瀬 戸 内 海 沿 岸(Hayashi and

る.臀鰭下縁は起部から第 3 軟条後端にかけて下

Tadokoro, 1962b), 宮 崎 県 延 岡 市(Hayashi and

降し,そこから上昇する.尾鰭は二叉型で,湾入

Tadokoro, 1962a), 鹿 児 島 県 本 土(Hata and

する.肛門は体の中央より後方,臀鰭起部前方に

Motomura, 2015, 2016a;畑,2017, 2018a;本研究),

開孔する.口裂は大きく,上顎後端は眼の後端よ

奄美大島(肥後,1964; Nakae et al., 2018),沖縄

りも後方に達するが,前鰓蓋骨前縁には達しない.

島( 三 浦,2012), 西 表 島(Nishishimamoto,

吻部は突出し,その先端は鈍く,吻長は眼窩径よ

1963),および沖ノ鳥島(前田ほか,2006)から

りも短い.前鰓蓋骨と鰓蓋の後縁は円滑で,一様

記録されている.

に後方に膨出し,凹まない.眼窩は前後方向に長

備考 記載標本は,尾鰭が臀鰭と連続せず,二

い楕円形,眼と瞳孔はほぼ正円形をそれぞれ呈す

叉型であること,腹鰭前方の体腹縁に稜鱗を 4 枚

る.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,

有し,背鰭前方と腹鰭後方には稜鱗がないこと,

眼の前縁前方に位置する.両鼻孔はともに背腹方

尾舌骨が露出し,鰓膜と峡部筋肉を隔てることな

向にわずかに長い楕円形を呈し,皮弁はない.胸

ど が Whitehead et al. (1988) や Wongratana et al.

鰭下方から腹鰭前方にかけての体腹縁に鋭く尖っ

(1999) によって定義された Encrasicholina 属に同

た,針状を呈する稜鱗が 4 枚,縦に 1 列に並ぶ.

定された.さらに,上顎が短く,その後端が前鰓

腹鰭後方と背鰭前方には稜鱗はない.体側鱗はほ

蓋骨前縁に達しないこと,背鰭と臀鰭の不分枝軟

ぼ全て脱落している.尾鰭両葉の基底部には数枚

条数がそれぞれ 2 であること,第 1 から第 4 の各

ずつ剥がれにくい鱗が密生しており,三角形の集

鰓弓の総鰓耙数がそれぞれ 42, 31, 22, 15 であるこ

合を形成する.両顎と口蓋骨には 1 列の円錐歯が

と,背鰭第 1 軟条長が体長の 5.7% であることな

並ぶ.鋤骨には数本の円錐歯がある.基舌骨背面

どが Hata and Motomura (2015, 2016a, b, 2017a) に

には数列の円錐歯が並ぶ.鰓耙は細長く,棒状.

よって示された E. puntifer の標徴とよく一致した

擬鰓上にフィラメント状の鰓弁を有する.尾舌骨

ため,本種に同定された.また,記載標本から得

は露出し,鰓膜と峡部筋肉を隔てる.尾舌骨の露

られた計数・計測値は Hata and Motomura (2016a)

出部は強く側扁し,左右に肉質部を有する.

によって示された E. punctifer のそれらとよく一

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に乳白色.鰓 蓋後方から尾鰭基底にかけて体側中央に瞳孔径と

336

致した. Encrasicholina puntifer は主上顎骨後端が前鰓蓋


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Nature of Kagoshima Vol. 44

骨前縁に達しないこと,背鰭と臀鰭の不分枝軟条

たのは松原(1955)である.彼は Fowler (1941)

数がそれぞれ 2 であること,体復縁に鋭い稜鱗を

を引用し,本種を S. zollingeri として報告すると

そなえることから,アフリカ東岸からインド沿岸

同時に,その分布域に台湾・高雄を含めると同時

に分布する E. intermedia Hata and Motomura, 2016

に,和名タイワンアイノコを提唱した.なお,

と紅海とペルシャ湾に分布する E. gloria Hata and

Fowler (1941) の台湾におけるタイワンアイノコイ

Motomura, 2016 に酷似するが,第 1 から第 4 の各

ワ シ の 記 録 は,Fowler and Bean (1922) が Ancho-

鰓弓の総鰓耙数が少なく,それぞれ 34–45, 25–36,

viella zollingeri として台湾・高雄から得られた全

14–23, 13–20(E. intermedia で は そ れ ぞ れ 46–50,

長 40 mm 以下の 25 個体を報告したものを引用し

36–38, 23–25, 19–21, E. gloria ではそれぞれ 52–59,

たものである.

42–45, 26–29, 19–23)であること,また,E. gloria

日本から初めてタイワンアイノコイワシを報

とはさらに,背鰭第 1 軟条長が体長の 3.8–6.8%(E.

告したのは Hayashi and Tadokoro (1962a) である.

gloria では 6.8–7.9%)であることによっても識別

彼らは宮崎県延岡市の沖田川河口,延岡市土々呂

される(Hata and Motomura, 2016a).

沖,および静岡県沼津市静浦沖から得られた本種

タイワンアイノコイワシに適用される学名は

を詳細に報告した.その後,林・田所(1962b)

長 ら く 混 乱 が 見 ら れ,1960 年 代 初 頭 ま で は,

は静岡県沼津市,愛知県,和歌山県,および山口

Stolephorus zollingeri Bleeker, 1849 とされることが

県の瀬戸内海沿岸から得られた本種を S. zollingeri

多かった(例えば Hardenberg, 1934;松原,1955;

として報告し,Nishishimamoto (1963) は西表島か

Hayashi and Tadokoro, 1962a, b).現在 S. zollingeri

ら得られた本種 4 個体を S. zollingeri としてその

は カ タ ク チ イ ワ シ Engraulis japonica Temminck

詳細な形態と,琉球列島においては漁獲されるこ

and Schlegel, 1846 の新参異名とされる(Whitehead

とが稀であることを報告した.中井ほか(1969)

et al., 1988; Wongratana et al., 1999).その後,タイ

は 1967 年夏季に生じた,岡県静岡市興津から浜

ワンアイノコイワシには Strasburg (1960) により,

松市舞阪にかけての駿河湾・遠州灘におけるタイ

ハワイ産の個体に基づき記載された S. buccaneeri

ワンアイノコイワシの大量の出現を報告した.ま

Strasburg, 1960 の学名が適用されることが多かっ

た,林・西山(1980)と浜口(1991)は 1961 年

た も の の( 例 え ば Whitehead, 1967; Shen, 1971;

に神奈川県二宮町沖で得られたタイワンアイノコ

上 野・ 佐 藤,1984),Nelson (1983) に よ り S.

イワシ 1 個体(HCM-51-915)を報告した.これ

buccaneeri は E. puntifer の新参異名であり,タイ

が本種の分布の北限記録であると思われる.

ワンアイノコイワシに適用すべき学名は後者であ

上野・佐藤(1984)は本種を S. buccaneeri とし

る こ と が 示 さ れ て い る(Whitehead et al., 1988;

て報告し,本種の分布域に南日本を含めると同時

Hata and Motomura, 2015, 2016a).

に,本種の和名をタイワンアイノコイワシとした.

タイワンアイノコイワシは長らくアフリカ東

上野・佐藤(1984)の報告まで,本種の和名はタ

岸から日本,ハワイ,および仏領ポリネシアにか

イワンアイノコとされてきたが,これ以降,タイ

けてのインド・太平洋に広く分布するとされてき

ワンアイノコイワシとされることがほとんどであ

たが(Whitehead et al., 1988; Wongratana et al., 1999;

る(例えば,青沼,1993, 2000, 2002;青沼・柳下,

青沼・柳下,2013),紅海とペルシャ湾に分布す

2013;畑,2018a).その後,前田ほか(2006)は

るものは E. gloria,アフリカ東岸からインド沿岸

沖ノ鳥島近海において 1228 個体のタイワンアイ

に分布するものは E. intermedia とされ,タイワン

ノコイワシが得られたことを報告した.上田・守

アイノコイワシの分布は太平洋とタイ・プーケッ

岡(2007)は徳島県宍喰町沿岸で得られた本種を

ト島に限られることが明らかにされている(Hata

報告すると同時に,2006 年当時,宍喰町のほか,

and Motomura, 2016a).

高知県室戸市においても本種が多獲されることを

Encrasicholina punctifer に対し,和名を提唱し

報告した.彼らはさらに,独立行政法人水産総合

337


Nature of Kagoshima Vol. 44

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研究センター中央水産研究所のホームページを参

学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調

照したものではあるが,2004 年に伊勢・三河湾

査プロジェクト」の一環として行われた.本研究

においても本種が多数漁獲された旨を報告してい

の一部は笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 研

る.なお,三浦(2012)は沖縄島南部に位置する

究奨励費(DC2: 29-6652),JSPS 科研費(19770067,

中城湾において漁獲されたカタクチイワシ科魚類

23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS

をミズスルルとして報告しているが,少なくとも

研究拠点形成事業-アジア・アフリカ学術基盤形

成魚の写真(p. 18,右段下から 2 番目の写真)は

成型-「東南アジア沿岸生態系の研究教育ネット

上顎が短いことから,タイワンアイノコイワシで

ワーク」 ,総合地球環境学研究所「東南アジア沿

あると思われる.

岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ

鹿児島県内において,タイワンアイノコイワ

ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性

シ は 内 之 浦 湾( 畑・ 本 村,2011; Hata and Moto-

ホットスポットの構造に関する研究プロジェク

mura, 2015, 2016a; 畑,2018a), 鹿 児 島 湾( 畑・

ト」,文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様

性とその保全に関する教育研究拠点整備」,およ

村,2011; Hata and Motomura, 2016a;

畑,

2017),笠沙(Hata and Motomura, 2016a),および

び鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性プロ

奄美大島(Hata and Motomura, 2016a; Nakae et al.,

ジェクト)学長裁量経費「奄美群島における生態

2018)から標本に基づき記録されている.

系保全研究の推進」の援助を受けた.

タイワンアイノコイワシの志布志湾における 分布記録は財団法人鹿児島水族館公社(2008)と 公益財団法人鹿児島水族館公社(2018)が南さつ ま市笠沙町,内之浦湾,および肝属郡岸良町船間 に加え,志布志湾高山町沖から本種が得られたこ とを報告している.しかし,志布志湾産の標本は 残されておらず,また,示された写真も内之浦湾 産の個体のものであり(山田守彦氏,私信),出 版物による志布志湾における本種の確実な記録は なかった.したがって記載標本は本種の志布志湾 沿岸におけるタイワンアイノコイワシの標本に基 づく初めての記録となる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては国 立海洋生物博物館の小枝圭太博士,鹿児島大学大 学院水産学研究科の川間公達氏と中村潤平氏,な らびに高山町漁業協同組合の組合員の皆様に多大 な協力を賜った.いおワールドかごしま水族館の 山田守彦氏には内之浦湾産タイワンアイノコイワ シの画像に関して情報をいただいた.以上の方々 に謹んで感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大

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Nature of Kagoshima Vol. 44

屋久島初記録のナガサキフエダイ 畑 晴陵 ・本村浩之 1

1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ヒメダイ属魚類 Pristipomoides は日本近海にお いて 8 種が知られ,鹿児島県においてはその全種 の分布が標本に基づき記録されている(桜井, 2014;小枝ほか,2015; Hata and Motomura, 2016a, b, 2017; Hata et al., 2017;小枝,2017).そのうち, ナ ガ サ キ フ エ ダ イ Pristipomoides multidens (Day, 1871) は最大で体長 70 cm,全長 90 cm に達する 大型種で(Senta and Tan, 1975; Allen, 1985; Anderson and Allen, 2001;島田,2013),美味な魚とし て知られる(大富,2011).本種は日本国内にお いては山陰地方から琉球列島にかけて分布すると されるが(島田,2013),沖縄島近海における水 揚げは少なく,稀な種とされる(篠原,1966;三 浦,2012).鹿児島県においてもその記録は少なく, 奄美大島と種子島からのものに限られていた(藤 山,2004;大富,2011;畑・本村,2016b). 2017 年 2 月 21 日に屋久島近海からナガサキフ エダイが採集された.本研究は同海域における本 種の標本に基づく初めての記録となるため,ここ に報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Shinohara (1963) にしたがっ Hata, H. and H. Motomura. 2018. First record of Pristipomoides multidens (Perciformes: Lutjanidae) from Yakushima island, Osumi Islands, Japan. Nature of Kagoshima 44: 341–345. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 16 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-049.pdf

た.標準体長は体長と表記し,体各部の計測はデ ジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった. ナガサキフエダイの生鮮時の体色の記載は,固定 前 に 撮 影 さ れ た 屋 久 島 産 の 1 標 本(KAUM–I. 97959)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録, 撮影,および固定方法は本村(2009)に準拠した. 本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物 館(KAUM: Kagoshima University Museum) に 保 管されており,上記の生鮮時の写真は同館のデー タベースに登録されている. 結果と考察 Pristipomoides multidens (Day, 1871) ナガサキフエダイ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 97959, 体 長 347.0 mm, 鹿 児 島県大隅諸島屋久島近海,水深 50–100 m,2017 年 2 月 21 日,釣り(鹿児島市中央卸売市場魚類 市場にて購入),畑 晴陵. 記載 背鰭棘数 10;背鰭軟条数 11;臀鰭棘数 3; 臀鰭軟条数 8;胸鰭軟条数 16;腹鰭棘数 1;腹鰭 軟条数 5;側線有孔鱗数 50;前鰓蓋骨上の鱗列数 6;背鰭前方鱗数 14;側線上方横列鱗数 7;側線 下方横列鱗数 13. 体各部の体長に対する割合(%):体高 31.1; 頭長 33.1;吻長 11.5;上顎長 14.0;眼隔域幅 8.8; 眼窩径 8.4;尾柄高 10.1;胸鰭長 30.5;眼窩骨幅 5.6; 背鰭第 4 棘長 14.3;臀鰭第 3 棘条長 7.6. 体は前後方向に長い楕円形で,やや側扁し,体 高は背鰭起部で最大.吻端から背鰭起部にかけて の体背縁は緩やかに上昇し,そこから尾鰭基底上 端にかけて緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端 から腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そこから

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Lateral and dorsal views of body and head, respectively, of fresh specimen of Pristipomoides multidens (KAUM–I. 97959, 347.0 mm SL, Yaku-shima island, Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, Japan).

臀鰭起部にかけては体軸と平行となり,臀鰭起部

直下にそれぞれ位置する.たたんだ腹鰭の後端は

から尾鰭基底にかけて緩やかに上昇する.胸鰭基

肛門に達せず,背鰭第 10 棘起部よりもわずかに

底上端は鰓蓋後端よりもわずかに前方,胸鰭基底

後方に達する.背鰭起部は腹鰭起部よりも僅かに

下端は腹鰭起部よりも僅かに前方にそれぞれ位置

後方,背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上にそれぞ

する.胸鰭後端は尖り,肛門に達せず,背鰭第

れ位置する.背鰭棘は第 4 棘が最長.棘部の鰭膜

10 棘起部直下に達する.腹鰭起部は背鰭起部よ

は僅かに切れ込むが,背鰭背縁は深く凹まない.

りも僅かに前方,腹鰭基底後端は背鰭第 3 棘起部

背鰭軟条は全て分枝する.背鰭軟条部はほぼ同じ

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RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 44

高さ.背鰭軟条のうち最長のものは最後軟条で,

は,左右方向に長い,破線状の多数の V 字型の

糸状に伸長する.臀鰭起部は背鰭第 1 軟条起部よ

斑紋を形成する.吻部背面には左右方向に長い V

りもわずかに後方,臀鰭基底後端は背鰭基底後端

字状黄色帯が 2 本あり,それらはいずれも暗青色

直下にそれぞれ位置する.臀鰭棘は第 3 棘が最長.

に縁取られる(Fig. 2).背鰭は一様に明るい黄色

臀鰭軟条は全て分枝し,最長のものは最後軟条で,

を呈し,中央部に瞳孔よりも幅の広い紫色縦帯が

糸状に伸長する.尾鰭は二叉型で,深く湾入する.

ある.胸鰭上部と基底部は黄色を呈し,下部は白

肛門は正円形で,臀鰭起部前方に位置する.眼,

色半透明.腹鰭と臀鰭は一様に白色.尾鰭は一様

瞳孔はともにわずかに前後方向に長い楕円形.眼

に紫がかった桃色を呈し,上葉は黄色みがかり,

隔域は平坦.吻部側面は溝がなく,平坦.鼻孔は

尾鰭下縁は白色.瞳孔は青みがかった黒色を呈し,

2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁

虹彩は金色.前縁を除いて,眼は鮮やかな黄色に

前方に位置する.両鼻孔はともにわずかに前後方

縁取られる.

向に細長い楕円形.前鼻孔の後縁には皮弁をそな

固定後の色彩 ― 体背面から体側上部にかけて

える.体は剥がれにくい櫛鱗に被われ,各鰭,両

の体側は紫がかった灰色を呈し,体腹面は一様に

顎,吻部,眼の周囲,前鰓蓋骨後部は無鱗.背鰭

鈍い銀色となる.体側の黄色斑は一様に消失し,

前方鱗被鱗域の先端は眼窩後縁よりも後方に位置

暗青色斑は淡い褐色斑となる.各鰭は一様に乳白

し,前縁は楔形.前鰓蓋骨後縁は鋸歯状を呈し,

色となる.

鰓蓋後縁は円滑.頭長は眼窩骨幅の 5.9 倍.口裂

分布 紅海からサモア諸島にかけてのインド・

は大きく,上顎後端は眼の先端よりも後方に達す

太平洋に広く分布する(Senta and Tan, 1975; Allen,

るが,瞳孔の先端よりも前方に位置する.前上顎

1985; Anderson and Allen, 2001;島田,2013).日

骨は突出可能で,吻部とつながらない.上顎前部

本国内では山陰地方,九州北岸,長崎,種子島,

には 1 対の牙状歯をそなえる.上顎側部の外側に

お よ び 琉 球 列 島(Temminck and Schlegel, 1843;

は鋭い円錐歯が 1 列に並び,内側には絨毛状歯が

Jordan et al., 1913; 篠 原,1966; 具 志 堅,1972;

密生し,歯帯を形成する.鋤骨歯と口蓋骨歯はと

藤山,2004;島田,2013;畑・本村,2016b)か

もに絨毛状.鋤骨の歯帯は三角形を呈し,後方に

ら記録されていた.本研究により,屋久島近海に

伸長しない.下顎には 1 列の円錐歯が並ぶ.舌上

おける分布も確認された.

は無歯.擬鰓上にフィラメント状の鰓弁を有する.

備考 屋久島産の標本は,背鰭と臀鰭の各軟

鰓耙は細長く,棒状.側線は完全で,鰓蓋上部後

条は最後軟条がそれぞれ最長であり,糸状に伸長

方から尾鰭基底にかけて,体背縁と平行にはいる.

すること,眼隔域が平坦であること,鋤骨歯と口

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部に

蓋骨歯がともに絨毛状であること,胸鰭が吻部よ

かけては紫がかった淡い桃色を呈し,眼の直後か

りも著しく長いこと,吻部側面には溝がなく,平

ら尾鰭基底にかけて,瞳孔径よりも細い多数の黄

坦であること,背鰭は 10 棘 11 軟条からなり,背

色縦帯がある.側線は黄色に縁取られる.体側に

縁が深く切れ込まないこと,背鰭,臀鰭,および

は淡青色斑が多数散在する.体側下部から体腹面

主上顎骨が被鱗しないこと,前上顎骨が突出可能

は一様に銀白色.頭部側面には吻端から眼にかけ

で吻部とつながらないことなどが,Allen (1985)

て 2 本,前鰓蓋骨上部にかけて 1 本の計 3 本の黄

と Anderson and Allen (2001) によって定義された

色縦帯がある.頭部のそれぞれの黄色縦帯は暗青

Pristipomoides 属の標徴と一致した.また,側線

色縦帯に縁取られる.前鰓蓋骨後縁上部から鰓蓋

有孔鱗数が 50 であること,頭部側面には吻端か

後縁上部にかけて瞳孔よりも細い 3 本の黄色縦帯

ら眼にかけて 2 本の青色斑に縁どられる黄色縦帯

がある.鰓蓋下部は一様に淡桃色.眼隔域背面に

があること,生時,吻部背面に左右方向に長い V

は黄褐色の虫食い模様と,それらを縁取るように

字状黄色帯が 2 本あることなどが Allen (1985) や

暗青色斑が多数ある,これらの黄色斑と暗青色斑

Anderson and Allen (2001),島田(2013)の報告し

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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た Pristipomoides multidens の標徴とよく一致した

する.本研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿

ため,本種と同定された.

児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環

Allen (1985) や Anderson and Allen (2001),島田 (2013) は 本 種 の 標 徴 と し て, 体 長 15 cm,25

として行われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励 費(DC2: 29-6652),笹川科学研究助成金(28-745),

cm,40 cm の個体ではそれぞれ頭長が眼下骨幅の

JSPS 科

費(19770067, 23580259, 24370041,

7.0,5.5,4.0 倍であるとし,その割合が徐々に低

26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業-

下することを示唆した.しかし,本研究の記載標

B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国立科学博

本は体長 347.0 mm であるにも関わらず,頭長は

物館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に

眼下骨幅の 5.9 倍と,上記の 3 報告で報告された

関する研究プロジェクト」,文部科学省特別経費

体長 25 cm の割合よりも大きい.しかし,頭長の

「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育

眼下骨幅に対する割合は彼らの示した値よりも変

研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領域研究

異が大きいことが畑・本村(2016b)によって報

環境(生物多様性・島嶼プロジェクト)学長裁量

告されており,本研究においても種内変異と判断

経費の援助を受けた.

した. ナガサキフエダイの日本における分布は,畑・ 本村(2016b)によって詳述されており,鹿児島 県内における記録はこれまで種子島と奄美大島か ら の も の に 限 ら れ て い た( 藤 山,2004; 大 富, 2011;畑・本村,2016b).また,本種は屋久島の 魚類相を包括的に報告した Motomura et al. (2010) や Motomura and Aizawa (2011),および Motomura and Harazaki (2017) にも記録されていない.した がって,記載標本は屋久島における本種の標本に 基づく初めての記録となる.なお,標本としては 残されていないものの,記載標本は 15 個体ほど のナガサキフエダイと同時に水揚げされており, 群れで出現したものと考えられる.また,第 1 著 者は 2016 年から 2017 年にかけて鹿児島市中央卸 売市場魚類市場において,本種が種子島や奄美大 島から多数水揚げされているのを頻繁に目撃して おり,薩南諸島に多数のナガサキフエダイが頻繁 に出現していることがうかがわれる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の 皆さまには適切な助言を頂いた.標本の採集に際 しては,田中水産の田中 積氏ならびに鹿児島市 中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様に多大なご 協力を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表

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引用文献 Allen, G. R. 1985. FAO species catalogue. Vol. 6. Snappers of the world. An annotated and illustrated catalogue of lutjanid species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 6: 1–208. Anderson, W. D. and Allen, G. R. 2001. Lutjanidae Snappers (Jobfishes). Pp. 2840–2918, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. 藤山萬太.2004.私本 奄美の釣魚.藤山萬太,奄美.179 pp. 具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp. Hata, H., Iwatsubo, H. and Motomura, H. 2017. First specimenbased records of Pristipomoides auricilla (Perciformes: Lutjanidae) from the Satsunan Islands. The Biological Magazine Okinawa, 55: 19–26. Hata, H. and Motomura, H. 2016a. First specimen-based records of Pristipomoides flavipinnis (Perciformes: Lutjanidae) from the Tokara and Amami islands, Japan. South Pacific Studies, 36 (2): 103–110. 畑 晴陵・本村浩之.2016b.種子島から得られたナガサキ フ エ ダ イ Pristipomoides multidens. Nature of Kagoshima, 42: 225–229. 畑 晴陵・本村浩之.2017.鹿児島湾から得られたフエダ イ科魚類バラヒメダイ Pristipomoides typus.南紀生物, 59 (1): 67–70. Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. 小枝圭太.2017.フエダイ科.Pp. 163–167.岩坪洸樹・本 村浩之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児 島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 小枝圭太・前川隆則・本村浩之.2015.奄美大島から得 られたシマチビキ Pristipomoides zonatus. Nature of Kagoshima, 41: 111–114.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

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鹿児島県初記録のハタ科魚類イッテンサクラダイ 田代郷国 ・高山真由美 ・本村浩之 1

1

2

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ハタ科ハナダイ亜科(Serranidae: Anthiadinae) に属するイッテンサクラダイ属 Odontanthias Bleeker, 1873 は,背鰭条数が 10 棘 12–19 軟条,臀鰭 軟条数が 7–8(通常 7),背鰭棘の後側に沿う鰭膜 の先端に遊離した伸長部がある,背鰭軟条の 1 本 以上が糸状に伸長する(短く目立たない場合もあ る),前鰓蓋後縁は鋸歯状で隅角部に大きな棘ま たは鋸歯がある,舌上に歯板がある,および尾鰭 が二叉型であることなどで特徴づけられる (Randall and Heemstra, 2006;White, 2011; 瀬 能, 2013).イッテンサクラダイ属魚類は水深 50–400 m の比較的深場の岩礁域に生息しており,トロー ルや一本釣りで稀に漁獲される程度で,各種の分 布状況に関する報告も散発的で少ない. 本属魚類はインド・太平洋の熱帯から温帯域 にかけて 14 有効種が知られている(Randall and Heemstra, 2006;White, 2011).そのうち,日本国 内 か ら は, マ ダ ラ ハ ナ ダ イ O. borbonius (Valenciennes, 1828), ハ タ タ テ ダ イ O. flagris Yoshino and Araga, 1975,バラハナダイ O. katayamai (Randall, Maugé and Plessis, 1979),ボロサクラダイ O. rhodopeplus (Günther, 1872),およびイッテンサク ラダイ O. unimaculatus (Tanaka, 1917) の 5 種が記 Tashiro, S., M. Takayama and H. Motomura. 2018. First records of Odontanthias unimaculatus (Perciformes: Serranidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 347–351. ST: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k0587888@kadai.jp). Published online: 18 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-050.pdf

録されている(瀬能,2013). 鹿児島県における魚類相調査の過程で,大隅 諸島黒島沖からトカラ列島平島北西沖にかけての 海域から 8 個体(体長 116.8–158.6 mm)のイッテ ンサクラダイが採集された.これらの標本は鹿児 島県における本種の初記録であるため,ここに報 告する. 材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は Randall and Heemstra (2006) に従った.標準体長は体長または SL と表記した. 標本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009) に準拠した.本報告に用いた標本は鹿児島大学総 合研究博物館(KAUM)に保管されており,体 色の記載に用いた生鮮時のカラー写真は同館の画 像データベースに登録されている. 結果と考察 Odontanthias unimaculatus (Tanaka, 1917) イッテンサクラダイ (Table 1; Fig. 1) 標本 8 個体(体長 116.8–158.6 mm):KAUM– I. 50395,体長 158.6 mm,鹿児島県三島村黒島沖, 水深 180 m,一本釣り,宮下 透,2012 年 6 月 25 日;KAUM–I. 78672,体長 136.5 mm,鹿児島 県トカラ列島口之島北西沖(30°02′N, 129°51′E), 一本釣り,水深 130–150 m,中川輝幸(大黒丸), 2012 年 8 月 21 日;KAUM–I. 82934, 体 長 116.8 mm,鹿児島県トカラ列島臥蛇島南方(29°51′N, 129°37′E),水深 190 m,一本釣り,中川輝幸(大 黒 丸 ),2015 年 11 月 21;KAUM–I. 78930, 体 長 137.2 mm,鹿児島県トカラ列島中之島東方屋久 新 曽 根( 海 底 台 地 )(29°45′N, 130°21′E), 水 深

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Fig. 1. Color photographs of Odontanthias unimaculatus from the Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan. A: KAUM–I. 89476, 120.7 mm SL, off Nakano-shima island; B, C: KAUM–I. 82934, 116.8 mm SL, south of Gaja-jima island.

250 m,一本釣り,中川輝幸(大黒丸),2015 年 9

はゆるやかに隆起する.鼻孔は 2 対で眼窩の前端

月 22 日;KAUM–I. 89476,体長 120.7 mm,鹿児

付近に位置する.前鼻孔は管状で,短い皮弁をも

島県トカラ列島中之島東方屋久新曽根(海底台地)

つ.後鼻孔は,前鼻孔に比べ大きく,皮弁をもた

(29°52′N, 129°52′E),水深 130–170 m,一本釣り,

ない.前鰓蓋骨後縁の上部から隅角部にかけては

中川輝幸(大黒丸),2016 年 7 月 26 日;KAUM–I.

小棘からなる鋸歯状.隅角部付近の鋸歯は大きく

110612,体長 128.4 mm,KAUM–I. 110613,体長

強い.前鰓蓋下方の縁辺に後ろ向きの棘が数本並

120.1 mm,KAUM–I. 110614,体長 158.6 mm,鹿

ぶ.主鰓蓋骨の上部後縁には 4 本の棘がある.間

児島県トカラ列島平島北西の権曽根(海底台地)

鰓蓋骨の下部と下鰓蓋骨の上部の縁辺は滑らかで

(29°44′N, 129°23′E),水深 180–230 m,一本釣り,

棘をもたない,あるいは鈍い棘が数本ある.口は

中川輝幸(大黒丸),2017 年 11 月 29–30 日また

大きく,後下方に向かって傾斜する.主上顎骨の

は 12 月 2 日.

幅は後方に向かって広くなり,後端は眼後縁の直

記載 体は長卵形で側扁する.体長は体高の 2.29–2.54 倍.頭部背縁の輪郭は直線的で,項部

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下に達する. 両顎に絨毛状の歯帯をもち,歯帯の幅は前方


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で広く側方で狭くなる.上顎の外列歯はそれより

の鰭膜に桃色がかった淡色域がある.第 1 棘を覆

内側の絨毛状歯より大きく,前方部の左右に 1 対

う鰭膜と第 2 棘以降の鰭膜の伸長部は紫色で,第

の大きな犬歯状歯をそなえる.縫合部付近の内列

3 棘のものは黒色域をともなう.背鰭軟条部は前

歯は大きく,内側後方を向く.下顎歯帯の歯の大

方の基底と縁辺付近に黄色域がある.残りの鰭膜

きさはほぼ一様で,前方部の左右にそれぞれ 1–2

は白色半透明で黄色斑が散在する.胸鰭は半透明

本の犬歯状歯がある.側方部の中央付近の左右に

で,軟条は淡い赤紫色.腹鰭は淡い赤紫色で,わ

それぞれ 1–3 本の先端が後方に湾曲した犬歯状歯

ずかに黄色がかる.臀鰭は淡黄色で縁辺は紫色.

をもつ.鋤骨に後方に長い凧型の歯板があり,最

尾鰭基部は黄色で,上下葉に黄色帯が伸びるが後

前部の数本は後方の歯より大きい.口蓋骨の歯帯

方に向かうに従い淡くなる.それ以外の尾鰭は淡

は後方に向かうに従い幅が狭くなる.内翼状骨に

い赤紫色で中央部に黄色斑が散在する.固定後,

歯をもたない.舌上に幅広い絨毛状の歯帯がある. 頭部と体は細かい櫛鱗で被われるが,眼の前 下方と頭部腹面は無鱗.側線は管状に開孔した有 孔鱗からなり,尾鰭基底に達する.背鰭軟条部や 胸鰭の基底は鱗で被われる.尾鰭基部には 3–4 列 の鱗列がある. 背鰭起部は後側頭骨の直上より前方に位置す る.腹鰭は胸鰭基底の上端直下に位置する.背鰭 棘は第 1 棘が最も短く,第 3 棘で最長となる.以 降の第 4–10 棘はほぼ同長.背鰭棘条部の鰭膜の 切れ込みは,前方で深く,後方に向かうに従って 浅くなる.各棘の後側に沿う鰭膜の先端に遊離し た伸長部があり,第 4 棘のものが最も長い.背鰭 軟条の先端は遊離し,糸状に伸長する.伸長部は 第 2–3 軟条で最も長く,第 4 軟条以降は後方に向 かうに従い短くなる.胸鰭の後縁は円形で,後端 は臀鰭軟条部の基底直上に達する.たたんだ腹鰭 の後端は臀鰭軟条部の基底に達する.臀鰭棘は第 3 棘が最長で,第 1, 2 棘の鰭膜は切れ込む.臀鰭 軟条部の縁辺は円形.尾鰭は 2 叉形で両葉の先端 はわずかに伸びる.尾鰭の分枝軟条先端の数本は 糸状に伸長する. 色彩 (Fig. 1) 頭部と体の地色は淡い赤紫色. 体は腹部の淡色域を除き黄味がかり,体側中央か ら尾柄にかけて銀白色斑が散在する.吻端から眼 下方を上顎上方に沿って走り,鰓蓋後縁に達する 黄色帯がある.両眼間隔域から後頭部にかけて鮮 やかな黄色帯があり,背鰭の基底付近で体色の黄 色域と同化する.下鰓蓋後縁の後方に短い黄色横 帯がある.胸鰭基部に黄色斑がある.背鰭棘部は 黄色で,縁辺部を除く第 3 棘から軟条部にかけて

Table 1. Counts and measurements (expressed as percentages of standard length) of eight specimens of Odontanthias unimaculatus from Kagoshima Prefecture, Japan. Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin rays Anal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays Tubed lateral-line scales Gill rakers (upper + lower) Total gill rakers Measurements (% SL) Body depth Body width Head length Snout length Orbit diameter Interorbital width Upper-jaw length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle length Pre-dorsal-fin length Pre-anal-fin length Pre-pectoral-fin length Pre-pelvic-fin length Dorsal-fin base length 1st spine length of dorsal fin 2nd spine length of dorsal fin 3rd spine length of dorsal fin 4th spine length of dorsal fin 10th spine length of dorsal fin Longest ray length of dorsal fin Anal-fin base length 1st spine length of anal fin 2nd spine length of anal fin 3rd spine length of anal fin Longest ray length of anal fin Caudal-fin length Caudal concavity Pectoral-fin length Spine length of pelvic fin Pelvic-fin length

116.8–158.6 X, 14 III, 7 17–18 I, 5 33–40 12–13 + 28–31 40–44 39.4–43.7 15.6–19.7 34.9–36.1 7.8–10.8 9.1–11.7 9.2–10.3 16.9–17.6 12.5–14.8 17.3–22.6 29.8–32.0 64.3–67.8 34.1–35.8 37.2–39.8 63.4–66.3 6.3–9.3 8.7–14.3 17.1–26.8 13.6–17.0 13.4–16.5 33.4–40.4 19.5–33.8 7.6–10.1 15.1–19.1 15.9–20.1 20.9–23.6 37.6–47.2 23.2–30.8 27.8–34.7 17.7–20.1 36.0–42.8

Modes X, 14 III, 7 18 I, 5 39 13 + 28 41 Means 41.9 17.4 35.5 8.6 10.8 9.8 17.3 13.6 19.3 31.2 65.5 35.0 38.0 65.5 7.6 11.2 21.2 15.2 15.5 37.0 22.4 8.8 16.7 17.9 22.3 41.9 26.9 32.2 18.9 38.1

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体は黄褐色で,背部は褐色がかる.背鰭第 3 棘に

て 報 告 し た. 一 方,Randall(1979) は Odontan-

沿う鰭膜の伸長部にある黒色域は明瞭に残る.

thias Bleeker, 1873 を Holanthias Günther, 1868 の新

分布 本種は南日本,台湾,フィリピンのル

参異名として扱い,これに従って Heemstra and

バング島とパナイ島から記録されている(Lee,

Randall(1999) や 瀬 能(2000) は, 本 種 を

1990;Randall and Heemstra, 2006; 瀬 能,2013;

Holanthias に 帰 属 さ せ た. そ の 後,Odontanthias

Hata, 2017).日本国内においては,小笠原諸島,

は Randall and Heemstra(2006)によって再び有

相模湾,駿河湾,熊野灘,和歌山県,土佐湾,沖

効属として扱われ,これまで Holanthias とされて

縄舟状海盆から記録されている(田中,1917;黒

いたイッテンサクラダイを含むインド・太平洋産

田,1951; 山 川,1985;Shinohara and Matsuura,

の 種 は, 新 属 Meganthias Randall and Heemstra,

1997;Senou et al., 2006;瀬能,2013;池田・中坊,

2006 に帰属させたイトマンオオキンギョを除き

2015).本研究によって,鹿児島県の黒島近海(大

すべて Odontanthias に含められた.なお,属の標

隅諸島),口之島北西沖,臥蛇島南方,中之島東

準和名には片山(1984)が Odontanthias に対して

方の屋久新曽根(海底台地),および平島北西の

適用したイッテンサクラダイ属が再び適用された

権曽根(海底台地) (トカラ列島)から確認された. 備考 記載標本は背鰭軟条数が 14,胸鰭軟条

(瀬能,2013). イッテンサクラダイの国内における記録は,小

数 が 17–18( 通 常 18), 側 線 有 孔 鱗 数 が 33–40,

笠原諸島,相模湾から土佐湾にかけての太平洋沿

背鰭棘は第 3 棘が最長,背鰭軟条のほとんどが糸

岸,および沖縄舟状海盆に限られていた(上記「分

状に伸長する,臀鰭軟条の先端部は糸状に伸長し

布」を参照).従って,本報告で記載した大隅諸

ない,体側に銀白色斑が散在する,第 3 背鰭棘の

島とトカラ列島産の標本は本種の鹿児島県からの

鰭膜先端に黒色域がある,および背鰭軟条部の鰭

初記録となる.

膜縁辺に黒色域があることなどの形態と色彩の特 徴が Randall and Heemstra(2006)が示したイッ

謝辞

テンサクラダイ Odontanthias unimaculatus (Tanaka,

本報告をまとめるにあたり,貴重な標本を採集

1917) の特徴と概ね一致したため,本種に同定さ

していただいた漁船大黒丸船長の中川輝幸氏なら

れた.

びに乗組員の皆様,鹿児島県南さつま市の宮下

記 載 標 本 は Randall and Heemstra(2006) の 記

透氏に感謝の意を表する.また,標本の作製,登

載と比較し,胸鰭軟条数[本研究では 17–18(通

録および管理にご協力いただいた鹿児島大学総合

常 18)vs. Randall and Heemstra(2006) で は 18–

研究博物館ボランティアの皆様と同大学魚類分類

19],側線有孔鱗数(33–40 vs. 34–38),および鰓

学研究室のみなさまに厚くお礼申し上げる.本研

耙 数( 上 枝 + 下 枝 )(12–13 + 28–31 vs. 13–14 +

究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚

27–31)の変異幅が僅かに異なる.これらの差異

類の多様性調査プロジェクト」の一環として行わ

は Randall and Heemstra(2006)の記載が 5 個体(体

れた.の皆様には標本作製と管理に関してご協力

長 83–157 mm)と比較的少数の標本に基づくため,

いただいた.ここに謹んで感謝の意を表する.本

本種の変異幅を補完出来ていないことに起因する

研究は鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産

と考えられる.よって,本研究ではこれらの差異

魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行

は本種の種内変異の範囲内であると判断した.

われた.本研究の一部は日本学術振興会特別研究

イッテンサクラダイは和歌山県田辺から得ら

員奨励費(DC: 16J09608),JSPS 科研費(19770067,

れ た 1 標 本 に 基 づ き, 田 中(1917) に よ っ て

23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS

Anthias unimaculatus として新種記載された.その

研究拠点形成事業- B アジア・アフリカ学術基盤

後,益田ほか(1975)や片山(1984)は本種の学

形成型,国立科学博物館「日本の生物多様性ホッ

名を Odontanthias unimaculatus (Tanaka, 1917) とし

トスポットの構造に関する研究プロジェクト」,

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文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とそ の保全に関する教育研究拠点整備」,および鹿児 島大学重点領域研究環境(生物多様性・島嶼プロ ジェクト)学長裁量経費の援助を受けた. 引用文献 Hata, H. 2017. Odontanthias unimaculatus. P. 90 in Motomura, H., U. B. Alama, N. Muto, R. P. Babaran and S. Ishikawa (eds.). Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. Heemstra, P. C. and Randall, J. E. 1999. Serranidae, groupers and sea basses (also, soapfishes, anthiines, etc.). Pp. 2442–2548 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO, Rome. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野.567 pp. 片山正夫.1984.イッテンサクラダイ.P. 131, pl. 121.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編). 日本 産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京. 黒田長禮,1951.駿河湾魚類分布目録(沿岸淡水魚を含む). 魚類学雑誌,1: 314–338. Lee, S.-C. 1990. A revision of the serranid fish (family Serranidae) of Taiwan. Journal of Taiwan Museum, 43: 1–72. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚.東海大学出版会,東京.378 pp. 本村浩之(編).2009.魚類標本の作製と管理マニュアル. 鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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八代海南部から得られたアジ科魚類ナンヨウカイワリ 中村潤平 ・本村浩之 1

1

2

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに アジ科ヨロイアジ属 Carangoides は 12 種が日 本から知られている(瀬能,2013).そのうちナ ン ヨ ウ カ イ ワ リ C. orthogrammus (Jordan and Gilbert, 1882) は,これまで鹿児島県において内之 浦湾,笠沙,下甑島,宇治群島,薩摩硫黄島,口 永良部島,屋久島,種子島,奄美大島,および与 論島などから記録されていた(Yamakawa, 1969; 財団法人鹿児島市水族館公社,2008;Motomura et al., 2010, 2016; 畑,2013, 2018; 竹 内,2014; 鏑 木,2016;Motomura and Harazaki, 2017; 木 村 ほ か,2017;Nakae et al., 2018; 木 村,2018; 公 益財団法人鹿児島市水族館公社,2018). 2016 年 4 月 11 日に長島東方の八代海で 1 個体 のナンヨウカイワリが採集された.本標本は八代 海における本種の初めての記録となるため,ここ に報告する. 材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は Smith-Vaniz and Carpenter (2007) にしたがった.標準体長は体長または SL と表記し,体各部の計測はデジタルノギスを用い て 0.1 mm までおこなった.ナンヨウカイワリの 生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された長島 Nakamura, J. and H. Motomura. 2018. First record of Carangoides orthogrammus (Perciformes: Carangidae) from southern Yatsushiro Sea, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 353–357. HM: the Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@ kaum.kagoshima-u.ac.jp). Published online: 18 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-051.pdf

産の標本(KAUM–I. 86559)のカラー写真に基づ く.標本の作製,登録,撮影,および固定方法は 本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標本は, 鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に保管さ れており,上記の生鮮時の写真は同館のデータ ベースに登録されている. 結果と考察 Carangoides orthogrammus (Jordan and Gilbert, 1882) ナンヨウカイワリ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 86559, 体 長 299.3 mm, 鹿 児 島 県 出 水 郡 長 島 町 長 島 東 方 八 代 海(31°11′N, 130°12′E;鹿児島中央卸売市場魚類市場にて購 入),2016 年 4 月 11 日,釣り,畑 晴陵. 記載 背鰭鰭条数(露出した鰭条のみ計数) VI-I, 31;臀鰭鰭条数 II-I, 25;胸鰭軟条数 24;腹 鰭鰭条数 I, 5;側線鱗数(湾曲部+直走部)123 + 32 = 155;側線直走部の稜鱗数 20;鰓耙数 10 + 21 = 31. 体 各 部 の 体 長 に 対 す る 割 合(%): 背 鰭 前 長 40.1; 胸 鰭 前 長 28.0; 腹 鰭 前 長 34.5; 臀 鰭 前 長 52.9; 第 1 背 鰭 基 底 長 13.5; 第 2 背 鰭 基 底 長 42.8;臀鰭基底長 36.3;尾柄長 10.1;第 1 背鰭起 部と腹鰭起部を結んだ体高 35.9;胸鰭長 36.5;腹 鰭長 12.0;第 1 背鰭第 2 棘長 5.2;臀鰭前方の第 1 遊 離 棘 長 0.7; 頭 長 28.0; 吻 長 10.3; 上 顎 長 11.1;眼径 5.7;眼後頭長 13.1;両眼間隔 10.0. 体は前後方向に長い長卵形で側扁する.体高 は臀鰭起部で最大.体背縁は吻端から眼の背縁に かけて体軸に対しおよそ 45 度の角度,そこから 第 2 背鰭起部にかけてはそれよりも緩やかに上昇 し,第 2 背鰭起部から尾鰭基底にかけて下降する.

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Fig. 1. Fresh specimen of Carangoides orthogrammus (KAUM–I. 86559, 299.3 mm SL, off Naga-shima island, southern Yatsushiro Sea, Kagoshima Prefecture, Japan).

体腹縁は下顎先端から臀鰭起部にかけてなだらか

両葉の後端は尖る.眼は正円形を呈し,眼を覆う

に下降し,そこから尾鰭基底にかけて緩やかに上

脂瞼は未発達.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互

昇する.胸鰭基底上端は鰓蓋後端より僅かに後方

いに近接し,眼の前縁前方に位置する.吻部は肉

に位置し,胸鰭基底下端は腹鰭起部より前方に位

質で尖る.吻長は眼径より長い.上顎後端は眼の

置する.胸鰭後端は尖り,背鰭第 13 軟条起部直下,

前縁直下より後方に位置する.体は円鱗に覆われ,

臀鰭第 6 軟条起部直上に達する.腹鰭起部は胸鰭

両顎,吻部,頭部背面,眼の周囲,前鰓蓋骨,鰓

基底下端より後方に位置し,腹鰭基底後端は背鰭

蓋下部,胸鰭基底,および胸部は無鱗.胸部無鱗

起部直下に位置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門

域後端は腹鰭起部までしか達しない.前鰓蓋骨と

を越える.第 1 背鰭起部は腹鰭基底後端直上に位

鰓蓋後縁は円滑.側線は完全で鰓蓋上方から始ま

置する.第 1 背鰭基底後端はたたんだ腹鰭の後端

り,第 1 背鰭基底後端から緩やかに下降し,第 2

より後方に位置する.第 1 背鰭第 1 棘から第 5 棘

背鰭第 15 軟条起部直下で体軸と平行になる.側

の間には鰭膜が発達し,第 5 棘と第 6 棘の間には

線直走部の後部に稜鱗が発達し尾柄部では隆起す

皮下に棘が埋没している.第 2 背鰭起部は臀鰭前

る.尾柄部に 2 本の隆起線がある.両顎には円錐

方の第 1 遊離棘の起部より前方に位置する.第 2

歯が密生し,歯帯を形成する.鰓耙は細長く棒状.

背鰭基底後端は臀鰭基底後端よりも僅かに前方に

色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は銀灰色,体

位置する.臀鰭起部前方には 2 本の可動性の遊離

側下部は銀白色を呈する.体側中央部には眼より

棘がある.臀鰭前方の第 1 遊離棘起部は第 2 背鰭

小さい 6 個の黄色斑がある.黄色斑の中心部は鶯

起部よりも後方に位置する.臀鰭起部は第 2 背鰭

色を呈し,一部黄色斑は互いに連続する.第 1 お

第 7 軟条起部直下付近に位置する.第 2 背鰭と臀

よび第 2 背鰭は灰白色を呈し,鎌状に伸長する部

鰭の基底部は前後方向に長い鞘鱗に被われる.第

分は青みがかる.第 2 背鰭を覆う鞘鱗は深緑色.

2 背鰭と臀鰭の前部は鎌状を呈するが,フィラメ

胸鰭は淡い黄色を呈し,基底は上端は黒色でその

ント状には伸長しない.尾鰭は二叉型で湾入し,

他の部分は白色.腹鰭は白色.臀鰭は灰白色を呈

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し,鎌状に伸長する部分は青みがかる.臀鰭を覆

耙数が 21 であること,胸部無鱗域後端が腹鰭起

う鞘鱗は赤みがかった白色.尾鰭は青みがかった

部までしか達しないことなどが Gushiken (1983)

灰色で,後縁は黒色.光彩は淡い黄色で,瞳孔は

や Smith-Vaniz (1999), 瀬 能(2013) の 報 告 し た

黒色.眼の前縁は黒色に,後縁は黄色にそれぞれ

Carangoides orthogrammus の標徴とよく一致した

縁取られる.側線直走部は淡い黄色.尾柄部中央

ため,本種と同定された.

に黒色域がある.

Carangoides orthogrammus を日本から初めて報

分布 ケニア,セーシェル・アルダブラ環礁,

告したのは Suzuki (1962) である.彼は京都府宮

チャゴス諸島,ココス諸島,韓国済州島・鬱陵島,

津市養老から得られた 2 個体(体長 241.0–245.0

日本,台湾,インドネシア,オーストラリア,ハ

mm)を C. jordani(現在 C. orthogrammus の新参

ワイ諸島,およびマルキーズ諸島,およびメキシ

異名とされている:Gushiken, 1983)として報告

コ・レビジャヒヘド諸島のインド・汎太平洋に広

した.その後 Yamakawa (1969) は奄美大島名瀬か

く分布する(Smith-Vaniz, 1999;瀬能,2013).国

ら得られた 2 個体(体長 205–213 mm)を Caranx

内では,これまで新潟県佐渡から長崎県野母崎町

ferdau として報告するとともに和名ナンヨウカイ

の日本海・東シナ海沿岸,伊豆諸島八丈島,小笠

ワリを提唱した.彼が報告した Caranx ferdau は

原群島父島,火山列島北硫黄島,硫黄島,南硫黄

現在 Carangoides ferdau として和名クロヒラアジ

島,青森県陸奥湾・津軽海峡,相模湾から鹿児島

にあてられているが(瀬能,2013),吻長が眼径

県内之浦湾の太平洋沿岸,鹿児島県笠沙,下甑島,

より長い特徴から Carangoides orthogrammus であ

宇治群島,薩摩硫黄島,口永良部島,屋久島,種

る(Nakae et al., 2018;本研究).

子島,奄美大島から与那国島にかけての琉球列島,

これまでに知られていたナンヨウカイワリの

お よ び 南 大 東 島 か ら 記 録 さ れ て お り(Suzuki,

分布は上述の分布の項のとおりであり,長島列島

1962;Yamakawa, 1969; 塩 垣・ 道 津,1973;

の魚類相を調査した並田(1977)においても記録

Gushiken, 1983;西村ほか,1988;南大東村誌編

されておらず,長島から得られた標本は本種の八

集委員会,1990;東京都水産試験場,1994;木村,

代海において初めての記録となる.

1997, 2018;塩垣ほか,2004;吉野,2008;財団

本種は島嶼域に多く生息し,内湾や淡水の影

法人鹿児島市水族館公社,2008; Motomura et al.,

響がある水域における出現は稀であるが(Smith-

2010, 2016;三浦,2012;瀬能,2013;畑,2013,

Vaniz, 1999;畑,2018),本報告において非常に

2018;竹内,2014;池田・中坊,2015;Koeda et

閉鎖度が高く,内湾環境が卓越する八代海(有明

al., 2016; 鏑 木,2016;Motomura and Harazaki,

海・八代海総合調査評価委員会,2006)において

2017;木村ほか,2017;Nakae et al., 2018;公益

確認された.本種の八代海への加入は,黒潮分流

財団法人鹿児島市水族館公社,2018),本研究に

による遇発的なものであると考えられる.

より新たに八代海南部における分布が確認され た.

謝辞

備考 本標本は腹鰭を有すること,両顎に歯

本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学大

帯を有すること,背鰭と臀鰭が糸状に伸長しない

学院連合農学研究科の畑 晴陵氏には標本の採集

こと,側線直走部の後部にのみ稜鱗が発達するこ

ならびに文献の収集をはじめ,本稿に対して適切

と,脂瞼が発達しないこと,第 1 鰓弓上の鰓耙数

な助言を賜った.原口百合子氏をはじめとする同

が 31 であることなどにより,Gushiken (1983) や

大学総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類

Smith-Vaniz (1999),Lin and Shao (1999) によって

分類学研究室の皆さまには標本の作製・登録作業

定義された Carangoides 属の標徴と一致した.ま

などに際し多大なるご協力を頂いた.これらの

た,生鮮時,体側に黄色斑が散在し,暗色横帯が

方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は,鹿児

ないこと,吻が尖り,眼径より長いこと,下枝鰓

島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様

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性調査プロジェクト」の一環として行われた.本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形 成事業- B アジア・アフリカ学術基盤形成型,国 立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポット の構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省 特別経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に関 する教育研究拠点整備」,および鹿児島大学重点 領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁 量経費「奄美群島における生態系保全研究の推進」 の援助を受けた. 引用文献 有明海・八代海総合調査評価委員会.2006.有明海・八代 海総合調査評価委員会報告.環境省 有明海・八代海 総合調査評価委員会,東京.85 + (80) pp. Gushiken, S. 1983. Revision of the carangid fishes of Japan. Galaxea, 2: 135–264. 畑 晴陵.2013.ナンヨウカイワリ.P. 144.本村浩之・出 羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿 児島・国立科学博物館,つくば. 畑 晴陵.2018.ナンヨウカイワリ.P. 238.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編) ,黒潮あたる鹿児島 の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち.鹿児島大学 総合研究博物館,鹿児島.

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種子島から得られたマルサヨリ 畑 晴陵 ・鏑木紘一 ・本村浩之 1

1

2

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに マ ル サ ヨ リ Hyporhamphus dussumieri Valenciennes, 1847 は体長 30 cm 程度に達するサヨリ科魚 類である.西太平洋の熱帯域に多く分布し,同海 域の島嶼域や珊瑚礁域においては最も一般的なサ ヨリ科魚類とされ,曳網などで漁獲され,干物な どにして食用とされる(Collette, 1999).日本国 内においては琉球列島に多産する.沖縄島におい ては定置網や刺網,釣りなどで漁獲され,「ゆし ばゆー」と称され,市場に並べられる(具志堅, 1972; 益 田 ほ か,1975; 吉 野,1984; 三 浦, 2012).鹿児島県において,マルサヨリは奄美群 島からは複数例の記録があるものの(例えば佐々 木,2014;Nakae et al., 2018;森下,2018),大隅 諸島以北においては口永良部島における記録があ るに過ぎなかった(木村ほか,2017). 2017 年 11 月 23 日,種子島南部東岸に位置す る竹崎漁港において,1 個体のマルサヨリが第 2 著者により釣獲された.本標本は種子島における 本種の標本に基づく初めての記録となるため,こ こに報告する. 材料と方法 計数・計測方法は Collette and Su (1986) にした Hata, H., K. Kaburagi and H. Motomura. 2018. First record of Hyporhamphus dussumieri (Beloniformes: Hemiramphidae) from Tanegashima island, Japan. Nature of Kagoshima 44: 359–362. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 24 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-052.pdf

がった.標準体長は体長と表記し,体各部の計測 はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこなっ た.マルサヨリの生鮮時の体色の記載は,固定前 に撮影された種子島産標本(KAUM–I. 110167) のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影, および固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に 保管されており,上記の生鮮時の写真は同館の データベースに登録されている.本報告中で用い られている研究機関略号は以下の通り:FAKU(京 都大学);FRLM(三重大学大学院生物資源科学 研究科水産実験所);KAUM(鹿児島大学総合研 究博物館) ;NSMT-P(国立科学博物館) ;YCM(横 須賀市自然・人文博物館). 結果と考察 Hyporhamphus dussumieri Valenciennes, 1847 マルサヨリ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 110167, 体 長 263.1 mm, 鹿 児 島 県 種 子 島 南 種 子 町 竹 崎 漁 港(30°22′15″N, 130°57′31″E),水深 5 m,2017 年 11 月 23 日,釣り, 鏑木紘一. 記載 背鰭 16 軟条;臀鰭 14 軟条;胸鰭 11 軟条; 腹鰭 6 軟条;第 1 鰓弓上の鰓耙数 8 + 31;第 2 鰓 弓上の鰓耙数 5 + 27;背鰭前方鱗数 39. 体各部の体長に対する割合(%):下顎長(下 顎 先 端 か ら 上 顎 先 端 ま で の 距 離 )21.9; 頭 長 22.0;胸鰭長 13.4;胸鰭基底上端から腹鰭起部ま での距離 43.2(腹鰭起部から尾鰭基底中央までの 距離の 118.2%);腹鰭起部から尾鰭基底中央まで の距離 36.6;背鰭基底長 14.6;臀鰭基底長 10.3; 吻長 8.3;眼窩径 5.9;骨質眼隔域幅 6.0;上顎長 4.1

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Hyporhamphus dussumieri (KAUM–I. 110167, 263.1 mm standard length, Tanega-shima island, Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, Japan).

(上顎幅の 75.8%);上顎幅 5.4;眼の先端から涙

先端から上顎先端までの長さは頭長の 99.4%.下

骨先端までの距離 3.2(眼窩径の 54.5%;上顎長

顎先端部はわずかに下方に膨出し,丸みを帯びる.

の 78.9%).

下顎は上顎によって被われる部分の外縁部に小円

体は前後方向に長い円筒形.体背縁は吻端か

錐歯が密生する.上顎は縦扁し,板状を呈し,先

ら胸鰭上方にかけて極めて緩やかに上昇し,そこ

端は尖る.上顎は短く,上顎幅の 0.76 倍.上顎

から背鰭起部にかけてはほぼ直線状を呈し,体軸

には外縁部に小円錐歯が密生する.鋤骨と口蓋骨

とほぼ平行となる.背鰭起部から尾鰭基底上端に

は無歯.涙骨は強く側扁し,眼と口裂後端を隔て

かけての体背縁は極めて緩やかに下降する.下顎

る.涙骨側面には眼前管がある.眼前管は後方に

先端から吻端直下にかけては体背縁,体腹縁とも

分枝をそなえ,T 字状を呈する.眼窩,眼,およ

に直線状を呈し,体軸とほぼ平行.体腹縁は吻端

び瞳孔はいずれも前後方向にわずかに長い楕円

直下から胸鰭後方にかけて極めて緩やかに下降

形.眼隔域は平坦.鼻孔は眼の直前に位置し,前

し,そこから腹鰭起部にかけてはほぼ直線状とな

後方向に長い楕円形.鼻孔内に 1 本の短い皮弁が

り,体軸と平行となる.腹鰭起部から尾鰭基底下

ある.鼻孔後縁に骨質隆起縁がある.体は円鱗に

端にかけての体腹縁は極めて緩やかに上昇する.

被われる.背鰭前方鱗は吻端まで被う.頭部側面

胸鰭基底上端は鰓蓋後端よりもわずかに後方に位

は無鱗.下顎は一切被鱗しない.側線は胸鰭基底

置する.胸鰭後端は尖り,腹鰭起部には達しない.

下端から始まり,下方へと伸長し,体腹縁付近で

胸鰭の上縁,後縁,および下縁はほぼ直線状.胸

後方に屈曲し,尾柄部腹縁に達する.

鰭は最上の 1 軟条のみ不分枝.腹鰭起部は背鰭起

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部に

部よりも前方に位置し,たたんだ腹鰭の後端は肛

かけては黒色を呈し,体側中央から体腹面にかけ

門に達しない.腹鰭は最前の 1 軟条のみ不分枝.

ては一様に銀白色.鰓蓋後方から尾柄中央にかけ

背鰭起部は臀鰭起部よりも前方,背鰭基底後端は

ての体側中央に瞳孔よりも細い 1 本の緑色縦帯が

臀鰭基底後端よりもわずかに後方にそれぞれ位置

ある.側線は黒色.下顎背面は黒色を呈し,側面

する.背鰭背縁は起部から第 3 軟条後端にかけて

は灰白色.下顎先端部の膨出部から下顎腹面にか

上昇し,そこから湾入しながら下降する.背鰭は

けては鮮やかな赤色.胸鰭と腹鰭は白色半透明を

前部の 3 軟条のみ不分枝.臀鰭起部は背鰭第 5 軟

呈し,各軟条には黒色色素胞が散在する.背鰭は

条起部直下に位置する.臀鰭は前部の 2 軟条のみ

一様に白色半透明を呈し,縁辺部は黒色.臀鰭は

不分枝.尾鰭は二叉型で深く湾入する.尾鰭両葉

一様に白色半透明を呈し,黒色色素胞はない.尾

の後端はやや丸みを帯びる.尾鰭上縁と下縁はそ

鰭は一様に白色を呈し,上葉の縁辺部は黒色.下

れぞれ上下方にわずかに膨出する.尾鰭後縁は丸

葉の縁辺部は黒色を呈し,上葉のものよりも淡い.

みを帯びる.尾鰭下葉は上葉よりも明らかに長い.

虹彩は銀白色を呈し,瞳孔は青みがかった黒色.

肛門は正円形を呈し,臀鰭起部前方に位置する.

分布 インド・西太平洋の熱帯域に広く分布

下顎は著しく長く,縦扁し,板状を呈する.下顎

360

する(Collette and Su, 1986; Collette, 1999;藍沢・


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Nature of Kagoshima Vol. 44

土居内,2013).日本国内においてはこれまで,

53471,体長 68.7 mm)を報告した;Nakae et al.

高知県以布利,大隅諸島口永良部島,奄美群島奄

(2018) は奄美大島近海から得られた 5 個体(BSKU

美大島・与論島,および沖縄県から記録されてお

6949, NSMT-P 131258, KAUM–I. 37524, YCM-P

り(藍沢・土居内,2013;吉郷,2014;佐々木,

39392, 39395)のマルサヨリを報告した.

2014; 木 村,2017; Nakae et al., 2018; 森 下,

マルサヨリの種子島における分布記録はなく,

2018),本研究において大隅諸島種子島における

同地域の魚類相を報告した鏑木(2016)にも含め

分布が確認された.

られていない.したがって,本研究において記載

備考 種子島産標本は,下顎が長く,下顎先 端から上顎先端までの長さが頭長の 99.4% であ ること,鼻孔内に 1 本の短い皮弁があること,胸 鰭から体腹縁にかけて伸長する側線が 1 本である

をおこなった種子島産標本は本種の大隅諸島にお ける初めての記録となる. 謝辞

こと,吻部背面に鱗があること,および鼻孔後縁

本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子氏

に 骨 質 隆 起 縁 が 発 達 す る こ と な ど が Collette

をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン

(1999) によって定義された Hyporhamphus 属の特

ティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには

徴とよく一致した.また記載標本は上顎が尖り,

適切な助言を頂き,謹んで感謝の意を表する.本

胸鰭基底上端から腹鰭起部までの距離が腹鰭起部

研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県

から尾鰭基底中央までの距離の 118.2% であるこ

産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として

と,第 1 鰓弓上総鰓耙数が 39 であること,上顎

行われた.本研究の一部は笹川科学研究助成金

が 短 く, 上 顎 幅 の 75.8% で あ る こ と な ど が

(28-745),JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 29-6652),

Collette and Su (1986), Collette (1999),および藍沢・

JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041,

土居内(2013)の報告した H. dussumieri の標徴

26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業-

とよく一致したため,本種に同定された.

アジア・アフリカ学術基盤形成型-「東南アジア

冨山(1934)は台湾・台北から得られた本種

沿岸生態系の研究教育ネットワーク」,総合地球

に対し和名マルサヨリを提唱すると同時に,本種

環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリア

の分布域に琉球列島を含めた.その後,マルサヨ

ケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立科

リ は 沖 縄 島(Collette and Su, 1986; 吉 郷 ほ か,

学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの構

2001;鳥居ほか,2011),石垣島(Tachihara et al.,

造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特別

2003),および与那国島(Koeda et al., 2016)など,

経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する

沖縄県内各地から報告されている(吉郷,2014).

教育研究拠点整備」,および鹿児島大学重点領域

また,御所(2001)は高知県土佐清水市以布利か

研究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経

ら得られた体長 12.4 cm の 1 個体(FAKU 65156)

費「奄美群島における生態系保全研究の推進」の

を報告しており,これが本種の分布記録の北限と

援助を受けた.

思われる. 鹿児島県内において,マルサヨリは以下の通 り,口永良部島,奄美大島,および与論島から報 告されている:藤山(2004)は奄美大島近海から 得られた本種の写真を報告した;佐々木(2014) と森下(2018)は与論島から得られたマルサヨリ 2 個体(FRLM 42994, 80.4 mm,KAUM–I. 51232, 体長 79.9 mm)を報告した;木村ほか(2017)は

引用文献 藍 沢 正 宏・ 土 居 内 龍.2013. サ ヨ リ 科.Pp. 651–654, 1927–1928.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Collette, B. B. 1999. Hemiramphidae, halfbeaks. Pp. 2180–2196 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO, Rome.

口永良部島近海から得られた本種 1 個体(FRLM

361


Nature of Kagoshima Vol. 44 Collette, B. B. and Su, J. 1986. The halfbeaks (Pisces, Beloniformes, Hemiramphidae) of the Far East. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia, 138 (1): 250–301. 藤山萬太.2004.私本 奄美の釣り魚.藤山萬太,奄美. 179 pp. 御所豊穂.2001.マルサヨリ.P. 166.中坊徹次・町田吉彦・ 山岡耕作・西田清徳(編),以布利 黒潮の魚.海遊館, 大阪. 具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp. 鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. 木村祐貴・日比野友亮・三木涼平・峯苫 健・小枝圭太. 2017.緑の火山島 口永良部島の魚類.鹿児島大学総 合研究博物館,鹿児島.200 pp. Koeda, K., Hibino, Y., Yoshida, T., Kimura, Y., Miki, R., Kunishima, T., Sasaki, D., Fukuhara, T., Sakurai, M., Eguchi, K., Suzuki, H., Inaba, T., Uejo, T., Tanaka, S., Fujisawa, M., Wada, H. and Uchinyama T. 2016. Annotated checklist of fishes of Yonaguni-jima island, the westernmost island in Japan. The Kagoshima University Museum, Kagoshima. vi + 120 pp. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚.東海大学出版会,東京.379 pp. 三浦信男.2012.美ら海市場図鑑 知念市場の魚たち.ウェー ブ企画,与那原.140 pp. 森下悟至.2018.サヨリ科.P. 63.本村浩之・萩原清司・ 瀬能 宏・中江雅典(編),奄美群島の魚類.鹿児島大 学総合研究博物館,鹿児島,横須賀市自然・人文博物 館,横須賀,神奈川県立生命の星・地球博物館,小田原, 国立科学博物館,つくば.

362

RESEARCH ARTICLES 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Nakae, M., Motomura, H., Hagiwara, K., Senou, H., Koeda, K., Yoshida, T., Tashiro, S., Jeong, B., Hata, H., Fukui, Y., Fujiwara, K., Yamakawa, T., Aizawa, M., Shinohara, G. and Matsuura, K. 2018. An annotated checklist of fishes of Amamioshima Island, the Ryukyu Islands, Japan. Memoirs of the National Museum of Natural Science, Tokyo, 52: 205–361. 佐 々 木 大 地.2014. マ ル サ ヨ リ Hyphorhamphus dussumieri (Valenciennes, 1847). P. 81.本村浩之・松浦啓一(編), 奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島大学総合 研究博物館,鹿児島,国立科学博物館,つくば. Tachihara, K., Nakao, K., Tokunaga, K., Tsuhako, Y., Takada, M. and Shimose, T. 2003. Ichthyofauna in mangrove estuaries of the Okinawa, Miyako, Ishigaki and Iriomote Islands during August from 2000 to 2002. Bulletin of the Society of Sea Water Science, Japan, 57 (6): 481–490. 冨山一郎.1934.クルメサヨリ Hemirhamphus kurumeus の 分布と日本産サヨリ科の魚に就きて.動物学雑誌,46: 401–410. 鳥居高志・塩根嗣理・加藤憲一・杉浦幸彦・黒川忠之・大 野正博・大城朝一・新垣敏一.2011.河口閉塞による 感潮域魚類相への影響.応用生体工学,13 (2): 123–139. 吉郷英範.2014.琉球列島産陸水性魚類相および文献目録. Fauna Ryukyuana, 9: 1–153. 吉郷英範・内藤順一・中村慎吾.2001.比和町立自然科学 博物館魚類収蔵標本目録.比和町立自然科学博物館標 本資料報告,2: 119–168. 吉野哲夫.1984.マルサヨリ.P. 79, pl. 70-E.益田 一・尼 岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),日本産 魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.


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Nature of Kagoshima Vol. 44

鹿児島県から得られたハタ科魚類 2 稀種の記録 畑 晴陵 ・岩坪洸樹 ・高山真由美 ・本村浩之 1

1 2

2

3

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科

〒 892–0847 鹿児島市西千石町 11–21 鹿児島 MS ビル 鹿児島水圏生物博物館 3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに オ ビ ハ タ Epinephelus fasciatomaculosus (Peters, 1865) とモヨウハタ Epinephelus quoyanus (Valenciennes, 1830) はともにハタ科マハタ属魚類であり, それぞれ日本からボルネオ島にかけての西太平洋 と,アンダマン諸島から日本,オーストラリア東 岸にかけてのインド・西太平洋に分布する.両種 とも台湾や中国・香港においては刺網や釣りなど で多獲され,食用魚として重要である(Randall and Heemstra, 1991; Heemstra and Randall, 1993, 1999). しかし,2 種はいずれも日本においては報告例 の少ない,非常に稀な種であり,モヨウハタに関 しては,正確な国内における分布域も長らく不明 であり(瀬能,2013),近年になって琉球列島に おける標本に基づく分布が確認された(Hata et al., 2016).オビハタにおいては,これまで和歌山 県 と 長 崎 県 か ら の み 記 録 さ れ て い た( 瀬 能, 2013). 鹿児島県における魚類相調査の過程で,薩摩 川内市沖と種子島近海から計 2 個体のオビハタ が,枕崎市沖から 1 個体のモヨウハタが採集され

た.これらの標本はそれぞれ,鹿児島県における オビハタの,九州沿岸におけるモヨウハタの標本 に基づく初めての記録となるため,ここに報告す る. 材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は Randall and Heemstra (1991) に し た が っ た. 各 種 の 標 準 和 名 と 学 名 は 瀬 能 (2013)にしたがった.標準体長は体長または SL と表記し,体各部の計測はデジタルノギスを用い て 0.1 mm までおこなった.ハタ科 2 種の生鮮時 の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児島県産 標本(記載標本の項を参照)のカラー写真に基づ く.標本の作製,登録,撮影,および固定方法は 本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標本は, 鹿児島大学総合研究博物館に保管されており,上 記の生鮮時の写真は同館のデータベースに登録さ れている.本報告中で用いられている研究機関略 号は以下の通り:KAUM -鹿児島大学総合研究 博物館;RUSI -南アフリカ水圏生物多様性研究 所. 結果と考察 Epinephelus fasciatomaculosus (Peters, 1865)

Hata, H., H. Iwatsubo, M. Takayama and H. Motomura. 2018. Records of two species of groupers (Perciformes: Serranidae), Epinephelus fasciatomaculosus and E. quoyanus, from Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 363–369. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 27 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-053.pdf

オビハタ (Figs. 1, 2; Table 1) 標本 2 個体,体長 246.1–272.3 mm:KAUM–I. 114000,体長 246.1 mm,全長 303.0 mm,鹿児島 県種子島中種子町増田沖,水深 30 m,2017 年 12 月 10 日,釣り,漁船豊生丸;KAUM–I. 200001, 体長 272.3 mm,全長 336.0 mm,鹿児島県薩摩川 内 市 沖(31°17′N, 130°05′E),2014 年 8 月 30 日,

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimens of Epinephelus fasciatomaculosus from Kagoshima Prefecture, Japan (upper: KAUM–I. 114000, 246.1 mm SL, Tanega-shima island, Osumi Islands; lower: KAUM–I. 200001, 272.3 mm SL, off Satsuma-sendai).

岩坪洸樹・田中 積.

みを帯びる.背鰭第 1 軟条は背鰭最後棘である第

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

11 棘より長い.背鰭軟条は第 9 軟条が最長.胸

を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円

鰭基底上端は背鰭起部よりも僅かに後方,胸鰭基

形でやや側扁し,尾柄部は強く側扁する.体幅は

底下端は背鰭第 2 棘起部よりも後方にそれぞれ位

胸鰭基底部付近で最大.体高は背鰭起部から背鰭

置する.胸鰭後縁は丸く,後端は背鰭第 9 棘起部

第 3 棘起部付近で最大.体背縁は下顎先端から背

直下付近に達する.腹鰭起部は胸鰭基底下端より

鰭起部にかけて盛り上がり,そこから尾鰭基底上

後方,腹鰭基底後端は背鰭第 3 から第 4 棘起部直

端にかけて極めて緩やかに下降する.体腹縁は下

下にそれぞれ位置する.腹鰭最後の軟条は体と鰭

顎先端から腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そ

膜でつながる.たたんだ腹鰭後端は背鰭第 7 棘起

こから尾鰭基底下端にかけて緩やかに上昇する.

部直下よりも後方に達するが,肛門には達しない.

背鰭起部は鰓蓋後端よりも前方,背鰭基底後端は

臀鰭起部は背鰭第 1 軟条起部直下,臀鰭基底後端

臀鰭基底後端よりも後方にそれぞれ位置する.背

は背鰭第 11 軟条起部直下に位置する.臀鰭棘は

鰭各棘間の鰭膜は切れ込む.背鰭軟条部外縁は丸

第 3 棘が,臀鰭軟条は第 3 または 5 軟条がそれぞ

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Nature of Kagoshima Vol. 44

れ最長.尾鰭は円形を呈し,後縁中央部は後方に

に前方に位置する.両唇は厚い.前鰓蓋骨後縁は

膨出する。肛門は体の中央より後方,臀鰭起部前

細かな鋸歯状を呈し,下縁は円滑.前鰓蓋骨隅角

方,背鰭第 9 棘起部直下に位置し,正円形を呈す

部に 4 棘をそなえる.鰓蓋後縁は円滑.鰓蓋上部

る.眼と瞳孔はともに前後方向に長い楕円形.鼻

に 2 棘をそなえる.体は細かく剥がれにくい櫛鱗

孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の

に被われるが,両唇,胸鰭腋部は無鱗.側線は完

前縁前方に位置する.両鼻孔はともに正円形を呈

全で,鰓蓋後部上方から尾鰭基底部にかけて体背

し,前鼻孔後縁に皮弁をそなえる.口は端位で口

縁と平行にはしる.側線管開口部は単一.上顎,

裂は大きく,上顎後端は眼の後端直下よりも僅か

鋤骨,口蓋骨,および下顎には小円錐歯が密生し,

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Epinephelus fasciatomaculosus and E. quoyanus from Kagoshima Prefecture, Japan.

Standard length (SL; mm) Counts Dorsal-fin spines Dorsal-fin rays Anal-fin spines Anal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin spines Pelvic-fin rays Pored lateral-line scales Longitudinal scale series Gill rakers Measurement (% SL) Body depth Body width Head length Snout length Orbit diameter Interorbital width Suborbital depth Upper-jaw length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle length Pre-dorsal-fin length Pre-anal-fin length Pre-pelvic-fin length Dorsal-fin base length 1st dorsal-fin spine length 2nd dorsal-fin spine length 3rd dorsal-fin spine length Last dorsal-fin spine length Longest dorsal-fin ray length Anal-fin base length 1st anal-fin spine length 2nd anal-fin spine length 3rd anal-fin spine length Longest anal-fin ray length Caudal-fin length Pectoral-fin length Pelvic-fin length Pelvic-fin spine length

Epinephelus fasciatomaculosus KAUM–I. 114000 KAUM–I. 200001 Tanega-shima island Satsuma-sendai 246.1 272.6

E. quoyanus KAUM–I. 200478 Makurazaki 277.4

11 16 3 8 17 1 5 51 96 8 + 15 = 23

11 16 3 8 17 1 5 56 106 7 + 15 = 22

11 17 3 8 16 1 5 51 81 7 + 14

35.2 19.7 39.7 8.9 7.2 5.9 3.8 16.4 11.6 18.0 34.2 67.2 40.2 63.4 5.1 10.2 12.5 10.3 16.0 18.5 5.4 10.4 10.5 16.9 23.7 26.2 18.8 9.2

37.3 20.8 41.7 9.6 7.7 5.6 3.4 17.8 10.4 18.6 34.4 70.3 42.2 59.4 5.3 9.9 12.4 9.8 15.4 16.8 5.0 9.7 10.8 17.6 22.5 25.1 18.2 9.8

35.4 18.7 39.2 7.6 6.9 6.7 3.3 16.7 12.9 17.2 35.4 67.2 38.0 63.8 5.9 10.4 broken Broken 16.9 18.6 5.3 10.2 10.8 18.0 26.9 30.1 21.2 9.4

365


Nature of Kagoshima Vol. 44

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Randall (1993, 1999),および瀬能(2013)は本種 の標徴として側線有孔鱗数がそれぞれ 48–53 であ ることを挙げたものの,本研究で記載をおこなっ たもののうち,1 個体(KAUM–I. 200001)のそ れは 56 であった.しかし,その差は小さく,本 研究では側線有孔鱗数の差は種内変異と判断し た. Epinephelus fasciatomaculosus は長崎県から得ら Fig. 2. Distributional records of Epinephelus fasciatomaculosus in Japanese waters. Stars and circles represent localities of the specimens examined in this study and previously reported specimens, respectively.

れ た 2 個 体 に 基 づ き,Peters (1865) に よ り, Serranus fasciatomaculosus として記載された.そ の 後,Katayama (1960) は E. fasciatomaculosus を ノミノクチ E. trimaculatus (Valenciennes, 1828) の

絨毛状を呈する.鰓耙は細長く,先端は丸みを帯

新参異名とした.益田ほか(1975)は和歌山県白

びる.鰓弁は細長い糸状.

浜 産 の オ ビ ハ タ を ア オ ハ タ モ ド キ E. stictus

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側中央に

Randall and Allen, 1987 と し て 報 告 し た( 瀬 能,

かけての地色は淡黄色を呈し,体側に 4 本,尾柄

2013).片山(1984)は本種を正しく同定し,日

に 1 本の不明瞭な暗褐色の横帯がはいる.体側に

本における分布域を和歌山県以南とし,新標準和

は赤茶色の斑点が密にはいり,網目状を呈する.

名 オ ビ ハ タ を 提 唱 し た が そ の 表 記 は E. fascia-

体腹面は桃色を呈し,斑紋はない.背鰭と尾鰭は

tomaculatus としていた.なお,片山(1984)に

一様に黄緑がかった茶色.胸鰭は茶褐色を呈し,

図示された個体の産地は不明である.その後,池

外縁は橙色または若草色.腹鰭各鰭条は焦げ茶色

田・中坊(2015)は和歌山県田辺湾沖ノ島,みな

を呈し,各鰭条間の鰭膜は淡い黄緑色.臀鰭は一

べ町から得られた計 2 個体のオビハタを報告し

様に緑がかった茶褐色.虹彩は明るい黄色を呈し,

た.それ以降,日本沿岸におけるオビハタの記録

瞳孔は青みがかった黒色.

はなく,これまで知られていた本種の日本からの

分布 日本,台湾,上海以南の中国,ベトナム,

確実な記録は和歌山県と長崎県からのものに限ら

フィリピン,およびマレーシア・サラワク州から

れる.したがって,本研究で調査した薩摩川内と

記録がある(Lee, 1990; Randall and Heemstra 1991;

種子島産の標本は,鹿児島県初記録となる.

Heemstra and Randall, 1993, 1999; Samoilys, 2011;

瀬能(2013)は本種が台湾や中国南部などの

瀬能,2013) .日本国内では和歌山県と長崎県か

大陸棚域に分布することから,和歌山県以南の本

らのみ記録されており(瀬能,2013),本研究によっ

州,四国,および九州から得られる可能性を予見

て新たに鹿児島県薩摩川内市沖と大隅諸島種子島

していた.今後,瀬能(2013)の指摘した通り,

における分布も確認された(Fig. 2).

四国沿岸からも本種が得られる可能性は高いとみ

備考 鹿児島県産の 2 標本は,体側に横帯が

られる.なお,これまで知られていたオビハタの

あること,体側上部に赤茶色の斑点が密にはいり,

最大体長と全長はそれぞれ台湾澎湖諸島から得ら

網目状を呈すること,胸鰭と尾鰭に斑点がないこ

れた個体(RUSI 28046)の 223 mm と 273 mm で

と,尾鰭が円形を呈すること,前鰓蓋骨隅角部に

あったが(Heemstra and Randall, 1991),記載標本

4 棘をそなえることなどが,Lee (1990) や Randall

の内,薩摩川内産(KAUM–I. 200001)ではそれ

and Heemstra (1991), Heemstra and Randall (1993,

ぞれ 272.3 と 336.0 mm であり,本種の世界最大

1999),瀬能(2013)の報告した E. fasciatomacu-

の標本である.

losus の標徴とよく一致したため,本種と同定さ れた.Randall and Heemstra (1991) や Heemstra and

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Nature of Kagoshima Vol. 44

Fig. 3. Fresh specimen of Epinephelus quoyanus from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 200478, 277.4 mm SL, off Makurazaki).

Epinephelus quoyanus (Valenciennes, 1830)

達する.腹鰭起部は胸鰭基底下端より後方,腹鰭

モヨウハタ (Figs. 3, 4; Table 1)

基底後端は背鰭第 4 棘起部直下にそれぞれ位置す る.腹鰭最後の軟条は体と鰭膜でつながる.たた

標本 KAUM–I. 200478,体長 277.4 mm,全長

んだ腹鰭後端は背鰭第 9 棘起部直下に僅かに達し

353.2 mm,鹿児島県枕崎市沖,2015 年 9 月 11 日,

ない.臀鰭起部は背鰭第 1 軟条起部直下,臀鰭基

釣り(枕崎漁業協同組合で購入),岩坪洸樹・森

底後端は背鰭第 11 軟条起部直下に位置する.臀

幸二.

鰭棘は第 3 棘が,臀鰭軟条は第 5 軟条がそれぞれ

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

最長.尾鰭は円形を呈し,後縁中央部は後方に膨

を Table 1 に示した.体は前後方向に長い長楕円

出する.肛門は体の中央より後方,臀鰭起部前方,

形でやや側扁し,尾柄部は強く側扁する.体幅は

背鰭第 10 棘起部直下に位置し,正円形を呈する.

胸鰭基底部付近で最大.体高は背鰭第 5 棘起部で

眼と瞳孔はともに前後方向に長い楕円形.鼻孔は

最大.体背縁は下顎先端から背鰭起部にかけて盛

2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁

り上がり,そこから尾鰭基底上端にかけて極めて

前方に位置する.両鼻孔はともに正円形を呈し,

緩やかに下降する.体腹縁は下顎先端から腹鰭起

前鼻孔後縁に皮弁をそなえる.口は端位で口裂は

部にかけて緩やかに下降し,そこから臀鰭起部に

大きく,上顎後端は眼の後端よりも後方に達する.

かけて直線状を呈し体軸と平行となり,そこから

両唇は厚い.前鰓蓋骨後縁は細かな鋸歯状を呈し,

尾鰭基底下端にかけて緩やかに上昇する.背鰭起

下縁は円滑.前鰓蓋骨隅角部の鋸歯はそのほかの

部は鰓蓋後端よりも前方,背鰭基底後端は臀鰭基

部位の鋸歯よりも明らかに大きい.鰓蓋後縁は円

底後端よりも後方にそれぞれ位置する.背鰭各棘

滑.鰓蓋上部に 1 棘をそなえる.体は細かく剥が

間の鰭膜は切れ込む.背鰭軟条部外縁は丸みを帯

れにくい円櫛鱗に被われるが,両唇,胸鰭腋部は

びる.背鰭第 1 軟条は背鰭最後棘である第 11 棘

無鱗.側線は完全で,鰓蓋後部上方から尾鰭基底

より長い.背鰭軟条は第 7 軟条が最長.胸鰭基底

部にかけて体背縁と並行にはしる.側線管開口部

上端は背鰭起部よりも僅かに前方,胸鰭基底下端

は単一.上顎,鋤骨,口蓋骨,および下顎には小

は背鰭第 3 棘起部よりも後方にそれぞれ位置し.

円錐歯が密生し,絨毛状を呈する.鰓耙は細長く,

胸鰭後縁は丸く,後端は背鰭第 10 棘起部直下に

先端は丸みを帯びる.鰓弁は細長い糸状.

367


Nature of Kagoshima Vol. 44

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鰭鰭条数が XI, 17 であること,臀鰭鰭条数 III, 8 であること,尾鰭が円形であることなどの特徴が Lee (1990) や Randall and Heemstra (1991), Heemstra and Randall (1993, 1999), 瀬 能(2013) の報告した E. quoyanus の標徴とよく一致したた め,本種と同定された. モヨウハタは尾鰭が円形であること,体側と 尾鰭に焦げ茶色の斑点が密在すること,胸鰭に斑 Fig. 4. Distributional records of Epinephelus quoyanus in Japanese waters. Star and circles represent localities of the specimen examined in this study and previously reported specimens, respectively.

点がないこと,前鰓蓋骨隅角部の鋸歯が前鰓蓋骨 下縁と後縁のものよりも明らかに大きいこと,背 鰭鰭条数が XI, 16–18 であること,臀鰭鰭条数が III, 8 であること,側線有孔鱗数が 47–52 である

色彩 生鮮時の体色 ― 体の地色は明るい黄色.

こ と な ど に お い て キ ビ レ ハ タ E. macrospilos

体背面から体側面にかけて焦げ茶色の斑点が密在

(Bleeker, 1855) に類似するが(瀬能,2013),臀鰭

し,斑点を除いた部分は網目模様を形成する.背

外縁が黒いこと(キビレハタでは黒くない),胸

鰭と尾鰭は黄色を呈し,茶色の斑点が密に入る.

鰭基底下方に茶褐色横帯がある(模様がないか,

尾鰭後縁は黒色に縁取られる.臀鰭は茶褐色を呈

斑点がある)ことで識別される(瀬能,2013).

し,後部は黄褐色.臀鰭外縁は暗色で縁取られる.

モヨウハタを日本から初めて報告したのは

腹鰭前部は焦げ茶色を呈し,後部は黄褐色.胸鰭

Jordan et al. (1913) で あ る. 彼 ら は 本 種 を E.

は一様に赤褐色を呈し,基部付近に胸鰭基底と並

megachir (Richardson, 1846) として報告し,和名モ

行に淡褐色線がはいる.胸鰭基底下方の体側下部

ヨウハタを提唱すると同時に,南日本に分布する

に,2 本の赤褐色帯がはいる.虹彩は明るい黄色

とした.現在,E. megachir は E. quoyanus の新参

を呈し,瞳孔は青みがかった黒色.

異 名 と さ れ て い る(Randall and Heemstra, 1991;

分布 アンダマン諸島からオーストラリア東

Heemstra and Randall, 1993, 1999).しかし,Jordan

岸と南日本,韓国にかけてのインド洋東部・西太

et al. (1913) に詳細な産地の記述はなく,また,

平洋に分布する(Lee, 1990; Randall and Heemstra,

彼らの示した図の胸鰭基底付近の模様は不明瞭で

1991; Heemstra and Randall, 1993, 1999; Yusof, 2011,

あり,E. quoyanus であるかは不明である.

2013; Liu et al., 2011;瀬能,2013; Hata, 2017).日

その後,モヨウハタは伊豆大島(瀬能,2013),

本国内では伊豆大島,和歌山県,高知県柏島,屋

1999),屋久島(Motomura 和歌山県・高知県(池田,

久島,種子島,および慶良間諸島からのみ正確な

et al., 2010;加藤,2014),種子島(鏑木,2016),

分 布 記 録 が あ る(Motomura et al., 2010; 瀬 能,

沖縄県慶良間諸島前島(Hata et al., 2016)からの

2013; Hata et al., 2016;鏑木,2016;Motomura and

み 正 確 な 記 録 が あ る( 瀬 能,2013; Hata et al.,

Harazaki, 2017) .本研究によって,新たに鹿児島

2016).したがって,枕崎産の標本は九州沿岸に

県枕崎市沿岸における分布も確認された(Fig. 4).

おける本種の初めての記録となる.

備考 枕崎産の標本は,臀鰭外縁が暗色で縁 取られること,胸鰭基部付近に淡褐色線がはいる

謝辞

こと,体側と尾鰭に焦げ茶色の斑点が密在し,斑

本研究をおこなうにあたり,原口百合子氏をは

点を除いた部分は網目模様を形成すること,胸鰭

じめとする鹿児島大学総合研究博物館ボランティ

が一様に赤褐色を呈すること,前鰓蓋骨隅角部の

アの皆さまには標本の作製・登録作業等を手伝っ

鋸歯が前鰓蓋骨下縁と後縁のものよりも明らかに

ていただいた.標本の採集に際しては,田中水産

大きいこと,側線有孔鱗数が 51 であること,背

の田中 積氏,山立水産の森 幸二氏,鹿児島大

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Nature of Kagoshima Vol. 44

学総合研究博物館の高山真由美氏ならびに鹿児島 市中央卸売市場魚類市場と枕崎市漁業協同組合の 関係者の皆様に多大なご協力を頂いた.以上の諸 氏に対して謹んでお礼を申し上げる.本研究は, 鹿児島水圏生物博物館の「かごしま市場の魚図鑑 プロジェクト」と鹿児島大学総合研究博物館の「鹿 児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環 として行われた.本研究の一部は笹川科学研究助 成 金(28-745),JSPS 研 究 奨 励 費(DC2: 296652),JSPS 科

費(24370041, 26241027,

26450265),JSPS 研究拠点形成事業-アジア・ア フリカ学術基盤形成型-「東南アジア沿岸生態系 の研究教育ネットワーク」,総合地球環境学研究 所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリ ティーの向上プロジェクト」,国立科学博物館「日 本の生物多様性ホットスポットの構造に関する研 究プロジェクト」,文部科学省特別経費「薩南諸 島の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点 整備」,および鹿児島大学重点領域研究環境(生 物多様性プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島 における生態系保全研究の推進」の援助を受けた. 引用文献 Hata, H. 2017. Epinephelus quoyanus (Valenciennes, 1830). P. 88 in Motomura, H., Alama, U. B., Muto, N., Babaran, R. P. and Ishikawa, S. (eds.) Commercial and bycatch market fishes of Panay Island, Republic of the Philippines. The Kagoshima University Museum, Kagoshima, University of the Philippines Visayas, Iloilo, and Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. Hata, H., Nishimura, M. & Motomura, H. 2016. First specimenbased record of Epinephelus quoyanus (Perciformes: Serranidae) from Okinawa Prefecture, Japan. Biogeography, 18: 47–52. Heemstra, P. C. and Randall, J. E. 1993. FAO species catalogue. Groupers of the world. An annotated and illustrated catalogue of the grouper, rockcod, hind, coral grouper, and lyretail species known to date. FAO Fisheries Synopsis 125, 16: 1–382 + pls. i–xxxi. Heemstra, P. C. and Randall, J. E. 1999. Serranidae, groupers and sea basses (also, soapfishes, anthiines, etc.). Pp. 2442–2548, Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae), FAO, Rome. 池田博美.1999.和歌山県から記録されたモヨウハタ.伊 豆海洋公園通信,10 (11): 2–3. 池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東 海大学出版部,秦野.597 pp.

Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalog of fishes of Japan. Journal of the College of Science. Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497.

鏑木紘一.2016.種子島の釣魚図鑑.たましだ舎,西之表. 157 pp. Katayama, M. 1960. Fauna Japonica, Serranidae (Pisces). 189 pp. + 86 pls. Tokyo News Service, LTD., Tokyo. 片山正夫.1984.オビハタ(新称)Epinephelus fasciatomaculatus (Peters).P. 126, pl. 114-I.益田 一・尼岡邦夫・ 荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),日本産魚類大図 鑑,東海大学出版会,東京. 加藤昌一.2014.ネイチャーウォッチングガイドブック 改訂新版 海水魚.誠文堂新光社,東京.383 pp. Lee, S.-C. 1990. A revision of the serranid fishes (family Serranidae) of Taiwan. Journal of Taiwan Museum, 43 (2): 1–72. Liu, M., Pollard, D. A. and Russell, B. C. 2011. Epinephelus quoyanus (Valenciennes 1830). Pp. 217–219 in Craig, M. T., de Mitcheson, Y. J. S. and Heemstra, P. C. (eds.) Groupers of the world. National Inquiry Services Centre, Grahamstown. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚.東海大学出版会,東京.379 pp. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. and Harazaki, S. 2017. Annotated checklist of marine and freshwater fishes of Yaku-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima, southern Japan, with 129 new records. Bulletin of the Kagoshima University Museum, 9: 1–183. Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara, G., Meguro, M., Matsunuma, M., Takata, Y., Yoshida, T., Yamashita, M., Kimura, S., Endo, H., Murase, A., Iwatsuki, Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi, H. and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247, Motomura, H. and Matsuura, K. (eds.) Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan, National Museum of Nature and Science, Tokyo. Peters, W. 1865. Über einige Bloch’sche Arten der Fisch-Gattung Serranus. Monatsberichte der Königlichen Preussischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin, 1865: 97–111. Randall, J. E. and Heemstra, P. C. 1991. Revision of Indo-Pacific groupers (Perciformes: Serranidae: Epinephelinae), with descriptions of five new species. Indo-Pacific Fishes, 20: 1–322. Samoilys, M. A. 2011. Epinephelus faschiatomaculosus (Peters 1866). Pp. 133–135 in Craig, M. T., de Mitcheson, Y. J. S. and Heemstra, P. C. (eds.) Groupers of the world. National Inquiry Services Centre, Grahamstown. 瀬能 宏.2013.ハタ科.Pp. 757–802, 1960–1971.中坊徹 次(編) ,日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海 大学出版会,秦野. Yusof, Y. 2011. Epinephelus quoyanus (Valenciennes, 1830). P. 84 in Matsunuma, M., Motomura, H., Matsuura, K., Shazili, N. A. M. and Ambak, M. A. (eds.) Fishes of Terengganu – east coast of Malay Peninsula, Malaysia. National Museum of Nature and Science, Tokyo, Universiti Malaysia Terengganu, Terengganu, and Kagoshima University Museum, Kagoshima. Yusof, Y. 2013. Epinephelus quoyanus (Valenciennes, 1830). P. 100 in Yoshida, T., Motomura, H., Musikasinthorn, P. and Matsuura, K. (eds.) Fishes of northern Gulf of Thailand. National Museum of Nature and Science, Tsukuba, Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto, and Kagoshima University Museum, Kagoshima.

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Nature of Kagoshima Vol. 44

奄美大島から得られたウマヅラアジ 畑 晴陵 ・前川隆則 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに

材料と方法

アジ科イトヒキアジ属 Alectis は世界に 3 種が

計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947) にし

知られ(Smith-Vaniz, 1999; Lin and Shao, 1999; Smith-

たがった.稜鱗の計数に関しては,Smith-Vaniz

Vaniz, 2016),日本近海からはそのうちイトヒキア

and Carpenter (2007) にしたがった.標準体長は体

ジ Alectis ciliaris (Bloch, 1787) とウマヅラアジ Ale-

長と表記し,体各部の計測はノギスを用いて 0.1

ctis indica (Rüppell, 1830) の 2 種が知られる.その

mm までおこなった.ウマヅラアジの生鮮時の体

うち,イトヒキアジは日本産アジ科魚類の中でも

色の記載は,固定前に撮影された奄美大島産標本

最も広域に分布する種とされ(武内,2014),鹿

(KAUM–I. 114375)のカラー写真に基づく.標本

児島県において本土,薩南諸島を問わず県内各地

の作製,登録,撮影,および固定方法は本村(2009)

から記録されており(今井・中原,1964, 1969;

に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学

財団法人鹿児島市水族館公社,2008; Motomura et

総合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時

al., 2010;瀬能,2013;武内,2014;鏑木,2016;

の写真は同館のデータベースに登録されている.

Motomura and Harazaki, 2017; 畑,2017; 公 益 財

本報告中で用いられている研究機関略号は以下の

団 法 人 鹿 児 島 市 水 族 館 公 社,2018; Nakae et al.,

通 り:KAUM( 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 );

2018;木村,2018),一部地域では食用魚として

MUFS(宮崎大学農学部海洋生物環境学科).

重要である(畑,2018a).一方,ウマヅラアジは 日本国内において極めて稀な魚とみられ,薩南諸

結果と考察

島においても標本に基づく記録は鏑木(2016)が

Alectis indica (Rüppell, 1830)

種子島から得られたものを報告したものに限られ

ウマヅラアジ (Fig. 1)

る.奄美群島における魚類相調査の過程で,奄美 大島近海から 1 個体のウマヅラアジが採集され

標本 KAUM–I. 114375,体長 659.0 mm,鹿児

た.本標本は奄美大島における本種の標本に基づ

島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2018 年 3

く初めての記録となるため,ここに報告する.

月 17 日,前川隆則. 記載 背鰭鰭条数 II, 20;臀鰭鰭条数 I, 17;胸

Hata, H., T. Maekawa and H. Motomura. 2018. Record of Alectis indica (Perciformes: Carangidae) from Amamioshima, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 44: 371–375. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp).

鰭軟条数 19;鰓耙数 8 + 24 = 32;側線直走部に

Published online: 28 Apr. 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-054.pdf

52.1;臀鰭前長 45.9;第 2 背鰭起部から臀鰭まで

おける稜鱗数 8. 体各部の体長に対する割合(%):頭長 26.5; 吻長 12.8;眼窩径 5.4;眼径 4.6;瞳孔径 2.3;眼 隔域幅 5.9;最大体高 46.7;胸鰭前長 26.0;腹鰭 前 長 22.9; 吻 端 か ら 第 2 背 鰭 起 部 ま で の 距 離

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Nature of Kagoshima Vol. 44

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Fig. 1. Fresh specimen of Alectis indica from Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 114375, 659.0 mm standard length).

の距離 47.0;第 2 背鰭起部から胸鰭基底上端まで

腹鰭基底後端よりも後方,吻端よりも上方にそれ

の距離 31.0;胸鰭基底上端から腹鰭基底前端まで

ぞれ位置する.胸鰭は鎌状を呈し,上縁は上方に

の距離 16.1;胸鰭基底上端から臀鰭起部 28.1;腹

凸の緩やかな放物線を描く.下縁は前部で緩やか

鰭基底前端から臀鰭起部までの距離 23.1;尾柄長

に下方に膨出し,後部で強く上方に湾入する.胸

15.3;尾柄高 4.0;上顎長 8.7;下顎長 10.0;胸鰭

鰭後端は尖り,背鰭第 11 軟条起部直下に達する.

長 34.4;腹鰭長 14.2;腹鰭棘長 13.7;第 2 背鰭基

第 1 背鰭は完全に皮下に埋没し,外見からは観察

底長 50.7;臀鰭基底長 45.6;眼後長 11.6.

できない.第 2 背鰭起部は臀鰭起部よりも前方,

体は強く側扁する.体背縁は吻端から眼の上

背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上にそれぞれ位置

方まで急峻にせり上がり,そこから第 2 背鰭起部

する.第 2 背鰭は鎌状を呈し,背縁は起部から第

にかけては緩やかに上昇する.眼の前方の頭部前

1 軟条後端にかけて上昇し,そこから下方に深く

縁はやや凹む.第 2 背鰭基底部おける体背縁は緩

湾入する.臀鰭起部は第 2 背鰭第 2 軟条起部直下

やかに下降し,尾柄部は体背縁,体腹縁ともに直

に位置する.臀鰭は鎌状を呈し,臀鰭下縁は深く

線状を呈し,体軸とほぼ平行.体腹縁は下顎先端

湾入する.臀鰭前方の遊離棘は皮下に埋没し,外

から腹鰭起部にかけて緩やかに下降し,そこから

見からは観察できない.第 2 背鰭と臀鰭の後方に

臀鰭起部にかけてはそれ以前よりも急に下降す

は小離鰭がない.尾鰭は二叉型を呈し,深く湾入

る.臀鰭基底部の体腹縁は緩やかに上昇する.腹

する.尾鰭両葉の後端はともに尖る.尾鰭両葉の

鰭起部は鰓蓋後端よりも前方,腹鰭基底後端は鰓

前縁と後縁はいずれも直線状.肛門は前後方向に

蓋後端よりもわずかに後方にそれぞれ位置する.

長い楕円形を呈し,左右の腹鰭間に位置する.眼

たたんだ腹鰭の後端は第 2 背鰭起部直下に達しな

と瞳孔はともに正円形.脂瞼は薄く,眼の後部を

い.腹鰭前縁は緩やかに弧を描いて後方に向かう.

被うのみ.鼻孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに

腹鰭後縁は湾入する.胸鰭基底上端は腹鰭基底後

近接し,眼の前縁前方に位置する.前鼻孔および

端直上,眼の下端よりも下方に,胸鰭基底下端は

後鼻孔はともに背腹方向に長い楕円形.下顎先端

372


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Nature of Kagoshima Vol. 44

は上顎先端より僅かに突出する.上顎後端は眼の 先端直下よりもわずかに前方に位置する.主上顎 骨後縁は丸みを帯び,後方に膨出する.両顎と舌 上には小円錐歯が密生し,歯帯を形成する.前鰓 蓋骨と鰓蓋骨後縁はともに円滑.体は細かな円鱗 に被われる.体側鱗のほとんどは皮下に埋没する. 胸鰭基底上端から臀鰭起部にかけての胸部,鰓蓋 上方から第 2 背鰭起部にかけての体側上部,およ び頭部は無鱗.側線は鰓蓋後方から始まり,第 2 背鰭起部直下にかけて体背縁と平行に上昇し,そ こから波打ちながら緩やかに下降し,背鰭第 8 軟 条起部直下で急に下降する.側線はそこから直線 状となり,体軸とほぼ平行に尾鰭基底に至る.尾

Fig. 2. Fresh specimen of Alectis ciliaris from Uhinoura Bay, Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 102452, 439.0 mm standard length).

柄部の側線鱗は隆起し,固く,鋭く尖り,稜鱗と なる.尾鰭基底部に上下で 1 対の隆起線がある. 肩帯後縁は突起がなく,滑らか.鰓耙は細長く,

1 背鰭と臀鰭前方の遊離棘がいずれも皮下に埋没

棒状.擬鰓上にはフィラメント状の鰓弁がある.

し, 外 部 か ら は 目 視 で き な い こ と な ど が,

色彩 生鮮時の色彩 ― 体は一様に銀白色を呈

Gushiken (1983),Gunn (1990),Smith-Vaniz (1999),

し,体側上部はわずかに青みがかる.頭の上部は

および Lin and Shao (1999) によって定義された

黄緑色を帯びる.体側上部には,瞳孔よりも小さ

Alectis 属に同定された.さらに,頭部前縁が凹む

い黄緑色小斑点が不規則に散在する.第 2 背鰭の

こ と, 鰓 耙 数 が 8 + 24 = 32 で あ る こ と が,

各鰭条は灰色を呈し,各鰭条間の鰭膜は鶯色.腹

Gushiken (1983),Gunn (1990),Smith-Vaniz (1999),

鰭と胸鰭は黄緑がかった灰色.臀鰭は白色半透明.

Lin and Shao (1999),および瀬能(2013)によっ

尾鰭は暗褐色を呈し,上葉は下葉と比べて黒みが

て報告された A. indica の標徴とよく一致したた

かる.鰓蓋後部に背腹方向に長い黒色斑がある.

め,本種に同定された.

虹彩は金色,瞳孔は黒色をそれぞれ呈する. 分布 アフリカ東岸からオーストラリア,南

ウマヅラアジはインド・太平洋産種としては 唯一の同属種であるイトヒキアジ(Fig. 2)とは

日本にかけてのインド・西太平洋に広く分布する

頭部前縁の形状(イトヒキアジでは凸出する),

(Gushiken, 1983; Gunn, 1990; Smith-Vaniz, 1999; Lin

鰓耙数が 7–11 + 21–26(4–6 + 12–17)であること

and Shao, 1999; Kimura, 2011, 2013, 2017; 瀬 能,

などにより,容易に識別される(Gushiken, 1983;

2013).日本国内においては島根県中海,山口県

Smith-Vaniz, 1999; Lin and Shao, 1999;瀬能,2013).

日本海沿岸,宮崎県延岡市,鹿児島県内之浦湾,

本 種 を 日 本 か ら 初 め て 報 告 し た の は Suzuki

笠沙,大隅諸島種子島,奄美大島,および沖縄島

(1962) である.彼は山口県日本海沿岸から得られ,

か ら 記 録 さ れ て い る( 佐 々 木,2006; 瀬 能,

下関魚市場に水揚げされた体長 154.0 mm の 1 個

2013;鏑木,2016;畑,2018b;公益財団法人鹿

体を Alectis major (Cuvier, 1833) として報告した.

児島市水族館公社,2018;本研究).

現在,A. major は A. indica の新参異名とされてい

備考 奄美大島産の標本は,臀鰭軟条数が 17

る(Gushiken, 1983).その後,具志堅(1972)は

であること,顕著な腹鰭を有すること,側線後部

沖 縄 県 か ら 得 ら れ た ウ マ ヅ ラ ア ジ 1 個 体 を A.

にのみ,鋭く尖った稜鱗を有すること,体側鱗が

major として報告した.Gushiken (1983) は沖縄島

極めて小さく,皮下にほとんど埋没すること,両

知念に水揚げされた体長 135, 190 mm のウマヅラ

顎に絨毛状歯が密生し,歯帯を形成すること,第

アジ 2 個体を報告し,Iwatsuki et al. (1992) は宮崎

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県延岡市赤水沖から得られた本種 1 個体(MUFS

成型-「東南アジア沿岸生態系の研究教育ネット

8834,体長 104.2 mm)を報告した.佐々木(2006)

ワーク」,総合地球環境学研究所「東南アジア沿

は島根県松江市美保関町下宇部尾(中海)から小

岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ

型定置網によって漁獲された体長約 15 cm のウマ

ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性

ヅラアジ 1 個体を報告した.これが本種の分布記

ホットスポットの構造に関する研究プロジェク

録の北限と思われる.三浦(2012)は沖縄島中城

ト」,文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様

湾において,ウマヅラアジが定置網や刺網によっ

性とその保全に関する教育研究拠点整備」,およ

て幼魚から成魚まで頻繁に漁獲され,「ひらそー

び鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性プロ

じ」と称されることを報告した.鏑木(2016)は

ジェクト)学長裁量経費「奄美群島における生態

種子島東岸に位置する増田向井漁港から 2014 年

系保全研究の推進」の援助を受けた.

8 月 30 日に釣りによって得られたウマヅラアジ 1 個体(KAUM–I. 66403)を報告した.公益財団法 人鹿児島市水族館公社(2018)は鹿児島県薩摩半 島西岸に位置する笠沙町,鹿児島湾南部,大隅半 島東岸に位置する内之浦湾から得られたウマヅラ アジを報告したが,これらの標本はいずれも残さ れていない.畑(2018b)は内之浦湾から得られ たウマヅラアジ 1 個体(KAUM–I. 110099,体長 390.5 mm)を報告した.奄美群島におけるウマ ヅラアジの記録は,藤山(2004)が奄美大島近海 において釣獲された個体の写真を示したものに限 られ,この個体の標本は残されていない(Nakae et al., 2018).したがって,本研究の記載標本は奄 美群島におけるウマヅラアジの標本に基づく初め ての記録となる. 比較標本 イトヒキアジ A. ciliaris: KAUM–I. 102452,体長 439.0 mm,鹿児島県肝付町内之浦 湾(鹿児島市中央卸売市場で購入),2017 年 10 月 24 日,定置網,畑 晴陵. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子氏 をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン ティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには 適切な助言を頂いた.本研究は,鹿児島大学総合 研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部 は笹川科学研究助成金(28-745),JSPS 研究奨励 費(DC2: 29-6652),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形成事業-アジア・アフリカ学術基盤形

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引用文献 藤山萬太.2004.私本 奄美の釣魚.藤山萬太,奄美.179 pp. Gunn, J. S. 1990. A revision of selected genera of the family Carangidae (Pisces) from Australian waters. Records of the Australian Museum Supplement, 12: 1–77. 具志堅宗弘.1972.原色沖縄の魚.琉球水産協会事務局,那覇. 247 pp. Gushiken, S. 1983. Revision of the carangid fishes of Japan. Galaxea, 2: 135–264. 畑 晴陵.2017.アジ科.Pp. 141–160.岩坪洸樹・本村浩 之(編),火山を望む麑海 鹿児島湾の魚類.鹿児島水 圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総合研究博物館,鹿 児島. 畑 晴陵.2018a.イトヒキアジ Alectis cilialis (Bloch, 1787). P. 232.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編), 黒潮あたる鹿児島の海 内之浦漁港に水揚げされる魚 たち.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島. 畑 晴 陵.2018b. ウ マ ヅ ラ ア ジ Alectis indica (Rüppell, 1830). P. 233.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩 之(編),黒潮あたる鹿児島の海 内之浦漁港に水揚げ される魚たち.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島. Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, 26: i–xi + 1–186. 今井貞彦・中原官太郎.1964.鹿児島県の魚類.Pp. 205– 221.鹿児島県理科教育協会(編),鹿児島の自然.鹿児 島県理科教育協会,鹿児島. 今井貞彦・中原官太郎.1969.錦江湾海中公園候補地の魚 類相.Pp. 51–82.鹿児島県(編),霧島・屋久国立公園 錦江湾海中公園調査書.鹿児島県,鹿児島. Iwatsuki, Y., Seguchi, Y., Okabe, K., Hagiwara, M. and Hirano, K. 1992. Report on a collection of carangoid and formionid fishes from the Hyuga Nada area, southern Japan. Bulletin of the Faculty of Agriculture, Miyazaki University, 39: 109–116. Kimura, S. 2011. Carangidae. Pp. 98–1207 in Matsunuma, M., Motomura, H., Matsuura, K., Shazili, N. A. M. and Ambak, M. A. (eds.) Fishes of Terengganu – east coast of Malay Peninsula, Malaysia. National Museum of Nature and Science, Tokyo, Universiti Malaysia Terengganu, Terengganu, and Kagoshima University Museum, Kagoshima.


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鹿児島湾初記録のヒウチダイ科魚類ハシキンメ 畑 晴陵 ・大富 潤 ・本村浩之 1

1

2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2 3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

はじめに ハ シ キ ン メ Gephyroberyx japonicus (Döderlein, 1883) は体長 20 cm 以上に成長する大型のヒウチ ダイ科魚類で,水深 100–750 m に生息する(林, 2013).本種は Döderlein (1883) によって東京市場 に水揚げされた個体に基づき記載されたのち, Jordan et al. (1913) によって和名ハシキンメが提唱 さ れ た. な お, 属 名 の ”gephyro” は「 橋 」 を, beryx は「キンメダイ Beryx splendens Lowe, 1834」 をそれぞれ意味し(清水,1997),和名はこれを 直訳したものと思われる. また,ヒウチダイ科魚類はニュージーランド 近海などに分布し,アメリカなどにおいて高級食 用 魚 と し て 名 高 い Hoplostethus atlanticus Collett, 1889(一般にオレンジラフィー等と称される;山 田ほか,2007;小枝,2018b)など,美味な魚が 多く含まれる.ハシキンメもその例に漏れず,美 味 な 魚 と し て 知 ら れ( 清 水,1997; 山 田 ほ か, 2007),静岡県沼津市などでは盛んに漁獲され, 高級魚として扱われる(小枝,2018a).しかし, 本種の鹿児島県における分布記録は少なく,標本 に基づくものは内之浦湾と,奄美大島からのもの に限られた(小枝,2018a; Nakae et al., 2018). Hata, H., J. Ohtomi and H. Motomura. 2018. First record of Gephyroberyx japonicus (Beryciformes: Trachichthyidae) from Kagoshima Bay, southern Japan. Nature of Kagoshima 44: 377–381. HH: the United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k2795502@kadai.jp). Published online: 2 May 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-055.pdf

2018 年 4 月 19 日,鹿児島市の対岸に位置する 垂水市沖から 1 個体のハシキンメが底曳網により 漁獲された.本標本は鹿児島湾における本種の標 本に基づく初めての記録となるため,ここに報告 する. 材料と方法 計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947) にし たがった.標準体長は体長と表記し,体各部の計 測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこ なった.ハシキンメの生鮮時の体色の記載は,固 定 前 に 撮 影 さ れ た 鹿 児 島 湾 産 標 本(KAUM–I. 114806)のカラー写真に基づく.標本の作製,登 録,撮影,および固定方法は本村(2009)に準拠 した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研 究博物館に保管されており,上記の生鮮時の写真 は同館のデータベースに登録されている.本報告 中で用いられている研究機関略号は以下の通り KAUM -鹿児島大学総合研究博物館;SNFR - 西海区水産研究所.なお,ハシキンメの学名は林 (2013)にしたがった. 結果と考察 Gephyroberyx japonicus (Döderlein, 1883) ハシキンメ (Fig. 1) 標本 KAUM–I. 114806,体長 133.1 mm,鹿児 島県垂水市沖(鹿児島湾:曳網開始地点 31°26′ 00″N, 130°37′55″E 曳網終了地点 31°26′38″N, 130° 37′09″E), 水 深 228 m,2018 年 4 月 19 日, 鹿 児 島大学水産学部練習船南星丸,底曳網. 記載 背鰭 VIII, 13;臀鰭 III, 11;胸鰭 15;腹

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Fig. 1. (A) Lateral, (B) dorsal, and (C) ventral views of fresh specimen of Gephyroberyx japonicus, KAUM–I. 114806, 133.1 mm standard length, Kagoshima Bay, Kagoshima Prefecture, Japan.

鰭 I, 6;鰓耙数 7 + 15.体各部の体長に対する割

かけて下降し,そこから臀鰭起部にかけて極めて

合(%):頭長 36.9;吻長 8.4;眼窩径 10.8;眼隔

緩やかに上昇する.臀鰭基底から尾鰭基底下端に

域幅 11.0;最大体高 47.0;尾柄長 17.8;尾柄高 8.7;

かけての体腹縁は上昇する.腹鰭基底後方から肛

上顎長 22.4;下顎長 25.6;背鰭前長 40.4;臀鰭前

門前方にかけての体腹縁に 14 枚の鋭く尖った稜

長 70.5; 胸 鰭 長 25.8; 腹 鰭 長 18.5; 腹 鰭 棘 長

鱗が 1 列に並ぶ.体側には発光器はない.腹鰭起

15.5;背鰭基底長 47.5;臀鰭基底長 19.1;眼後長

部は胸鰭基底上端よりもわずかに前方に,腹鰭基

18.9;吻端から胸鰭基底先端までの距離 35.0;吻

底後端は胸鰭基底上端よりもわずかに後方にそれ

端から腹鰭起部までの距離 40.2.

ぞれ位置する.たたんだ腹鰭の後端は肛門に達し

体は円形に近く,前後方向にやや長い.体背

ない.腹鰭棘は最長軟条である第 1 軟条よりも短

縁は吻端から背鰭起部にかけて緩やかに上昇し,

い.胸鰭基底上端は鰓蓋後端よりも前方,吻端よ

そこから尾鰭基底上端にかけて緩やかに下降す

りも下方に位置する.胸鰭は上部の 2 軟条のみ不

る.体腹縁は下顎先端から前鰓蓋後端直下付近に

分枝.胸鰭の上縁と下縁は直線状に近い形状を呈

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し,後縁は丸みを帯びる.胸鰭後端は背鰭第 7 棘

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大.

起部直下よりも後方に達するが,肛門には達しな

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部に

い.背鰭起部は鰓蓋後端よりも後方,背鰭基底後

かけては桃色がかった銀白色を呈し,頭部背面は

端は臀鰭基底後端よりも後方にそれぞれ位置す

特に赤みが強い.体側中央から体腹面にかけては

る.背鰭第 1 軟条起部は肛門よりもわずかに前方

ほぼ一様に銀白色.各鰭の各鰭条は赤みがかった

に位置する.背鰭各棘間の鰭膜は切れ込む.背鰭

桃色を呈し,各鰭条間の鰭膜は白色.尾鰭後縁は

上縁は中央部に欠刻があり,背鰭起部から第 4 棘

赤色.虹彩は銀白色を呈し,瞳孔は青みがかった

後端にかけて上昇し,そこから第 7 棘後端にかけ

黒色.両顎,前鰓蓋骨後縁は赤みがかった桃色.

て下降する.そこから背鰭上縁は第 2 軟条後端に

口内は黒色.

かけて上昇し,そこから下降する.臀鰭起部は背

分布 日本,台湾,天皇海山,およびハワイ

鰭第 3 軟条起部よりもわずかに後方,臀鰭基底後

諸 島 か ら 記 録 さ れ て い る(Mundy, 2005; 林,

端は背鰭第 12 軟条起部直下にそれぞれ位置する.

2013).日本国内においては茨城県から鹿児島県

尾鰭はやや湾入する.尾鰭上下両縁は直線状に近

大隅半島内之浦湾にかけての太平洋沿岸,能登半

く,両葉後端は尖る.肛門は正円形を呈し,臀鰭

島西岸,長崎県五島灘以南の東シナ海大陸棚縁辺

起部直前に位置する.眼と瞳孔はいずれも正円形

から大陸斜面上部にかけての海域,奄美大島,お

に近い形状を呈する.下顎先端は上顎先端よりも

よ び 九 州・ パ ラ オ 海 嶺 か ら 記 録 さ れ て お り

わずかに前方に突出する.上顎後端は眼の後端直

(Kamohara, 1952; 蒲 生・ 加 藤,1973; 山 川,

下に達する.主上顎骨と下顎の側面には前後方向

1982;鈴木・片岡,1997;山田ほか,2007;林,

に長い骨質条線が密生する.両顎の側部には 1 列

2013;北國新聞,2016;小枝,2018a; Nakae et al.,

の小円錐歯が並ぶ.鋤骨には数列の小円錐をそな

2018),本研究において,新たに鹿児島湾におけ

え,三角形の歯帯を形成する.口蓋骨には小円錐

る分布が確認された.

歯が密生し,歯帯を形成する.両顎の外側部露出

備考 鹿児島湾産標本は,背鰭棘が 8 本であ

部には小円錐歯が密生し,歯帯を形成する.眼を

ること,側線鱗が周囲の体側鱗とほぼ同大である

中心に放射状に骨質条線が伸長する.鼻孔は 2 対

こと,最大体高が体長の 47.0% であること,肛

で互いに近接し,眼の前方に位置する.両鼻孔は

門が臀鰭起部直前に位置することなどが,Moore

ともに背腹方向に長い楕円形.吻端には前方を向

and Paxton (1999) に よ っ て 定 義 さ れ た Gephyro-

いた骨質小棘がある.左右の鼻孔間に X 字状の

beryx 属の標徴と一致した.さらに,胸鰭後端が

骨質隆起がある.吻端の骨質状棘の起部から眼の

肛門直上に達しないこと,背鰭上縁に欠刻がある

前方にかけてと眼の上縁にそって 1 つずつ骨質隆

こと,体腹縁に発光器がないことなどが,山田ほ

起がある.眼隔域には左右に 1 対ずつ X 字状の

か(2007)と林(2013)の報告した G. japonicus

骨質隆起がある.前鰓蓋骨後縁と下縁は細かい鋸

の標徴とよく一致したため,本種に同定された.

歯状を呈する.主鰓蓋骨後縁は円滑.主鰓蓋骨中

ハシキンメに関しては分類学的混乱が著しく,

央部に背腹方向に長い隆起線があり,その後縁は

G. japonicus を Gephyroberyx philippinus Fowler,

鋸歯状を呈する.前鰓蓋骨隅角部および主鰓蓋骨

1938,Gephyroberyx orbicularis Smith, 1947 ととも

上部と下部に 1 本ずつ,強大な棘がある.主鰓蓋

に Gephyroberyx darwinii (Johnson, 1886) の新参異

骨上部の棘の起部を中心に,骨質条線が放射状に

名とし,インド洋,オーストラリア南岸,フィリ

後方に伸びる.体は細かい櫛鱗に被われる.眼の

ピン,日本,韓国,および大西洋に分布するとす

周囲,吻部,鰓蓋部,および両顎は無鱗.側線は

る研究もある(Kotlyar, 1996; Kim et al., 2004).こ

鰓蓋上方から始まり,緩やかに下降しながら背鰭

れら 3 名義種の分類学的位置づけは今のところ明

基底直下付近では体軸とほぼ平行となり,尾鰭基

瞭なものではないが,ここでは G. japonicus の位

底中央に達する.側線鱗は周囲の体側鱗とほぼ同

置づけや分布域に関しては林(2013)にしたがっ

379


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH ARTICLES

た.さらに,山田ほか(2007)は日本国内に分布

氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ

するハシキンメにおいても複数種が存在する可能

ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに

性を示唆した.彼らは自身の観察した東シナ海産

は適切な助言を頂いた.以上の方々に謹んで感謝

標本(SNFR 346, 1245, 1246)の鋤骨には歯が観

の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究博

察されなかった一方で,山川(1988)ではハシキ

物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク

ンメの鋤骨には円錐歯があり,三角形の歯帯を形

ト」の一環として行われた.本研究の一部は笹川

成するとしており,これらの相違に関しては再検

科学研究助成金(28-745),JSPS 研究奨励費(DC2:

討が必要としている.さらに,山田ほか(2007)

29-6652),JSPS 科 研 費(19770067, 23580259,

は東シナ海にて漁獲されるハシキンメは体長 35

24370041, 26241027, 26450265),JSPS 研究拠点形

cm を越えるものもあるが,日本近海において通

成事業-アジア・アフリカ学術基盤形成型-「東

常 20 cm 程度であるとし,最大体長に関しても差

南アジア沿岸生態系の研究教育ネットワーク」,

異があるとしている.また,山川(1982)は九州・

総合地球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけ

パラオ海嶺から得られたハシキンメ 9 個体を報告

るエリアケイパビリティーの向上プロジェクト」,

し,その鋤骨には歯が発達し,三角形の歯帯を形

国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ

成することを報告している.なお,本研究で記載

トの構造に関する研究プロジェクト」,文部科学

をおこなった鹿児島湾産の個体は形態的には山川

省特別経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に

(1988)が報告したものに準じて,鋤骨に三角形

関する教育研究拠点整備」,および鹿児島大学重

の歯帯をもつ. ハシキンメの鹿児島県内における記録は少な く,分布に関しては不明な点が多い.公益財団法 人鹿児島市水族館公社(2018)と小枝(2018a)は, 内 之 浦 湾 か ら 得 ら れ た 本 種 1 個 体(KAUM–I. 36097,体長 33.6 mm)を報告したが,内之浦湾 における本種の漁獲は極めて稀であると付記し た.また,公益財団法人鹿児島市水族館公社(2018) は,北薩地域において全長 30 cm を越える成魚が 底曳網によって漁獲されたことを報告したが,そ の標本は残されていない. 鹿児島県における本種の記録は,内之浦湾の ほかに,Nakae et al. (2018) が奄美大島近海から得 られた 1 個体(KAUM–I. 26651)を報告したもの があるのみであり,鹿児島湾においては同海域の 魚類相を調査した今井・中原(1969)や岩坪・本 村(2017)においても報告されていない.したがっ て,本研究の記載標本は鹿児島湾におけるハシキ ンメの初めての記録となる. 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集に 際しては鹿児島大学水産学部練習船南星丸の乗組 員の皆様には多大なご協力を頂いた.原口百合子

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点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長 裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推 進」の援助を受けた. 引用文献 Döderlein, L. 1883. Beiträge zur Kenntniss des Fische Japans (I). Anzeiger der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften, Wien, Mathematisch-Naturwissenschaftliche Classe, 20 (7): 49–50. 林 公義.2013.ヒウチダイ科.Pp. 592–593, 1899.中坊徹 次(編) ,日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海 大学出版会,秦野. 北國新聞.2016.珍魚ハシキンメ展示 のとじま水族館, 富来漁港で捕獲.北國新聞 2016 年 9 月 15 日. Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, 26: i–xi + 1–186. 今井貞彦・中原官太郎.1969.錦江湾海中公園候補地の魚 類相.Pp. 51–82.鹿児島県(編),霧島・屋久国立公園 錦江湾海中公園調査書.鹿児島県,鹿児島. 岩坪洸樹・本村浩之.2017.火山を望む麑海 鹿児島湾の 魚類.鹿児島水圏生物博物館,鹿児島・鹿児島大学総 合研究博物館,鹿児島.302 pp. Jordan, D. S., Tanaka, S. and Snyder, J. O. 1913. A catalogue of fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University, Tokyo, 33 (1): 1–497. Kamohara, T. 1952. Revised descriptions of the offshore bottomfishes of Prov. Tosa. Shikoku, Japan. Reports of the Kochi University Natural Science, 3: 1–122. 蒲生重男・加藤 直.1973.真鶴附近の魚類.横浜国立大 学真鶴理科教育実験所業績,1: 69–84.


RESEARCH ARTICLES Kim, B.-J., Go, Y.-B. and Imamura, H. 2004. First record of the trachichthyid fish, Gephyroberyx darwinii (Teleostei: Beryciformes) from Korea. Korean Journal of Ichthyology, 16 (1): 9–12. 小 枝 圭 太.2018a. ハ シ キ ン メ Gephyroberyx japonicus (Döderlein, 1883).P. 115.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・ 本村浩之(編),黒潮あたる鹿児島の海 内之浦漁港に 水揚げされる魚たち.鹿児島大学総合研究博物館,鹿 児島. 小 枝 圭 太.2018b. キ ン メ ダ イ 系 Berycomorpha.Pp. 174– 179.中坊徹次(編),小学館の図鑑 Z 日本魚類館.小 学館,東京. Kotlyar, A. N. 1996. Beryciform fishes of the world ocean. VNIRO Publishing, Moscow. 368 pp. 公益財団法人鹿児島市水族館公社.2018.鹿児島水族館が 確認した ― 鹿児島の定置網の魚たち 増訂版.335 pp. 公益財団法人鹿児島市水族館公社,鹿児島. Moore, J. A. and Paxton, J. R. 1999. Trachichthyidae, slimeheads. Pp. 2215–2217 in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. (eds.) FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Vol. 5. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO, Rome. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

Nature of Kagoshima Vol. 44 Mundy, B. C. 2005. Checklist of the Hawaiian Archipelago. Bishop Museum Bulletins in Zoology, 6: 1–703. Nakae, M., Motomura, H., Hagiwara, K., Senou, H., Koeda, K., Yoshida, T., Tashiro, S., Jeong, B., Hata, H., Fukui, Y., Fujiwara, K., Yamakawa, T., Aizawa, M., Shinohara, G. and Matsuura, K. 2018. An annotated checklist of fishes of Amamioshima Island, the Ryukyu Islands, Japan. Memoirs of the National Museum of Natural Science, Tokyo, 52: 205–361. 清 水 長.1997. ハ シ キ ン メ Gephyroberyx japonicus.P. 156.岡村 収・尼岡邦夫(編),山渓カラー名鑑 日 本の海水魚.山と渓谷社,東京. 鈴木 清・片岡照男.1997.三重の海産魚類.鳥羽水族館, 鳥羽.297 pp. 山田梅芳・時村宗治・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・ 黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.1262 pp. 山川 武.1982.ハシキンメ Gephyroberyx japonicus (Döderlein).Pp. 202–203, 365.岡村 収・尼岡邦夫.三谷文夫 (編),九州 ― パラオ海嶺ならびに土佐湾の魚類.日本 水産資源保護協会,東京. 1988. 山川 武. ハシキンメ Gephyroberyx japonicus (Döderlein, 1883).P. 107, pl. 94-F.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・ 上野輝彌・吉野哲夫(編),日本産魚類大図鑑第二版, 東海大学出版会,東京.

381


Nature of Kagoshima Vol. 44

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RESEARCH ARTICLES


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 44

屋久島における外来植物の観察記録 田中優太朗・田中麻理 〒 891–4207 鹿児島県熊毛郡屋久島町小瀬田 849–78

はじめに 屋久島の植物については,古くから多くの研 究者によって調査されていて,近年では「屋久島 の野生植物目録(濱田,1992)」において 145 科 1,328 種の植物が報告されている. 屋久島では多くの固有植物や希少植物が生育 するが,その一方で島外から国内外の外来植物が 様々な方法で非意図的に移入してきていると思わ れる. 環境省は平成 17 年に外来生物法を施行,平成 27 年に「生態系被害防止外来種リスト」を公表し, さらなる外来種対策を始めた.鹿児島県は平成 28 年に外来種リストを作成した. そこで 2015 年から 2 年半,屋久島に生育する 外来植物を調べた.まず島内を踏査して採集・写 真を撮影した.そして作成した標本と撮影した写 真を元に分類した.その結果の 49 科 141 種を, 屋久島に現存する外来植物のフロラ資料として報 告する. 方法 外来植物が移入する要因の多くは人的影響が 強いことから,人里が散在する島の外周部や,車 や人が立入可能な林道を重点的に調査した.標本 採集にあたり,カミヤツデなどの大型の植物で確 信的なもの,そして外来生物法における特定外来 生物指定種については写真撮影のみとし,また花

Tanaka, Y. and M. Tanaka. 2018. Records of alien plants in Yaku-shima Island, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 44: 383–386. YT: 849–78 Koseda, Yakushima, Kumage, Kagoshima 891–4207, Japan (e-mail: etupirka@io.ocn.ne.jp). Published online: 3 May 2018 http://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_044/044-056.pdf

や種子が採集できないなどの理由で同定困難なも のは記録しないこととした.目録の科名順は, 「改 訂新版日本の野生植物(平凡社)」に準拠した. 目録 Pinaceae マツ科 Pinus taeda L. テーダマツ(植栽) Araceae サトイモ科 Epipremnum aureum Bunting. オウゴンカズラ(逸出) Pistia stratiotes L. ボタンウキクサ Liliaceae ユリ科 Lilium formosanum Wall. タカサゴユリ Iridaceae アヤメ科 Lapeyrousia cruenta Bak. ヒメヒオウギアヤメ Sisyrinchium atlanticum Bicknell ニワゼキショウ Sisyrinchium iridifolium var. laxum Maekawa オ オ ニワゼキショウ Tritonia crocosmaeflora Lemoine ヒメヒオウギズイセン Amaryllidaceae ヒガンバナ科 Ipheion uniflorum Raf. ハナニラ(逸出) Pontederiaceae ミズアオイ科 Eichhornia crassipes Solms-Laub. ホテイアオイ(植栽) Musaceae バショウ科 Musa liukiuensis (Matsumura) Makino イトバショ ウ(逸出) Cannaceae カンナ科 Canna indica L. ダンドク Zingiberaceae ショウガ科 Hedychium carneum Carey ニクイロシュクシャ Hedychium coronarium J. Konig ハナシュクシャ Cyperaceae カヤツリグサ科 Cyperus alternifolius L. ver. obtusangulus T. Koyama シュロガヤツリ Poaceae イネ科 Andropogon virginicus L. メリケンカルカヤ

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Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH REPORTS

Avena sativa L. マカラスムギ(逸出)

Oxalis corymbosa DC. ムラサキカタバミ

Briza maxima L. コバンソウ

Oxalis pes-caprae L. オオキバナカタバミ

Briza minor L. ヒメコバンソウ

Oxalis purpurea L. フヨウカタバミ(逸出)

Chloris gayana Kunth アフリカヒゲシバ

Euphorbiaceae トウダイグサ科

Coix lacryma-jobi L. ジュズダマ

Euphorbia hirta L. シマニシキソウ

Cortaderia selloana Asch. et Graebn. シロガネヨシ(逸出)

Euphorbia supina Rafin. コニシキソウ

Eragrostis curvula Nees シナダレスズメガヤ

Ricinus communis L. トウゴマ

Lolium perenne L. ホソムギ

Triadica sebifera (L.) Small ナンキンハゼ

Paspalum dilatatum Poir. シマスズメノヒエ

Vernicia cordata (Thunb.) Airy Shaw アブラギリ

Paspalum notatum Flugge アメリカスズメノヒエ

Pyllanthaceae コミカンソウ科

Paspalum urvillei Steud. タチスズメノヒエ

Phyllanthus tenellus Roxb. ブラジルコミカンソウ

Pennisetum purpureum Schum. ナピアグラス

Calophyllaceae テリハボク科

Rhynchelytrum repens C. E. Hubb. ルビーガヤ

Calophyllum inophyllium L. テリハボク(逸出)

Papaveraceae ケシ科

Geraniaceae フウロソウ科

Fumaria officinalis L. カラクサケマン

Geranium carolinianum L. アメリカフウロ

Papaver dubium L. ナガミヒナゲシ(逸出)

Onagraceae アカバナ科

Crassulaceae ベンケイソウ科

Oenothera biennis L. メマツヨイグサ

Bryophyllum delagoense (Echlon et Zeyher) Schinz

Oenothera laciniata Hill コマツヨイグサ

キンチョウ

Oenothera rosea L'Her. ex Ait. ユウゲショウ

Bryophyllum pinnatum (L.f.) Oken セイロンベンケイ

Oenothera speciosa Nutt. ヒルザキツキミソウ

Sedum mexicanum Britt. メキシコマンネングサ

Myrtaceae フトモモ科

Haloragaceae アリノトウグサ科

Syzygium jambos (L.) Alston フトモモ

Myriophyllum brasiliense Cambess. オオフサモ

Malvaceae アオイ科

Leguminosae マメ科

Hibiscus rosa-sinensis Litt. ブッソウゲ(逸出)

Acasia confusa Merr. ソウシジュ

Caricaceae パパイア科

Amorpha fruticosa L. イタチハギ

Carica papaya L. パパイア(逸出)

Astragalus sinicus L. ゲンゲ

Cruciferae アブラナ科

Calliandra selloi Macbride トキワネム(逸出)

Brassica napus L. セイヨウアブラナ(逸出)

Crotalaria assamica Benth. コガネタヌキマメ

Lepidium virginicum L. マメグンバイナズナ

Erythrina × bidwillii Lindl. サンゴシトウ

Polygonaceae タデ科

Erythrina crista-galli L. カイコウズ

Persicaria capitata H. Gross ヒメツルソバ

Leucaena leucocephala de Wit. ギンネム

Persicaria pilosa Kitag. オオケタデ

Medicago lupulina L. コメツブウマゴヤシ

Caryophyllaceae ナデシコ科

Trifolium dubium Sibth. コメツブツメクサ

Cerastium glomeratum Thuill. オランダミミナグサ

Trifolium repens L. シロツメクサ

Silene armeria L. ムシトリナデシコ

Urticaceae イラクサ科

Silene gallica L. var. gallica シロバナマンテマ

Pilea microphylla Liebm. コゴメミズ

Spergula arvensis L. ver. sativa Koch オオツメクサ

Casuarinaceae モクマオウ科

Amaranthaceae ヒユ科

Casuarina equisetifolia L. トクサバモクマオウ(植栽)

Celosia argentea L. ノゲイトウ

Oxalidaceae カタバミ科

Phytolaccaceae ヤマゴボウ科

Oxalis articulata Savign. イモカタバミ

Phytolacca americana L. ヨウシュヤマゴボウ

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RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 44

Nyctaginaceae オシロイバナ科

Verbena brasiliensis Vell. アレチハナガサ

Mirabilis jalapa L. オシロイバナ(逸出)

Campanulaceae キキョウ科

Portulacaceae スベリヒユ科

Triodanis biflora Greene ヒナキキョウソウ

Portulaca pilosa L. ヒメマツバボタン

Triodanis perfoliata Nieuwl. キキョウソウ

Talinum crassifolium Willd. ハゼラン

Compositae キク科

Balsaminaceae ツリフネソウ科

Achillea millefolium L. セイヨウノコギリソウ

Impatiens walleriana Hook.f. アフリカホウセンカ

Ageratum conyzoides L. カッコウアザミ

Primulaceae サクラソウ科

Ageratum houstonianum Mill. ムラサキカッコウアザミ

Anagallis arvensis L. f. coerulea Baumg ルリハコベ

Bidens pilosa L. var. minor Sherff. コシロノセンダングサ

Rubiaceae アカネ科

Bidens pilosa L. var. radiata Sherff. タチアワユキセンダングサ

Diodia virginiana L. メリケンムグラ

Conyza bonariensis Retz. アレチノギク

Apocynaceae キョウチクトウ科

Conyza sumatrensis Walke オオアレチノギク

Asclepias curassavica L. トウワタ

Coreopsis lanceolata L. オオキンケイギク

Catharanthus roseus (L.) G. Don ニチニチソウ

Coreopsis tinctoria Nutt. ハルシャギク

Gumphoearpus fruticosus R. Br. フウセントウワタ(逸出)

Crassocephalum crepidioides S. Moore ベニバナボロギク

Nerium oleander L. cv. キョウチクトウ(逸出)

Erechtites hieracifolia Rafin. ダンドボロギク

Vinca major L. ツルニチニチソウ(逸出)

Erigeron annuus Pers. ヒメジョオン

Convolvulaceae ヒルガオ科

Erigeron karvinskianus DC. ペラペラヨメナ

Cuscuta pentagona Engelm. アメリカネナシカズラ

Erigeron pusillis Nutt. ケナシヒメムカシヨモギ

Ipomoea cairica Sweet モミジバヒルガオ

Galinsoga quadriradiata Ruiz et Pav. ハキダメギク

Ipomoea lacunosa L. マメアサガオ

Gnaphalium pensylvanicum Willd. チチコグサモドキ

Solanaceae ナス科

Gnaphalium spicatum Lam. ウラジロチチコグサ

Brugmansia suaveolens Sweet キダチチョウセンアサガオ

Gynura bicolor DC. スイゼンジナ

Physalis angulate L. ヒロハセンナリホオズキ

Hypochoeris radicata L. ブタナ

Solanum aculeatissimum Jacq. キンギンナスビ

Senecio vulgaris L. ノボロギク

Solanum carolinense L. ワルナスビ

Solidago altissima L. セイタカアワダチソウ

Plantaginaceae オオバコ科

Soliva sessilis Ruiz et Pav. メリケントキンソウ

Linaria canadensis Dum. マツバウンラン

Sonchus asper Hill オニノゲシ

Plantago virginica L. ツボミオオバコ

Sphagneticola trilobata (L.) Pruski アメリカハマグルマ

Veronica arvensis L. タチイヌノフグリ

Taraxacum officinale Webb. セイヨウタンポポ

Veronica persica Poir. オオイヌノフグリ

Tithonia diversifolia (Hemsl.) A. Glay ニトベギク

Linderniaceae アゼナ科

Xanthium occidentale Bertoloni オオオナモミ

Torenia fournieri Linden ex E. Fourn ハナウリクサ

Araliaceae ウコギ科

Acanthaceae キツネノマゴ科

Tetrapanax papyrifer (Hook.) K. Koch カミヤツデ

Ruellia simplex C. Wright ヤナギバルイラソウ

Umbelliferae セリ科

Thunbergia alata Bojer ex Sims ヤハズカズラ(逸出)

Apium leptophyllum F. Muell. マツバゼリ

Thunbergia grandiflora Roxb. ベンガルヤハズカズラ

Agavaceae リュウゼツラン科

Verbenaceae クマツヅラ科

Agave americana L. アオノリュウゼツラン(逸出)

Lantana camara L. シチヘンゲ

Yucca recurvifolia Salisb. キミガヨラン(逸出)

Lippia canescens Kunth ヒメイワダレソウ(リッピア)

Salviniaceae サンショウモ科

Verbena bonariensis L. ヤナギハナガサ

Salvinia molesta D. S. Mitch. オオサンショウモ

385


Nature of Kagoshima Vol. 44

RESEARCH REPORTS

おわりに

謝辞

洋上のアルプスとも言われる屋久島の山は希

この目録作成にあたり,標本作製のご指導を

少な植物の宝庫である.その島の玄関口となる人

いただいた長船祐介先生(鹿児島県立博物館主

里や里山で生育する外来植物の中には,登山など

査),標本同定にご協力をいただいた馬庭逸郎先

の利用者によって山奥に運ばれ,世界遺産区域や

生(小瀬田小学校校長)と山口翔太先生(屋久島

高層湿原などに影響を与えるものもあるかもしれ

中央中学校)に深く感謝いたします.

ない.また奄美大島からの船便就航も決まり,さ らに新たな外来種が移入する可能性もある. この調査では島内すべての外来植物を網羅す ることはできなかったものの,今までの文献に記 載されていなかった外来植物も見つかった.この 結果が今後の屋久島における外来種対策の参考と なれば幸いである.

386

引用文献 大橋広好・門田裕一・邑田 仁・米倉浩司・木原 浩(編). 2017.改訂新版 日本の野生植物.全 5 巻.平凡社. 濱田英昭.1992.屋久島野生植物目録.自費出版.


PHOTOGRAPHY

Nature of Kagoshima Vol. 44

▲タカチホヘビ Achalinus spinalis 撮影場所:鹿児島県伊佐市大口山野 撮影者 :藤田宏之 撮影日 :2017 年 6 月 14 日 解説 :本種は本州,四国,九州などに生息する小型の無毒ヘビです.夜行性で山林の地中に潜っていることが多いため,普 段目にすることがあまりない希少な種と考えられがちですが,環境条件が整っている生息域ではまとまって発見され ることもあります.もっぱらミミズを餌としています.鱗がタイル状で,重なっていないため,大変乾燥に弱いです. 成体と幼体の体色に大きな差があり,幼体は黒っぽいです.伊佐市の山林で成体(写真上)と幼体(下)を同日に確 認しました.

387


Nature of Kagoshima Vol. 44

INFORMATION

Nature of Kagoshima 44: 388–390

2018 年の主な活動予定

鹿児島県昆虫同好会

1.大会,例会の開催

1952 年に 9 人の会員で設立された大隅昆虫同

本会の大会を 11 月 17 日に,例会を原則として 毎月第 1 土曜日に鹿児島市環境未来館(城西中裏)

好会は,後に名称を鹿児島昆虫同好会(鹿昆)と

で開催.

改め,2017 年現在,会員 220 人を超える全国有

2.会誌(SATSUMA),連絡誌(アルボ)の発行

数の昆虫同好会に発展していいます.

昆虫に関する記録を発表する会誌(SATUMA) を年 2 回,会員の動向や軽いエッセイなどが掲載 される連絡誌(アルボ)を年 4 回 発行予定. 3.調査会など アサギマダラの調査会を 2 回(千貫平,佐多), 栗野岳カシワ林調査会,灯火採集会,鳴く虫観察 会を予定(興味のある方はお問い合わせくださ い). 4.メーリングリスト(鹿昆 ML) 会員になれば,希望によりメーリングリスト

SATSUMA 創刊号

に登録されます.登録されると,メールで会務連 絡の他,様々な昆虫の話題が送られてきます.ま た,登録者は自分の情報を送ることもできます.

鹿昆は小学生から会社員,主婦,学者など多

シーズンになると,ときどき,腰を抜かすような

様な会員が集まり,楽しく,和やかに活動してい

情報が提供されることがあり,目を離せません.

ます.採集して標本にして昆虫の多様性を楽しん

5.HP

でいる会員,虫を写真に撮って写真展に出品して

鹿昆のホームページは,次のアドレスか,検

いる会員,実験観察や調査により新しい知見を得

索サイトで「鹿児島昆虫同好会」をキーワードで

て学会誌などに発表している会員,虫を観察する

検索できます.

ことを趣味としている会員など活動の内容は様々

http://www.synapse.ne.jp/~viola-kk/

ですが,どの会員も情報を共有しあうことなどで

会員外の方も参加できるように,例会や大会

お互いを高めあっています.これらを通して,共

の案内など掲載しています.

通の目標:鹿児島の昆虫を調べて記録に残そうと 活動を重ねて来ています.これからも鹿昆は,生 物多様性の維持や保全,将来に向けて,現在の虫

2017 年鹿児島の昆虫 昆虫の世界は,毎年,大きく様相が異なります.

たちの記録を蓄積することなどを通して,「鹿児

2017 年の様子が「鹿昆 10 大ニュース 2017」と

島県の自然を解明していくこと」の一助となるこ

して,連絡誌「アルボ(166 号)」に掲載されて

とを信じて活動を続けていきたいと思っていま

いますので,ご紹介いたします.

す.虫に興味のある方は,例会(参加費無料)を

1.カメムシ大発生:全国ニュースで鹿児島県が

覗いてみてください.虫が好きという 1 点であつ

紹介された.

まった方々の楽しそうな姿をみて,自分も参加し

2.藺牟田池のベッコウトンボは多かった.

たいと思われる方が,きっとおられると思います.

3.キオビエダシャク第 1 世代(第 2 化)大発生:

入会希望の方がおられましたら,文末に記載

しかし夏以降現象傾向だった.

した担当の金井までご連絡ください.詳細をお知

4.チョウ類も 8 月以降,次に掲げるチョウなど

らせします.なお,年会費 3,000 円となっています.

減少傾向だった:アゲハ類,モンシロチョウ,ク

388


INFORMATION

Nature of Kagoshima Vol. 44

6.奄美大島で新種甲虫が 2 種発見 1 種目はホソカタムシ類の新種「アマミツヤナ ガヒラタホソカタムシ」.発見者は元会員の西真 弘さん.2 種目は「オオツボキノコゴミムシダマ シ」.大坪博文氏が徳之島赴任中に採集した成果 が,日本産ゴミムシ大図鑑の PL.70 に掲載された. 種名が分からないときは専門家に送って調べても らうことの大事さ,そうすることで新種発見や新 記録のチャンスがあることを,鹿昆の若い虫屋達 カメムシの大集団

に伝えてくれる成果です. 7.本会員の指導によって,夏休み明けの標本展 で会員以外の子供たちの活躍が目立った. 8.スズメバチ類でコガタスズメバチが多かった. 9.県内でも鹿児島市の港など外来種のアリが注 目された. 10.沖縄県の天然記念物のフタオチョウが奄美大 島で記録された.

花に集まるキオビエダシャクとツマグロヒョウモン

ロマダラソテツシジミ,ツマグロヒョウモン,イ チモンジセセリ.但し,イシガケチョウは多かっ た. 5.迷チョウの状況 ツマムラサキマダラ,カワカミシロチョウ, リュウキュウアサギマダラ,カバマダラ,スジグ ロカバマダラなど,5 月から早い時期に飛来して

奄美大島で採集されたフタオチョウ

いた.リュウキュウムラサキは大陸由来の個体が ほとんどだった.しかし,ホシボシキチョウの記 録,発生は見られなかった.

番外 ア)県産ツクツクボウシの高校生の研究成果がア メリカの大会(ISEF)にて発表された. Intel ISEF 2017 が開催され,日本代表として国 分高校の生徒さんが発表を行った. イ)例年 10 月中旬に終鳴が記録されるツクツク ボウシだが,2017 年は 11 月中旬になってもオス が鳴いていた.

鹿児島市に飛来したツマムラサキマダラ

ウ)アサギマダラの動き 本州では数多くのアサギマダラにマークされ たが,宮崎・鹿児島県本土では秋に南下する個体

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Nature of Kagoshima Vol. 44

INFORMATION

標高差 800 m の垂直分布を体験」 4 月 29 日 鈴 木英治(鹿児島大学理学部)・丸野勝敏(博物館 協力研究者) 標高 928 m の開聞岳,そこには約 5 千年前にで きた新火山の植物の侵入史があります.標高に対 応した垂直分布を観察しました.

ロサンゼルスで世界最大規模の高校生の「科学の祭典」

数が非常に少なかった.マークされた個体の観察 例も非常に少なかった. エ)タガメの増殖 かごしま水族館と本会会員も所属する鹿児島 玉龍高校サイエンス部がコラボして県内産タガメ を増殖し,マーキング後,県北部に放虫した. 以上,鹿昆の紹介,2017 年の鹿児島の昆虫概 要について,記載させていただきました. 最後に,鹿昆についてご質問などありました ら,次までお問い合わせください. (金井賢一 〒 892–0853 鹿児島市城山町 1–1 鹿 児 島 県 立 博 物 館 Tel: 099–223–6050; e-mail: viola-kk@po.synapse.ne.jp) ■第 24 回研究交流会「榛名火山爆発と火砕流に より埋もれた古墳時代の人馬とムラ — 群馬県金 Nature of Kagoshima 44: 390–392

井東裏・下新田遺跡の調査から —」 6 月 24 日

鹿児島大学総合研究博物館

杉山秀宏(公財 群馬県埋蔵文化財事業団) 学界で話題の注目遺跡からは,「甲を着た古墳

2017 年の活動報告

人」や「網代垣」を用いられた「囲い状遺構」など,

■第 23 回研究交流会「日本海開裂と日本列島の

全国的にも注目される発見が相次いでおり,現在

誕生 — もう一つの物語 —」 4 月 17 日 鹿野和

も調査は継続中です.1,500 年前の榛名山の火山

彦(鹿児島大学総合研究博物館)

灰や火砕流堆積物に覆われた古墳ワールドから,

火山岩相解析や信頼性の高い年代測定法を導入

古墳時代の人々とその生活,そしてムラの様子を

して行われた最近のグリーンタフ研究から見えて

探りました.

くる日本海開裂と日本列島誕生についての新たな 見方を学びました.

■第 33 回市民講座「戦国時代の井伊谷と浜松の 城ー井伊直虎の時代ー」 7 月 22 日 鈴木一有(浜

■第 17 回自然体験ツアー「開聞岳の植物観察 —

390

松市文化財課)


INFORMATION

Nature of Kagoshima Vol. 44

■第 17 回特別展「アジア熱帯植物の不思議世界」 今話題の井伊家の遺跡や浜松の戦国時代の城郭

10 月 2 日〜 10 月 29 日 鈴木英治(鹿児島大学)

遺跡について学びました .

アジア熱帯林で見られる多種多様な植物につい て,鹿児島の亜熱帯の植物とも比較しながら標本 や写真で紹介しました.

391


Nature of Kagoshima Vol. 44

INFORMATION

■第 34 回市民講座「アジアの熱帯にみられる植

の亜熱帯林とも比較しながら,その多様な世界の

物達の多様な世界」 10 月 21 日 鈴木英治(鹿児

魅力を説明しました.

島大学)

( 福 元 し げ 子 〒 890–0065 鹿 児 島 市 郡 元

世界でも最も多様性が高い地域の一つであるア

1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館 Tel: 099–

ジアの熱帯林に見られる植物について,薩南諸島

285–8141; fax: 099–285–7267)

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BUSINESS REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 44

Nature of Kagoshima 44: 393–395

■電子メールアドレス登録のお願い

鹿児島県自然環境保全協会 2017 年度会記

当協会からの助成金や原稿募集,その他自然に 関する情報の案内は,通常電子メールで行います.

■会誌「Nature of Kagoshima」

会員のみなさまは電子メールアドレスの登録をお

1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会は,

願いします.事務局に「氏名」を書いたメールを

1975 年から年会誌「自然愛護」を発行してきま

送って下されば登録致します.

した.2007 年 3 月に発行された「自然愛護 33」 が最終号となり,2007 年度から「自然愛護」を

事務局 E-mail: yamamoto@fish.kagoshima-u.ac.jp

引き継ぐかたちで「Nature of Kagoshima(別名: カゴシマネイチャー)」を発行しています.

■会費の納入方法

「Nature of Kagoshima」は,「自然愛護」と同様

同封のゆうちょ銀行振込用紙通信欄に必要事項

に白黒印刷で冊子体が発行されます.しかし前者

を記入の上,会費を納入して下さい.また,下記

ではフルカラーのオンラインバージョン(PDF)

の口座に直接入金されても結構です.

も同時に発行しています.本協会のホームページ

個人会員―会費 1,000 円.会誌 1 冊を受け取れ

から会誌を閲覧あるいはダウンロードすることが

ます.また,会誌に投稿することができます.

できます.

団体会員 ― 会費 4,000 円.会誌 4 冊を受け取

本誌は 2017 年 6 月からオンラインファースト

れます.また,会誌に活動記録や宣伝を投稿する

を導入しました.原稿が投稿され,編集が終わり

ことができます.

次第,論文は個別に順次オンライン公開されます.

賛 助 会 員 ― 会 費 10,000 円( 個 人 ),50,000–

そのため,1 年をとおして原稿の受け付けを行っ

100,000 円(団体・企業等).本協会の活動趣旨に

ています.オンラインで出版済の論文は,1 年分

賛同する個人および団体.会誌に論文や活動報告

をまとめて紙媒体の冊子として毎年 5 月に発行さ

を投稿することができます.団体・企業の会員は

れます.

さらに,会誌に 1 頁(100,000 円)あるいは半頁 (50,000 円)の宣伝を掲載することもできます.

協会 HP:http://www.kagoshima-nature.org/

さらに,それぞれ 50 冊と 25 冊の会誌を受け取れ

オンラインファーストサイト:

ます.

http://journal.kagoshima-nature.org/ ゆうちょ銀行振替口座:01750–1–127639 ■会誌バックナンバーの購入

加入者名:鹿児島県自然環境保全協会

会誌「自然愛護」のバックナンバーは,鹿児島 市都通り電停近くの「あづさ書店西駅店」にて販

ゆうちょ銀行以外の全国の銀行から振り込む場合

売しております.各号 520–730 円.21 号以前は

ゆうちょ銀行 179 店(当座):口座番号 0127639

品切れのため,複写となります.これまでのタイ

加入者名:カゴシマケンシゼンカンキョウホゼンキョウカイ

トルは下記の「あづさ書店西駅店」HP(http://

www4.synapse.ne.jp/nishiekiten/) に 掲 載 さ れ て い

会費は前納制です.本誌に同封されている振込

ます.

み用紙に記載されている金額をご入金下さい.当

会誌「Nature of Kagoshima」のバックナンバー

協会の運営は皆様の会費により成り立っておりま

は,鹿児島大学郡元キャンパス生協と事務局にて

す.会費の納入をよろしくお願い致します.

販売しております.最新号は 1,000 円,バックナ ンバーは 500 円で購入可能です.

■入会案内 当協会に入会を希望する方は,協会ホームペー

393


Nature of Kagoshima Vol. 44

BUSINESS REPORTS

ジ(http://www.kagoshima-nature.org/)で入会登録

㈱新和技術コンサルタント

を行って下さい.インターネットにアクセスでき

㈱長大

ない方は,以下の情報を記入したハガキあるいは

㈱内外エンジニアリング

ファックスを事務局にお送り下さい.

㈱丸建技術 (五十音順)

①氏名

②住所

③所属

④電話番号

■鹿児島県自然環境保全協会 2017 年度役員

⑤ファックス番号 ⑥会員区分(個人・団体・賛助)

会長:大木公彦

⑦専門または関心のある分野

理事:鮫島正道(組織担当)

※① , ② , ④ , ⑥は必修記入事項

理事:本村浩之(編集担当)

事務局:〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20

理事:原崎 森(web 担当)

鹿児島大学水産学部内

理事:藤田志歩(会計担当)

鹿児島県自然環境保全協会事務局

理事:船越公威(庶務担当) 理事:山本智子(事務局長)

■会員(2018 年 3 月 31 日現在)

監査:金井賢一・重廣律夫

個人会員(210 名) 2017 年度の新規会員 11 名:岡部海都,岡本康汰,

■原稿募集のお知らせ

川瀬誉博,八巻鮎太,高橋夢加,田中宏幸,田中

「Nature of Kagoshima, vol. 45」の原稿を募集い

優太朗,西垣孝治,山木 勝,山本 豊,和田英

たします.下記の投稿規定にしたがって原稿を作

敏(敬称略).

成し,編集部にメールか CD でお送り下さい.研

2017 年度の退会会員 3 名:是枝哲朗,林真祐美,

究論文(Research Articles)の原稿は,オンライン

山崎三郎(敬称略).

ファースト導入のため,1 年を通して受け付けて います.研究報告(Research Reports)やエッセイ

継続個人会員の名簿は「Nature of Kagoshima, vols. 35–43」に掲載されています.

(Essays)の原稿の締切りは 2019 年 3 月 1 日(必着) です.団体会員のみなさまも 2018 年度の活動報 告などを積極的にご投稿下さい.

団体会員(16 団体) NPO 水といのちのかごしま,カエル PROJECT,

■表紙写真の募集

鹿児島県環境技術協会,鹿児島県地学会,鹿児島

Nature of Kagoshima は,毎年会誌の表紙写真が

県天文協会,鹿児島県野生生物研究会,鹿児島昆

替わります.鹿児島の自然や生物の写真で,表紙

虫同好会,鹿児島植物同好会,鹿児島大学総合研

を飾るにふさわしいカラー写真を募集致します.

究博物館,環境教育 NPO 法人くすの木自然館,

表紙用の写真は,JPEG か TIF 形式で保存した高

環境省屋久島自然保護官事務所,公益財団法人鹿

解像度のデジタル写真に,400 字程度の解説を付

児島市水族館公社,斯文堂(株),つぎはぎの詩,

けて,2019 年 3 月 31 日までに事務局にお送り下

南方新社,屋久島ダイビングサービスもりとうみ

さい.複数の応募があった場合,事務局で掲載の

(五十音順).

可否を決定致します.

賛助団体会員(8 団体)

■投稿規定

㈱いであ

鹿児島県の生物や自然に関することを,以下の

㈱ NTC コンサルタンツ

カテゴリーに投稿することができます.

㈱九州開発エンジニアリング

1.研究論文(Research Articles):研究成果を論

㈱建設環境研究所

文として投稿できます.英文の Abstract を加える

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BUSINESS REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 44

ことが可能です.また,英文論文を投稿すること

す.個人投稿の場合,1 論文あたり印刷で 4 頁ま

もできます.オンラインファーストの対象で,1

でが無料で,5 頁目から 20 頁目までは 1 頁ごと

年を通して原稿を受け付けています.

に 3000 円の超過頁掲載料が必要です(会員 2 名

2.研究報告(Research Reports):感想や体験談

が共著で論文を発表する場合でも 5 頁目から超過

を交えた研究や調査の成果を報告文として投稿で

頁掲載料が掛かります).印刷で 20 頁を超えそう

きます.

な論文を投稿予定の会員は事前に事務局にお尋ね

3.エッセイ(Essays):旅行記や体験記,自然に

ください.

関する思想や政策など,研究成果以外の記事を投

⑨各論文の PDF はフルカラーですが,印刷は

稿できます.

原則白黒です.しかし,著者負担でカラー印刷も

4.Wildlife & Nature Photographs(Photography) :

できますので,投稿時にカラー印刷を希望する図

年度内に撮影された写真とその解説文(400 字以

や写真をご指示下さい.カラー印刷 1 ページで 3

内)を投稿できます.無料でカラー印刷されます.

万円,隣接する 2 ページで 5 万円です.3 ページ 以上をカラー印刷希望の著者は編集部にご連絡下

本文や引用文献の体裁は自由ですが,Nature of

さい.現在,カラー印刷費の半額を協会が援助し

Kagoshima の最新巻を参考に,以下の点に留意し

ています.

て原稿の作成・投稿を行って下さい. ①数字や英語はすべて半角で入力して下さい.

■別刷り

②カッコは原則全角 ”()” を使用して下さい.

研究論文や研究報告,エッセイを投稿した個人

カッコの前(あるいは後ろ)とカッコの中が半角

会員には,各論文の PDF 別刷り(カラー)を無

英数の場合のみ半角のカッコ ”()” を使用して下さ

料でお送りします.紙に印刷された別刷り(白黒

い.例:本村(2013),Motomura (2013).

印刷・カラー印刷)は論文の頁数に関わらず,50

③数字で範囲を示す場合はハイフン(-)では

部単位で以下の金額で購入することが可能です.

なく n-dash(–)を使用して下さい.引用文献の

印刷別刷りは 1 部毎に論文タイトルと著者名が印

頁 範 囲 な ど も n-dash で す. 例: ○ 2 月 2–4 日;

刷された表紙が付きます.購入希望者は,原稿の

× 2 月 2-4 日;× 2 月 2 ~ 4 日.

校正時に編集部へご連絡下さい.なお,会誌出版

④文章は MS Word あるいは一太郎で作成し,

後の別刷りの注文(追加注文を含む)はできませ

表は別ファイルで上記ソフトか MS Excel を使用

ん.

して作製して下さい.

別刷りは,私費,公費のどちらでも購入が可能

⑤図や写真は高解像度の JPEG か TIF(最低で

です.別刷りは,会誌出版後に印刷会社より直接

も 300 dpi,幅 10 cm 程度)で保存し,文章ファ

著者に郵送されます.支払い方法の案内(例えば,

イルには組み込まずに,個別に送付して下さい.

公費で注文した場合は,見積り・請求・納品書)

⑥本文は原則日本語です.著者の氏名,住所・ 所属,論文タイトルは,日本語と英語の両方を記

が同封されていますので,案内にしたがって,入 金をお願い致します.

入して下さい.英語のタイトルは,依頼により編 集 部 で 作 成 し ま す. エ ッ セ イ(Essays) と

印刷別刷り金額表

Wildlife & Nature Photographs に投稿する場合は英

050 部 5000 円

文が不要です.

100 部 6000 円

⑦原稿,図,表はすべてデジタルで投稿願いま

150 部 7000 円

す.スキャンする必要がある図については,編集

200 部 8000 円

部でデジタル化を代行しますので,ご連絡下さい.

(200 部以上も 50 部追加ごとに 1000 円追加)

⑧団体会員による投稿の場合は,1 頁が無料で

(本村浩之)

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Nature of Kagoshima Vol. 44

編集後記 Nature of Kagoshima 44 号をお送りします.毎年本誌を改善すべく様々な試みをしていますが,

2017 年度は出版形態にかかわる大きな改革を行いました.これまで本誌は年に 1 回,5 月に冊子 体を発行していました.そのため,例えば 6 月に論文を投稿すると出版まで 1 年近く待たなけれ ばならず,すべてが素早く動いている現在の世の中でこのように研究成果の出版が遅れるのは問 題があると感じていました.そこで,投稿され次第随時電子媒体で公開(出版)するオンライン ファーストを導入しました.投稿後,平均で 10 日後には出版されます.冊子体は例年通り 5 月に それまでに電子公開された論文をすべてまとめて印刷されます.現在のところ,研究論文と研究 報告の 2 つのカテゴリーのみがオンラインファーストの対象です.今後も引き続き鹿児島県の豊 かな自然をより深く理解するための基礎的なデータや情報の蓄積を進めていきたいと思いますの で,来年度も会員のみなさまの自然に関する貴重な調査結果やご意見,写真の投稿をお待ちして おります. (編集担当理事 本村浩之)

Nature of Kagoshima Vol. 44 カゴシマネイチャー 44 巻 2018 年(平成 30 年)5 月 30 日 発行 編 集 本村浩之(鹿児島大学総合研究博物館) DTP 本村浩之(鹿児島大学総合研究博物館) 発 行 鹿児島県自然環境保全協会 〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部内 鹿児島県自然環境保全協会事務局 印 刷 斯文堂株式会社 〒 892–0838 鹿児島市南栄 2–12–6 TEL: 099–268–8211 FAX: 099–269–5198 © 鹿児島県自然環境保全協会 2018 ISSN 1882–7551

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目 次(表紙 2 からの続き) 奄美群島沖永良部島から得られたモンガラカワハギ科ソロイモンガラ  川間公達・本村浩之 鹿児島県から得られたイサキ科魚類ヒレグロコショウダイの記録  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 鹿児島県八房川の感潮域上部から淡水域における魚類相  日比野友亮・松重一輝・大石隆一・安武由矢・望岡典 トカラ列島臥蛇島の鳥類相  稲留陽尉・外園九十九・宮 泰子・江嵜正裕・鹿児島県環境林務部自然保護課 鹿児島県沿岸域で漁獲されたヘダイに寄生していたタイノヒトガタムシ Lernanthropus atrox(カイアシ亜綱ヒトガタムシ科)  長澤和也・菅 孔太朗 住用マングローブ林における底生生物の分布  川瀬誉博・藤井椋子・古川拓海・山口 涼・山本智子 鹿児島県初記録のタチウオ科魚類カンムリダチ  畑 晴陵・三木涼平・本村浩之 薩摩半島から得られた鹿児島県初記録のクロタチカマス科魚類フウライカマス  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 種子島近海から得られたシマガツオ科魚類リュウグウノヒメの記録  畑 晴陵・高山真由美・本村浩之 ニザダイ科魚類ナガテングハギモドキの鹿児島県薩摩半島と種子島からの記録  和田英敏・本村浩之 鹿児島県本土と大隅諸島から初めて記録されたヒメジ科魚類ヨスジヒメジ  萬代あゆみ・伊東正英・高山真由美・本村浩之 九州沿岸と種子島から初めて記録されたフエフキダイ科魚類キツネフエフキ  畑 晴陵・伊東正英・鏑木紘一・本村浩之 カタクチイワシ科魚類タイワンアイノコイワシの志布志湾からの確かな記録  畑 晴陵・本村浩之 屋久島初記録のナガサキフエダイ  畑 晴陵・本村浩之 鹿児島県初記録のハタ科魚類イッテンサクラダイ  田代郷国・高山真由美・本村浩之 八代海南部から得られたアジ科魚類ナンヨウカイワリ  中村潤平・本村浩之 種子島から得られたマルサヨリ  畑 晴陵・鏑木紘一・本村浩之 鹿児島県から得られたハタ科魚類 2 稀種の記録  畑 晴陵・岩坪洸樹・高山真由美・本村浩之 奄美大島から得られたウマヅラアジ  畑 晴陵・前川隆則・本村浩之 鹿児島湾初記録のヒウチダイ科魚類ハシキンメ  畑 晴陵・大富 潤・本村浩之

265 269 275 285 291 297 303 307 311 315 321 327 333 341 347 353 359 363 371 377

Research Reports 屋久島における外来植物の観察記録  田中優太朗・田中麻理

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Photography  藤田宏之

387

Information 鹿児島県昆虫同好会(金井賢一) 鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子)

388 390

Business Reports 鹿児島県自然環境保全協会 2017 年度会記(本村浩之)

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【表紙写真】 ニザダイヤドリムシ ニザダイは屋久島では潮通しのよい岩礁域で大きな群れをつくっている.辺りが暗くなるくらい大きな密集した玉を形成し,潮に逆ら いながら動くことなく群れている.こうした場所で群れているニザダイにはあまりみられないのだが,もっと内湾に近い静かな水域でみ られるニザダイたちはもう少し疎らな小さな群れをつくり,この 1 匹 1 匹よく見てみると,かなりの確率で頭部にワラジムシ類が寄生し ているのが確認できる.このワラジムシ類は,和名を「ニザダイヤドリムシ」といい,文献によれば伊豆諸島や紀伊半島などの温帯域で よく見られるようで,琉球列島からの記録はないようだ.屋久島でみられるものは分布の南限に相当するかもしれない.この写真のよう に複数個体が寄生しているようなニザダイはたいていかなり弱っており,1 匹でフラフラしているので,撮影する際も簡単に前面に回り込 める.この写真のニザダイは数日間同じ場所でみられたが,日に日に弱ってきて最後には姿がみられなくなってしまった. (写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「もりとうみ」代表) 【背表紙写真】 リュウグウノヒメ Pterycombus petersii(種子島産)


Nature of Kagoshima

VOL. 44 2018


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